3月5日(金)


 午前9時すぎ。昨日のアイデア散歩が不完全燃焼だったので、どこか遠くにでかけ
たくなる。

 午前10時36分。京都駅。スーパーくろしお13号は、和歌山をめざして、発車
する。
 車体の横に太いエメラルド・グリーンの帯が描かれた、きれいな電車だ。グリーン
車が、パノラマ仕様だというので、グリーン車にする。1列が2席、通路、1席の、
広い座席で気持ちいい。
 しかしパノラマというのが、ちっともパノラマでなく、ふつうの特急列車の窓より、
ちょっとだけ広いかな?という程度。
 しかも私の座席は、ちょうど柱のところだから、視界はきわめて悪い。

 きょうは前から狙っていた京都→和歌山→奈良→京都と回る、三角トライアングル・
バカ旅行にチャレンジするのだ。
 ただ三角形のところを電車で行くだけの決しておもしろい旅ではない。おなじ路線
を往復するだけの旅が嫌いで、必ず行きと帰りは違う道を通る私には、三角形で行け
る旅は、一番うれしいのだ。

 車内で朝食。伊勢丹デパート地下で買って来たアンデルセンのミニバラ7〜8個に、
阿蘇の宮水。
 簡単な朝食だ。

 車中、ゲームのアイデア出し。
 やっぱり電車のなかだと、アイデア出しは、好調!
 このスーパーくろしお号は、鉄道マニアにはとっても不評な車輌だ。曲がりくねっ
た紀勢本線をスピードを落とさなくても、カーブを曲がれると言うことで、振り子を
つかっているのだ。
 振り子電車と呼ばれて、その乗り心地の悪さが不評を買っているのだが、けっこう
快適。

 アイデア出しの調子もいいし、電車も速いので、気まぐれな私は、和歌山の先の、
御坊(ごぼう)駅まで行くことにする。
 御坊(ごぼう)駅。
 まるで『桃太郎電鉄』のためにあるような名前の駅名だ。すでに鉄道クイズで出題
したような気もする。

 次の駅で、じっさいにある駅名は?
    ・ごぼう
    ・はくさい
    ・きゅうり
    ・にんじん

 しかし、人間の運命などというものは、ちょっとした変更から大きく変わってしま
うものだ。
 乗車変更が完了して、電車が和歌山駅に近づくあたりから、スーパーくろしお号は、
振り子電車の本領を発揮して、揺れる! 揺れる! これが振り子電車か! 
 最古のさくまにあ・戸田圭祐が「あれは酔いまっせ!」と言って いたことを思い
出す。このことか!
 和歌山の次の駅が、御坊だから、まあ、いいかとも思ったのだが、まるでNASA
の宇宙飛行士テストみたいに、揺れる。
 ついにトイレに立ったとき、ドシーン!と、通路に思い切り肩をぶつけてしまった。
とても通路を歩くことができない。少し電車がまっすぐ走るようになった隙に、歩こ
うとするが、またカーブにさしかかって、ドシーン! 座席の角で、腰を打った!
 痛い! 手足が不自由だから、安定が悪いことは確かなのだが、それにしてもこの
揺れ方は尋常ではない。
 パニック映画に出演してるんじゃないんだから、カンベンしてくれよ〜! 道理で、
この電車の乗客が少ないわけだ!
 私も絶対二度とこの電車には乗りたくないぞ!

 午後12時30分。御坊に到着。
 御坊で降りたのは、名前がおもしろいからだけではない。
 御坊駅から出ている紀州鉄道というのが、実は全長わずか2.7H。日本で一番短い
鉄道路線なのだ。
 これは一度乗っておかないと『桃太郎電鉄』の作者として、名が廃る。よくしたも
ので、0番線から発車するという。格好いいではないか!
 しかし電車はホームにない。
 駅の表示板にも、この電車について書いていない。
 どうせなら「日本一短い鉄道」として、宣伝すればいいのに!
 時刻表で調べたら、1時間に1本走るかどうかなのだ。
 特急じゃないんだから!
 それを待っていては、この先に進めなくなる。
 
 紀州鉄道をあきらめて、駅構内の「御坊の名産」コーナーを見る。
 御坊ピーマンというのが、笑える。ゴボウピーマンだ。
 妙な町だなと思っていると、今度は、ジャンボかまぼこ。
 重さ15kgだそうだ。名前がおもしろくて「ジャンボコ」!
 但し書きを読むと、宴会やパーティにどうぞ!とあるけど、嫌だよ、こんな大きい
デパートの大きいマグロほどもあるかまぼこを、みんなで食べるのは!
 御坊は、麻雀牌の生産では、全国一なんだそうだ。
 妙な町だ。

 ここからタクシーで、南部に向かう。
 この南部は、「なんぶ」と読むのではなく、「みなべ」と読むのだ。へ〜! 私も
タクシーの運転手さんに「なんぶの…」と言って、
「ああ! みなべね!」と返されて、初めて知った。
 南部、みなべ。南部、みなべ! 覚えづらいなあ。
 パワーブック2400が「みなべ」を、一発で「南部」と変換するのが、腹立つな
あ! こいつ、昔からこの駅を知っていたんだな!

 この南部が、実は梅干しの町なのだ。
 ほうら! これを読んでる人は、梅干しを思い出してね!
 お〜〜〜〜〜、すっぱい! すっぱい!
 唾液が、ちゅ〜〜〜〜〜っ!
 
 タクシーは海沿いの国道をひた走る。
 南紀の海は、本当にきれいだ。
 見るから、暖かそうな海だ。
 運転手さんの話によると、11月でもクーラーを付ける日があるくらい、紀州は、
暖かいそうだ。
 この辺に住んだら、絶対仕事しなくなってしまうだろうなあ。
 
 車は、南部の国道沿いにある、紀州梅干館「梅翁園」に寄る。
 たまたま見つけたのだが、梅干しの工場見学ができる。
 けっこうこれはおもしろかった。
 手作業のみでしか梅干しは作れないのだそうだ。

 続いて、「ぷらむ工房」をめざす。
 途中、街道沿いに「日本一の梅の里・南部梅林」という赤いのぼりがたくさん立っ
ている。
 ここはもう山ごと全部、梅の木だらけ。
 紀州30万本という言葉があちこちで見かけるが、その30万本がここに集まって
しまったのかと思えるくらい、梅の木、また、梅の木。
 先日、ハドソンの浦さんと、わざわざ500円払って、北野天満宮の100本ぐら
いの梅に感嘆していたのが、バカみたいに思えるような梅林だ。
 しかもすごいのは、この梅林だけでなく、南部に入ってから、ずっと梅林だらけな
のだ。
 私は、梅の里は、ずっと紀伊田辺が、梅の町だと思いこんでいた。
 やっぱり実際に来て、確かめてみないと、わからないことが多いなあ。年末の『桃
太郎電鉄』にはもう間に合わないけど、このあたりの駅のMAPを見直さないといけ
ないなあ。
 そのうちこの南部が『桃太郎電鉄』に登場する日が来ると思う。
 お楽しみね!

「ぷらむ工房」は、手作り梅干しを体験できるというのだけど、まだ私は手が不自由
なので、遠慮して、梅干しを購入。試食したけど、本場の梅干しはやっぱり美味しいや!
 ちゃんと減塩の梅干しを買ったぞ。梅干しのごまふりかけは期待できそう。

 午後2時30分。紀伊田辺駅に到着。タクシーの運転手さんとはここで別れる。地
方に行くと、運転手さんがみんな親切なので、旅が楽しい。
 紀伊田辺は、あの義経と弁慶の、弁慶が生まれた場所らしく、そこらじゅうに弁慶
にちなんだものや、弁慶の看板がある。
「なぎ刀通り」というものまである。
 さらに紀伊田辺は、南方熊方(みなかたくまぐす)も出身のようだ。週刊少年ジャ
ンプで連載されていた『てんぎゃん』の故郷ということになる。
 やっぱり紀伊田辺は紀伊半島では、かなり大きい町だ。
『桃太郎電鉄』で、カード売り場となっているが、そのうち物件駅に昇格するのも、
そう遠いことではないだろう。

 紀伊田辺では、気になるものを食べる仕事がまだ残っている。
「ひとはめ寿司」。
 これはとっても桃鉄風味な名前でしょ?
 駅から少し歩いた商店街にある「宝来寿司」の名物が、この「ひとはめ寿司」だ。
 ひとはめというのは、ヒロメと呼ばれる、ワカメの一種で、一葉和布(ひとはめ)
と書くようだ。
 ちょうどとろろ昆布を軍艦巻にした感じのお寿司で、とろろ昆布より、ツルッとし
てる。
 磯の香りもする美味しいお寿司だったんだけど、最後に残しておいた大トロを食べ
たら、これの旨いこと! 一瞬にして、ひとはめ寿司の美味しさが吹き飛んでしまっ
た! 情けない! つい、トロに心を奪われてしまった!
 だってさ。特上にぎりが、一人前3000円なんだよ。
 東京の高級寿司店なら、大トロ2個で、3000円だよ!
 その一人前のなかに組み込まれていた、トロが美味しいというのは、予想していな
かっただけに驚いた! 滅多にホームランを打たない横浜ベイスターズの石井琢郎選
手が、さよならホームランを売ってしまったような狼狽だ。
 
 もう一度。ひとはめ寿司は、けっこう美味しい。
 紀伊半島の名物である、さんま寿司よりは美味しい。
 紀伊田辺駅、ひとはめ寿司屋 1000万円 50%で、登場することだろう。

 午後3時30分。紀伊田辺駅に戻る。
 乗れそうな特急電車を見ると、またスーパーくろしおと表示されている。断固乗り
たくない! もう振り子列車は嫌じゃ!
 しかも行きは、京都から直通で来たのに、帰り道になると、新大阪が終点になると
は、なんと軟弱な列車だ!
 まるで上司にヘーコラする、上っ面の付き合い方のうまい新入社員みたいで、ます
ます嫌いになる。
 ここで意地を張ったのが、いけなかった。
 つい、普通・和歌山行きの電車が目の前にあったので、乗ってしまった。たまには
鈍行に乗りたかったし…。

 それは大きな間違いであった。
 地方の鈍行は、本当にのろい。しかも駅が多い。
 途中で、やばいぞ!と気づいたけど、きょうもまたかなり歩いて疲れたのと、お寿
司のせいで、睡魔がスーイ、スーイと、やってきている。
 御坊で、0番線に電車がいた!
 日本一短い鉄道だ!
 ああ! 眠くて、起きることができない!
 1両編成だ、やっぱり。すすけた古い車輌だなあ。
 今、乗らないと、次に来る頃には、廃線になっていまっているんではないか!? 
ああ、ダメだ、眠い!
 電車は、勝手に、御坊の駅を発車していく。
 印南(いなみ)駅では、巨大なカエルの形をした、陸橋が線路を横切っている。
これは笑える!
 途中下車したいけど、すでに紀伊田辺を出てから、もう1時間以上過ぎている。
ここで降りたら、きょうじゅうに京都に戻れなくなる。しかも眠い。まぶたが重いと
はこのことだ…。 
 
 すでに午後5時が過ぎた。もう暗くなってきている。
 これではとても和歌山から、紀勢本線に乗り換えて、奈良から京都に戻るといくバ
カ旅行ができくなってしまう! 
 いや、すでにもう手遅れだ!
 電車はあるけど、外の景色が見れないじゃ、乗っても仕方がない。
 紀ノ川沿いを走るらしいから、景色が見えるときに乗ろう!
 またしても予定変更!

 それにしても、ちっとも和歌山駅に着かない。
 着かないわけだ。紀伊田辺駅からざっと数えただけでも、駅の数が27駅もある。
まいった。調べずに乗った私がわるかった。

 午後5時20分。和歌山駅着。
 午後5時30分。和歌山駅で降りずに、そのまま天王寺行き快速に乗る。また失敗。
ここから天王寺まで1時間もかかるとは思ってもいなかった。
 来るときは、京都から和歌山まで、1時間半ぐらいで来たのに…。

 午後6時29分。天王寺着。
 午後7時15分。天王寺駅から淀屋橋に出て、いつも仕事の行き帰りに乗る、京阪
電車の特急に乗る。
 午後8時。京都三条駅に着く。
 やっと家まで帰って来たような、安堵感と、速くベッドに倒れたい欲求が交互に襲
う。
 
 紀伊田辺駅を出たのが、午後3時34分。いま午後8時。
 4時間30分もかかってしまった。
 何だか8時間ぐらいかかったような気分だ。
 特急なら、2時間で着くはずだったのに…。
 くそ〜。振り子電車に乗りたくない意地を張ったばかりに、こんなことに…。それ
でもやっぱり振り子電車は嫌だぞ〜。

 今後、紀伊半島に向かうときは、どうしよう?
 オーシャンアローという列車は酔わないそうだが、1日3本ぐらいしか走っていな
いようだ。
 どうも鉄道の世界において、紀伊半島は、おざなりにされている気がする。

 午後8時30分。寺町三条のおそば屋さん「田毎(たごと)」で、にしんそばを食
べて、京都のマンションに戻る。
 いつもながら、疲れた。
 なんだかきょうはとっても優柔不断な1日。予定変更ばかりだ。
 好き勝手に変更できるという自由もまたうれしいものだけどね。


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