3月1日(月) いつのまにか、3月になっていた。 暦が3月になるのを待っていたかのように、暖かい。 午前11時12分。遅く起きた食い道楽家族は、のぞみ号で岡山に向かっていた。 小学生の学校はどうしたんだ? 有給休暇か? 昨日、京都から日帰りの旅をいろいろ計画したのだが、なかなか名案が浮かばなか った。有力視されていたのが、徳島に行って、讃岐うどんだけを食べて帰って来る旅。 浪費の極みのような贅沢さでかなりその気になっていた。 でも大阪からの船の時刻表がわからないのと、せっかく徳島に行くなら、和風料理 の名店「青柳」の本店にも行ってみたいと、欲望がつのり、断念。 そこで浮上したのが、尾道だ。 午後12時18分。岡山でこだま号に乗り換える。 午後12時56分。新尾道に到着。京都から約2時間半で、尾道に着いてしまうの だから、やっぱり新幹線はえらい! こだま号で、停車中、のぞみ号が追い越すとき、ものすごい風圧で「ふわ〜〜〜〜 〜ん!」となるが、いつも新幹線は無理して走ってるんだなあとつくづく思う。 ごくろうさまです。 午後1時15分。美味しいと評判のラーメン屋さん「朱華園(しゅかえん)」に行 く。 中華そば460円という値段に、思えば遠くへ来たもんだの気持ちにさせる。ラー メンぐらい地方に行けば、行くほど、値段が安くなる食べ物はない。東京ではもう 800円、1000円のラーメンなど珍しくない。 ガイドブックによれば、この店は日本一との評判が高いとあるが、ちょっと言いす ぎ。 でも麺が細いわりに、歯ごたえがしっかりしているし、チャーシューが薄いわりに、 美味しい。美味しいチャーシューのお店はとかく分厚くチャーシューを切りたがるも のなのだが、謙虚でよい。 ただシナチクのまずさはどうしたものだろう。おにぎりをつつむ竹の皮のような味 である。 さらに天カスが入っているのかと思ったら、脂身の細切れがたくさん入っているで はないか! あっさりスープなのに、突然ギトギトになって、面食らう。 月曜日だというのに、若い観光客でいっぱいなので、脂身はけっこう受けるのかも しれない。私の年齢に、脂身はこたえる。 美味しいお店とも、まずいお店とも、評価できずに、退席。 そのまま千光寺(せんこうじ)へ向かうドライブ・ウェイを走ってもらう。実は千 光寺(せんこうじ)までは、ロープ・ウェイがあるのだが、私が高所恐怖症なので、 何とか車で行けるところまで行ってもらった。 千光寺公園、千光寺グリーンランドといったところを見て、観光写真でおなじみの 山からの景色をながめる。 さて、尾道といえば、私も大好きな大林宣彦監督の作品が、数多く舞台になった町 で、ロケ地をめぐり歩くパンフレットも用意されている。 しかし以前一度この町を訪れて、ものすごい坂の連続に、立ち往生したことがある。 一昨日彦根城で、HPを相当奪われただけに、きょうも坂を登ると、おそらく日記が 最終回になってしまうような気がする。 坂を登らずに、タクシーであっちこっちをダイジェストで見て帰ろう。 午後2時30分。というわけで、尾道とは対岸の島である、因島(いんのしま)に 向かう。 ここには、村上水軍の因島水軍城がある。もちろん村上水軍の資料館付き。歴史 マニアとしては、前から一度は来ておきたいところとして、頭の中の白地図に記され ていた。 しかしこの城に登るのが、また難儀だった。 昭和50年代に築城されたお城だから、道もコンクリートで舗装されていて、登り やすいのだが、急勾配で十分つらい。 またしても杖が置いてあった。嫌な予感ではなく、顔を空に向かって上げれば、その先にお城が見える。ほとんど 垂直ではないか! 例によって、ここまで来たのだからと、登り始めたが、やっぱりつらい。 すぐに足がパンパンになり、お尻の頬っぺが、痛くなってきた。 どうもまだ彦根城のときの疲労が取れていないようだ。 元気者のグルメ・バカ娘も、ぜいぜい言いだしている。 因島水軍城 会議中? それでも水軍資料館は、甲冑の数も豊富だし、刀剣、ヤリもしっかり展示されてい て、昨今の急造城郭のなかでは、かなりの充実度だ。安宅船(あたかぶね)の大きな 模型まで展示されていて、かなろりおもしろい。膝がかくかくいってるけど。お約束 最近は、旅行をするときには、豪勢だけど、タクシーで回るようにしている。その 土地の人にしかわからない場所とか、資料館を教えてもらえたりするからだ。しかも、 バスを乗り継いで行くと、半日かかるところが、1時間ぐらいですんでしまうので、 楽な場合が多い。 きょうの運転手さんも、いい人で、1万円いったら、メーターを止めてしまって、 そのあとかなり長時間、向島(むこうしま)というところの海岸線をずっとまわって くれた。 タクシーで案内されないかぎり、一生涯こんなところにはこないであろうというと ころであった。海岸線がきれいで、海はエメラルド・グリーン。3月中旬の陽気とあ って、瀬戸内海の景色が一段と美しく見える。 グルメ・バカ娘も「わー、わー、きれい!」を連発している。 なかなか食い物以外で、感動させてあげる機会がなかったので、なんだかえらくい いことをしてあげた気分。 でも最近全然泳ぎに行っていないと言われてしまう。 確かに病気してから、海に行っていない。 今年ぐらい、海に行ってみたいものだ。 最後は、娘のリクエストである、車のまま乗り込む渡し船で、尾道に戻り、満点旅 行! 午後4時。しばらく尾道の中央商店街を散歩する。 どのお店の軒先にも、尾道を描いた絵などが展示されていて、買うこともできたり する。尾道を訪れて、スケッチをする人が多いことをうまく利用している。 こういう町おこしはユニークだし、ウィットがあって、いい。 さて、この町にわざわざ京都から来たのは、歴史だけではない。 わが食い道楽家族にとっては、一にも二にも、食の道である。 「I」という、大林宣彦監督もよく訪れると言われている割烹料理屋に行きたくて来 たのだ。 ところが電話を入れると、午後6時半すぎならと言われてしまった。そこから延々 ご飯を食べるとなると、京都に戻れなくなってしまう。仕方がないので、割烹「東山」 というお店に切り替える。 すでにグルメ・バカ娘も歩き疲れて、道ばたに座り込んでしまうような状況だった ので、早くお店に入りたかった。 大体グルメ・バカ娘は、因島で、伊与柑などを買うからいけないのだ。500円で 安いのは、安いけど、10個以上網に入っている! 地方で野菜や果物を買うと、量 が多すぎるのだ! 「よせ!」というのに、買ったので、それも持ち歩いていて、へばったのである。や っぱり子どもには、苦痛を与えるのが一番の学習のようである。 そういう親も、もうへろへろである。日暮れの尾道水道 午後5時。割烹「東山(ひがしやま)」。 お刺身とウニめしを注文。 2番手候補のお店だが、さすがに海がすぐそこの町だけあって、お刺身が美味しい! シマアジ、甲イカ。ヒラメ。にし貝、サメの軟骨というのが、フカヒレみたいで美 味しかった。これはちょっとびっくりである。 さらに、ウニめしが、いい! 丼に、生ウニがのっていて、真ん中に生卵の黄身と、わさびがちょっと。これをか きまぜて食べる。ああ! 思い出しただけでまた、ツバが出て来てしまった。 これはローテーションの谷間に先発した新人投手が思いがけず好投したみたいで、 気分がいい。 午後6時25分。わざわざ尾道から広島に出てから、京都に戻るという無謀をやっ てみたかったのだが、広島でコーヒーを飲むぐらいしか時間が取れそうもないので、 おとなしく、来た道の通りのコースで帰ることにする。 新尾道から、岡山。のぞみに乗り換えて、京都。 午後8時09分。もう京都である。 京都からの日帰り旅行で、どこまで遠くに行けるか? これは今後けっこう病みつ きになりそうなテーマである。
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