5月25日(日) 午前7時。『桃鉄研究所』の原稿を執筆。 合い間に、きょうの日帰り旅行の時刻表を調べる。 兵庫県の生野(いくの)銀山まで行こうと思っている。 ダメだ。全然電車がない。 午前9時スタートで、検索してみても、午前10時で検索しても、午前11時 30分の新幹線しか表示されない。 疑り深い私は、本の時刻表をめくる。 何だ、いっぱい電車あるじゃないか。 と思ったら、季節限定列車。 本当にない。 「生野(いくの)銀山へ、行くの(生野)?」 ベタなだじゃれが浮かんだので、気乗りしないが、行くことにする。 午前10時。嫁と、三条堺町の「イノダコーヒ本店」へ。 ウインナーセット。 このパンがしっとりしていて、おいしいのだ。![]()
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午前11時24分。京都駅からひかり101号に乗車。 天気は、曇り空。 まるで気乗りしないで旅に出て来た私の本心を見透かされたようだ。 午後12時11分。姫路駅で下車。 播但(ばんたん)線、播但(ばんたん)線のホームは…と。 えっ? 31番線〜33番線が、播但(ばんたん)線? 0〜1番線が、姫新線。 3〜4番線が、山陽線上り、東海道線。 6〜7番線が、山陽線下り。 11〜13番線が、新幹線。 で、播但(ばんたん)線が、31〜33番線? 何で2番線がなくて、20番台がなくて、31〜33番線があるの? 0番線まであるのに。 私は鉄道マニアじゃないけど、気になるよ。 しかも、31〜33番線は、在来線の駅舎側の隅っこに付け足したような場所 にあった。 何だか、姫路駅に間借りしているように居心地が悪そうだ。 紅色した2両編成のワンマン電車が見える。
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まだ発車まで時間がある。 嫁が、駅そばのおそばの色が変だと言い出す。 見ると、うどんのように白くて、ラーメンほど黄色くもない。 食べてみる。 味は、和風出汁でにゅうめんみたいだ。
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お店の人に聞くと、この駅そばだけのオリジナルで、この辺特有のおそばでは ないようだ。でも、ほかのお客さんたちもみんな、この「えきそば」300円を 食べている。茶色の本来の駅そばのことは、和そばと呼ぶようだ。 和そばのほうが、320円と20円高いのか。 思ったほど、びっくりするような出来事ではなかった。 おっと。しまった。 駅そばの白い麺に興味を持っているうちに、2両編成の電車は、満員になって しまっていた。
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うひょ〜。姫路界隈の人には申し訳ないんだけど、姫路駅から乗る電車という のは、発車ぎりぎりでも、楽々座れる電車ばかりと思い込んでいた。 あっ。きょうは日曜日だった。 いつも乗るのは、平日だ。 午後12時32分。寺前(てらまえ)行きの電車は発車する。 乗客が多いだけあって、電車のスピードは速い。 隣りに座っていた黒人の女性が、ドアのところに立っていたおばあちゃんに声 をかけて、座るように呼びかけた。 ななめ向かい側の優先席には、中学生ぐらいの女の子がふたり、のうのうと座 っている。何だか、恥ずかしいことだ。 私も本来、優先席に座ってもいい身体だけど、優先席には座らないようにして いる。なぜなら、一度、優先席に座っている若者に注意したことがあったからだ。 そのときの若者は「年寄りが来たら、席を譲るから」と言った。 優先席が埋まっているところに、年寄りは近寄りづらいよ。 学校のテストに、マナーというテストがあって、全問正解すると、30点くら い総合点に加わるようなシステムにならないもんかなあ。 住宅地を走っている電車は、徐々に緑のなかを走るようになって行く。 ジリリリリリーーーン。キンコンカンコン、キンコンカンコン。 駅に近づくと、めざまし時計のようなジリリリーンという音と、木琴を叩くよ うな、キンコンカンコンという音がする。 この音がする電車に乗ると、旅情が豊かになって行く。 福崎駅だ。 えっ? 「ふくざき」駅ではなく、「ふくさき」駅なの? 浜崎あゆみのように、濁らないのか。 『桃太郎電鉄』の台帳を書き換えておかないと。 終点の寺前(てらまえ)駅が、近づいて来た。 この電車は、ワンマンカーなので、運転士さんは駅に着くと、席を立って、後 ろを向き、料金箱の前で、キップを受け取ったり、お金を入れる人をチェックす る。忙しい。
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しかもこの料金箱は、鍵を外すと、ドアのように回転するようになっていて、 運転席から、客席のほうへ出入りできるようになっている。 それどころか、この料金箱は、運転士さんの真後ろの壁を開くと、そこにパコ ーーーン!と、内臓できるようになっていた!
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何事もなかったかのように、いつも見慣れている何も無い運手席の風景になっ てしまう。へ〜〜〜、先頭車両の運転席には、二重、三重の仕掛けがあったの か。 このからくりには、ちょっと感動!
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午後1時10分。終点の寺前駅に着く。 ここで電車を乗り換える。 ふつうこの駅の反対側のホームには、次の列車が待っているのだが、次の列車 の発車時間は、19分後。
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ふと。いま乗って来た電車が折り返して、再び姫路駅に向かって発車するのは、 午後1時31分であることに気づく。 いま乗って来た電車のシートに座って待てばいいんじゃないか。 でも、ホームには7〜8人の人たちが、じっと立って待っている。 立って待ってて、疲れないのかなあ。 あ、私が脆弱なだけか。 午後1時29分。和田山行きの電車は発車する。 電車は、4人掛けの電車になった。 やっぱり旅は、4人掛けのボックス型でないとね。 進行方向に向かって座わりたい。
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ずごごごご…。 遅い! さっきの電車が、自動車なら、今度のは、自転車のようだ。 道沿いを走る軽自動車が、楽々、この電車を追い抜いて行った。 景色も急に変わった。 川は渓谷に。岩が増えて来た。 山もどんどん高くなる。 トンネルも増えて来た。
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まるで、数日前の紀伊半島の十津川に逆戻りしてしまったかのようだ。 しかし、十津川では、人に会わなかったなあ…。 午後1時48分。生野(いくの)駅に着く。 おお! この駅はさすがに大きい。 料金箱にお金を入れるワンマンカーのシステムではなく、ちゃんと改札口に駅 員さんがいた。 でも、さっきの寺前駅から、生野(いくの)駅までの乗車時間は、19分。
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寺前駅で、この電車を待った時間が、19分。 寺前駅で降りて、タクシーに乗れば、寺前駅に乗り換え列車が来る前に、生野 に着いていたではないか。くそっ。 でも、寺前駅にタクシーがなかったような気がする。 駅前に商店街は、ない。 さっさと先を急ごう。 本来は、午前中に着きたかったのに、もはや午後2時に近い。 駅前で、タクシーに乗る。 運転手さんが親切で、生野の古い町並みを回って、解説してくれた。 生野(いくの)銀山の開坑は、室町時代に遡る。 応仁の乱の山名氏が、銀の鉱脈を発見して、本格的な採掘が始まった。 あの織田信長が最初に「銀山奉行」を置いたというのだから、相当重要な場所 だったのだろう。江戸時代に入ると、代官所が置かれ、最盛期を迎える。 明治時代になると、宮内庁の管轄になり、明治29年には、民間に払い下げら れた。昭和48年に閉山というから、昭和27年生まれの私から見れば、ついこ の間、閉山したばかりに思える。
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そんな町なので、古い町並みも年代物の家が多い。 それも、ほとんどの家が修復、修繕などがほどこされていないので、本当に古 い。天然の古い町並みだ。 だから、白壁の古い町並みを利用した雑貨屋さんも、飲食店もない。 商店自体が、まったくなかったような気がする。 それでも、運転手さんの解説によると、町が1億円かけて、家を修復したりす るようになったという。
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「じゃあ、町はここを観光地にする気になったということですね?」 「いや。まあ。うーーん。あははは!」 運転手さんは、願望と困難の入り混じった反応をしていた。 でも、お寺もやたらと多いし、この古い町並みを本気で整備したら、きれいな 小京都になるはずだ。 もったいない。
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午後2時。銀山公園へ。 突然、観光地に舞い降りたみたいだ。 大型観光バスが2台、停車していた。 生野銀山跡記念館がぽつーん!と、を予想していただけに、この公園の広さに は、ちょっとびっくり。 入場料も、900円と高い。 高いわけだ。 鉱山資料館に、吹屋資料館、生野鉱山館、ジュエリーショップ、「但馬牛ステ ーキ丼をどうぞ!」という看板のかかったビーフレストラン「マロニエ」に、こ の銀山公園のメインである、観光坑道がある。
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この観光坑道がすごかった。 「金香瀬(かながせ)坑」といって、銀山隆盛の歴史をいまに伝えるというか ら、古い坑道を利用した作り物なんだろう。 ゼロから作るのは大変だし。 狭い坑道を進むと、天井からぽたぽた水が滴って来ていて、コンクリートの床 は、びちょびちょ。 最初のうちは、この水の雰囲気は演出だと思っていたら、行けども、行けども、 水が滴り落ちている。 水が落ちているコンクリートの床には、雨だれが石をうがつように、穴が開い ている。 しかも、寒い。 エアコンが入っている程度の寒いなんてもんじゃない。 ここにずっと立ち止まっていたら、絶対風邪を引くくらい寒い。 だから、必死に歩くしかない。 真っ暗な坑道を進むと、センサーが作動して、灯りがつくようになっている。 ダイナマイトが、どーーーん!と鳴るような仕掛けもある。 巨大な銀の引き上げ機械も、近づくと、うぃーーーん!と動き出す。 よく出来た仕掛けだと思うけど、坑道は長い。 この狭い坑道はいったいどこまで続くんだ? 私は、閉所恐怖症でもあるから、このまま坑道が延々続くのは、ちょっと困 る。 規模が大きいから、入場料900円なんだろうけど、もうへばって来た よ。 マネキン人形をつかって、採掘当時の銀山を再現してあるんだけど、いちいち のんびり見ていたら、寒い。 リアルな顔の人形もあれば、潰れたデパートのマネキンの顔をもらって来て、 くっつけただけ?というような人形もある。
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ええっ!? この坑道は、1キロメートルもあるの? 1キロメートルですよ。1キロメートル! わっはっは。途中で、ここで半分まで来たことを示す地図があったけど、この 先も進まないと、戻れないの? 行くしかないじゃないか。 まいったなあ!
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午後2時37分。坑道からの脱出に成功! パンフレットに載っていた所要時間40分? たしかに30分ぐらいずっと歩 いていた。どうりで、膝ががくがくなわけだ。 お土産屋さんで、からみ飴という、銀を産出していたときに出る銀滓(からみ)、 カスのようなものを模した飴が珍しかったので買う。
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食べたら、ザラメが表面にまぶしてあって、痛い。 でもおいしかった。
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銀山公園の入り口のトロリー電車に寄っていく。 鉱山でつかっていた電気機関車だ。
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午後3時。国道132号線を走っていると、話好きの運転手さんが「ここは、 おせんべいで有名な播磨屋さんといいましてな…」。 「えっ? 播磨屋さん?」 「はあ、社長さんが、けったいな人で…」 「運転手さん、すみません、ちょっと寄ってください!」 「はあ、ええですよ!」 「播磨屋本店は、ここだったのかあ!」 播磨屋さんというのは、通販でおせんべいを売り出して、知る人ぞ知る大人気 商品になっているおせんべい屋さんだ。 うちもよく通販で取り寄せている。 東京だと、虎の門にだけ、直売店がある。 たまにこのお店は行く。 最近、京都にもできたけど、まだ営業は開始していない。 通販中心だから、販売しているお店は少ないのだ。 ここのおせんべいは、本当においしい。 軽くて、さくさくで、お醤油がほんのり甘い。 一度食べだすと、止まらなくなる。 このあたりに、播磨屋の本店があるというのは、通販したときのパンフレット に入っていたので、知っていたけど、ここだったのか。 2年前か、3年前に、ヤサカタクシーの宮本さんと出石(いずし)に行ったと きに、ずいぶん探し回ったんだけど、とうとう見つからなかった。 見つかるわけないよ。 看板が、まったくないんだもん。 駐車場があるだけで、生垣が防風林のように立っている。
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「ここです!」と、運転手さんに言われても、「どこです?」「どこ?」と探し 回ったほどだから、ヤサカタクシーの宮本さんが気づかなかったのも無理はない。 お店でおせんべいを販売していたけど、東京虎の門のお店とまったくおなじレ イアウト、おなじ商品だった。 もうひとつ食べられる場所もあって、銀山そばとか、ぜんざいとかメニューに あったので、これ以上、運転手さんを待たしておくのも、悪いので、今度にしよ う。また出石(いずし)に行くことがあるだろう。 そのときに、寄ろう。
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午後3時。道の駅「あさご」に寄る。
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「村おこしセンター」と看板にあるけど、ほとんど雑貨屋。 どうも道の駅は、充実しているお店も多いけど、道の駅を名乗らないでよとい うお店も多い。 いまや日本じゅうに、600駅以上あるらしいから、いいかげんなお店も増え てきているのだろう。
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生野銀山の観光坑道を歩いた疲れがドッと出て来た。 もう、道の駅には寄らなくていいと、運転手さんに伝えて、私は寝る。 沿道の景色も、国道9号線に入って、出石の行き帰りに何度も見ている道にな ったからだ。 午後4時30分。福知山駅に着く。
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古くは、明智光秀が居城していたことで、有名なお城だ。 お城に登る体力など、これっぽっちも残っていないので、駅の売店で、お土産 品を物色して、喫茶店でコーヒーを飲んで、列車を待つ。 改札口を通ると、1番線の先に、小さなプレハブ住宅のようなものがあって、 「北近畿タンゴ鉄道宮福(みやふく)線・福知山駅」とある。
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鬼の大江駅を通って、天橋立の近くの丹後の宮津(みやづ)駅まで行くローカ ル線の始発駅は、こんなところにあったのかあ! 1両編成の電車が黙って、発車して行った。 旅情だ…。 午後5時17分。福知山駅から、京都行き、きのさき10号に乗車。
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これでもう、この列車に乗っていれば、京都まで連れて行ってくれる。 生野銀山のあと、生野駅まで戻って、播但線を待って、和田山(わだやま)駅 まで行って、そこから山陰本線に乗ったら、京都に着くのは何時ごろになったこ とだろう。 乗車後、本を読み始めるが、すぐ熟睡。 午後6時38分。京都駅に着く。 京都駅の山陰本線のホームは改札口までが、遠い。 携帯メールしておいたので、ヤサカタクシーの宮本さんが迎えに来てくれてい る。携帯電話は本当に便利だ。 到着時間を送るだけでいい。もちろん、送信するのは、嫁だが。 最近、私はメールを送ることが少なくなって来ているので、だいぶ下手になっ て来ている。 午後7時。ヤサカタクシーの宮本さん行きつけのラーメン屋さん「異人館」へ。
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ジャージャー麺。ジャージャー麺といえば、盛岡だ。 そろそろ北に行きたくなって来ているな。 旅行から帰って来たばかりで、次の旅行先を考えるなっ、だ。 午後8時。帰宅。 よく負けるプロ野球団の見事な負けっぷりを見て、旅の疲れを癒す…わけがな い。 生野銀山は、旅行して損のない町だと思うけど、観光坑道は途中で引き返した ほうがいいかも。 疲れた、ほんとに。
-(c)2003/SAKUMA-