6月12日(木)

 旭川は、快晴。
 旭川は、日本製紙の工場があるパルプ工場の町。
 町名に「パルプ町」なんてものまである。
 あと、旭川ラーメンが有名なのも、日本醤油という醤油工場があるせいのよう
だ。
 笑ってはいけないと思うのだが、この日本醤油のブランド名は「キッコーニホ
ン」。野茂のフォークのように、ストンとこけるネーミングだ。

 午前6時。睡眠不足ながら、けっこう眠れた。  ホテルで、『桃太郎電鉄12〜西日本編』の手直し作業をちょっとだけ。  完成するまでに至らず。  午前9時。ホテル1Fのロビーで、嫁と、カフェ・オレ。  あれ〜。宮本さんがいないなあと思ったら、来た、来た。  えっ!? もうすでに朝食をすませて、車を掃除していただって? 「そんな〜。いつもの観光業務じゃないんだから、車の掃除なんてしなくてもい いのに!」 「いやあ。やっぱり窓が汚いと、気持ち悪いから…」  休暇中の刑事さんが、職業意識が抜けないのとおなじようだ。

 午前9時30分。家族3人、土居ちゃん(土居孝幸)、柴尾英令くん、ヤサカ タクシーの宮本さんの6人揃って、出発! 「旭川は、やっぱり旭川ラーメンのお店が多かったねえ!」 「柴尾英令くん、朝食は、旭川ラーメンにする?」 「もうカンベンしてください! 昨日、おなじ物を1日2回食べると、苦しくな ることを覚えました!」  きょうの取材は、かなり強行軍だ。  午前10時。旭川市郊外の道の駅「あさひかわ」へ。  国道沿いではなくて、旭川大雪クリスタルホール、国際会議場、森林管理局、 博物館が並ぶ官庁街っぽいところにあった。  道の駅自体、旭川地場産業振興センターのビルのなかだ。

 さすが、お役所仕事。  開店時間の5分前に着いたのだが、頑として、早く開けてくれない。  お店の人も全員、揃っているんだよ。  店内も見渡せるのにだよ。  ロープを、1本ずらすだけでいいんだよ。  広い店内なんだから、「商品を見ていただいてけっこうですから、レジは、午 前10時からでお願いします!」と言って、売り場を見せてくれればいいのに。  旭川近隣の産業も紹介しているんだけど、ここでは売っていない。  何の意味があるのだ。  当麻(とうま)町は、でんすけスイカが名物で、スイカせんべい、でんすけス イカ・ゼリーと、『桃太郎電鉄』には必要不可欠のようなお土産品を紹介してお きながら売らないとは、何事だ。  どうも最近、全国各地の「道の駅」に寄るようになったけど、場所によって、 まるで違うお店だ。連携もうまく行っていないように思う。

 ジュン・ドッグという、洋風おにぎりがおいしそうなので、買い食いしてみる。  棒状のおにぎりで、えびフライ、チキンカツ、あらびきソーセージの3種類が ある。1本370円。  コンビニのおにぎり2個分くらいの量なので、食べがいはある。  家族3人で、3本買ってしまったため、食べきれず、3人とも、柴尾英令くん に援軍を頼もうとする。 「ボクは、昨日コンビニでおにぎりを買っておいて、今朝、食べたんで、食べら れませんっ! きっぱり!」 「何だ。いつでも、どこでも、柴尾英令くんは、すぐに何でも食べられる男だと 思ったのに!」

 でも、このジュン・ドッグはおいしかった。  旭川の名産でいいのかな。  名産なら、おにぎりドッグ屋の名前で、登場させられるんだけど。  ホームページがない。  生醤油かりんとうとか、名前のちょっと変わった名前の食べ物を買って、東京 に送る。ホタテの貝殻に乗ったシャケとかも買う。  国道237号線を旭川空港に向かって、走る。  沿道に、名前のわからないきれいな花がいっぱい咲いている。  昨日からずっと、紫色のラベンダーが背が高くなったような花が美しいと、み んなで言っていたんだけど、その花の名前が、ルピナスとわかった。  今回の旅の印象は、「ルピナスで決定!」というくらい、ずっとどこまでもル ピナスが見える旅が続く。

 あれえ? ルピナスは、ルビナスと濁る言い方もあるのか?  ラッセルという言い方もあるの?  ルピナスの花の名は「狼」からきているのか。土地を選ばず、どんな荒れ地にも 育つところから命名されたの。  ふーーん。だから北海道に適しているんだな。  紫色やら、白やら、ピンクやら、かなりいろんな色のある花だ。  午前10時30分。美瑛(びえい)駅へ向かう途中、「ぜるぶの丘」という斜 面に花が咲き乱れているような公園を発見。

 急カーブで、停車。宮本さんに寄り道してもらう。  今回、タクシー取材をやめて、宮本さんに来てもらったのは、このせい。  ふだんから、私の取材によく付き合ってもらっているので、こういう丘を運転 中に見ると、すでに寄るかも知れないなと、準備が出来ている。  意外と「えっ? えっ? どこのことですか?」と気づかないふりをして、と ぼけるタクシーの運転手さんは多い。 「ぜるぶの丘」には、黄色いヒマワリや、ジャガイモの花、マーガレット、赤麦 と呼ばれる花などが、ガーデンパークと呼ばれるくらい、きれいに咲き誇ってい た。  さすがにラベンダーの時期には早いので、咲いていなかったが、時期がくれば、 もちろんラベンダーが咲くそうだ。  農道部分を、バギーで走ることができるようになっている。  ここはひとつ、柴尾英令大魔王に、バギーで疾走していただいて、「お花畑に 暴走! とんだ観光客!」と、北海道新聞のトップ記事になってほしかったのだ が、柴尾英令くんには、花よりだんごほうがいいようだ。残念。

 この「ぜるぶの丘」の先には、「亜斗夢(あとむ)の丘」というのがあって、 ここの展望台から、ケンとメリーの木を見ることができる。

「ケンとメリーの木」といって、すぐわかる人は、今や、30歳台後半の人くら いかな。  ニッサン・スカイラインGTという名前は知ってるよね。  最初に人気が出たスカイラインのことを、愛称で、「箱スカ」と呼んでいた。 箱型のスカイラインだったからだ。  1972年。ニッサンは、新しいスカイラインのシリーズを発売させた。  そのスカイラインの愛称が「ケンとメリー」だったのだ。  この「ケンとメリー」のテレビCMを撮影した場所が、ここから見える美瑛の 畑にすっくと立つ、ポプラの木だったのだよ。  BUZZ(バズ)というグループが、主題歌『ケンとメリー(愛と風のように) を歌い、ヒットした。  このCMが、当時、おしゃれで、日本とは思えないような雄大な景色で、爆発 的な話題になった。  北海道の景色というと、美瑛(びえい)の広大な畑の印象が強いけど、代表的 になったのは、このCMの景色からだ。  北海道のほとんどが、この景色なわけではない。  この「ケンとメリー」という車種は、旧型の「箱スカ」が男性的なデザインだ ったのに比べ、いわゆる女性的で美しいデザインだったので、この「ケンとメリ ー」を運転すれば、女の子はみんな喜んで助手席に乗ってくれると、言われたも のだ。  当時、この「ケンとメリー」のスカイライン2000GTXに乗り、BUZZ のCM主題歌『ケンとメリー(愛と風のように)』まで買っていたのが、何を隠 そう、この私だ。わっはっはっは。わははのは!  昨年、うっかり昭和41年製のニッサン・シルビアを購入したばかりに、『桃 太郎電鉄』の作者が、実は自動車マニアだったことが露見してしまった一連に繋 がる話だ。わっはっはっは。わははのは!  あのCMがここで撮影されていたことも、当時は知っていたけど、あれからも う30年近く、私もすっかり忘れていた。  思わず、「あの頃は、ケンとメリーのおかげで、女の子とたくさんドライブに 行かせていただいてありがとうございました!」と、思わず拝んじゃったよ。  わっはっはっは。わははのは!  こういう話題は、笑って逃げるのが、いちばん。

 ところで、この「ぜるぶの丘」と、「亜斗夢(あとむ)の丘」は、町営ではな く、アトム農機という美瑛の農機メーカーの持ち物なのだそうだ。  たぶん、『鉄腕アトム』世代の社長さんなんだろうなあ。  このあと、セブンスターのCMで有名になった「セブンスターの木」と、「マ イルドセブンの木」も見に行く。

 柴尾英令くんが、車に乗るとき、「ボグッ!」と、この広大な土地に響き渡る ような音で、頭をドアの上の部分にぶつける。 「いててててっ!」 「ああ、痛いっ!」 「う〜〜〜、まだ痛い…!」  本当にすごい音だった。  慰める言葉が浮かぶ前に、笑ってしまうのは、やはり柴尾英令くんの人柄だろ う。 「頭のいい柴尾英令くん、唯一の取り柄がなくなってしまうぞ!」  ふつうあれほどの衝撃音を立てたら、1日じゅう、頭をなでたり、「まだヒリ ヒリする」といった言葉が洩れるものなのだが、その後、柴尾英令くんからは、 このときの衝撃音について、ひとことも無し。  強靭な頭脳だ。ダブル・ミーニング。  午後11時45分。美瑛(びえい)駅へ。  北海道といえば、美瑛(びえい)の景色を思い出すほど、なだらかな丘が幾重 にも連なり、ヨーロッパ的田園風景がどこまでも続く風景を想像していたので、 美瑛(びえい)駅は、てっきり、畑のなかにぽつん!と立つ、2〜3人ぐらいし か入れないような小さな駅だと思っていた。

 ところが、美瑛(びえい)町からして、想像とまったく違った。 「多摩ニュータウン好評分譲中!」みたいに、まっすぐ舗装された道に、住宅が 等間隔に並ぶ。  どの住宅も本当に真新しい。  ここまで揃って、真新しい町など見たことがない。  町の人に聞いたら、平成元年に徹底した都市計画で、区画整理をして、まった く新しい町に生まれ変わったそうだ。  その名残りか、家の正面の屋根の壁の部分(△のところね!)には、194 7、1970、1996、1935、1923という数字が必ず入っているけ ど、これは区画整理以前に家を建てたときの年号だそうだ。  当時に新築してしまったので、「オレんちは、ここじゃ古いだ!」って、自慢 できなくなっちゃうからだろうなあ。  うまい説得の仕方だ。

 美瑛(びえい)駅も新しくて、石作りの美しい駅舎だ。  なるほど、「日本の駅100」に選ばれるのも、当然。  何となく、このきれいに整理された住宅街で、何か買い物がしたくなって、駅 前のパン工房「麦菓(ばくが)堂」で、パンなど買ってみる。 「四季の情報館」でも、物件につかえるかもしれない品々を買う。  陽射しも強くなってきて、もっとここでのんびりして行きたい気分。  一昨年亡くなった、アニメ『うる星やつら』のプロデューサーである落合茂一 さんが、うちに来たとき、「晩年は、美瑛(びえい)に住みたいんですよ」と私 に話してくれたことを思い出す。  その場所にいま立っている。  この空気、この景色。  そう思いたくなる場所だ。  冬はどのくらい厳しい場所など知らないのだが…。  落合茂一さんは、そんなに年齢の違う人ではなかったので、私も「終(つい) の棲家」をそろそろ考えるべきなのかなあ!とも思う。  再び、国道237号線を南下する。  富良野(ふらの)が近づいて来た。  ラベンダーの季節は、今月の終わりから、7月の初めが最盛期で、いまはまだ まったく咲いていないことを知った上で、来ている。  1週間ほど前に、富良野に来た石川キンテツからの情報でも、ラベンダーはま だという情報は入っている。  ところが、美馬牛(びばうし)駅の近くを通りかかったら、なんと早咲きなの か、ラベンダーが咲いていたではないか!  期待していなかったものを見ることできたので、ワンボックスーの車内に歓声 が上がる! 「やっぱり、われわれは石川キンテツとは日頃の行いが違うな!」 「かわいそうに石川キンテツは、こんな美しいものに気づかずに通過してしまっ たんだ!」 「ふだんから、石川キンテツがコーラと牛丼しか食べていないからだ!」

 午後1時。富良野の「ふらのワインハウス」へ。

 ここには、15〜6年ほど前、サザンオールスターズのベーシスト&ウクレレ 伝道師・カズ坊(関口和之)と、いっしょに来たことがある。土居ちゃんは来て いなかったというので、私とカズ坊(関口和之)と、誰と来たんだろう。まった く覚えていない。

 当時、ここでカズ坊(関口和之)と、おいしいステーキを食べたことだけは覚 えているので、嫁を除く全員が、真昼間から、ステーキ!  嫁が、みんながつまめるようにと、いろいろなものを注文したもんだから、わ れわれのテーブルだけ、大宴会を開いているようだ!  チーズ・フォンデュ!  ウィンナー・ソーセージ!  サーモン!  ジャガイモ!

 北海道らしい食べ物を、ステーキの箸休めにつまむのだから、尋常ではない。 「あかん! お腹が丸うなってきた!」と、宮本さんが心配し出した。 「うめ〜〜〜! これ、うめ〜〜〜!」と、柴尾英令くんは焼き方レア、サーロ インの200グラムをおいしそうに食べている。  私は、ヒレの150グラム。  私たちのテーブルにBGMを流すとすれば、「そいや! そいや! わっしょ い! わっしょい!」だろう。  食べているというより、お祭り騒ぎだ。

 もちろん食いっぷりがいちばんいいのは、柴尾英令くん。  柴尾英令くんの最新ニックネームは「全日空」!  そのこころは「全日空(ぜんぶ肉食う)」である。 『桃太郎電鉄』シリーズの富良野の物件に、ワイン工場がずっと登場しているけ ど、あのワイン工場は、この「ふらのワインハウス」のこと。このレストランか ら見える富良野の町並みは、絶景だ!  富良野に来たら、ぜひここを訪れてもらいたい。  ステーキでなくとも、ハンバーグもある。 「ううっ。苦しい!」 「げふー! 食いすぎたあ!」  湿度の少ない北海道は、ついつい食べ過ぎてしまう。  ただでさえ、宮本さんに運転をおまかせなので、われわれはほとんど歩いてい ない。食べるだけ。

 午後2時。富良野駅へ。

 以前も来たことがあるけど、時刻表を見たら、普通列車は、2時間に1本くら いしかないんだね。やっぱり北海道をすべて電車で旅するのは、無謀に等しい。  さて、富良野に来たかぎりには、フジテレビ『北の国から』のロケ現場を見る かどうか悩むが、スーパー・テレビ人間の土居ちゃんが、「せっかく富良野に来 たんだからねえ! 見るだけ、見とかない?」というので、行くことに。 『北の国から』というと、富良野だけど、ロケ現場は、富良野駅から車で20分 以上のはるかに遠いところにある。  駅前からレンタサイクルを借りて、行こうなどと思った人は、遭難することを 覚悟したほうがいい。  渋滞した東京の車で20分ではない。  ほとんど信号のない道路で、20分だ。  午後2時30分。『北の国から』のロケ現場・麓郷(ろくごう)の里へ。 『北の国から・遺言』で、田中邦衛さんが、竹下景子さんのために、廃材を利用 して建てた家、通称「拾って来た家」だ。

 すごいよ、平日なのに、大型観光バスが何台も連なって、若いカップルの車が 駐車場にびっしり。  やっぱりテレビの力って大きいねえ!

 ドラマのなかで、吉岡秀隆くんが、内田有紀さんにプレゼントしたという綿羊 がいて、うちの娘の目の前で、うんちをポタポタ、ポタポタ落としたものだから、 娘は大喜び!  都内育ちの人間は、こういうのを見る機会が少ないからね。

 この「拾った家」のロケ地は、砂利というよりも、塊の大きな石の道を歩くの で、足の不自由な私には、拷問のような「順路」だ。  しこたま疲れる。

 午後2時45分。田中邦衛さんが石を積み上げて作った家へ。  ロケ現場だから、都合よく、ひとつのところに集まっていない。 「拾って来た家」から、車で10分ほど行ったところにある。  10分といっても、まったく信号のない10分先である。  あっ。1ヶ所だけ、信号があったか。  その程度だ。 『北の国から』で、見なれた町並みを抜ける。 「石の家」に着いた。  ここから「石の家」までは、駐車場から、歩いて2分ほどなんだけど、急斜面 なので、つらい。  つらいあげくに、たどり着いても、特設の展望台から、叢(くさむら)にぽつ ん!と建っている「石の家」を眺めるだけで、なかは見ることができない。  会員制で、1万円払うとなかを見せてくれるというサービスがあると、相当町 の財源になるのではないか? そういう考え方自体が、都会人の論理ですな。  泥のついた1万円の大事さを忘れたか!ですな。

 駐車場の近くの売店から、さだまさしサンの♪ア、ア〜〜〜、アアアアア〜〜 〜ア、ア〜〜〜が流れてきた。  この曲が流れていないと、ここに来た気がしないよね。

 ちょっと残念だったのは、『北の国から』の公式ガイドブックが、発売されて いないこと。これだけ富良野にロケ地が点在しているんだから、ここでしか買う ことができない、映画のパンフレットのような攻略本を置いたら、売れるだろう なあ!と、つい出版人間だった頃の癖で、企画を考えてしまう。  都会人は、何でも商売にしようとするから、いかん。  値段も、1500円くらいに出来るから、利幅も高くていいぞ。  まだ企画のアイデアが止まらない。  これだから、都会の人間は!  さて、これで富良野までの取材終了。  ここから、次の道の駅まで、ひたすら国道38号線を走る。  歩き疲れたので、少し仮眠。  午後3時30分。道の駅「南ふらの」へ。

 ラベンダー・ラムネというのを飲んでみるが、「ラベンダーの香りが、するか な、しないかな?」程度の香りづけ。  何でもかんでも、ラベンダーをつかうのは、ちょっとやめてほしいなあ。  ラベンダー焼きの灰皿というのは、よくわからないし、喫煙とラベンダーのイ メージからは程遠いと思う。  ここから、ひたすら、帯広(おびひろ)をめざす。  国道も、ひたすら、まっすぐ。

 どこまでも、まっすぐ。  先が見えないほど、まっすぐ。  びっくりするほど、まっすぐ。  本当に、あきれるくらい、道は、ま――っすぐ。  ま――――――――っすぐ。  ま――――――――っすぐ。  ま――――――――っすぐ。  ま――――――――――――――――っすぐ。  ま――――――――――――――――っすぐ。  ま――――――――――――――――っすぐ。  ま―――――――――――――――――――――――――――――――っすぐ。  ま―――――――――――――――――――――――――――――――っすぐ。  ま―――――――――――――――――――――――――――――――っすぐ。  ま―――――――――――――――――――――――――――――――っすぐ。  ま―――――――――――――――――――――――――――――――っすぐ。  ま―――――――――――――――――――――――――――――――っすぐ。  思わず、運転している宮本さんが「気色悪いほど、まっすぐです!」と、つぶ やいた。  しかし、もうみんなで、何10回、車から見える雄大な景色を見て、「うわ〜 〜〜、きれいだなあ!」と叫んだことか。  不思議と、「きれい!」以外の言葉が浮かばない。  文筆業なんだから、もっと気の利いた言葉で、この美しい景色を表現したいよ うな気もするんだけど、「たまには、きれいだけでもいいよね!」と、仕事を放 棄してしまうほど、美しい。

 たまに、牧場で寝そべる牛たちを見るんだけど、急に現れるので、デジカメが 遅れる。車を停めてもらって、デジカメすればいいんだけど、あちこち寄り道し 過ぎて、これ以上寄り道を繰りかえすと、帯広に着かなくなってしまう。  そば畑の新得(しんとく)町を抜け、芽室(めむろ)を抜ける。  午後5時。予定時間よりはるかに早く。帯広(おびひろ)駅に到着。  帯広市は、人口17万人。  農業の町と聞いていたので、町の大きさに驚く。  36万人の旭川市よりも大きく感じるのは気のせいだろうか。

 この帯広駅の大きさはいったい何!?   まるで新幹線が停まるような駅ではないか!  正直言って、名古屋駅より大きいよ。  こんな大きな駅を作るなら、ついでに新幹線も作ってしまえばいいのに!  駅構内を歩いてみるけど、ほとんど人がいない。

 だだっ広い。  シーーーンとしている。  駅前再開発をしたばかりなのか、やたらと駅前のロータリーも広い。

「さくまサン、夜のご飯は?」と、土居ちゃん。 「お昼にステーキを食べてしまったから、夜は、あっさりとした…」 「豚丼(ぶたどん)?」と、土居ちゃん。 「はっはっは。その通り。帯広に来たら、豚丼食べなきゃねっ!」  帯広の名物は、豚丼。  町のあちこちに「豚丼」の文字があふれている。  町おこしとか、名物というのは、帯広くらいのぼりを立てて、看板を並べてく れないとね。

 午後5時。駅前の元祖豚丼のお店「ぱんちょう」へ。

「あれ? 本当にここかな?」  お店に入ってみると、まるで日本料理のお店か、うどん屋さんかな?といった 雰囲気。  豚丼元祖のお店なんだから、店内にところ狭しと、元祖のウンチクが書かれた 張り紙がベタベタ貼ってあって、芸能人の色紙で埋め尽くされているようなお店 を想像していた。  うどん屋さんだと思っても、張り紙が少なすぎ。  思わず、「ここって、豚丼の元祖のお店なんですよね?」と、聞いてしまった ほど、おとなしい内装だ。  でも、味は抜群!  丼から、はみ出た豚肉は、タレがほどよい甘さで、タレがかかったところのご 飯を食べるのが、こんなに楽しいなんて。  焼き方が、まるで炭火焼きみたい。  というよりも、これはうなぎの蒲焼・豚肉バージョンだ!  東京や、川崎にも、豚丼のお店が出来ているけど、勝負にならないくらい、こ っちのほうがおいしい。

 しかし、たれに漬けた豚肉と、ご飯以外は、たくわん2切れと、味噌汁だけと いうのも、大胆な食べ物だねえ。 「ボクは、こういう食べ物は好きだなあ!」  また、柴尾英令くんの口癖が出た。  ちなみに、柴尾英令くん以外は、松・竹・梅の「梅」を食べて、柴尾英令くん だけ、いちばん肉の多い「華」を注文。  でも、私たちに「梅」と大差ない豚肉の量で、みんなががっくり。  やっぱり柴尾英令くんは、お相撲さんが優勝したときにお酒を飲む大きな杯ぐ らいの大きさの丼で、豚丼を食べてほしかったよ。  ちなみに、値段は以下の通り。  値段の違いは、豚肉の枚数のみ。ご飯の量はいずれもおなじだそうだ。 ・松  850円 ・竹  950円 ・梅 1050円 ・華 1250円 「ぱんちょう」という不思議な店名は、中国語の「パンファン(ご飯屋さん)」 から来ていると聞いた。  これだけおいしいのだから、どのくらいの数の支店があるのかと思ったら、こ のお店1軒しかないんだって! この元祖のお店が、支店を出さなかったので、 帯広じゅうに豚丼のお店が出てたということもいえるだろうなあ。 <帯広に行ったらぜひ行ってほしい!> 住所:北海道帯広市西1条南11丁目19 電話:0155(22)1974 営業時間:11:00〜19;00 定休:月曜日、第1、2火曜日。  しかも、あとで知ったんだけど、この「ぱんちょう」、ふだんは行列が出来て、 なかなか食べられないそうだ。閉店間際に行ったのが、よかったみたい。  帯広といえば、北海道名物として、「白い恋人」と争う「マルセイのバターサ ンド」でおなじみの六花(ろっか)亭の本社がある。  もちろん、行く。 「ぱんちょう」から、歩いて3分ほどの場所だ。  しかし、喫茶室のラスト・オーダー時間は、午後6時。  すでに5分ぐらい閉店時間を過ぎてしまったけど、無理やり入店させてもらう。

 宮本さんが、京都の知り合いのみなさんから「マルセイのバターサンド」を買 って来てと、何人にも言われたそうだ。 「マルセイのバターサンド」は、おいしいからねえ。  ひとことで言えば、クッキー・サンド。  ホワイトチョコとバターを混ぜ、それにレーズンが入った生地をクッキーでサ ンドしたお菓子だ。  このレーズンがおいしい! 『桃太郎電鉄12〜西日本編』で、帯広が目的地駅として登場するけど、物件名で、 バターサンド屋として登場するので、忘れず買うように。  臨時収入物件にも入っていますぞ。こっそり耳打ち。  でも、私としては、バターサンドもおいしいけど、六花(ろっか)亭だと、板 チョコもおいしい。ホワイト・チョコレートが有名だけど、モカ・チョコレート がお勧めだなあ。  このモカ・チョコレートを買うのが、通ってもんですぜいっ!  あれ? いつのまにか、うちの娘が、モカ・チョコレートを買っているではな いかっ! 恐るべし!  今回、お店で買った、十勝あんころがおいしかった。  十勝の小豆をつかった、おはぎだ。  帯広は、十勝支庁の中心地だからね。  日本じゅうの甘味屋さんが、ここ十勝地方のお世話になっている。  このあと、さすがに私も薬局で、胃薬を買った。  ほかの人より、だいぶ摂取量を抑えては来ていたんだけど…。  1日3食、お肉を食べてもビクともしなかった鉄の胃袋も、節制の生活をする ようになってから、弱くなったものだ。  午後7時。きょうの宿泊地「北海道ホテル」へ。

「北海道ホテル」と、ベタな名前のホテルだっただけに、老朽化したおんぼろな ホテルを想像していたんだけど、これが実にラグジュアリー! エグゼェクティ ブ! エクセレント!  叶姉妹が、帯広に来たら、きっとここに泊まるんだろうなあ!というくらいゴ ージャス!  私の部屋なんか、温泉が付いていて、バスルームなんか、大阪の「ちさんホテ ル」のシングル・ルームより、広いんですぜっ!  って、このギャグ、大阪に出張したことのある人、限定のギャグです。  もう見事に、王様気分。  しかも北海道だから、そんなに宿泊料金は高くない。…と思う。私は知らんが。  温泉は、黒っぽい色だけど、気持ちいい。  北海道旅行も、3日目で、この温泉は、生き返る思い。  宮本さん運転の車で、かなり体力を温存できた。  美瑛(びえい)で見た景色は、一生忘れることができないだろうなあ。  ひとりホテルの部屋で、ひさしぶりに、BUZZの『ケンとメリー(愛と風の ように)』を口ずさんでみる。  甘酸っぱい青春時代が、ちょっと思い出された。  今回、いちばん過酷な取材は、無事終了。  明日は、雨の予報がちょっと心配。

 

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