10月31日(日) 午前6時。外は、雷の音がす雨。 こりゃ、きょうの取材は難しそうだなと、『桃太郎電鉄G(仮)』の仕様書や、 『桃鉄研究所』のコメント書き。 午前8時。眠くなってきたので、仮眠。 きょうの取材は、中止だ。 午前9時。ありゃ。外は雨があがったようだ。 だったら、でかけるか。 行き当たりばったりだ。 午前10時30分。荷物をまとめて、嫁と、東京駅へ。 東京駅八重洲中央口脇の「駅弁屋 旨囲門」で、駅弁を買う。屋号の「旨囲門(うまいもん)」よりも『駅弁屋』と看板に大きく描いてあるのは、 お見事。主旨がはっきりしている。 ここは、JR東日本で売っている駅弁を買うことができる、駅弁マニアにはうれし い場所だ。東京にいながらにして、仙台の牛たん弁当が家で食べられる。 コーエーの食い道楽ニスト・きっしいサンもご愛用のお店だ。 午前10時50分。のぞみ53号博多行きに乗車。 「駅弁屋」で買ったお弁当を食べる。 私は、千葉駅名産・はまぐり丼、1000円。 嫁は、宮城ろまん街道、800円。
はまぐり丼は、容器が、はまぐりの陶器になっていて、家に持って帰っても楽しい ものになっている。 味のほうは、まあまあといったところかな。 嫁の宮城ろまん街道も、そんなところだそうだ。 私も嫁も、駅弁を食べつくしているから、「まあまあ」は、世間一般ではかなり等 級が高い。 外は、曇り空。 私はVAIOを広げて、『桃鉄研究所』のコメント書き。 今回、第3期の最後なだけに、まだ研究員になっていない人には、最後のチャンス。 でも募集した内容がちょっとわかりづらかったのか、主旨を間違えたものが多く、ボ ツが増えて、ちょっと残念。 午後12時33分。名古屋駅で下車。 手荷物預かり所に、荷物を預けて、中央本線の改札口へ。 おっと! 多治見(たじみ)行きの快速電車が、あと2分で発車だ。 無理かな! 走る。 必死に飛び跳ねながら、先頭車両に飛び込む。 「駆け込み乗車はおやめください」だ。 でも取材先で、1本電車に乗り遅れると、次の電車まで長い場合がある。無理して でも乗っておきたい。 名古屋発の中央本線車内は、いかにも都会から近郊の住宅地に向かう通勤圏内電車 の雰囲気。 かつて、名古屋から多治見(たじみ)まで行くのに、どのくらいの時間がかかった のだろう。 いまは快速電車で、わずか33分だ。 多治見まで、ずっと分譲住宅が続く。 午後1時18分。多治見駅で下車。 多治見市の人口は、10万人? 意外と少ないね。 ちなみに、多治見は、愛知県ではなく、岐阜県。 駅前は、典型的な地方中都市の景観。
あれ? 駅構内に観光案内所がない。 名古屋のベッドタウンだから、観光案内所はないのかな。 でも、多治見は美濃焼きの中心地だ。 ないわけがない。 えっ? あの交番の脇。 駅前のはじっこだ。 でも白いカーテンが下りていて、閉まっているぞ。 多治見市観光案内所は、日曜日というのに、閉館。 まいったなあ…。 駅前の「多治見周辺案内」の案内板は、予備校、病院、工務店のCMだらけで、観 光名所の案内が載っていない。 おまけに「多治見まつり」は、11月3日に開催。 ひ〜〜〜、3日後に来ればよかった。 駅に戻って、若い駅員さんに聞いても、観光名所がわからず。 ただ駅員さんが、多治見市観光案内所は、月曜定休なので、きょうやっているはず というので、もう一度戻ってみる。 なんと。カーテンが閉まっていて、鎖のついた看板が下がっていたので、閉まって いると思い込んだけど、近くまで行ってよく読んだら「多治見市観光案内所は2階」 という貼り紙だった。 観光案内所が2階なの? わっかんないよー! 階段を登って、多治見市観光案内所へ。 パンフレットをもらう。 これでようやくお目当ての「オリベストリート」の場所がわかる。 「オリベ」というのは、古田織部(ふるたおりべ)のこと。 今月2日の本巣(もとす)の取材でも登場した古田織部だ。 安土桃山時代に武士・茶人・陶人として、当時の3英傑、信長・秀吉・家康につか えて活躍した人だ。千利休の弟子でもある。 この有名な茶人は、岐阜県を歩いていると、あちこちで出くわす。 午後2時。オリベロード「はなやぎのまち」へ。
多治見橋を渡ってすぐのところに、明治初期から昭和初期に建てられた商家や蔵が 残っていて、独特の風景を作っている。
ひときわ黒い建物があった。 蔵造り風の格好いい建物だ。
えっ? これ、交番なの? 交番まで、町並みの雰囲気に合わせているんだ。 徹底しているなあ。 どうやら交番の上から、手品のようにすっぽり黒いカーテンをかぶせるように建て られている。ちょっと映画のセットっぽいけど、努力は認めてあげたい。 「たじみ創造館」で、竹皮ようかん、黒糖風味の手作り飴など購入。
トマトジュース、山ごぼうの味噌漬けなどが、名産なのをチェック。 「五介(ごすけ)丼」という鶏の味噌煮丼のレトルト食品が、気になった。 この「五介丼」が食べられるお店でもあればいいのだが。
この「たじみ創造館」のPRセンターの女性が無口なのはいかがなものか。 PRセンターなんだから、率先してしゃべってほしい。 こっちが閉口するくらいPRしてほしい。 オリベストリートを歩く。 わずか400メートルしかないのに、古い家と、新しいけれども古い家風に生まれ 変わったお店がたくさん並んでいる。
しかも、まだ町並み整備中の真っ最中。 あちこちで、建設と整備が進んでいる。 「多治見まつり」には、3日早く来てしまったけど、この多治見には、3年後来たほ うが、もっと町並みが完成されていて、たのしいかも。 それでも、おしゃれな美濃焼きを売るお店とか、骨董品屋とかあって、見て歩くだ けでも、じゅうぶんたのしい。
不思議なお店を見つけたよ。 お店の名前がないんだ。 名前がないどころか、買いたいものがあれば、勝手にお金を置いていかないといけ ない。露店で無料のお店はあっても、一軒家のお店でこのシステムは珍しい。 それどころか、お店の壁には「留守している間も、自由に買い求めください。つり 銭はカゴにあります」の貼り紙。
ほしいものがあったら、買って、つり銭が必要なら、カゴのなかから持って行って いいのだ。 あ、ほんとに。カゴにお金が入っているよ。 たまたまお店の人がいた。 「ほんとに勝手に、お金を置いていけばいいんですか?」 「ええ〜。ほかに仕事を持っているので、手が回らなくて。もう、お客さんに助けら れてやっているんですよ」 そういいながら、こっちがまだ何も買っていないのに、コーヒーを入れて、出して くれる。ますます不思議なお店だ。 お店に置いてある商品も、スモークものばかりなのだ。
けっきょく、ニジマスのくんせい、くんせいたまご、栗のくんせい渋皮煮を買う。 これが、どれもおいしかった。 何だか、このお店が、多治見の魅力を集約しているような気がする。 まだまだおもしろいお店を見つけた。 「カステラの松浦軒」だ。 つげ義春さんの漫画に出てくるような古いお店だ。
何でも、日本最古のカステラを売っていると知ったのは、家に戻ってから。 すぐ売り切れることで有名なようだ。 たまたまカステラが1本だけ残っていたので、買ってみた。 ほんとに、日本最古のカステラなのかな。 とても日本最古のカステラが、こんな場所といっては失礼なんだけど、ちょっとピ ンとこない。 お店の人は、創業80年くらいになるといっていたから、古いことは店構えを見て もよくわかる。 カステラのなかに、但し書きが入っていた。 書き写してみる。
寛政年間(1800)、岩村藩の御典医が、長崎にてオランダ人より蘭学を学び、 かすていらの製法をも習得され、帰藩の後、広められました。 時を経て、当店に伝わり、以来私どもはそのままの製法を変えることなく頑(か たく)なに守っております。 小麦粉、白砂糖、卵、蜂蜜をまぜ合わせ焼き上げた最も原型に近いかすていらで ございます。 主人 敬白
なるほど。日本最古のカステラの製法で作っているというのは、納得できる。 食べてみた。 いまの長崎のまっ黄色の卵たっぷりのカステラとは、まったく違う味だ。 ん? む? むむ? どこかでこの味を食べたことがあるような気がするなあ。 あっ! あれだ! 小田原駅前、降りてすぐの「守谷のパン」の甘食の味だあ! カステラ=甘食。 妙に納得のいく展開と、結論だった。
でも、私が「松浦軒」に興味を持ったのは、このカステラではなかったのだ。 「栗きんとん」の文字だ。 多治見は、栗の名所でもある中津川(なかつがわ)に近い。 このあたりは、栗王国なのだ。 だから、「栗」の文字を見ると、鼻がひくひくしてしまう。 ただこの創業80年の店構えだけに、大当たりか、大ハズレのどちらかになる場合 が多い。 嫁と、恐る恐る、栗きんとんをひとつ、栗蒸しようかんを一棹買う。 お店の人が、栗蒸しようかんを包んでいる間に、私と嫁は、すばやく栗きんとんを 開いて、食べてしまう。 「おいひぃ!」 「ふうーう。おいしー!」 「この栗きんと、あと3個ください!」 「こっちの『きなころ』って、あなたが好きそうね!」 「当然買うつもりでいたよ!」 お店の人が「ここに試食がありますから、試食してから買ってくださいな」 何て誠実なお店なんだ。 もちろん、おいしかった。 一袋買う。 「織部うつわ邸」で、美濃焼きなどをじっくり見る。 このお店の庭が、実に美しい。 ホレボレする。 熱海の家の庭もぜひこういう風にしたい。
時間がなくなってきた。 多治見はかなり気に入った。 美濃焼きもあるけど、スモークのお店や、松浦軒のように買い食いできるのも観光 地としてはたのしい。 おそば屋さんと、うなぎ屋さんも相当おいしいらしい。 その評判のおそば屋さんの名前が「井ざわ」っていうのがね…。 お店に罪はない。 午後3時30分。土岐市(ときし)駅へ。
私にとっては、土岐市という文字が、ずっと昔から何やら高貴なイメージがあって、 あこがれていた。 明智光秀が、この土岐の土岐氏の出だということにロマンを感じていたのかもしれ ない。勝手に古い町並みと瓦屋根がどこまでも続く金沢のような風景を期待していた。 しかし、土岐市について聞くと、多治見の「オリベストリート」のように古い町並 みはないそうだ。 商店街を見ても、陶磁器生産日本一の雰囲気はあまり感じられなかった。 ちょっと拍子抜け。 別に嫌いではない。 このあと、いい場所を見つけた。 午後4時。土岐市郊外の道の駅「志野・織部」へ。
「志野(しの)」は、志野焼きのこと。 志野焼きは、たっぷりと長石釉が施された気泡状の肌に、ほのかな薄紅色の火色が にじみ出た、情感豊かな日本独特の焼き物。 織部は、茶人・古田織部の好みでつくられた焼き物で、緑釉と豊かな創造性を感じ させる独特な形、幾何学的に紋様化された装飾が特徴です。 黄瀬戸(きせと)は、淡い黄褐色を帯びた淡雅な焼き物で、焼成技法によって「あ ぶらげ手」「あやめ手」「菊皿手」「ぐいのみ手」などと呼ばれ、古来より茶人など に珍重されている。 はっはっは! 何が書いてあるかわからないでしょ? 私もパンフレットをそのまんま写しただけだから、ちっともわからないよ。 乏しい私の焼き物の知識では、志野焼きは、白磁のように白い焼き物だとおもって いたけど、違うようだし、かろうじて、緑色っぽい器が、織部焼きっていうのだけど、 当たっているだけ。黄瀬戸にいたっては、神保町におなじ名前の喫茶店があったよな あ程度。 別に何焼きでもいいから、気に入った焼き物が、好きな焼き物でいいよね。 多治見で作らなくても、緑色の釉薬(ゆうやく)をつかえば、その作品は、織部っ てことになるらしいし。よくわかんないや。 漫画家さんが、Gペンつかおうが、丸ペンで描こうが、スクールペンで描こうが、 おもしろいか、おもしろくないかとおなじようなものか? そうであってほしい。 まずは、道の駅に入る手前の露店で売っている柿を買うことは、忘れない。 道の駅は、近隣の農家で作った野菜や果物が、買えるのが魅力のひとつだ。 土岐市は、岐阜県だから、道の駅ならどこでも、柿を売っているだろうと、睨んで いたのだ。 1箱20個くらいで、600円という信じられない値段の安さの柿もあったけど、 比較的値段の高い1個180円の柿を4個買った。
富有柿だよ。 今月2日、本巣で買うことのできなかった富有柿だ。 あのときは富有柿の季節にはまだ早いといわれた。 この道の駅「志野・織部」は、見事。 観光物産センターなんだろうけど、その広さといい、照明の明るさといい、道の駅 の常識からは想像ができないくらい大規模。 自家用車が、駐車場からあふれるくらいの人出でごった返していた。
この道の駅に来たかったのは、栗で有名な恵那(えな)の名店・川上屋の茶房が入 っているからだ。ぬふふふ。 ふたりで、キャラメル・モンブランプリンと、恵那栗くらべと、コーヒーを注文。 栗くらべはいいよ。 いろんな種類の栗が食べられる。 どれもおいしい。
キャラメル・モンブランプリンは、『聖闘士星矢』の必殺技みたいな名前だけど、 モンブランのクリームのおいしさは、飛び上がらんばかり! これを東京のデパートで見つけたら、嫁と別行動してでも、隠れて食べちゃうだろ な。それくらいおいしい。 毎日食べていいといわれたら、2週間で10キロ体重を増やせる自信がある。 そのくらいおいしい! でも、キャラメル・モンブランプリンは、物件名になりそうもないね。 9文字制限なのに、すでに14文字だし。 道の駅「志野・織部」で、このあたりの名産品をチェック。 「小布施(おぶせ)」の文字が入った名産品が売られているのを見ると、ここが長野 県に近いことを感じる。 天然酵母パンなどを買う。 織部焼きで作られた洗面台が非常に気に入ったんだけど、どの家にも置くことがで いないので、断念。
午後4時20分。多治見駅へ。ふりだしに戻った。 名古屋行きの電車に乗ったつもりが、大阪行きワイドビュー特急しなの16号だっ た。
「こ、これ、名古屋停まります?」 若者がうなずく。 よかった。 間違えたおかげで、20分で名古屋に着いた。 午後4時46分。名古屋駅で下車。 午後5時。エスカ地下街の「山本屋本店」へ。 またしても、味噌煮込みうどんの「山本屋」に来てしまった。
私は、キノコと地鶏の味噌煮込みうどん。 嫁は、牡蠣入り味噌煮込みうどん。
午後5時58分。新幹線のぞみ27号博多行きに乗車。 本を読むたびに、眠くなる。 深く寝ると、博多まで行ってしまう。 午後6時34分。京都駅で下車。 午後7時。京都の家へ。 しばらくベッドにひっくり返る。 午後8時。NHK「新選組!」。 きょうは、嫁がいちばん大好きな藤堂平助(中村勘太郎さん)が死んでしまう回だ。 熱演だったねー。 顔の形相の変わり方が見事だねえ。 迫真の演技とはこのことだろう。 それにしても、歌舞伎役者出身である中村勘太郎さんの熱演を、バシッと受け止 めて、ビクともしないDonDokoDonの山口智充さんという人の演技力の埋蔵量はど れほどの深さがあるのだろう。 本当に無尽蔵のような気がする。 新撰組で最後まで生き残る隊士として、山口智充さんを選んだキャスティングは 見事としかいいようがない。 NHK「新選組!」は、毎週、主要人物が最高の演技を見せて、散っていく。 午後9時。多治見、土岐で買ってきた食の戦利品をパクつく。 これも仕事なんだよ。 栗のくんせい渋皮煮が、おいしいなあ! 富有柿も食べる。 ミカンの甘さに当たりハズレがあるように、きょうの富有柿は、ちょっと優等生 な味。 やっぱり熊本産の太秋(たいしゅう)柿のおいしさが際立つなあ。 でも、柿を食べられることは、無常のしあわせ。 食べながら、『桃太郎電鉄』の「地方編」の台帳にあれこれ書き込む。 台帳のマップにも手を入れる。 構想では、多治見と、土岐は、別々の駅にしていたけど、土岐は多治見に併合し ちゃってもいいかなあ。好きな名前なんだけどなあ。 ☆印カード売り場にするより、ナイスカード駅のほうが似合うなあ。 うーーん。悩みどころだ。
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