11月27日(木)

 柿が食べたい。
 たらふく食べたい。
 柿の季節が終わってしまうから。

 午前10時。嫁と、京都駅へ。

 橿原(かしはら)神宮前行きの近鉄急行に乗る。  柿を食べに行く。  午前11時20分。終点の橿原神宮前駅で下車。

 ここから、タクシー移動。  いかにも飛鳥路という道を車はひた走る。  低い山が遠くに幾重にもなって見える。  万葉集の句を思い出す。  大和には 群山あれど とりよろふ  天の香具山 登り立ち  国見をすれば 国原は 煙(けぶり)立ち立ち  海原(うなはら)は 鴎(かまめ)立ち立ち  うまし國ぞ 蜻蛉島(あきづしま) 大和の国は

 はっはっは。こんな長歌を私が覚えられるわけがない。  インターネットで調べただけだ。  舒明天皇が詠んだ歌?、な〜んや、それだ!  だいたい何て読むんだ、舒明天皇。  舒明(じょめい)天皇か…。  何も語れる話題がない…。    戦国時代から明治維新までは得意だけど、平城、平安期は苦手だ。  道すがら、難読地名が並ぶ。  玉手(たまで)、御所(ごせ)、蛇穴(さらぎ)、五百家(いらか)…。  そのうち、外国人のカメラマンさんたちが好んで撮影する田園風景になった。  午後12時。五條(ごじょう)市へ。  なぜ橿原神宮前駅から、タクシーに乗ってここまで来たかというと、近鉄の急行で、 私は午前11時20分に橿原神宮前駅に着いた。  ここから五条駅まで向かうのに、橿原神宮前駅からの次の電車は、午後12時3分ま でないのだ。  すでにこの時点で、タクシーは五條市に着いている。  一応、電車で行くと、近鉄南大阪線という電車で、高田市駅というところまで行く。  ところが、ここから徒歩16分で、JR和歌山線の高田駅まで歩かないといけない。 そしてこの高田駅から五条駅まで33分かかる。  で、何時に五条駅に着くかというと、午後1時だ。  橿原神宮前駅から、順当に電車だけで移動すると、1時間40分。  タクシーで30分ですんだわけだ。  こういう地図上のトリックを探すのが大好きだ。  ところで、五條市には「五條」と「五条」の文字が点在して、統一感がない。  駅は「五条駅」だ。  市役所は「五條市役所」。  公共機関は、旧字をつかうのかと思うと、「五条警察署」。  わからんなー!  どうも混在するようになったのは、市政が敷かれた昭和32年。  このときすでに「五條市」という旧字体をつかったのだから、「五條市」のほうが正 しいということになる。  ところが、「行政は、旧字体をつかうべからず」という慣例があるそうで、どちらか というと、「五条市」に変更してほしいという圧力がかかっているそうだ。  あの『広辞苑』も、旧字体は表記しない方針らしいので、わざわざ<行政上の市名は 「五條市」と書く>と但し書きをつけている。  疑問に思う人は多いらしく、いまでも市役所に問い合わせは多いようだ。  そんなわけで、 吉野川沿いのレストラン「よしの川」へ。

 ここに柿づくしの料理があるというので来てみた。  何でこんなに遠くまで来るのか?と思うかもしれないが、五條市は、富有柿の名産地 として、有名な場所なのだ。 『桃太郎電鉄』の奈良、和歌山の物件で、富有柿園の収益率が異常に高いのは、この五 條市一帯の富有柿園のことである。 『桃太郎電鉄12〜西日本編もありまっせー!』では、天下晴れて、五条駅として登場 している。  レストラン「よしの川」は、その名のとおり、吉野川が眼下に眺められる美しい景色 を借景にした大きなレストランだ。  きょうは2日前の雨のせいで、川が濁っているようだけど、川を眺めながらの料理は 楽しそうだ。

「柿遊膳(かきゆうぜん)」という季節料理が柿づくし。  10月1日〜12月15日限定だそうだ。  でかい!  松花堂弁当くらいの大きさだと思ったら、スケッチブックくらいの大きさだ。  ちょっとオーバーか!?  なるほど、柿づくしだ。  よくぞ、ここまで柿料理を揃えたものだ。 ・サーモン柿すし。 ・鯛柿巻き、つくりまぐろ。 ・柿なます。 ・柿東寺揚げ、ししとう。 ・干し柿。 ・柿わさびはさみあげ。 ・柿釜グラタン。 ・メロン柿ムース。 ・柿ふろふき。

 味のほうはというと…。  正直、ちょっと残念。  柿料理というだけで、私が期待しすぎてしまったかなあ。  というより、柿はやっぱり皮を剥いたそのままで食べるほうがいいんだということを、 まざまざと見せつけられてしまった。    鯛の柿巻きは、薄くスライスしてしまっているものだから、鯛にすっかり負けてしま っている。柿の天ぷらも、魚を挟んだら、魚の味になってしまう。  柿だけだと、あんなに鮮烈で存在感のある食べ物なのに!  けっきょく、柿なますのように、柿料理として、ポピュラーな食べ物がいちばんおい しかった。次が、メロン柿ムース。  要するに、柿は火を通しちゃいけないんだね。  常温以下で調理しないといけないってことだ。  柿は、意外と、内弁慶だった。   「柿遊膳(かきゆうぜん)」には、しめじの土瓶蒸しがついてきた。  これが、おいしかった!

「香り、松茸、味、しめじ」。  昔の人のいうことに、間違いはないね。  しばらく、このしめじの土瓶蒸しばかり、ごくごくと飲んでいた。 「柿遊膳(かきゆうぜん)」はまずくはなかった。  ただ、毎年秋になったら、このお店に来なくちゃ!というほどではない。  でも、家の近くにあったら、やっぱり年に一度は来ちゃうかな。  京都から、電車で2時間半かけて来るなら、博多の「河太郎」に行ってしまうなあ…。  最後に、単品で、柿のシャーベットを注文してみた。

 これが大当たり!  まさか柿の姿そのままをシャーベットにしたものとは思わなかった。  マロングラッセという食べ物があるけど、いわば柿グラッセ。  しかも、キンキンに冷えている。  シャリショリ、シャリショリ…。  ぬほほほほほ〜〜〜っ!  甘〜〜〜い。  歯のエナメル質の真ん中が、キーーーン!と痛くなる!  でも、うまいっ!  この柿シャーベットは、明日でももう一度食べたいけど、ここまで来るのはつらいな あ。  午後1時。五條市の新町通りへ。  五條市というのは、歴史上、明治維新発祥の地と呼ばれている。  反江戸幕府の機運が盛り上がってきたとき、天誅(てんちゅう)組という結社が、今 年私が訪れた奈良県十津川(とつかわ)村の郷士たちを率いて、五條市の代官所を襲っ た事件が、明治維新のスタートといわれている。  この天誅組の挙兵は、けっきょく失敗に終わる。  明治維新は、この後、わずか5年後に達成できるわけだから、もう少し暴発が遅けれ ば…と思うのだが、世の中には、必ず事を起こすのが早すぎる人というものがいる。ま た遅すぎる人も多い。  すべてにおいて、頂点のちょっと手前で事を起こすのがよいが、それが難しい。  そんな話はさておき、新町通りの古い町並み。  この町並みの古さは尋常ではなく、日本最古の町並みと民家を誇っている。  1608年というから、関が原の戦いから8年後。  そのときにこの町並みを作ったというのだから、もうすぐ400年になる。  もちろん、400年前の町並みのままではないが、少なくとも何軒かは江戸時代その ままの蔵などがある。

 ただ困ったことに、見事な町並みなんだけど、まったく商店がない。  たった1軒、「餅商一ツ橋」というお饅頭屋さんが橋のたもとにあって、シンボル的 なお店になっているんだけど、このお店以外は、みんなただの民家。

 町並みをいかしたお団子屋さん、喫茶店はおろか、観光案内所ひとついない。  ひたすら、どこまでも古い町並みが続く。  ときおり、歯科医院、内科、眼科といった医院が目に入るだけ。

「餅商一ツ橋」の名物・揚げ饅頭が売り切れていたので、ふつうのお饅頭を買って食べ る。1個70円。

 うーーん。まずくはないが、格別おいしくもない。  中途半端は困る。

 このままずっと歩いても、国道24号線と平行に道が続くだけなので、路地を曲がっ て、国道に出て、タクシーを呼び、五条駅まで行ってもらう。  運転手さんに「もったいないですねえ! 新町通りの町並みが美しいのに、食べると ころひとつないのは!」といってみる。 「五條は、観光に力を入れる気が、まるっきりないんですよー!」との返事。  そういえば、新町通りの最後のほうに、「生活伝承館(仮)」と呼ばれる施設を整備 していた。完成は、来年の1月16日の予定だ。

 どうもこの町は、最近ようやく町おこしとして、この古い町並みの価値に気づいたば かりのようだ。  あと4〜5年もすれば、見違えるように立派な観光地となって、休日には人がごった 返しているかもしれない。  そんな観光地になるパワーは、じゅうぶんある。  歴史もある。  ぜひ柿のお土産品を売るお店も作ってほしい。  新町通りで、写真を1枚撮り忘れた。  町並みの途中に、いかにも途中まで鉄道を建設したけど、吉野川にぶつかっちゃった から、やめちゃいましたという高架があったんだけど、運転手さんに聞いたら、幻の五 新(ごしん)線の廃線跡だというではないか!  鉄道ファンの間では、有名なのだ、この五新(ごしん)線は。  この五條市から、『桃太郎電鉄』ではおなじみの新宮(しんぐう)駅まで結ぶ長大な 路線を、第二次世界大戦前に建設を開始したけれど、すぐに戦争になってしまって頓挫 してしまった路線である。  40年かけて工事をして、一度も使われることのなかった路線としても、有名であ る。  ムダ知識どころか、本当にムダに終わった鉄道だ。 http://www.cypress.ne.jp/hp10011930/tetsudou/goshin/goshin.htm  午後2時。五条駅。

 ここから午後2時29分の奈良行きのJR和歌山線に乗車すれば、京都まで帰れる。 しかし、駅でキップを買おうとした瞬間に、午後2時3分発車の和歌山行きの列車が到 着してしまった!  和歌山! そそられる地名ではないか。  その地名は、私にとって、地名症(致命傷)となった。  思わず、奈良に向かわず、和歌山行きの列車に飛び乗ってしまったのである。 まっ たく反対じゃーん!

 あっ、五条駅の周辺で、柿を買って帰るの忘れた。  でも、駅周辺に柿を売っている気配はなかったような気もするなあ。  いずれにしろ、3分間で行き先を180度変更する旅人に、失敗も何もあったもん じゃない。  でもこの路線は一度乗ってみたかったんだなあ。  2両編成の古ぼけた車両でね。

運賃箱と車掌さん。ポシェットがかわいい。

 窓から美しい吉野川(紀ノ川)の車窓を楽しもうとするのだけれど、窓は掃除してい なくて、すすけたまま。まるで視力の合わないメガネをかけてしまったときのようだ。  しかも、そんなにスピードが出ないくせに、やたらとぶるぶる身体を震わせて全力疾 走する。

 午後2時17分。橋本駅に停車。 『桃太郎電鉄12〜西日本編もありまっせー!』では、☆印カード売り場として登場す る駅だ。  この駅で、13分間も停車する。  特急とか、急行に追い抜かれるわけではない。  ただ乗務員の乗換えがあるだけである。  運転手が替わるのに、13分間も必要ないだろう。  しかもこの13分間停車を、アナウンスしない。  乗客も誰も文句もいわないし、「変だなあ!」という顔もしない。  それどころか、勝手知ったる時刻表なのか、ホームのトイレに行く人が多い。  要するに、この電車は常連客だけで構成されているのだ。  裏メニューだらけの電車なのだ。  午後12時30分。橋本駅を発車。  何もなかったかのように、電車はまた走り出した。  駅間が短い。  五条駅から、和歌山駅まで、23駅もある。    そのうちのほとんどの駅のホームが短い。 「次は、西笠田(にしかせだ)〜〜〜!」 「2両目の車両のドアは開きません!」 「一両目の一番前のドアからお降りください!」  このアナウンスの連発なのだ。  午後3時。粉河(こかわ)駅。 「次は、粉河(こかわ)〜! この駅はぜんぶのドアが開きます!」  ドアがぜんぶ開くだけで大きい駅だと思うようになってしまった。  そういえば、粉河(こかわ)は、ハドソン札幌の開発チームの小坂晃弘くんの故郷で はなかったか? いや、違ったかな。打田(うちた)だったっけ? ああ、もどかしい。

 とにかく、この辺の出身。  このあたりから、ミカンの木が増えてきた。  紀州に入って来た気がするなあ…。  午後3時35分。JR和歌山駅に到着。  ふう…。五条駅から、1時間半の途中下車せず、鈍行の旅であった。  この時期のディーゼル車というのは、座席の下の暖房が熱くて、お尻が焦げるんじゃ ないかと思うくらい熱い。  睡魔に襲われるけど、座席の熱さで眠くなる。

 和歌山駅は大きい。  駅前に、近鉄デパートが建っている。  けやき並木が、和歌山城のほうまで伸びている。  せっかく、和歌山まで来たのだから、和歌山ラーメンを食べて行こう。  和歌山ラーメンなら、井出(いで)商店が有名だ。  駅の観光案内所で、場所を聞くと、「本日定休日!」なり。  ぶにょびゅにょーーーん!  井出商店は、「新横浜ラーメン博物館」に出店したとき、とうとう行きそびれてし まったので、いつか和歌山まで食べに来たかったのだ。 <井出商店> 住所:和歌山市田中町4丁目交差点 電話:0734(24)168 定休日:木曜休。 営業時間:12:00〜0:00  あまり時間がないので、和歌山駅からタクシーに乗って、駆け足旅行。  タクシーの運転手さんが話の上手い人だったので、30分ほどの短時間だったけど、 2〜3時間分の旅を楽しんだ気分だ。  まず和歌山城お一周してくれた。

 続いて、「ぶらくり町」に行ってくれて、昔はここが繁華街だったことを教えてくれ る。 「ここらへんは、よーけー流行ってたんたけどなー!」

 運転手さんに和歌山ラーメンの井出商店が定休日で食べられなかったという話をした ら、運転手さんが「あの親父は、3度夢が当たったんやでー!」という。 「一度は、ラーメンで当たって、2度目は、宝くじで1億円が当たって、3度目は、宝 くじで3億円が当たったんやー!」 「宝くじで、1億円と3億円? 2回も!?」 「そや! 2回もや! なのに、お店は、腐っとるでー! ちっともお店を新築しない!」 「それはえらい人だなあ! そんなに当たったんならふつう、支店を出しまくったりす るけど、してないんでしょ?」 「まったく支店を出しよらん! なのに、お店は、腐っとるでー! 汚いまんまやー!」 「『新横浜ラーメン博物館』には出店したけど、戻ってきてしまったし、えらい人だと 思うけどなあ!」 「なのに、お店は、腐っとるでー! 汚いまんまやー!」 「そこまでいわれると興味が出てきた。運転手さん、井出商店の前を通ってくれません か?」 「ええよ! でもお店は、腐っとるでー! 汚いまんまやー!」 「でも混んでるんでしょ?」 「ぎょうさん、行列できてるでー! お昼時なんか、4〜40人並んどる。でもお店は、 腐っとるでー! 汚いまんまやー!」  行ってみると、運転手さんがいうほどひどい店舗ではないが、たしかに開店当時から 手を入れている感じではない。

 人生、大当たりする人はいくらでもいる。  でも、当たってからも動じない人は、数少ない。  ぜひその秘密を、食べに来てみたいものだ。  和歌山城は、桜の名所だから、来年の4月には来たい。  午後4時49分。和歌山駅から、新大阪行きスーパーくろしお24号に乗車。

 乗車と同時に、ぐっすり熟睡。  まったく、新大阪の手前まで目が覚めず。  何だか妙によく眠れた。    午後5時50分。新大阪着。  外はすっかり暗い。  午後6時30分。京都駅で下車。  午後7時。麩屋町夷川の「はふう」へ。

 私がハンバーグ・グルメ・ランキング1位に推すハンバーグステーキを注文する。こ こでハンバーグを食べて以来、全国各地のハンバーグステーキを食べて来たので、きょ うも1位をキープできるかちょっと不安。  審査基準がここ数ヶ月で、格段に厳しくなっている。

 もぐもぐ…。はふはふ…。  スパイスの効いた、おいしい味だ。  はふうのハンバーグは、やっぱり横綱だった。  まるで横綱が、わんぱく小僧を集めて、お相撲を取ってあげるような余裕すら感じた。  味はもちろん、気品、品格まで備わっているような堂々たる風格だ。  味わい深さがほかのお店と、まったく違う。  口のなかで、いつまでもおいしい。  食べ終わるのが淋しくなるハンバーグだ。  そう思うと、夕張で食べた長芋ハンバーグは、かなりこのお店の味に肉薄していると 思うなあ。  午後8時。帰宅。  紀勢本線でけっこう気持ちよく眠れたので、元気。  でもうっかり、五条駅から和歌山に向かってしまったので、また日記を書く時間が長 くなってしまった。  嫁も、写真の加工が大変だ。  明日は、東京に戻る。

 
さくまNEWS


●〜桃鉄15周年記念特別番組〜
「桃の陣!」ー西日本オニ退治道中記ー
 毎日放送・毎週月曜深夜午前1時35分〜50分。
 高視聴率放映中!
 主演:陣内智則 共演:バッファロー吾郎ほか毎週アイドル出演!

●バッファロー吾郎『スッごい!おとなの時間』の1コーナーで、
『桃太郎電鉄お笑い芸人対決』オンエア中!
 バッファロー吾郎、ケンドーコバヤシくんに勝てば「貧乏神が去る像」贈呈!
 毎日放送・毎週土曜日午前0時〜午前1時。

●『桃太郎電鉄12〜西日本編もありまっせー!』は、12月11日(木)発売決定!

●東京谷中・妙泉寺にて、「貧乏神が去る像」公開中!
 お寺だけでしか買えない「貧乏神が去る像」をぜひ!

●「貧乏が去る(猿)像・カラー版」はコナミスタイルでも購入できます!

●四国高松の鬼無駅ホームにて、土居孝幸オリジナル原画による『桃太郎電鉄』の
宣伝看板公開中!

●テツandトモの『桃太郎電鉄12〜西日本編もありまっせー!』のテレビCMは、
12月から放映開始です!

-(c)2003/SAKUMA-