6月6日(日)


 きょうも京都のマンションで起床。
 午前9時にはでかけられるようにしないとなあ、と思って寝たら、午前6時に目が
覚めてしまった。
 こりゃ、まいった。早すぎる。
 眠れないので、歴史の本を引っぱり出して来て、きょう行く先のプランを練る。
 最終的には、名古屋の桶狭間(おけはざま)祭りに行く。
 その前の時間をどうするかだ。
 予定としては、午前9時すぎに、最古のさくまにあ・戸田圭祐が自宅からタクシー
で来て、私と税理士の赤根豊くんをマンションの前で拾って、夷川のパン屋さん「駸
々堂」に行くことになっている。
 なんて完璧なものぐさパターンな順路なんだ!
 こういうムダの無い動きを考えついたときほど、うれしいことはない!

 さて、歴史の本をパラパラと…。
 へ〜。尾張名古屋は城で持つと言われる、名古屋城は、徳川家康が息子の義直だか
に、建ててあげたお城だと思っていた。そのこと自体は間違いではないのだが、お城
を建てる作業は、豊臣秀吉の家臣である、あの虎退治で有名な加藤清正の手によるも
のらしい。
 加藤清正なら、豊臣ご恩顧の武将であるからして、秀吉びいきの私には俄然ターゲ
ットにふさわしいお城として、クローズアップされて来る。
 それまでは、単なるゴジラに潰されるだけのお城として認識されていただけである。
 よ〜し! きょうは名古屋城に行こう!

 午前8時30分。戸田圭祐から、今タクシーに乗りましたという連絡が入る! 
おい、それは早過ぎるぞ! 午前9時すぎに着けと言っておいただろうが! 乗って
しまったものは仕方ない。
 赤根豊くんに電話する。
「もう戸田圭祐がタクシーに乗ってしまったから、早く来てくれ〜〜〜い!」
 きょうこのまま最終的に、東京に帰るから、戸締まりしておかないといけないので
あわてる。クーラー消したよな。あっ、クーラーはつけてなかったんだ。
 電気は? お風呂場は?
 ピンポ〜〜〜〜〜ン!
 おお! 赤根豊くんが先に着いたか、それはよかった!
「すみませ〜〜〜〜〜ん、戸田圭祐です! 30分かかると思った道が、日曜日なの
で、10分で着いちゃいました〜〜〜!」
「あほんだら〜〜〜!」
 はっはっは。笑うしかない。
 せっかくプランニングした、完璧なるものぐさは、戸田圭祐のヘマであっけなく消
え去った。
 まるで横浜ベイスターズ・駒田のチャンスにおける、ボテボテの併殺打のようであ
った。チャン、チャン!

 午前9時。近所のパン屋さん「志津屋」で、軽い朝食。
 戸田圭祐は何度も「えろう、すんまへん!」を連発する。
 赤根豊くんは連日の巨人大逆転負けに不機嫌。
 負けた相手は横浜ベイスターズだったりする。
 私だけ上機嫌。

 午前10時10分。京都駅。のぞみ号で、名古屋へ。
 おっ、おっ、おっ! この妙ちきりんな車体は!
 おっと! 700系のぞみ号ではないやかいかいかい!!
 これはナイスな偶然!
 名古屋まで30分とちょっとしか無いのが残念だけど、初めて乗るので、とにかく
うれしい。
 ほう。居住性がどうのというのを売りにしているだけあって、座席と座席の間がえ
らく広い。
 乗り心地は本当にいい。とにかく全然揺れない。これは感動的!
 トイレに行こうとしても、よろよろしない。
 トイレは残念ながら、新しい部分はまったくなかったなあ。
 でもこの揺れない車両は、今後数が増えたら、ごひいきにしよう。

 それにしても本当はもっと速く走れるはずなのに、JR同士のいがみ合いのせいで、
速くできないのは、現代もまた悪代官たちがはびこる世の中なのかなあと思ってしま
う。

 車中、赤根豊くんと経営の話。
 最終連結赤字といった、いつも日経新聞を読んでいて、わからない単語の意味を聞
く。

 午前10時46分。名古屋着。
 駅構内でコーヒーを飲む。
 
 午前11時30分。名古屋城。
   曇り空だったはずの天気が、ぐんぐんピーカンに!  こりゃ、暑いわい!   名古屋城のなかは、クーラーが作動しているようだけど、ほとんど効いていなくて、 歩いているうちに、ぼ〜〜としてくる。  これは完全に夏だな。  名古屋弁でいうと「でらまいった」かな?  いや「往生こいた!」かもしれない。  城内、いろいろ趣向を凝らしたパノラマなどあるのだが、どうも熱さでぼ〜〜とし て、ホメてあげる気になれない。  たぶん、おもしろいのだろう。  城の外に出ると、さらに暑さが増して、くらくらする。  とにかく昼ご飯をどこかで食べることにして、この場を去ろうということに。
  しゃちほこに乗る、さくまと赤根豊くん
   午後1時30分。大須のみそかつのお店「矢場(やば)とん」に行く。ものすごい 行列!  みそかつの美味しいお店として、ほかのお店が肩を並べることが無いくらい、有名。  私が、鉄板とんかつ、赤根豊くんが、ロースとんかつ、戸田圭祐が、わらじとんか つを注文する。それぞれ定食。  んまいっ! 前回来て食べた時より、数倍美味しい!  一体どういうことだ?  そうだ、前回ここで食べたのは、鹿児島産生黒豚ひれとんかつだったのだ。ちょっ とこれは味が上品過ぎた。  総じて、名古屋の食べ物は、チープそうな、下品そうな食べ物ほど、美味しい。  要するに、味の濃い料理は皆美味しいのだ。  というわけで、きょう食べた鉄板とんかつは絶品!  みそかつが、とんかつに染み込んで、濃〜い!  キャベツにまで、みそが染み込んで、甘〜い!
   さらにこれだけ行列がすごくて、有名なのに、お店の人たちの愛想がめちゃくちゃ いい! 「混雑してるところへ、よく来てくれました!」 「ゴマをふりかけると、おいしいですよー!」  有名なお店は「ふん!」と漫画のフキダシが出たまんまの婆(ババア)がいて、初 めて成立するというぐらい定番なのだが、このお店は本当に気分がいい。  みそかつなら、絶対この「矢場とん」である! 断言!  このお店も、赤根豊くんにごちそうになってしまう。  すばやくレシートを持って行かれるたびに、戸田圭祐が悔しがる。  きょうは朝からヘマをしてるので、なんとか挽回したいのだそうだ。  食後、またまたコーヒーを飲みたくなって、探すが、なかなか見つからない。かな り歩いて、パルコにたどりつき、喫茶店を探す。ここぞとばかりに、戸田圭祐くん、 挽回を狙って、聞き込みをするが、しっかり聞いてこず、詰めの甘さを露呈する。  がっくりうなだれる、戸田圭祐。  まあ、喫茶店ひとつ見つけるのに、そんなにムキにならんでもいいよと、なぐさめ る。  午後2時。さて、けっこう時間がなくなって来て、桶狭間祭りに間に合わないかも しれなくなって来たので、高速道路で行くことに。  女性のタクシードライバーの方で、ちょっと急いでいると言ったら、まるでアメリ カ映画のカーチェイスのような速さで、飛ばす、飛ばす! 急カーブの連発でちょっ と気持ち悪くなったほど。  おかげで、20分ぐらいで、桶狭間祭りの会場である、高徳院(こうとくいん)に 着いてしまった。  ここで、桶狭間の合戦を軽く解説。  1560年。今川義元という静岡出身のお公家さん風の武将がいて、この今川さん が、100万石という、大金持ち。  いよいよ京都に乗り込んで、天下に号令をかけようと、東海道を西へ西へと兵を動 かした。  ほとんど日本版ゴジラで、行く先々のお城を乗っ取って行った。  この行く途中にいたのが、織田の信ちゃんこと、織田信長!  わずか15〜6万石。  まあ、ほとんど兵力10分の1。  とても勝ち目なんて、ありゃしない。  どうせ負けるならと、織田信長は、この桶狭間で休憩していた、今川義元の本陣に 奇襲をかけ、見事今川義元の首を取ってしまったのだ。  これが織田信長を一躍有名にした、桶狭間の戦いである。  教科書などでは「桶狭間の戦い」と書いてあるけど、正しくは「田楽狭間(でんが くはざま)の戦い」。  桶狭間というのは、この地方一帯のことで、古戦場があった場所は、田楽狭間(で んがくはざま)なのである。  バス停や、地名に、やたらと「桶狭間」の文字がたくさん見えるので、どうしても 「桶狭間の戦い」と言ってしまうのだろう。  勉強のできない人間にとっては「田楽狭間の戦い」のほうが、覚えやすいし、何や ら美味しそうである。  午後3時まで、桶狭間古戦場史料館で時間をつぶす。  けっこう出来の良いビデオの放映があって、楽しい。しかも上映時間が決まってい なくて「途中から見たんで、始めから見せてください」というと「あいよー!」と、 また上映してくれる、のどかさ。  午後3時。いよいよ武者行列が、高徳院の長い坂道を上がって来た。まずは今川の 軍勢から…と書くと、大規模なお祭りを想像すると思うけど、見物人も合わせて、 1000人行かないぐらいの規模。  村の鎮守のお祭りといった感じかな?  で、今川の軍勢は、10数人!  続いて来た、甲冑同好会のメンバー数10人。  お祭りの主旨を理解していない子どもたちだ。  暑さでへとへとになっている。そりゃこんな重い甲冑なんか着てるんだから、無理 もない。  最後は織田信長の軍勢、数10人。  けっきょく武者行列全部合わせても、300人行かない。
   大の歴史マニアの赤根豊くんは、がっくりしていたが、旅行のガイドブックにも載 っていないお祭りなのだから、そんな大規模を期待してはいけない。  私たちも、行列に合わせて、移動する。  あっ! 観客のなかに、2日前に会ったばかりの、中尾淳がいるではないか! う ひゃ〜!  パチンコ屋さんのバイトで来ないだろうと思い込んでいたので、意表を突かれた。  わけもなく、新旧鞄持ち、夢の?顔合わせということで、戸田圭祐と中尾淳のツー ショットをデジカメで撮る。  どうも今回私はデジカメ初体験なんだけど、被写体に恵まれない。
   午後3時30分。駐車場をつかってイベントが始まる。豊明市長の挨拶がマイクの 故障などで伸びるやら、田舎らしいトラブルの続出のまま、式次第が進む。  そのうち、東京から来た、講談の一龍斎なんとかサンの講釈で「桶狭間合戦絵図」 と呼ばれる演劇が始まる。  あまりのひどい演技にあきれかえる。  予想はしていたけど、ひどすぎる。  田舎芝居という蔑視した言い方があるけど、それ以下。  演技のできない人たちを、口であっちへこっちへ誘導するだけ。  とても最後まで見る気がしないので、帰ることに。  午後4時。モスバーガーで改めて、中尾淳を、赤根豊くんと戸田圭祐に紹介する。  中尾淳は、発売されたばかりの『桃太郎伝説4コマバトル』(光文社)を2人に見 せる。 「中尾くん、なんで自分が載っていないほうの本をわざわざ見せるの? どうせなら 自分の絵が載ってる衆芸社版を持って来てアピールすればいいのに」 「あちゃー! またやってしまった」  相変わらず笑わせてくれる。  2人に中尾淳の印象を聞く。  戸田圭祐は「10年前の自分を見てるみたいですなー。それにしても見た目が若い ですね。高校生でも通りますねー」 「いくつですか?」 「23歳です」  赤根豊くんは「彼はなんかやりそうですねー! がんばりそうですよー!」 「ええ! うわー! うれしーなー!」と喜ぶ、中尾淳。 「あとは自分次第ですけどね!」  チャン、チャン!  午後6時。名古屋大門にある味噌煮込みうどんのお店「山本屋本店」へ行く。中尾 淳は、パチンコ屋さんのバイトで帰る。  冷たいおしぼりで顔を拭くと、ほこりがべっとり。  ひさしぶりだねー、顔がほこりまみれになるなんて。  東京にずっと住んでいると、ほこりがつくことも少ない。  3人とも本当は、お昼のみそかつがまだ臓腑に残っていて、お腹はすいてなかった。  でもいざ食べると、2人とも「美味しい! 美味しい!」を連発。  すっかりたいらげてしまう。  というわけで、今回の名古屋らしい食べ物は、みそかつと、味噌煮込みうどんを選 んでみた。  次回ホワイト餃子をリサーチしてみよう。    午後7時。発車までほとんど時間のない新幹線ひかり号を予約してしまったので、 お土産を買う間もなく、赤根豊くんと私は東京へ。戸田圭祐は大阪へ向かう。  赤根豊くんは「安土城に登った思い出は、一生忘れませんね。またこういう旅行し ましょう!」。 「その前に、赤根くんは嫁さんと旅行しないとね」  歴史好き同士の旅は、どんどん女いらずになってしまうから、気をつけないとね。  きょうも桶狭間のモスバーガーで、大人3人、中尾淳をほったらかして、歴史の話 に熱中してしまった。  麻雀の知らない人間にとって、脇で延々麻雀の話をされるようなものだ。私は麻雀 好きだけど。  自重しないと。  午後9時30分。帰宅。グルメ・バカ娘がハイテンションで迎える。どうやら私の デジカメ初体験は全部写っていたようで、グルメ・バカ娘は中尾淳の大アップの顔 (6/4)を見て「きゃはははは! 中尾くん、顔が変になっている!」と大笑いする。  グルメ・バカ娘は、中尾淳が大好きだ。  ほとんど同級生と思っているのは、問題だが…。

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