5月25日(火)

 きょうは、いい天気だ。
 絶好の日帰り小旅行日和!

 午前9時。ひょっとすると、いまからタクシーに乗れば、新幹線の発車時刻に間に
合うかも。
 あわててでかけてみるが、さすがに20分で東京駅まで行くのは無理か。
 以前、日曜日に13分で東京駅まで行ったことがある。
 平日のこの時間は、黒塗りのお偉いさんたちの高級車の渋滞があることを初めて知
った。
 午前9時28分の新幹線は無理だったけど、それでも、午前9時26分に東京駅に
到着。

 午前9時30分。次の列車のキップを買って、「資生堂パーラー」へ。
 ミックスサンドを注文して、嫁と半分個。

 お昼に、新潟駅で食べたいものがある。 「資生堂パーラー」のウェイトレスさんの胸に「青森県出身です」のプレートがピン で止められていた。  東京駅は、日本じゅうから人が集まる場所だから、こういう出身地表示はいいね。 「故郷のなまりなつかし停車場の…」だ。  コミュニケーションになっていい。  どうせだ。話を聞いてみよう。 「青森県のどこなんですか?」 「弘前です!」 「あっ。今年、弘前に桜を見に行ったんですよ!」 「あら〜。きれいだったでしょー!」 「きれいでしたよ、ほんとに!」 「今年は、桜が早かったみたいですね?」 「早かった。寒かった。気温7度だった!」 「へえ〜〜〜!」  東京駅の地下の商店街すべてで、この出身地の表示をしているようだ。  同郷探しも楽しいかもしれない。  午前10時12分。新潟行きMaxとき313号に乗車。  きょうは、日帰り旅行なので、コンピュータを持っていない。  高崎駅までは読書をしたり、アイデアをノートに書き込む。  高崎駅から先は、車窓からの景色が絶景なので、楽しまなきゃ!  越後湯沢駅を過ぎて、越後の穀倉地帯に入る。  見渡すかぎりの景色が、水田でいっぱいになる。  水田に水が張られて、鏡のように青空を映し出している。  最高の旅行日和だ。

 午後12時15分。新潟駅で下車。  東京駅で、サンドイッチをつまんでいたおかげで、まだお腹がそんなに減っていな い。新潟駅で食事するつもりだったけど、先に進むことにする。  でも乗り継ぎ列車のキップを買っていなかったから、キップの販売機がどこにある のかわからない。  在来線の改札口は見つけた。 「白新線のキップ売り場はどこですか?」 「あっちです!」  うへ〜! 新幹線の改札口のほうまで戻らないといけない。  必死に、小走り。  キップを買って、改札口を通る。  急に予定を変更したから、頻尿の志士としては、乗り換えの前にトイレに行ってお かないといけない。 「化粧室→」の矢印に沿って、歩いていく。  ちょっと遠すぎないか?  新幹線を降りてから、白新線の列車の発車時間まで、12分しかない。  すでにキップを買うのに、ロスタイムをかなり消費している。  トイレ終了。  ぐへっ。跨線橋を必死に小走りしているんだけど、白新線が見当たらない。  げげげのげっ。1番線?  いちばん遠いじゃないの?  私はまだ手足が完全に治ったわけではないので、走ることができない。  奇妙に足をひきずりながらの小走りが精一杯だ。  とにかく、嫁と大きく離れてしまったので、携帯で「先にホームに行っていてくれ!」 と電話を入れたが、嫁は何を言っているのかよくわからなかったそうだ。  まさか西の跨線橋にいた私が、東の跨線橋側のトイレまで行ったことを、うまく伝え る方法はない。  とにかく、息を弾ませながら、必死に、白新線のホームに向かって、小走り。  あっ。嫁がホームから、3両編成の先頭車両にいままさに乗ろうとしている。。  待ってくれい!  できることなら、いちばん後ろの車両に乗ってくれい!  まさか私が後ろのほうから小走りに走ってきているとは思わないだろうなあ。  携帯電話すればいいけど、電話するのに手間取ったら、列車は走り出してしまう。何 でもいいや。とにかく列車に乗ることが先だ。  ひいひい…。はあはあ…。  ぜいぜい…。はふはふ…。  ま、ま、間に合った!  ふい〜〜〜ッ!  まだ発車前に、嫁が乗っている先頭車両まで行かないと、嫁は私が来ないから、電 車を降りてしまうだろう。ひ〜〜〜ッ!  ま、ま、間に合った。

 午後12時27分。新発田(しばた)駅行き普通列車は走り出す。  3両編成にはトイレがなかったようで、行っておいてよかった。  白新線というのは、白山(はくさん)と、新発田(しばた)を結ぶ線のことだけど、 実際には新潟駅から、新発田駅までしか走らなくて、新潟駅のひとつ手前の白山 駅は、始発駅になっていない。  しかも9つしか駅がない。  9つしかない路線を、48分間かけて走る。  もちろん、単線だ。  東新潟駅を過ぎ、大形(おおがた)駅を過ぎ、新崎(しんぜき)駅で停まったとこ ろで、「特急列車の通過待ちのために8分停車します!」のアナウンスが流れる。  これが9つしか駅がないのに、48分間もかかる理由か。  白新線は、海は見えないけど、比較的海沿いを走るので、秋田からの特急列車など は、羽越本線といいながら、新発田ー新潟間は、この白新線を通るようだ。  私は鉄道マニアではないから間違っているかもしれないけど。  この沿線が不思議なのは、どの駅舎も小さいながら新しくて、駅前にピッカピカの 新興住宅街が広がっていることだ。  駅ごとに、住宅展示場があるのかとおもったほど。  テレビ神奈川の「TVKハウジング」のテレビCMを見ているみたいといっても、 横浜の人にしかわからない表現だ。  新潟まで、通勤圏として非常にいい立地なんだろうなあ。  通勤時間30分以内は楽だもんなあ。  早通(はやどおり)駅、豊栄(よよさか)駅を過ぎたら、今度はビニールハウスが 増えてきた。  トマトを栽培している。  黒山(くろやま)駅を越えると、景色が広くなった。  青い空と白い雲。  数多くの画家が題材にしたような青空だ。  気持ちいいねー!  おおっ、おおっ。  みなさん、次の駅は、佐々木駅ですぞ!  佐々木駅!  いや、横浜ベイスターズ・ファンにとっては、佐々木様駅。

 予想はしていたけど、何の変哲もない駅。  ぜひ、佐々木様の石像を建立していただきたいものだ。  駅のホームに、大魔神駅を!  廃線寸前のローカル線なんて、阪神の歴代名選手を駅名につけたら、絶対ファンが 訪れて、献金してくれるとおもうなあ。  田淵駅、村山駅、掛布駅、江夏駅、バース駅、真弓駅、岡田駅、藤田平駅、ブリー デン駅なんてあったら、私でも行ってみたくなるなあ。  スタンプラリーもやりやすい。  毎年駅名が変われば、時刻表も売れる。  マニアックに、遠井駅、島野駅、スタントン駅、山本和駅、三宅駅、景浦駅、藤井 駅、藤村駅なんてのもほしい。  私は阪神ファンか?  西新発田駅の駅前には「商業地分譲中」の看板が。  新潟の通勤圏から、通勤客相手の商売を始めようとしている。  まるで『シム・シティ』のダイジェスト版を見ているみたいだ。  午後1時15分。ようやく、終点の新発田(しばた)駅に到着。  何だ、この古ぼけた町は。  いや。古いのではない。  ホームが赤いのだ。  まるで赤錆でペイントしたように赤い。  何か特別な鉄工場でもあって、そこの煤煙のせいで赤くなったのだろうか。それとも、 温泉の硫黄かな。

 駅から、大きな道がまっすぐに伸びている。  町の中心地に向かって歩く。

 商店街は、やたらと大きい。  でも、営業を停止したお店が多くて、シャッター通りと呼ぶのに、ふさわしい寂し さだ。

 町の人に聞いたら、ここ2〜3年、急速に寂れ方が激しくなっているらしい。  郊外の大きなスーパーにお客さんを取られたのもあるけど、跡継ぎもいないらしい。 「笹だんご 300年の味」の看板が目に入った。  ざるに無造作に乗せられた笹だんごが、いかにもおいしそうだ。 「樺沢(かばさわ)商店」か。  買わずにいられるか。

「何個で、ひとまとめなんですか?」 「10個で、ひとまとめです」 「10個は多いなあ!」 「5個でも、いいですよー!」  気さくな人だ。

「300年の味なんですよね!」 「300年はちょっとオーバーですねー!」  いいなあ、自分から白状しちゃうのが。 「笹だんごって、あとで固くなったのを焼いても、おいしいですよね!」 「ええ。笹ごと焼くとおいしいですよ!」 「笹ごと、焼いちゃうんですか?」 「オーブンなんかにそのまま入れると、おいしいですよ。ありがとうございましてー!」  最後のありがとうございましてー!のイントネーションがいいなあ。  シャッター商店街のわりに、広範囲に商店街が続いている。 「貸し店舗」の文字が多いのが淋しいけど、けっこうしっかりした店構えが多いだけ に、昔は相当栄えた町だったのだろう。

 午後1時45分。中央町の「シンガポール食堂」へ。  すごい名前でしょ?  名前だけじゃないよ。  看板を見てよ。 「元祖オッチャホイ」!

 いいでしょ? 「オッチャホイ!」というネーミング。  お店に入る。  うわあ。昔の古い映画のポスターが貼ってある。  フランキー堺さんの『幽霊列車』だ。  小学生の頃に見たことあるなあ。  40年前ぐらいだ。

 何はともあれ、オッチャホイを注文する。  シンガポール式焼きうどんと、メニューに書いてあった。  要するに、焼きうどん。  麺はきしめん風。  キャベツ、煎り玉子、もやし、ニラなどが入ったB級グルメの味。  ピリ辛が効いているけど、食べられなくなるほど辛いわけではない。

 正直、うまい!  文句なしに、うまい!  B級グルメとしてね。  このメニューが近所にあったら、2週間に一度は通ってしまうとおもう。  こんな不思議なお店だ。  新発田(しばた)市にくわしい人に、携帯メールしてみよう。 「いま新発田のシンガポール食堂で、オッチャホイを食べてます。知ってる?」  おっ。返信が早いなあ。 「駅前のホームラン食堂は覚えてますが…。オッチャホイというのは聞いたことがな いです。どんな食べ物ですか? 行きつけは高校前の高橋商店と、ジャズ喫茶くらい なもので」  ジャズ喫茶?  このメールで誰かわかるわけないよね。  正解を言いましょう。  県立新発田高校卒業のサザンオールスターズのベーシスト&ウクレレ伝道師・カズ 坊(関口和之)であったあ! どんどんどん、パフパフパフー!  もう少しくわしく書いてきてくれたけど、カズ坊(関口和之)は新発田駅より南西 の水原(すいばら)郡の出身だそうで、なんと高校時代、SL(蒸気機関車)で、新 発田駅通学していたそうな。  どひゃー! 蒸気機関車? いつの時代の話だ?  う〜む。シンガポール食堂で、オッチャホイ。 「妙な言葉収集家」で知られるカズ坊(関口和之)だけに、絶対知っていて、メール したら、爆笑してくれるとおもったんだけどなあ…。  ちょっとギャグの不発弾。  創業1946年ってことは、戦後すぐオープンしたってことだから、カズ坊(関口 和之)が新発田高校に通っていたときも、あったはずだ。  意外に大きな商店街がどこまでも続く街だったから、来なかったのかも。  高校生のときって、そんなに買い食いしないもんね。  食品物件・オッチャホイ屋。  間違いなく『桃太郎電鉄』の地方編に、登場させたい。

<私がもう一度行くためのメモ> 「シンガポール食堂」 住所:新発田市中央町3-2-1 電話:0254-22-3725 営業時間:11:30〜20:30 定休日:水 備考:オッチャホイ!

 食後、寺町を歩く。  新発田で、新発田城があるのだから、この町のお殿様は当然、新発田氏の居城だと おもったら、鎌倉時代から豊臣秀吉の時代までだそうだ。  新発田重家という人がいて、織田信長、豊臣秀吉と勇猛果敢に戦って、自刃したた めに、新発田氏は途絶えてしまったようだ。  その後、豊臣秀吉から派遣された溝口氏が、この町を治めたので、この町のお殿様 というと、溝口氏ということになる。  世が世なら、新発田市は、溝口市になっていたのだろう。  明治維新まで、新発田藩が続いたことは、司馬遼太郎さんの『峠』を読んでいるか ら知っている。

 この新発田のお殿様・溝口氏の菩提寺が、宝光寺。  新発田氏の菩提寺が、福勝寺。  道の両側にお寺が並んで、まさに寺町だ。  道路の舗装がまだ新しくて、石畳がまぶしい。  このあたりの雰囲気は非常にいい。  そういえば、この道路がまぶしく感じるのは、駅からずっと続く赤錆びた町並みの せいだ。  地元の人に聞いたら、この町の水は、鉄分が多いせいだというではないか。  だから自動車を水洗いして、そのままにしておくと、あっという間に真っ赤になっ てしまうんだそうだ。  近くに月岡温泉があるせいかとおもっていた。  午後2時30分。清水園へ。  新発田氏の後を引き継いだお殿様・溝口氏のお屋敷。

 これがいい!  まるで京都の日本庭園を歩いているような気分になるほどの見事さだ。  竹林が続き、苔むした庭、「水」の草書体をかたどった池。  大きな庭石が、無造作のようでいて、美しく並べられている。  この「清水園」を見るためだけに、新発田に来てもいいと断言できるほどの美しさだ。  お屋敷に座って、池を眺める。  きょうも着物を着てきた嫁の姿が、この池によく似合う。  おのろけ?

 多くの作家はここで人生を感じ、俳句でも一句詠んだことだろう。  私は、清水園の前にあった和菓子屋さんで買った、えだまめ大福を食べるのであった。  う、う、うまい!  これは極めつけに、うまい!  ずんだ餅状の枝豆が中に入っていて、表皮は古代米を蒸したものだという。  これは、うろたえるほど、うまい。  清水園の回遊式の庭を一周する。  飛び飛びに置かれた敷石の順路が、私の足には厳しい。  まだ微妙に左足が、思った位置に下りてくれない。  だから敷石の道を踏むたびに、グキッと捻挫しそうになる。  せっかくの美しい景色を楽しみたいのに、石に気をとられて、せわしない。

 それでも本当に京都でも、これだけの美しい庭園を見たことがない。  ほとんど観光客がいないので、この美しい庭園が貸切状態なのも、最高に気持ちい い。もはや自分ん家のようだ。ははは。  熱海に続いて買った家はここだと、嘘を書いておこう。  ひとりくらい勘違いしてくれるだろう。  お土産売り場で、新発田麩を買う。  おばちゃんがふたりもいて、お麩だけの販売をしているのにも驚いたけど、お麩を 試食させてくれるのも驚いた。  そして、おいしかった。  はふはふ。あぢぢ…。  新発田麩には「おしぶ」という名前がついていた。

 新発田名物の「金魚台輪(きんぎょだいわ)」をお祭りの山車にしたものが展示し てあった。  弘前の金魚ねぷた、柳井の金魚ちょうちんとおなじ小さな金魚の提灯だ。  実はこの金魚台輪(きんぎょだいわ)を見て、この新発田に来てみたくなった。   私は密かに、金魚が好きなようだ。  無意識に金魚に目が行っている。  金魚台輪(きんぎょだいわ)の山車をじっと見ていると、清水園の掃除をしていた おばちゃんが後ろから寄ってきて、いきなり「新発田の殿様は、金魚が好きでね!」。  一瞬、私は江戸時代の人が話しかけてきたのかとおもった。  この町の人はみんな溝口のお殿様を好きな感じを、あちこちで感じた。  午後3時。清水園の向かいにある、足軽長屋へ。  これも見事だ。  8棟分の足軽の家が、きれいに保存されている。

 受付のおじさんに、清水園との共通券を見せる。 「あがって行ったら、ええよー!」 「えっ? いいんですか?」  足軽長屋の部屋のなかに入っていいと言っているのだ。 「なんなら、泊まっていってもええよー!」  どうもこの町の人たちのギャグ好きな気分がわかってきた。  足軽長屋の一軒は、8畳と4畳の畳の部屋に、囲炉裏のついた土間までついていた。 これに玄関、キッチンまである。

 受付のおじさんにいう。 「広いですねー!」 「けんど、押入れも、箪笥(たんす)も、な〜んもないから、狭いよー!」 「東京なら、2DKだから、家賃10万円〜14万円ぐらいしますよ!」 「ほーね! えっへっへっへっ!」  おもしろいリアククションだ。  さっき清水園で食べておいしかった、えだまめ大福の6個入りを買いにいく。  しまった。このお店の名前を忘れた。  清水園の真ん前、足軽長屋の隣りだ。  わかりやすいでしょ。  絶対お勧めだよ。  さらに、近くの「王紋(おうもん)酒造」まで歩く。  新発田には、「菊水」とこの「王紋」の2大酒造メーカーがあるらしい。  私はお酒をまったく飲めないので、言われてもわからない。  ここでは、お酒ができるまでを見学できる。  大型観光バスが到着した。  最初のうちは、嫁といっしょに見ていたけど、そのうち、ぷうん!とお酒の匂いが 漂ってきたので、「入り口で待っている!」と言って、酒樽を利用したベンチに座る。

 再び、カズ坊(関口和之)とメールのやりとり。  清水園は、さすがに「よく散歩した」そうだ。  入り口にあったお水を飲む。

 うまい!  まるで日本酒を飲んでいるみたいだけど、お水だ。  うまいお酒のあるところに、名水ありだ。

 ここから、新発田駅まで歩く。  思いのほか広い商店街を、かなり歩いてしまっている。  いつものように、タクシーを乗り継いで、駆け足取材してしまえばよかったんだけ ど、この町はなんとなく歩いてみたかった。  歩いてみたくなるくらいの歴史を感じたのだ。  それはいいんだけど、足が痛い。  いつものように、足がもつれ始める。  おや? 珍しく嫁が、「足が痛い」と言っている。  着物で歩いているせいかとおもったら、先ほどの「王紋(おうもん)酒造」で、私 がお酒の匂いが苦手で、入り口まで戻った後、お店の人に、お酒を試飲させてもらっ て、お酒を買わないといけない雰囲気になってしまって、お酒を買ってしまったよう なのだ。  瓶は、重い。  宅配便してしまえばよかったのだろうが。  旅先で買ったものは、すべて嫁に持ってもらっているので、本当に申し訳ない。  きょうも笹だんご、えだまめ大福、お酒、ゴマ饅頭などを持たせている。  おや? ゴマ饅頭なんて、いつ買ったっけ?  商店街で、新発田名物と書いてあったので、買った。 「地名+名物+甘い」。  この3文字が揃ったら、私は必ず買って食べる。  午後3時30分。新発田駅前まで戻る。  カズ坊(関口和之)がよく覚えているという駅前の「ホームラン食堂」を探す。  無いなあ。  この「一平食堂」じゃないのかなあ。  あっ! あった!  駅前というより、駅のはじっこにあった。  カズ坊(関口和之)、なつかしい?

 さすがに荷物が増えすぎたのと、時間がなくなってきたので、残りはタクシー取材。  午後3時45分。「蕗谷虹児(ふきやこうじ)記念館」へ。  記念館にしては、ずいぶんおしゃな建物だなあ。

 童話の挿絵画家として、一世を風靡して、♪金襴緞子(きんらんどんす)の帯しめ ながら〜の『花嫁人形』の作詞も手がけた人らしい。

 ずいぶん、モダンな絵を描く人だなあ。  見事なデッサン力と筆致だ!  一応、私はこの業界に入った最初の仕事が、漫画評論家だったから、挿絵画家の名 前はほとんど知っているはずなのになあ。  あっ! この絵!  講談社の絵本、ゴールド版だ。  これ、何冊も持っていたよ!  し、しかも…。  じつは大変言いづらいけど…。  子どもの頃、大嫌いだったんだ、この絵!  すっごく癖のある、気持ちが塞ぎこむような絵で、何で『鶴の恩返し』、『かぐや 姫』、『孫悟空』、『アラビアンナイト』といった昔話を暗い絵で描いていたんだと おもったのよ。  30歳ぐらいの全盛期の絵は、モダンで明るくて、素晴らしい絵ばかりだったのに。 ここまで絵柄が変わるもんなのか。  晩年、相当つらい人生を送ったようだ。  気持ちは絵に出るからねー。  延々、明るいお尻を描き続ける土居ちゃんも、気持ちが絵に出てるからねー。  午後4時。新発田城へ。  うわっ。城門が閉まっている。  あれ? おじさんが、城門の前のところに鎖をかけている。  あっ。ちょうど午後4時で、閉館だったのか。  蕗谷虹児記念館より、先にこっちに来るべきだったんだ。  日が暮れるのが遅くなっているから、ついつい時間を忘れてしまったよ。

 お城の前にある『忠臣蔵』でおなじみの堀部安兵衛の銅像を見る。  おそらく新発田市でいちばん有名な人は、この堀部安兵衛だとおもう。

 えっ? 堀部安兵衛って、新発田のお殿様として、いちばん有名な溝口秀勝の曾孫 にあたるの?  世が世なら、お殿様だったんだ。  もともと中山安兵衛と名乗っていたけど、父親の火の不始末(実は陰謀)により、 浪人することになって、赤穂藩の堀部弥兵衛さんのところに養子に行ったせいで、 『忠臣蔵』に登場することになったのかあ。  やっぱり歴史は、現地で見たり聞いたりするほうが、頭に入るね。  新発田城を見れなかったのは、かなり残念。  桜の名所として有名だから、来年の桜見リストのなかに入れておくかな。  もう1ヶ所だけ、寄り道する。  その前に、カズ坊(関口和之)のために、新発田高校に寄って行ってもらう。  カズ坊(関口和之)、これがいちばん新しい新発田高校の画像ですよー!  高橋商店も、撮影してみましたよー。

 運転手さんの説明によると、新発田高校は、県下屈指の進学校なのだそうだ。  いいねー。自分の高校がそんなこと言われてみたいもんだ。  国道290号線を、標高1421mの二王子(におうじ)岳を左に見ながら、南下 する。  午後4時30分。月岡温泉へ。  へ〜〜〜。月岡温泉って、もっと渓谷と森林に囲まれた、鄙びた感じの温泉地だと おもった。こんなに平地で、しかも城砦のような巨大旅館が林立するところだとおも ってもみなかった。  街中に入ると、硫黄の匂いが漂っていた。  ちょっと会社の慰安旅行の雰囲気が強すぎるなあ。  きょうは日帰りだけど、まだこれから新潟県を取材するときには、どこか旅館に泊 まりたくて、偵察に来たんだけど、食指動かず。

 もし、いい温泉旅館があったら、推薦してください。  食わず嫌いなだけかもしれないから。  一路、新潟駅に向かってもらう。  運転手さんと、浪曲『森の石松・三十石船』みたいな言葉の遊びをしてみる。 「運転手さん、新発田出身の有名人って、誰がいるんですか?」  もちろん、「食いねえ、食いねえ、鮨食いねえ!」という風に、カズ坊(関口和之) の名前を出させるのが、狙いだ。  ゴメン! カズ坊(関口和之)、遊びにつかって。 「新発田の有名人ですと、まず三田村邦彦さんですね!」 「へ〜〜〜、三田村邦彦さんって、新発田だったんだ!」 「それから…」 「それから、それから…」 「仮面ライダーの1号だったかなあ? ささきいさおサン!」 「ささきいさおサンは、主題歌のほうじゃなかったかなあ…」 「女優の高沢淳子さん!」 「ああ! あの人。けっこう私もファンだったなあ…」 「サザ…」 「出たっ! 待ってました!」 「サザエさんやってた女優さん誰でしたっけ?」  ハラホロヒレハレ〜! サザ…と来て、サザンと来るとおもったんだけどなあ。  みんなで必死に思い出して、星野知子さんであることに気づいて、胸のつかえが取れ る。  その後も運転手さんとのやりとりは続く。 「一節太郎さんもそうですね!」 「作詞家のたかたかしサンもいます」 「ダークダックスのメンバーのひとりも新発田でしたね!」  メンバーのひとりまでは、おなじなんだけどなあ…。  けっきょく、名前は出ず終い。年輩の方だったしね。  カズ坊(関口和之)は自分を名乗るのは好きではないので、運転手さんに正解は伝 えず。  運転手さんの話もいろいろ聞くうちに、「わたしは、親からいつも、のめしこき!  のめしこき!と言われてましたからね!」 「のめしこき!って、どういう意味ですか?」 「怠け者!っちゅう意味ですよ! はっはっは!」  これはいい言葉を聞いた。  あとで、カズ坊(関口和之)につかってみよう。

「あと、運転手さん! 新潟で、加島(かしま)屋の紙袋を持っていたら、お金持 ちっていわれるそうなんだけど、本当ですか?」 「そりゃあ、そうですよ!」  すごい勢いで言われちゃった。  午後5時30分。新潟駅へ。

 最後のひと仕事。  新幹線のキップを買って、駅ビルパティオの「みかづき」というお店を探す。  いったいどこなんだろう。  時間がないので、受付に聞く。  えっ? 西口側? 駅を出て、はじっこの階段を登っていく?  そ、そ、そんなに時間残ってないよ。  でも、行かねばなるまい。  このところインターネットで新潟のことを調べると、必ず出てくるのが「みかづ き」のイタリアンだ。  ミートソースうどんともいうべき食べ物で、新潟だけに定着している味だという。  えっ? まさか、ここ?  ジャスコの何でもグルメ街みたいにいっぱいお店が入っている一角だ。  マクドナルドとほとんどおなじ場所で売っていた。  学校帰りの女子高校生で、フロアは「うわん!」と嬌声満点で、うるさい。  頭が痛くなりそうだ。  とにかく、ボロニア風イタリアンをひとつだけ注文して食べる。

 お昼に、シンガポール式焼きうどんで、夜は、イタリア式焼きうどん。  きょうは、焼きうどんの日か?  味は、予想通りのチープな味。  子供の頃に食べたら、おいしくて、歳を取った頃に無性にもう一度食べたくなるう ような味だね。  新潟名物というより、「みかづき」の企業努力が素晴らしいので、新潟一円にたく さんお店を出して、繁盛しているようなものだろう。  マクドナルドを、『桃太郎電鉄』に登場させづらいように、「みかづき」も登場さ せづらいなあ。  なるべく、その土地の野菜とか、特産品をつかってくれていると、その土地の味と いいやすいんだけどなあ。  というわけで、以上、本日の取材は、すべて終了。  新幹線の発車を待つ。  最後に、もう一度、カズ坊(関口和之)に携帯メール。 「いま新潟駅。そういえば、曲出来た? のめしこき(怠け者)?」  運転手さんに教わった新発田の方言をここで、つかいたかった。  駅のホームで、「まさかいくらなんでも寿司」という駅弁を買う。

・ま=鱒(ます)、・さ=鮭、・か=蟹に、イクラが入ったお弁当ということで、 「まさかいくらなんでも寿司」という名前だそうだけど、だじゃれはいくつも掛け合 わせてはいけない。  ひとつのだじゃれフレーズのなかに、ふたつ以上のだじゃれはいかんですよ。  わが家は別名:だじゃれ御殿と呼ばれるくらい、だじゃれにはうるさいよ。  しかし、「だじゃれ御殿」は、あまりにも威厳がなさ過ぎる。  バカバカしくて、いいけど。  うちが「だじゃれ御殿」なら、土居ちゃん家は「うんち御殿」だ!  低レベルの争いだ。  おかしい?? きょう1日、卓球のラリーのようにものすごいテンポで返ってきた カズ坊(関口和之)からのメールが、ぷっつり消息を絶つかのように途絶えた。  たしかきょう、『桃太郎電鉄U(仮)』最後の曲の締め切りだったはずだ。  本当に、のめしこき(怠け者)!したなあ、カズ坊(関口和之)。    午後6時17分。東京行きとき334号に乗車。  しならく新発田での戦利品(甘いもの)を食べる。  やっぱり、清水園の前で売っていた、えだまめ大福が群を抜いて、おいしいなあ。 もう一度買う機会があるかなあ。  あの庭園なら、季節を変えて行けば、また美しそうだ。  いつしか、熟睡。  きょうは、歩きすぎた…。

 午後8時28分。東京駅に着く。  むむ。カズ坊(関口和之)から返信来ず。  あやしい。いや、間違いない。  午後9時。帰宅。  荷物を置くより早く、テレビ神奈川のスイッチ! 「横浜VS阪神」戦だ。  うひょう。目の前で、いままさに追加点が入った!  最高だよ、この気分。  開幕から、阪神にずっと勝ち続けているんだけど、相手は現在首位のチームで、昨 年の覇者。いつまでもまぐれが続くわけがないとおもっていた。  8−2の快勝!  どうしたんだ、今年の横浜ベイスターズ!  気分よく、札幌開発スタッフとのホットラインである掲示板「桃の木」を覗く。  あれ? カズ坊(関口和之)、昨日の段階で最後の曲を札幌に届けていたではないか! 「のめしこき!」は、新発田の人間の尊厳をガラガラと崩してしまうほどのひどい言 葉だったのか?  ごめん、カズ坊(関口和之)!!!  そこまで怒っていたとは…ごめ………、そういえば、カズ坊(関口和之)の怒った 顔は、ここ20年間ぐらいで一度しか見たことがなかった。  そのときも、私だけしかカズ坊(関口和之)の顔の変化に気づかなかった。  ゴメン! オチにまでつかってしまった。  疲れ果てて、眠いけど、プロ野球速報だけは、はしごしないと。

 
さくまNEWS


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