11月1日(月)


 きょうも京都のマンションで起床。
 午前11時。三条のイノダ・コーヒで、家族3人と、カズ坊(関
口和之)。お茶を飲む。

 午前11時30分。京都文化博物館内お餅料理の「きた村」で、
食事。
 毎年お正月にお餅つきをやることで、この日記ではおなじみのお
店だ。京都に来たら、お昼にこのお店に来るのはお勧めだと思う。
 お餅点心・1000円で、お店自慢のたらこ餅に、京風白味噌汁
またはおすまし、山桃のゼリー。けっこうお腹もいっぱいになる。
京都らし気分を味わえる。
      午後12時30分。大徳寺へ行く。  大徳寺はふだんどのお寺も「拝観謝絶」の看板がかかっていて、 見学することができない。  ところが秋のこの時期になると、一部のお寺が特別拝観できるよ うになる。    まずは前田利家が修復したという興臨院(こうりんいん)へ。  大徳寺には、石田光成の菩提寺や、豊臣家ゆかりのお寺、織田信 長のお墓など、安土桃山時代に関係のあるお寺がやたらとあって、 戦国マニアには、うれしい場所なんだけど、なにしろ全部の寺が一 斉に拝観OKというのがないので、興奮しまくることができない。  どうもミニゲームとか、隠しMAPを残してクリアしたRPGみ たいなもんだ。
      というわけで、興臨院(こうりんいん)。  見事な枯山水の庭だ。  しかもカズ坊(関口和之)が縁側に座ると絵になること!  京都はこういうレベルのお寺がいくらでもあって、なかなか拝観 させないのだから、奥が深い。  続いて、瑞峯院(ずいほういん)。キリシタン大名でおなじみの 大友宗鱗(おおとも・そうりん)が創建したお寺。  これはまた豪快で雄壮な、枯山水の庭だ。  荒波をイメージしたというけど、これほど激しい波をかたどった 庭は初めて見た。
       さらに総本山である大徳寺に行く。このころからもう足はへろへ ろ。不自由な私の足には、お寺のでこぼこの石畳と砂利道が天敵な のだ。足首が見たこともない傾斜の石の出現にびっくりしている。  土踏まずのところが、じ〜〜〜ん!と痛い。  大徳寺は、本店だけにさすがに大きい!  パンフレットもくれない。買えというのだろう。随所に態度もで かい。  とにかく縮尺の感覚が狂うぐらい、ひとつひとつの部屋、廊下も ビッグ・サイズだ。ほかのお寺の庭は、写真取り放題だったのに、 嫁がデジカメをかまえただけで、「写真撮影禁止です!」と飛んで くるバイトのお兄ちゃんがいる。
   特別拝観中なので、学生のアルバイトが、お寺の説明をしてくれ る。京都の仏教系の学生だったり、旅行研究会だったりする。  ただ足がもうビリビリで、毎度毎度引き留められて、説明を聞い ているのもつらくなって来る。学生さんだから、ほとんどの子が説 明が下手で、声が通らない。  先を急ぐ。  真珠庵(しんじゅあん)。もうこの辺になって来ると、誰がゆか りのお寺だったかも忘れた。  足のふくらはぎがパンパンだ!  ただでさえ、先日の赤穂・備前の国めぐりがまだこたえている。  もうダメだ。ショート・カットして帰ろうとしたら、目の前に、 総見院(そうけんいん)が、特別拝観しているではないか! 総見 院(そうけんいん)といえば、織田信長のお墓があるお寺だ。  あの安土城にも、山門と五重塔だけ残っていた、総見院(そうけ んいん)だ。  足がつらいけど、無理して入る。  グルメ・バカ娘がいきなり、ぬかるみに足を突っ込む。やるなあ!  ガイドのお姉ちゃんがちゃんと雑巾を持って来てくれた。親切だ。  織田信長の木像を見ることができた。  ほかのお寺で見た信長の彫像に比べて、やけに肩幅が広いタイプ だ。  お寺の隅の織田家のお墓に行く。  織田信長の側室に、お鍋の方という人がいたらしく、それを見て、 グルメ・バカ娘が爆笑する。中学生らしいギャグ・レベルである。  もう完全に足をひきづる状態になって来たので、今宮神社のほう に抜ける。「さくちゃん、今宮さんで、あぶり餅食べないの〜?」 と、ほざくグルメ・バカ娘。さっき、お餅を食べて来たばかりだろ うが! しかもきょうはこれからどこへ行くと思っているんだ!  午後2時30分。京都のマンションの近所の喫茶店「レッドラバ ーボール」でコーヒー。ここのケーキは美味しいのだけれど、きょ うはこれなら何たって、マツタケちゃんが待っているのだ!  極力お腹を空かせて行かないともったいない!  午後3時。京都のマンションの玄関に、すでにワゴン車が停まっ ている。  北岡さんご夫妻、すぎやまこういち先生ご夫妻にご挨拶。  またまた大人の修学旅行隊の再結成である!  きょうは新メンバーのカズ坊(関口和之)もいる。  カズ坊(関口和之)は、桃太郎シリーズの今後の打ち合わせもあ ったのだけれど、今回京都に来た目的の99、99%は、このマツ タケ・ツアーである。  おとなしそうな顔して、自分の欲望にはとても忠実なカズ坊(関 口和之)くんなのである。  全員揃ったところで、出発!  運転はもちろん、宮本さん。  東名高速に乗って、岡本太郎さんの太陽の塔を右手に見ながら、 車は走る。  あまりにも道が空いているので、西宮サービスエリアで、休憩。
いざ、大人の修学旅行へ、出発!(クリック)
    関西のサービスエリアは、広島風お好み焼きを売っていたり、焼 きトウモロコシを売っていたりして、興味を引かせるのが上手い。 いつもなら食べてしまうのに、みんな必死に我慢している。  何たって、マツタケが待っている!  ほとんど気分は、わが家にとって、年に一度の紅白歌合戦出場な のだ。去年、もう二度と食べに来ることは無いなと、マツタケの味 を噛みしめながら食べたものだけれど、人間、欲望に対しては、か らきし弱いものだ。  やっぱり来てしまった。  午後5時。予定より1時間も早く、三田(さんだ)に到着。 「藤の坊」という山荘というか、ロッジだ。  早く着きすぎたので、なかなか料理が出て来ない。  その間、北岡さんとすぎやまこういち先生が、食べ物の話をする ものだから、お腹が減る、減る。しかもテーブルに炭を入れている ので、遠赤外線の効果で、眠くなる。  お腹は減ってるのに、眠たいという、いちばんつらい状態だ。  待ちきれず、北岡さんが「マツタケ見せて!」と叫ぶ。  この日記を読んでいる人には、もうおなじみすぎる、天現寺のフ ランス料理のお店「プティ・ポワン」のオーナーである北岡さんが、 マツタケを選ぶのだ。  昨年もそうだった。昨年うちは初出場だったので、このロッジは どのお客さんもマツタケを選べる趣向になっているのかと納得して いたのだが、どうもそうでは無いことをきょう知った。ははは。  どおりで、美味しいわけだ。  残念ながら、今年のマツタケは小振りだそうだ。確かに小さい。  年々、小振りになって来ていて、マツタケはそのうち絶滅してし まうかもしれないそうだ。  そんなことを聞くと、お腹が破裂してでも食い続けるぞと勢い込 んでしまいそうだ。  小振りとはいえ、北岡さんが直々に選んだマツタケが登場したと きのカズ坊(関口和之)の驚いた顔といったらなかった!  もともと表情の少ないカズ坊(関口和之)が、あんなにびっくり した顔を見たのは、かつて『夜のヒットスタジオ』に出演したとき、 演奏中にこけた以来だ!    カズ坊(関口和之)も食い道楽だし、芸能人だから、マツタケ山 に招待されたこともあるけど、これほどみごとなマツタケは見たこ とがないそうだ。  炭の上にマツタケを乗せて、焼き上がるのを待つ。  待てない! でも待つ!  お腹が空腹できゅっと締まる。  待てない! でも待つ!  やっぱり待てない!  北岡さんが、火力が弱いと、炭の追加を要求する。    待てずに食べる! 焼きマツタケ〜〜〜!  ポン酢にかぼすだ!  ん〜〜〜ま〜〜〜い〜〜〜〜〜!  ほにょにょにょにょ〜〜〜…。  何でこんなに美味しいんだろうね〜〜〜!  若いときには、この味のすばらしさにマツタケ気づかなかったん だどね〜〜〜! だじゃれまで出て来たぞ〜〜〜。  どの高級料亭のマツタケよりもここのマツタケは美味しい。  ここで初めて、マツタケが甘い食べ物だと知ったよ。    誰もが笑顔だ! 幸せだね〜〜〜〜〜! 『竜馬暗殺』のように、いま刺客に乱入されて惨殺されても、全員 笑顔で死んでるというぐらい幸せな顔してるぞ〜〜〜!  何たってメンバー全員、このマツタケが食べたいために、必死に 仕事を終わらせて来たんだからねえ。『ドラクエ』が年末発売でき たのも、このマツタケのおかげみたいなもんだ。  しかしまあ、マツタケだけでお腹がいっぱいにこともあるという のを知って、カズ坊(関口和之)は驚いていた。  マツタケといえば、私なんかも破片を食べるもんだと思っていた からね。ひとり2本ぐらい食べたのかなあ? 興奮しててよく覚え ていない。  あ〜〜〜、食った、食った!  今年も『紅白マツタケ合戦』に出場できてよかったなあ!  連続出場をめざしたいなあ!  で、終わらないのが、この集団だ。  マツタケが一通り終了したところで、三田牛の登場だ!  見よ! このボリューム! 写真をクリックして見てね!  さらにこんな牛肉を食べてしまったんだよ、この人たちは!  ふとどきだね〜。贅沢だね〜。ふざけてるね〜。  何と言われても「その通り!」と言い返せるよ〜。    もう食べられない! …と言いながら、みんな三田牛をぱくぱ く! 網焼きだから、美味しいねえと言いながら、ぱくぱく。  さらにマツタケご飯まで登場して、「もう無理だ〜〜〜」とみん な言いながら、嫁がマツタケご飯にかぼすをたらして食べているの を見て、マネしてぱくぱく。  ほとんど『TVチャンピオン』の大食い選手権である。  最後に、丹波黒豆アイスが出て、ついにこれで今年の『紅白マツ タケ合戦』終了! 今年も白組の大勝利? 紅組のグルメ・バカ娘 も大健闘してたからどっちの勝ちだかよくわからない。  グルメ・バカ娘よ! この幸せの反動で起こりうる、茨の道をし っかり歩んでくれよ〜!  さすがにお腹がいっぱいなので、しばらくすぎやまこういち先生 のTVディレクター時代の話をお聞きする。有名な『ザ・ヒットパ レード』という番組のディレクターをされていた頃の話だ。  現在音楽業界にいる人で、この番組の影響を受けなかった人がい ないぐらい有名な番組だ。  なかでもすぎやまこういち先生が、生放送で、有名な外国から来 たシンガーを怒鳴って帰してしまった話は痛快である。  何の産業でもそうだけど、創生期の話ぐらいおもしろいものはな い。現在のTV業界がつまらないのも、すっかり成熟期を迎えてし まったせいなんだろうなあ。  混沌として、この先どうなるかわからないジャンルがおもしろい。  そういう意味では、けっこうゲーム業界は煮詰まって来ている。  iモードがこの先どうなるのか、ちょっと楽しみ。    午後8時30分。みんな「来年もまた来れるといいな」と言いな がら、ワゴン車に乗り込む。ほとんど気分は『ゆく年くる年』。  宮本さんの運転で、三田を後にする。  夜の高速道路は夜景がきれいだ。  造成されたニュータウンは、まるで映画『未知との遭遇』の宇宙 船のようにぽっかり光り輝く。  午後9時。宝塚のベーカリーレストラン「サンマルク」でコーヒ ータイムのはずが、すぎやまこういち先生ご夫妻、北岡さんの年長 組は、しっかりさつまいものモンブランとか、シュークリームを注 文している。何という鉄の胃袋なんだ。  若手組のほうがコーヒーのみと弱々しい。  まあ、私もキャラメルのアイスクリームで応戦したけどね。  午後11時15分。京都のマンションに到着。  大人の修学旅行シリーズ、無事終了。  ああ、なんだか歯を磨いて寝るのが、もったいない。  明日から、また仕事の頭に戻さないと!  戻るかなあ?  とりあえずエネルギーが満タンになったことは確かだ。
 


11月02日(火)


 午前10時。カズ坊(関口和之)が京都のマンションに来る。
 きょうみんなで、東京に戻るので、お土産買い出しツアー。

 まずは御池通りにある、御池せんべい。
 口に入れるとジュッと溶けるようなふわふわのおせんべいに、砂
糖が塗ってあるやつだ。
 軽いので、たくさんお土産を買わないといけない人向き。
 ちなみに、グルメ・バカ娘はこのおせんべいを切らしたことが無
いほど。高い評価でっせ!

 さらに今度は、カズ坊(関口和之)が仕入れてきたお店に行く。
 木屋町通りの「月餅家(つきもちや)」。わらび餅がむちゃくち
ゃ美味しいそうだ。
 我が家も買う。まだ食べていない。
 みんなで栗の和菓子を1個ずつ買って、その場で食べる。
 美味しいし、お店の人がわざわざお茶を出してくれた。そのお茶
がまた美味しい。やりますな、このお店は!
      午後11時。4人で、おなじみ北野天満宮の側の「おひるや豆魂 (とうこん)」に行く。前回すぎやまこういち先生ご夫妻をお連れ てして、味がいまいちだったのがちょっと悔しいのだが、人気のほ うはうなぎ登りを続けているようで、開店の午前11時。4〜5分 過ぎて到着しただけで、店内満員で待たされる。  開店と同時に満員ということは、40〜50分待たされるってこ とだ。  嫁とグルメ・バカ娘に待ってもらって、カズ坊(関口和之)を近 くのお漬け物屋さん「丹波屋」に案内する。  さらに、大将軍八神社へも案内する。  私が病気する前は、本当によくカズ坊(関口和之)と旅行したも のだが、その後サザンオールスターズの20周年記念イベントや、 最近すっかりカズ坊(関口和之)は、ウクレレの伝道師として知名 度が上がって来たので、いっしょに旅行する機会が減って来ていた。  そういう意味では、今回こうして旅行できたことはいいことだ。  なかなか「おひるや豆魂(とうこん)」が一回転しない。  ずっとお店で待たされる。雑誌で紹介されたのかな? すごい混 み様だ。毎回来る度に行列が増えている。  午前11時40分。やっとお店に入ることができた。  きょうの味はまあまあ。
       カズ坊(関口和之)も、おぼろ豆腐の味には満足。  それでもやっぱり話題は昨日のマツタケだ。  すごいものを食べてしまったんだなー!  午後1時。御池御幸町。  なんとすぎやまこういち先生ご夫妻が今のマンションとは一筋東 にあるマンションを購入された。そのマンションを見せていただく。 「豪邸拝見ツアー」だ。  よかったら、うちも移り住もうとちょっと考えていたんだけど、 想像以上に大きいお宅で、さすがにうちの家族には身分不相応だ。  リビングで室内ハンドボールができるくらいの広さ。  う〜む。かなり心動いたんだけど、将来の目標にしよう。  カズ坊(関口和之)も、デジカメするぐらい、このマンションを 気に入っていた様子。うちよりカズ坊(関口和之)のほうが購入し てしまうかもしれない。
      マンションの隣りの喫茶店で、すぎやまこういち先生ご夫妻、北 岡ご夫妻、うちの家族、カズ坊(関口和之)と歓談&東京へ戻るご 挨拶。    午後3時10分。京都駅。うちの家族とカズ坊(関口和之)は、 のぞみ18号で東京に向かう。  午後5時24分。東京駅着。  午後6時。赤坂見附。北岡さんに紹介していただいた、お寿司屋 さん「喜久好(きくよし)」に行く。  やばい! ただでさえお寿司屋さんの先発陣が充実しているのに、 またしても先発ローテーションの軸になるようなお店の出現だ。  人形町・喜寿司、神宮・おけいずし、六本木・兼定(かねさだ)、 銀座・鮨金。三本柱と言う言葉があるけど、すでに先発陣が4本も ある。  いちばん最初に常連になった「鮨金」の福田さんから「最近来な いじゃないのー!」と行く度に言われる。前は「鮨金」一筋だった んだけど、タイプの違うお寿司屋さんが続々登場したもんだから、 どうしても登板感覚が開いてしまう。  きょうの「喜久好(きくよし)」も江戸前なんだけど、今までの お寿司屋さんともまたタイプが違う。  握りが小さめで、ネタがちょっと大きめという、うちの家族好み。  それと嫁とグルメ・バカ娘はお寿司を食べるスピードが異常に速 いのだが、ここのご主人の握りの早さは相当なものだ。
   ふと横の無口なカズ坊(関口和之)を見ると、にやにやうれしそ うに微笑んでいる。ほかの人なら「うれしそうだ」程度の表情だが、 カズ坊(関口和之)の場合、相当感動しているレベルだ。  困った、困った! これ以上おいしいお寿司屋が増えても困るよ ー! しかも場所が赤坂見附というのは、あまりにも近すぎる!  北岡さんからは、ご主人はそんなに話をするほうではないと聞い ていたのだけれど、たくさんしゃべってくれるし、何よりわが家族 が大好きな、お寿司のネタが三陸沖とか、根室とか教えてくれる。  先発陣に加わってしまいそうだ。まいったな。  午後7時。TBS。  まだこれから『有限会社 桃太郎商店』の録音があるんだよー。  ここ数日、桃源郷にいたので、なかなか仕事モードに戻らないん だけど、アリtoキリギリス、吉野紗香ちゃんと雑談していくうちに、 仕事の勘がじわじわ戻ってくるのがよくわかる。  きょうは、1stステージ・優勝者の西2つクンも来ている。    それにしてもこの番組、30分番組とは思えない密度だ。2時間 番組のようなペースでテープを回して、30分番組に凝縮させる。 いまどきこれぐらい手間ひまかけた番組って無いんじゃないかな。  昔、私もラジオ番組の構成やパーソナリティをやっていたけど、 30分番組なんて、ほんとテレビ局からテレビ局を駆けずりまわる タレントさんの休憩場所と言われていたものだ。  この番組は30年前のラジオ黄金時代の匂いがする。    午後10時。録音のほうは、終了するも、年末発売予定の『桃太 郎電鉄研究読本』という『カメダス』みたいな本の取材。  この取材が長引いたのには、まいった!  録音中は気合いが入っているから、眠くないんだけど、いつも録 音が終了したあたりからドッと疲れが出るピークが、取材中に発生 してしまった。  今回は京都でのんびりして来る予定が、またあっちこっち行って 歩きすぎたからよけい疲れたようだ。  取材が終了したのが、午前0時30分すぎ。  もう1本番組を録音できたぐらいだ。  午前1時。帰宅。ものすごく長いこと、家を空けていたような気 がする。それでも風呂に入らないと気が済まないので、入る。  知らないうちにちょっとうたた寝していたようだ。  まあ、疲労回復にはよかっただろう。  明日からまたちゃんと仕事しないと、いろいろやることがたまっ てしまった。
 


11月03日(水)


 ひさびさに東京の自宅で起床。
 旅の疲れから、思い切りぼ〜〜〜ッとしている。
 眠いよ、やっぱり!

 午前11時30分。蔵人(くろうど)総合研究所の赤根豊くんが
来る。いつも赤根豊くんのことを、「税理士の赤根豊」くんと表記
していたせいで、あちこちで「蔵人(くろうど)秘密研究所」とか
「玄人研究所」とか間違って伝わることが多いので、今後はちゃん
と「蔵人(くろうど)総合研究所」の赤根豊くんとする。
 もちろん赤根豊くんは、蔵人(くろうど)総合研究所の社長であ
る。
 きょうも休日だというのに、わざわざ来てくれる。
 
 本格的な不景気のせいで、ゲームメーカーの倒産などが相次ぎ、
うち自体には直接関係無いのだが、関連企業がもろにその影響を受
けたり、ほかにもお仕事上のトラブルなんかがけっこうあったりし
て、今後の方針を決める。

 実はけっこうまだみんなが知らないお仕事もしているのだよ。
 内容を言ってもわからないし、説明しづらいので、日記では書か
ないようにしているだけでね。
 いわゆる資本参加ってやつだ。

 それにしても、昨日見たすぎやまこういち先生ご夫妻が購入され
る超豪華マンションのせいで、私も何やら家が欲しくて仕方が無い。
 昨日も『有限会社 桃太郎商店』の録音のとき、放送作家の福本
岳史くんに八つ当たりする。
「福ちゃん、吉野紗香ちゃんが代官山に家を買ってくれたら、転ぶ
といっていたから、代官山に家を買えよー!」。
 吉野紗香ちゃんも「紗香、代官山なら転ぶー!」と、のんき。

 仕事に忠実な赤根豊くんは「さくまサンが家をほしがっているこ
とは伝わりました!」とまとめる。『スタートレック』のスポック
みたいだ。

 午後1時。赤根豊くんと家族3人で、天現寺の「プティ・ポワン」
に行く。昨日、オーナーの北岡さんから、今、栗のスープがメニュ
ーにあると聞いていたから、あわてて来た。
 ところがきょうからスープは、かぶのスープになっていた。
 確かに早くしないと、栗のスープは今週ぐらいで終わってしまう
と聞いていただけに、遅かったか!
 …と思ったら、北岡さんがわざわざうちのために作ってくださる
というではないか! うれしいなあ。
 うちの家族は栗が大好きなのだ!
 はい。銀杏も、マツタケも、食べ物なら何でも好きでございます。
 みなさんが思っている通りでございます。
 なかでもあったら必ず食べてしまう、食べないとガマンができな
い食材シリーズというものがあるのだよ。

 私の銀杏、栗、トウモロコシ。
 グルメ・バカ娘のお芋、栗、トウモロコシ、といった具合にね。
 
 とかなんとか言いながら、プティ・ポワンのランチを満喫する。
 フランス料理なのに、自家製の「からすみ」が出て来て、これが
美味しいこと。
      からすみも、私はガマンできな…、はい。何でも好きでございま す。ただ昔、からすみが好きで、たらふく食ってみたくて、長崎ま で行って、からすみを丸々一本かじって気持ち悪くなったことがあ るだけでごぜえますだ、お代官様。
       ヒラメの春巻き包みみたいのも美味しかったなあ。  京都の和風料理に慣れた口に、フランス料理は落差があって、い いねえ!
北岡シェフ 赤根豊くん
      午後3時30分。帰宅。  すぎやまこういち先生から電話で「プティ・ポワンに行かない?」 というお誘い。「すみません! 今、帰って来たばかりです!」と 答えて、大爆笑!  師匠と考えてることがいっしょだった!  夕方。さすがにまだ身体が疲れているようなので、仮眠する。  午後6時。広尾のスーパーで買って来た、おかずで、稲庭うどんを 家で作って食べる。  少しは胃も休めないと。さっぱりした味がここちよい。    食後、『2コマ漫画劇場』の作品を選ぶ。  本当にレベルが高くて、選ぶのが大変だった。うれしいねえ。    午後7時。京都ですっかりさぼってしまった『さくま式人生ゲー ム2(仮)』の仕様書作りを再開。  ついにカード関係も完成する。現在54枚。予定よりどんどん増 えてしまった。  あとイベントがひとつ完成すると終わりなんだけど、きょうじゅ うに終わるかな? ちょっと無理かな?    ほかにもやらないといけないことが山積み。  明日は『さくま式人生ゲーム2(仮)』の会議に、柴尾英令くん と桃太郎事業部のご対面と、またまたみっちりとした1日になるこ とだろう。
 


11月04日(木)


 まだ疲労が取れない。ちょっと風邪気味。
 いつものようにユンケルで、徐々に回復。
 午前11時30分。放送作家の福本岳史くんが来る。

 午後12時。私、嫁、福本岳史くんの3人で、西麻布の「たぬき」
に食べに行く。
 関あじの塩焼き定食。
「このご飯、本当にうまいっスねー」と、福ちゃん。
 どのガイドブックにも、このお店はご飯が美味しいと書かれてい
るぐらい美味しい。目立たないけど、水菜のおひたしとか、きんぴ
らごぼうといったお総菜も美味しい。

 午後12時30分。西麻布「ドゥリエール」。ケーキがこってり
味で美味しいお店だ。
 福ちゃんといろいろ新しいゲームの企画を話し合う。
 若いっていいなあ。ぽんぽん無茶苦茶なアイデアが出て。
 吉田拓郎さんの昔の歌に『新しい船を動かすのは古い水夫ではな
いだろう』というのがあって、私が確実に古い水夫の側に立ち始め
ていることがよくわかる。ただし、台風に巻き込まれたときは、古
い水夫の出番だろうなあと思う。

 午後1時30分。帰宅。
 午後2時。『さくま式人生ゲーム2(仮)』の会議。
 メンバーは、タカラの高田さん、土居ちゃん(土居孝幸)、宮路
一昭くん、VR─1の荒堀明弘くん、福本岳史くん、高内優向さん。

 ようやくほとんどの仕様書作りが終了したので、いよいよ宮路一
昭くん、土居ちゃん(土居孝幸)にも仕様書のフロッピーが渡って、
本格的作業に向かう。
 まるで船の進水式のようで、気分がいい。

 メイン・キャラの元・ジャンプ放送局のメンバーのコスチューム
もみんなで討議して決定する。
 しかも、そのアイデアをその場で、土居ちゃん(土居孝幸)がラ
フ・デザインする。
 それを見て、みんなで大爆笑!
 やっぱりえのクンは、かぶりものが似合うなあ。
 どうも前作の『さくま式人生ゲーム』のえのクンは違和感があっ
たんだけど、かぶりものじゃなかったせいだったんだなあ!
 このことに気がついたのが、私が赤穂浪士の赤穂城跡を見に行っ
たときだというのはのちに、ちょっとしたエピソードになると思う
ぞ。

 午後6時。柴尾英令くん、ハドソンの梶野竜太郎くんが来る。
『さくま式人生ゲーム2(仮)』の打ち合わせが終了して、引き続
き桃太郎チームの打ち合わせとなる。
 まずは柴尾英令くんを梶野竜太郎くんに紹介するのが、きょうの
主旨。

 午後7時。近所のイタリア料理の店「ルナ・アンジェロ」に行く。
メンバーは、私、嫁、グルメ・バカ娘に、柴尾英令くん、梶野竜太
郎くん、宮路一昭くん。

 私が日記で欠席発注した、柴尾英令くんの桃太郎チーム入りを正
式に依頼する。ご飯食べながら、どんどん先々の話をしたもんだか
ら、正式ではなく、ほとんどなしくずし的にだけどね。
 でも、私が想像した通り、柴尾英令くんと梶野竜太郎くんが、映
画マニア同士で意気投合したので、きょうの会議は成功。
 やっぱり一芸を色濃く持ってる人は、仕事がしやすいよ。
 コミュニケーション取るのが、映画のシーンで会話すればいいか
ら楽だ。

 午後9時。「ルナ・アンジェロ」の1Fのほうに移って、グルメ・
バカ娘を家に帰し、その後も雑談しながら、桃太郎シリーズの今後
を打ち合わせて行く。
 まあ、この辺のことはおいおい、この日記でどことなくバレて行
くと思う。

 午後11時30分。このメンバーだと、朝まで話し続けても楽し
いので、いつものように、嫁からドクター・ストップがかかって、
退場。帰宅する。
 明日は、いよいよ新しい病院に行くので、今からどきどき。
 おまわりサンに町で会うと、悪いことしてないのに、胸騒ぎする
ように、どうも病院に行くと、そのまま帰って来れないような気が
してイヤだ。
 


11月5日(金)


 午前10時。銀座外堀通りの「渡辺クリニック」へ。
 すぎやまこういち先生ご夫妻に紹介していただいた病院なんだけ
ど、きょう初めて行ったら、これがなんと先生がお休みで、見ても
らうことができない。
 いよいよ高血圧の薬が無くなって来て、ピンチなんだけど、また
来週来ることに。
 
 午前10時30分。予定が狂ったので、どこへ行くということも
なく、寒いので、数寄屋橋の交差点近くの旭屋書店に入る。
 この本屋さんの棚の並べ方は、芸術的ですらある。
 相当すご腕の書店員さんがいるのだろう。
 昔、知り合いの敏腕で業界筋でも有名な店員さんが転勤になった
とたん、そのお店の棚がぐんぐん崩れて行った現場を見ているだけ
に、この棚作りをした人はただ者ではない。
 きれいに並べただけでなく、色彩感覚も抜群で、美しい。

 つい書棚の美しさに、たくさん本を買いすぎてしまう。
 で、食事をしないといけないのだが、この時間の銀座はどこもま
ったく開いていない。
 読めとふたりで、足が痛くなるほど歩く。

 午前11時30分。ここでいいやと覚悟を決めて、ビルの6Fの
お寿司屋さん「K」に入る。
 看板に、づけ・マグロ・穴子丼・1500円とあると、ちょっと
そそるでしょ?
 これがもう大失敗なんてもんじゃない!
 よくこんな味で、銀座でお店を出していられるねというレベル。
 若い店員は目の前でだらだらずっときょうのネタの仕込みをして
るし、どの店員にもまったく覇気がない。
 メニューの説明もできない。
「これはどんなやつなの?」と聞くと、最悪の「マグロがづけにな
っていて、穴子が丼になっています」とメニューに書いてあるまま
を読み上げる始末。
 私達夫婦は、東南アジアの人で、メニューが読めないってのかい?

 マグロは合成着色料のようにテカテカ光っていて、タレもご飯と
なかよくなっていない。
 なんだかこのお店がかわいそうになって来た。
 最後に嫁は預けたバッグを持って来てくれたのだが、その手はび
しょびしょに濡れていたそうである。合掌。

 食後、ワシントン靴店の6Fでお茶を飲む。ここはけっこう隠れ
た穴場の喫茶店。静かで落ち着くし、靴屋さんが本業なので、潰れ
る心配がない。

 午後1時30分。帰宅。
『桃太郎電鉄研究読本』の「まえがき」の原稿を書く。
 年末は、『桃太郎電鉄』の関連書籍がたくさん発売される。
 ゲームが発売されるよりも、本がたくさん出ることのほうがうれ
しいのは、出版畑出身の性だ。

 疲れがまだ取れないようなので、ちょっと仮眠。

 午後4時30分。ムサシノ広告の伊東正義が来る。
 12月8日に伊東正義が中心になって開いてくれる、『さくまあ
きらの正体』出版記念パーティの打ち合わせ。
 パーティお誘いの文面も出来上がって、さらに12月8日がちょ
うど、CD『桃太郎電鉄〜SOKOJIKARA〜』の発売日なの
で、合わせて祝おうということに。

 来週ぐらいに、業界の皆々様にはお誘いのお手紙が届くそうなの
で、ぜひ来てください。会費8000円でもれなく『さくまあきら
の正体』の本が付くそうです。
 ただ、発起人が「伊東正義と出版記念を祝う会」となっているの
で、笑わないように。どうも敏いとうとハッピー&ブルーを思い出
してしまう。

 なお、『ゴチになる会』のトーケンズのメンバーのなかで参加希
望の人は連絡してください。文面をFAXか、貼付ファイルで送る
そうです。
 
 この日記を読んだ業界人のみなさんは、今から12月8日のスケ
ジュールを開けていただくと幸いです。

 午後6時。嫁の弟夫婦が来て、まだ1歳にならない赤ちゃんがい
るので、近所のうなぎ屋さん「初花」から、出前を取っていっしょ
に食べる。
央(みお)くん
      食後、溜まってる本を読んだり、ネット・サーフィンしたり、ひ さびさに雑用を次々に片づける。  このあと、DVDの1枚も見ることができたらいいんだけどなあ。  やっぱり見よう。 『オースティン・パワーズ』だ。DVDだから『デラックス』じゃ ないほうね。  まあ、よく70年代と、『007』をパロディしてると思う。 「おバカ映画」というキャッチフレーズはまさに、その通りだ。  でも『デラックス』は見なくていいな。この調子じゃ。  もう少し、『ヤングフランケン』や『サイレント・ムービー』の メル・ブルックス監督みたいな知性が無いと、ファンにはなりづら い映画だ。
 


11月6日(土)


 午後12時。渋谷東急百貨店本店8F「なだ万孝明(なだまん・
こうめい)」に行く。
 私、嫁、グルメ・バカ娘、嫁の弟夫婦に赤ちゃんだから、5,5
人?
 11月は秋の京野菜フェアとかいうのをやっていて、どれも美味
しそう。食べ過ぎてはいけないので、ランチ。
 これが美味しい! 聖護院かぶらのムースに、マグロとネギの串
焼き豆乳ソース仕立て、ルイボスティーの茶飯。
 こういう食べ方があるのかという料理ばかりだ。しかもとても中
華と思えない。もともと中華が好きなほうでは無いので、私にはと
っても食べやすい。

 食後、グルメ・バカ娘とカメラのさくらやに行き、ゲーム、フロ
ッピー、カセットテープなどを買い込む。
 ゲームは買っても、本当にこの日記で取り上げることのできない
作品が多い。
 いわゆるくそゲームのほうが、私にとっては勉強になるので、つ
いC級のゲームを買ってしまうのだが、最近はそのC級のゲームが
本編までたどりつけずに終わるから困ってしまう。

 午後2時。帰宅。
 きょうは『桃太郎電鉄研究読本』の取材。
 しかもきょうの取材は、さくまあきら抜きの桃太郎チーム座談会
という風変わりなな設定。
 メンバーは、カズ坊(関口和之)、土居ちゃん(土居孝幸)、宮
路一昭くん、佐久間ゆり(グルメ・バカ娘)、ハドソンの梶野竜太
郎くん。

 私は、自宅の1Fで仕事をしたり、本を読んだりと変な感じ。

 午後3時30分。終了。
『桃太郎電鉄研究読本』を出版してくれる戸田乃三扇(のぞみ)さ
んと、しばらく雑談。

 午後6時。家族3人+嫁の弟夫婦で、麻布十番の「紅虎餃子房(べ
にとらぎょうざぼう)」に行く。杏仁豆腐がバカ受けする。私が経
営しているお店では無いのだが、うれしいものだ。

 午後7時。帰宅。
 DVDで『サムライ・フィクション』を観る。
 いいねえ! 昔から万が一、映画を撮るチャンスがあったら、絶
対こういう作品を作ってやろうと思ってた。
 おなじようなことを考えていた人がいたんだなあ。
 映像作家で、まだこれが第1作なの? すごいなあ。
 それにしても私はこの映画がいつごろ作られて、どういう評価を
得たのかもまったく知らない。
 たまたま渋谷パルコだかに、ポスターが貼ってあったのを覚えて
いて、ビデオかLDになったら絶対買おうと思っていた。

 やっぱり時代劇は、白黒が合うねえ。
 クリーンな白黒がきれいだ。
 布袋寅泰(ほてい・とらやす)がいいなあ。布袋寅泰(ほてい・
とらやす)で『坂本龍馬』撮ったらいいのになあ。
 日本映画の暗さがまったく無いのがいい。

 こういう日本映画がもっと出て来てくれたらいいなあ。
 昔学生の頃、あまりにも映画マニアが、邦画を観ないでけなすの
に腹が立って、年間100本以上観ていた時期がある。
 あげく本当に嫌いになってしまったんだけどね。はっはっは!

 うん。何だか最近は日本映画の世界に新しい風が吹いているよう
な気がするなあ。『踊る大捜査線』といい、古い撮影所の埃(ほこ
り)の立ちこめた匂いがしない映画が増えてくるのはいいことだ。

 ゲーム業界のほうが、やたらゲームは、こうでなきゃ、ああでな
きゃって、うるさくなっていない?
 ゲーム業界にどんどん埃が溜まっていっているよ。

 ふむふむ。明日は小旅行しようと思っていたけど、溜まっている
DVDを観倒すかな?
 いい物を観て、気分がいいぞ。
 
 ある新作ゲームのアイデアを練ることにしよう。ふおっふおっ!
 


11月7日(日)


 きょうからいよいよVAIOで、日記を書く。
 このままではとても11月17日からの九州旅行で、毎日日記を
アップすることができない。
 読む人にはまったく関係ないことだが、書きづらいといったらあ
りゃしない。
 2、3行も進めば、新たに単語登録をしないといけない。
 そういえば昨日、『サムライ・フィクション』のときに書いた
「布袋寅泰」の読み仮名は「ほてい・ともやす」であった。マック
のときに「布袋寅泰(ほてい・とらやす)」と単語登録してしまった
ので、いつも書き間違えてしまう。
 弟子の原口一也からの通報であった。

 また話は、単語登録に戻る。
「/」という文字を入れたいのだが、どこにあるのかわからない。
「/」とちゃんと入力できてるじゃないかと思うが、「/」は、半角
である。
 私は全角で入力したいのだ。
 それに驚くべきことに、キーボードの1個1個が、マックより大
きい。便利だけど、片手の私には動かす範囲が大きく広がったよう
でつらい。右手首の筋肉が痛くなる。

 午前11時30分。きょうはひとりでちょっとでかける。
 午後12時。原宿駅から品川駅へ。京浜東北線に乗り換える。
「京浜」は、東京と横浜を結ぶラインなのに、なんで「きょうはま」
と読まないのだろう。わざわざ京浜(けいひん)とい詠む必要がどこ
にあるのだろう?
 川端康成を「かわばた・こうせい」とマニアックに言う文学マニ
アがいる。
 京浜(けいひん)という詠み方もマニアの詠み方が定着させたのだ
ろう。何マニアなんだろう?

 午後12時30分。JR川崎駅。駅ビルBEの1F「和幸」。
 あの現在ナムコに勤務の門谷祥子さんが教えてくれた、北海道の
帯広名物・豚丼(ぶたどん)を食べに来た。
    松・800円、竹・650円、梅・490円の3種類あるが、門 谷祥子さんが違いは量だけと言っていたので、梅を注文する。あや うく松を注文するところだった。  丼に、豚の照り焼きが5〜6枚乗っていて、豚の上には、白ごま がふりかけられていて、あとはピーマンの切れ端が入っているだけ。  いかにも北海道の食べ物らしい大雑把な食べ物だ。  お新香も、野沢菜と、北海道のお漬物ではない。せめて塩漬けの 枝豆でも付けて、「おおっ?」と思わせてほしいものだ。  味のほうは、まあ想像どおりの豚の照り焼き丼なだけ。  もうちょい工夫がほしいな。
    このまま途方に暮れるのも、もったいないので、どこかに行きた くなる。  駅前の案内板やバス路線図などをながめる。  そういえば、年末年始でおなじみの川崎大師に一度も行ったこと がない。  午後1時30分。「かわさき市民まつり」とかいうパレードに巻 き込まれながら、川崎大師参道へ。  こんなに大きい商店街があると思わなかった。  やたら飴を売っているお店が多い。  しかも飴を実演販売している。  飴を切る包丁が、まな板に当たる音が、客寄せの呼び込みになっ ている。  カッカラ、カッカラ、カッカラカ!  カッカラ、カッカラ、カッカラカ!  カッカラ、カッカラ、カッカラカ!
      不思議なリズムだ。  きなこ飴を試食する。硬いと思っていたら、これが柔らかくて あんこ玉みたい。商売に試食は大事だね。思わず買ってしまった。  川崎大師には、きなこ飴のほか、せき止め飴、久寿餅といった名 物がたくさん置かれていた。  久寿餅は、「くずもち」と読む。よくある「くず餅」とまったく おなじ味である。
    境内は、七五三のお客さんでけっこうな人出。  子どものことになると、親は熱心なもんだねえ。
    帰り道が遠い。  京急の川崎大師駅へ行く。川崎大師は、「かわさきだいし」と読 むそうだ。「かわさきたいし」と読むのかと思っていた。佐野厄除 け大師も「たいし」と読むのかな? ほう。「たいし」では「大師」 と変換できない。「だいし」か。勉強になりますのー!  午後3時30分。渋谷に出て、うろうろしたあげく、いつものよ うに「ブック・ファースト」に寄って、本を買い、喫茶店「マ・メ ゾン」で、ケーキの誘惑に負けそうになりながら、カフェオレで我 慢する。  このあと東急百貨店本店に寄って、恒例「なだ万」のお弁当を買 う。「特製七五三弁当」という単語にまんまとはまる。  午後5時。帰宅。  このところ少しずつ読んでいる萩本欽一さんの本『まだ運はある か』(大和書房)を読む。ものすごく納得できるところと、納得でき ないところのある本だ。でも絶対読んだほうがいい本。運のつかみ 方が書いてある。  午後7時。グルメ・バカ娘がちっとも帰って来ない。電話する。 「今どこにいるんだよ!」 「家!」 「ん? 家?」  なんだ、家にいたのか。午後4時すぎに帰ってきていたそうな。 私より前に帰ってきていたのか。どおりでわからかったわけだ。 『鉄腕DASH!』を見ながら、七五三弁当を食べる。  嫁は友だちのところにでかけている。  グルメ・バカ娘は『鉄腕DASH!』を見ながら、「これってV 6?」とあいかわらず中学生と思えない会話。グルメ・バカ娘は、 TOKIOどころか、SMAPのメンバーすら言えない。日本料理 の名前ならいくらでも言えるが…。  食後、DVDで『ブレイド』を観る。 『マトリックス』以前にこんな格好いい映画があったんだねえ。ど ことなく匂いが『マトリックス』に似ている。もちろん『マトリッ クス』のほうが似てるんだろうけど。  そのうちカプコンでゲーム化しそうな気がする。  それと、もはや映画のなかに日本的な物が登場するのは、当たり 前の時代になっちまったんだねえ。日本って国も国際的になったも んだ。そろそろ外国にも行くようにしないといかんな。最後の楽し みに取っておいたんだけど。もう少しコンコンルドがもっと進化し てくれると思ったんだけど、無理か。  ひ〜。きょうの日記はもうこの辺にしておこう。  まだスピーディにタイピングできないんで、文章が書きづらい。 リズムがつかめない。キーボードがまだ重たく感じる。まあ、何事 も練習、練習。  このところ毎日DVDを観ることができて、幸せ。  アイデアの素を補給しておかないとね。     しばらくこの調子で、VAIOで日記を書く。   問題は、嫁のiMacに遅れるかどうかだ。  …という前に、私がどこかキーボードを押したせいで、ローマ字 入力が、ひらがな入力になってしまった。復旧しない。  けっきょくこれも嫁に直してもらう。  あ〜、モバイルまでの道のりは遠いのー!
 


11月8日(月)


VAIOで日記シリーズ2日目。

午前10時すぎ。嫁と2人で、銀座8丁目の渡辺内科クリニック
へ行く。
自宅のすぐ前にある「G診療所」…ははは。いつも日記にさん
ざん実名で書いてきたのに、今ごろ「G診療所」というのも卑怯
だが、とにかくあの病院が嫌で、この病院をすぎやまこういち先
生ご夫妻に紹介していただいた。
 採血の最中、注射針を刺しながら、「○○さんを都知事に投票
してください!」というような病院はやっぱり嫌だよ。

 渡辺先生は、いかにもすぎやまこういち先生ご夫妻がお好きそ
うな頭脳明晰で、明るい人だったので、よかった。
 なにしろ、私はお医者さんの好き嫌いが激しいから、本当に助
かった。血圧が150―102と高かったけど、「初診だからだ
ろう」と言ってくださる。このやさしさがうれしい。

 いくつか検査をしてもらって、すっきり気分で病院を出る。
 これなら毎月病院に行くのが苦にならなくていいや。
 しかも銀座8丁目界隈のいろんなお店を探索できるから、むし
ろうれしい。
             
午前11時30分。博品館前で読売広告の岩崎誠と待ち合わせ。
いっしょに博品館並びのビルの9Fにある「揖保の糸・庵(いおり)」
に初挑戦。
「揖保(いぼ)の糸」といえば、そーめんで有名なあの「揖保の糸」
である。こんな珍しいお店を私が放っておくわけがない。
嫁と岩崎誠は、通常の冷たいそーめんのランチを注文して、私はか
た焼きそーめん定食を注文。ふっふっふ。嫁と岩崎誠はまだグルメ
じゃないなあ。「プティ・ポワン」の北岡さんから、そーめんは炒
めると美味しいと教えていただいていたのだ。
…と思ったら、これがなんと、確かにそーめんは炒めてあったんだ
けど、上からあんかけがかかっていたので、どう見ても「長崎ちゃ
んぽん」の固焼きなだけであった。う〜む。敗北!
   しかも嫁のそーめんを少し食べさせてもらったら、美味しいこと、 美味しいこと。梅おろしが何ともいえず涼味感満点で、夏に食べた ら絶品だな、これは。来年の夏が待ち遠しい。 病院帰りに寄るお店第1号店として、認定! 食後、おなじビル1Fの「資生堂パーラー」で、岩崎誠と密談。 密談って、いい言葉だねえ。 いかにも真剣に仕事してそうでいい。 でもコーヒーにシュークリームと言っただけで、どうして一挙に密 談は歓談に思えてしまうのだろう。 とにかく、密談。けっこう面白い話。 午後2時。渋谷の「タントン・マッサージ」に行く。 岡崎さんが2日間休んでいたので、ようやくやってもらえる。1時 間たっぷりマッサージしてもらって、途中あやうくいびきをかきか ける。  ふわ〜〜〜、すっきり。    午後3時。パルコの地下の書店で「サムライ・フィクション」の本 を探すが無い。昨年あれだけたくさん山積みになっていたのに。本 はすっかり生ものになってしまったなあ…。 HMVでビデオ購入。 午後4時。帰宅。 本を読んだり、部屋を片付けたり。もちろんこの間、ゲームのアイ デアを考えている。秘密のゲームだ。 午後7時。家族3人で、赤坂「旬香亭(しゅんこうてい)」へ行く。 ここは見た目はそうでもないけど、口にするとどれも美味しいお店。 一応、デジカメしてみたけど、やっぱり写真写りが悪い。というよ りも、ケレン味に欠ける。お肉なんか相当いいお肉をつかってるの に、小さくお皿に乗せるから、もうひとつ目立たない。「内儀屋(か みや)」のような大皿に盛ったりすると、印象が強いのだが。 たぶん大受けしたくない体質のお店なんだろな。
        旬香亭の顔・松茸のオムライス  
     午後9時。帰宅。 グルメ・バカ娘が始めた『俺の屍を超えてゆけ』を観る。桝田省治 (ますだ・しょうじ)の作品だから、私もやりたいのだが、どうもR PGは時間が長くてなあ。魔法の名前覚えるのも下手になってきた。 そのうち京都でぶっ通しでやることにしよう。 4日連続で、DVD観ることができるかなと思ったけど、きょうは もうちょっと時間無いなあ。ゲームのアイデアをまとめておきたい から。 しばらく本を読んで、映画を観る生活を続けたい。  
 


11月9日(火)


VAIOで日記シリーズ3日目。
 何だかずっとVAIOしてると、VAIOの本体って、相当熱くなっ
てこない? まさか私のVAIOだけじゃないよね?
 また壊しつつある? 今そこにある危機?

午前11時。インデックスさんがわざわざ3人で、自宅を訪ね
てきてくれる。検討中だったiモード・ゲームについて。
何でもNTT側から、もっと内容を盛りだくさんにしたほうが
いいという打診があったそうだ。ありゃありゃ。せっかくシンプ
ルだからこうしてゲーム作家が転職してもいいと思うくらい、の
めり込めたんだけど、進化が早いなあ。
どうしてそんなに必死になって、ゲームが衰退した道のりを急
いで走り切って追い抜こうとするのだろう。
ゲームは、5800円。iモードは1ヶ月200円くらいで手軽
だったからよかったのに。
もちろん現在製作中のiモードのゲームは作るけど、先が無いなあ。
込み入った内容にしていったら、ゲームよりも早くも採算割れし
てしまうよ。
iモードのゲームは、プレイステーションのゲームを脅かすくら
い浸透すると思ったんだけどなあ。
また、ゲームの世界に戻るとするか。すごすご…。  

午後11時30分。嫁と原宿に出て、最近オープンしたばかり
のソニー・プラザを覗く。若者向きだから縁が無いなあ。
そのまま明治通り沿いを渋谷に向かって進む。
フィギュア屋さんなどを覗き、歩き疲れたので、宮益坂の喫茶
店「トランス・カフェ」に入る。
いまどき「トランス」なんて単語をつかうなんて時代遅れだけ
ど、前からずっとあるお店なのかな?
それにしても2ヶ月ぶりぐらいで、原宿から渋谷に向かって歩
いていただけなのに、1割近くのお店が新しくなっている。
激しい街だ。

午後1時30分。帰宅。
午後2時。読売広告の岩崎誠に、放送作家の福本岳史くんが来
る。岩崎誠とは昨日に引き続き、密談。
放送作家の福本岳史くんは、どうしても一戸建ての家がほしい
のでという相談、というのはウソ、ウソ。まあ、こういうウソか
ら本当になることは多いけどね。はっはっは。

福本岳史くんと、今後のゲーム・スケジュールを確認する。
私も福本岳史くんもゲームの仕事がたくさん入って来てしまっ
ているので、しっかり交通整理しておかないと、渋滞に巻き込ま
れてしまう。それにしてもちょっと仕事量が多すぎるぞ。
ふたりで「このゲームも、あのゲームも、柴尾英令(しばお・ひ
でのり)くんに頼むか。福ちゃんよ、そちも悪よのー!」などと会
話したとは言ってないよ、福ちゃん。
でもこういうウソはえてして本当になることが…って、何度も
いうとしつこいか?

午後5時。ビー・アール・サーカスの森沢明夫くんが『さくま
あきらの正体』の表紙カバーを持って来てくれた。本文のゲラは
明日になってしまったようだ。明日もスケジュールがびっちり入
っているから、校正できるかなあ。
  
午後7時。嫁とふたりで、新宿歌舞伎町のラーメン屋「利しり」
に行く。
嫁はいつものように、辛い辛い、オロチョンラーメン、私はオ
ーソドックスな利しりラーメン。今年で21年目だそうで、私も
嫁も21年間このお店に通っていることになる。

午後7時30分。最近、勝新太郎主演の映画『まらそん侍』って
映画のビデオを探しているのだけれど、やっぱり無い。新宿松竹
のところのビデオ屋さんならあると思ったんだけどなあ。

どうも邦画の妙なタイトルの映画が観たくて仕方が無い。
『さいころ侍』。
『ジャズ大名』。
『まらそん侍』。
 たぶんつまらないのだろうけど、一度は観てみたいと思わない? 
こういう変な題名の映画大募集! って、どこで募集だ?

 午後8時。『さくま式人生ゲーム2(仮)』の手直し作業。
 午後9時。秘密のゲームの制作に入る。
 ふっふっふ。このゲームはおもしろいよー、って言っても、現
段階ではまったく内容をバラすことができないので、そのまま書
き流す。そのうちね。

 でもずっと今夜はこのゲームを作るからなあ。
 はい。ダメですね。ぽろりはいかんですな。私も大人になりま
しょうね。
 ではまた明日。
 きょうもちゃんと家の1階から2階へ、送信できるかな?
 VAIO日記3日目、かなりなれて来たぞ。えへん、えへん!
 


11月10日(水)


 午前10時30分。嫁と高円寺の整体さんに行く。
 腰がかなり曲がっているそうだ。
 どうも2週間前ぐらいのワープロ打ちまくりが応えているよう
だ。今目の前の机には、Imac、レッツノート、パワーブック24
00、VAIOが並んでいる。最新のiBookはまだ開けていない。異
様な机だ。
ばっちり腰を治してもらう。

 午後12時。環七を北上して、おそばで有名な「田中屋」に行
くも、お休み。がっふん!
 この辺には食べるところがまるで無い。
 せっかく何10年ぶりでこの界隈に来たのだからと、散歩する。

 何10年前とまったくおなじ見事な住宅地で、食べ物屋さんな
んてまったく無い。広くて長いまっすぐな道がずっと続く。ひょ
っとしたら、そろそろ西武池袋線江古田駅が近いのではないかと
思った瞬間、道路に「→新江古田駅」の表示。「新」? そんな
駅あったかいな? 
 
『桃太郎電鉄』の作者としては知らないではすまない。表示に向
かって進む。おっ。地下鉄か。でも知らないなあ。
 おお! おお! これが都営12号線か! な〜んだ。
 えっ? まだ開通してないんじゃないの?
 へ〜〜。光が丘から新宿までは通っているだ。
 この路線はすごいんだよー。
 東京には山手線という丸い電車が…って、電車が丸いわけじゃ
ない。環状線があるのは誰でも知ってるよね。
 その丸い線の外に、◎のように、地下で山手線を作ろうとして
いる。それがこの都営12号線なのだ。
 光が丘から、西武新宿線中井駅、中央線東中野駅、丸の内線中
野坂上と、とにかくたくさんの鉄道とクロスする夢のような路線
なのだ。
 私が子どもの頃から、西武新宿線中井駅に地下鉄が通ると言わ
れ続けて、こっちが先に西武新宿線を離れてしまった。そうか。
あのときの電車が開通していたのかあ…。感無量だなあ。何に対
して感無量なのかよくわからないけど。

 とにかく乗る。空いている。こんなにいい路線なのに何で空い
ているんだろう? 未開通部分はもっとすごくて、うちのすぐ近
所の国立競技場前を通り、青山一丁目を通り、なんと六本木、麻
布十番、築地、森下、御徒町、浅草、飯田橋も通る。新幹線開通
以来の快挙だよ、これは。
 そのうちものすごいラッシュになってしまうんじゃないかな。

 意味無く新宿駅で降りる。小田急のサザンタワーの近くに出た
ので、2Fの「アフタヌーンティー」で食事する。
 カシューナッツとリンゴのチキンサラダ。
 これはいける。暗記しとかないと思えるくらい美味しい。
 嫁が「昔なら、サラダくらいじゃお腹がいっぱいにならなかっ
たでしょ」と言う。もちろん。サラダなんてもの自体注文したこ
とがなかった。おやつにもならん。

 食後、高島屋に寄るが、お休み。きょうはついていない。
 午後2時30分。帰宅。
 なんともまあ、気の早いことで、新作『桃太郎電鉄』の制作に
取り掛かる。『桃太郎電鉄V』では無い。次のだ。すでにアイデ
アはぽちぽち出していたのだが、ワードのテキスト・スタイルで
本書きは初めて。
 当分またこの日記では、新作『桃太郎電鉄』という言い方にな
ると思う。昨日口を滑らしそうになっていた秘密のゲームは、新
作『桃太郎電鉄』では無い。
 だから忙しくなりそうで、どうしようかと思っている。

 午後3時30分。なかむら治彦くんの紹介で、漫画家のみずし
な孝之くんと、こむらなるなりクンが来る。
左から、みずしな孝之くん・こむらなるなりクン・なかむら治彦くん・さくま
      みずしな孝之くんといえば、あの横浜ベイスターズ4コマ漫画 『ササキ様に願いを』の作者である。  飛んで火にいるベイスターズ・ファン!  ひさびさにベイスターズ話解禁なので、もううれしくてさっそ く昨年のセ・リーグ優勝話から。  横浜ベイスターズの選手の名前を注釈無しで話せるのは、ポル シェで高速道路を走っているようなものだ。  水尾投手、東瀬投手なんていう選手の名前をいきなり言っても 通じる。これはもう快感としか言いようがない。  午後5時で切り上げないといけなかったんだけど、ついつい午 後6時まで3人を引き止めてしまう。  嫁とあわてて、御茶ノ水まで急ぐ。    午後6時20分。山の上ホテルで、ケーキとコーヒーだけ。晩 御飯を食べるには時間がない。  午後6時45分。御茶ノ水カザルスホール。ほう。VAIOは、 カザルスをちゃんとカタカナで変換するぞ。教養あるなあ。VAIO が頭いいんじゃなくて、オフィス2000が偉いのか。    きょうはカザルスホールで、すぎやまこういち先生企画のコン サート「前田憲男、藤井一興“ピアノあれこれア・ラ・カルト”」 を鑑賞する。  前田憲男さんは、私が子どもの頃から、名アレンジャーとして 有名で、粋な音楽番組のテロップには必ず名前が入っていらっし ゃるような、キング・オブ・ジャズの方。  藤井一興さんを私は無学なもので、存じ上げていなかったのだ が、クラシック界の巨匠で、作曲家でもあるそうだ。  そのおふたりが、まず得意のジャンルを披露して、第2部から がすごい!  クラシックの名曲を前田憲男さんが、ジャズにアレンジして演 奏して、ポップスの名曲を藤井一興さんが、クラシックに直して 演奏する。  こういう企画を考えたのが、すぎやまこういち先生。だもんだ から、ただのポップスを選ぶわけが無い。  ビートルズの名曲『イエスタディ』をクラシックまではわかる が、藤井一興さんに、あの美空ひばりサンの『柔』を演奏させて しまう。  これがまたいいんだ。  確かにクラシックなのだ。  名人と呼ばれる人たちの「遊び」というのは、真剣にやるから カッコいい。大人の遊びだなあ。  おふたりとも、きょうの企画を刺激的とおっしゃっていたけど、 聴いてるこっちにとっても、刺激的。  自分の好きな音楽だけを聴いていてはいけないなあと痛感する。 いつもとは違うところの脳にしわが1本入ったような気がする。  この年になって、新しいことを学習できることは、とてもうれ しいことだ。VAIOとクラシック。当面の私の生涯学習になりそうだ。  午後9時。すぎやまこういち先生ご夫妻に、山の上ホテルのイ タリア料理のお店「シェヌー」で夕食をごちそうさせていただく。   ここのほうれん草と卵のピザは、変わった味で美味しい。  嫁が食べた、ワタリガニのスパゲティも美味しかった。    午後11時。贅沢なことに、すぎやまこういち先生ご夫妻の車 で家まで送っていただく。  それにしても、きょうのコンサート。今まで聴いたことのない ピアノの音色だ。映画は映画館で見ろ!と、おなじようにクラシ ックはホールで聴け!だな。  でもまだまだ一丁前の感想はいえない。3年計画でいっぱしの 感想を言えるようになりたいものだ。  みなさん、いっしょにお勉強しましょうね。    午前0時。とりつかれたように、秘密のゲームの仕様書を書き 続けている。楽しいのだ、このゲーム。本当はみんなが知ってる ゲームだったりするんだけどなあ。  大河ドラマのように、少しずつバラしていくから。気長に読み 続けてね。
 


11月11日(木)


 朝から『さくまあきらの正体』の青焼き校正。
 本の幅は薄いものの、238ページもあって、すごい読み応え
だ。ほとんど誤植も無いので、楽な作業だけど、とにかくすごい
ボリュームに読んでも読んでも読み終わらない。

 午前11時30分。嫁と青山の「月光茶房」に行く。
 なすとひき肉のカレー・ランチ。辛い〜! でも美味しい〜。
 デザートに黒蜜のシフォンケーキが付いてこれがいい味してる。
      食後この喫茶店でずっと嫁とふたりで、『さくまあきらの正 体』の校正。『ジャンプ放送局ドリーム座談会』は、何度読んで も笑える。榎本45歳って本当におもしろいねえ!  それにしても私が生い立ちからずっと今日までをこんなに語っ ていたとは思わなかった。今から言ってしまうともったいないの で、ぜひじっくり読んでね。たぶん1日じゃ読みきれないよー。  午後12時30分。喫茶店が満員になって来たので、場所を移 す。嫁は銀行へ。私は原宿の「カフェ・ヴァジー」へ。  私はさらに『さくまあきらの正体』の校正作業。  いよいよ『横浜ベイスターズ優勝追っかけ日記』の項目に突入 する。前回加筆・訂正したとき、不覚にも落涙してしまったが、 さすがにきょうは発売直前の校正だから、涙は出ない。まわりに 人がいる喫茶店だし…と思っていたら、優勝3日前の日記あたり からどんどん目頭が熱くなって来て、またしても涙で目がにじん でしまう。  まったく大馬鹿野郎だね、自分の文章に涙するなんてさ。  時間がなくなって来た。まだ読み終わらない。  本当にすごいボリュームだ。  とくに『横浜ベイスターズ優勝追っかけ日記』は、長いにもほ どがある! 1ページ3段組で、50〜60ページくらいあるん じゃないかなあ?  あっ。そういえば、そろそろこの本の出版記念パーティのお誘 いの手紙が、ムサシノ広告の伊東正義のほうから届き始めている と思いますが、本人様以外の参加はもちろんOKです。  夫婦でお見えの方もいると思いますので。  どうか気軽にご参加ください。  午後2時。帰宅。ハドソンの武田学くんが来る。  きょうは『週刊SPA!』の取材。  例によって、取材開始10分間は『桃太郎電鉄V』の話をうま くしゃべることができない。  特にきょうは、『桃太郎電鉄V』のロムのほうが、ソニーさん から承認されたので、うれしいと同時に、もう『桃太郎電鉄V』 を消去する作業が始まっているので、もう忘れ始めている。  次の『桃太郎電鉄』を作るかどうかも決定していないけど、来 シーズン以降に向かって、頭を切り替えないといけないのだ。  因果な商売でしょ? ああ、完成したなあ。発売日までゆっく りして、発売日当日は、スタッフ全員で食事だ〜、なんてことは 過去1回も無い。  午後4時くらいに取材終了。  このあと珍しく、武田学くんと、今後の桃太郎シリーズについ て話し合う。ふたりで話したからといって、決定するわけではな いけど、プレステ2とかドルフィン、新型ゲームボーイといった 新しいハードが続々登場するので、うっかり発売するハードを間 違えると、致命傷になってしまう。  いろいろ武田学くんが知ってることを教えてもらう。  年齢を考えると、本当にあと3年ぐらいしか働けないから、今 後ひとつひとつのゲームをじっくり作って行きたい。  午後7時。青山骨董通りの和風料理屋「えさき」に行く。  野球選手でいうと、中継ぎのエースといった感じのお店で、そ ろそろ先発も行けるかなという有望なお店だ。  ブロッコリーを焼いて、それがスープに入った物が出たりして、 目立たないけど、コントロールのいい味だ。  といってるうちに、鯛の煮つけを食べたときに、鯛の骨が嫁の のどに刺さる。痛そうだ。水を飲んでも抜けない。ご飯を注文し て、ご飯を飲み込んでも抜けない。お店の人まで心配してくれる。 心配されても、骨がのどに刺さっているだけなので、誰も何とも しようがない。    ここのデザートはいつも小粒だけど美味しい。小豆のカスター ドプリンなのだが、温かくて甘〜い匂いに、思わず鼻腔おっぴろ がり〜!といった感じだ。  なんとか嫁ののどが小康状態になったので、帰る。病院に行こ うか本当に悩んでいたのに、最後まで食べ切った嫁と、「それは 絶対そうよね!」と言い切るグルメ・バカ娘は恐ろしい親子だ。  午後9時30分。帰宅。  きょうはこのまま『さくまあきらの正体』の校正を最後までや る予定。  それにしても友人たちがすばらしいコメントを寄稿してくれて いるので、なんともこそばゆい。  すぎやまこういち先生とのグルメ対談もあるし、堀井雄二のコ メントもあるし、相方のえびなみつるのほろっと来るようなコメ ントも入っているし、高校時代からの同級生で、現在『週刊モー ニング』の編集次長の山畑雅夫のコメントに至っては、震えが来 るくらい、気恥ずかしい。  なるほど、これは出版パーティを開いて、協力していただいた 人たちにお礼を言わないといけないなと思った。  月並みな言葉しか浮かばないけど、こんな本を出版できる、さ くまあきらという男は幸せな野郎だねえ!  もうちっとがんばらないと、罰が当たるな、うん!
 


11月12日(金)


 午前11時。南青山の「パパス・カフェ」に行くも、まだオー
プンしていない。仕方なく、近くの「ジョナサン」に行く。
 青山にあるジョナサンだから、「青ジョナ」と呼ばれているそ
うだ。変なの。

 牛肉の柳川鍋風丼というメニューがあったので、注文する。
 予想外にうまい! お下劣な美味しさ。お汁が濃い。
 牛丼より全然美味しい。

 午後12時。インデックスに行く。
 ムサシノ広告の伊東正義も到着。
 なんと急にiモードのゲームが承認されてしまったので、速攻
でゲームを作らないといけないことになってしまった。
 その期間たるや、2週間!
 ちょ、ちょっと待ってくれよ!
 来週私は九州に行かないといけないから、なんと金・土・日・
月の4日間で原稿を上げないといけない。しょえー!

 でもこれで、承認が取れたので、ついに言いたくて言いたくて
仕方がなかった、iモード参入第1弾のゲーム名を発表することが
できる! じゃーーん!
 お待たせ〜〜〜!
 ほっかほかの最新情報だよ!

 題名は『さくま式東海道五十三次』!
 サイコロで進んで行って、何ターンで『五十三次』をクリアす
るかを競うゲームだ。わっはっは! iモード・ゲームのなかでは
実に画期的だろ!
 単純にサイコロを振って6ばかり出れば、9ターンでクリアし
てしまうが、そこは箱根の関所もあるし、大井川の渡しもある。 
さらに弥次さん、喜多さんのキャラが私と土居(土居孝幸)ちゃ
んがモデルとくれば、追いはぎのキャラは誰がモデルでしょう?
…って、全然クイズになってないよねー!
 榎本45歳、あらため発売時期には、榎本46歳だああ!

 というわけで、12月1日開設をめざして、大忙しだ! 本当
に間に合うのだろうか?

 午後1時30分。渋谷ブック・ファースト1Fの「マ・メゾ
ン」で、伊東正義と密談。こってり密談。あれこれ密談。これ以
上仕事を増やすと身体によくないのだけれど、3年後の50歳以
降のうちの主力産業になるかもしれないお仕事の話なので、今か
ら密談。3年後以降とは鬼も笑うひまがないだろう。

 午後2時30分。帰宅。さっそく『さくま式東海道五十三次』
の原稿書き。もう一度資料を見直しながらなので、思うように仕
事がはかどらない。

 午後3時。イラストレーターの高内優向さんが来る。
『さくま式人生ゲーム2(仮)』のイラストの打ち合わせ。

 午後4時30分。再び『さくま式東海道五十三次』の原稿書き。
 午後5時。実姉が来る。
 きょうはこれから、この日記ではもうおなじみすぎる青山『穂
積』に行くのだ。
 しばらく世間話するが、まあ、私の姉だから、血は争えないも
ので、日本全国各地の地名がポンポン飛び出すマニアックな会話
だ。私と姉とは8歳も離れていたので、私が中学生になったとき
には、嫁に行ってしまった。
 だからお互い旅行が好きになるとは思っていなかったのだが、
奇妙なほど旅好きで、好きな場所も偶然いっしょなのだから恐ろ
しいものだ。
 先日行った角館、前沢といった地名をいきなり言っても、「ど
こそ?」という言葉は絶対出てこない。
 来週から九州だというと、串木野(くしきの)のさつまあげが美
味しいという人だからねえ。
 ちなみに串木野は地名。お店の名前ではない。
 まあ、そういう家系だ。

 午後7時。家族3人と実姉で、青山「穂積」に行く。
 実姉はいつも京都でいっしょのことが多いので、青山「穂積」
は、きょうが初めて。
 すぎやまこういち先生ご夫妻もご到着。
 
 このところ、うちもすぎやまこういち先生も、『桃太郎電鉄
V』と『ドラゴンクエスト7』で忙しかったので、しばらく青山
「穂積」に来ていなかったものだから、料理長さんが腕によりを
かえて珍しい食べ物を連発してくれる。

 最後はやっぱり前回のリクエストを料理長さんは覚えていてく
れた。銀杏のかき揚げではなかったが、なんと土鍋で炊いた、銀
杏の炊き込み御飯だ!
 これがまた銀杏がほんのり甘いから不思議!
 枝豆とか空豆の炊き込み御飯もけっこう美味しいけど、この銀
杏の炊き込み御飯にはまいった。
 絶対お代わりはするまいと決めて、今年1年実行してきた禁を
ついに解いてしまった。

 あまりの美味しさについ食べたい気持ちが勝って、この銀杏の
炊き込み御飯をデジカメするのを忘れた! 煩悩のほうが強すぎ
る食い道楽軍団である。

 姉もすっかり満足して、苦しい!を連発していた。

 午後9時30分。帰宅。
 姉と黒豆珈琲を飲んで、私は『さくま式東海道五十三次』の仕
事に取り掛かる。
 資料がおもしろくて、つい読みふけってしまう。
 いかん。こんな調子では、完成しない。
 明日の清水おすしミュージアム行きは、中止だ!
 


11月13日(土)


 朝5時から、『さくま式東海道五十三次』の資料を読み漁る。
 合わせて『東海道中膝栗毛』も読む。
 だんだん東海道を旅したくなってくる。
 ダメ、ダメ(明石家さんまサンの口調で…)! 来週から九州旅
行!

 午前10時。ようやく仕様書の作成に移ることができる。
 午前11時すぎ。放送作家の福本岳史くんから電話が入る。
「きょう博多に着いたばかりの福本です! 昨日の日記を見たら、
『さくま式東海道五十三次』がもう締切りじゃないですかー!  
ってことは、僕はあのゲームのお仕事に参加できないってことで
すかー?」
「そうだよ! わっはっは!」
「そんなー!」
 本当に仕事好きな肥満鯛いや、肥満体だなあ。
 私だって、まさか見事に九州旅行と締切りが重なると思ってい
なかったんだ。
「ううっ。くやしい! 明日対馬の取材に行って来ます!」
「そのまま対馬海流でプランクトンになってしまいなさい!」と
は言わなかった。福ちゃんはヒステリック・ブルーのコンサート
の顔出しのためにわざわざ博多まで行ってるのである。自腹で。
 見上げた肥満タイガーである。ん? 肥満タイガー! 思いつ
きで書いたわりには、福ちゃんのキャラに合うなあ。ちょっとキ
ープしとこ!

 午後12時。渋谷ブック・ファースト1Fで戸田圭祐と待ち合
わせ。最近本当によく東京に来るなあ。きょうは弟子の原口一也
たちとカラオケ大会だそうだ。

 まだ戸田圭祐が行ったことのない、「宇和島」に行ったのだが、
明かりはついているが、誰もいない。どうやら休みのようだ。土
曜日だけ夜のみの営業なのかな?
 東急百貨店本店8Fの「なだ万孝明(なだまん・こうめい)」に
行くも、昼過ぎまで予約でいっぱいだそうだ。
 おなじ階のイタリア料理の店「タントタント」も超満員。もう
ほかに行くのも面倒なので、15分以上座って待つ。待つのは大
嫌いなのに。
 お昼のご飯時は、午前11時55分を過ぎると、どこも一斉に
満員になる。午前11時54分までガラガラなのに。そこが律儀
だよ日本人ってとこか。あの番組は大嫌い。

「タントタント」は、超満員なので、ガチャガチャうるさい。落
ち着かない店だ。味は悪くもなく良くもなく。でもデパートなら
十分行列ができるレベルだろう。

 午後2時。地下の食料品売り場を物色。めったにない松坂牛の
ハンバーグがあったので買う。1枚380円だから安いよ。でも
夕飯のとき、グルメ・バカ娘は残しやがった! あのガキ、一度
糞尿地獄に落ちたほうがいい!

 午後2時30分。戸田圭祐はカラオケへ。私と嫁は帰宅。
 再び『東海道五十三次』の資料をひっくり返しながら、『さく
ま式東海道五十三次』の仕様書作り。
 土居(土居孝幸)ちゃんに電話して、こんなキャラ、あんなキャ
ラを月曜日までに描いておいてくれと言う。土居(土居孝幸)ちゃ
んとの打ち合わせは電話ですむから本当に楽だ。阿吽の呼吸って
やつだろうな。
 ぶっ通しで、『さくま式東海道五十三次』の仕様書作り。

 午後6時。夕食は自宅で。松坂牛のハンバーグに、ふわふわ豆
腐に、ちびキュウリのお漬物。キュウリは曲がってるやつが美味
しいよね。まっすぐなキュウリ撲滅運動を起こしたいくらいだ。

 食後も『さくま式東海道五十三次』の仕様書作り。

 午後8時。あれ? 『さくま式東海道五十三次』の仕様書が完
成しちまったぞ! なんとかしなきゃ、なんとかしなきゃとあせ
ってるうちに、資料読みながら作ってたら楽しくなってきて、気
がついたら完成してしまった。
 ラストあたりにもうひとつぐらいイベントがほしいな。
 明日、すぎやまこういち先生ご夫妻と大人の遠足で、熱海へ行
くのだが、この電車のなかで手直しをすれば、おそらく完成だろ
う。めでたい、めでたい!

 映画『ロスト・イン・スペース』を観るが、途中何度も電話が
入るので、観るのをやめる。最初から退屈な映画だ。特撮は見事
だけど。

 午後10時。嫁と近所の「ブルドック」に行く。
 戸田圭祐と原口一也と合流。
 このところ多人数の場でしか原口一也と会っていなかったので、
じっくり話す。おもしろい大人に変貌しつつある原口一也のここ
2〜3年はとっても楽しみである。
 ちょっと上の先輩たちにどのくらいもまれて行くかだな。
 あっというまに午前0時。お店の閉店時間になってしまった。
 明日は大人の遠足旅行なので、早く寝ておかないと!
 


11月14日(日)


 午前9時。最古のさくまにあ・戸田圭祐が来る。
 そのまま家族3人と戸田圭祐の4人で、東京駅に向かう。

 きょうはこの日記でもすっかりおなじみのフランス料理のお店
「プティ・ポワン」の北岡さんのお招きで、熱海にある別荘に行
くのだ。
 その実、無謀にもこの別荘をお安く譲っていただこうという
図々しい計画なのだ。
 なにしろ、私は海が好きなので海の見えるところに住みたいと
いう願望は滅法強い。しかも病気してからというもの、寒いとこ
ろは厳禁なので、熱海は実に好都合なのだ。
 それにどういうわけか、小説家と呼ばれる方々は、50歳を過
ぎるとみな熱海、伊豆方面をめざすのだ。これは絶対何かわけが
ある。北岡さんの別荘にも、数多くの小説家の先生方が定住され
ているそうだ。

 私がこの別荘をほしがっても、家族と、うちの税理士である蔵
人総合研究所の赤根豊くんがOKしないことには、購入すること
はできない。
家購入のことになると謀略家になれる策士私は。きょうはしっ
かり赤根豊くんを呼んである。実際に赤根豊くんがこれから行く
北岡さんのリゾートマンションを見れば、私がほしいといったと
きに断りづらいだろう。

 さらに私は、赤根豊くんの奥さんも呼んでおいた。いざという
とき、女性の「わあ、これいい!」ぐらい強烈な必殺技は、ウル
トラマンのスペシウム光線よりも確実で破壊力がある。
 準備万端。作戦完了。
 あとは赤根豊くんに「ダメ!」といわれたときに、ダダをこね
るだけである! けっきょく最後は幼稚じゃん。

 それにつけても、私は先々週のすぎやまこういち先生ご夫妻の
京都新マンション購入に触発されて、新居ほしいほしい病に思い
切りかかっているのだ。
 工藤投手も、江藤内野手もほしいとダダをこねる長島監督とち
っとも変わらないわがままだなあと思う。
 しかし<晩年は海の側で>というのは、子どもの頃からずっと
思い続けた私の夢だ。
 私は夢のことになると貪欲だからねえ。
 断るはずの来年のゲームを1本OKしてしまおうかなとさえ思
っている。

 午後9時45分。ひかり157号。1日3本しかない熱海に停
車する新幹線ひかり号にうまいこと間に合うことができた。
 なんとこのひかり号に乗ると、わずか34分で熱海に着いてし
まう。近い! 私が原宿の自宅から、杉並区上井草の歯医者さん
に行くより近いのだ。まいったね、こりゃ。

 車中、戸田圭祐と『さくま式東海道五十三次』の仕様書のチェ
ック。いろいろ検討して、もう少し手を入れることにした。けっ
こう本格的なゲームに近い作り方になってきてしまった。いちば
んそういう風にしたくなかったのは、私なのに。
 これから見るリゾートマンションがほしいせいか、ゲーム作り
につい力が入ってしまったようだ。
 われながら単純な男だと思う。男はみんな単純だけどね。
 
 午前10時19分。熱海駅着。
      ひさしぶりの熱海。駅前が小さい。以前よりさらに縮んだよう な気がする。若い子がいない。おばちゃんの含有率が高い。  やっぱり熱海はかつて栄えて、今は古ぼけた町のイメージが強 い。駅前の「アタミックス」とかいうビルに入る。  天井の低いお土産屋さんが並ぶ。  もちろん活気などというものはまったくない。  熱海は、予想以上に重症である。  町ぐるみで活性化させれば、いくらでも復興の道があるのだろ うけど、中途半端に交通の便がいいばかりに、最大のピンチを迎 えてないるので、本気で生まれ変わりたい意識が薄いようだ。  その証拠に、どのホテルの看板もみんな汚れたまま。外壁を塗 りなおすこともしていない。これじゃどうしようもない。  やはり一度完成された町は滅ぶしかないのだろうか?  駅前の温泉まんじゅうと魚のひものばかり売っている名店街を 抜けて、裏通りの坂道をだらだら降りて、海に出る。  さすがに海はいい!  潮の匂いもきつくなく、雲ひとつない青空が広がって気持ちい い。遠くに熱海城が見える。なんでも個人が観光用に建ててしま ったお城らしい。
海はいいのお
      午後12時。熱海駅の上にある山の上に、車は向かう。  パサニアホテルに隣接するパサニアクラブと呼ばれるリゾート マンションに到着する。  ここが北岡さんの別荘である。  森に囲まれた山の斜面に豪華なマンションが立ち並ぶ、巨大ホ テルのようなところだ。マンションの最上階に着くのだ。  受け付けが、27階。  若い女性が常駐している。  気さくな管理人さんがひとりでないところが、すでにマンショ ンと思えない。  日本映画でいうと、津川雅彦さん以上の俳優さんが出てくるよ うなイメージだ。しかも『金環食』といった政治映画ね。今なら 『腐食列島』か?  北岡さんの部屋に連絡して、エレベーターに乗ることに…。  ん? ん…。まてよ…。ここは27階。  北岡さんの部屋は9階。 嫌な予感がする。 確か日本で初めて山の斜面を走るエレベーターが付いていると か聞いていたぞ。  2分後、嫌な予感的中!  これは断じて、エレベーターという名称ではない!  間違いなくケーブルカーである!  むしろゴンドラである。  ごく一部の私の熱狂的なファンには伝説化されていることだが, 私は高所恐怖症という言葉では言い尽くせないくらい、高いとこ ろダメ男である。  飛行機はもちろんダメ。ジェットコースターは、小学校に上が る前に乗ったのが最後。デパートのシースルーエレベーターは目 をつむって乗る。東京タワーは小学校3年が最後。  夜景の見えるホテルのレストランは必ず外を背にして座る。  テレビ塔には絶対登らない。  ロープウェイなどもってのほか!  登山電車もダメ!  つり橋は渡らない!  その私が今、エレベーターと呼ばれるケーブルカーに乗ろうと している。乗るしかないから、乗る。  おお、ベンチがひとつついている。  しかしゴンドラからは、遠く遠く熱海の海が一望できる。 みんな「わあ、きれい!」というが、私は「うわわわわわ…」 である。  まっさかさまに落ちて行くように、27階分のエレベーターの 先が見えるそうだ。見えるかどうかなど私が確認するわけがない。  エレベーターが動き出す。
      早くも私の顔が、すぎやまこういち先生に会ったときの戸田圭 祐のように強張る。膝から下がすーすーし始める。  目を閉じてみるが、ガラス張りの天井に日が差し込む様が、目 を閉じていてもよくわかる。この明るい日差しがまた高所恐怖症 にはつらい。 「思ったより、揺れないじゃないか」と言いたいのだが、唇が固 まっていて、言うことができない。  おそらく私は今、SF映画の交通機関のようなところにいるん だろうなあ。  エレベーターはゆっくりゆっくり山の斜面を降りて行く。  9階まで長い道のりだ。私には。  ぷしゅ〜。到着。  北岡さんの奥様がわざわざエレベーターの前まで迎えに来てく ださった…のはうれしいのだけど、恐怖にこわばる顔をばっちり 見られてしまった。  足をふらつかせながら、北岡邸へ。
まいった〜!
      嫁とグルメ・バカ娘が「すご〜い! うわ〜! きれい! す ご〜い!」を連発させながら、北岡邸に入って行く。  確かに、熱海というよりギリシャとかエーゲ海にある白い家の ようなマンションである。  北岡さん自慢の家具が見事なこと。  エレベーターに恐怖した私に代わって、今度は戸田圭祐が戦慄 (わなな)く番だ。  あまりに豪華な室内に、すっかりへっぴり腰で歩く。  頬がぴくぴく震えている。
似合わない戸田圭祐
      バルコニーが広い!   熱海の海が一望できる。  遠く初島も見える。
 しばらくして、赤根豊夫妻、すぎやまこういち先生ご夫妻が到 着。全員揃ったところで、「プティ・ポワン」のオーナー・シェ フである北岡さん自ら、バルコニーでバーベキューの用意を始め る。バーベキューをやることは聞いていた。  しかし用意された食材には、真っ赤なウインナーが無い。ピー マンの肉詰めが無い。紙のお皿が無い。ガスボンベが無い。  ガスボンベではなく、炭があるではないか。  炭どころではない。  骨付きのラムがある。殻つき生ガキが大量にある。フランスパ ンがある。ハンバーグがある。ハンバーグになにやら薄い皮のよ うなものが付いているぞ。  すぎやまこういち先生が「驚いたね〜。下ごしらえ付きのバー ベキューというのは初めて見たよー!」とおっしゃる。  戸田圭祐が声を発することができない、「ふん、ふん」と一生 懸命うなづいている。
ごちそうー!
      いやはや豪華なバーベキューだ。  サラダまである。うわっ。サラダのドレッシングの美味しいこ と! 甘い! 甘いドレッシングなんて初めてだ、しかも上品!  私とグルメ・バカ娘が大好きなトウモロコシが焼けた。  炭でついたおこげの部分の美味しさよ!
北岡ご夫妻のこの手際!
      ハンバーグは今までどのお店で食べたどのハンバーグよりも美 味しい! 昨日松坂牛のハンバーグを残したほとどきなグルメ・ バカ娘が、ふにふにうれしそうにこのハンバーグをパクついてい る。情け容赦のないガキだ。
目がはなせないみんな・かまわず食べるガキ
      肩を縮めてちょこんとイスに座って食べている戸田係長が「わ てがこんなに幸せでええんやろか…。ええんやろか…」とつぶや き続けている。わかるぞ、その気持ち!
      みなさん、11月1日のマツタケ・ツアーとおなじような笑顔 の連発だ!  北岡さんがよく切れる包丁で、フランスパンをざくざく切って、 パテのようなものを塗りたくる。
北岡シェフ
      海老とかイカをすり身にしたものに、シイタケとかいろんなも のが入っている。豪勢なサンドイッチだ…と思ったら、このフラ ンスパンを焼いてしまう。こんな食べ方初めてだよ。  バーベキューというのは、大雑把な調理法のほうが合うのかと 思っていたけど、やっぱりバーベキューでも何でも、手間のかか ったものが美味しいに決まっていることを再確認する。
すぎやまご夫妻・ん〜〜、美味しい ようやくシェフも食べられました
     「さくちゃん、この家いいねー、いいねー!」とグルメ・バカ娘 がケーキをねだるときとおなじ顔をする。  私だって絶対ほしい。だから無理やり赤根豊夫妻までつれて来 たのだ。でもなあ…。あのケーブルカーがなあ…。  おんや? 嫁とグルメ・バカ娘が、ひそひそ何やら赤根豊くん にしゃべりかけているぞ。  買わせようとしているなあ。  あのケーブルカーさえなければ、私だってほしいよ〜。  何かいい方法ないのかなあ。
赤根豊夫妻・さくま
      バーベキューが終わって、リビングで珈琲をいただく。  家具の豪華さに嫁が気づく。 「○○○麻布の家具だわ」とかなんとか言っている。  相当値段の高いソファーのようだ。  えっ? 1脚でiBookが楽に2台買えちゃうの? わははは。  どおりで妙に気持ちがいいと思った。  すぎやまこういち先生がそのソファーで午睡に入る。気持ちよ さそうだ。
      グルメ・バカ娘はひのきのお風呂がいいなあ、いいなあ、と言 い出して、とうとうお風呂に入ってしまう。あいつは探究心旺盛 だからなあ。熱海だから、もちろん温泉なのだ。マンションひと つひとつに温泉が付いている。さらに1Fには、室内プールまで ある。  グルメ・バカ娘がほっぺたを赤くしてお風呂から出てくる。  バルコニーでうっとりしながら、夕涼みをしている。  戸田圭祐がきょうは「ゴチになる会・大リーガー編ですね!」 という。うまいこというじゃないか!  でもワールド・シリーズ編だ。  午後6時。このままだとずっとここにいちゃいそうだ。  ひっきりなしに食べ物が出てしまう。  つい食べてしまう。  赤根豊夫妻が持ってきたメロンが、テーブルに出てくるときに は、とかしたアイスクリームがとろんとかけられて戻ってくる。  これには赤根豊夫妻のほうがびっくり!  うちなんか、お土産に持ってきたの、熱海名店街で買ったサザ エさんのビスケットだよ。  昨日東急百貨店本店で必死に何をお土産に持って行ったらいい のか悩みまくった。  ふだんなら美味しいケーキや、ボローニャのパンのひとつも持 って行けば、どの家庭でもぶったまげてくれる。  でも「プティ・ポワン」の北岡さんのところにケーキを持って 行くなんてのは、自分が描いた漫画を池上遼一さんにプレゼント しに行くようなものだ。  さて、本当に帰って仕事をしないとやばい!  17日からの九州旅行のためには、今夜しっかり仕事しておか ないと、九州に行けなくなってしまう。  すぎやまこういち先生も仕事がまだ残っているそうだ。  グルメ・バカ娘が寂しそうな顔で、パサニアクラブを後にする。 未練たらたらなのだ。でもそれ以上に父が絶対高い所はダメなの を子どもの頃から見続けている。大人になったら、旦那さんに買 ってもらいなさい。そんな旦那探すのどれだけ大変なことか…。  午後7時20分。すぎやまこういち先生ご夫妻、わが家族、赤 根豊夫妻は、こだま426号で、東京へ向かう。  戸田圭祐は、大阪へ。熱海駅でみんなと別れる。最後まで「こ んなに幸せでええんやろか…」という顔をしている。たぶん戸田 圭祐は大阪駅に着くまでずっとあのうれしそうな顔を続けている んだろうなあ、ひとりで。  車中、赤根豊くんと、今後のお仕事の計画を練る。  あっというまに東京駅に着いてしまう。早すぎる。  午後8時10分。東京駅着。  午後9時。帰宅。  幸せ気分が覚めないまま、『さくま式東海道五十三次』の仕様 書の手直しを開始する。  日刊新聞のように放送作家の福本岳史くんから電話が入る。  本当に九州対馬にいるそうだ。あれ? 確か日帰りで福岡のは ずでは? なんと無理して夜行フェリーで壱岐にも寄って、対馬 に行ったせいで、交通の連結が悪く、対馬から帰れなくなってし まったそうだ。  とても悪くて、きょう1日のおいしい生活を福ちゃんにいうこ とができない。福ちゃんがまだモバイルしていなくてよかった。 対馬でこの日記読んだら怒るだろうなあ。  ああ、きょうはもっとうまいこと、熱海の出来事を書きたかっ たけど、美味しいもの食べっぱなしで、うまくまとまらない。私 がこれほどとっちらかってるってことで、きょうの夢のような大 人の遠足を察してね!  
 


11月15日(月)


 朝から『さくま式東海道五十三次』の仕様書の最終手直し。
 嫁に仕様書をプリント・アウトしてもらうと、直したい箇所が
見つかるのはいつものこと。

 午前10時。工務店の人がいる。私が九州に旅行しているあい
だに、玄関にドアをつけてもらう予定。北海道の二重玄関みたい
なものだ。私が住んでる1Fはとっても寒い。

 午後12時。ヤングサンデーの石川亨くんと、西森真木さんが
来る。私にとっては、西森真木さんは、元レッド・カンパニーの
山田真木ちゃんで、世間の人には、週刊少年サンデー『今日から
俺は』『天使な小生意気』の作者・西森博之さんの奥様というほ
うが通りがいい。

 その私にとって、山田真木ちゃんが、女の子の赤ちゃんをつれ
て遊びに来てくれたことがうれしいやら、歳月の経つのは早いも
のだと、感慨もひとしおだ。
藍(あい)ちゃんと
      少しずつ昔話。どんちゃんが今や、井沢どんすけという名前で 週刊少年ジャンプの読者ページをやっていて、若者から尊敬され る時代だというと、大爆笑する。どんちゃんの間抜けな下積み時 代を、真木ちゃんはよく知ってるからね。  でも日本最初の内閣総理大臣である伊東博文さんだって、明治 維新の頃は、下っ端でこき使われていたのだから、世が世なら、 どんちゃんだって、総理大臣…ちょっと話が飛躍しすぎて、ピン と来ない。  真木ちゃんの旦那は売れっ子漫画家さんなので、昨日の日記を 見せて、北岡さんの熱海のマンションを勧める。勧めて行くうち にだんだんまた私がほしくなってしまった。1日経ったら、あの エレベーターへの恐怖心が薄らいでしまっているようだ。おっと、 エレベーターとまで言ってしまった。断じてあれはケーブルカー である。  嫁の誕生日プレゼントにマンションを買ってあげよう!なんて いうと、かっちょいいなあ!  午後12時30分。みんなで青山「穂積」に行く。ひさびさの 真木ちゃんだもん、やっぱり青山「穂積」に行かなくちゃ。 幸いお店のほうも、1歳の赤ちゃんもいっしょでかまわないと言 ってくださった。ふつう「穂積」のような上品なお店は小さい子 お断りがふつうなのだ。たぶんお店側の好意だろう。  どっちみち真木ちゃんの子どもはおとなしかったので、ちっと も心配はいらなかった。それより「穂積」の料理長さんが、何か と赤ちゃん専用の料理を作ってくれるのが、すごいなあと思うと 同時に申し訳なかった。  食後、再び自宅に戻って、歓談。  真木ちゃんのおっちょこちょいなところも、昔のままで、まん まと『さくまあきらの正体』の出版記念パーティを、もう本が出 たと思い込んでいた。  いつもジーンズにラフな格好をしているので、近所のおばさん にアパートに住んでいると思われていた話も爆笑だ。私も26歳 で一戸建ての家を買ったとき、訪問販売のおばちゃんに「お父さ んか、お母さんいる?」と言われたことがある。 「いることはいますが…」 「いつ頃帰ってくる?」 「ここには住んでませんけど…」 「お兄さんかお姉さんは?」 「お姉さんは横浜に…」  という会話をしたことを思い出した。  もっともっとしゃべりたいことはたくさんあったのだが、九州 旅行を前に仕事がみっちり詰まっているので、切り上げないとい けないのが残念。  午後3時30分。南青山のパパス・カフェに行く。  土居(土居孝幸)ちゃんと、ムサシノ広告の伊東正義と、待ち合 わせ。『さくま式東海道五十三次』の仕様書を元に、イラストの 打ち合わせ。長年のコンビだから、打ち合わせが早い。  日記を読んで来た、土居(土居孝幸)ちゃんがしきりに熱海のマ ンション購入を勧める。どうも怪しいと思ったら、「来年の花火 大会に行かせてよ!」だって、このちゃっかり者!  土居(土居孝幸)ちゃんはいつもこういう調子だ。 「だったら、土居(土居孝幸)ちゃん、もっと仕事いっぱいやって くれよ!」 「う〜ん。それはまいったなあ!」    午後4時30分。インデックスさんに行って、『さくま式東海 道五十三次』の本格的な会議というより、本当に完成までまった く時間が無くて、あげくに私が明日から九州旅行にでかけてしま うので、一発勝負の会議なのだ。  思ったより複雑なゲーム内容にしてしまったために、ちょっと 難航。iモードのゲームのキーレスポンスの勘がまだつかめないの で、どういうセーブ方法がいいのかといった問題について悩む。 たぶん今までiモードでこういうゲームはまったくなかったので、 どんな感触になるのか私にも想像できない。  一応、ゲームボーイでやっても楽しいレベルのものにしてみた。  このまま順調に行けば、12月1日から、加入できるのでお楽 しみに。  そのために、なんと土居(土居孝幸)ちゃんのイラストのダメだ しを、旅行中に、このVAIOに伝送して来て、やりとりをするこ とに。かっこいい〜。本当にできるかな。ちょっと不安。イラス トのダメだしはたぶん九州から電話でだろうな。わっはっは。  午後7時。グルメ・バカ娘を呼び出して、表参道の「宇明家(う めいや)」に、土居(土居孝幸)ちゃんと嫁と4人で入る。  ここの餃子はときどき無性に食べたくなる。  食後、神戸のアンテナ・ショップで、土居(土居孝幸)ちゃんに ケーキをゴチになる。土居(土居孝幸)ちゃんといっしょだと、つ い甘い物を食べてしまうよー!  午後8時30分。帰宅。  嫁に九州旅行の荷造りをしてもらう。ほとんど修学旅行にでか ける子どもと母親の関係である。下着に名前を入れてもらわない といけないかな。下着は全部横浜ベイスターズのTシャツだから、 名前を入れる必要すらない。  新作『桃太郎電鉄』と、秘密のゲームのアイデア出し。  きょうこそ早く寝ないと、旅行にでかける前にすでに体力ゲー ジは低くなっている。
 


11月16日(火)


今朝の仕事が早いので、昨夜は午前0時には寝たのに、2時間
ぐらいですぐ目が覚めてしまった。
 一度起きたら眠れないので、先日途中まで観た『ロスト・イ
ン・スペース』の続きを鑑賞する。悪くは無いんだけど、全部ど
こかでやられてしまった手法ばかりなので、何だかかわいそう。
ゲーム業界でいうと、けっこうがんばってCG作ってるのに、超
大作のCGと比べられて、パッとしないとか言われてしまうパタ
ーンだな。
 最後まで見て、また寝る。

 午前8時。眠い! こんなに早く身支度してでかけるなんてこ
とは20年ぶりぐらいだ。いつも朝寝て、お昼頃起きる生活だっ
たからなあ。
 眠いけど、こんな時間に起きられる自分が不思議だ。

 午前9時。この時間にTBSに到着である。『有限会社 桃太
郎商店』の録音があるのだ。ものすごく早い録音だけど、私の九
州旅行行きに合わせてもらっているので、実はみなさんには申し
訳ない。
 九州対馬から帰ってきたばかりの放送作家の福本岳史くんがあ
わてふためいている。愛用のMACが壊れたそうで、台本を印刷
できない。必死にいつもの台本を切り張りして、加筆して、1本
の台本にしている。
 常人よりも広大なほっぺたに、不精ひげがたくさん生えている。
 福本岳史! 売れっ子作家奮闘中!でございますのー!

 アリtoキリギリスの石井正則くん、石塚義之くんが到着。吉野
紗香ちゃんも到着。この録音はいつも2週間置きなので、ちょう
ど毎回春休み明けに登校するクラス仲間みたいな感じで、この2
週間どうしてた?という会話から入る。
 前回iモードを買おうかなと言っていた吉野紗香ちゃんがもう
購入していて、いろんな人にメールを送ったのに、石塚義之くん
だけから返事が無かったといって、ぷんぷん怒っている。必死に
言い訳する石塚義之くん。
 ほとんど会話が高校である。吉野紗香ちゃんは本当の高校生だ
けど。

 朝から笑いっぱなしのこの番組は非常に疲れる。
 案の定1本目の録音で、みんなが話題を出しすぎて、相当カッ
トしないといけないことになってしまった。
 2本目はみんな気をつけたので、珍しくほぼ時間どおりに録音
が終了。
 この番組も、もう30数回目の放送になるという。早いものだ。

 午後12時。赤坂「ミコレ」で、嫁とハッシュド・ビーフにコ
ーヒー。まあ、いわゆる喫茶店の味だ。

 午後1時30分。東京駅。ここで嫁と別れる。
 きょうから1週間ひとり旅といいたいところだが、明日からこ
の日記で、もはやグルメ・バカ娘よりもやたらと登場する、戸田
圭祐日通係長と合流する。
 まあ、きょうのところは「はじめてのおつかい」みたいなもん
だ。
嫁から旅行用のカートを引き継ぐ。最近はやりのガラガラ滑車
を転がしていくタイプ。これは楽チンだ。
 しかし新幹線の改札口で、キップを入れてすぐカートを転がし
て、すばやく通り抜けるのは、まだ手足の不自由な私には難しい。 
しばらく考えてから、お尻から改札のあの機械に入って、キップ
を入れて、そのまま後ろ向きのまま進む方法を考案。
 なんなく通り過ぎることができた。
 けっこうおもいつくものだ。

 午後1時56分。のぞみ17号。
 昨日あまり寝ていないし、『有限会社 桃太郎商店』の録音で
へばったので、少し寝ることに。
 
 気がついたら、静岡を過ぎ、ちょうど掛川駅だった。けっこう
寝た。さっそく今回旅行中のメインのお仕事、新作『桃太郎電
鉄』のアイデア出しを始める。
 まあまあ順調。まず思い切り斬新なアイデアを出す。
 この斬新なアイデアを少しずつ熟成させていく。
 だからきょう出たアイデアが次回作に登場するかどうかはわか
らない。3〜4年後に登場するかもしれない。

 午後4時10分。京都着。旅行用カートはけっこう快適。ただ
ひとりで歩いているので、このカートを持ったままトイレに入る
のはちょっとねえ。とくに駅のトイレは汚いから考えものだ。
 荷物がひとつ増えるだけで、ずいぶんと旅の局面が変わるもの
だ。

 午後4時30分。京都のマンションに到着。
 しばらく休んで、インターネットで九州各地の予習を始める。
 博多から久留米まで特急だと30分ぐらいなので、朝早く博多
を立つと、有名な久留米ラーメン屋が開く前に、久留米にたどり
着いてしまう。これは問題だ。
 今回アバウトには、どこへ行くと決めているけど、半分以上は
行き当たりばったりの予定である。
 できれば『電波少年』のチューヤンみたいに、「あそこに行っ
たらいいよ!」というメールがほしいものだ…と言っても、私の
メールアドレスは公開してないからなあ。
 私の憩いの場としてめったに公開していなかった戸田圭祐の掲
示板のところをつかうとするか。最近ほとんどの人に戸田圭祐の
ホームページはバレてしまったしな。
 私も戸田圭祐も、九州でモバイルする予定なので、頻繁に掲示
板に書き込むことができる。というわけで、九州に関するメール
を戸田圭祐の掲示板までちょうだい。
 戸田圭祐のホームページへは、なかむら治彦くんのところから
行ける。なかむら治彦くんのところも読んでね。

 午後6時。御池地下街のパン屋さん「カスケード」で、モルト
くるみパンを買う、最近京都に来ると、まず最初にやることはこ
こで、このくるみパンを買うことだ。
『桃太郎電鉄』の京都の物件に、くるみパン屋と入れたいくらい
だ!

 そのままこのあいだからずっと、見失っている木屋町三条下ル
の「紅虎餃子房(べにとらぎょうざぼう)」を探しに行く。我なが
らしつこい性格だと思う。
 きょうはしっかり住所を暗記してから来たので、間違えようが
ない。あった、あった。
 なんのことはない。竜馬通りと木屋町通りがぶつかった角の3
Fだった。
 おなじみ棒状の鉄鍋餃子に、鶏と高菜山芋土鍋ご飯。
 もちろん東京のお店とおなじ味である。
 さすがにきょうは杏仁豆腐までは食べない。
 実は1週間の旅行にでかけるというのに、うっかりウエストの
きついズボンをはいてきてしまったのだ。だから体重を増やすわ
けにいかない。
 ただでさえ、九州旅行中は各地で『桃太郎電鉄』の物件探しの
ために試食、試食の連続で太ってしまうから気をつけないといけ
ない。

 午後7時。京都のマンションに戻る。
 再び、インターネットで九州各地の予習。
 さてさて、明日からどんな旅になりますことやら。
 


11月17日(水)


 京都のマンションで起床。
 午前10時。京都駅伊勢丹デパート。地下の食料品売り場で、
京都の老舗料亭「和久傳(わくでん)」のお弁当を買う。新大阪か
ら合流する戸田圭祐と新幹線のなかで食べるためだ。
 早く京都駅に着きすぎたので、観光案内所などで紅葉情報を観
たりして、時間をつぶす。
 午前10時50分。それでもまだ新幹線が到着するまで20分
以上あるけど、血液A型の性格は心配性だから、つい早めに改札
口に入ってしまう。そしていつものように、東京方面、岡山・博
多方面と書かれた電光掲示板を見る。
 私が乗る新幹線は、のぞみ7号。午前11時12分、京都駅発
だ。戸田圭祐は新大阪から午前11時28分乗り込んでくるはず
である。まるで西村京太郎さんの十津川警部シリーズみたいな書
き出しでしょ?

 ひかり、ひかり、こだま、こだま…。
 おや? 私が乗るはずののぞみ7号が表示されていない。
 JRも入力ミスをするんだなあ。
 よっぽど駅員さんに教えてあげようと思ったが、それじゃまる
で鉄道マニアのクレームみたいなのでやめる。
 博多方面のエスカレーターに乗る。

 午前10時55分。まだ17分もある。もう一度下に戻って本
屋さんでも覗くかな…と思った瞬間、アナウンスが!
「新幹線のぞみ7号は、新横浜で車両故障を起こして、1時間以
上遅れております…」。
 おいおい! そげなベイビー! 九州旅行初日からそれは止め
てくれよ! 天皇賞スタートと同時に落馬みたいじゃないか!
 どうなるんだい!?
「のぞみ7号は、新横浜で車両点検中なので、新幹線のぞみ7号
にお乗りのお客様は午前11時00分発のひかりに乗って、新大
阪で乗り換えてください…」。
 なんじゃそれは?
 事態がよく飲み込めないないなあ。
 とにかく言われた通りにしてみるか。

 午前11時。ひかり号に乗る。駅弁持って、VAIO持って、い
つものカバン下げて、カートを転がすことで精一杯の私に車両故
障を慮(おもんぱか)る余裕は無い。
 その後の車内アナウンスによれば、午前11時28分に新大阪
発のぞみ7号を臨時発車させるという。
 なるほど。うまいこと考えるなあ。これなら新大阪からのぞみ
7号に乗る予定のお客さんには、まったく支障をきたさないわけ
だ。JRは頭いいなあ。
まてよ! ってことは、私が午前11時すぎに京都駅のプラッ
トホームに上り、午前11時12分発ののぞみ7号を待っていた
ら、臨時発車ののぞみ7号に乗れなかったってことじゃないか! 
ふんぎゃあ! たまたま私が10分以上も早くホームに上がった
から助かっただけじゃないか! ふつうホームには5分前ぐらい
に上るもんだぞ! 京都から乗る予定だった人のほとんどが乗れ
なかったんじゃないか!?

私なんか、こののぞみ7号の座席番号で、戸田圭祐と待ち合わ
せだから、乗れなかったら、その誤差は、遠く九州小倉駅まで尾
を引く大トラブルに発展してたじゃないか! うひょ〜。
我ながらいつも通り運のいい男だ。 

 午前11時20分。新大阪着。新幹線のなかからこのトラブル
は戸田圭祐に連絡しておいた。
なのに、私がのんきに新大阪駅のホームからVAIOでこのこと
を戸田圭祐の掲示板に書き込みをしていたばかりに、私が見当た
らず、気の小さい戸田圭祐は、必死に私の携帯に電話を入れよう
として、嫁の携帯に間違って電話をしていた。
 さすが戸田圭祐。狼狽の達人である。狼狽させたら日本一であ
る。そんな言い方無いけど。

 午前11時28分。新大阪駅をのぞみ7号は定刻通り発車。
けっきょく何事もなかったのだが、戸田圭祐はあわてふためい
て、早口になっている。遅れたら遅れたでいいではないか。旅は
トラブルの多いほうがおもしろい。
ただでさえふたりとも旅なれているから、破綻が無くておもし
ろくないのだから。
こういう波乱の幕開けは望むところだ。 
とにかくお弁当を食べさせよう。
案の定、すぐ戸田圭祐は落ち着いた。

戸田圭祐に車内コーヒーをゴチになったあと、新作『桃太郎電
鉄』のアイデア出し。以前から出ていたアイデアを戸田圭祐に話
し、その反応で内容を変えて行く。
またたくまにノートが20ページ以上埋まっていく。
大漁だ! 豊作だ! 

午後1時35分。小倉駅着。
小倉駅南口に降りる。えっ? こんなに大きかったっけ、この
駅? でかすぎるぞ! あれ? モノレールの駅まで出来てる! 
そうか。前に来たのは、15〜6年前だ。毎年博多には来ていた
けど、小倉はずっと来ていなかったもんなあ。
駅ビルが出来ていて、ステーションホテルまで建っている。 まったく昔の面影がない。 10年に一度は『桃太郎電鉄』の物件駅を全部廻らないといけ ないかもなあ…。 駅の物産館で、新しい特産品をチェックする。 イカのぶっかけ、じんだ煮といったところをチェック。 とにかく買いまくって、東京の自宅に送る。 午後2時15分。小倉城に登る。私と戸田圭祐は無類のお城好 きだから、お城とあればどこでも登る。 このお城は細川忠興さんのお城だ。 細川忠興さんというと、細川元首相の祖先であり、細川ガラシ ャ夫人の旦那といったほうが有名かもしれない。
お城というと、その歴史に頼って、天守閣まで登れば、それで おしまいというものばかりなのだが、小倉城は手が込んでいる。 1Fからして、帆船のデッキの上のようなセットが組まれてい て、パノラマで小倉城下を眺められるような趣向がこらしてある し、からくりシアターもあるし、天守閣には売店もある。途中階 には、観光地だとおなじみのお殿様とかお姫様の顔だけくり抜か れた看板が設置されてあるんだけど、これがおもしろい! あのくり抜き看板というのは、写されて写真になってみないと 本人にはどんな風に写ったかがわからないものなのだが、鏡がつ いていて、どんな風に写るかわかる仕掛けになっている。
     どれもこれも小粒ながら、よく出来ている。 有名なお城が企業努力をしなさすぎることが浮き彫りになるよ うな一生懸命さが伝わってくる観光名城である。 午後3時。小倉城内に新設された「松本清張記念館」に行く。 小倉では絶対ここに来たかった。文筆業の鏡だったような人だ。 これがまたすごい! 東京浜田山にあった、松本邸を移築、復元している。 なかに入って見ることはできないのだが、壁を透明なガラス張 りにしてあって、あの膨大な資料が眠る書庫が見えるようになっ ている。これは圧巻だ! 時間がたっぷりあったら、ガラスに顔を押し付けて、1日じゅ うここで目を輝かせていることだろう。 こういう書庫を作るのが夢だった。 ふと、戸田圭祐と「もしも私さくまあきらの記念館が建った ら?」という会話になる。 モンブランの万年筆で描かれた松本清張さんの直筆原稿が展示 されている。 私の場合、全部ワープロだから趣がない。『ジャンプ放送局』 の直筆原稿もこのあいだ処分したばかりだ。残しておいたとして も、ほとんどが「おならプー」「えのっピドゥー!」と書かれた 間抜けな原稿だらけだ。 私も全国の物産資料なら、重さにして100キロ以上集めていた。 しかしこれも先日処分した。もはやインターネットで調べられ るし、情報が最新だ。 膨大なアイデアも全部iMacに入れてしまっている。 ちっとも記念館らしくならないという結論である。 ゲーム作家の記念館って、無理かもね。 でも堀井雄二くんは直筆の原稿が多いから、記念館ができるか。 そんとき隅っこの4畳半ぐらいのところに私のスペースを作って もらって、私の部屋を再現してもらおうかな。 コンピュータと横浜ベイスターズ・グッズしか無い部屋だけど ね。みっともねー! ってなこといってると、宮路一昭くんから電話が入って、仕事 の話ついでに『ドラクエ』の年末発売が延期になったというニュ ースを教えてくれた。ってことは、12月最大受注数のゲームは 『桃太郎電鉄V』になるそうだ。ふ〜ん。どうもこういうことに 疎い。実感が無いからなあ。 確かに例年より、やたらと攻略本や研究本も出版されるから、 今回の『桃太郎電鉄V』はかつてない動きをしている。 でもこうして次回作を練ってる私は、どうも時間軸がずれてい る。  話を「松本清張記念館」に戻す。 記念館の地下で本を売っているので、黒田官兵衛について書か れた文庫本を買って、さらに「清張」と刻印されたトートバッグ を買ってしまった。ちょっと見に「清張」と読めない文字で格好 いい!  ここは絶対もう一度来たい! 午後3時51分。小倉駅に戻り、門司港行き普通列車に乗る。 午後4時10分。門司港駅着。
戸田圭祐が「正しい終着駅の作りしてまんなあ!」とつぶやく。 何本も鉄道路線が走っていて、ちょうど櫛のようになった終着駅 は美しい。 15〜6年前に来たときに、すでに大正時代のような古ぼけた 建物がいくつもあったのだが、近年この建物を増やして、門司港 レトロ街として売り出しているようだ。 駅を降りた時点では、以前来た時とさほど変わらなかったのだ が、しばらく歩くと、函館とか小樽みたいに見事に整備された美 観地区に変貌していた。  またまた10年以上来ないと、町はすっかり変わってしまうの だなと、あわてさせられる。 アインシュタイン博士が宿泊したホテルが再現されていたり、 レンガ造りの建物でたくさんの海産物やら、お土産品を売ってい る。
桟橋やはね橋まであって、少し歩くと、戸田圭祐が「こういう ところは女の子と来たら、ええ感じですねえ…」とつぶやく。 しばらく歩くとまた戸田圭祐が「あ〜〜〜…」とため息をつく。 ちょうど1年前ぐらいに戸田圭祐は離婚した。 男のほうがよく未練が残るものだというが、その通りになって いると思いがちだが、戸田圭祐は独身時代から、こういうロマッ チックな場所に来ると、この言葉をつぶやくのはお約束だったか ら、そんなに痛手にはなっていないはずである。 むしろ、先日の熱海の北岡邸といい、今回の旅行といい、幸せ すぎる最近のほうにとまどっているそうだ。 『桃太郎電鉄』の取材に戻る。  お土産品屋で格好なものを見つけた。 「バナナようかん」。  いかにも『桃太郎電鉄』の物件名に出てきそうな名前でしょ?  これが食べてみると、まさにようかんよりもバナナの味のほうが 勝っていて、美味しいから不思議。  門司港は昔から輸入の港だから、バナナが東南アジアからたく さん入って来ていたのだ。バナナの叩き売りの発祥地でもあるよ うで、口上のCDがそこらじゅうで売られていた。  観光の目玉にバナナを据えようとしているが、まだまだフグの ほうが多い。フグというとどうしても下関のほうがイメージが強 いから、もう少しバナナでがんばるといい。  このレトロ美観地区は絶対お勧めだ。  ぜひともカップルで訪れたい。  門司港レトロホテルもよさそうだよ。  午後5時18分。門司港駅から小倉に向かう。  このあたりから左腕がモーレツに痛くなってくる。  なれない土地で緊張しているせいか、不自由な左腕の筋肉が縮 んでいるようだ。5階建ての小倉城に登ったのもけっこうこたえ ているようだ。足も痛いし…。初日からちょっと飛ばしすぎだぞ。  午後6時。小倉駅から新幹線ひかりで博多に向かう。  午後6時30分。博多駅着。  グランド・ハイアット・ホテルに入る。  このホテルで、プロスペックの江口貴博くんと待ち合わせ。  江口貴博くんは、明日の私たちの取材に同行して、それを12 月16日小学館から発売される『桃太郎電鉄V』の攻略本に収録 する予定。取材の取材という不思議な取り合わせ。  午後7時30分。博多に来たら、絶対行かないといけないのが、 中州にあるイカ料理のお店「河太郎」。  桃太郎チームは何が好きって、この「河太郎」ぐらい好きなお 店は無い。博多の物件で、イカ料理屋が毎回臨時収入から消えな いのは、このお店があるからなのだ。  この日記をずっと読みつづけている人には、あの榎本45歳と いっしょに来たとき、このイカが時化で食べられなかったあの因 縁のお店だ。  なにしろ私は20年間毎年このお店に通っていて、イカが食べ られなかったことが無いのだ。なのに榎本45歳といっしょに来 たときにかぎって…。  きょうもちゃんとイカは出た。  関あじの刺身から始まって、イカの刺身。さらにこの刺身の足 の部分を天ぷらにする。この天ぷらが天にも昇るような味なのだ。  日頃「やわらかくないもの食にあらず!」と断定する戸田圭祐 がこの天ぷらを食べたら、どうなるか楽しみだった。
 さあ、戸田圭祐が食べる。 「うむむむ…」と言ったきり黙ってしまった。しかるのち笑う。 まだ声を発せず。10秒ほどして「うま〜〜〜い!」と語尾が思 い切り上がる。
 そうだろ。そうだろ。  このイカは絶対みんな驚くのだ。  本来イカをそんなに好きではないグルメ・バカ娘がここのイカ の天ぷらだけは、ばくばく食べる。  あの面倒なことが大嫌いな土居(土居孝幸)ちゃんが、福岡で仕 事というと断らないのは、このお店があるからだ。  このお店では、イカをクリスタルと呼ぶ。  新鮮なイカだから、真っ白でなく透明で透き通った色をしてい る。だからクリスタルと呼ぶのだ。ここでクリスタル寿司という のは、イカのお寿司である。これも食す。  最後に、あらの煮付けも食べる。  あらの煮付けのたれの甘さが何ともいえない。
 このお店ではいつも食べ過ぎるので、きょうこそ少食にと思っ ていたのだが、まったく歯止めが利かない。  しかもこのお店は、小学館さんのおごりになってしまった。  では恒例の「小学館さんはいい人だ!」×12回。IN博多。  あとで体重計ったら、やっぱり太っていた。やばい。  でもたぶんイカのせいではなく、バナナようかんだと思う。  午後9時。ホテルに戻り、明日の予定を3人で討議する。  初日から飛ばしすぎたので、明日は控えめにしようということ に。久留米行きを中止して、日田、湯布院だけにすることに。  正直言って、何ヶ所も速攻で廻ると、この日記を書く時間が長 くなって、寝る時間が無くなる。夜遅くなると、テレホーダイの 時間にぶつかって、東京に送信が難しくなる。悪循環だ。  もっと行く先々をじっくり描写したいんだけどなあ。  まあ、これは創作ノート用のメモだと思ってね。  それじゃ、また明日。
 


11月18日(木)


やっぱり旅先は眠れんですのー。 
 夜中に何度も起きた。たまたま読んだ『ロボットに遊んでもら
う本』(河出書房)がおもしろくて、最後まで読んでしまった。
 いつもの睡眠薬『おくのほそ道』にすればよかった。

 午前9時。グランド・ハイアット5Fの「なだ万」で、朝粥定
食。メンバーは、プロスペックの江口貴博くん、戸田圭祐、私の
3人。
ここの朝粥は、お粥にとろみをかける京都の「瓢亭(ひょうて
い)」風で美味しいので、このホテルに泊まると必ずここで食べる
ことにしている。
午前10時。あたふたと博多駅に向かう。 いつもなら駅の物産売り場の焼きたての松露まんじゅうを食べ るのだけれど、乗りたい特急の発車時間までわずかしかないので、 断念する。恒例の儀式が満たされず、ちょっとくやしい。 午前10時22分。ゆふいんの森3号。 鉄道マニアなどにおなじみの列車なんで期待していたんだけど、 これががっくり! 先頭車両の風貌こそ、鉄仮面のように勇壮だが、なかに入ると、 通路は狭いし、無理やりフローリングにして、床を高くしている ものだから、狭苦しい。 天井のライトも下品。
電車が走り出すと、女性がマイクを持ってあいさつする。 スチュワーデスのつもりだろうが、どう見ても、バスガイドさ んの雰囲気に近い。マイクがいかにも、バスのもの。 その解説を聞いていると、3号車の端に、アート・ギャラリー を開設しているそうだ。何でわざわざそんなものを! う〜む。困った。 『桃太郎電鉄』の作者としては、一応覗いておかないといけない だろう。どんな風になってるか、ほとんど予測がつくだけに気が 重い。そんなひまがあったら、ゲームのアイデア出しをしたい。  荷物を見ていないといけないので、私がまず行って、江口貴博 くんが写真を取りに来て、交代で戸田圭祐がデジカメしに来る。
 見てのとおり、銀行の隅で開催されているような展覧会である。 わざわざこんなスペース作るくらいなら、まんが喫茶にでもした ほうがよかったんじゃないか?  だいたい駅に近づくと、『戦場のメリークリスマス』の出来そ こないみたいな曲を流すのがとっても下品。  しかもずっと小鳥の声を流したかと思うと、イージーリスニン グのようなジェットストーリームのような、メロディがずっと流 れている。  車内販売の人が狭い通路をやたら往復して、何かと商品を買わ そうとする。駅に停まらなくても、電車が近づくと、車内アナウ ンスで町の解説を始める。へ〜と思っても、電車は停まらないの だ。 「田主丸(たぬしまる)は、フルーツの里と呼ばれ…」。  ああ、こんなうるさい電車は初めてだ。  ただでさえディーゼル車なので、本当に騒音的にうるさい。  グリーン車も無いし。  今回九州を半周するにあたって、戸田圭祐が九州グリーン車乗 り放題という周遊券を見つけて来た。  しかも2万円とちょっとという格安さが、戸田係長っぽい。  それはいいと買いかけたが、ふと思い出した。  グリーン車乗り放題はいいが、九州にグリーン車は何台ぐらい あるんだ? すでにもうグリーン車がなかったぞ。新幹線のグリ ーンはダメという規定だし。  けっきょくほとんど九州にはグリーン車なんか走ってないんじ ゃないか! あやうくだまされるところだった。  車中、江口貴博くんも加わって、新作『桃太郎電鉄』のアイデ ア出し。貧乏神をリモコンで操ることができないかというアイデ アを江口くんが出して来て、あの場合、この場合と、いろんな局 面を検討する。けっこうやつは手強い!  午前11時40分。日田(ひた)駅に到着。  駅前がまったく栄えておらず、ちょっと失敗したかなあという 気分。駅舎もみすぼらしいし、駅のホームもいかにも『思えば遠 くへ来たもんだ』の世界である。
 その分遠くの景色がどんどんきれいになっていく。  おそらく日田杉なのだろう。  日田杉を利用した、日田の杉下駄が名産だ。  タクシーで豆田(まめだ)町並み地区へ行く。  町のほんの一角にすぎないのだが、こぢんまりと整備されてい て、ちょっとした観光地になっている。
「天領日田資料館」を見る。  日田は江戸時代、天領だったところで、農民一揆が激しかった ところだ。確か白土三平さんの不朽の名作『カムイ伝』が、日田 と書かずに、日置(ひおき)郡という名前で、この町を舞台にして いたと記憶しているのだが、白土さんの「し」の字も、この町に は出てこない。私の記憶違いだったのだろうか?  あれほどの名作だ。「カムイ伝の町」として、売り出してもい いくらいだと思う。勘違いかな。  少ししかない観光スポットはけっこう充実していて、江戸時代 の商家風の喫茶店とか、醤油や味噌を売るお店が多い。  そのうちの一軒のお土産屋さんで、いろいろ日田ならではの物 を物色。この町では「どこから来ましたか?」とみんなが気軽に 話し掛けてくる。このお店もそうで、ついつい旅の理由を「変な 名前の品物を探すことだ」と白状してしまう。  するとお兄さんは一生懸命になって、これはどうですか? あ れはどうですか?と次々に品物を出してくる。  そのなかにあったのが「かぼすこんこん」。  お漬物なのだが、「かぼすこんこん」という名前がいかにも 『桃太郎電鉄』に登場してくれと言わんばかりの名前なので、」 みんなで大爆笑する。しかも試食したら、おいいしい!  ほかにもキュウリをこんにゃくで巻いた、かっぱ巻きも美味し かった。お兄さんが次々に試食させてくれるので、こっちも一生 懸命買う。  富有柿(ふゆうがき)ようかんも美味しかった。 「この富有柿(ふゆうがき)ようかんは、お値段安くなってるんで すよ」とお兄さんが急に言い出す。何でだ?と思っていると、そ の店のまん前に、ようかんで有名なお店が出ているからというで はないか。なんとまあ正直な。  ちょうどきょうはそっちのお店はお休みの日だった。確かに観 光ガイドに必ず載っているお店だ。
 でも土産物品にそんなに差があるはずがなく、気持ちよく買わ せてくれるお店が何よりだ。  午後12時。豆田町並み保存地区にタクシーを呼び、「奉公う どんのお店まで」と告げる。  運転手さんが首をひねる。 「ご奉公(ほうこう)の奉公うどんです!」というと、「ああ!」 と言って「泰公(たいこう)うどんですね!」とうなづく。  し、しまった。 「奉公うどんと、泰公うどん!」。  大した違いは無いと思うかもしれないが、「奉公うどん屋」な ら『桃太郎電鉄』の物件に登場できるが、「泰公うどん屋」では、 ただのうどん屋さんの屋号である。  とてもお店の名前を間違えたからいいですとは言えないし、た だでさえこのタクシーは予約して来てもらったものだ。 「泰公うどん屋」さんに行くことにする。 
 そのお店は、お昼時ということもあるのだろうが、びっくりす るぐらい超満員。そんなに人口があると思えない場所でこの混雑 ぶりはすごいものがある。  戸田圭祐と江口貴博くんは、肉うどん。  私はゴボウ天うどん。  ちなみに、かけうどんが350円という信じられない値段。  しかし味のほうはもっと信じられないくらい美味しい!  期待していなかったせいもあるのかもしれないが、とにかくス ープが甘くて、それでいて、さっぱりしている。  こんな美味しいうどんはめったに無い。  食後、地図を見ながら、日田駅まで歩こうとするが、どうも方 向が違うような気がする。戸田圭祐に町の人に聞きに行かせる。 なんと、この「泰公うどん屋」さん。ほかにももう一軒あって、 私たちはそっちのお店を出たつもりになって、右左を考えていた のだ。早期発見でよかった。これがずっと気づかなかったら、次 の電車にも乗り遅れたはずだ。  天気もぽかぽか気持ちいいので、3人でのんびり駅まで歩く。  途中、江口貴博くんが、不動産屋の看板を見て、2000万円 とちょっとで、600坪の土地という売り地を見つけてよろこぶ。 せこいことにかけては天才的な戸田圭祐が、この600坪に家を 建てて日田から毎日、博多に通うという夢想を始める。実際バス で日田から博多までは、1時間20分以内。  東京なら十分通勤圏だ。電車だとぐるっと廻って来たから遠い けど。  けっきょく「戸田圭祐が独身のまま、600坪の家に住んで、 博多に通勤してわびしくないか?」というオチになって、話は終 了する。  午後1時43分。日田駅、ゆふ3号。  ますます電車がボロくなる。  車中、江口貴博くんが、テープを回して、12月16日小学館 から発売される攻略本『桃太郎電鉄V』のインタビューを始める。 電車のなかで取材されるという設定が気に入る。 湯布院までの1時間、びっちり『桃太郎電鉄V』について語る。 午後2時43分。湯布院着。
駅前はごくありふれた温泉地の景色だ。 私はもっと高級なハイソサエティの人たちしか来ない、別荘地 のような町を想像していた。 ただ駅前からまっすぐ見える、由布岳はりりしく、天に向かっ てこぶしを突き上げているようで格好いい!
まずは宿泊予定のホテル「Y」に向かって歩き出す。 実はまだ「Y」に予約を入れていない。 旅行先のホテルというものは、実際にこの目で確かめてみない ことには、とんでもないところに泊まるはめになってしまう。 昔、金沢の駅前観光案内所で紹介された旅館は、行ったら、屋 根はトタンで、錆が浮いているようなとんでもない旅館で、思わ ず逃げてしまったことがある。 こういうパターンで、消毒薬の匂いがぷんぷんするような旅館 に泊まったり、ベッドのマットがへこんでいるホテルとか、今ま でにも相当ひどい目に会って来ている。 だからきょうのこの「Y」も見てから予約しようと思っていた。 2年前に建ったばかりというのは、けっこうグッドなポイントで ある。老舗旅館にかぎって、値段は一流、部屋は独房、天井低く、 廊下はワックスの匂いがぷんぷんなんてことが多い。 結論から書くと「Y」とイニシャルしているように、泊まらな かった。確かに新しいけど、どう見ても民宿か、個人宅のようで ある。 湯布院という町も、全然垢抜けていなくて、パチンコ屋が目立 つような町並みで、ちっとも風情がない。 これがあの噂に聞く、湯布院か? どうにも逃げたいオーラがぶおおおおおっ!と発生し始めた。 バスターミナルを見つける。 これがもう廃墟寸前のような建物。 場末の温泉地そのものの景観しか見えない。 いったいどこに「湯布院」たる、温泉地があるのか? TVの高級旅館の特集に出てくる旅館よいずこ? 江口貴博くんは、攻略本の締切りで、昨日博多に来たばかりだ というのに、きょうじゅうに東京に戻らないといけない。次の電 車でまず博多に戻る予定だ。 よし! せめて何かひとつぐらい湯布院を見よう。 見るとしたらここと決めていた「ハーブワールド」に行く。 インターネットで調べたときは、何やらとってもおしゃれでハ イカラな場所だった。 午後3時20分。ハーブワールド。 ハーブ園というのに、温泉が湧き出ていて、露天風呂まである。 露天風呂のある植物園って、下品な感じしない? その下品さ 丸出しの場所であった。 いよいよ湯布院に抱いていた、ドリーミングなイメージがガラ ガラと崩れていく。 名物のハーブパンひとつを3人で割って食べて、ハーブワール ドの取材終了。
午後3時40分。そのままタクシーで、江口くんを湯布院駅ま で送って行って、私と戸田圭祐はそのまま、別府に向かう。 江口くんがせっかくわざわざこんなところまで取材に来てくれ たんだから、きょうはハウステンボスかなにかにすればよかった かなあと反省しきり。  まあ、『桃太郎電鉄』の取材旅行は、このように地味というの はわかってもらえたけど。 とにかく私は落胆しているやら、へばっているやらで、とても また電車に乗って行きたくない。しかも別府まで、車で30分と いうではないか。もう車大好きっ! タクシーは、由布岳の裾野を走る。 この景色は最高! 雄大という言葉がいちばん似合う。 一面なだらかな裾野に、すすきが生えているだけ。大きな森や 林もない。道路も急カーブがなく、大きく大きく遠回りしながら、 由布岳を登って行く。これは気持ちいい! ドゥービー・ブラザーズの曲が似合うような景色という書き方 をして何人の人がわかるかなあ。 午後4時。わずか20分で、別府で狙いを定めておいたホテル 「芙蓉(ふよう)倶楽部」に到着する。 もちろん、運転手さんには、気に入らなかったら、そのまま別 府の温泉街まで走ってほしいといっておいた。 外観からして、申し分ないので、チェックインする。 「芙蓉倶楽部」は、別府からはかなり離れた山のほうにあって、 まるで女性客のためのようなきれいなホテル。  夕食にフランス料理が出るそうだ。  まるで『釣りバカ日誌』のスーさんと浜ちゃんのようなコンビ には似つかわしくないホテルだけど、とにかく快適。  明日、国東半島を一周するので、このホテルに連泊することに したぐらい気に入った。とにかく落ち着くのだ。ここでちょっと HPを回復しておきたい。
 


11月19日(金)


昨日泊まったホテル「芙蓉倶楽部」は本当によかった。
 フランス料理は「プティ・ポワン」の味になれた舌でもかなり
レベル高かったし、温泉がとにかく気持ちよかった!
 お肌すべすべなんてひさしぶり。大浴場にひとりで入れるよう
になったことも、私のように手足が不自由な人には大前進!
 こういう風に成果が出ると、人間リハビリに励むものだ。

 ぐっすり眠れて、午前7時起床。
 戸田圭祐がいない。しばらくネット・サーフィン。
 嫁からのメールも受け取れるようになった。
 田舎者が急速に都会者になっていくみたいだ。

 午前8時30分。朝食。
戸田圭祐は、朝から温泉に入っていたそうな。昨日も2回入っ
ていたというのに。さすが食べ放題とか、取り放題、○○放題と
いう言葉に弱い関西人である。
朝ご飯
 このホテルは朝食も美味しい。  私が大好きな温泉たまごも出た。しかも黄身の部分が十分固い のがいい。味噌汁がとくに美味しかった。  ますますこのホテル気に入ったぞ。部屋でVAIOするときの テーブルの高さがちょうどいいのも、評価が高くなるポイントだ。  しかもフロントの女性が頭がよくて、愛想がいい。  すっかり戸田圭祐はお気に入りのようだ。  もともと何回か別府を訪れているのだが、日本最大の温泉地の のくせして、いいホテルが無いのだ、本当に。 だから年々、私の足はどんどん遠のいていって、ここ15年ぐ らい別府に来ていなかった。  おそらく「旅のベスト100」を選んだとしても、別府は入れ なかったと思う。でもこの「芙蓉(ふよう)倶楽部」のせいで、ベ スト100の圏内にいきなりチャート・イン! 50位ぐらいま でに上昇しそうな勢いだ。  旅の印象なんてものは、こういうちょっとしたことで簡単にイ メージというものは覆ってしまうものだ。  朝食がすむと「コーヒーはいかがですか?」とホテルの女性が 聞いてくる。これまた見事なタイミングだ。 戸田圭祐が「おお!」とつぶやく。 コーヒーを飲んでいるいるうちに「そういえば戸田圭祐、別府 駅からの電車の時間は何時があるんだっけ?」と私が聞く。 「へ〜。午前9時35分に、にちりん4号があって、次はその1 時間後です」。 えっ? 今、午前9時8分! ちょっと無理だなあ。 「やってみますか?」と戸田圭祐。  そうだな。間に合わなかったら、別府の地獄めぐりでも見れば いいわけだしな。失敗もまた楽し。  フロントでタクシーを呼んでおいて、部屋に戻り、片付ける。 連泊なので、大きな荷物は置いて、VAIOといつものカバンを 持って、タクシーに乗り込む。  駅まで20分ぐらいというから、無理かなあ。  現在午前9時15分。20分だと、午前9時35分。びったり すぎる! まだキップも買っていない。不自由な私の足では、階 段は駆け上れない! 本当にぎりぎりでも3分はほしい。  …という願いが伝わったのか、道がすいていて、わずか10分 で別府駅に着いてしまって、タクシーの運転手さんのほうがびっ くりしていた!  午前9時35分。別府駅。にちりん4号で、宇佐(うさ)に向か う。いよいよ今回の旅のメイン、国東(くにさき)半島めぐりにチ ャレンジするのだ。  国東半島を「くにさき半島」と読める人は少ない。  このあたりの地名は、本当に読めない名前が多すぎる。  杵築。日出。安心院。玖珠。耶馬溪。  読めっこないよね。  一応正解を書いておく。 杵築(きつき)。日出(ひじ)。安心院(あじむ)。玖珠(くす)。耶馬 溪(やばけい)。 大分県がもうひとつメジャーになりきれないのは、この地名に あると思う。 電車は日豊本線を走る。 山がまろやかだ。柔らかい山の稜線が続く。紅葉する木ではな いのだが、きれいな緑色が続く。 九州はやっぱり山がきれいだ。 日豊本線は単線ではなく、複線なのだが、不思議な路線だ。 ところどころ、上りと下りの線が平行ではなく、遠ざかったり、 近づいたりするのだ。遠いところなど、数100メートルも離れ る。いったいこれはどういうことなのだろう。鉄道マニアなら知 っていることなんだろいうけど。 私の推測では、実は複線というのはウソで、鈍行列車用の線路 が1本、特急電車用の線路が1本のような気がする。 特急用の線路をできるだけまっすぐなレールにするためっだっ たんじゃないか?  誰か答えを教えてほしい。 午前10時07分。宇佐駅着。 宇佐はローマ字にすると、「USA」になることで有名な町だ。 ついに一度も外国に行ったことのない男・さくまあきらがいよい よUSAに降り立った瞬間である。
うさ
駅前でタクシーを拾い、宇佐神宮へ。 このあと国東半島をぐるっとタクシーで回るつもりなので、な るべく感じのいい運転手さんに当たりたいものだ。 だからこうして、まず宇佐神宮に向かう。 向かっているあいだに、国東半島の話をして、商売熱心かどう かを探る。しかしこの若い運転手は無口で、無愛想だった。 午前10時30分。宇佐神宮に着く。 感じの悪い若い運転手とはここでお別れ。残念でしたのー。若 者よ! とってもいいお客さんを逃しましたぞー。ふおっふおっ ふおっ。
宇佐神宮
宇佐神宮って、広いねえ。こんなに広いと思っていなかったと いうより、この宇佐神宮については、まったく知識がなかった。 最近『ほんのチョイ係』のほうで、邪馬台国の場所として有名と いうのを聞いて、へ〜と思ったくらい予備知識がない。 まず、お土産屋さんで、「宇佐飴」を買う。 どのお店でも売っているからだ。 ごくあふれた七五三の千歳飴みたいな味だ。
宇佐飴
大きな鳥居に向かって、お土産品屋さんが並んでいるので、じ っくり見ていく。これが『桃太郎電鉄』のいちばんの取材方法な のだから。 やっぱり、かぼすを使ったものと、シイタケのものが多い。 「どんこ椎茸」という文字とその袋をよく見かける。  お店の人に聞いたら、シイタケの最上級品を「どんこ」という そうだ。  参道の砂利道は私の足にはつらい。  まず宇佐神宮宝物館に入る。  建物の前の池のハスが枯れていて、非常に汚かったのだが、夏 場には、ハスが咲き乱れてさぞかしきれいなことだろう。何でも 原始ハスという種類だそうで、ピンク色の花が咲くそうだ。夏に 来たらよかったと一瞬思ったが、夏の暑い盛りに、この長い参道 はつらいような気がする。  宝物館で知ったのだが、この宇佐神宮は、伊勢神宮につぐ第二 の宗廟(そうびょう)として、崇敬されているという。  宗廟(そうびょう)って、どういう意味だかわからないんだけど、 あの伊勢神宮につぐってことは、巨人でいうと、松井ではなく、 高橋、横浜ベイスターズでいえば、ローズではなく鈴木尚典なん だから、そりゃあすごい。  しかもこの神社の分家が、岩清水八幡宮とか、鶴岡八幡宮とい うのだから、またまたすごい。 これはちょっと勉強不足もはなはだしすぎたようである。 和気清麻呂(わけのきよまろ)の大きな大きな木像まであった。 もう1回この辺の日本史を読み返さないといけないな。 さらに参道を歩く。 ひ〜〜〜、ついに始まった。砂利道で終わりだと思っていたら、 石段。足のほうはもうそんなにあわててリハビリしなくていいま でに、回復してるんですけど…。 戸田圭祐にへばる姿を撮影されつつ、なんとか総本社へ。 やっぱり疲れたよ。
石段
戸田圭祐は、えんむすびのお守りを買う。 せっかくだから、そのお守りを売ってくれた巫女さんといっし ょのところをデジカメしてあげようと思って、シャッターを押し たら瞬間、巫女さんはちょうど下を向いてしまった。 戸田圭祐、早くも縁結ばれず。
縁結び
午前11時50分。まだ午前中。 宇佐神宮の入り口まで戻って、太陽タクシーという会社の営業 所に向かう。ここで話し好きの運転手さんを紹介してもらおうと いう作戦。 着いたとたん、ひとりの運転手さんがしゃべりかけてくる。気 さくな人だ。もうこの人に決めた。 貸切りにしてくれるそうだ。 メーターで走ると、3万円のところを、1万5000円で回っ てくれるという。これは安い。 いざ、出発! しかし、またしてもこれから行く国東半島は、難読地名の連発。 しかも読めそうで、正しく読めない地名ばかり。 真木大堂(まきだいどう)。 熊野磨崖仏(くまのまかいぶつ) 両子寺(ふたごじ)。 富貴寺(ふきじ)。 こういう読めない地名が観光客が来たくなくなる原因だと思う。 熊野磨崖仏(くまのまかいぶつ)なんて、「熊野まがい仏」とひ らがなを入れただけでずいぶんと印象が変わるはずである。 午後12時23分。まずは真木大堂(まきだいどう)に行く。 国の重要文化財が9体もあるようなんだけど、入り口の由緒の 看板が漢字だらけなので、入るのをやめる。 お土産屋さんで、かぼすようかんを試食。 かぼすの渋い味が、天然ぽくっていい。 プロスペックの江口くんが、湯布院でも見つけたといっていた、 かぼすようかんである。「ようかんラリーカード」なんてどうで すか?と、江口貴博くんは言っていたけど、緊張感の無いカード だなあ。 午後12時30分。熊の磨崖仏(くまのまがいぶつ)着。 石段を登っていくと、岩壁に仏様が彫ってある、いちばん国東 半島らしい景観だそうだ。 でもここの石段は相当きついそうだ。 何でも100段あって、鬼がひとつずつ石をかついで登っては 石段にしていって、ちょうど100段目のとき、鳥が鳴いたのに 驚いて、100段目の石をかついだまま逃げたという伝説が残っ ているという。 100段かあ。 どうしようかなあ? でも私も50歳が近づいている。 今回やめると、たぶん次が無いまま終わってしまいそうだ。 けっこうこのところ安土城跡とか、石段には強くなってるから、 行くか! 山道を登っていく。 いきなり杖が用意されているのは便利だ。 でも石段登るだけなのに、お金取るのか? 木を平行に渡した山道だ。まさか石段はもっと先? もう十分きついぞ。 途中に、ほこりをかぶりまくって、錆びた自動販売機が放置し てあった。こういうのをそのまま放置しているのが腹が立つ。観 光地としてそのネームバリューにあぐらをかいていると思う。企 業努力をしてほしい。 …などという苦情をいいたなあどころではないものが、目の前 にせまって来た! しこたま疲れた足に、垂直に天に向かって積み上げられている 100段の石段が見えて来た。 上から降りてくる人たちが「本当にきついですよー!」と言い ながら降りて来る。ここまで来てやめるのもしゃくだしなあ。 でも宇佐神宮の砂利道で疲れ、途中の山道でもう相当疲れてい る。行かなきゃいかんだろな。 行く。
磨崖仏2
ぎょえ〜〜〜〜〜! なんじゃこりゃあ〜〜〜〜〜! い、い、石段が平行でない。切り出した大きな石を無造作に置 いただけだ。右足を降ろすと、左足を置ける場所が見当たらない。 ほとんど登山だよ、これは! 私は緊張すると、左腕が縮んで痛くなる。 もう完全に痛い。 それどころか、ロッククライミング状態に入っている。 危ないよ、本当にこの石段は! 雨の時は一体どうするんだ? だんだん腹が立って来た。 すれ違う程度の幅のある石段のように思えるが、実際はごつご つした石段のせいで、足場が無いから、けっきょくはすれ違うこ とができず、どちらかが横にずれて、退避するしかない。 完全に頭に来た! 苦行だか何だか知らねーが、こんなのは観光地じゃない! 観光バスを通すぐらいなら、旅行代理店も少しは考えたほうが いい! 2度ここを訪れた人のデータを集めたことがあるのか? 最近大流行の『買ってはいけない』の旅版『行ってはいけな い』という本を私が上梓するとしたら、絶対ここが巻頭を飾るこ とだろう! 熊野磨崖仏(くまのまがいぶつ)。 熊野まがい物と、改名したほうがいい!
磨崖仏1 磨崖仏3 断念〜〜〜!
午後1時。登頂。 まだ上があるようだけど、私は断念する。 戸田圭祐だけ行く。しかしさらに上のところにはお堂がひとつ あるだけだったそうだ。 そういう案内板もない。  不親切きわまりないところだ、ここは!  切り立った岩壁に確かに、大日如来と不動明王が彫られていた ようだが、どうでもいい。  問題は下りだ。  坂道は上りよりも、下りのほうがつらい。  案の定、怖い。  まっさかさまに落ちて行くようだ。  下りのほうが、さらに足場が見つからない。  団体客が登ってくる最悪のパターン!  鬼が運んだ石段だから、舗装するわけにはいかないのだろう。 だったらバイパスを作ればいいじゃないか!  舗装された道路のほうはご利益が少ないとでも何でも言えばい いじゃないか!  午後1時30分。常人なら30分で往復のところを1時間もか かってしまった。 もっと言いたいことはたくさんあるのだけれど、きょうはまだ これから本当に長い。少しでも先を急ごう。 予定を変更して、富貴寺(ふきじ)と両子寺(ふたごじ)だけにする。 やっぱり熊野磨崖仏で時間を食いすぎた。 富貴寺で売ってた柿を試食したら、めっぽう美味しかったので、 東京に送る。私が帰ってからも食べたいので、発送は3日後ぐら いからにしてもらった。
富貴寺の柿
柿を売ってたおばちゃんたちと話し込む。 柿は、血圧を下げるのにいいんですよという。 へ〜、それは知らなかった。 私は果物のなかでいちばん好きなのが、柿だ。 だとしたら、今後柿を食べるのは、血圧を下げるための立派な 大義名分になるじゃないか! こりゃいいやと思ったのも、つかのま。 柿を売ってるおばちゃん、ふたりとも血圧が高いというではな いか。柿のご利益はないんかい! 午後2時30分。両子寺(ふたごじ)。 境内のカエルの石造が妙にかわいい。
両子寺カエル
戸田圭祐が、大分空港のホバークラフトの乗船時間が午後3時 25分にあると言い出す。またかい! すでに午後2時40分。 これはさすがに時間ないぜっ。 ホバークラフトはまだ一度も乗ったことがない。 愛知県の知多半島だったかで、タッチの差で乗れ遅れて、乗れ なかったのが20年前。嫌なことを思い出した。 例によって、めざすだけめざしてもらう。 まるでふだんの仕事状況のように、時間に追いまくられてるな あ。ちょっとハードすぎるぞ! でも、ホバークラフトに乗れば、別府に早く着くことができて、 地獄めぐりを見ることができる。 さらに戸田圭祐が不吉なことを言い出す。 「ホバークラフトって、海の上を浮きながら走るわけやから、飛 行機やおまへんか?」。 飛行機? 飛行機! 飛行機は、私の前では禁句だということは知り尽くしてはずだ ろうが、戸田圭祐! おまえは何10年間さくまにあを続けている んだ! 飛行機が嫌いだという話をし始めたら、千夜一夜だよ! みんな聞きたい? やめたほうがいいよ! とにかく私の飛行機嫌いは、さくまにあだったらほとんどの人 が知ってると思うけど、知らない人にひとつだけいうと、私は一 時期ハドソン札幌まで、10日置きに、電車で通っていた。以 上! で、戸田圭祐のホバークラフト飛行機説。 何だか急に不安になって来たじゃないか! おっと、車のほうは間に合うのかいな。 午後3時20分。大分空港に着く。あと5分しかない! もう 無理だ! しかもホバーフェリー乗り場の文字が目の前にあるの に、どこから乗ることができるのかわからない! 私がタクシー代を払っているあいだに、戸田圭祐がキップを買 いに行くことにする。たぶん買えないだろう。 お金を払って、私も走る。 あいかわらず走るというより、跳ねるように駆け足になるだけ だが…。 戸田圭祐が見当たらない。あと2分しかない! 携帯に電話す る。エスカレーターに乗るらしい! 必死に跳ねながら走る。た だでさえ膝が笑うほど疲れているのに、これはつらい! どうせ間に合わないんだから、ゆっくり行くかな。  まあ、少しでも可能性があるかぎり、がんばってみるか。  何回かエスカレーターを乗り換えて、おおっ! 戸田圭祐が 今まさに乗船券を買い終わっているではないか! でも、時間は午後3時26分。ダメだったのか。 「変なんですわ、乗船時間は午後3時30分らしいんですわ!」。 いつ変わったんだ。まあ、いいよ、何でも!  おかげで、ホバークラフト飛行機説を考える余裕なく、乗り込 むことができた。  えっ? ホバークラフトって、海上を行くのに、何で地面の上 にいるの? 飛行場のすみっこにいる。エンゼル5号という間抜 けな名前が胴体に書いてある。  海の上にぷかぷか浮いているんじゃないのか!
ホバークラフト
 プロペラがぶふぉふぉーーん!と、大きな音を立てている。  ふわ〜〜〜と、胴体が浮かぶ。  ちょうど飛行機が滑走路を走り出していくみたいだ。  やっぱりホバークラフトは、飛行機か?  アナウンスで「これからホバークラフトは横滑りしながらすす で行きますが、安全ですのでご安心ください」。  そのもってまわったわけのわからない言い方が嫌だなあ。  一体横滑りって、何だ?  おおっ! 本当に横滑りしている! 萩本欽一さんの欽ちゃん 走りだ、これは!  戸田圭祐とふたりで笑い転げる。  あまりにも間抜けだ。四輪ドリフトというよりも、欽ちゃん走 りのほうが似合う。  空港の隅から、ばふ〜〜〜んと、海上に出る。  なるほどこうやって海に出るのか。変なの。  心配だった飛行機説は、怖くない。  どうも私は昔水泳部だったという、まったく根拠の無い自信か ら船とかはかなり揺れても平気なのだ。  しかも何より、運転席に計器類が少ないのがいい。  ジャンボジェットの無数の計器がいっせいに針を震わせている のを見ると、「おまえはそうまでしないと飛ぶことができないの か!」と怒鳴りたくなる。  ホバークラフトの運転席はどう見ても、バスの運転席にしか見 えない。  ようやくまわりを見渡す余裕が出てくる。  定員75名のところ、11人しかお客さんは乗っていない。  パンフレットを見る。  おんや? 大分に着く? へ? 別府じゃないの? 国東半島 でいっしょだった運転手さんもずっとホバークラフトは、別府に 寄って、その次に大分に行くって言ってたはずだぞ!  ぎょえ〜。私たちは大分に向かってしまうのか〜〜〜〜〜!  きょうの日記は長すぎるよ〜〜〜。  でも仕方ないよなあ。私がふたつを新境地を開拓してしまった からなあ。ひとつはホバークラフト初体験。もうひとつは初めて の外国旅行。宇佐だよ、宇佐(USA)。ギャグでも言わせてくれ よー!  午後3時55分。大分のホバー乗り場に着く。こっちはホバー クラフト専用の船着場だった。  ここからタクシーに乗り、別府まで戻る。  午後4時30分。予想以上に早く別府に戻れたので、別府地獄 めぐり、7つの池のうちのひとつ「海地獄」だけ見る。別府は町 全体が硫黄くさいが、ここはさらに臭い。  そころじゅうから噴煙があがっているのは、なかなか壮観だけ ど、観光地すぎるところが安っぽい。
海地獄
 午後5時。柴尾英令くんや吉良孝二くんからのメールで、スギ ノイパレスというところが、子どもの頃のあこがれだったという ので、よくわからないけど行って見る。  そうか。アミューズメントパークに温泉が付いているのか。子 どもの頃って、確かに温泉に家族で行くというのは、ビッグ・イ ベントだったらしいからね。  実は私は家族旅行というものをしたことが一度も無い。  母親は3歳のときにに、継母にいじめぬかれる『おしん』みた いな生活だったのでこういう機微がよくわからないのだ。  その反動で、今は家族旅行ばかりしている。  スギノイパレスも娯楽施設としてはいいけど、どうも美味しい 料理屋さんが無い。お土産売り場を覗いて、いくつか買ったあと、 豊後牛の美味しいお店をガイドブックで探す。  最近豊後牛の名声は上がる一方なので気になるのだ。  しかしなかなかいいところがない。  やっと見つけたお店に電話すると、「お客様の事情で電話をは ずして」いるそうだ! ばびょーん!  怖いぞ、その店!  別府は、とらふぐが採れることでも有名だというと、戸田圭祐 の目が輝く。案の定フグというものをほとんど食べたことがない そうだ。ならばフグにするか。  夜、豊後牛を食べるために、お昼ご飯を抜いたのだが、お店が 無いのでは仕方がない。  午後6時。別府がさびれまっている象徴のような別府タワーの そばの「ふぐ松」に行く。  ここは珍しいフグの肝を食べさせるお店。  フグの肝といったら、当たることで有名なところじゃないか!  食す。いかにもお酒のみが好みそうな味だ。  私は肝のたぐいが好きではないので、ピンとこない。  刺身はまあまあ、それよりふぐちりが美味しかった。かぼすを たらしたポン酢につけて食べるのがいい。
ふぐきも てっさ てっちり
 ぞーすいも美味しかった。でもこの普通コースで、7000円 という値段は、やっぱりふぐ自体が高いなあ。  7000円あったら、京都の「忘吾(ぼあ)」に行けてしまうも んなあ。まあ人によって価値観というのは違うからなあ。    午後7時。別府タワーの近くの「ロイヤルホスト」に入る。無 償にファミレスに入りたい気分になっていた。  旅先でファミレスというのは、けっこう落ち着く。  日本全国どこでもおなじというのは、こういう効用があったの かな?  午後8時。「レストランホテル芙蓉倶楽部」に戻ってくる。  戸田圭祐がデジカメの画像を送信しているあいだに、私は温泉 に入る。気持ちいい〜〜〜〜〜!  いやあ、きょう1日長い旅だった。  しか〜〜〜〜〜し!  私と戸田圭祐は今、本格的なピンチに立たされているのだ。  明日は高千穂を回って、阿蘇に泊まる予定だったのだが、阿蘇 のホテルが全部満室!  さらに遠くまで行って、熊本にと思ったら、ここも全部満室!  げげっ。じゃあ、博多まで戻れってか?  博多もみんな満室。  ピン〜〜〜〜〜チ!なんてもんじゃない!  最悪、京都まで戻らないといけないかもしれない。  いや、その可能性はきわめて高い。  紅葉シーズンの飛び石連休の土日は恐ろしいほど混雑している ようだ。このままだと新幹線も満員か?  いずれにしても、私と戸田圭祐、最大のピンチ!
 


11月20日(土)


 昨日までのあらすじ。
 九州旅行4日目。以上。
 そんなこといってる場合かい!!!!!
 
 昨夜きょう泊まる場所が決まらないまま朝を迎える。
 はっきりいって本当に路頭に迷っている。
 おまけに昨日あんな長い長い長い日記を書いたもんだから、ほ
とんど寝てない。ぼ〜〜〜〜〜!
 ずっとずっと毎日青空ばかり見て、いい天気なのに。
 心は闇の一歩手前だ。
 
 午前8時。2泊目の「芙蓉倶楽部」の朝食。
 この朝食の段階でもまだきょうの宿が決まっていない。
 予定では、別府→大分→延岡→高千穂→阿蘇と回るつもり。ま
るで『桃太郎電鉄』で、新幹線カードを使って、「行けるかな」
でひゅんひゅんひゅん!と大きく回るみたいだ。
しかし、阿蘇の先どこにも泊まれるホテルが無い。民宿では贅
沢なこの身体にはつらすぎる。民宿があるかどうかもわからない。
すでに相当衰弱してる。

 ピカッ! おっと、いいアイデアが浮かんだぞ!
 宮崎のシーガイアに泊まればいいんだ! こっちの新聞でもお
もいきり赤字1000億円以上という記事が載っていた。ちょっ
と遠いが、シーガイアなら泊まれるに違いない!
「それは、わてが電話してきまっさあ!」
 機敏に戸田圭祐が、電話番号を調べに行く。
 よく働く男だ。
 おっ。帰ってきた。
「あきまへん、満室でした〜。赤字のくせに〜!」
 ぎえええええっ! シーガイアもダメか。
 万事休す!
 西郷どんはついに城山で息絶えるのであった。
「もうここらでよか!」。
 人間本当にピンチに立つと、冗談ばかり浮かぶものだ。私だけ
か?

 戸田圭祐を前にして、ついにいちばんそうなってほしくない提
案をする。昨夜この「芙蓉倶楽部」の親切なお姉さんが、最後ま
でリザーブしている部屋なら、ひと部屋ございますが…といった
ことを言われていたのだ。
 でもそうなると、私が泊まって、戸田圭祐は路頭に迷うことに
なってしまう。
「ぜひそうしてください、さくまサン!」
「そうか、戸田圭祐。お国のために死んでくれるか!」

 かくて、私はもう1泊この「芙蓉倶楽部」に泊まることが決定。
戸田圭祐はきょうの大旅行の末、別府で露と消えるになったので
あった。
 まさか3連泊すると思わなかったよー。まいったなあ。
 芙蓉倶楽部の最後のひと部屋を断って、行く先々からホテルに
キャンセルはありませんかと、電話しまくるのはあまりにも心臓
に悪すぎる。
 わかってるホテルに戻るほうが、安心は安心だ。

 タクシーで、別府駅へ向かう。
 午前9時36分。にちりん4号。なんと! グリーン車はおろ
か、指定席も満員。1時間後のにちりんシーガイア6号も満員だ
という。
 隣りの大分駅からの指定席は無いのかと食い下がったのだが、
満員だという。この飛び石連休は本当に手強い。
 ついに自由席を待つことに。
 もしずっと座席が無い場合は、2時間以上立っていないといけ
ない。そんなことが今の私にできるだろうか?

 プラットホームで待つこと、30分。
 電車が入線してきた。
 おっ。空席がある。なんとか乗れて、座席も確保できた。
 いや〜、ピンチの連続は疲れる。
 
 やっと落ち着いて、秘密のゲームのほうのアイデア出しを始め
る。へばっているので、もうひとつ調子が出ない。
 車窓をながめると、日豊本線は地図だと海沿いを走っているの
だと思っていたけど、ほとんど森の中を走る。
 かといって景色が悪いわけではない。見事な青空に緑がきれい
だ。渓流の水もおいしそうだ。

 延岡(のべおか)に向かっている。
 別府から、約2時間ちょっとのわりには、あっというまに延岡
に着いた。後半アイデア出しがぐんぐん乗って来たせいだろう。 
 さすが社会科で、延岡工業地帯と習っただけに、大きな煙突が
並んでいる。
 なんでも旭化成の工業城下町なのだそうだ。
 日立とか、豊田市みたいなもんだな。

 午前11時52分。延岡着。ここでいよいよ高千穂鉄道に乗り
換える。まだ時間があるので、延岡の駅の外に出る。
 ちなみに高千穂は『桃太郎電鉄』シリーズでは、九州のどまん
なかの入りづらい☆印カード売り場だ。
 きょうはそこへ行く。
延岡駅
 発車まで、約30分ある。 「やっぱり旅に出たら、駅の立ち食いそばをたべないとな、戸田 圭祐! 全国各地で味が違うのだ」。 「へ〜。でも一応先にキップのほうを買っておいたほうがよろし いかと…」。  あいかわらず心配症の戸田圭祐である。  高千穂鉄道は、どうせ第3セクターのローカル線だ。座席指定 なんか無いのだから、のんびりおそばを食べてから行けばいい。 「でもやっぱり心配ですから…」。 「何が心配なんだろう?」。  まあ、キップを買えば戸田圭祐は納得するのだろうから、買い に行くか。  高千穂鉄道は、延岡駅のすみっこにある。  おやおや。さすが飛び石連休。けっこうお客さんが行列してい る。これじゃ、座れないかな? やだよ。こんなローカル線で立 ちっぱなしは!  げげっ! こ、こ…、これは、なんだ!  自動券売機に張り紙がしてある。ローカル線だなあ。故障して るのか。それでお客さんたちが行列して….ん? ん? 何だか 様子が変だぞ! お客さんたちが真剣な顔をして、駅員さんと話 し込んでいる。
おしらせ
 もう一度、自動券売機の張り紙を見る。 「お知らせ。本日、12時20分発の高千穂行きは運休致します (車輌故障の為)  TR延岡駅」  何が「お知らせ」じゃい!  なんじゃ、その「TR」っちゅうのは〜〜〜〜〜!  なんと、私たちが乗る予定の電車は走らないという。臨時列車 は出ないのか!   出ない!  ふにょにょほほほほほ〜〜〜〜〜?  そげなベイビー!  かんべんしてくれいっ! ただでさえ綱渡りの連続なのに、電 車に乗れないなんて!  どうやら1時間半後の電車は走るそうだ。  でもそれでは別府に帰り着くのが、夜中になって、本当に戸田 圭祐が路頭に迷ってしまう。それどころか私も別府まで戻れるか どうかわからなくなってしまう。  何たって、まだ高千穂から阿蘇を抜けて、さらにその先まで行 ってから、別府に戻る予定なんだ。無駄なピット・インはできね ーだよ!     …とここまで書いたところで、きょうはこれでおしまい。  この続きは、明日書かせてくれ!  疲れているし、眠い。  起きたらまたちょびちょび書いて、きょうの日記ごと推敲して、 完成原稿にする。  明日はそんなに派手な動きはしないつもりだ。  それじゃ!


…と書いた続き。  けっきょく、タクシーで行くことにした。バスでもいいのだが、 途中寄って取材したいところがたくさんある。  駅前の宮崎交通さんに行って、タクシーを1台お願いする。  俳優の八名信夫さんみたいな白髪の方だ。  やな川のあゆやな漁場を見る。  川をせき止める網のようなものだが、かなり大規模。天然のあゆ は今がシーズンらしい。あゆって、夏場じゃないの? 京都であゆ を食べると夏が来たなあというイメージなんだけど…。
やな
どうもこの運転手さんの説明が要領を得ないので、もうひとつデー タに信憑性がない。次々に曖昧な観光ガイドをする。 「延岡では、やなあゆと言います」 「やな漁のやなは、漢字だとどういう風に書くんですか?」 「ひらがなで、やなです」  どうも会話が噛み合わない。  道は渓谷のてっぺんを何度も何度も橋で繋いで、まっすぐに進ん でいく。一方高千穂鉄道のほうが、渓谷の低いほうを縫うように右 に左に蛇行しながら進んでいく。  もう何10回橋を渡ったかわらないくらいだ。  午後12時54分。道の駅「青雲橋」に着く。  子どもの頃とにかく地図帳を見るのが大好きで、意味無く日本国 中の地名を暗記した。
青雲橋
 そのなかでも、日之影(ひのかげ)という文字が格好よくて、あこ がれていた。なんだか忍者の名前か、日之影流剣法とでも名づける ことができそうだなあと子ども心に思っていた。  そんな日之影に、こうして40年かけてついにやって来た。  もちろん地名にあこがれていただけなので、何があるというわけ ではない。道の駅で買った、芋あんぱんが美味しかったなあで、 40年越しの夢は終了した。  昼ご飯を食べる時間がもったいないので、あんぱんひとつで次を めざす。  なおも車は渓谷を抜けていく。  きれいに舗装された道路で、快適。  ところどころ見たいところがあると、「止めてください」と叫ぶ のだが、どうにも運転手さんの反応が鈍くて、通り過ぎてしまう。 まずブレーキをかけてから「どこですか?」と聞く回路が無いらし い。  冗談でなく何100mもオーバーランしてから停まるので、けっ きょく「いいです」というしかない。  しかもときどき「あそこに高千穂鉄道が…」と語尾を濁してしゃ べるので、言われたほうを見る頃には高千穂鉄道は森の陰に隠れて しまう。  こういうやりとりの繰り返しにけっこうイライラする。  たぶん寝ていないせいもあるのだろう。  戸田圭祐は別に気にならないようだ。    午後1時30分。天岩戸神社に着く。天照皇大神が天岩戸におこ もりの際、八百萬(やおよろず)の神々が集まったという、あのあま りにも有名すぎる天岩戸神社だ。  手塚治虫さんの『火の鳥』で覚えた人も多いだろうし、あの天岩 戸で踊った女性が、ストリップの元祖だという不謹慎な覚え方をし た人も多い。  戸田圭祐は後者のようだが…。 神社のすぐそばに「岩戸小学校」というのがあって、なんだか笑え る。その天岩戸は、岩戸川の渓流の向こう側の岩壁にあって、12 0段もの石段を降りて行かないいけないというので「行ってはいけ ない」! 戸田圭祐だけ行くことにする。 軽快なフットワークで、走り去る戸田圭祐。 息も切らせず帰ってくるところは、さすが元山岳部なのだが、どう も天岩戸の説明はちんぷんかんぷんであった。元来説明が下手なこ とで名をはせた男であるから、こっちも気にならない。 天岩戸神社を見ることができたことは大きい。 高千穂鉄道だけで来たら、とても立ち寄る時間がなかったと思う。 午後2時30分。ついに高千穂に到着する。 道端に「たかちほ」と伐採された垣根のようなものがあった。
たかちほ
例によって「停めてください!」叫んで、何100mも進んでから バックする。 せめて「あれは、なんだ!」と叫んだ時点で減速することをそろそ ろ学習してほしい。 車輌が故障していなかったら、降りたはずの高千穂駅に行く。
高千穂駅
あいかわらず運転手さんは、駅へ行くのを嫌がる。 何も無いからなのだろうが、こっちは駅を取材するのが仕事なのだ。 駅にその町のすべてが集約されている。地方自治体の力がどのくら いなのか、その町の人たちの意識がどのくらいなのか、だいたい駅 を見ればわかる。 いい人にひとり出会えただけで、その町の印象はぐ〜んとアップす るものだ。 いよいよ高千穂を越えて、阿蘇に向かう。 ずっと前から、高千穂を抜けて阿蘇に行けるのではないかと推理し ていた区間を行くことができるだけで、わくわくする。 おお! 道の脇にトンネルが! しかもプラットホームが! しかしレールは無い! やっぱり地図に一点差線のように描かれたいのは、鉄道のトンネル を掘る予定だった場所か。いや、もうトンネルは完成していたのだ。 ここまで作っておいて、開通させなかったのかあ。何てもったいな いことを! 鉄道好きの私と戸田圭祐は感慨にふけり、ふたりで「もったいない、 もったない!」を連発する。せめて『桃太郎電鉄』で、阿蘇と高千 穂の区間を開通させてあげたいものだと会話する。 しかしふたりがこれだけ興奮して話しているのに、運転手さんは そのトンネルと駅の跡に停まってくれない。  まいったなあ。 ちなみにこの高千穂―高森間には、バス路線が走っているのだそう だけど、来年そのバスも廃止するという。 この辺のあたりの人はみんな車を持っているからだという。 昭和30年代生まれ以降の人は、みんな免許を持っている。それが 原因だという。そうか。バス路線は免許が無いお年寄りのための交 通機関だったのか。 やっと運転手さんが、へ〜とうなづけるような話をしてくれた。
風景
でもその後も「あれ? 間違えたかもしれません」と言いながら 一向にスピードを落とさないで突き進む。このパターンをなんとか してもらえないもんか?  とうとう「その辺で道を聞いたらどうですか」と言ったのだが、 聞いていないようだ。  そのまま走り続ける。  午後3時15分。何度も道を間違えながら、高千穂を越えて、つ いに南阿蘇鉄道の終点・高森駅にたどり着く。  ここは全国でも珍しい運転席がバスのハンドルみたいになってい る、レースバスなので、ぜひとも乗車したいところなのだが、今回 の旅行で絶対行かないといけない場所がまだ残っている。しかも夕 方がもうそこまで来ている。写真が撮れなくなる。  先を急ぐ。運転手さんもあぶなっかしいし。よっぽど高森駅で 「おつかれさま」と言おうとしたのだが、あと一箇所がいちばん大 事だし、残された時間が少なくなって来ている。実際このあとの目 的の場所に着いて、さらにその先の駅に午後5時26分までにたど り着かないと、別府に戻ることすらできないのだ。  1日に特急が4〜5本しか走っていない路線なんだな、これが!  しかも名前が豊肥(ほうひ)線。誰でも放屁線というギャグが思いつ くだろう。    おっと、ここで「ホテル芙蓉倶楽部」から電話が入る。  キャンセル客が出たので、戸田圭祐の分も取れるという。  もう阿蘇まで来てると、本音はふたり揃って熊本のホテルに泊ま りたいのだけれど、荷物を置いて来てしまっている。  それよりもしキャンセルが出たら、連絡してくださいといって、 ちゃんと電話をかけてきてくれる「芙蓉倶楽部」は本当にいいホテ ルだ。  これで、戸田圭祐は路頭に迷わなくてすむことになった。  あとはこっちがちゃんと別府まで帰れるかどうかだ。  なにしろ豊肥線は1日数本しか特急が走っていない。  これでは電車がバス路線に負けるわけだ。  とくに九州ではバス路線が圧倒的に強い。  バスは高速バスが30分置きに出て、電車は1日4〜5本では話 にならない。  電車にもっとがんばってもらいたいなあ。  とにかく次の特急に間に合わないと、電車は以後ない。  不安を抱きつつ、きょうのメイン・イベントの場所をめざす。  すっかり阿蘇山が大きくのしかかるように見えてきて、気分は最 高に気持ちいいことは確か。すごく新鮮な空気が肺の中にどんどん 入って行くのがわかる気がする。  富士山もそうだけど、山は広大な裾野を有していないと、ビッグ ・メジャーになることができないんだなということを痛感する。 落差というか、鶏頭となるも牛後になるなってやつかな。    さて、午後3時45分!  ついに来ました! 来ました! 来ました!  今回の九州旅行で絶対行くと決めていた場所!  それは…!  ああ! すぐ言ってしまうのがもったない!  間を取りたいなあ。  言ってしまうか!  え〜〜〜〜〜い、それは…! 「阿蘇山山頂!」  …ではなくて、なんと!  南阿蘇鉄道の………! 「南あそ水のうまれる里白水高原駅」どぅわ〜〜〜〜〜ッ!  わっはっはっは! わっはっはっは!  もう一度言おうか? 「南あそ水のうまれる里白水(はくすい)高原駅」どぅわ〜〜〜〜〜ッ!  これが駅の名前だ。  長い名前でしょ〜?  なんと日本でいちばん長い名前の駅なんだな、これが!  もちろん、おいしい水しか名物がない。 駅には、駅舎はあるものの、もちろん無人駅。
南阿蘇…
 喫茶店もお土産品店も隣接されていない。  畑のなかにぽつんと駅があるだけ。  このあたりは白水村といって、白水駅というのもあるんだけど、 どうせだったら白水駅のほうを、この長ったらしい名前にすれば よかったのに!  白水村には、名水にちなんだ、ちょっとしたエリアがあった。  名水を利用したレストラン、豆腐、ソフトクリームを売っていた り、お水を持ち帰ることができたり、お土産品屋もあった。  とくにご飯セットという地方発送商品がおもしろくて、コシヒカ リ、手作り味噌、ごま、お水がワンセットになったものだ。
ごはん
 それと「銀河高原ビール」の大きなのぼりがあったけど、ここが 発祥の地なのだろうか。東京でも京都でもよく見るのぼりだ。しか も私はお酒は一滴も飲めない男なので、よけいその辺のことにくわ しくない。  時間があまったので、本来満室でなかったら、宿泊するはずだっ たグリーンピア阿蘇に行ってみる。来年もう一度阿蘇の取材に来る 予定なので、下調べをしておこうと思ったのだ。  一面すすきの野原が金色に輝いてまぶしい。  映画マニアなら、黒澤映画の金色のすすきだ。  アニメ・ファンなら『風の谷のナウシカ』の草原だ。  午後4時30分。南阿蘇鉄道の終点・立野(たつの)駅に着く。 ようやくここで運転手さんと別れる。本来これだけ長くいっしょに なったタクシーの運転手さんとは、コーヒーのひとつもいっしょに 飲むことにしているのだが、きょうは初めてそのまま返してしまう。 悪い人ではないけど、いい人でもない。  観光ガイドが得意な人を頼むべきだった。  戸田圭祐が走って行って、電車の指定席を予約する。  まだ乗るべき電車は、1時間後なのだが、今回は指定席だから、 たしかに一刻も早く予約したほうがいいだろう。  指定席が取れたという。  でも予約システムがなくて、駅員さんが電話でコンピュータがあ る駅まで電話して、席を予約したそうだ。おかげでひさしぶりに、 手書きの指定席券というものを見た。  駅に隣接する「阿蘇望(あそぼう)」という売店というか、喫茶店 というか山小屋みたいなところで、コーヒーを飲む。美味しい水を 利用したコーヒーがあるから、これは期待できるだろう。でもミル クはボトルに入った、粉のクリープであった。
あそぼう
 コーヒーを飲んでいると、プロスペックの江口貴博くんから電話 が入る。 「日記を読んだら、宿にお困りのようなので、博多のホテルを調べ てみました。ニューオータニの和室の部屋がひとつだけ取れるそう なんですが、いかがですか?」  うれしいなあ。本当にまるで『電波少年』のイリジウムでメール が届いて、80日間で世界一周する企画を日本でやってるような気 になって来たぞ。  戸田圭祐のホームページのほうでも、本当にたくさんのメールが 来るようになって、あそこへ行くといいですよ、ここに行くといい ですよとみんなが教えてくれる。  江口くんがわざわざホテルを調べてくれたのは、うれしすぎる。 「間抜けなことに、芙蓉倶楽部に3泊目することになった」という と、笑ってくれた。笑ってもらえないとつらい。  この山小屋のような「阿蘇望(あそぼう)」。名前のセンスのなさ がどうにも困ったものだが、おばちゃんはいい人で、私たちがVA IOを開くと、一生懸命「それは何?」と聞いてくる。  インターネットを見れると言っても、こんなところにいるおばち ゃんには、まずインターネットとは何ぞやから説明しないといけな い。  おまけに、この立野では、PHSのカードが繋がらないので、実 際こういう風に日本じゅうから手紙が届くんですよと教えてあげら れないのが、残念。 「旅行中にどんどん手紙が届くとね。信じられんばい!」  それでもちょうど江口貴博くんから電話がかかってきて、ホテル が取れる取れないの話をしているのを聞いて、「あれまあ、ほんと だ!」と驚いた。  こういうやりとりができるのが、旅の醍醐味でもある。
バイオ
 ついでにこのお店で、VAIOのバッテリーを充電させてもらう。 50%を切ったばかりなので助かる。  あいにく電車の時間が近づいて来てしまったので、中断させたが、 それでも15%ほど回復させてもらった。  午後5時20分。立野駅。女子中学生かなあ。女の子がひとり待 合室にぽつんと座っている。ドアを開けて入ると、ストーブが焚か れていた。確かにかなり寒くなって来た。なんといったって、ここ は阿蘇だからね。寒くてあたりまえだ。  ドアに「あとぜきおねがいします」と書いてある。
あとぜき
「あとぜき」。  何だろう? 駅員さんに教えてもらう。  こっちの方言で「ドアを開けたら、必ず閉めてね」という意味だ そうだ。 「こっちでは誰でも知ってる言葉だよなあ!」と、駅員さんが女子 中学生に話しかける。 「うん」と微笑む。 『鉄道員(ぽっぽや)』みたいな風景だ。  午後5時26分。特急電車が入って来た。  乗ったとたん、電車は進行方向とは逆の方向に走り出す。  ここは鉄道マニアにはとっても有名なスイッチバック式の駅なの だ。標高の高い場所を急に登るのが難しいので、山道のようにジグ ザグに登って行くのだ。  2分ほどして、今度はまた前に向かって進み出す。  あたりはもう真っ暗。山並みも見えない。  おんぼろな列車なだけに、宮沢賢治の銀河鉄道に乗っているよう だ。 「戸田圭祐、トイレは一見の価値があるよ」と教えると、すぐ見に 行った。爆笑しながら帰ってきた。  目が痛くなるようなトイレで「昔のぼっとん便所かと思いました よ」。  この路線がバス路線に勝つには、新幹線を通すしかないなあ。  電車のなかで、明日以降のスケジュールを検討する。  戸田圭祐が必死に分厚い時刻表をめくりまくるが、どこに行こう にも、特急が無い。朝8時に1本あって、2本目がお昼過ぎなんて のが、ざらである。 『桃太郎電鉄』の作者として、極力バスに乗りたくない。  しかし無駄な抵抗のようだ。  午後7時34分。大分駅に到着。  駅前のセントポルタ中央町をまっすぐ通り抜けて、「嘉牛(かぎゅ う)弐番店」に行く。  念願の豊後牛のお店をついに見つけたのだ。  別府にはなかったけど、大分市にはあった。  大分は思ったより全然大きいし、町が都会的だ。さすが県庁所在地。  豊後牛はいろいろコースがあったけど、疲れていることもあって、 とにかくいちばん値段の高い牛を注文する。  すると、わざわざ社長がじきじきに、お肉を持って来てくれた。 ものすごい色の霜降り肉だ。  戸田圭祐の鼻腔が開きっぱなしになっている。  戸田圭祐はついに、念願の牛にぎりも食べることができた。  牛のお刺身を、トロのようにお寿司の握りのようにしたものだ。  出ました、戸田圭祐の「ふ〜む…。ふ〜む…。ふ〜む…」。  ふ〜む3つだ。相当評価が高いぞ。
さしみ ユッケ にぎり やきにく toda
 でも私に脂身の部分が強すぎて、ちょっときつかった。20歳の 頃だったら、天にも昇る美味しさだと絶賛しただろうが、最近はど うも味に上品さがないと美味しいと感じなくなっている。  贅沢な舌だ。  午後9時。つに3連泊目の「芙蓉倶楽部」に戻る。  なんだか自分の家に戻ってきたようだ。ほっとする。  また大浴場の温泉に入る。    いやあ、長い1日だった。  でもついに悲願の高千穂越えができた充実感は何物にも替えがた い。  というわけで、日記が間に合わなかったのは、さすがに寝てしま ったからなのでした。  それにしても、おなじホテルに3日連続で泊まるはめになるとは。 何でも飛び石連休にかかわらずホテルというのは、土曜日が圧倒的 に混むそうだ。日曜日は帰りの日だから混むことはないという。 「旅行するなら、土曜日だけはどのホテルも予約しておいたほうが いいですよ」と、芙蓉倶楽部のお姉さんが教えてくれた。何から何 まで親切なホテルだ。 しかしなるほどねえ。旅人は、1泊2日の旅をよくするのだそうだ。 またひとつ勉強になった。  まだまだ私は旅人初心者だな…。 
 


11月21日(日)


午前5時すぎ。目が覚めたのを幸い、昨日の長い長い日記の続
きを書く。
午前8時をすぎても、日記が完成しない。
戸田圭祐を呼んで、荷造りをして、3日連続で泊まった「芙蓉
倶楽部」をあとにする。

午前9時。まずはロイヤルホストへ。モーニングプレート+コ
ーヒーだ。
ちょっと旅先でトラブルが多すぎたので、秘密のゲームのアイ
デア出しのほうをやっておきたかった。
おかげで、重要な部分の箇所が浮かぶ。

午前10時30分。タクシー会社に行き、観光タクシーを交渉
する。ついに電車を駆使した旅を断念した。『桃太郎電鉄』の作
者としては、電車に乗りまくって、JRに貢献したいのだが、あ
まりにも取材が強行軍になりすぎる。
本当に今回の九州旅行は、すれすれの連続だった。5分前に駅
に行って、乗車券を取るといったドキドキするような場面の連続
だった。
だからきょうはもう最初からタクシーに頼ることにする。
昔からかの司馬遼太郎さんが、小説の取材をするとき、必ず、ず
っとタクシーを利用していた。格好いいから、いつか絶対真似る
ぞと思ってきたけど、どうも私は電車をつかってしまう。
でもこのところ取材はタクシーに限るということが本当にわか
ってきた。
たとえば取材目的の駅に行く。その町の繁華街や歴史資料館は
まず駅から離れている。歩いていく。疲れる。疲れるから喫茶店
で休む。時間が無くなってくる。歩きだからそんなに荷物がもて
ない。観光タクシーなら珍しいお土産品を買って、車に乗せてお
くことができる。
しかもいいタクシーの運転手さんに当たると、こっちが情報不足
だった部分を埋めてくれる。
昨日の運転手さんはダメだったけど、きょうの運転手さんは、
けっこう当たりだった。
きょうは別府の北にある、日出(ひじ)と杵築(きつき)を回る。

午前10時40分。日出(ひじ)の松屋寺(しょうおくじ)に行く。
松屋寺
この松屋寺は、日出藩主・木下家代々の菩提寺である。 木下というのは、もちろん木下藤吉郎(豊臣秀吉)の木下に関係 している。 でも豊臣秀吉の系譜は大阪夏の陣、冬の陣で途絶えたはず…と まで言える人は相当の歴史マニア。そんなマニアの人なら、秀吉 マニアの私がわざわざ何でこんなお寺に来たのかわかってもらえ ると思う。 この木下家というのは、秀吉のお嫁さんであるねね様の系譜な のだ。ねね様は、関が原の戦いでも、徳川家康の味方をしたから、 家康に庇護されて、ねね様の系譜は江戸時代もずっと続いたので ある。 初代は木下家定さん。 ちょっと歴史好きじゃない人には、うっとおしい解説だね。 先に行こう。 とにかく木下さん家のお墓ってこと。
住職
話し好きの住職さんとたっぷり話もできたので、私として大満 足。秀吉の遺品もあった。 午後11時20分。杵築(きつき)市へ行く。 本当に大分県というところは、読みづらい名前の地名ばかりだ。 何日か前も言ったけど、国東(くにさき)半島だの、熊野磨崖仏 (くまのまがいぶつ)だの、といった話だ。 思えば、大分県という名前からして、本来「だいぶ」と読むの がふつうだ。何でまた「おおいた」なのかだ。 別府(べっぷ)は昔から由緒ある読み方だけど、ふつうなら「べ つふ」だろう。 とにかく大分県は素晴らしい場所がたくさんあるのに、漢字が 読みづらくて損をしている。 ここで私は、杵築市に「きつき市」と改名することを提唱した い。きょうはずっとこのまま「きつき市」で表記する。 もともと杵築は「木付氏」という城主の名前から来ているそう だし。まだ木付市のほうが親しみやすい。 とにかく「きつき市」と改名してほしいほど、素晴らしい町だ った。城下町なんだけど、北と南に分かれて、武家屋敷が並び、 そのちょうどあいだに谷が広がっていて、商人たちが住んでいた という町割りがはっきりしている。 おかげで坂が発達していて、この名前が美しいものばかり。 飴屋の坂。酢屋の坂。勘定場の坂。ひとつ屋の坂。紺屋の坂。 射場の坂。志保の坂…. 整備された急坂は実に美しい。 雨上がりに来たら、ロマンチックだろうなあ。
坂
きつき城下町資料館を見る。故郷輩出の有名人が少ないにもか かわらず充実した内容。いいなあ、こういう姿勢。 午前11時45分。きつき城。 これがいい! 本当にいい!
城
こぢんまりとしたお城だけど、歌に「鷺(さぎ)の舞うなる 気 品を見せて 海に浮かんだ杵築城」とあるように、このお城は守 江湾に突き出ている。しかも湾が広い上に、干潟になっているの で、なんとものんびりして、それでいて気持ちが洗われるような 清々しさがある。 来てよかったー! もう九州旅行5日目でへろへろになってい ただけに、このお城はカットする予定だったのだ。うれしいこと に、このお城、入り口のぎりぎりまでタクシーが入って行くこと ができる。かなり長い距離の上り坂の頂上までタクシーで行ける ことは足の不自由な私にとっては、人気急上昇の強力なポイント だ。 天守閣までの階段も非常に登りやすい、ますますポイント・ア ップ! お城ベストテンのかなり上位に食い込むに違いない。 なにしろ、不動の1位である長浜城とおなじ海に突き出るタイ プの城だ。景色を借りるという意味から「借景(しゃっけい)」と いう言葉があるが、まさに「海」が借景のきつき城である。 キラキラ輝く守江湾。 こんなところで1日ずっと、ぼ〜〜〜っとしたいものだ。
天守閣
時間が無くなってきたので、きつき城を後にして、タクシーは 再び「日出(ひじ)」をめざす。   午後12時45分。城下かれいのお店「幸喜(こうき)屋」さん に行く。このお店は運転手さんが教えてくれた。 ここで、城下かれいの刺身、かれいにぎり、こちにぎり、シイ タケにぎりを食す。 
さしみ にぎり こち しいたけ
本来城下かれいの旬は夏なのだが、それでもなかなか美味しか った。来年の夏に家族でまた来るかな。 午後1時10分。暘谷(ようこく)城跡に行く。 ここがTVのCMで有名になった城下かれいの産地である。 「お城の下で採れるから、城下かれいっちゅうんじゃなあ!」と いうCMを覚えている人も多いだろう。
城下
あのCMを見て、私はずっと城下かれいは、お城のお堀で採れ る魚なのだと思い込んでいた。 今見える景色は、たしかにお城の下なのだが、大きな別府湾が 広がっている。なんでも別府湾の日出城の下の海のところだけ、 海水の下から真水が湧き出る場所があって、それが城下かれいを 美味しくするのだという。 ちなみに、日出城のお殿様は、木下さん。きょう最初に行った 松屋寺のあの木下家である。 江戸時代「日出の殿様木下様は、城の下まで船が着く」と歌わ れたそうである。 その当時のお城をぜひ復元してほしいものだ。 お城のあとは小学校になってしまっているから無理かな。 これで、日出(ひじ)、きつきの旅は終了。 観光タクシーは別府に戻る。 午後1時30分。2日前に別府の「地獄めぐり」を海地獄ひと つで終了させてしまったので、時間のあるかぎり、地獄めぐりを することにする。 おもしろいのは、別府のタクシーの運転手さんは「地獄めぐ り」のことを「地獄」と省略する。 これを客観的に聞いていると妙におかしい。 「お客さん、地獄行くんですか?」 「きょうは天気がいいから、地獄行きますか?」 「今からなら地獄に間に合いますよ」 「お土産屋さんは、ええ、地獄のなかに全部ありますよ!」  地獄、地獄のオンパレードなのだ。 まず竜巻地獄。 約25分置きに、温泉が吹き上がるというので、洞穴のような ところにスタンドが設置されていて、観光客はじっと次の温泉が 吹き上がるまでじっと待っている。 約25分置きに噴出すると聞いて、どこにスイッチがあるのか と思ってしまうのは、私の悪いくせだ。
前 後
続いて、血の池地獄。これはよくTVで見たな。
血の池
とりあえずここで『有限会社 桃太郎商店』のスタッフ&出演 者たちへのお土産を買う。ダサい物ばかりだ。ははは。 しかし領収書の企業名が「血の池物産販売有限会社」なのが笑 える。 さらにまたタクシーで、坊主地獄へ。 別府の「地獄めぐり」というのは、サファリパークとか植物園 のように、1ヶ所に8つぐらいの温泉が並んでいるのだと思って いた。タクシーで回らないと見てまわれないほど広大だとは知ら なかった。 ただタクシーをチャーターしてまで回る価値のあるところかと いうと非常に難しい。 『行ってはいけない』のメニューに加えるほどではないが、3つ も見れば十分ではないか。
坊主 つ、つかれた〜〜〜
   午後2時。坊主地獄。灰色の泥から温泉が吹き出ているやつだ。 硫黄の匂いがきょうの温泉のなかでいちばん臭かった。  午後2時30分。ときわデパート。地下でさらにお土産品を物 色する。『美味しんぼ』にも書かれていたし、柴尾英令くんがメ ールで教えてくれた、「やせうま」などを購入する。  やせうまは、和菓子みたいなおやつだった。  売り場のおばちゃんが、宅配便を作るのに手間取り、だんだん 時間が無くなってきて、こっちのほうがあせってくる。  とくに心配性の戸田圭祐は時間が無くなってくると、けわしい 顔つきになってくるので、こっちまでその心配性が伝染してくる。  領収書とおつりを私に渡したら、ゆっくりあとで宅配便の手続 きをすればいいのに、お土産品を全部レジに入力しようとする。  自分の都合を優先させる仕事の仕方はやめてほしい。  午後3時08分。ときわデパート前で、高速バスに乗る。  とうとう高速バスで、博多に向かうことにした。  高速バスは30分置きに、このターミナルから発車してしまう んだもん。しかも別府を出ると、博多に着くまで、どこにも立ち 寄らないノンストップ・バスだ。 これじゃやっぱり、1日に4〜5本しか走らないJRの特急の 都合に、こっちが合わせたくないよ。  疲れがピークに達してきたので、乗車と同時に寝てしまう。  山並みを見ながらの睡眠は気持ちいい。  午後6時。博多駅着。  プロスペックの江口貴博くんがけっこういいホテルですよと言 っていた「ハイアット・リージェンシー」に行こうとするが、新 幹線側だった。うひょ〜。  博多駅構内を抜けて、筑紫口へ。歩くこと5分。  瀟洒なたたずまいの通称スフィンクス・ホテルにたどり着く。  定宿の「グランド・ハイアット」より、格安でコンパクトなの でここはよい。駅まで近いし。  午後7時。実は九州旅行の初日に登場した、おなじみ「河太 郎」にもう一度行ってしまおうかと思ったのだが、あいにく定休 日であった。  戸田圭祐が一度も博多の屋台に入ったことがないというので、 屋台村に行く。どのお店も何10人もの行列が並んでいて、とて も入ることができない。  橋を渡ったところの「呑龍(どんりゅう)」に入る。  やっぱりラーメン。  戸田圭祐にゴチになる。  戸田圭祐にとって、値段の安いものというのは、真珠の輝きに 見えるようで、屋台を本当に気に入っていた。 「だって、屋台っていかにも、係長さんが行くお店って感じじゃ ないですか」。  なるほどね。 「係長さんの屋台ラーメン」。  こんな名前のインスタントラーメンが発売できそうだ。  戸田圭祐は初日ときょうで、博多に転勤したいと思うまで、こ の街が気に入ったようだ。
さくま toda
   午後8時。ホテルに戻って、日記書き。まだ昨日の日記を書い ている。忙しすぎる。ほんとに。  …といってる九州旅行シリーズもいよいよ明日が最後だ。 『桃太郎電鉄』の作者としては、十分すぎるほどの収穫だった。 実際に現地に行ってみないと、距離感がつかめないもんだなあ。  それではまた明日。
 


11月22日(月)


 最古のさくまにあであり、日本通運係長である戸田圭祐の10
年勤続リフレッシュ休暇が1週間+10万円分の旅行券がもらえ
るということから始まった、この九州旅行もいよいよきょうが最
後である。
「さくまサン、今なら急いで駅まで行けば、特急○○○○に間に
合いますよ!」
「さくまサン、5分後の特急○○○○に乗らないときょうはもう
特急が1本もありません!」
 分厚い時刻表をぱらぱらめくりながら、次の電車を調べまくる
戸田圭祐のせいで、まあ、あっちへ行ったり、こっちへ行ったり、
とても6日間とはとても思えない日程で、九州を旅行することが
できた。
 小倉、門司港、日田、湯布院、別府、宇佐、豊後高田、延岡、
高千穂、高森、南あそ水のうまれる里白水高原駅、大分、日出、
杵築…。
 これだけたくさんの物件駅の最新情報を得ることができた。
 さらに近隣のいろんな町の情報も手に入った。
 これは『桃太郎電鉄』シリーズにとって、百万の援軍である。

 きょうもさっそく戸田圭祐と最後の日はどこに行こうかと、喫
茶店のモーニング・セットを食べながら検討する。

 田主丸(たぬしまる)に行って、久留米に戻って、ラーメン食べ
て、八女(やめ)に行って、柳川に行って、帰りに甘木鉄道か、佐
賀のバルーン・フェスティバルを見に行くか。
 それじゃまたいつもの旅行パターンとおなじじゃないか。
 最後の日ぐらい、地味な旅をしようじゃないか。
 ここまでなんとか倒れずにやってきたのだ。
 無理はやめよう。
 マラソン・ランナーもゴールしてすぐ止まると、倒れてしまう
じゃないか。きょうのテーマは地味だ。
 
 午前10時30分。博多駅井筒屋1Fのお土産街を物色する。
まず恒例の松露(しょうろ)饅頭を実演販売している売り場へ行く。
私が博多に来たらかかさず行くところは、イカの河太郎と、この
お店のふたつだ。
 戸田圭祐も松露饅頭を食べて、大満足。
松露
「たこ焼きのような作り方なのに、えらくていねいに作りあげま んなあ!」 「作ってる女の子の動作がのろいだけかもしれんぞ」。  その後のうろうろ歩き、『桃太郎電鉄』に登場させないといけ ないような新しい食べ物は無いか、チェックする。  うっかりこの売り場で、1時間近くも歩いてしまい、へばる。  地味な動きのわりに、体力を消耗してしまった。  午前11時30分。西鉄福岡駅。大牟田行き特急で、柳川に向 かう。  車中、秘密のゲームのアイデア出し。  いよいよこのゲームの骨格がまとまる。  午後12時20分。柳川駅着。  柳川といえば、川下りである。  駅前に、川下りの乗船券売り場があるところがすごい。柳川と いうと、真っ先に川下りが浮かぶわけだ。  ところがまたしてもピンチ!  いきなりきょうの乗船券は売り切れましたというのだ。ええ っ!? まだお昼になったばかりじゃないか! きょうぐらい地 味に川下りさせて、帰らせてよ!    なんでも船頭さんというのが、農業と兼業なので、きょうはも う船頭さんいないからだというではないか。なんという悠久の時 が流れている町よ! などと評している場合ではない。  川下りできないなら、ほかの町をめざさないといけない。  でもガイドブックには、ほかにも川くだりの乗り場はいくつか あると書いてあったぞ。    タクシーの運転手さんに「ほかの乗り場ってありますか?」と 聞く。 「あります。どうぞ!」  やった! しかも運転手さんが乗り場の人に、乗船できるかど うかまで聞いてくれた。    というわけで、下百町というところから乗船する。
乗船
 午後12時30分。TVなどで見慣れたあの船に乗る。  乗員は15人ほど。船の上にあぐらをかく。
船上
 船は思ったよりさらに平たくて、水深わずか30cmほどの堀 を人間の歩く速度ほどのスピードで、滑るように進んでいく。  これは見事に地味だ。
船頭
 観光地にいがちな船頭さんの解説は、ベタなギャグ満載だ。  川べりに、カモがいれば「さあ、みなさん! みんなでカモを 呼びましょう!」「ヘ〜〜〜イ、カモ〜〜〜ン!」。  まいっちゃったなあ。 「この木になっているのが、ザボンであります。川に落ちると、 ザボ〜〜〜ン!という音がします」。  まいったなあ。  この調子で、4、5kmを1時間もかけて下るのかあ…。
うんざり まいったなあ
 この柳川の川下りが始まったのは、わずか40年前からだそう だ。へ〜。400年前からと言われても信じてしまいそうだけど、 そんなに近年のものだったんだ。意外だな。  あれあれ。とうとう船頭さん、歌を歌いだしちゃったよ!  北原白秋さんの家があるものだから『まちぼうけ』とか数曲気 持ちよさそうに歌う。乗員は苦笑しながら聞いて、終わるとお愛 想の拍手を送る。  きょうのテーマの「地味」にぴったりすぎるイベントだ。  午後1時40分。船着場に着く。  お土産屋さんが建ち並ぶ。  今朝、嫁に調べてもらっていた、うなぎのせいろ蒸しの美味し いお店「本吉屋」に行くも、きょうは定休日で休み。嫁の情報で は定休日は火曜日だったのに。明日の火曜日は休日だから、きょ うとチェンジさせたな。    仕方ないので「福柳(ふくりゅう)」というところで、うなぎの せいろ蒸しを食べる。  まあ、観光地の味にしてはいいほうかな。
うなぎ
   食後、戸田圭祐のホームページ掲示板のほうで話題になってい た、柳川のやわらかいせんべいというものを探す。  おお、あった、あった。柳川慕情せんべいというのか。すごい 名前だなあ。やたら文部大臣賞とか、農林水産大臣賞を自慢する 町だ。  やわらかい食べ物評論家の戸田圭祐は、この柳川慕情せんべい を買い求めていた。あまりにもうれしそうなので、お店のおばち ゃんとのツーショットを撮影してあげた。戸田圭祐くんが女性と ふたりだけで写真に写るのは、ひさしぶりである。
カップル
   午後3時05分。柳川から再び西鉄福岡に向かう。  午後4時50分。西鉄福岡駅着。西鉄福岡駅から、タクシーで JR博多駅に向かうが、夕方の大渋滞に巻き込まれる。    午後5時27分。のぞみ28号で、いよいよ博多というか、九 州を離れる。  よかった、よかった。戸田圭祐よ、楽しかったな。  君のリフレッシュ休暇に便乗させてもらったよ。  やっぱり鞄持ちさせたら、日本一だ。  博多で買った駅弁を食べて、戸田圭祐は新大阪駅で降りる。  ホームで一生懸命忘れ物が無いかどうか、洋服のポケットを探 りまくっている姿は「ニッポンの係長さん!」といった哀愁に満 ち満ちていた。  明日の休日は家でたまっていた洗濯をして、明後日からの仕事 に備えるそうである。リフレッシュ休暇なのに、毎日会社に電話 を入れていた戸田圭祐。  高度成長期のサラリーマンはどっこいこんなところで生きてい たようだ。  午後8時09分。京都着。  私はあと2日ほど京都にいて、旅行中に出たアイデアをまとめ る作業をしてから、東京に帰る予定。  九州旅行中、戸田圭祐の掲示板にメールをくれた、みんなあり がというね! 九州旅行が終わったあとも、戸田圭祐の掲示板に メールを書いてあげてね!
 


11月23日(火)


 九州旅行中、あれだけ快晴に恵まれたのに、きょうの京都は一
転して、曇天。ときおり雨がぽつぽつ。
 旅といえば、晴れ男、雨男という言い方がある。
 私の場合、仕事で旅行すると晴れて、遊びで旅行すると、豪雨
になる。この1週間まじめに仕事もしたということだろう。

 午前11時。近所の喫茶店「レッドラバーボール」で、昔風ホ
ットドックにコーヒー。

 午後12時30分。東寺(とうじ)に行く。
 霊能者の岩崎摂さんから、お線香を買ってくるように言われて
いたからだ。なんでも東寺のお線香は非常によいそうだ。ふ〜ん。
お線香にも良し悪しがあるのか。
 それなら思い切り豪華なお線香でも買ってやるかと、まったく
信心深さというものが欠落している私は、お線香専門店を探す。
 しかし東寺のまわりには、食堂と土産品店ぐらいしかない。
 東寺のなかに入る。
 拝観入り口のところで、お線香を売っていた。
「東寺オリジナル線香・500円」。
 これか? 嫌なネーミングだなあ。TVの「オリジナルTシャ
ツ・プレゼント〜!」みたいだ。

 そういえば、岩崎摂さんは旅行中にも、戸田圭祐のiモードや
嫁のところにメールを何度もくれた。大半は「まだ完全に体力が
回復していないのだから、無理をしないように…」とのことだっ
たけど、霊能的には、今回の九州旅行は人生の転機になるそうで
ある。
 ふ〜ん。そうなんかのー。
旅行中「切れ者」という言葉からいちばん遠い男・戸田圭祐の
横顔を見ていると、とても人生のいい転機になるとは思えない。
「さくまサン、いい転機になるって、どんなことでっしゃろ?」
「霊能力は高くても、元来おっちょこちょいの岩崎摂のことだか
ら、いい『天気』と、いい『転機』を変換ミスしてメールしてき
ただけなんじゃないのか〜? たしかにいい天気になったし。わ
っはっはっは!」
 また東京に帰ったら、本当に人のいうことを聞かないんだから
と叱られそうだ。
 
 午後1時。寺町の電気街をそぞろ歩く。
 あっちを見たり、こっちを見たり。おなじみ「タニヤマ電気C
ゾーン」勤務の鈴木千華雄くんのところに行くが、またしても彼
の昼食時間であることを忘れていた。2分の1の確率でこれだ。
 四条通りで刀剣屋を見たりする。
 このあいだ、備前長船刀剣博物館に行ったから、いっぱしの知
識を得たつもりだが、からきし目利きができず、爪切りを凝視し
てしまう。
 正宗の爪切り、虎徹のはさみなんてのがあったら、買ってみた
かったなあ。
 なんだかひさしぶりに、のんびり気分。

 午後2時。京都のマンションに戻って、さっそくお仕事。
 旅行中に書き溜めたメモをまとめる。
 旅行中ずっとVAIOをつかってたので、ひさびさにパワーブ
ック2400をつかうと、キー・ミスが続出する。人間は順応性
も高いが、忘却力もすごいもんだね。

 午後5時。ゼスト地下街の「ナチュラル・ボディ」でマッサー
ジ。九州旅行中の身体のメンテナンスはしっかりしておかないと
なあ。おもったより疲れていない。同行者が戸田圭祐だったから
かな。
 お偉いさんといっしょだと疲れるし、中尾淳…おっと間違えた。
若者といっしょだと、こっちが気をつかわされて疲れるものだ。
 ほどよく分別のある戸田圭祐がいちばん楽なのだろう。

 午後6時。一昨日から実姉が紅葉を見に京都に来ているので、
待ち合せて和風割烹「忘吾(ぼあ)」に行く。
 かつおぶしと九条ねぎだけのおひたしが無茶苦茶美味しかった。
メニューからマツタケも消えて、かぶら蒸しがでるようになった。
もう冬なんだなあ…。
 いつもながら料理屋さんで季節を知る。

 午後9時30分。京都のマンションに戻る。
 再び秘密のゲームをまとめる作業。まだまとめる作業で、仕様
書を作り始めているだけ。でもほとんど仕様書同様のこまかい覚
え書きなんだけどね。

 疲れを取りながら、たまにはのんびりしようっと。
 京都には25日までいる予定。
 


11月24日(水)


 京都のマンションで起床。
 朝から秘密のゲームのまとめ。旅行中がんばりすぎたせいか、
このゲームをまとめる量が膨大で、『桃太郎電鉄』シリーズのほ
うのまとめに入ることができない。
 この秘密のゲーム。仮称でもいいから付けたいところだけど、
たぶん内容がわかってしまうので、もうちょっと待っててね。っ
てことはみんなが推理する余地があるってことだから、いろいろ
予想してみてね。…なんてこと言ってると、『ほんのチョイ係』
のほうに、ズバリ賞が来てしまって、うっかりバラすことになっ
てしまいそうだ。
 今やってる仕事を曖昧に書くのが非常に嫌いなんで、うずうず
する。

 午前11時。実姉と待ち合せて、富小路、錦市場の先の「ト一
(といち)」に行く。定食屋さん。500円の定食があって、お昼
になる前に、売り切れてしまう人気だそうだ。
 うん。出張中のサラリーマンには安くて、美味しいだろう。
 そういう味である。大量に作ってあるのか、煮魚は冷えていた。

 午後12時。「イノダ・コーヒ四条店」に行く。実姉もイノ
ダ・コーヒが大好きで、本店が火事で焼けてしまったのが、ショ
ック。本店の近くの「イノダ・コーヒ三条店」ではフルーツサン
ドがメニューにないので、食べたくて仕方がなかったという。
 けっきょく、さっきいっしょにお昼ご飯食べたのに、姉はフル
ーツサンドを食べてしまう。
 ふむふむ。私も脳内出血で倒れる前は、こういう風に暴飲暴食
のかぎりを尽くしていたんだな。血は争えないものだ。

 午後2時。実姉は南禅(なんぜん)寺に向かい、私は京都のマン
ションに戻って、お仕事。遊びっぱなしじゃ、罰が当たるからね。

 順調。順調。仕事は順調。
 順調なときは、日記が地味。

 午後6時。実姉と待ち合せて、先斗町の「ひろ作」に行く。
「プティ・ポワン」の北岡さんに紹介してもらった、肉じゃがの
美味しいおばんざいのお店だ。
 実姉も肉じゃがの美味しさに大満足。
 ほかにも、ぐじ(アマダイ)が美味しかった。
 
 午後6時40分。喫茶店「タナカ」に寄る。先斗町にある美味
しいコーヒー屋さんだそうだ。なるほどなかなかの味。先斗町は
ほとんど喫茶店が無いからこれはいい中継地点になりそうだ。

 午後7時。四条先斗町の交番前で、京都相互タクシーの宮本さ
んと待ち合わせ。
 高台寺の紅葉のライトアップでも見ようかとおもっていたら、
宮本さんがもっといい穴場があると教えてくれたので、そっちに
行くことにした。
 とにかく高台寺のライトアップはものすごい混雑で、だらだら
1時間ぐらい少しずつ歩かされるそうだ。
 穴場のほうのお寺は、円光寺(えんこうじ)といって、銀閣寺、
詩仙堂(しせんどう)の奥にあった。
 
 受付で拝観料を払って、お寺のなかに通される。
 お寺の縁側はなぜか真っ暗。
 目をこらすと、お客さんが10人ほどいる。みなさんじっと黙
っている。ちょっと異様な雰囲気。
 そのうち、庭の竹林と紅葉に、少しずつ明かりが灯っていく。
水琴窟(すいきんくつ)から霧が吹き出る。
しかも雅楽がシンセサイザーで流れる荘厳な雰囲気。この演出
は素晴らしい。あっちが灯って、こっちが灯って、あっちが消え
て、こっちも消えて、音楽も消える。
 そのあと、ふわ〜と、すべて景色が浮かび上がるかのようにい
っせいにライトがつく。
 この間約10分間。
「幽玄」という言葉はこういうときの、とっておきの言葉なんだ
ろうなあ。
 やっぱり京都は、やることが違う。
 やることが新しい。

 午後8時30分。ブライトンホテル。ちょうどきょうは宮本さ
んの、49回目の誕生日だというので、いい口実になると、ブラ
イトンホテルへ誘う。
 宮本さんの誕生日をいいことに、ケーキを食べようという魂胆
である。
 と思ったら、何と大好きな柿をつかった「柿のコンポート」と
いうデザートがメニューにあるではないか! 実姉も果物のなか
では、柿がいちばん好きだというので、3人で柿のコンポートを
注文する。
「宮本さん、誕生日おめでとうございます!」。
宮本さん 柿のケーキ
   午後10時。京都のマンションに戻る。 やっと九州旅行で出た『桃太郎電鉄』のアイデア出しをまとめ る作業に入る。 たくさんアイデアが出たので、明日も京都に残ってまとめ上げ るかもしれないな。帰京は26日になりそうだ。
 


11月25日(水)


 午前9時30分。夷川(えびすがわ)のパン屋さん「進々堂」
に、実姉と行く。
 きょうはこれから伊吹山まで行く。
 いつも京都からの帰り、新幹線で米原駅をすぎるあたりから左
手の方向に、ひときわ大きくそびえ立つ山が見える。
 晴れた日などは、本当に雄大なその姿に、ジグザグな道が走っ
ているのが見える。
 ずっとこの山の名前を知りたいと思いながら、東京にたどり着
くと、調べるのを忘れてしまう。
 
 その山が実は、きょうこれから行こうとしている、伊吹山であ
る。関西の人なら誰でもよく知ってる名前だ。海抜1300m以
上の関西ではいちばん高い山だそうだ。
 六甲山が、1000m欠けるくらいだから、相当高い。
 冬には、頂上にきれいに真っ白い雪がよく積もっている。
 スキー場もあるそうだ。

 そんな山に、私が何でまた行くのかというと、このところずっ
と作っている秘密のゲームの舞台がこの伊吹山なのだ。
 あっ。しまった。
 これで伊吹山を調べられたら、秘密のゲームが何なのかほとん
どバレてしまう。どうしよう。どうも隠し事が苦手な性格なんで
本当に困るよ。
 一応この日記だけは正式なタイトルさえ書かなければ、けっこ
う書いてもいいと言われてはいるので、少しずつバラして行く。

 この伊吹山は、あの酒呑童子が生まれた山で、親の伊吹弥三郎
という鬼が住んでいた山と言われている。
 酒呑童子の子ども時代が、伊吹童子とも、親が伊吹童子である
とも言われている。
 まあ、鬼が出てくるゲームやね。
 いったい、何のゲームだらう…? しらじらしい…。
 でもまだどんなジャンルなのかはわからないはずなんで、今後
この秘密のゲームを『伊吹童子(仮)』と呼ぶことにする。

 で、実姉と「進々堂」で、トーストにコーヒーを飲んでいる場
面まで話は戻る。

 午前10時30分。京都相互タクシーの宮本さんが到着。
 準備が整って、いざ出発!

 やっぱり宮本さんは伊吹山についてもくわしくて、いろいろ教
えてくれる。
 何でも伊吹山は、1日で18mの豪雪を記録したこともあって、
これは日本記録だそうだ。18cmではなく、18m。そりゃあ、
すごいや!

 午後12時。関が原インターを降りる。
 あの天下分け目の戦いの「関が原」である。
 こんな歴史上のビッグ・ネームである「関が原」に私が寄って
行かないわけがない。
 でもきょうは伊吹山がメインなので、かつて私がおバカな旅行
を始めるきっかけとなった場所に行くことにする。

「関が原ウォーランド」。
 こんな名前聞いたことないでしょ?
 まず知ってる人はいないと思う。
 よく「戦国時代村」を趣味が悪いという人がいるが、この「関
が原ウォーランド」を見たら、戦国時代村が東京ディズニーラン
ドに思えるようなところだ。
 あまりにも陳腐すぎて、2回転半ぐらいして、かえっておもし
ろいと思ってしまうようなところだ。
ウォーランド
    とにかくマンモス学校の校庭のように広大な土地に、関が原の 古戦場を再現しているのだ。  各陣所に、戦国武将を配して、いちいち石膏の像を作って置い ている。
関ヶ原 関ヶ原 関ヶ原 関ヶ原
   何しろいきなり門柱に「ノーモア広島! ノーモア関が原!」 と書かれてあって、腰砕けになる。  ウォーランドのなかに入っても、いきなり石像群のなかに、関 が原にまったく関係ない、武田信玄が出てきてしまって、どうに もならない。順路の最後のほうに出てくるならギャグとして認識 できるんだけど、たぶん思いついたとき、バカ受けしたんだろう なあ。    甲冑や刀剣を保存している資料館もあるんだけど、どうも怪し い。ホコリまみれの監視員のいないところに、あの軍師として有 名な竹中半兵衛が、豊臣秀吉から拝領した陣羽織が飾ってあった りする。  何か変なんだ。ここは。  外国の大金持ちがちょっと日本の歴史をかじっただけで、テー マパークを作ってしまったような、そんな違和感がある。  私がここを訪れたのは、実に27年前。  あの胡散臭さはまったく変わっていなかった。  当時、石膏の戦国武将の像は、ほとんど首が欠けていたりして たけど、きょう見たら、見事にペンキが塗り変えられていたし、 大型の観光バスが5台も来ていたのだから、それなりに流行って いるのだろう。  歴史好きの実姉と、関が原の合戦について語り、早々にウォー ランドを後にする。  唯一よかったのは、このウォーランドの紅葉が見事だったこと。 今年の夏から秋にかけて、暖かい日が続きすぎたため、京都の紅 葉はほとんど総崩れである。昨日の円光寺にしても、ライトアッ プは幻想的であったが、紅葉の葉の先は悲しく曲がっていた。  このウォーランドの紅葉は、ピンと先まで伸び切っていた。  紅葉マニアの実姉は大喜びである。  午後1時。いよいよ伊吹山ドライブウェイを登り始める。  気温18度が、登って行く度にぐんぐん下がって行く。  下がるにつれて、山の紅葉がきれいになって行く。
紅葉
    およそ100m上がる毎に、気温は1度ずつ下がる。  この山の紅葉はそのほとんどが黄色である。黄色でも十分きれ いだ。  その昔、紅葉は「黄葉」と書いたそうだ。  なるほど「黄葉」も「こうよう」と読める。  ドライブウェイは道がなだらかな分だけ、相当長い距離を走る。  伊吹山は滋賀県と岐阜県の県境にあるので、滋賀県かと思うと、 また岐阜県を走るような、ややこしい走り方をしながら登って行 く。宮本さんの運転が上手いので、気持ち悪くならなくてすむ。 けっこう私は山道が苦手なので、とても助かる。  そのうち、霧が山の下のほうから、吹き上がって来た。  霧の中を走るなんて、ひさしぶりだと喜んだのもつかのま、あ っというまに視界がほとんどゼロになってしまった。  これは怖い。  午後2時。登山口の駐車場に着く頃には、まったく前が見えな くなってしまったし、気温は8度にまで下がった。  う〜む。これなら鬼が出て来ても、おかしくない。  ふっふっふ。秘密のゲーム『伊吹童子(仮)』のことだよ。  こういう景色が見たかったんだ。  なるほどね。ふむふむ。  よし。これで自信を持って、ゲームを作ることができるぞ。
伊吹山
    本来展望台からの見晴らしは相当いいらしいけど、何にも見え ないのでさっさと下山する。  急に登って、急に上がったせいか、耳の鼓膜がぴたっとふさが ったような、山特有の症状になる。    午後2時30分。「ふもと」というドライブインのような、フ ァミリーレストランに寄る。  宮本さんも耳が変になっているようで、私の声が聞こえないよ うだけれど、宮本さんの声も、私には聞こえなくなっている。  メニューに、みそかつ定食があったので食べる。
みそかつ
    やっぱり関が原は、名古屋圏なんだということが食べ物でわか る。みそかつは、どんなお店でもそこそこ美味しいから、名古屋 でお店に入ると、みそかつを食べるようにしている。  ファミリーレストランには、必ずハンバーグステーキがあるの だが、美味しいハンバーグに出会ったためしがない。  午後3時30分。京都をめざす。  午後5時。京都に到着。  実姉は知り合いの人が来たそうなので、会いに行く。  私は昨日に引き続き「ナチュラル・ボディ」でマッサージ。き ょうの担当の人はとても下手で、がっくり。おまけに嫌いな女の 声にそっくりなので、かえってストレスがたまってしまった。  午後6時。新京極の「田毎(たごと)本店」で、にしんそば。  食後、おなじみ「レッドラバーボール」でコーヒーを飲んで、 マンションに戻る。  iモードゲーム『さくま式東海道五十三次』の追加注文が来て いるので、その原稿書き。  どうしてもiモードゲームは速く破滅に向かって進みたいよう だ。九州旅行中、プロスペックの江口貴博くんと、来年はプレイ ステーションと、iモードゲームの一騎打ちになるような気がす るということで、意見が一致したんだけど、ちょっと雲行きが怪 しい。  かつてPCエンジンが天下を取れそうな瞬間が、3ヶ月間ぐら いあったんだけど、ダメだったことがある。  ちょっとそれに似てるな。    さて、明日は東京。  京都から九州へ、また京都へ。もう10日間が過ぎようとして いる。早いもんだ。後半の京都は本を読み倒そうと思ったのだけ れど、また失敗した。  おかげで『伊吹童子(仮)』が、80%ぐらい完成してしまった。  いつになったら本格的に休めるのかな…。
 


11月26日(金)


 東京へ戻るため、いろいろお片づけ。
 …と言ったって、たいしたことはしない。
 家族のいないときの京都では、ゴミを出さないようにしてるし、
洗濯物は次に嫁が来るまで、置きっぱなし。
 まあ、ほとんど学生さんの下宿状態ですな。

 午前11時20分。実姉は、琵琶湖の坂本方面にでかけているよ
うなので、錦小路の大丸デパート近くの「さか井」にひとりで行く。
 穴子丼の美味しいお店として名前がとどろいているので一度来て
みようと思っていた。

 店に入ると、カウンターがあった、席は6つ分しかない。
 博多の屋台みたいだ。
「ちょっと待っててね」と言われてから、待つこと40分!
 さすがに本当に作ってくれるのか心配になる。
 近所のおばちゃんたちの憩いの場でようで、おばちゃんたちの世
間話を聞く。
「あこのイタリア料理お店、ち〜っともお客入らんのやて。京都じ
ゃああいうお店は無理や!」
「大阪は阪神デパートが混んどったでえ!」
 それはいいから早く作ってよー。

 やっと来た。丼は小さめ。バリバリッと無造作にちぎった海苔が
穴子の上に乗っていて、これが美味しい。
 かなり美味しいと思うのだが、40分も待たされたせいか、もう
ひとつピンと来ない。おばちゃんたちのお店で、まったく私はよそ
者、居候の気分にさせられたせいだろう。

 午後12時。京都駅。新幹線のキップを買って、あとはお土産品
探し。
 このあいだから、うちのグルメ・バカ娘が、一度食べた「あじゃ
り餅」が美味しかったから、買って来てと言われていたのだが、ど
ういうわけか売ってるお店に出会わない。
 錦市場、大丸デパートにもなかった。
 京都駅の新幹線側のお土産品店にもない。
 在来線の京都駅にもない。
 …っと思ったら、なんと京都駅伊勢丹デパートの地下1階にあっ
た。よーし。これですべて完了。東京に戻るぞ。
 
 京都駅の新幹線側に向かう。
 すると「さくまサ〜〜〜ン!」とどこかで聞いたような声。
 あっ。なんと! 原宿の自宅の3軒隣りの喫茶店「らぴす」のお
ばさんであった。あんれまあ。またばったり病だ。しかもこんな近
所の人と会ってしまうもんなあ。
 そういえば今回10日間も旅していて、ばったり病が出ないのは、
変と言えば、変であった。
 最後に来たか。
「らぴす」サンはきょうから紅葉を見に、京都だそうだ。

 午後1時10分。のぞみ400号で、東京に向かう。
 米原を過ぎ、左手の窓に昨日行った伊吹山が見えてくる。
 きょうはちょっと曇っていて、あまりいい景色ではないが、やっ
ぱりひときわ大きな山だ。
 さっそく秘密のゲーム『伊吹童子(仮)』のアイデア出し。 
 順調、順調。もういつでもゲーム制作に入れるぞ。

 午後3時24分。東京駅着。
 そのまま青山骨董通りの「パパス・カフェ」へ。
 嫁と合流。ムサシノ広告の伊東正義と打ち合わせ。
 お仕事のことと、12月8日の出版パーティの件。やっぱり時期
が時期なので、漫画家さんがほとんど来れない。年末進行のピーク
だからなあ。

 午後4時30分。引き続き青山のCG制作会社ミルキー・カート
ゥーンさんへ行く。えっ!? きょうの打ち合わせは、自宅でだっ
たの? うひょ〜。

「パパス・カフェ」に逆戻り。
 読売広告の岩崎誠と、ミルキー・カートゥーンさんに戻って来て
いただいた。申し訳ない。
 あとからモデルでホームページをやっていて、ゲームとアニメが
大好きという今日的な女の子、稲葉ちあきサンも来る。そのホーム
ページで『さくま式人生ゲーム』を絶賛してくれているそうだ。
うれしいなあ!

 話の内容は、ゲームをいっしょに作りましょうというはずが、ミ
ルキー・カートゥーンのイワタナオミさんが、熱狂的な横浜ベイス
ターズ・ファンという話題が出たとたん、もちろん私は一気にそっ
ちの話になだれ込む!
 イワタさんは昨年まわりに横浜ベイスターズ・ファンがいなくて、
孤独な応援を続けていたそうだ。もったいない。去年知り合えてい
たら、いっしょに感動できたのに。

 午後7時。青山の「南江」で石焼きビビンバ。辛いけど、妙に美
味しい。でも本当に辛い。ひー。

 午後8時。今度は青山のインデックスさんに行く。まだ自宅に戻
れない。急速に仕事人間に変身中。東京は忙しい街だなあ。
『さくま式東海道五十三次』の打ち合わせ。
 完成寸前で、大幅な変更が入る。
 どうも、私としてはヒマつぶしでちょこっとできるゲームをめざ
しているのだが、NTTさん側は、本格的なゲームをめざしている
ようだ。
 あんな小さな端末機でプレイステーションをめざして、どうしよ
うというのだろうか? どう考えても、現在ゲーム業界が直面して
いる危機に向かって、必死ににじり寄っているとしか思えない。

 しかもプレイステーションより、全然利益が出ないから、これか
らゲーム業界が続々iモードに、参入してくるようだけど、あっと
いうまに撤退するか、倒産の原因になってしまうと思うなあ。

 午後9時。帰宅。
 けっきょくそのまま、『さくま式東海道五十三次』の仕様書を手
直しに入る。きょうは徹夜になりそうだ。
 この調子じゃ、本当に本格的なゲームになってしまうぞ。
 プレイステーション用のゲームにすればよかった。
 後悔先に立たず。
 あっ。もう午前4時だ。
 出来には満足だけど、この先が思いやられる…。
 


11月27日(土)


 やっぱりiモードゲームの『さくま式東海道五十三次』は、朝ま
でかかってしまった。疲れた。

 午前11時30分。ひさびさに銀座の讃岐うどんのお店「さか田」
に行く。きょうは生しょうゆうどんの温かいほうを食べてみる。
 やっぱり生しょうゆうどんは、冷たいほうがいいな。

 午後12時。浜離宮。
 庭園として一度見てみたかった場所であり、きょうは古式豊かに
「鷹狩り」の放鷹術(ほうようじゅつ)を披露するというので、家
族3人揃って来てみた。
 
 しか〜し! いきなり出鼻をくじかれる。
 浜離宮の、65歳以上入場無料に対して文句は無いのだが、こっ
ちが入場券を買うために並んでいるところに、どんどん無料パスを
持って、横入りして行く。
 ジャマったらありゃしない。
 まわりを見て行動しないから進路妨害の繰り返しだ。

 あげくに、家族3人分の入場券を買ったのに、受付のバカおやじ
が、私が入場券を買っていないといいがかりをつけてくる!
 もう完全に頭に来たっ!
 無料パスの入場口と、入場券を買う場所を別にすればすむことを
しないあげくに、人を犯人呼ばわりする。あまりにも頭に来たので、
受付のおやじをデジカメして。「こいつだ!」とここで公開してや
とうと思ったのだが、窓ガラスがジャマして、光ってしまう。くや
しいったらありゃしない。

 さらにその「放鷹術(ほうようじゅつ)」の会場。
 これがまた説明不足の嵐。
 ロープも看板も置かずに、「そこに座らないでください!」と思
いやりのない年増女の、アナウンスが流れる。
 おかげで広い芝生に、まるで鞄のなかに立てかけておいたお弁当
のご飯が片方に寄ってしまったかのように、お客さんたちはくしゃ
っと固まっている。
 一方は、まったく広々と開いている。
 またしても感情のない女のアナウンス。
「お客様は空いている席におすわりください」。
 この言葉にだまされてはいけない。
 しばらくするとその女、「イス席は、イス席協賛の方のみおすわ
りください!」と矛盾したことを平気でいう。
 その後も、その女は「例年通り…」「例年通り…」という言葉を
繰り返す。言ってる言葉は、まるでウインドウズのヘルプの文章の
ようにわかりづらい。
鷹狩り
    せっかく、『当方見聞録』でおなじみのあべまきこサン、汐崎隼 さん、さらにあんくるクンまで、この「放鷹術(ほうようじゅつ)」 を見に来ていたのに、たいした話をする間もなく、私はこの場を去 りたくなってしまった。  けっきょく午後1時開始の「放鷹術(ほうようじゅつ)」を見ず に、「寿司だ! 寿司行こう!」とわけのわからない言葉を吐きな がら、わが家族は退散することにした。  はたして、「寿司だ!」の意味する物は?  浜離宮が築地に近いからと思った人は、けっこういい勘をしてい る。しかしこのバカ家族はそんなくらいのことをわざわざ話題にし ない。  このバカ家族はまず、東京駅に行く。  キップを買って、地下の資生堂パーラーへ行く。  見るからに美味しそうなケーキの誘惑に簡単に陥落。  モンブラン、カラメルポワール、ショコラショコラミルクを食べ る。私が食べたショコラショコラミルクは本当においしかったよー。  午後1時45分。ひかり165号。  昨日10日間の旅行から帰って来たばかりなのに、また新幹線に 乗るのか〜? 乗るんだなあ、これが!  新幹線車内で『伊吹童子(仮)』のアイデア出し。  もう仕様書を書き始めたほうがいいくらい、熟成されて来た。ま だこのゲームに関して、契約書も何もかわしていないのだ。  早く作りたいぜっ。このゲーム!  午後2時45分。静岡着。  東海道本線に乗り換える。熱海方面へ向かう。  午後3時。清水駅着。  そう。いよいよ10月にオープンしたばかりの「おすしミュージ アム」に行くのだ。  やっと来れた!  駅からシャトルバスが出ている。  行った先は「エスパルス・ドリームプラザ」。  ちょうどJリーグ・2ndステージで清水エスパルスが初優勝し たばかりだから、街は昨年の横浜ベイスターズ優勝のときの横浜の ように、沸き立っていた。  ここに「おすしミュージアム」がある。
入り口
    しかし予想通り、「おすしミュージアム」は、横浜ラーメン博物 館と、ナムコなんじゃタウンの出来損ないであった。
内部 内部 内部
    何で最近こういうミュージアムはわざと昭和30年代のレトロ調 にする必要があるんだろうなあ。個性という名の無個性、無香性に なっているような気がする。  もっとまじめに「お寿司」について取り組んだほうがよかったと 思うのだが…。  話のたねに、1Fまぐろ広場で、まぐろの押し寿司1人前を家族 3人で食べた。一杯のかけそば…なわけないけど。まぐろだもん。
店内 まぐろの押し寿司
    この家族はおいしくないものだから、わずか1人前を「どうぞ!  どうぞ!」「おまえが食べろよ!」と譲り合ういやらしい家族であ った。    よかったのは、スタンプラリーのスタンプがイクラだったり、穴 子だったり、ガリだったりするとこぐらい。  この「おすしミュージアム」特有のグッズもなく、外からも入れ る売店のお土産品には全然見るべき物がない。  それよりこの「エスパルス・ドリームプラザ」は、巨大なジャス コのようなスーパーなのだが、こっちの充実ぶりは見事としか言い ようがない。  意味無くこの街に住んでみたいなと思わせたほどの充実ぶりだ。  家族3人、あわてるようにいろんな物を買いまくる。  昆布チップ、あべ川餅、あじサブレ、芋ちっぷ、サッカー揚げに は笑わされたなあ。
サッカー揚げ
    もともと静岡県は名産が多いから、本気でお土産品を作ると、そ の数の豊富さはものすごいものがある。  お茶、みかん、石垣いちご、サッカー、まぐろ、いわし、あべ川 餅、東海道五十三次、清水の次郎長、こいったものが、順列組み合 わせのように膨大なお土産品を作り出す。  ソフトクリームにしても、抹茶アイスに、オレンジアイスに、あ べ川アイスだって作ることができる。  あべ川アイスは絶品! これは絶対一度食べることをお勧めした い、1本のソフトの片方の側面が、きなこの味がして、もう片方が ちゃんと、あんこの味がする。これは画期的だ!  このドリーム・プラザは、清水港にも面しているので、散歩して も、気持ちがいい。ヨットハーバーが目の前にあるし、連山は見え るし、景色としてはいたれりつくせり。
港
    大満足で、ドリームプラザを後にする。  このとき、2Fに「ちびまる子ちゃん」のミュージアムだか、グ ッズ・ショップだかがあるのを思い出す。手遅れ! 今度もう一度 来よう! このドリーム・プラザ1Fの「清水みなと広場」で心ゆ くまで、おそうざいを買いまくりたいものだ。  午後5時。江尻東にある「末廣鮨(すえひろずし)」に行く。  この「末廣鮨」ぐらい、お寿司の特集になると登場するお寿司屋 はない。しかもマグロのおいしいことで、とくに有名。  その代わり、ひとり10万円したとか、接客が悪いとか、毀誉褒 貶入り乱れ、いろんな噂も多くて、ずっと足が遠のいていた。  最近こういうお店もとにかく自分で行ってみて、自分の目で確か めようと思うようになった。  で、その末廣鮨。  おまかせで一人前を注文すると、いきなりマグロが出てくる。何 だか番組開始と同時にウルトラマンがスペシウム光線を飛ばしてし まったようだ。  んまいっっっ! まいった! これはうまいっっっ!  グルメ・バカ娘は早くも目をとろ〜んとさせて、「しあわせ〜」 とつぶやき始めている。  やばいぞ。こんな値段の高いお店、このバカ家族が気に入ってし まった場合、どうすりゃいいのさ。毎回新幹線つかって、ここまで 来るのか? 来るぞ、この家族は!    カツオがうまい! ヒラメのえんがわに、すだちが垂らしてあっ て、何ておいしいんだっ!  穴子をなんと海苔で巻いて出す。これが天にものぼるおいしさ。  穴子はもう一種。もうほろほろにやわらかい握り。  アリtoキリギリスの石井正則くんの奥さんにこの場所を教えて あげないと! いや、このおいしさだ、とてもわが食い道楽家族も 二度と来れない値段かもしれない。  あまりのおいしさに、だんだんひとり10万円説が少しずつ濃い ものになっていく。  さらに、甘海老を巻いた握り、アジの握り、どれも絶品が続いた あげくに、まいったねえ、大トロをつかった、鉄火巻き!  これはもう卑怯だよ!  日本のオールスター戦を見に行ったら、大リーグのオールスター ゲームだったみたいだ。もうマクガイヤというより、バイアグラと いうぐらい、豪快な味だ。  何でお寿司屋さんの海苔って、美味しいんだろーねー!  一人前終了。 「ほかに何か?」  グルメ・バカ娘が蚊の鳴くような小さな声で「トロ…」と言いか ける。「や・め・ろ…」。私も小声で答える。  ひとり10万円説のあるお店で、「トロをもう一度はやめろ!」。  とにかくきょうは初めてだから、一人前でやめて様子を見よう。  味もいいし、接客もいい。  気さくなお兄ちゃんが恥ずかしそうにしゃべってくるし、ご主人 も気軽に話してくる。法外な値段を要求してくるようなお店の態度 ではない。  これで値段が高かったら、どうしよう。  絶対グルメ・バカ娘はまた来たいと言い出すに決まっている。
末廣鮨 末廣鮨
    お勘定。なかなかおばちゃんがレジに現れないで、ちょっと不安 になって来る。そ、そんなに値段高いのか?  現れた。値段をいう。へ? そんなに安いの?  銀座のお寿司屋さんより、全然安い!  ええっ! もう一度カウンターに戻って、トロを注文するか。そ りゃ下品だ。  う〜〜〜ん。これでただでさえ豊富なお寿司屋さん先発陣に、と んでもないFA選手が加わってしまった。  帰りの東海道本線でグルメ・バカ娘に、「末廣鮨」の評価を聞い たら、あの人形町の「喜(き)寿司」と並ぶというではないか!  いきなり初登場、同率2位だ! ちなみに1位は、六本木の「兼 定(かねさだ)」だそうだ。  午後6時34分。ひかり170号。  最高に満足顔のバカ家族は、新幹線のなかで、ぐうぐういびきを かきながら寝てましたとさ…。  お寿司食って、寝る。  これほど幸せなことはない。  東京駅に着いても、新幹線から降りたくない…。  FA選手は、お金がかかりそうだ。  来年は静岡に何回か行きそうだなあ。  午後8時。帰宅。  しばしベッドに寝転び、余韻を味わう。  きょうは休もう。 
 


11月28日(日)


 朝から『伊吹童子(仮)』のまとめ書きの手直し。
 きょう大阪から帰京する福本岳史大々々々々々大先生!に、こ
のまとめ書きの原稿をお見せしないといけないからだ。ふふふ。

午前11時。最古参の友人・最上谷(もがみや)学が来る。
私と嫁と最上谷の3人で、麻布十番へ。
ニッポンの正しい洋食屋さん「EDOYA(えどや)」に行く。
かきの季節だ。嫁と最上谷は、かきのベーコン巻き。私はやっぱ
りメンチカツを食べる。
生ガキ ベーコン巻き
   午後12時。「浪花屋総本店」に行く。たいやきお店。このお 店に来ると、昔の自分の家を思い出す。40年前のわが家の作り とそっくりなのだ。 おなじように、古い大きなかき氷があって、タイル張りの壁が あった似たような商店だった。
アイス 鯛焼き
   午後1時。麻布十番界隈を散歩。 嫁が「生チョコ」と書かれた看板を見つける。でもブティック があるだけで、どこにもお菓子屋さんはない。 と思ったら、なんとそのブティックが生チョコを売っていると いうではないか。あまりもおもしろいので、ブティックで生チョ コを買う。 ジュネーブから、洋服といっしょに輸入しているようだ。なる ほどね。「WITH A SMILE」という名前のお店。麻布 十番にはこういう不思議なお店が多い。 午後1時30分。帰宅。最上谷学とはここで別れて、私はお仕 事。『伊吹童子(仮)』の続き。 午後2時30分。原宿の美容室「ヘアストリート」に行く。 午後4時30分。表参道の「ロイヤルホスト」で、文豪・福本岳 史氏と待ち合わせ。ははは。誉め殺しすると必要以上に福ちゃん が動揺するので、からかうのはこれくらいにしておこう。 嫁も合流。 来年以降の仕事をどうするか。どのゲームに福ちゃんが参加す るかを決める。けっきょくほとんどのゲームに参加することに。 グルメ・バカ娘も合流。 午後6時30分。家族3人と福ちゃんの4人で、青山「ほの 字」で食事。生のりの味噌汁とか、肉じゃが、コロッケといった 居酒屋さんにしては美味しいのだが、料理が出てくるテンポが悪 いのが難点。もう帰ろうとするときに、ほこっとまだ料理が出て くる。 午後9時。帰宅。 『さくま式人生ゲーム2(仮)』の仕様書作りを再開。
 


11月29日(月)


 昨夜、iモードゲーム『さくま式東海道五十三次』の最後の原
稿をインデックスさんに送る。
 明後日から、もう配信開始だ。
 おもしろいよー! ぜひ感想を送ってねー!
 とくに読みづらいところとか、読み込みが遅いと感じたところ
の感想なんかがほしい。

午前11時30分。嫁と渋谷109の8F「紅虎餃子房(べにと
らぎょうざぼう)」に行く。
 いつも行く麻布十番よりも渋谷のほうが近いので来てみた。
 まったくおなじような作りだったので、味もおなじだと思った
のだが、微妙に麻布十番のほうが美味しく感じられたのはなぜだ
ろう? 気のせいかな?
 鉄鍋餃子に、高菜の土鍋ご飯。

 食後、渋谷界隈を散歩。銀行寄ったり、HMVでビデオ買った
り、おなじみブックファーストに寄って、1Fの喫茶店「マ・メ
ゾン」で、カフェオレ。
 最後は東急百貨店本店地下街で買い物したら、家に帰る。

 最近このコースが、完全にパターンになって来たなあ。

 午後1時30分。帰宅。
 旅行中にたまっていた『ほんのチョイ係』にコメント。
 さすがに今回少ないよ。膨大な量なんだもん。全部目は通した
からね。

 夕方、漫画家の山本貴嗣(あつじ)くんと長電話。
 かなりひどい盲腸炎で入院したそうだ。
 生まれて初めて連載を休んだといっていた。そういう年齢なん
だなあ、みんな。

 午後6時。大分県で買ってきた、だんご汁を家族3人で食べる。
かぼすこんこんも食べる。まるで大分物産展みたいだ。
 冬はやっぱり鍋がおいしいねー。

 食後、『さくま式人生ゲーム2(仮)』の仕様書作り。メッセージ
部分が多すぎてまとまらない。くそー。
 
 きょうはこれから鍼灸師の弓削くんに来てもらうので、あまり
仕事ができない。困ったなあ。
 


11月30日(火)


 朝から『さくま式人生ゲーム2(仮)』の仕様書造り。
 どうもあいだに、新作『桃太郎電鉄』とか『伊吹童子(仮)』と
か、iモードの『さくま式東海道五十三次』とか入ると、すっか
り前のゲームの内容を忘れてしまう。
 今なんかほとんど『桃太郎電鉄V』の内容忘れてるもんね。ま
だ発売にもなっていないのに。
 どうしたらいいんだろう。

 午前11時30分。嫁と赤坂のおそば屋さん『砂場』に行く。
玉子が甘くて、大根おろしと見事に合っていて、おいしい。おそ
ばのほうも、たれが甘くて好み!
 やっぱり『砂場』のおそばは、安心印だな。んまいっ!
 ただいま減量中なので、ざる1枚でやめたのが、苦しい!

 午後1時。TBS。おなじみ『有限会社 桃太郎商店』の録音。
 このお仕事に行くのは本当に楽しみ。ピクニックに行くみたい
だ。きょうは九州旅行で買って来たお土産を持っていくので、こ
とさら楽しい。
 アリtoキリギリスの石井正則くんと、放送作家の福本岳史く
んには、色違いのTシャツをプレゼント。別府の地獄めぐりで買
って来た、「毎日が地獄です」というやつ。
 石塚義之くんと、吉野紗香ちゃんには、シイタケの格好した携
帯ストラップ。さらに吉野紗香ちゃんには、とんこつラーメン・
スナックと、清水で買って来たあじサブレー。
 とんこつラーメン・スナックは吉野紗香ちゃんにバカ受け。

 放送のほうは、1ヶ月前に大阪の番組収録中に、頭を岩にぶつ
けて以来、ずっとハイテンションの石塚義之くんの快進撃がまだ
続いている。

 録音中、雑談で吉野紗香ちゃんが「しゃぶしゃぶ食べた〜〜〜
い!」と言い出して、みんなでしゃぶしゃぶ談義。
 私は食べさせたい魔だから「あ〜、吉野紗香ちゃんと若い時に
出会わなくてよかったなあ。思い切り貢いで、貢いで、貯金すっ
からかんになっただろうなあ!」というと、福ちゃんが「さくま
サン、今も…」と言う。
 言われてみれば、そうだ。
 私は嫁とグルメ・バカ娘とふたりにうまい物ばかり食べさせて、
貢いでいるではないか! 吉野紗香ちゃんならひとりですむぞ!
 とわけのわからない会話。

 それときょうは石井正則くんが大ファンだといっていた、漫画
家のみずしな孝之くんWITHこむらなるなりクンをスタジオに呼
んでいたので、人数的にも、ものすごい活気だ。
 これだけの人数でごったがえすラジオって、珍しいよなあ。
集合 左から→石塚くん、さくま、みずしなクン、こむらクン、紗香ちゃん、石井くん
    さらに番組終了後も、『アニラジ・グランプリ』の取材、その あとTBSの1Fの喫茶店に場所を移して、私だけ『オリコン・ ウィークリー』の取材。担当は上野拓人くん。ほぼ1年ぶりのご 無沙汰。 『桃太郎電鉄V』の取材なので、内容思い出すのに必死。  ハドソンの武田学くんに助けてもらう。  午後5時30分。神宮3丁目の「ナチュラル・ハーモニー」と いう自然食品のお店に行く。私の好きな玄米ご飯に、黒ごまかけ 放題というのが、うれしいじゃありませんか!  黒豆の納豆オムレツがおいしかったー!  ずっとこのお店、自宅の近所で、あの「穂積」に行く途中にあ ったんだけど、原宿にありがちなパスタのお店だとばかり思い込 んでいた。これはいいお店を見つけた!…と思ったら、嫁とグル メ・バカ娘は私がいないとき、何回かここに来ていたそうだ。  くやしい!  午後7時。帰宅。  再び『さくま式人生ゲーム2(仮)』の仕様書作り。  うむむむむむ。このゲーム、むちゃくちゃメッセージが多いん だけど、そのメッセージが埋まっていない問題にいよいよ直面!  福ちゃんに、いっぱい書かせようと企んでいるんだけど、その データ作りというか、大半の文章は自分で書いておかないといけ ないので、福ちゃんを苛める前に、自分を苛めるはめになってし まった。  きょうはのんびり、映画のひとつも見ようと思ってたのになあ。  お仕事、お仕事。嫁と娘においしい物を食べさせるために、お 仕事、お仕事!
 

-(c)1999/SAKUMA-