2010年9月13日(月)


 午前7時。温泉に入る。

 天気がいいと、温泉に降り注ぐ朝日がまぶしい。

 午前7時30分。『桃太郎電鉄SHIZUOKA』の仕様書作り。

 歴史ヒーローのひとりを書き始めて、乗りが悪いので、やめる。
 重要なイベントだから、乗りが悪いまま書くと、いい結果になるわけ
がない。

 下書きしていたイベントのほうを書く。

 午前9時30分。荷物をまとめて、帰り支度。
 この2日間、私は1階の新しい部屋ですごしたけだけど、快適なり。
 まさか2階でも、高所恐怖症が出ているわけではないよね?
 でも1階のほうが、非常に落ち着く。

 午前10時30分。嫁と、熱海駅へ。

 きょうも暑くなりそうだ。  取材してから帰るからね。  午前10時43分。熱海駅から東海道新幹線ひかり467号岡山行きに 乗車。東京都は、逆の方向でございますよー。

 午前11時33分。浜松駅で、下車。

 ひー! 快晴だよ。  暑い〜!  午後12時。駅から北のほうにある餃子の店「福みつ」へ。  最近浜松餃子はすっかり有名になり、宇都宮と両横綱と呼ばれるまで に、成長した。  なかでも一番人気の呼ぶ声が高いのが、この「福みつ」。

 メニューは、餃子だけ。  10個、15個、20個〜50個と書いてあるだけ。

 定食は、小が、餃子10個。中が、餃子15個。  さすがに私は、小。餃子好きの嫁は、中。

 あれ? 浜松餃子なのに、餃子が円形に盛られず、もやしもない。  オーソドックスな形状だ。  でも食べたら、これがあちち…、あつあつ! ああ! 肉汁がこぼ れる、こぼれる! うまい! 熱い! うまい! 熱い!  なかなか冷えない!  表面のカリカリ具合が絶妙で、なかは野菜がたっぷり。  DSliteならぬ、Gyozaliteだ、これは!

 いやー! 浜松餃子は、5回目くらいだけど、おいしいお店に出くわ したものだ。  あー。食べ終えるのが、もったいない!  メニューに最高50個まで表示されているのがわかるよ。  若かったら、50個食べたかった。  午後12時30分。「福みつ」の餃子は、ちょっとニンニクが強かっ たので、お店でタクシーを呼んでもらう。  お店で呼んだお客さんは、ニンニク臭いのを覚悟で来てくれる運転手 さんが多いので、助かるのだ。  国道45号線を北上する。  運転手さんから、いろいろ浜松情報を聞く。  浜松は、ヤマハの城下町だから、広い範囲にわたって、ヤマハや、ヤ マハの下請け会社で働いている人が多いそうだ。  午後1時15分。遠州鉄道西鹿島(にしかじま)駅へ。

 この西鹿島駅は、天竜浜名湖線と遠州鉄道が交わる場所なので、『桃 太郎電鉄SHIZUOKA』で、物件駅を予定していたのだが、どう調べて行く と、何もなさそうな気配。  何もないかどうかを確認しに来た。  何もなかった…。あはは。  西鹿島駅は、カードバンク駅にしよう。

 午後1時30分。天竜川を渡ってもらって、二俣城址へ。

 この二俣城は、戦国時代、何度も歴史の舞台に登場している。  最初、徳川軍が築き、武田信玄の軍に攻め込まれ、有名な長篠の合戦 で、今度は徳川軍が奪い返した。  その後、織田信長が、徳川家康の息子・信康とその母築山御前が武田 と通じていたことを理由に、織田信長が信康に切腹させるよう家康に命 じ、信康が切腹したのが、この二俣城。  織田信長の冷酷さ、徳川家康の我慢強さを決定づけた事件だ。  午後1時35分。天竜二俣駅で、タクシーを降りる。  時間が止まったような町だ。  駅舎が、いい雰囲気。

 天竜浜名湖線の電車の発車時間を見ると、1時38分。  あと3分しかない。  まだ天竜二俣駅の周辺のどこもも見てないよ。  次の電車は、1時間後。  うーん。でも、この駅は、『桃太郎電鉄SHIZUOKA』でフィーチュアし たいと思っている駅なので、次の電車まで待つことに。  駅に隣接された観光協会で、あれこれ調べる。  きょうは月曜日なので、博物館、美術館の類は、はすべて休館日。  途方に暮れる。  これから1時間、ここで何をしてすごせばいいんだ。  しかも気温は、34度。  駅の周辺には、喫茶店ひとつない。  すると、突然、観光協会のおばちゃんが「転車台の見学ツアーなら、 いますぐ始まりますよ」と教えてくれた。 「えー! 転車台の見学ツアーって、土日限定じゃないんですか?」 「いえ! 金・土・日・月曜日の午前10時50分と、午後1時45分 の2回です!」 「えーーー! 本当にいますぐじゃないですか! 行きます! 行きま す! どこに行けばいいんですか?」 「天竜二俣駅の待合室です!」  何て私は運がいいんだ!  転車台というのは、蒸気機関車などが方向転換するための台だ。  巨大なターンテーブルで、扇形の台に車両を乗せて、グルッと回転さ せる機械のことだ。  蒸気機関車があった頃は日本じゅうのあちこちに、操車場のターンテ ーブルとして見慣れた風景だったのだが、いまは蒸気機関車自体がなく なっているので、転車台のある駅は、日本でも数ヶ所しかない。  この珍しい転車台を小説の舞台に選んだのが、西村京太郎さんで、つ い先週発売されたばかりの『生死を分ける転車台〜天竜浜名湖鉄道の殺 意』(祥伝社)なのだ。  先週、この本を読み終えていた私は、天竜浜名湖線を取材するなら、 西村京太郎さんのように見学できなくても、せめて遠くからでも、この 転車台を見たいと思っていた場所なのだ。  あわてて、天竜二俣駅の改札口まで、戻る。 「転車台見学ツアー」のチケットを買う。  ひとり100円。  100円にしては豪華な記念キップがついて来た。

 私たちのほかにも、5歳くらいの男の子と、親とおばあちゃんがいた。  月曜日だから、私たちを入れても5人ほどだけど、土日になると、こ の転車台ツアーに、100人以上来るという。  係の女性に案内されて、天竜二俣駅の構内を通り、踏切の先の金網の 鍵を開けて、側道に入る。  転車台まで、5分程度歩く。  でも気温35度。  ぶわ〜っと、汗が出る。  昨日に続いて、きょうもTシャツ、びしょ濡れかー!  しかも見学ツアー。  勝手に休むわけにはいかない。  ひーひー。はあはあ…。

 おお! 60トンの水が入るコンクリート製の貯水タンクが見える頃 には、微風が吹き始めた。  後頭部を直撃する直射日光が少しやわらぐ。

 扇形車庫と、転車台につく。

 電車が4〜5台入る車庫だから大きい。  嫁が、転車台の全景を撮影しようとして、どんどん後ずさりして行く。  合図とともに、電車がやって来て、転車台の上に電車を乗せる。  乗せると運転士さんは降りて来て、転車台の小さな電話ボックスのよ うな箱に入って、機械を操作すると、電車がグルッと一回転する。  いや、一回転だといま来たレールを戻って行くだけだ。  340度くらいのところで止まり、隣りのレールから出て行く。  要するに、「>」の文字のように入って来て、出て行くのだ。

 ほかにも鉄道歴史館があって、いまは珍しくなった「Ω」の形をした タブレットや、鉄道ジオラマなどが展示されていた。  あっ! ひょっとして西村京太郎さんは、この転車台と鉄道ジオラマ を見て、今回の『生死を分ける転車台〜天竜浜名湖鉄道の殺意』(祥伝 社)のトリックを思いついたな!

「以前、ここを西村京太郎さんが見学にいらっしゃいましたよね?」 「ええ。昨年の11月ぐらいです」 「そのとき取材されたときの作品が、先週、本になって発売されたんで すよ」 「そのようでございますねー」 「その作品を見て、私はここに来たんですよー」 「そうですかー。あのとき、西村京太郎さんは、転車台は、何分ぐらい で一回転するのか?と質問されて、運転士さんが困ったんですよ。何分 かかるかなんて考えたことがなかったものですから。ああいう方は、人 と違ったところに目が行くものなんですね」

 うーん。私も目の付け所が違うシャープな質問をしようと思ったが、 とにかく私は滅法、暑さに弱くて、何も浮かばなかった。  このあと、運転士さんたちの事務所や、詰め所、運転司令室を見せて もらった。  昭和15年の創業当時そのままの姿がそのまま残っているので、こん な貴重な的指摘建造物はない。

「よくこれを保存しましたね!」 「いえ。改装するお金がなかったものですから、そのまま残ってしまっ ただけで…。おほほ…」

 蒸気機関車時代は、運転士さんたちは黒煙で汚れるものだから、大き な銭湯のようなお風呂が設置されていて、これがまた風情たっぷりで、 楽しい。  確かに、昭和15年の時代にタイムスリップした感覚だ。  映画『RAILWAYS』の世界だ。  午後2時30分。転車台の見学ツアー、終了。  いいものを見せてもらった。  天竜二俣駅は、鉄道マニアの聖地として発展しそうだ。  次の電車がもうすぐ来る。  何だか九州の山奥まで旅行に来たようだ。  まさかこれから東京に帰るとは思えない。  午後2時38分。天竜二俣駅から、天竜浜名湖線掛川行きに乗車。  電車は、一両編成!

 レトロ風の車両に、エアコンが入っているのが、不思議。

 あまり変化のない車窓が続く。

 午後2時58分。遠州森駅で、下車。

 改札を出て、呆然と立ち尽くす。 「遠州の小京都」と看板にあるが、まるでなさそうな雰囲気。  気になったのか、駅員さんが声をかけてくる。 「どこに行こうと思ってますか?」 「城下町があると聞いたものだから…」 「城下(しろした)のことかね?」 「そうです!」 「城下まで、歩いて行くのは、大変だね! タクシー呼んであげようか?」 「はい。お願いします!」  しばらくして、タクシーが来る。 「城下(しろした)に行くの?」 「はい!」 「はっはっは! 何もないよ!」 「はい。どのくらい何もないかが見たくて…」 「本当に何もないよ。オレは生まれも育ちも、城下(しろした)だから」 「はっはっは! そりゃあ見慣れてつまらない景色でしょうね」 「遠州森といえば、清水次郎長の森の石松で有名ですけど、森の石松に ちなんだものとか売ってませんねー」 「一応、石松最中っていうのを売ってるよ。そんなもんかなあ…」 「やっぱり森の石松は、架空の人物だったから、町おこしにつかわれな いんですかねー」 「でも、森の石松のモデルになった人がいるみたいだよ。ほら、そこに 旅館があるでしょ? ここの旅館の人が、森の石松の育ての親だったら しいよ」 「孤児となった石松が、侠客の森の五郎さんに拾われて育てられたって 話ですね!」  森の石松は、絶対歴史ヒーローとして登場させたかったから、このと ころずっと、調べていた。  クレージーキャッツの映画『クレージー無責任清水港』で、森の石松 を演じていたのが、谷啓さんだ。しんみり…。 「ほら、ここが遠州森の繁華街ね!」 「はっはっは! 本当に何もない!」 「ほら、ここが城下(しろした)の中心地ね!」 「はっはっは! 本当に何もない!」

 しばらく町中を歩かせてもらったけど、スーパー以外、本当に何もな かった。  天竜茶畑と、次郎柿園だけにするかなあ…。  とても森の石松グッズ屋もなさそうだしなあ…。  そのまま掛川駅に向かってもらう。

「ほー! 浜松の福みつに行って来たかね! オレも何回か行ったよ。 カリカリしていて、おいしいね!」 「おいしいかったなあ…」 「オレが行った頃は、小さくて汚いお店だったけどなあ…」 「いまはビルですよ」 「儲かったんだねー」  午後3時50分。掛川駅へ。  3日前に来た掛川駅に、もう一度来ると思わなかった。  午後4時2分。東海道新幹線こだま662号東京行きに乗車。  乗車と同時に、熟睡。  熱くて、疲れたよー!  34度の炎天下の取材は、きつい。  午後5時47分。終点、東京駅に到着。

 夕方は、このくらいの涼しさだと歩いても汗をかかなくていいね。  午後6時。東京駅近くの「お多幸本店」へ。

 急に、豆腐飯の「とうめし」が食べたくなった。  ちくわぶ、ダイコン、いいだこ、しらたきといったおでんを注文。  おお! 「とうめし」のハーフサイズ「半とうめし」というのが あった。このサイズで、十分だ。

 ここまで、おでんのタレが染み込んだ、ちくわぶは初めてだよ。  私は、ちくわぶが大好きだから、大喜び!

 午後7時。帰宅。  さすがに部屋は、昼間の余熱がこもっていて、暑い。  エアコンをつけて、部屋が冷えるまで少し待とうと思って、ベッドに ひっくり返ったとたん、そのまま熟睡。ZZZ…。  午後8時。起きて、テレビを見たら、東京都23区に大雨警報!  あんなに取材中、晴れっぱなしだったのに。  私が家に帰って来て、休んだせいか?  少しは、休ませてくれよ。あはは。  きょうの取材で、『桃太郎電鉄SHIZUOKA』の製作が大きく前進した。

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