7月17日(木)

 昨夜読んだ本のなかでは、圧倒的に『お笑い男の星座2』(浅草キッド・文芸春秋社)
がおもしろかった。

 全編「普通の人が出来ないバカバカしいところを、どこまで出来るのか」に満ち溢れ ている。  故・鈴木その子さんのように、テレビや映画をまったく見ない人には、ヤクルトの古 田捕手のように、内角を鋭く突くような球で勝負し、飯島直子さんには、「バカバカし いこと」をしたために、玉砕し、あの「変装免許証事件」では、自ら骨まで見えている ような傷口を、読者に見せつける。  この本を、10代後半の多感な時期に読まなくてよかったよ。  私は、永六輔さんや、伊丹十三さんの本を真読んで似たから、よかった。  浅草キッドのふたりに憧れて、真似をしたら、とんでもない人生が待っている。  とてもじゃないが、彼らのような「常識ある狂気」はできそうにない。  愛すべき有害図書だ。これは!  午前11時。嫁と銀座の「渡辺内科クリニック」へ。  予想はしていたけど、高血圧の宣告を受ける。  164−108!  薬を増量することも言い渡される。  うーーーん。  仕事を取るか、身体を取るか、いつもこの時期に悩むことだ。  仕事をしているだけなら、ちっともストレスを感じないんだけどなあ。  午前11時30分。銀座で、読売広告の岩崎誠と待ち合わせ。  案の定、熱狂的阪神タイガース・ファンの岩崎誠は、昨日、千葉マリンスタジアムま で、オールスター戦を見に行っていた。 「7本もホームランが見れて最高でしたよ! ニコニコ!」 「金本が2本と、誰だっけ?」 「アリアスです! ニコニコ!」  午後12時。私、嫁、岩崎誠の3人で、六本木ヒルズへ。  そのまま和食料理の「櫻川」へ。  きょうは「櫻川」のランチを楽しもうという会。  集まったメンバーは、私、嫁、うちの娘、岩崎誠、漫画原作者のいしぜきひでゆき夫 妻、麻布十番の主・菅沼真理(通称:すがねまチャン)さん。

 鱧(はも)とジュンサイのお椀が、もう絶品でございまする。  お昼のランチだというのに、夜の食材とおなじものを出してしまうんだから、すごい よ、このお店は。  お店の人が、小皿に緑色の液体を入れて持ってきただけで、うちの娘が「あっ、鮎が 出る!」と叫ぶので、みんなで「蓼(たで)酢で、鮎を予測するなんて、イヤなガキ!」 と連呼する。  蓼(たで)ぐらいで驚いてはいけない。うちのイヤなガキは、料理につかうお醤油が 変わっただけで、言い当てる。

 うちの娘のこの能力を「腸(ちょう)能力」と呼んでいる。  惜しむらくは、この能力、自分にだけ役立つだけで、人様のお役に立てない。  最後の「フカヒレと湯葉のご飯」には、もうみなさん「これが噂のフカヒレかあ!」 「おいしいー!」「何これ〜! ニコニコ!!」と、興奮の坩堝(るつぼ)と化す。  石関はるみチャンが「三口(みくち)ですね!」と、すごい発言をする。 「ええっ? はるみチャン! フカヒレを三口(みくち)で食べちゃうの?」 「えっ? あっ? やだあ! みなさんおいしい!と言ったあと、フカヒレを黙々と 黙って食べてるから、無口(むくち)ですね!と言ったんですう!」 「三口と、無口か! 似てる!」

 午後3時。私、嫁、娘の3人で、六本木ヒルズの「ヴァージン・シネマズ」へ。 チ ケット売り場の行列に並んでいると、うちの娘が「さくちゃん! プレミア館のチケッ トは、あっちで売ってるみたいよ!」と言い出す。 「何で売り場が違うんだよ!」  嫁には引き続き、チケット売り場に並んでいてもらって、うちの娘がいう売り場のほ うへ行ってみる。 「ここで『ターミネーター3』のチケット売っているんですか?」 「いえ、ここはインフォメーションなだけで、あちらで売っております!」  どうやら、売っていることは、確かなようだ。 「ええっ!? ここって、ホテルの喫茶ルームなんじゃないの? こんなところで映画 のチケットを売ってるわけないだろ!」 「でも、ここしかないよ!」  ホテルのフロントみたいなところがあったので、お姉さんに聞いてみる。 「ひょっとして、ここでプレミア館の『ターミネーター3』のチケットって、買えるん ですか?」 「はい、ここですが…」 「ありゃ、ほんとなんだ!」  言われるままに買う。  ひとり3000円だ!  ふつうの映画料金は、1800円だからかなり高い。  要するに、値段が高い分、ホテルのフロントのような売り場と、コーヒー・ラウンジ のようなものを隣接させて、ゴージャス感を出そうとしているのか。

 チケットを買って、どうせ上映開始まで、1時間近くあるので、ラウンジでコーヒー を飲もうとすると、「ドリンク・サービスのチケットを!」を言われる。  映画のチケットを買ったときに、プラスティックのチップのようなものも渡されてい た。どうやら、3000円のなかに、ドリンク・サービスが含まれているようだ。へ〜 〜〜! へ〜! へ〜! へ〜! 『トリビアの泉』だ。  六本木ヒルズで、コーヒー飲んだら、1杯1000円取られるだろうから、普通の映 画料金1800円を足せば、2800円。プレミア館の3000円は、けっこうお安い 計算になってしまう。しかもゆったりシートだ。  何だか、わからないままコーヒーを飲み、上映時間までラウンジで、待つ。  ゴージャスなのかもしれないけれど、映画観るのに、ここまでシャレた演出はいるの かなあ。  午後3時55分。『ターミネーター3』上映開始。  いままでの『ターミネーター』のパロディのような展開から始まって、息もつかせぬ ようなカーチェイス・シーンが始まる。  しかし、私のこの場面の頃には尿意を催し、苦しくなる。  我慢するにも、2時間近くは、無理だろう。  席も悪い。     <スクリーン>   □□ □□□□□□□□   □□ □□□□□□□□   □□ □□□□□□□□   □□ □□□□□□□□    □□ □□□□□□□□   □□ □□□□□□□□   □□ □□□□□□□□   □□ □□□□□□□□   □□□□□□□□□□□□□ ←私の席はここ。  しかも私の右側にも、前にも通路はない。  通路は↑の一列のみ。     →→→→→→→→→→→↓   □□↑□□□□□□□□  ↓   □□↑□□□□□□□□  ↓   □□↑□□□□□□□□  ↓   □□↑□□□□□□□□  ↓   □□↑□□□□□□□□  ↓   □□↑□□□□□□□□  ↓   □□↑□□□□□□□□  ↓   □□↑□□□□□□□□  ↓     ↑←←←←←←←←← ↓   □□□□□□□□□□□□□↓  …というコースで、堂々の退場を果たさないといけない。  うーーーん。悩む。  漏れそうになってからでは、とても間に合わなくなる距離だ。  まだ序盤で行っておいたほうがいい。  トイレに立つ。  矢印に沿って、トイレへ。  とても、おなじコースで戻る気がしないので、いちばん前のいちばん右の席で見る。  スクリーンが大きい!  すると、次々に、トイレに立つ人が続出するではないか!  そうだろ! そうだろ!  絶対、このプレミア館、クーラー効きすぎだよ。  このプレミア館の総座席数は、81席。  前の2列と、ちょっとは空席だったから、70人が入っていたとして、私のあとにト イレに立った人は、6人!  70人中、7人がトイレに行ったわけだよ!  わざわざ数える私もヒマだが。  でも、トイレに立ってもいいような内容だったかも。 「おもしろいか?」「おもしろくないか?」と聞かれたら、間違いなく「おもしろい!」 と答える。 「見て損のない映画か?」と聞かれると、間違いなく「損はない」と答えられる。  言わば、北海道のお寿司屋さんと、江戸前寿司の違いだ。  北海道のお寿司屋さんというのは、どのお店でもお刺身が新鮮だから、どのお店もお いしい。その味にあまり差はない。  でも、人形町の「喜(き)寿司」や、銀座「久兵衛」のような江戸前の老舗のお寿司 屋さんだと、一工夫も、ふた工夫も、加わる。  今回の『ターミネーター3』は、北海道の新鮮な食材をそのままつかっただけのよう なおもしろさなのだ。  北海道の市場のカニを食べてもおいしいけど、繊細さに欠ける。  そんな感じだ。  だから間違いなくおもしろいし、楽しいし、スカッとする。  でも、ラストのまとめ方に、デリケートさや、心に染みるセリフが足らなかったよう に思う。  午後6時。麻布十番の「くろさわ」で、食事。  私は、胡麻汁うどん。  嫁は、おろしうどん。  娘は、黒豚うどん。

 お昼に、「櫻川」でたらふく食べてしまったので、冷たいうどんが心地よい。  しかし、きょうの1日を、ほとんど六本木ヒルズ近辺ですごしてしまった!  都会人みたいな1日だな。わっはっは。鳥取砂丘がなつかしい!  午後7時。帰宅。    今夜も、本を読んですごしたい。

 

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