10月10日(水)

 東京は、曇り空。  きょうから、2泊3日の取材旅行。  この時期は旅先がどのくらい寒いのか、暑いのかわからなくて、持っ て行く洋服に困る。  私が行くと、かんかん照りになる場合も多いので、よけい悩む。  午前9時30分。嫁と、東京駅へ。  東京駅構内の「旨囲門(うまいもん)」で、駅弁を物色していると、 土居ちゃん(土居孝幸)が合流。  午前9時56分。東北新幹線はやて・こまち13号に乗車。  いつもは新幹線はやてに乗車だけど、きょうは秋田県に向かうので、 こまち号に乗車。  さっそく、駅弁を食べる。

 私と嫁は、牛肉ど真ん中。

 土居ちゃんは、深川めし。  私と土居ちゃんは、『桃太郎電鉄20周年(仮)Aタイプ』、『桃太 郎電鉄20周年(仮)Bタイプ』の打ち合わせ。  土居ちゃんが描いてきたリテイクのゲスト・ボンビー、名産怪獣、新 キャラなどのデザインにOKを出したり、何種類か描いたものはどれが いいか決めて行く。。  このところ、腑抜けた絵ばかり描いていた土居ちゃんの絵に力強さが 戻ってきた。 「何種類もあるデザインから、どれが採用になったまでは、絵を見ても みんなはわからないと思うから、デジカメして、見せてあげよう!」と、 写メールする私。 「露骨にわかるとおもしろくないから、少し隠すかな?」と、両手で絵 を隠そうとする土居ちゃん。

 盛岡駅で、こまち号が切り離されて、自走を開始する頃には、『桃太 郎電鉄20周年(仮)』2タイプの絵の打ち合わせがほとんど終了して しまった。 「終わっちゃったね、土居ちゃん!」 「でも東京に戻ってから、絵をいっぱい絵を描かないといけないから、 大変だ!」 「そうは言っても、描く内容が決まると楽でしょ?」 「楽ですねー!」  昨日、完成したスリの銀次の仕様書の変装パターンは、『桃太郎電鉄 20周年(仮)』のAタイプではなく、Bタイプのほうでつかうことに 変更。  さらに、もうひとつのパターンが、決まった。  Aタイプと、Bタイプでは、違うスリの銀次が見れるよ。  …という風に、電車のなかはいつもお仕事。  しかし、新幹線こまち号は、速度が遅いね。  脇の国道を走るトヨタのヴッツに抜かれているよ。  新幹線を名乗るからには、自動車より早く走ってほしい。  車窓から見える田園は、もう稲刈りが終わっていた。  あきたこまち水田のはず。  広い青空に、大きな白い雲がいっぱい。

 午後1時27分。大曲(おおまがり)駅で、下車。

 東京より、暑い!  また晴れ男の私のせいか!?  ここで奥羽本線に乗り換え。  5分後の発車だから、まだ時間があると思ったら、キャリーバッグを ごろごろ転がして、電車に乗ったら、すぐ発車した。

 午後1時32分。大曲駅から、奥羽本線新庄行きに乗車。  2両編成の電車がゴトゴト走る。  最近はどんな地方に行っても、ステンレス製のきれいな列車になっちゃ ったなあ…。  ワックスで靴が滑るようなおんぼろ電車は、旅の風情を増したものだけ ど、安全性とか考えると取り替える時期なのだろう。  そう思うと、銚子電鉄の車両は、ますます貴重だ。

 午後1時49分。3つめの横手駅で下車。 「よぐ、ござったんす。  かまくらの里 横手へ」

 ようやく、横手に来た。

 実は今年、この町に取材に来ようとして、5〜6回失敗している。  1回目は、2月。  どうせなら「かまくら祭り」に来ようとしたら、暖冬でまったく雪が ないというので、断念。  その後、ハドソンの桃鉄会議が入って、つぶれ、夏は猛暑でやめ、そ の後も、行こうとすると予定が入った。  ようやく先週、再チャレンジ。  ホテルの手続きをしたら、どのホテルも満室。 「かまくら」の時期でもないのに。  ちゃんと3連休も外したのに。  なんと! 国体の開催中だったのである。  国体って、まだやっていたんだねー。  30年前ぐらいは、ニュースの花形で、テレビも新聞も大きく取り上げ ていたのに、最近全然話題にならない。  持ち回りの県が、選手を越境させてまで、開催県が毎回優勝してしまう ようなことをするから、人気が下火になってしまったんだろう。  開催する(物を作る)側のエゴを、お客さんに押し付けてはいけない。  しかし、よりによって47都道府県の47分の1を引き当てた上に、秋 田市での開催でなく、横手市で開催とは!  その横手に、国体開催中に行こうとしていたとは!  さすが、新潟中越地震のときに、長岡駅にいた私と嫁である。  だから今回は、土居ちゃんを巻き添えにして、来たのである。  土居ちゃんって、トラブルに巻き込まれない運を持っていそうだ。  横手駅に降り立ったのが、むちゃくちゃうれしい。  駅を出て、駅前の横手プラザホテルを越えて、プラザホテル・アネッ クス横手へ。  チェックインまで時間があるので、荷物だけ置いて、市内へ。  横手市は、秋田県第2の都市らしいのだが、どうもそのような大都市 には見えない。人口10万人って、こんな感じ?  人がまったく歩いていない。  国体が終わったばかりだからかな…。

 商店街も、歯抜けた感じ。  おそらく郊外の大型スーパーのおかげで、潰れたお店が多いのだろう。  こういう風景を見る度に、悲しくなる。  日本じゅうから商店街がなくなってしまうよ。  横手では、花見だんごという名物があるので、まずそこから取材しよ うと思う。  ところが、花見だんごは桜のお花見の時期限定のだんごで、いま横手 の和菓子屋さんは「菊見だんご」というのを売っているそうだ。  名前が違うだけだと思ったら、お餅も違えば、たれも違うらしい。  市内に6軒ぐらい、「菊見だんご」を売っているお店がある。  いちばん有名なお店まで歩こうとすると…。 「ほら、さくまサン! 菊見だんごってこのお店に書いてあるよ。食べ ない? お腹減っちゃったよ!」 「もうお腹空いたの! あいかわらず土居ちゃんの胃袋は、すごいなあ!  いまお団子食べても、お目当てのお店に着いたら、また食べるんだろ?」 「食べますよ。ハハハ!」  でも、このお店では「きょうは作ってません」と言われ、次のお店で は、お店は開いているものの、人の気配がない。  やっと3軒目で、菊見だんごを食べたが、お餅が固い。  お餅というより、ういろうっぽい。  うーーん。こういう中途半端は困る。  午後2時30分。「かまくら館」へ。  大きな建物だと思ったら、横手市役所と併設されていて、拍子抜けす るほど、小さかった。

「かまくらの里」を標榜するくらいなのだから、体育館2個分ぐらいの 広さのところに、かまくらの時期の横手の街角を再現して、5〜6個の かまくらを置き、オフシーズンのときにも、観光客が楽しめるようにす ればいいのに。  五所川原の「立佞武多(たちねぷた)の館」で、あの22mの立ちね ぷたを見たからこそ、夏のお祭りを見たい衝動が増した。 「かまくら」も、冬に来たくなる演出がほしいよね。

 というわけで、1個だけある「かまくら体験室」に入る。  かまくら体験室は、入り口にやたら貼り紙がべたべた貼ってあって、 そんなに過去にトラブルがあったの?と、ちょっと心配になる。 「かまくら室の温度は、−10度です。館内とは30度の温度差があり ますので、お身体の不調な方は、ご遠慮ください」 「ブザーが鳴ったら、扉が閉まりますので、途中で自動スイッチに手を 触れないでください」 「5人1組で入って、5人が出てくるまで、絶対入らないで…」

 何だか、スペースシャトルに乗り込むようなものものしさだ。  でも係員がひとりもいないのだから、どのくらい危険なのか実感が湧 かない。  とにかく、なかに入る。  ハハハ! 確かに、−10度は、寒い。  肌がぴりぴりする。  高血圧男は、寒さが禁物なので、すぐ外に出る。

 どうもこの冷凍室に入る際は、入口にある「どんぶく」という服を着 て入らなければいけなかったようである。ハハハ!  入るときに見かけたけど、あれは記念撮影用の丹前だとおもった。  あれだけ貼り紙が多いと、何が禁止で、注意だか、さっぱりわからな い。 「かまくら」というのは、もともと旧正月の行事だったそうだ。  田んぼなどに、長い竹3〜4本で組んだところへ、書初めで書いた半 紙を持ってきて、その紙で焼いたお餅食べるとその年の病を除くと言わ れる「左義長(さぎちょう)」と呼ばれる風習が、「かまくら」に発展 して行ったようだ。  雪があるから、なかでお餅食ったら、うまかろう…ではなかったわけ だね。 「かまくら」の語源は形が竃(かまど)に似ているから「竃蔵」とする 説や、神の御座所「神座(かみくら)」が転じたものであるとする説な どがあるらしい。 「かまくら館」には、横手の観光物産をいっぱい売っていたので、丹念 に物色。 『桃太郎電鉄』を作るためには、「かまくら」よりも「物産館」のほう が大事だ。  いくつか買って、東京に送る。  きりたんぽのレトルト・カップがあったのがおもしろい。

いいお値段

 ここから、何度か道を間違えながら、花見だんごの名店として横手で いちばん有名な「かぶき屋」へ。

 ここでも、もちろん花見だんごもなく、菊見だんごは売り切れていた。  それでも、あっぱれだんごというのがあったので、買う。

<おすすめのお店> 「菓子処かぶき屋」 住所:横手市大町8-14 電話:0182-32-0736 営業時間:9:00〜18:00 定休日:月2回水曜日 不定期

 歩きながら、あっぱれだんごを食べる。  さっきのお店のだんごより、こっちのほうがおいしい。  出きれば、花見だんごが食べたい。  黒胡麻で私のくちのまわりは、真っ黒。  横手川沿いを歩く。

 近代的な建物が見えるので、何の博物館だろうと橋を渡ったら、小学校 だった。横手南小学校だって。  ちょうど、下校時間でわらわら子供たちが校舎から出てくる。  ずいぶんおしゃれな小学校だ。  横手川沿いをさらに歩く。  へばった…。  横手川に隣接するベンチに座って休む。  さっき次の取材場所まで、あと1.5キロという表示を見たばかりで ある。無理はしない。

 それにしても、この町は観光の表示板が少ない。  目的地に近くなると、フッとかき消えたように、表示板すらなくなる。  ちょっと不親切。

 午後3時45分。石坂洋次郎記念館へ。  平屋の一軒を記念館にした感じで、もっと大きな記念館を想像してい た。現在、チューニング中の『桃太郎電鉄TOUHOKU』で、この記念館を モデルにした青春小説記念館の値段を14億円にしてしまっている。  3億円程度に下げる必要がある。  資料、遺品など充実しているけど、14億円だと鉄筋の3〜5階建て じゃないと、似合わないよね。

 当然ながら、石坂洋次郎さんの小説や生原稿がいっぱい並んでいる。 「子供の頃、石坂洋次郎さんの本は、ほとんど全部読んだなあ!」 「えっ? さくまサン、そんなに石坂洋次郎好きだったの?」 「土居ちゃんも学生時代、読んだんじゃないの?」 「何か恥ずかしいので読まなかった。女学生が読むような本だと思って いたから」 「そう思うかもしれないね。明るい文体が好きだったんだ」 「映画では見たことがありますけどね」 「私は吉永小百合さんで映画になったのをよく見たよー。でも共演の芦 川いづみサンがとくに好きだったんだ!」 「演歌歌手の?」 「それは、芦川よしみサン! 土居ちゃん、知っていてわざと言ってる でしょ!」 「ハハハ!」

 記念館には、映画『青い山脈』、『若い人』、『陽のあたる坂道』 などのポスターが貼ってあった。  でもどのポスターにも、芦川いづみサンが映っていたんだけど、どの 顔も違って映っていて、私が好きだった芦川いづみサンはどの顔のとき だったか、わからなくなっちゃったよ。ハハハ!  40年以上も前のスターだからなあ…。  石坂洋次郎さんは、この横手に10年間女学校の教師として赴任した ことが、青春小説の巨匠になるきっかけとなった。  それで学園物が多かったのか。  石坂洋次郎さんの生まれは、ここではなく青森。  取材のペースを上げるため、ここでタクシーを呼んでもらう。  午後4時15分。「後三年の役金沢資料館」へ。

 高校の歴史の教科書に載っていた「前九年の役」「後三年の役」で有 名な、あの「後三年(ごさんねん)の役」だ。  この「前九年の役」「後三年の役」を説明できる人、よほどの歴史好 きでないかぎり無理だよね。  私も、源頼朝の先祖・源義家が、この戦いの遠征中に、偶然、納豆を 発見したというイメージしかない。  よって、横手は納豆の発祥地である。  この時代の歴史の登場人物って、名前が似ていて『キャプテン翼』よ りも覚えづらい。 「後三年の役」を解説しようか? ハハハ! 「清原氏の当主清原武貞には、嫡子真衡がいたが、武貞は前九年の役後、 処刑された藤原経清の未亡人(安倍頼時の女)を妻とし、その連れ子を 養った。その子が後の藤原紀香さんではなく、藤原清衡である…」。  もうこれ以上、読むの嫌でしょ。  何なら、あと300行ほど解説続けてもいいけど。ハハハ!  次が見たいので、駆け足で見て、この資料館を後にする。  午後4時36分。横手城へ。  あれ? お城の門が閉まっている。  休館日?  うそ! 閉館時間が午後4時30分。  6分間の遅れで、バタン!かい。  まいったなあ!

 春になると、桜がきれいで、それで「花見だんご」が生まれたようだ。  石垣がつくられず、代わりにに韮(にら)が植えられたため「韮城」 という別名があるのがちょっとおもしろい。

 まあ、閉まっているのは、仕方がない。  午後5時。横手市役所裏の「出端屋(いではや)」へ。  いよいよ今回の取材のメインである、焼きそばの取材。  横手は、富士宮、太田と並ぶ「日本三大焼きそば」の町で、50軒ぐ らい焼きそばのお店がある。  焼きそばの「幟(のぼり)」も、あちこちに立ってはいけるけど、そ んなに多いわけではない。  50軒という数字も、青森県の黒石市のほうが、4万人弱の人口に対 して57軒で、10万人で50軒ほどは、ちょっと少ない。 「焼きそばの町」を歌うなら、富士宮の浅間大社の前の「お宮横丁」み たいなスペースを作るべきだとおもう。  で、「出端屋(いではや)」。  5時開店のはずが、お店に電気も点いていない。  臨時休業かなあ?  アルバイト募集の貼り紙が貼ってあって、勤務時間が夜6時からとあ るから、開店時間も午後6時以降になってしまったのかもしれない。  念のため、お店に電話を入れる。  トゥルルルル…。  転送電話になった。  最近、転送電話になっているお店は多い。  トゥルルルル…。 「はい、出端屋(いではや)です!」 「お店は何時からですか?」 「5時からです!」  ん? どうもこの電話の声、近くから聞こえる。  後ろを振り向くと、お店のご主人が携帯電話を耳に当てながら、お店 の前で自転車を降りるところだった。ハハハ!  いいなあ! こういうハプニング。  旅のおもしろさのひとつだ。  ご主人は、手際よく店を開け、電気を点け、注文を聞きに来た。

 私たちは、横手焼きそば(並)を3人前、ピリ辛焼きそば(中)を一 人前注文。  さらに、納豆の天ぷら、長いもの磯辺揚げ、豚なんこつ、イカのわた 焼きなども、注文。  横手焼きそばの特徴は、まず麺は、茹で麺で、まっすぐ。  何と言っても、目玉焼きが乗る。  薄茶色の薄口ソース。  必ず、福神漬けが添えられる。  横手焼きそばを食す。  おいしい。  正統派の焼きそばだ。  目玉焼きをくずして、麺とからめると、もっとおいしくなる。  ソースは、もっと濃くても合うような気がした。  とにかく、うまい!

 ただ、やっぱり私には、青森の鈴木焼きそばが、日本一かな。  鈴木焼きそば知らなかったら、迷わなくてすんだのにな。  それと、このお店は、焼きそば以外も、おいしかった。  納豆の天ぷらと、長いもの磯辺揚げは、ちょっと「おお!?」と、 くちの動きが止まるくらい、ほかにちょっとない味。  長いもの磯辺揚げは、たれにつけて食べる趣向。  こんな食べ方するの見たことない。

 ピリ辛焼きそばは、タバスコ風の辛さで、私はちょっと苦手。  好きな人は、好きな味だとおもう。

 このお店は、横手焼きそば好きの人たちによる覆面リサーチによる投 票で、初代グランプリを獲得したお店だそうだ。

 でも、まだ横手焼きそばは、1軒目なので、何とも言えない。  おいしかったのは、間違いない。

<おすすめのお店> 「出端屋(いではや)」 住所:秋田県横手市田中町1-25 電話:0182-33-2248 営業時間:平日 11:00〜14:00, 17:00〜23:00      土  17:00〜23:00 定休日:日曜日

   午後6時。まだ時間が早いので、ずいぶん歩いて足が痛いんだけど、 町中を歩いて帰る。  日中暑かったのに、さすが北国。  風が冷たくなってきた。  今回、アロハシャツも持ってきたけど、着る場所はなさそうだ。  駅前の「マックスバリュ」に寄る。  地方のスーパーに寄ると、その土地特有の食べ物を発見したりする場 合もある。

 名物の豆腐カステラが見当たらないなあ…。  あれ、おいしいのに。  土居ちゃんが、飲み物をカゴに入れている。  私はそっと近づき、ビニールパックされた菓子パンの「揚げパン」を そっと、土居ちゃんのカゴに入れて、立ち去る。  土居ちゃんは、揚げパンに気づかず、レジへ。  レジでお金を払って、ビニール袋に品物を入れ始めて、手が止まり、 こっちを見て、笑った。  やっぱり、土居ちゃんは、レジの段階で自分が買った品物を気にして いなかった。ハハハ!

 午後7時。ホテルプラザ・アネックス横手に戻る。  このホテルは、新しくて、きれい。  部屋も広いし、コンピュータもLANが入っていて、コード無しでも 繋がる。

 しかも108室あるこの大きなホテルには、8室だけ部屋に24時間 かけ流しの温泉の露店風呂がついている。  この8室のうち、3室を私と嫁と、土居ちゃんが独占!  さっそく、温泉に入る。  私は高い所が苦手なので、3階にしてもらった。  土居ちゃんも3階で、嫁は、5階。  最近、ホテルは喫煙ルームが低層階で、禁煙ルームは上だ。  私は低い階がいいので、喫煙ルームにするようにしている。  喫煙ルームでも、別にタバコ臭くはない。

 おお! いい湯だ。  気持ちいいなあ!  部屋のお風呂から、横手駅のホームが見える。  貨物の車両基地なのだろうか。やたら貨物列車が多い。  こっちは3階だから、駅のホームからこっちを見れば、お風呂に入っ ている私は丸見え見えだが、こんな爺(じじい)の裸、見たほうが受難 である。  私のような駅好きには、この露天風呂は、最高だなあ!  夜、電車がホームに入ってくる場面がとくに好き。  ピーーーッという汽笛も鳴らしてくれると、堀内孝雄さんの『遠くで 汽笛を聞きながら』を謳いたくなる。  冬にここに来たら、駅に雪が積もって、電車が屋根にいっぱい雪を積 んでホームに入ってくるんだろうなあ…。  このホテルの部屋付き露天風呂が取れるなら、冬にまた横手に来ても いいくらいだ。  しかし、どうもこの横手という町は、いい素材を持っているのに、そ の素材をどうこうしようという気がないように思える。  まだ何かをやりかけているなら、方向性を示唆も出来るが、何もする 気がないような気がする。  道も広いし、焼きそばもあれば、かまくらもあって、文学もある。  もったいない町だ。  もう一度、お風呂に入ろうっと。  このホテル、いいよ。  気に入った。  あっ。汽笛が、ピーーーッと鳴った…。

 
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