６月２８日（金） 午前３時。毎日、一度この時間に目が覚めてしまうなあ…。 旅先だからではなく、単に歳を取っただけかもしれないが。 ホテルの窓から見える景色は、霧雨模様。
しばらく九州取材旅行中の日記の下書きを書いてから、また仮眠。 午前９時３０分。私、嫁、土居ちゃん（土居孝幸）はホテルをチェッ ク・アウト。 青島パームビーチホテルは、居心地のいいホテルだったなあ。 従業員のみなさんがアロハ姿なので、南国に来た気分満点だし、方言 で話しかけてくれるので、温かい。 ホテルから車で５分ぐらいの青島神社の入り口まで行く。 私と土居ちゃんは以前来たことがあるけど、嫁は初めて。
青島神社に向かう参道は、江ノ島っぽいお土産屋さん街だ。 ここでも東国原英夫県知事のグッズとポスターだらけ。 本当に東国原英夫県知事が政治的な失言か何かで失脚したら、宮崎県 じゅうのお土産屋さんたちはどうしてしまうのだろうと心配になる。
鬼の洗濯板を通る。 鬼の洗濯板は、鬼の洗濯岩という言い方もあったが、２００７年から、 「鬼の洗濯板」という名称に統一したそうだ。
鬼の洗濯板は、砂岩と泥岩の重なる層が波に洗われて、やわらかい部 分が削られて出来たもの。 奇岩ではあるが、平たく言ってしまえば、岩がギザギザになっている だけだ。
「鬼の洗濯板」という名前をつけた古代の糸井重里さんのようなコピー ライターの人が、えらい。 ただのギザギザ岩が、立派な観光地になってしまった。 本当に「鬼の洗濯板」なら、どんだけ大きい鬼なんだ！？
「さあ！ また恒例、土居ちゃんのドンガラガッシャ〜〜〜ンが見れる かなあ！」 土居ちゃんは、旅行中貯まった小銭を全部、お賽銭箱に投げ入れる。 その物音がすごいので、いつも近くにいたほかの観光客が、ギョッと して振り返る。 私はこれが大好き。 「ハハハ！ 最近、５００円玉はよけて入れるようになったよ！」 「何だ。つまらないなあ！」 「旅行中って、お札ばっか出しちゃうから、意外と５００円玉がいっぱ い貯まるんだよ」 「５００円玉は重いから、手放しちゃえば？」 「ハハハ！」
この青島神社は、巨人軍が宮崎キャンプので毎年優勝祈願に訪れるの で、巨人軍の選手の絵馬を見ることができる。 巨人ファンには、うれしい場所だろうなあ…。
いまだに巨人が宮崎キャンプで来る頃は、宮崎じゅうのホテルが満員 になるそうだ。 さらにソフトバンクも宮崎でキャンプをやるので、宮崎にソフトバン ク・ファンが急増しているそうだ。 キャンプは、選手をいちばん間近で見ることができるしね。 横浜ベイスターズは、毎年、沖縄なので、飛行機に乗れない私は行く ことが出来ない。 でもベイが宮崎でキャンプするようになったら、毎年２月は宮崎に住 むようになってしまうとおもう。 「ところで土居ちゃん、青島神社で、恋愛のお願いしてきた？」 「あっ。忘れた！」 「はっはっは！ やっぱり、土居ちゃん、もう結婚する気ないな！」 「ハハハ！ 失敗したな〜！」
午前１０時３０分。宮崎の市街地へ。 ある場所に行くのに、早く着きすぎたので、宮崎観光ホテルの喫茶店 で、時間をつぶす。 私と嫁は、マンゴージュース。 土居ちゃんは、コーヒー。 実は、これから行くお店は、わざわざ宮崎に２泊してまで行こうとし たお店。 しかも、このお店に寄ったら、私と嫁はさっさと、宮崎を後にする。 おいしいお店かどうかは知らないけれど、なんとほぼ４０年間いつか 行くぞ！と心に決めていたお店だ。 そのぐらい重要なお店って、どんなお店？っておもうでしょ。 話は、ちょっと長くなるかもしれない。 「人生を変えた一冊の本」とか「一本の映画」という言い方がある。 私の場合、『巨人の星』（原作・梶原一騎、作画・川崎のぼる）な のだ。 １９５９年に、『週刊少年マガジン』が創刊された。 それ以前は、光文社の『少年』という漫画雑誌が私のバイブルだった。 『少年』には、鉄腕アトムと、鉄人２８号が連載されていた。 それこそ、この本を私は穴が開くほど読み、全ページを模写して遊ん でいた。 当時は、大長編漫画１６ページ！というぐらいで、しかも月刊誌だっ たから、本当に全ページを模写しようとすれば、いくらでも模写できた。 小学校に上がる前の頃だ。 その頃から絶対、漫画家になるぞ！と決めていた。 ところが、小学校に上がるとき、継母が我が家にやって来て、漫画を 読むことも、描くことも禁止した。 たまにこの日記で、私が罵倒する継母だ。 『週刊少年マガジン』が創刊されて、すぐの頃。 その１０年後、漫画を描くことも、読むこともなくなった私は、偶然 床屋さんで、『巨人の星』にめぐり合う。 『巨人の星』は、子どもの頃に禁止された頃の漫画の匂いが充満してい るような漫画だった。 血が逆流するほど、興奮した。 本当は当時の漫画の主流は、かなり難解な路線に走っていたのを後で 知ったのだが、漫画に対して時代遅れな私には、子どもの頃の漫画を再 び読んだような感じで、ウルトラマンが変身するときのような高揚感を 覚えた。 ちなみに私はウルトラマンもリアルタイムで見せてもらえず、のちに 再放送で見た。 チカラはみなぎったものの、『巨人の星』を読んでから、漫画家をめ ざすには、１８歳という年齢が手遅れの年齢だと思い込んだので、漫画 編集者をめざすようになった。 漫画編集者もダメとなると、出版社の社長をめざした。 ふつう失敗すると、目標を小さくしていくものなのに、逆に大きくな っていくのが私らしいでしょ。 出版社の社長は実現しかけたが、結果的には二度とも失敗に終わって、 今日に至っている。 私のことを人生、順風満帆、ノーミスでここまで来ていると思ってい る人がけっこう多いけど、人生の大半は失敗だよ。 …と、ここまで書いて、あれ、本当に『巨人の星』は、私の人生を変 えた一冊だったんだと、改めて思って、しみじみした。 何の話をしてただっけ？ ハハハ！ そうだよ。いまから行くお店と、『巨人の星』だよ。 その『巨人の星』に、巨人の宮崎キャンプの話が出てくる。 あの巨人軍終身名誉監督の長島茂雄さんが、現役選手として描かれて いる。 その長島茂雄さんが、これから行くお店で「釜あげうどん」を食べて、 「おお！ 食った！ 食った！」と叫ぶシーンがあったのだ。 ほかの巨人の選手たちも「宮崎キャンプはこれが楽しみ！」と言って キャンプのベンチでおいしそうに食べていたシーンがあったはず。 そのお店で一度、釜あげうどんを食べてみたかったのだ。 本当は、昨日の朝、行きたかったんだけど、金曜日が定休日。 今回の旅は、黒川温泉の「山みず木」が予約の取れない旅館だったの で、「山みず木」が空いている日に予約してから、逆算して日程を決め たので、何度プランニングを変更しても、「山みず木」に行くのをやめ ないかぎり、釜あげうどんのお店に行くことができなかったのだ。 そんなわけで、宮崎に２泊してまで、これから食べに行くのだ。 午前１１時。念願の「重乃井」へ。
「さくまサン！ 雨が降ってきたよ！ 変だね！」 「土居ちゃん、このお店は、私が１７〜８歳のときからの憧れのお店だ から、仕事モードになっていない！」 「そういうことか！ さくまサンのことだから、雨の予報も吹き飛ばす のかと思ったのに！」 「まったく個人的な憧れで来てるだけだからなあ。どうせなら大雨降ら せて、土居ちゃんが乗る飛行機を飛ばせなくしてやる！」 「やめてくださいよ。さくまサンがいうと、冗談に聞こえない」 お店に入るや、漫画で描かれたよりも狭い感じがしたけど「ああ！ 『巨人の星』に出てきたお店だ〜！」と、感動。
壁一面には、このお店に来た野球選手や芸能人の写真がいっぱい。 サイン入り色紙より、こっちのほうがいいね。 色紙のサインって、ぐちゃぐちゃで誰だか全然わからない場合が多い からね。写真なら、わからなくても、わからない人だって確認できる。 長島茂雄さんの写真もあるけど、白黒写真。 年代を感じるなあ。
え？ おまえは横浜ベイスターズ・ファンなのに、巨人の話題か？ ベイのファンであると同時に、『巨人の星』のファンだし、立教大学 出身者としては、長島茂雄さんがどんなにとんちんかんな采配をしよう と、批判はタブーなのだ。 正直、長島茂雄さんが、全打席ヒットを打って、でも大洋ホエールズ が巨人に圧勝してくれるのが、いちばんうれしかった。 メニューは、釜あげうどんのみ。 サイド・メニューに、稲荷、バラ寿司、魚寿司があるけど、メインは 釜あげうどんだけ。思い切りがいい。
釜あげうどんが、茹で上がるまで、１０〜２０分ぐらいかかりますと 貼り紙があった。 お腹が減っているので、ケースに入っているおいなりさんを食べる。
これが甘くて、おいしかった。 たしかになかなか茹で上がらない。 土居ちゃんが「もう一皿食べようか！」と言って、もう一皿ケースか ら取り出す。 座った席が、ケースの隣りだもん。食べちゃうよ。
実はこの後、すぐ電車に乗る予定なので、だんだん時間が心配になっ てくる。 １５分後に、釜あげうどん、到着。 正直、私は『巨人の星』に登場したお店に来てみたいだけだったので 味のほうは別に二の次だった。 長島茂雄さんの大のお気に入りのお店だったといわれても、長島茂雄 さんの味覚って、あまり参考にならないような気がしてたしね。ハハハ！ ところが、おいしかった。
出汁が、抜群においしかった。 化学調味料を一切つかわず、利尻産の昆布、花かつお、日向産の椎茸 などで作った出汁だそうだけど、大盛りを注文すればよかったと後悔し たほどおいしかった。 この出汁を、食べ終わったうどんのほうに入れて飲むと、これがまた うまい！ この出汁はすごいよ！
わすか５分で食べ終えてしまったのが、非常に残念。 待ちに待った漫画の単行本を買いに行って、帰りの電車のなかで読み 終えてしまったような、もったいない感だ。 午前１１時３０分。宮崎駅へ。 ここで土居ちゃんとお別れ。 土居ちゃんは午後２時くらいの飛行機で、東京に戻る。 「もう一度、チキン南蛮食べて行こうっかな！」 「えっ？ 土居ちゃん、一昨日のお店、また行くの？」 「うん！ ちょっとね！」 「飲み屋じゃないんだから、ちょっとじゃないでしょ！」 「まあね！ ハハハ！」 土居ちゃんは身体が大きいから、パワーが違う。 私が軽自動車なら、土居ちゃんはアメ車。 排気量が違う。
「それじゃ、土居ちゃん、来週、大阪でね！」 「はーい」 午後０時４分。宮崎駅から、にちりん１４号別府行きに乗車。
昨日、土居ちゃんと美々津に向かった電車とおなじ電車だ。 これから京都まで、わずか７時間の旅だ。 はっはっは！ しょうがないでしょ、飛行機乗れないんだから。 土居ちゃんがいま宮崎空港から飛行機に乗って東京に着いて、その足 で新幹線で京都に向かっても、たぶん土居ちゃんのほうが早く京都に着 くだろう。 そのぐらい、宮崎は遠いんだよ。 とにかく別府まで、３時間というのは遠すぎる。 宮崎に、道路と電車を！ 最初のうちは、ずっと雨。 そりゃそうだ。 後は京都に帰るだけで、仕事モードになっていない。
しかし、今回の旅も収穫がどっさりだ。 とくにＢ級グルメにめぼしいものがてんこ盛りだった。 『桃太郎電鉄KYUSHU』の物件一覧表が、非常に作りやすくなった。 宮崎県の物件駅は、宮崎、都城、飫肥ぐらいしか出せないかもと思っ ていたけど、美々津や日向を加えることが出来そうだ。 午後３時１９分。別府駅で、下車。 向かい側のホームで、乗り換え。 午後３時２２分。ソニック４０号博多行きに乗車。
非常に乗り心地のいい特急なんだけど、ウッディな内装なために、 どこかの座席が、きゅるきゅるきゅるきゅる木の音が鳴ってうるさい。 嫁の木製テーブルは、ボルトが外れていて、ガタガタゆれている。 だいぶソニックも、金属疲労が出てきたな。 午後４時３２分。小倉駅で下車。 コンコースで、駅弁を買う。 小倉で買うなら、やっぱり「かしわめし」。 午後４時４７分。のぞみ４４号東京行きに乗車。
このまま東京まで乗って行ってもいいんだけど、明日は京都のマンシ ョンの総会があるので、京都にきょうじゅうに着かないといけない。 下関を過ぎたあたりで、かしわめしを食べる。 鶏の出し汁で炊き込んだごはんがうまい。
いままで、何度もこの東筑軒のかしわめしを食べてきたけど、きょう 食べたかしわめしが、いちばんおいしかった。 ごはんが、ほんのり温かったせいかな。 かしわめしを食べた後は、ぐっすり寝る。 午後７時１６分。京都駅で、下車。 個人タクシーの宮本さんに迎えに来てもらって、京都のマンションへ。 電車のなかでけっこう寝たのに、まだ寝足りない。 別府までの日記を書き上げて、お風呂に入ったら、寝よう…。
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