9月27日(土)


 午前7時。東北旅行の荷物作り。
 アロハシャツだけで行くつもりだったのに、いまの気温は20度だって。
 ジャケットを着て行くことに。

 午前8時30分。2階で寝ている娘&孫を残して、嫁と東京駅へ。  駅構内のグランスタで、駅弁探し。  午前9時16分。東京駅から東北新幹線はやて・こまち11号に乗車。

 さっそく、食事。  私は、鎌倉ハムのサンドヰッチと、まい泉のヒレかつと卵のポケット サンド。  嫁は、今半のすき焼き弁当。

 鎌倉ハムのサンドヰッチは、懐かしさで買った。

 でもそんなにおいしくないのも覚えている。  いきなり、サンドイッチが喉の上あごに、ひっついた。  ハハハ! このパターンだ。  最近のサンドイッチは、パンがしっとりしているから、上あごにひっ つくことがない。懐かしいじゃないか。  さらに、ハムのサンドイッチだけで、飽きることも覚えていたので、 半分ぐらい食べて、まい泉のヒレかつと卵のポケットサンドに変更。

 このまい泉のヒレかつと卵のポケットサンドは、東京駅の構内で買え る軽食としては、イチ押しだ。  ヒレかつのコロモが薄く、ソースたっぷり、B級な感じがたまらない。  トロ〜ンとした半熟卵がヒレかつの相性がいい。  すべてがパン生地のようなバンズのなかに入っているので、半熟卵も こぼれず、非常に持ちやすいし、うまい。  ハンバーガーの次世代機といった感じだ。  グランスタ限定商品なので、旅のお供にご賞味あれ。  デザートは、トウモロコシのピュアホワイト。

 東京駅構内の「グランスタ」で売っていたんだよ。  本当に東京駅は、改札口に入ってから、ありとあらゆるものを売って いる。  きょうの新幹線はやて11号は、通常新花巻駅では停まらない列車。  1日3本だけ、新幹線ひかり号が、熱海に停まるようなものだ。  なので、こんなに早い乗車となった。  眠い…。ご飯も食べたし、眠い。 『坂の上の雲・3』(司馬遼太郎・文芸春秋)を読みながら、あっとい う間に、熟睡。ZZZ…。  毎年9月に入ると、司馬遼太郎さんの作品を読み返すのが恒例になっ ている。  たくさん本を読むのもいいけど、おなじ本を何度も繰り返し読むこと も大切だ。漫画家や作家になった人は、おなじ作品を100回読んだみ たいな人が多い。

 午前11時47分。新花巻駅で、下車。

 新幹線で仕事をせずに寝ていたせいか、外は雨。  あいかわらず、天気は私の旅に忠実だ。

「釜石線は、改札を出て、左へ」の表示に従って、通路を行くと、あち こちに「トイレは新幹線駅にあります」の看板。

 ははーーん。この先の釜石線のほうの釜石駅には、トイレがないって ことか。 「トイレは新幹線駅にあります」  言い訳めいた言い方だ。  トイレがないことを謝る気がない。  せめて「トイレは新幹線駅でお願いします」と書けばいいのに。  地下通路を通って、階段を上がると、駅舎もなく、そのまま片側だけ の寂しいホームだ。

 これはひどい。  しかも寒い。  ホームの真上には、新幹線新花巻駅が跨っている。

 ホームの位置を反対側にすれば、新花巻駅から、遠回りせずに直接こ のホームに降りられるじゃないか。  新幹線駅が出来るときに、何か揉めたな。  通例、釜石線のほうが、新幹線の犠牲になるのだが、「トイレは新幹 線駅にあります」という言い訳がましい言い方をする釜石線の味方はし づらいな。  トイレに対する気配りと考え方は、その人の人格がもろに出ると、私 の中学校の地理の梅田先生が言っていた。  私が地理が得意なことを評価してくれた先生だ。  しかもいまはホームに駅員がいたけど、鈍行の場合はワンマンカーで 駅員がいなくなるそうだ。  新幹線の接続駅とは思えない。  午後0時5分。釜石線新花巻駅から、特急はまゆり3号に乗車。

 特急といいながら、3両編成。  半分近くの駅に停車するので、特急な感じがしない。  速度も遅い。

 民話のふるさと・遠野を過ぎたら、暖房が入った。  そんなに外は寒いのか?

 岩手上郷駅を過ぎた後あたりから、トンネルだらけ。  トンネルを抜けたと思ったら、またトンネル。  ひとつひとつのトンネルが長い。  トンネルを抜けながら、電車は急に垂直に北上を開始した。  でもそれがわかったのは、私がプロアトラスの地図を見ながら、乗っ ているせいで、電車はトンネルだらけなので、北上しているのは実感で きない。  ヘアピンカーブを曲がるように北上した電車は、陸中大橋から、今度 は南下し始めた。  なぜこんなに強引に曲がるのかと、地図を見たら、釜石鉱山の文字が あった。  電車は鉱山のために作られたから、無理やり電車をねじ曲げたのか。  土倉トンネルから、直接洞泉駅に抜ければ、電車の時間は15分以上 短縮出来るのに。  いまから線路を変える気なんてないんだろうなあ…。  何度も鳴るピーーーーッという細い汽笛の音が、物悲しい。  まるで夜汽車のようだ。  ディーゼル特有の煙もたまに見える。  午後1時36分。終点、釜石駅に着く。

 向かい側のホームに、電車が止まっている。  ブルーと赤のかわいい車両だ。  私たちが明日乗る電車かな?  ホームの階段を下りていくと、簡易改札のようなところに、おばちゃ んがひとり立っていた。  さっき見た向かい側に止まっていた電車は、三陸鉄道の南リアス線だ った。釜石から南に行く電車で、盛(さかり)とか、大船渡に向かう路 線だ。

 駅の真ん前に、どど〜〜〜んと、お城のような新日本製鉄釜石製鉄所 がそびえ立つ。 「NIPPON STEEL」の文字がやけに目立つ。

 釜石といえば「鉄の町」として有名だが、いきなり製鉄所の城下町で あることを思い知らされた。  白い煙がもくもく上がっている。  キムタクの『華麗なる一族』で見た景色だ。  でもあの煙は、火力発電用で、いまは溶鉱炉はないそうだ。  かつて「嫁にやるなら、製鉄所」とまで呼ばれた時代の勢いはいまは なく、吊り橋の鉄線とか、コイル、タイヤのスチールなどを作っている そうだ。  でも、きれいに塗装された工場は、非常に元気そうに見える。  駅の外にあるトイレに行く途中に、三陸鉄道釜石駅があった。  うっかりすると見落としそうな小さな駅だ。  待合室に入ってみると、キップ売り場の人は、さっきのおばちゃんだ った。

「三鉄赤字せんべい」を売っていた。  岩手県沿岸を走る第三セクター、三陸鉄道の経営難をそのまま名前に したせんべいだ。  海藻を練りこんだせんべいで、けっこう売れ行きもいいらしい。 「赤字カットわかめ」というのも売っていた。  赤字であることを逆手に取る商売は、私は好きだ。  応援のし甲斐がある。  赤字せんべい、赤字カットわかめのほか、いくつかお土産品を買う。  電車に乗らなくても赤字減らしに協力できるのがいい。  銚子電鉄のようにがんばってほしい。

 午後2時。駅前の市場「サン・フィッシュ釜石 」へ。  正式名称は、駅前橋上市場サン・フィッシュ釜石 。  この「橋上市場」は「橋上(きょうじょう)市場」と読む。

 2003年まで、「橋上(きょうじょう)市場」は実在した。  日本で唯一の橋の上に架かった市場だったのだ。  釜石駅からすぐのところにある大渡橋に並行する形で、1958年、 全長110m、全幅13mの場内には鮮魚、野菜からお土産品、日用雑貨、食 堂など約50店舗が営業をしていたそうだ。  その後、交通混雑や衛生上の問題が生じたために、移転・撤去が決 まったが、存続を求める署名が、釜石市の人口の80%も集めたので 廃止は延び延びになっていた。  この「橋上市場」は観光名所にもなっていたので、私は訪れたくて 仕方がなかったのだが、釜石は遠く、ついに廃止に間に合わなかった。  その名前を「駅前橋上市場サン・フィッシュ釜石」は、残したんだ ろうね。

 この市場で、山田せんべいとか、いかせんべいを購入。  山田せんべいは、卓球のラケットのように大きい。  焼く前のやわらかい「生山田せんべい」というのも売っていて、私は こっちのほうがおいしく感じた。  2階の「まんぷく食堂」で、食事。

 私は、いくら丼。  嫁は、ウニ・ホタテ丼。

 このお店は、釜石で有名な「中村家(なかむらや)」の姉妹店。 「中村家」の名物漬物「海宝(かいほう)漬」が食べられるかもと思っ たのだが、メニューになかった。 「海宝漬」は、アワビ、イクラ、芽カブを漬け込んだもの。  でもお店の人が、「アワビ抜きになりますけど…」と言って、「海宝漬」 に近いものを作ってくれた。  これが抜群においしかった。  納豆のように、ごはんといっしょに食べると、うんまいこと、うんま いこと。  北海道の松前漬けに近い食べ物だ。  お土産屋さんには、売っているので、あとで買って、東京に送ることに しよう。    市場に隣接された「シープラザ釜石」も見る。  お土産センターだけど、ちょっと密度が薄く、施設のはじっこのほう には古本屋なんかもあった。  午後3時。きょうの宿泊先、ビジネスホテルの「S」へ。 「S」と、仮名なのは、フロントの人間が長電話をしていて、ちっとも 電話を切り上げて、私たちのチェックインを応対する気がなかったから。  案の定、フロントの人間は電話を切ったあとも「少々、お待ちくださ い」と自分の業務を優先した。  おまけにこれだけ寒いのに、部屋には暖房が入っていなかった。  部屋も狭くて、独房のようだ。  テレビのリモコンの反応も悪く、かなり苦戦した。  釜石には、そこそこのホテル自体、2軒しかないらしい。  そのうちの1軒がここだって。  予想はしていたけど、こういうホテルに泊まると、町の印象がどんど ん悪くなる。  さっきから、ずっと天気雨が続いて、雨が降ったり、やんだり。  どんどん気温が下がって来ている。  午後3時30分。「鉄の歴史館」へ。

 最終入場時間が、午後4時とインターネットに書いてあった。  終了は、午後5時。  ふつう午後5時に入って、6時ぐらいに「そろそろ終了です」と言わ れるものだろう。  入り口にはさすがに「〜4時30分」の紙が上から貼ってあった。  でも釜石湾が一望できる気持ちのいい博物館だ。  釜石大観音の後姿が見える。  こんな景色が見えるような別荘がほしい。

 やたらと「近代製鉄の父・大島高任(おおしま・たかとう)」の話題 が多い。  そういえば、「シープラザ釜石」で大島高任の写真が入った「高炉日 記」というお土産菓子を売っていた。

 製鉄が出来るまでが学べる博物館だけど、町の外れにあるせいか、ま ったくお客さんがいない。  展示物の解説も、文字が多く、画数の多い漢字だらけ。  どうも博物館は、中途半端に頭のいい人が解説を書くものだから、語 尾だけ子ども向けになっているけど、言ってることは小難しい場合が多 い。

 午後5時。「ビジネスホテルS」に戻る。  まだ天気雨が続いている。  変な天気だ。 「鉄の歴史館」で歩きつかれて、眠くなり、仮眠…。  けっこう熟睡…。ZZZ…。  午後6時。岩崎誠からメールが入る。  青森に到着したけど、気温10度で、雨だそうだ。  こっちも寒いけど、青森は、10度か!  最初の予定通り、アロハシャツだけで来たら、大変なことになった。  午後7時。嫁と、ホテルの近くの「のんべえ横丁」へ。

 不思議な通りだ。  屋台村というより、長屋。  約100メートルぐらいの通りに飲み屋さんが25軒並んでいる。  長屋の屋根が、スチール製で統一されている。  スチール製なのは、鉄の町・釜石だからか?  釜石市が昭和41年、市内に散らばっていた屋台を今の場所にまとめて 移したそうだ。

 嫁がインターネットで調べて、評判のよかった「とんぼ」へ。  お店に入ると満員なのに、お客さんたちが必死に寄ってくれて、私と 嫁が入れるスペースを作ってくれた。  10人入って、満員だ。  お母さんが忙しいと、お客さんが生ビールのサーバーを操作する。  また、このお母さんが、出しゃばるでもなく、おっとりと、人柄がい いので、私たちのようなよそ者を、お客さんたちが仲間に入れてくれる。  みんなでテレビ朝日の『永遠の歌声!美空ひばり』を見ながら、昔話 に花を咲かせる。

 お母さんが「きょうは食べ物が全然ないの」と言いながら、さんまの 刺身や、焼き魚を作ってくれた。  さんまのつみれ汁が、うまかったー!  つみれに、きのこが入っていて、温まる〜。  釜石に着いて、2時頃に、晩飯になるようなどんぶり物を食べてしま ったので、ちょうどこのくらいの量でよかった。

 お金を払おうとすると「2300円です」と言われる。 「へ? ひとり、2300円?」 「いや。ふたりで…」 「安すぎる!」 「いーや。お刺身と、つみれ汁くらいしか出せなかったからね!」  何だか、急に釜石がいい町に思えて来た。  やっぱり、その町のよさを決めるのは、出会った人々だよね。  どんな有名な景勝地よりも、たったひとりの温かい人に出会えたら、 最高の町だ。  お酒のみの人は、釜石に来たら、ぜひ「のんべえ横丁」へ。  そして「とんぼ」へ。

 午後8時30分。ホテルに戻る。  日記を書くために、釜石のことを調べていくうちに、どんどん時間が 経って行く。  ホテルでネットが出来るのはいいけど、時間を奪われる。  しかし、困った。  夜になっても、暖房が入る気配なし!  寒い。本当に寒い。  お風呂に入って、そのまま寝るしか対抗策がない。  明日は、移動距離が長い。

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