9月29日(月) きょうから北海道取材旅行。 十勝沖地震の前から、襟裳行きを計画していたから、地震の中心地に向かって、突入 して行くような旅だ。 いまでも余震は続いている。 でも、余震というくらいだから、震度6はしばらくないだろう。 甘い見通しかもしれないが…。 午前10時30分。嫁と、東京駅へ。 東京の天気は、抜けるような青空だ。 Tシャツ1枚でも、じゅうぶん暑いような気温だ。 天気予報では、函館にはすでに雨が降っているようだ。 雨とわかっている場所に向かっていくのは、気持ちのいいものではない。 東京駅構内が混雑している。 行楽の秋が始まっているようで、お弁当売り場でも「大人の休日」が1個しか残って いない。「もう1軒隣りのお店なら、まだあるかもしれません」といわれて、なんとか「大人の 休日・秋」を2個確保。 午前10時56分。東京駅から、はやて11号に乗車。 げひーーーん! 6号車20番A席、B席だ。 要するに、ドアが開いて、いちばん前の席。 壁が目の前の圧迫感満点の席だ。 あの新宿南口駅の「みどりの窓口」の駅員め〜! グリーン車を希望して、東京から函館まで乗るお客さんに対して、壁の前の席のキッ プを選ぶとは、ひどいじゃないか。 延々、6時間も乗り続けるんだぞ! いまどき長時間電車を利用する人なんて、滅多にいないんだから、優遇されてもいい くらいだ。 ずっと、壁に向かって、「懺悔をしてろ!」とでもいうのか! どうも昨日、新宿駅南口の「みどりの窓口」で、キップを買ったときに、ひさびさに 麻雀で、悪い牌を引いたときに走るびりびりという電流を感じたのは、このことだった のか。 あの駅員さんの人相、悪かったしなあ。 想像力の乏しそうな男ではあった。 しかも、私は「D席と、E駅の並びの席…」というのを忘れた。 私はいつも通路側に座りたいのだ。 だいたい長旅のお客さんは、さっさと寝てしまって、トイレに行こうとすると、隣り の席の人を起こさないといけない。 真ん中とか、窓側にいると、トイレに行けなくなる。 だから必ず、私と嫁の場合は、D席とE席と指定して、なければB席、C席を希望す るようにしている。 しかし、いちばん新しい車両の新幹線はやてなんだから、もっと工夫してよ。 壁ま での距離をもっとゆったり取るとか、この席だけ値段を安くするとか、3席を2席にす るとか。 最近の新型車両は入ってすぐの席は、座席数を減らして、ほかのお客さんみんなにも 窮屈な思いをさせない設計の車両が多い。 西日本の新幹線レールスターなどは、いちばん前の席は、パソコン用のコンセントが ついている。これならわざわざ壁の前の席を希望するお客さんだって出る。 映画館が、 立ち見をしなくてすむシネコン方式に変えただけで、あそこまで復興するのだから、鉄 道だって、まだまだ復興の余地はいくらでもある。 おかげで、いつも絶品に思える「大人の休日・秋」ですら、そんなにおいしく感じら れなかった。秋なら食材の宝庫なのに、煮物が多くて、栗もなかった。
まあ、きょうは冷静な判断をしてあげられないと思う。 そんなわけで、ちょっとブータレながら、読書。 大好きな車中でのお仕事も、VAIOのバッテリー残量を考えると、つかえない。な にしろ6時間の乗車だ。 6時間のうち、VAIOをつかえるのは2時間。 こんなときにかぎって、つまらない本に当たってしまって、がっくり。 最初のうちは、これも私の虫の居所が悪いせいで、目が滑るのかと思った。 鉄道関係の本なんだけど、マニアックすぎて、読みづらい。 外は青空が広がっていて、電車に乗っているのが、もったいないくらいだ。 つまらない本を読むのをあきらめて、『路面電車ルネッサンス』(宇都宮浄人・新潮 新書)を読む。 この本はいい。 なにより著者の人柄がいい。 路面電車は、バスより利便性は落ちるかもしれないけれど、いいところもあるという 謙虚な書き方がいい。 最近の路面電車は、9両編成で、時速100キロ出るものがアメリカで走っているん だって。しかもその車両は、日本製だそうだ。 さっきのつまらないほうの鉄道の本は、著者が鉄道大絶賛で、しかも人を見下したよ うな物の言い方だからつまんないんだろうなあ。 文章も、技術的に上手い、下手の前に、人柄が大事ってことなんだろうなあ。 最近、こういう極意によく気づく。 でも51歳の年齢には、遅すぎるわいっ!ってことが多い。 はっはっは。人生そんなもんだろう。 若いみなさんが参考にしてくだされ! 「文章は、人柄!」 午後1時。水沢江刺を通過したあたりで、雨が降ってきた。 いやだなあ。雨の目的地に向かっていくのは。 また私が仕事をしていないせいで、雨なのかな。 VAIOをつかわなくとも、アイデア出しでもするか。 先日の「小池一夫塾」で、塾生たちに見せた『怪物パラ☆ダイス』のアイデアが浮か んで仕方がない。 ノートを取り出して、書きなぐり始めると、どんどん止まらなくなる。 本当におもしろい作品になりそうだ。 外が晴れた。 おい。頼むから、私が仕事を始めると晴れるジンクス、なんとかしてくれよ。 午後2時4分。八戸に到着。 前回の北海道取材旅行で、八戸乗換えは経験したので、今回は楽々に乗り換えられた。 でもまたおじいちゃん、おばちゃんたちが、乗り換えに戸惑っていた。 「青い森鉄道」という表示板がちょっと気になる。 どこからどこまで走る路線なんだろう。 プロアトラスで調べてみよう。 白鳥11号に乗車。 今度は、1番A席、B席なので、進行方向に向かって、一番後ろの席だ。 いやあ、新幹線はやての圧迫感めいっぱいの壁の前の席から、やっと開放された。ふ うっ。 ようやくここから、VAIOを取り出して、仕事開始。 たぶんVAIOのバッテリーは、青函トンネルを抜けるあたりまで持つはずだ。 くそっ。横揺れが激しい列車だなあ。 小言ばかりいうようだけど、白鳥とスーパー白鳥の料金がおなじって、腑に落ちない よ。 小型トラックと、日産シーマくらい乗り心地が違うんだよ。 シートの豪華さも、揺れも、サービスも。 新幹線ひかりと、のぞみの料金を変えたように、スーパー白鳥の料金を値上げしても いいから、差別化するべきだよ。 おなじ料金で、おなじ路線なのに、まったく豪華さの違う列車が走っていることを知 っている人も少ないと思う。だったら、新型車両に切り替えるときに、ぜんぶいっぺん に切り替えてほしいものだ。 青森駅に着く。 あっ、しまった! 青森駅を出ると、列車は進行方向が逆になるんだった! ってことは、座席をくるりと回転させないといけない。 すなわち、私たちが座っている1番の席は、また壁を前にしたいちばん前の席になっ てしまうのであったあああああっ! がっくり〜〜〜ッ! 白鳥の車両の座席番号は、1番から、16番までか。 今後、キップを買うときに、1番か16番だったら、変えてもらおう。 新幹線はやては、20番の席が、壁の席だ。 「旅先便利帳」にも記入しておこう。 この「旅先便利帳」は、物忘れが激しくなってきた私専用の旅のちょっと便利な豆知 識だ。 しかしきょうは、なんてついてないんだ。 やっぱりあの新宿南口駅の駅員の人相のせいだ。くそっ。 それでも、やっぱり海峡を越えて、北海道に入ると気分がいいねえ。 景色が突然大きくなる。 でっかいど〜、北海道だ。
海沿いの家は、風雪に耐えた家ばかりだ。 遠く函館山が見える。 函館山めがけて、函館本線は、大きく曲がるカーブのように向かっていく。 この海岸沿いを走る路線では、海沿い本線ベストテンに絶対選びたくなる。 あれ? 電車が停まったぞ。 アナウンスが流れた。 「札幌方面が雨のため、特急列車が遅れているので、いましばらくお待ちください!」 アナウンスには納得したけど、何もトンネルのなかで、停車することないだろ! トンネルから顔を出したところで、停まれよ! 十勝沖地震の後なんだから、トンネルのなかでの停車は怖いじゃないか! 5〜6分停車するといわれたけど、トンネルのなかだと長く感じるよ。 もうすでにVAIOのバッテリーはなくなっちゃったから、ヒマをつぶすのも面倒だ。 やっと動き出した。 またアナウンスだ。 「木古内行きの列車は、五稜郭(ごりょうかく)駅で接続します! 木古内行きの電車 をご利用の方は、五稜郭駅でお乗換えください!」 なるほど。 函館というのは「Y」の字になっていて、「Y」の字の「V」の底のところが、ちょ うど五稜郭(ごりょうかく)駅になっている。 ただでさえ遅れている電車を、函館駅で待っていると、さらに遅れるからだな。 粋なはからいじゃないか。 午後5時35分。五稜郭駅に臨時停車。 利用する人なんているのかな?と思ったら、10人くらい降りた。 ってことは、こういうことはけっこう多いんだな。 昔、能登半島で列車に乗っていて、「ただいまこの列車は、30分遅れています」と だけいうアナウンスがあった。 「大変ご迷惑をおかけしています」もなかったことがある。 あれに近いのかも。 本当は、きょいうの宿は五稜郭駅からのほうに近いんだけど、今回は何より新しく なった函館駅が見たいので、そのまま乗って行く。 午後6時40分。けっきょく9分遅れで、函館駅に到着。 心配された雨もあがっていた。 私が仕事したせいか? おお! きれいになった、きれいになった。 ガラス張りのきれいな駅になったよ、函館駅は。 函館の歴史を刻んだ大きな石版画の通路を抜けて、改札口へ。
ちょっと個性はなくなってしまったけど、近代的で機能的な改札になっていた。 あ の風情たっぷりの「みどりの窓口」は、なくなっていた。
本屋さんも、お土産品屋さんも新しくなっていた。 駅前のロータリーは、まだ工事中だ。 創業から6代目の函館駅は、まだぜんぶ完成したわけではないのだな。
駅前から、タクシーで湯の川に向かう。 「運転手さん、函館駅がきれいになりましたね!」 「遅すぎるわい!」 「たしかに!」 函館駅は、北海道新幹線を誘致している間に、改装のタイミングを逸していたのかも しれない。北海道新幹線どころか、青森まで新幹線が通るのは、10年後らしい。 しかもどう考えても、北海道新幹線が開通するときには、いまの函館駅には通らない はずだから、よけい改装したくなかったんだろうなあ。 青森まで、10年後か。 だんだん自分の人生の残り時間と照らし合わせてしまうよ。 昔は、新幹線着工の話題には、わくわくしたのに。
午後6時。湯の川プリンスホテル渚亭へ。 いつも函館駅の近くのホテルばかりだったので、今回は湯の川温泉に泊まってみた かった。 渚亭というくらいで、津軽海峡に面して立っている。 旅館の人に「あっち側の明かりは何ですか?」と聞くと「漁火(いさりび)です!」 との答え。 「へえ〜! 高速道路かと思った!」 イカ釣り漁船の漁火かあ。 等間隔に非常に明るい照明なので、てっきり高速道路だと思ってしまったよ。 イカ釣り船は、明かりが強いと、たくさんイカが採れるので、イカ釣り船の光度は以 前よりもはるかに高くなっているそうだ。 かつて私の知っている漁火よりも、力強く感じるのは、ハイパワーになっていたせい だったのか。 それでも漆黒の海に浮かぶイカ釣り船の光は、宝石箱をぶちまけたように美しく、魅 惑的だ。
函館山の明かりも見える。 眼下に、浜辺が見える。 ザッパーーーン! ザッパーーーン! まさに渚亭だ。 渚がこの旅館の名物なだけあって、渚をライトアップしている。 白い波が寄せるさまは、けっこう幻想的。
ブイのようなものが、波間に浮かんでいる。 それはブイではなく、鳥だという。 ライトアップに反射しているそうだ。 うへぃ。海沿いなのに、PHSが通じない。 インターネット依存症なので、ネットが通じないと不安になる。 いかんよね、そういう性格は。 わかっちゃいるけど、やめられない。 午後7時。夕食。 旅番組でよく見るような、いわゆる平均的な日本旅館の料理だ。
それより、この旅館の名物、部屋付き露店風呂がよかった! 決して、風情のあるお風呂ではないんだけど、漁火と波の音を聞きながら、ぬるめの お風呂は、最高だよ。 ぬるいので、ゆっくり、長時間入っていられる。 たまに、入っているうちに、どんどん、だらだら、汗がたれてきて、入っていられな くなる温泉は多い。 この旅館のぬるさは、心地よい。 まったく、差し水おしなくていい。 海上生活者ならぬ、風呂中生活者になってしまいそうだよ。 漁火が、「*」の形にきらめいている。 漆黒の海に、*** * *** ** *****と、船が点在して、ぼんやり 光る。 まるでウニのとげとげのような光に見えるように瞬く。 ザッパーーーン! ザッパーーーン! ザッパーーーン!と、寄せては返す波の音。 たまらんですたい。 これぞ、旅情ですなあ。 「はあ、極楽! 極楽!」 あとはマッサージをお願いして、寝るだけ。、 明日から本格的な取材開始だ。 東京から、おなじみのみなさんも到着する。
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