6月8日(火)


 午前11時。嫁とふたりで表参道の炊き立てのご飯が食べられるお店「田んぼ」
に行く。食材がまだ届かないとかで、お店で待たされる。
 ちょっと待って、鯵(アジ)おひつ膳を食べる。
 ご飯が本当に美味しい!
 おなじお店が代々木にもあるのだが、こっちのお店のほうが圧倒的に美味しい。
おなじメニューなのに、どうしてこんなに味が違うんだろう。
 
 午後12時30分。青山の喫茶店「カフェMadu」でお茶を飲む。
 オープンカフェで後ろに座っていたお客さんの声が、アリtoキリギリスの石井
正則くんにそっくりなんで、気になって、気になって、嫁との会話が止まってしま
う。顔もちっとも似てないのになあ。
 こういう風に、喫茶店なんかで、やたらと声が乱入してきて、うるさいと感じる
時って無い?
 たまに喫茶店で、ゲームのアイデア出ししてる時に、おばちゃんの「ガハハハハ
ハッ!」が乱入して来て、耳障りで仕方が無いときがある。

 表参道を原宿方向へ、散歩しながら歩く。
 キディランドなど覗く。
 寄り道などしてるので、歩き疲れて、へばる。
 天気もいいので、汗ばむ。

 午後1時30分。家にたどり着く頃には、けっこう汗びっしょり。洋服を着替え
ないといけないくらいになる。

 午後2時。ビー・アール・サーカス出版の新見知明さんと、森澤明夫さんが来る。
 年末発売予定の『さくまあきらバラエティ・ブック(仮)』の聞き書き取材第2
弾!
 前回のゲーム編に続き、きょうはチョコバナナ編。
 う〜ん。きょうはしゃべりづらい。
 結果がまだ出ていないものを語るのは難しい。
 現在あるデータだけ見れば、休刊という単語しかないので、いかんともしがたい。
 未来を語るなら、高内優向(旧・えんらえんら)さんが『さくま式人生ゲーム2
(仮)』に大抜てきされたとか、現在ある雑誌で、投稿者のひとりが連載になりそ
うとか、無いわけでは無いのだが、今が無い。
 話は、チョコバナナから、なぜ『チョコバナナ』を作るに至ったかという、私の
子ども時代の話に移る。
 ほとんど私の生い立ちというのは、昔サンデー毎日に一度語ったことしか無いの
だが、今回はそろそろ生い立ちなどもぽつぽつと語ってみようと思う。
 3〜4歳で母を亡くし、6歳の時に来た継母に苛められてというありがちな話が
いよいよ公開されそうである。
 別に話したくなくて、ここまで来たのではなく、信じてもらえないだろうという
のと、おいしい話だから、とっておいたということもある。
 この辺のことが読めるだけでも、この本は貴重なものになるかもしれない。

 午後5時30分。取材終了。
 この本づくりは、従来の出版界の匂いがぷんぷんして楽しい。

 午後6時30分。六本木のうどん屋「松兵衛」へひとりで行く。
 ごまだれうどんが妙に美味しい。
 実はこれからこのところマイブームのなつかしの外国人アーティストのコンサート
を見に行く。
 その人の名前は、ドノバン。
 この日記を読んでる若者のお父さん、お母さんが聞いても、知らない名前だろうな
あ。
 ボブ・ディランなら、昔の人なら、必ず知ってる。
 今でも、音楽好きなら、知っていて当たり前の人だ。
 ホフ・ディランの元ネタの人ね。

 このボブ・ディランを、手塚治虫さんとするなら、ドノバンは、石ノ森章太郎さん
のところに位置する人なのだ。
 知らない? う〜ん、困ったなあ。
 一応、きょうも嫁を誘ったことは、誘った。
 とても強くは誘えない。
 有名ではないのは、百も承知だ。
 しかも当時から反戦フォークなんかを歌っていて、とてもナーバスな人というイメ
ージがある。

 嫁も行くかどうか悩んだのだろう。
「しいていうなら、顔は誰に似てるの?」
「う〜ん、志茂田景樹(しもだかげき)!」
 し、し、しまった! よりによって、なんちゅー行きたい気が削げるような名前が、
口を突いて出てしまったんだあ!

 というわけで、とぼとぼ、きょうはひとり淋しく行くコンサートになってしまった。
 口はわざわいの元だ。
 ウソでもショーン・コネリーにそっくりだとか言っておけばよかった。でも、顎
(あご)の辺が、志茂田景樹(しもだかげき)にそっくりなんだもん。一番の特徴の
ところだし…。

 午後7時。場所はいつもの六本木「Sweet basil139」。
 モンキーズとハーマンズハーミッツを見た場所だ。
 フロントで7000円を払って、会場へ。
 ん? ん? おや?
 手を振っている人がいるぞ?
 ありゃ? 
 漫画評論家で、コミックマーケット代表の米沢嘉博(よねざわよしひろ)くんでは
ないか!
 奥さんもいた。もうひとり女性がいて、コミックマーケットの運営委員だそうだ。
 ちょうど4人席に、3人だったので、いっしょに見ることに。
 いやあ、やっぱり同世代の業界人がいるもんだなあ。
 米沢嘉博くんとは、おなじ年だから、音楽の趣味もかなり近い。
 米沢くん夫婦は、先週のシルビー・バルタンも見に来たそうだ。
 やるなー! 先週行こうかどうしようか、ずっと悩んでいたアーティストだ。
 聞けば、米沢くん夫婦は、もうここに来たのは4度目くらいだという。
 しばらく外国人アーティストの話で盛り上がる。
 もともと奥さんも、高校生だった頃から知ってるので、米沢くん夫婦とは、30年
ぐらいの付き合いになる。
 一時期は、私も漫画評論家だったので、同業者だったのだ。
 もはや漫画評論家だったことを知ってる人も少ないねーという話にも。

 午後7時30分。いよいよ開演。
 スタッフが、暗闇のなか、フォークギターを一本置きに来たと思ったら、それがド
ノバンであった。
 かなり太ってしまったようだが、確かにドノバンだ。
 ギター1本で座ったまま、懐かしい細い声で、歌が始める。
 次々に、思い出の曲が飛び出す。
 お、この曲は!
 う〜む、しまった! この曲があったか!
 誰も知っている『ドナ・ドナ』である。
『ドナ・ドナ』はドノバンのヒット曲だったのを、忘れていた。
『ドナ・ドナ』を歌っている人だと、嫁に言えばよかったー!
 少なくともグルメ・バカ娘は絶対来たはずだ。惜しむらくは、グルメ・バカ娘は
『ドナ・ドナ』をギャグの曲だと思ってることだ。

 その後も私たちの世代にはなつかしい『霧のマウンテン』『メローイエロー』『ジ
ェニファー・エコーズ』『カラーズ』、あの天才ギタリスト・ジェフ・ベックとデュ
エットして大ヒットした『バラバジャガ』まで歌う。
 神経質な歌手だと思い込んでいたけど、ものすごく庶民的。
 終いには、腰にたっぷりついたお肉をぶるぶる震わせて、踊りながら歌う姿まで見
られるとは思ってもいなかった。
 ちょっと米沢くん夫婦も、あまりにもフレンドリーな歌いっぷりには苦笑していた。
 でも老人アーティストにしては、ものすごく声が出ていて、活躍した1970年代
の頃より、ずいぶんといい声になったねーと、おなじ意見。

 観客に陽気すぎる外国人のお客さんたちがいて、ドノバンを煽るもんだから、相当
ドノバンも乗っていたようだ。
 こういう年の取り方ができるシンガーはいいねえー。
 
 午後9時30分。アンコールが2回もあったほど、盛り上がる。
 しばらく米沢くん夫婦と、昔話などして帰る。

 午後10時。帰宅。
 ありゃ? 嫁と娘がいない!
 どこかに食事しに行ったままのようだ。
 漫画家の山本貴嗣くんと電話。知り合いが『ウルトラジャンプ』でデビューしたそ
うだ。わざわざコピーを送ってくれた。
 伊藤悠さんという人で、絵柄は古いけど、力強いペンタッチは、とても21歳の女
性とは思えない勢いがある。
 ちょっと注目してみたい。

 午後11時。グルメ・バカ娘が「不良で〜〜〜〜〜す!」と言いながら、嫁といっ
しょに帰って来る。
 ハイテンションだが、明日はきっと、ぶすっとしてるぞ。
 今時毎日10時間も寝るガキだからな。
 めっぽう睡眠不足に弱い。

 さ〜て、一昨日京都から帰ってきたばかりだけど、また明日から京都である。そう。
ドノバンのために帰って来たのだ。
 6月10日は、すぎやまこういち先生ご夫妻、北岡さんご夫妻と、讃岐うどんを食
べに、香川県まで行く。
 マイクロバスを借り切って、大人の修学旅行だ!
 行って来ま〜〜〜す!


-(c)1999/SAKUMA-