7月7日(月) 七夕というのに、雨。 午前6時。テレビを見ていたら、今年はプール熱が大流行の兆しが強いらしい。 プール熱というのは、夏に流行する風邪の一種で、夏にプールを介して学童のあいだに 流行するので「プール熱」ともいわれています。 30〜40度の高熱が4〜5日続き、のどの痛みが強く、眼も赤くなります。 さら に頭痛、はき気、腹痛、下痢を伴うこともあります。 何年かに一度、この病気は大流行する。 前にも、この日記に書いたかもしれないが、実はこのプール熱の第一発症者は、この 私なのだ。 真夏に毎日かかさずプールに行っていて、疲労がドッと出て、高熱に苦しんだのは、 もう40年も前のことだ。 この私が、毎日プールに行っていたことから「プール熱」の名前がついた。 要するに、私が命名者のようなものだ。 名づけたのは、お医者さんとしても。きっかけは、フジテレビだ。 どうせなら、星や、彗星の発見者のように「さくま熱」とか、名前を残したかったが、 当時は、小学校4年にして、危篤状態寸前まで追い込まれていて、芸人根性は、まだ育 っていなかった。 病気になった人には、もうしわけないが、ニュースで、プール熱という名前が出るた びに、なつかしくなる。 午前9時45分。小雨降るなか、嫁と東京駅へ。 取材旅行のときは、必ず晴れる法則を持つ私だが、先日の飛騨高山に続いて、また雨 だ。珍しい。 とはいえ、1年じゅう旅行しているようなものだから、たまには雨にも会うだろう。 午前10時20分。のぞみ11号に乗車。 東京駅で買った駅弁「日本紀行味めぐり」で、朝食。日本各地の名産が入った駅弁だ。 私の旅にふさわしいと思ったのだが、うーーーん。 名ばかりの駅弁だなあ。 15品が、満遍(まんべん)なく味が悪い。 目玉の3品くらいに力を入れて、あとはコストに合った食材と味付けにすればいいの に、どれも凡庸だ。 だいたい、お品書きに「菜の花の辛し和え」とあるのに、産地を<関東>と書くよう では、味付けのように大雑把だ。 千葉県千倉町の…とか、限定しなきゃ。 「竹の子の木の芽和え」も、産地が<近畿>じゃねえ。 京都府鞍馬とか、書けば、どんなに安い食材であろうと「ほう!」と、ひとつ感心も してあげられるのに。 けっきょく、小さな「いかめし」だけがおいしかった。 北海道森のいかめしと同等、それ以上の味だった。 最近の駅弁は、どのメーカーもがんばっていて、駅弁新時代到来かと思っていただけ に、残念。 いつものように、VAIOを取り出して、お仕事。 昨日から、ずっと書き続けている『桃太郎電鉄U(仮)』の追加イベントの続き。 ビッグ・イベントなだけに、書いては直し、書いては直しの連続。 最初は、どうしても複雑な仕様になってしまう。 それを二度、三度と書き直すたびに、シンプル化して行く。 長かった文章が、どんどん短くなっていくのは、もったいないような気もするが、イ ンプル・イズ・ベストだから、良しとせねば。 新幹線のいちばん前の席に、業務用のコンセントを発見。 お客さんが座っていないのをいいことに、VAIOを充電しに行ったら、コンセント の穴が、― に │ 。 盗電できず。 午後12時37分。京都駅に着く。 ここから山陰本線に乗り換える。 乗り換えに時間があるので、待合室へ。 公衆電話機の下に、コンセントを発見! VAIOを充電すべく、ACアダプターをカチリ!
午後1時25分。京都駅から、きのさき3号に乗車。 あれ? 待合室で、15分くらい充電したはずなのに、バッテリーはちっとも増えて いないぞ! まいったなあ! バッテリーレベルは50%を切ったままだ。 仕方がないので、ノートを取り出して、『桃太郎電鉄U(仮)』のアイデア出し。景 色を眺めながら、のんびりと。 京都の二条駅を過ぎると、次第に景色が大きくなっていく。 いつのまにか、外は晴れた。
綾部(あやべ)駅をを過ぎると、すっかり山が大きくなって、川が列車のあとからつ いて来ては、追い抜かすように、蛇行する。 綾部駅までは、由良川。 福知山駅を過ぎて、和田山駅を過ぎると、円山川がやって来て、伴走を始める。 午後3時51分。終点の城崎(きのさき)駅に着く。
志賀直哉(しがなおや)の小説『城崎にて』で、有名な、城崎温泉だ。 『城崎にて』、ただしくは、『城の崎にて』の表記のようだが、私の人生において、3 度ほど読んだことがある。最近読んだのは、2年前だ。 そして、3度とも「暗い!」という印象だけ残して、3度とも内容を忘れた。 どこが、近代日本の短編小説のひとつを確立したものとして、価値が高いのか、とん とわからない。 志賀直哉(しがなおや)は、『暗夜行路(あんやこうろ)』だけが、好きだ。 幻想 的な文章が、ダイナミックだったのを覚えている。 でも、やっぱり内容はいまはもう忘れている。 私が映画『たそがれ清兵衛』を、苦手に思えたのはこの辺に原因があるのかも。 で、城崎温泉。 1500年の歴史を持つ温泉郷だ。 熱海のように、崩壊寸前の温泉街を覚悟していたわりには、比較的、町はきれいだし、 活気があった。 冬場の蟹の名所として、予約がいっぱいになる町だからだろう。 駅前の「宿泊案内所」へ。 ここに荷物を置くと、きょうこれから泊まる予定になっている旅館まで届けてくれる という。 いいシステムだねえ。 もちろん無料だ。 町中を歩いてから行きたかった私にとっては、とても助かる。 VAIOを引きずって歩くのは、囚人の足に鉄球みたいなものだ。 駅前の商店街を歩く。 やはり、「カニ」ののぼりが目立つ。 カニせんべい、カニまんじゅう、カニぽん菓子、カニ茶漬け。 何でもカニだけど、ほかの観光地でも売っているものの換骨奪胎ばかりだ。 黒豆が多いので、まだ丹波圏内なのがよくわかる。 出石そばも多い。出石は目と鼻の先だ。 今頃、露店トマトがおいしい頃だろうなあ。
古い町並みだ。 元気を失った町ではない。 古いまま、元気だ。 店の人にもちゃんと覇気がある。 円山川の支流・大谿(おおたに)川に出る。 城崎を代表する景観だ。
地蔵湯橋、弁天橋、桃島橋、柳湯橋、愛宕橋、玉橋と、年季の入った石造の橋が続 く。柳並木も美しい。 川、橋、柳。 なるほど3種類の題材が揃えば、ひとつの景観になる。 これに、冬には雪、春には、桜が加わる。
川沿いのサワダ書店で、『城の崎にて・小僧の神様』(志賀直哉・角川文庫)を買い 求める。ちゃんと15冊くらい置いてあった。実は、駅からすぐの古い書店に、この文 庫本が1冊もなかったので、ショックを受けていたのだ。
城崎温泉は、外湯が7つあって、自分が泊まっている旅館のほかにも、外湯に入るの が、この土地へ来た人の楽しみのようだ。 わざわざ無料の外湯めぐりのマイクロバスまで走らせている。 町全体の統率がよく取れているようで、どの日本旅館にも浴衣が用意されていて、貸 してくれる。外湯めぐりをする人たちは、みなこの浴衣を着て、下駄の音を響かせてい る。浴衣で歩くことを提唱しているのだ。 古い景色の柳並木の川沿いに、赤、青、黄色のあざやかで、色とりどりの浴衣のカッ プル、若い女性たちが歩くさまは、天然の景観だ。 この町の人たちは、しっかり町の行く末を考えて、手を打っている。
手を打っているといえば、町じゅうのあちこちで、改装工事の音が響いている。 城 崎が観光客でいっぱいになるのは、何といっても松葉ガニの冬だ。 その次が、夏休みだそうだ。 だからちょうどいまが、閑散期で、この時期に改装工事をしようとしているのだ。
実は、本当はきょう泊まりたかった城崎きっての老舗旅館「西村屋本館」も、配管工 事で全館休業中だった。 この「西村屋本館」は、冬に予約しようとすると、2月いっぱい予約で埋まっている ような旅館だ。 城崎は、企業努力の町だ。 午後4時30分。7つの外湯のひとつ、柳湯の近くの「菜果(さいか)」で、スイカ ジュースを飲む。 午前中に駅弁を食べて以来、何も食べていないので、お腹が減った。 このお店で、城崎のことをあれこれ聞く。
大谿(おおたに)川の石橋の灯篭には、夕方になると、灯がともって、風情のある雰 囲気になるそうだ。 午後5時になったら、ちらほら、灯がともり始めた。 なおも、古い町並みを歩く。 「湯上りソフトクリーム」ののぼりが目立つ。 ソフトクリームだけでもいいのに、「湯上り」の文字がつくと、ふつうのソフトク リームよりもおいしそうに感じるから不思議だ。
昔ながらのスマート・ボールの店 城崎の特産品に「麦わら細工」というものがあったのだが、どのお土産品屋さんを覗 いても、いっこうにない。 ようやく、「麦わら細工」の看板があるお店を見つけたので、入ってみるけど、麦わ ら細工らしきものは、何もない。 麦わら帽子ひとつない。 昔の伝統工芸で、もはや廃れてしまったのだろうか。
困った…。 『桃太郎電鉄12〜西日本編〜』の『西日本編』に、麦わら細工工房を登場させるつも りだ。 嫁が店の人に聞く。 すると、箱根の切子小細工のような箱が、実は麦わらで作られているというではない か。えっ!? これなら、さっきからどのお店でも見てきたよ。 ええっ!? この人形こけしの胴体に巻いてあるものも、あっ、ほんとだ。言われて みれば、麦わらだ! そうか。こういう使い方をしていたのか! 「母さん、僕の麦わら帽子、どこに行っちゃったんでしょうね」のイメージが、あまり にも強すぎた。 材質として、つかっているとは思わなかった。 麦わらのハガキなどもあった。
午後5時。温泉寺に着いた。 温泉地に、温泉寺とはおもしろい。 城崎温泉を開いた道智上人により創建されたので、温泉寺になったようだ。 元湯が大きな岩から吹き出ている。
ふーーん。温泉たまごを自分で作れます? 何だ。卵を買って、温泉の湯で、茹でるだけか。 まあ、温泉たまごだからね。 もうちょっと、変り種の温泉たまごでも作れるのかと思った。
うひ〜〜〜、ちょっと歩きすぎたぞ。 「西村屋ホテル招月庭(しょうげつてい)」まであと少しだから、タクシーに乗ること もできない。もうかれこれ、城崎駅から、2キロも歩いている。 荷物を届けてもらったので、調子に乗って、歩きすぎた。 新幹線で、京都まで、京都から城崎まで、4時間ぐらい、電車に座りっぱなしだった ので、少しは歩きたかったのだが、歩きすぎた。 目的地は、城崎温泉のいちばん奥にあるので、あと500mの表示からずっと、なだ らかに坂道になっている。
午後5時30分。着いた! 着いた! ひ〜〜〜! 「西村屋ホテル招月庭(しょうげつてい)」に着いた。ふい〜〜〜っ!
5万坪の広大な敷地に立っているだけあって、大きい。 縮尺勘が狂うほど、ロビーも大きい。
午後6時。食事。 お腹が減っていたものの、日本旅館特有の、次から次へと運ばれてくる料理は食べき れないねえ。
地のアナゴと、タマネギのしゃうしゃぶは、スープも味わい深くて、おいしかったな あ。但馬牛も甘みがあって、おいしかったんだけど、これ以上のお肉を私は食べ過ぎて いるからなあ。 うん。でも、じゅうぶんおいしかった。
午後8時。丸くなったお腹のまま、露天風呂に入る。 城崎の温泉は透明で、匂いも強くない。 だから城崎の町に、硫黄の匂いが立ち込めていないので、女性客が多いんだろうなあ。 草津の湯はいいけど、あの硫黄の匂いは、間違いなく女性客を減らす。由布院に女 性客が多いのも、匂いがしないからだ。 露天風呂は、岩風呂だ。 岩風呂の向こうは、広大な森。 半身浴でも、たっぷり汗が出る。
は〜〜〜、極楽、極楽。 よくぞ日本人に生まれけりだ。 おっと。あっあっあっ! 寝返りを打つように、身体を反転させたら、体がお湯に浮いた。 要するに、溺れた。ははは! 冗談ではなく、鼻にお湯が入った。 アザラシのタマちゃんのように、顔を出しては、息を吸い、また溺れる。 足を岩場にかけたいのだが、私の場合、まだ左足が器用ではないので、踏ん張ること ができない。 水泳部だったくせに、プール熱の命名者なのに…。 腰ほどの湯量なので、大事に至らず。 海では、けっこう腰までの高さで溺れる人が多いだけに、危なかった。 湯上りに、『城の崎にて』(志賀直哉・角川文庫)を読む。 やっぱり変だよ。 いきなり、「山手線の電車に跳ね飛ばされて怪我をした」だもん。 山手線に跳ねられて、生きているか? しかも、城崎に来てから、出てくるものといえば、蜂の死骸に、川に投げ入れられた ネズミに向かって、みんなで石を投げたり、イモリだ。 この作品のどこが、美しい作品という評価なのだろう。 私の感性がまだ、お子ちゃまなのかな。 城崎の町は、『城の崎にて』よりも、美しい。
夜食にフルーツのサービス 明日も、取材旅にでかけたいのだが、雨が心配。 いくら晴れ男でも、梅雨にでかけて来ることはなかった。
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