2月27日(土)


 京都のマンションで起床。

 午前11時。グルメ・バカ娘を連れて、京都駅へ。
 嫁が東京から来るので、駅で待ち合わせ。
 そのまま東海道本線の新快速に乗る。

 午後12時30分。彦根のキャッスルロードにある近江牛のお店「伽羅(きゃら)」に行く。
 このお店は数年前京都でテレビを見ていたら、「塩すき焼き」を食べさせる店として、紹介
されていた。しかしリモコンであっちこっちいろんな番組を見ていたので、お店の場所も、ど
んな肉料理だったかも忘れてしまっていた。
 忘れたどころか、場所は近江八幡市、上品な和牛のお店と変換されたまま記憶に残ってしま
っていた。
 手元に今、日記が無いのだが、昨年暮れの京都のことだ。
 グルメの師匠であるすぎやまこういち先生ご夫妻にごいっしょして、近江八幡へ行ったとき、
わずかな間違った記憶で必死に思い出そうとして、とうとう思い出せなかったお店が、実はこ
の店のはずだったのである。
 見つかるわけがない。近江八幡ではなく、彦根だったのだから。

 というわけで、この「塩すき焼き」というグルメ心を刺激する料理を見つけだし、ここまで
来たのである。発見したのは、実にインターネットであった。彦根、お肉屋さんのキーワード
で、この「塩すきやき」の文字を表記したお店が浮上したのだ。
 突然私がオレンジ色のiMacを購入したのは、この近江牛の店が見つかったからである。

 先を急ごう。京都に来ると、話題が増えて、日記が長くなる。
 とにかくまあ、このお店のメニューは、おもしろがり族の目を刮目させる。

    ・茶しゃぶ
    ・塩すき焼き
    ・ステーキ茶漬け
    ・肉鉄火御膳
    ・鮮肉トロさしみ
    ・牛たたきかぶら
    ・牛生レバーのさしみ
    ・牛肉納豆

 ほかにも不思議な名前のメニューがあるが、このなかから、塩すき焼き。牛たたきかぶら、
牛肉納豆を注文する。
 塩すき焼きは、関西風のすき焼きとおなじ料理方法なのだが、砂糖でやるところを塩胡椒だ
けで味つけする。
塩すきやき
   1枚目のお肉を食べる。  なるほど塩胡椒だけなので、味がさっぱりしている。  これはいけそうだぞ!  今までにない味だし。  タマネギも、長ネギも、塩胡椒で味つけする。  2枚目のお肉を食べる。  おや? なんか味が濃くなったような…。  シイタケの塩胡椒風味は美味しかった。  しかし3枚目のお肉を食べる頃には、油がずしんと身体に貯まったような感覚で美味しく ない。1枚目が美味しかったのに、2枚目、3枚目でまずくなるお肉料理なんてあるのか?  やっぱりだ。  グルメ・バカ娘が「もうお腹がいっぱいで食べられない」と言いだした。こやつがこれを 言いだすときは「まずい!」という評価なのだ。これを言いだしたら、てこでもうごかない。  残りの野菜を嫁とふたりで食べるはめになった。  糸こんにゃくは、ずっとカリカリになるまで煮るのが、このお店のやり方なんだそうだが、 もう、しこたま油を吸い込んでしまって、オエップである。  まいった。これはまいった。  しかしなんとも惜しいお店である。店の構えも上品だし、接客に熱心なおばちゃんもいる。 少なくとも1枚目のお肉は美味しかった。牛肉納豆は、納豆の味が勝っていたが、美味しか った。  どうせなら塩胡椒の味つけに、すだちか、かぼすをたらすことをすれば、もう少しさっぱ りとした味を楽しめるのではないか?  午後1時30分。ずしん、ずしんと重いお腹をかかえつつ、食い道楽家族は、和ろうそく のお店などを覗くが、ちっとも気分がよくならない。  このキャッスルロードは、倉敷の美観地区のように、きれいに整備された、なかなか観光 地として、将来性有望な町だけに、この和牛のお店には、がんばってほしい。  午後2時。彦根城に向かう。  ここは去年訪れて、城へ続く道のあまりの急勾配に尻込みして、歴史博物館だけ見て帰っ てしまった。  きょうはこの急勾配にチャレンジするのだ。胃がむかむかするけど。幸い入口に、杖が置 いてあったので、見栄を張らずに、杖を借りて、城に登ることに。  のんきなグルメ・バカ娘は「さくちゃん! 杖を持つのが、かっこういいよ! うまくつ かえるねえ!」と、わけのわからないホメ言葉を連発する。  まだ子どもだから、正常な人が、杖をつかうほうが難しいということがわからないようだ。 娘に杖を持たせると、さっそく、お笑いのこけ方をして、ずっこけていた。  実は、脳内出血で倒れて、左半身不随になったときも、杖をつかったことがなかった。杖 をつかうと、杖に頼ってしまうからだ。これはけっこう自慢だった。  だから初めてつかったことになる。これだけ足が回復してきたからもういいだろう。  杖がこんなにも便利なことを初めて知った。
彦根城の石段
   それにしても、城に登る石段の登りづらさは、何と表現したらいいのだろう。  もともと敵に攻め込まれた時に、敵が登りづらいように、段と段の歩幅が微妙に違えてい るので、歩いていて、いらいらする。  石段の一段一段が平行になっていないので、足元を常に確認しないといけない。確認のた めに、下を見たとたん、矢狭間(やざま)、鉄砲狭間(てっぽうざま)から、ズドン!と来 る仕掛けになっているんだろうなあ。  石段の一段を登るときのつらさも格別。  ずっと朝から踏み台昇降テストを続けているようだ。  膝が笑う。お尻が笑う。  グルメ・バカ娘は、オナラがでたくなるようなつらさだと表現していたが、どういうこと なんだろう。わからんでもないような気もするのが妙だ。  ぐるぐる回りながら、石段を登る。  登り切った先にまた、石段を見つけては「ひえ〜〜〜」と声を上げる。  やっと天守閣の入口までたどりついた。  お城からながめる琵琶湖がきれい…と言いたいところだが、息がハアハア…、とても景色 が味わえない。  少しずつ降り始めた雨が、だんだん横殴りの雨へと変わって来ている。3月が近いとはい え、まだ2月。風が猛烈に冷たい。    ここまで来ると、天守閣に登りたいところだが、天守閣にも階段があることはわかってい る。最近のお城は、エレベーターを増設することが多い。それほどお城の階段はつらいのだ。  しかしこの彦根城は、国宝になっているぐらいだし、世界遺産になるのを姫路城と争って 負けたほどだから、エレベーターはない。勝手に改造できないからだ。  旅行者にとっても、難攻不落のお城なのだ。 
天守閣
   膝ががくがくするが、せっかくここまで来たのだからと、挑戦する。入口でスリッパに履 き替えるが、私はまだスリッパが苦手なので、靴下のまま上がる。お城でスリッパがつらい ことを知っているせいでもある。  そして階段。  これが階段? 本当にほぼ垂直に立っている。  これでは登るではなく、よじ登るではないか!  私はまだ片手しかつかえない。  まさにお笑い芸人が、1日レンジャー部隊に入隊したようなものだ。必死にスチール製の 手すりを握りしめて、一段ずつ登って行く。またこのスチール製の手すりが、冷たくて、早 く登らないと、手を離してしまいそうになる。  もちろん手を離せば、まっさかさまである。    何回垂直な階段をよじ登ったか覚えていないが、とにもかくにも天守にはたどりついた。 あまりにも階段がすごすぎて、ちっとも達成感も湧かなければ、景色がきれいだとも思えな かった。  むしろ、帰り道の危険性のほうを計算するのに忙しい。  天守閣をながめたときは、こぢんまりとした、かわいいお城だなとしか思わなかったのに、 これほどまでつらいとは思わなかった。  このつらさは、階段から落ちて、全治3ヶ月の重傷でも負えば、わかってもらえるのだろ うが、それもちょっとつらい。いや、うんとつらい。  もっともっと文章力があればなあと思う。  予想よりは、帰り道のほうが楽であった。一度来た道だからだろうが。風はさらに強さが ましている。  私はまだ足が不自由なので、足をふんばるのが苦手だ。  風が吹くと、飛ばされてしまう。  体重が減ったせいもあるかもしれないと思っていると、グルメ・バカ娘が「あたしは最近 風に飛ばされなくなってきたよ〜! 体重増えてきたから!」と、自虐的なギャグを飛ばす!  食べ過ぎじゃ!  午後3時。ふたたびキャッスルロードに戻る。寒い!  風と雨と、ついに雪がちらつき始めた。  喫茶店に入るが、すわったまま寝てしまいそうになる。疲れた。本当に疲れた。  午後4時30分。米原駅に出て、新幹線こだまで京都まで戻ることにした。  午後5時。京都着。早い。早すぎて、まぶたが重くなったとたん、京都に到着だ。眠い〜 〜〜!  京都駅の伊勢丹デパートを探訪するが、足がふらふらなので、歩くのがつらい。  午後6時。京都といえば、わが食い道楽家族のお気に入り、グルメ・バカ娘のおいしいラ ンキング連続1位に輝く、「M」に行く。  この食い道楽日記では、よくまずかったお店の名前を、イニシャルで書くが、この「M」 だけは、一見さんお断りのお店なので、イニシャルで表記なのだ。  いまのところ、いいほうでイニシャルは、このお店だけ。  でもさすがに、お昼のお肉のせいで、胃がもたれていて、食欲にいまいちパワーが出ない。 「M」で「少な目に料理を出してください!」というのは、なんとももったいない。     ・エンドウ豆(新豆)のシロップ漬け。     ・なまこ酢。     ・ウニ、イカ、マグロの刺身。山芋添え。     ・フグのもみじ和え。     ・本日の主役;活松葉ガニの蒸して、すだちをたらして食べる料理。      足はアルミホイルで焼く。とのかくでかい! グルメ番組で「大き      い!」と叫ぶ大きさを、ひとり1匹(尾)だ。     ・賀茂ナスの田楽。     ・ハマグリのショウガ煮。     ・ご飯。  お土産に、ふぐで出汁をとった、カレーライスをもらう。  珍しくも「M」で、少しうとうとしていたグルメ・バカ娘は、食べ終わると、あいかわらず 「うひひひひ」とうれしそうな顔をしている。  午後7時30分。京都のマンションに帰宅。早い時間だ。  でも疲れているやら、お腹がいっぱいやらで、まったく動けない。  ベッドに横たわるや、うたた寝してしまった。  夜になっても眠い。  今夜は早く寝ることができそうだ。

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