5月29日(土)

 午前6時。朝のどのテレビ番組を見ても、天気予報は、お昼から雨の予報だ。
 取材旅行にでかけたときは、雨が降らない法則を持つ私としては、ちょっと悔しい。
たしか、今年は鹿児島で1回、去年は、飛騨高山で、1回雨を食らっただけのはずだ。
 これだけ四六時中、旅行ばかりしているわりには、すごいでしょ?

 午前8時30分。嫁と、新宿駅南口へ。
 いい天気だ。
 とてもきょうお昼過ぎから雨になる気がしない。
「みどりの窓口」で、キップ購入。

 午前9時。松本行き、あずさ9号に乗車。

 ご飯を食べる前って、身体が冷えているから、冷房がつらい。  新宿駅構内で買った、サンドイッチをつまむ。  立川駅から、VAIOを広げて、『桃鉄研究所』の原稿執筆。  第3期の最初の原稿だ。  気分も新たになって、楽しい。  まだ好きなキャラ、嫌いなキャラの募集はしているので、まだ投票していない人は、 ぜひ。  中央本線は、甲府に近づくあたりの景色と、小淵沢からの先の景色が絶景だ。 甲 府の手前では、ブドウの木が繁り始めていた。

 小淵沢は、先月の4月に来たときは、まだ山にたくさん雪が残っていたのに、いま はない。  山には、新緑が生えて、絨毯(じゅうたん)のように、いろんな色の緑色で、ふわ ふわ、モコモコしている。  北海道のマリモが並んでいるようでもある。  午前11時56分。松本駅に着く。  松本駅ずっと古いままのような気がする。

 これだけビッグ・ネームの駅なのに、ホームから跨線橋に上がるためのエスカレー ターがひとつもない。  さらに駅前の広場に出るまで、ひとつもエスカレーターがない。  新幹線が来る予定もないから、改装の予定もないのだろうか。  新宿から、3時間は長い。  長野新幹線で長野まで行って、特急しなので松本まで来るほうがほんの少し早い。 スーパーあずさなら、2時間半だ。  できれば、新宿ー松本間、2時間を切りたいところだろう。 「松本〜新宿 二時間以内の特急実現を」の駅前の看板がまだ建っていた。

 午後12時。大手町の「木曾(きそ)屋」へ。  いかにも明治20年創業の古い建物だ。

 私も嫁も、田楽定食、850円。  信州といえば、信州みそだけに、豆腐に塗りつけられたお味噌が、甘みと深い味わ いで、おいしい。  青じそが炊き込められたご飯もおいしい。

 欲をいえば、田楽5本は、3本にして、残る2本を、茅野(ちの)名物の寒天か、 こんにゃくにすれば、申し分ない。  松本のビジネスホテルに泊まったら、朝食はここにしたくなるだろうなあ。 『桃太郎電鉄』の『地方編』なら、田楽料理屋として間違いなく登場できるおいしさ。 『全国編』では、ぎりぎりかな。  きょうと明日の取材次第だ。  今回、松本をディ−プに取材しようとおもっている。

<私がもう一度行くためのメモ> 「木曾屋」 住所:長野県松本市大手4-6-26 電話:0263-32-0528 営業時間:11:30〜14:30、17:00〜19:30 定休日:火曜

 食後、中町通りへ。  土蔵造りのお店や、蔵をお店にした建物が並ぶ町だ。  私が2001年1月に来たときよりも、お店が増えている。

 あのとき工事していた、電柱を地中に埋める作業も終了していて、すっきりとした 美しい町並みになっていた。  骨董品や、雑貨を売っているお店が多くて、嫁は大喜び。

 松本民芸家具もあるからね。  古い着物屋さんもある。  非常に、京都に似てきた。  新しいお店と、潰れそうな古本屋さんなどの混ざり具合が、いい感じだ。

 嫁が「ずっと、ここにいちゃいそう!」という。  たしかに、嫁の好きそうなお店ばかりだ。  だったら、私もどうしても行っておきたいところがあるので、別行動することにし た。  午後1時15分。私は、松本駅へ。  朝の電車のなかで、プロアトラスを見ていたら、松本電鉄上高地線という路線が北 アルプスの山に向かって伸びていて、終点の名前が「新島々」という。

「新島々」。  漢字で「新島々」と書くと、別に変哲もない名前のように思える。  でも、「新島々(しんしましま)」と平仮名で書くと、じわじわ奇妙でしょ? 「しんしましま」。  微妙な語呂の悪さだ。  おまけに信州は山岳地帯なのに、何で「島々」なんだ?  こういう名前はぜひ、☆印カード売り場でもいいから、『地方編』に登場させたく なる。  そのためには、行って自分の目で確かめないことには。  わざわざ嫁と別行動してまで来るほどではないのかもしれないけれど。  松本駅の自動販売機で、新島々(しんしましま)までのキップを買う。  680円。13駅、新島々(しんしましま)駅までは、30分ですと駅員さんが教 えてくれた。 往復で1時間半ぐらい必要か。  嫁が、蔵の町並みをゆっくり見て回っているのにも、ほどよい時間だ。  改札口を通って、松本電鉄上高地線の乗り場を探す。  7番線、7番線!  いちばん隅っこだ。  ワンマン列車だ。  白い塗装で、けっこうスマートな車体だ。  でも東京の東急電車に似ている。  たぶん東急電車の払い下げだとおもう。  長野県は、東急電車のお古をつかっている路線が多い。  何か結びつきがあるんだろうなあ。  車両の脇に「ハイランド・レイル」と書かれていた。  ずいぶんおしゃれな名前がついているんだな。 「ハイランド」=上高地か。

 そういえば松本に着いてから、まだ1時間半なのに、5度も「上高地」という言葉 を地元の人から聞いた。  この土地では、「上高地」という言葉は、格別な意味を持つ地名なのだろう。  午後1時30分。新島々駅行き松本電鉄上高地線の電車がのろのろと走り出す。  遅いわけだ。  加速したと思ったら、もうシューッと音を漏らして、減速し始めた。  松本駅発車後、1分で西松本駅に停車だ。近すぎ。  このあとの駅名を列挙する。 ・渚(なぎさ)駅。 ・信濃荒井駅。 ・大庭(おおにわ)駅。 ・下新(しもにい)駅。 ・北新(きたにい)松本大学駅。 ・新村(にむら)。 ・三溝(さみぞ)。 ・森口(もりぐち)駅。 ・下島(しもじま)駅。 ・波田(はだ)駅。 ・淵東(えんどう)駅。 ・新島々駅。  ねっ? 渚駅、三溝駅、波田駅、新島々駅…。  なんか海や、水に関係ある名前が多いとおもわない?  間違いなくここは、山に向かっていく路線だよね。  松本は、日本の屋根と呼ばれる日本アルプスの入り口の町だよね。  終点の新島々駅は、乗鞍岳、上高地へ行くためのバスターミナル駅として、発展し ているそうじゃないの。  絶対、山の町だよねえ。  フォッサマグナに関係あるのかな?  とても気になる。  ゴトゴト、プシュー、プシュー!  ゴトゴト、プシュー、プシュー!  ゆっくり、ゆっくり、畑のなかを電車は進む。  駅の名前は別として、山に向かって、のんびり走っていく電車は気持ちいい。  広い畑が広がった向こうに、山が連なって聳え立っている姿は、雄大だ。  まるで、ヌーッと山が松本に向かって、「いない、いない、ばーーー!」と顔を出 したみたいだ。  目の前の人が、ぐーぐー寝ている。  気持ちよさそうだ。  雨の予報は、どうなったんだよ。  ああ! 私まで眠くなってきた。  午後2時。新島々駅に到着。  がくっ。おっと!  終点のひとつ前あたりの駅から、私は寝込んでしまったようだ。  ぞろぞろと、たくさんの人が降りて行く。  50人くらいの人が終点まで乗って来ていたかも。  繁盛している路線だなあ。  雰囲気はローカル線のムード満点なのに。  改札口を出る。  目の前に、おびただしいバスの群れが目に飛び込んできた。  駅を振り返る…。  あっ、ほんとにここは、松本電鉄というより、バスターミナル駅なんだ!

 駅の自動販売機も、バスのキップのほうがメインに思える。  すごいよ!  こんなにバス路線があるんだよ。 ・上高地線。 ・白骨(しらほね)温泉線。 ・乗鞍(のりくら)線。 ・穂高(ほだか)線。 ・特急高山線。 ・特急金沢線。 ・特急新穂高(しんほだか)線。 「特急高山線」って、飛騨高山?  阿房(あぼう)トンネルが開通してから、飛騨高山まで1時間半で行けるようにな ったそうだ。  駅前を見渡すと、「旧・島々駅駅舎」という文字が入った観光案内所があったので 歩いていく。

「島々駅」はやっぱりあったのか。  では、なぜ「島々駅」は消えて、新島々駅があるのだろうか。  ふつう、島々駅が残った上で、新島々駅もあるものだ。  ちょっと、ミステリーっぽくなってきた。 「旧・島々駅駅舎」のある場所は、お土産センターになっているようだ。 「波田町の名産・スイカ、リンゴ、アスパラ」の看板があった。  これは都合のいい看板だ。  私がそのまま『地方編』の台帳に記入しやすい。  こういう名産を探すのに苦労しているだけに、この表示は妙に親切に思えた。  どうやら、旧・島々駅は、昭和59年に廃止になったらしい。  大正11年に開業して以来、62年間新島々駅の先にあったことだけはわかった。 お土産センターを物色。  リンゴや、野菜などが多く、変わったものは見つからず。  名産であるスイカの季節にもまだ早い。  駅に戻って、駅前を10分間ほど歩く。  困った…。  駅周辺のお店、集落。旅館をあっという間に、すべて見終えてしまった。  あとは見渡す限りの山だ。  山は、美しい。

 外国のカメラマンさんが好んで撮影したくなるような美しい景色が広がっている。  でも私はすることが、なくなってしまった。  気がつけば、あれほど駅前にたくさんいた大型観光バスも、1台もいなくなってい る。  電車の発着に合わせて、バスの時刻を決めているのが、よくわかる。  なんでも、松本から、乗鞍岳方面に行くバスは、出ていないので、ここまで電車で 来ないといけないので、夏には登山客で、もっと電車は混むそうで、私が乗ってきた 2両編成の電車も、すべて4両になるそうだ。  さて、どうしたものか…。  もちろん、さっき乗ってきた電車は再び松本駅に向かって走り出してしまって、次 の電車の発車まで、40分ぐらいある。  ここで40分時間を潰すのは、つらいぞ。  楽をしよう。楽を!  駅前のタクシー会社に行って、「松本までお願いします!」と頼む。  この選択は、大正解だった。  運転手さんが、実に貴重な情報をたくさんくれたのだ。  まず、こんな初めて訪れた町に、私は何の縁もないと思っていた。  だからいつものように町で見かけた「日本一おいしい波田(はた)のスイカ」の看 板について聞いてみた。  するとなんと、ここのスイカは、菅沼真理(通称:すがねまチャン)さんの親戚が、 昨年送ってくれた、あの絶品の「下原(しもっぱら)スイカの名産地」というではな いか! 「甘くて、おいしいんだよ!」 「知ってます! 知ってます! 大きくて、甘いんですよ!」 「あまりにも下原(しもっぱら)スイカがおいしいから、みんなが下原(しもっぱら) スイカの名前をつかうようになって、最近規制が出来たくらいだ!」  そうか。このあたりは、あの下原(しもっぱら)スイカの産地だったのか。  あのスイカは本当においしかった。  さらに、松本電鉄上高地線の駅名に、海や水に関係する名前が多いのかを聞いてみ た。  すると、なんと!  ちょっとカンタンに答えをいうのが、もったいない気分だ。  そんなに期待されても困るけど。  昔、このあたりは湖だったんだって!  だから水に関係する名前が多いんだって。なるほどねー!  その証拠に、地面を掘ると、砂地が出てくるそうだ。  この砂地のせいで、下原(しもっぱら)スイカがよく育つんだとか。  地元の人に聞いてみないと、わからないもんだねー!  新島々(しんしましま)という駅名と、旧・島々駅の復元駅舎があった理由も教え てもらった。  何でも旧・島々駅は、新島々駅の先にあったそうだ。  それが30年前ぐらいの水害で、駅が流されてしまったという。  当時、松本電鉄は赤字で苦しんでいたので、この水害を期に、松本電鉄上高地線ご と、廃線にしてしまおうとしたそうだ。  困ったのは、沿線住民。  大いに廃線に反対すると、松本電鉄は「住民がお金を出してくれるなら、廃線にし ないし、駅を作ってもいい!」という回答をしたそうだ。  そんなわけで、いまの新島々駅を作ったのだそうだ。  めでたし、めでたし。  でもいまの新島々駅は、以前、赤松駅だったのを改称して、リニューアルで建設し たものなんだそうだ。  けっきょく、1個、駅が減ってしまったわけだ。  ちなみに、新島々駅の先は、あの有名な「野麦峠」だそうだ。  新島々駅のことを知らなかったのは、私だけで、実は相当歴史のある名前だったみ たいだね。  野麦峠に向かう、野麦街道に、島々宿という、宿場町まであったそうだ。  ☆印カード売り場ぐらいでも…、から立派に『地方編』の物件駅として登場する資 格じゅうぶんな駅であった。  どうも私は、山登りが苦手なので、信州についてあまりくわしくなかった。  だからこそ、今回のように集中取材している。  午後3時。松本の市街地に入った。  嫁から携帯メールで、「縄手通りの交番の近くにいる」と言っていたので、千歳橋 で降りる。  便利だねえ、携帯電話は。

 縄手通り商店街を歩く。

 前回来たとき、こんな商店街があるの気づかなかったなあ。  相当前から、商店街自体はあったようだ。  鎌倉小町通りのミニ版みたいなかわいい商店街だ。 「松本カエルまつり」というのをやっているので、やたらと、カエルの石像、ポス ターなどが目に入る。

 グルッと回って、再び、中町(なかまち)の「蔵の町並み地区」へ。  暑い。日焼けしそうだ。  お昼過ぎから雨の予報は、どこに行ってしまったんだ?  またしても、私が取材すると、雨が降らない伝説か。  私は「雨を吹き飛ばす男」だ!

 午後3時15分。「竹風(ちくふう)堂」へ。  栗で有名な小布施(おぶせ)のお店らしい。  栗は大好きだ。

 栗あんみつを食べる。  栗が丸ごと入っているものと思い込んでいたら、栗餡だった。

「うーーむ!」と言いながら、あっという間にたいらげる私に、嫁が呆れる。 「悩みながら食べてたわりに、もう食べちゃったの?」 「このお店なら、もっとおいしくてもいいと思っているだけで、じゅうぶんおいしい!」  午後4時。松本駅へ。  コインロッカーから荷物を取り出して、タクシー乗り場へ。 「扉(とびら)温泉の明神館に行きたいんですけど、その前に美ヶ原(うつくしがは ら)に寄っていただけますか?」 「扉温泉?」  いかにも、初めて聞くような顔つきだ。 「場所わかります?」 「うん。いや…」 「わからないんなら、ほかのタクシー乗りますからいいですよ」 「いや。行くのは初めてだけんど…」 「扉温泉の前に、美ヶ原に行ってほしいんですが…!」 「うつ…?」  やばい! このおっさん。  松本で、美ヶ原を知らないなんて、東京でお台場までの行き方がわかりませんと 言っているようなものだ。 「わからないと言えない病」だな、おっさん!  案の定、近くのタクシーの運転手さんに、扉温泉の場所を聞き始めた。 「わからないならいいですから、降ろしてください!」  必死に車を走り出そうとする。  美ヶ原まで遠いから、いい客をつかまえたと思ったのだろう。 「止めてください!」 「いや、あの、その…」 「止めてください!」 「扉温泉に…」 「止めてください!」  たまたま駅前交差点の信号が赤だったからよかった。  何とか、降りることができた。  タクシー乗り場に戻ると、運転手さんが話しかけてきた。 「道がわかんなかったんだろ、あいつ! 道わからないやつで、この辺では有名な男 なんだよ!」 「小型車だと、道を知らない運転手さん多いから、わざわざ中型車にしたんですけど ね〜!」  ひどい運転手に、当たってしまった。  わからないことは、わからないって言ってほしいよ。  わからないままスタートして困るのは、自分のほうだと思うんだけどなあ。 「わからない」といってくれれば、さっさとほかのタクシーに乗ることができるんだ し、自分は市内のわかりやすい場所で仕事が出来て楽だろうに。  けっきょく、親切そうな運転手さんのタクシーに乗ることになった。 「うん。オレはよ。母ちゃんと、毎週、扉温泉に入りに行ってるんだ! 比較的ぬる いお湯だけんど、気持ちいいんだ!」  車は、駅前大通りから、松本和田ラインへ。  運転手さんがはるか前方、首が痛くなるほど高い山頂を指差して、「あのてっぺん まで行くんだよ!」という。  えっ? 美ヶ原って、高原っていうから、もっとなだらかなところだとおもってい た。  美ヶ原といえば、東京の人は、深夜フジテレビが放送を終了するときに、美ヶ原高 原美術館のCMが流れることで、おなじみだ。 「アモーレの鐘が、午前3時をお伝えします」とかいうやつだ。

 最初のうち、車は川沿いをのんびり走っていて、とても標高の高いところになんて 行きそうもない雰囲気だった。  でも、20分ほど過ぎてから、峠の山道、ヘアピンカーブの連続になる。  モナコ・グランプリのあのカーブだらけの道が、ひたすら上昇して行く感じ。  はっきりいって、高所恐怖症の私には、怖い。  おまけに、私は三半規管が弱い。  何度も、何度も、曲がる道に、次第に首の後ろが痛くなってきた。  北アルプス連峰が遠くに見えるし、美ヶ原は「日本一たくさんの山が見える」らし いので、絶景は、絶景だけど、、道が狭い。  舗装はされているものの、ちょっと運転を間違えれば、あっという間に崖から、は るか谷底にどこまでも、どこまでも転落して行くような山道が続く。  何度も、運転手さんが、ブイーーーン!とローギアにシフトダウンして、山道をぜ えぜえ言いながら登るのも、ちょっと怖い。  午後5時。あっ! 美ヶ原高原美術館が見えてきた。  広いなんてもんじゃない!  箱根の彫刻の森美術館とおなじ大きさのものを想像していただけに、ディズニー シーくらいの規模に感じる。  敷地は? 4万坪!  ディズニーシーが、47ヘクタール?  はっはっは! どっちが広いんだ?  美ヶ原高原美術館前の駐車場へ。  標高2000mの展望台だ!  ぴゅううううううううううっ!  車のドアを開けた瞬間から、猛烈に強い風が入り込んできた。  ぴゅううううううううううっ!  ひ〜〜〜! さ、さ、寒い!  ぴゅううううううううううっ!  巨大な風力発電がそびえ立っている。  この風の力なら、さぞや電力は相当なパワーを蓄積できるだろう。

 メモ帳を持って、展望台に上がったら、メモ帳を飛ばされそうになった。  た、た、頼む!  メモ帳を無くしたら、日記が書けなくなる!  新島々駅のエピソードをもう一度聞きに行かないといけなくなる。

 高原美術館のお土産品売り場も一応見てみるけど、すでに店内には、蛍の光の音楽 が流れていた。  そうだろうなあ。もう午後5時だもんな。

 さらにここから、1時間かけて、林道のような道を通って、扉温泉に向かう。  よかった。あの松本駅の知ったかぶり運転手の車に乗ってきたら、絶対、扉温泉ま でたどり着かなかったに違いない。  何たって、ここは携帯電話も圏外。  道に迷っても、人に聞くこともできない。  人はおろか、人家もないけどね。  午後6時。扉温泉「明神館(みょうじんかん)」へ。  深い森のなかに、忽然と、山荘風の旅館が飛び出した。  秘密基地?  こんなところに、旅館があるの?  ちょっとどころか、うんとびっくり!

 もっと驚いたのは、旅館に入ってから。  荷物をこっちに持たせてくれないし、みんなにこやかに話しかけてくる。  その話し方も決して、うっとおしくない。  相当厳しい教育を受けた人たちだ。  部屋が広い!  こんな余裕たっぷりの部屋って、見たことがないなあ。  玄関に住めちゃいそうだよ。

 夕食は、午後7時からだというので、この旅館自慢に部屋付き露天風呂に入ること にした。これが楽しみで来たようなものだからね!  うわ〜〜〜〜〜〜!  こ、こ、これは、まいりました!  部屋付きの露天風呂も、広い!

 部屋付き露天風呂から見える景色は絶景なり!  泉質も癖がなくて、透明でまろやか。  浴槽だけで、ダブルベッドくらいの広さがあるんだよ。  お風呂場自体で、平均レベルの日本旅館の客間くらいある。  何という贅沢さなんだろう。  バリ風の椅子まで、浴槽の脇に置かれてある。  成金趣味でない内装だけに、湯船にゆっくり浸かって、まわりを見渡せば、見渡す ほど、繊細な配慮が目につく。  日常生活を思い出させるようなものを、あれこれ工夫して、目隠ししているのだ。  九州旅行の玉名温泉のひどかった露天風呂は、温泉のお湯を出すのに、鉄製のレバー をまわさないといけなかった。  もちろん、レバーには赤い塗料が塗りたくられていた。  そんな無粋なものは、この旅館にはひとつもない。  消火器ひとつでも、紙のオブジェのなかに押し込んで、筆文字で「消火器」と書か れているので、見ても飾りにしか見えない。

 インテリア・デザイナーをめざす人なら、必見の宿だ。  ザザーーーッ! ザザーーーッ!  お湯があふれる。あふれる。  はあ〜〜〜、極楽、極楽!  浴槽は、ヒノキなのかなあ。  ぷうん!と、いい香りがする。  気持ちいいねえ!  汗がドッと噴き出るのではなく、じっくり汗が出てくる。  部屋付き露天風呂から見える新緑の山は、たまらんです。  川のせせらぎというには、水量が多いので、川の音がダイナミックに聞こえる。  虫の音や、カエルの鳴き声、鳥の鳴き声も聞こえる。  まだ日が暮れていない。  標高が1000mと高いから、外から入ってくる空気が冷たい。  それがまたいいんだなあ!  まさに非日常の世界だ。  午後7時。夕食。  贅沢な旅館は、部屋まで料理を運んできて、食べさせてくれるんだけど、別の部屋 のレストランまで食べに行く方式だ。  行ってみて、なぜ部屋で夕食を食べさせないのかが、すぐわかった。  あの武田の騎馬軍団が…、いや、伊賀の忍者たちが…、いや従業員のみなさんが、 一糸乱れぬ動きでテキパキと動いている。  かといって、せわしないところはひとつもなく、にこやかに話しかけてきて、私た ちとコミュニケーションをするのだ。  料理について、いちいち説明してくれるんだけど、その解説が、平易でわかりやす い。決して、知識をひけらかしていない。  それどころか、この旅館の会長が作った野菜を、冗談を交えながら、食べていただ けませんか?と勧めてくる。  この明神館のすごさは、パンフレットの文章からも、窺い知ることができる。  引用してみよう。  携帯電話はつながりません。  アンテナを建てましょうか、  と電話会社から  すすめられたのですが、  うちは  つながらくてもいいです、  とお断りしました。  ご不便かと思うお客様も  いらっしゃると思います。  せっかくのやすみですから、  川のせせらぎ、  小鳥のさえずりを  聴きながら  明神館の湯で  お体を癒してください。  まさにこの口調なんだよ、従業員のみなさんの接客の仕方が。  本当にみなさん、一糸乱れぬ動きをするんだけど、宗教っぽさはまったくない。  厳しい教育は受けているんだろうけど、自分の言葉で接してくる。  教育はいくらでもできる。  でも受け手に、心構えができていないと、何も身につかない。  この人たちの接客は、出来そうで、出来ない高等技術だ。  食事をするフロアがまた広いんだよ。  大きな暖炉に、高い天井。  ゆったりとした空間。  森の白樺の木々を眺めながら食事をするんだけど、テーブルとテーブルの間が広い。 すごい贅沢だよ、これ。  料理も、おいしい。  盛り付けも良ければ、味もいい。  おそらく、いままで食べた日本旅館の料理のなかでは、大分県の亀の井別荘に次ぐ レベルではないだろうか。  お椀のお吸い物が、惜しい!  わざと薄めにしてあるようだけど、素晴らしい料亭は、お吸い物の腕が違うので、 期待してしまった。もちろん及第点以上の味だ。

 あいかわらず、伊賀忍者たちは、にこやかに微笑んで、少し私たちと話しては、サ ササッと消えて行って、しばらくすると、次の料理を持ってくる。

 見事だよ、ほんとに。  接客の点では、間違いなく、いままでのなかで、ベストワン!  いい意味で、とんでもない旅館に来てしまった。  お腹がいっぱいになって、苦しいのが残念だよ。  午後9時。食事終了。  部屋に戻って、さっそく部屋付き露天風呂。  向かい側の山の稜線のシルエットが映って、かすかに夜空が見える。  夜空を眺めながらの露天風呂も格別なり。  嫁は大浴場のほうに行ったけど、川に面して、相当広い湯船だったようだ。  立ち湯に、寝湯、混浴の露天風呂まであるそうだ。

 テレビを見ると、明日は、1日じゅう雨の予報。  雨を吹き飛ばす男は、なんとかきょう1日雨を吹き飛ばしたけど、さすがに明日1 日じゅうと言われては無理だろう。  何たって、西日本は、梅雨入り宣言だ。  この旅館のチャックアウトは、午後12時と日本旅館では画期的な時間にしている ので、明日はぎりぎりまで部屋付き露天風呂に入りまくるぞ!と、覚悟を決める。

 私はもう一度、部屋付き露天風呂に入って、あっというまに熟睡。  温泉に入った温かい身体のまま、たまらず寝入ってしまうのが、最近いちばん好き かも。  それにしても、扉温泉「明神館」、恐るべし。  気に入った!

 
さくまNEWS


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