5月22日(木)

「いつも奥さんといっしょに旅行していて、いいですね!」と言われる。

 いいのは、私だけで、嫁は大変だ。
 まだまだ手足が不自由な私の面倒を見ることが多く、荷物はぜんぶ持ってもら
っている。階段を登るときは、後ろを歩き、階段を下りるときは、前を歩く。私
が転げ落ちてくるのを止めないといけない。
 電話は出来ても、電話をしながらメモが出来ないので、ほとんどの電話は嫁が
受けるようにしていて、私の携帯番号を知っている人は、20人もいない。

 午前10時。『桃太郎電鉄12(仮)〜地方編』のテスト・プレイ。
 デバック・ステーションを送ってもらったので、京都にいても、テスト・プレ
イが出来るようになった。
 おかげで、『全国編』は、40年目に突入。
 えんま社長が、待ちに待った農林物件をキングボンビーに捨てられたから、ら
いじん社長と、全国の農林物件を奪い合いだ。

 午前11時30分。『ダービースタリオン』の伝道師として知られる成沢大輔
くんが、京都の仕事場に来る。
 昨日、任天堂の仕事で京都に来ていたそうだ。

 午前11時45分。私、嫁、成沢大輔くんの3人で、麩屋町夷川の「はふう」
へ。成沢大輔くんが、ここのハンバーグを食べたかったとリクエスト。
 たしかに、いまのところハンバーグ部門の1位は、この「はふう」のハンバー
グだと思う。オーソドックスなんだけど、味わい深い。

 私は、かつサンド。  パンの倍くらい分厚いとんかつは、右手でしっかり押さえて食べないと、にゅ いっと、とんかつが、2枚のパンから飛び出てしまう。  濃厚な味だ。鼻腔を膨らませ、はふう、はふう、言いながら食べる。  単品でコーヒーを注文すると、何も言わなくても、かつサンドといっしょに出 してくれる心遣いが、さりげなく素晴らしい。  コーヒーとまた、このかつサンドが合うだ!  食後、成沢大輔くんが、「きょうは、ほけ〜っ!と京都を楽しみたい」という ので、寺町の骨董街をだらだら歩く。  ただでさえ、骨董品屋さんが点在していた寺町通りの京都御所寄りだけど、と うとう何件もの骨董品屋さんが集まるビルが出来ていた。  骨董品屋さんの秋葉原だな、こりゃ。  わずか5センチほどの根付(ねつけ)が、25万円もしたりする。 「値段つけるとき、楽しそうだなあ!」  午後12時30分。寺町の「一保(いっぽう)堂茶舗」で休む。  創業は、享保年間(1717年)。  1717年といったら、暴れん坊将軍徳川吉宗と、大岡越前守の時代だ。  赤穂浪士は、もうちょっと前。  気が遠くなるような老舗だ。  お店に一歩入ると、その老舗の威厳たっぷりの内装に、圧倒される。  ひとつの企業が続けられるのは、30年が限界といわれるのに、280年を過 ぎてなお、おいしいお茶のお店として君臨しているのだから、何もいえない。も はや江戸時代よりも長いのだから。

 店内にある喫茶室「嘉木(かぼく)」へ。  私と嫁は、抹茶セット。

 成沢大輔くんは、玉露セット。  お店の人に、神妙な面持ちで、玉露の入れ方を教えてもらう。

「茶葉を入れて、45秒、45秒、45秒たったら、あれ? 何か間違えたみた いだぞ! イヒヒヒヒ!」  成沢大輔くん、楽しそうだ。  寺町の「村上開新堂」へ。 「オレンジゼリーありますか?」 「ありますよ!」 「4つあります?」 「ちょうど4つで、最後です!」 「ラッキー!」

 この「村上開新堂」のオレンジゼリーは、いつも午前中であっという間に売り 切れてしまう。  創業は、明治37(1904)。  明治時代だと「へ〜〜〜、けっこう新しいなあ!」と思ってしまうのが、京都 だけど、鹿鳴館の時代と聞くと、うめくしかない。京都最古の洋菓子屋さん。  紀州みかんの果汁をゼラチンで固めたもの。  昔は「好事福盧(こうずぶくろ)」という名前だったけど、さすがにオレンジゼ リーと名前を変えたのかな。

 木屋町二条から、木屋町を南へ。  高瀬舟のあたりを散歩。

 島津製作所の記念館の前を通る。 「ノーベル賞の田中さんの島津製作所だっ!」と、成沢大輔くんが声を上げる。  記念館の前に、京都新聞の切り抜きが貼ってあった。  田中耕一さんが、ノーベル賞を取ったときの記事だ。  ただ新聞の見出し文字が「島津製の田中耕一さん」 「はっはっは。京都だと、『島津製』だけで、島津製作所とわかるから略してい るんだろうけど、『島津製の田中耕一さん』と書いてあると、島津製作所が作っ たロボットみたいに思えちゃうな!」と、成沢大輔くんが笑う。  そのうち、アシモみたいな田中さんロボットが本当にできたりして。

 きょうの成沢大輔くんは、ことのほか機嫌がいい。  何でも昨年の暮れ、修羅場を乗り越えて、気持ちに余裕が出てきたからのよう だ。余裕は無理してでも、作らないとね。  午後2時。京都ホテルの裏の喫茶店「ALZA(あるざ)」へ。  コーヒーを飲みながら、ヤサカタクシーの宮本さんを待つ。  毎度おなじみ京都のカリスマ運転手だ。  午後2時30分。最近、京都に来たら、必ず行くことにしている出町柳駅前の パン屋さん「柳月堂」へ。  ここのパンは、見た目は、ただのパンで、とてもじゃないが、おいしさがまっ たく想像できない。  でも桁外れにおいしいのだ。  だいたいこの時間に、焼きあがるので、焼き立てのパンを買って、その場でひ とつ食べることにしている。  きょうは、4人で、ぶどうパンを食べる。

「うう〜っ! しっとりとして、おいしいパンだ! さくまサンが最近、カスカ ードのくるみパンよりも、ここのパンばかり買っている理由がわかった!」  もはや、京都に来たときは、ここに寄るのが、仕事だ。  京都に私が来ているとき、午後2時30分にこのパン屋さんの前で待ち伏せさ れたら、間違いなく一網打尽だ。    午後4時。京都の南、大山崎にある「アサヒビール大山崎山荘美術館」へ。

 ここは、豊臣秀吉が明智光秀と戦って、この山を奪い合い、豊臣秀吉が勝った ことから、「ここが天王山!」と勝負事でよく言われる由来になった、天王山だ。  見るからに、映画の殺人事件の舞台になりそうな趣の山荘だ。  お金持ちが集まって、パーティが開かれて、次々に殺されていく。  けなしているのではなく、そんな感じの素晴らしい庭に、荘厳な洋館だ。

 きょうは、「西洋マグカップ展」をやっていた。  酔っ払い大王の成沢大輔くんが、狂喜しながら「やっぱりここで、ビールを飲 むでしょう!」と叫んで、京都が一望できるベランダで、ビールを飲む。 「シバオ(柴尾英令くん)〜〜〜! うまいぞ〜〜〜!」

 本当に気持ちのいい山荘だ。  東海道本線が走っているのが、遠くに見える。  こんなところに1日じゅう座っていたら、肩こりもまたたくまに取れそうだ。  こんな家が欲しいかといえば、年間の維持費だけで、億単位になりそうなの で、考えもしない。しかもこの山荘まで、登って来たら、私は死んでしまうよ。  そのくらい急峻な山道を登って来ないとたどり着けない。  やっとの思いで、山荘に着いて、殺されちゃうんだから、嫌だよなあ。  …って、まだ江戸川乱歩の推理小説に出てくる山荘だと思い込んでいる。

 地下に新館があって、行ってみると、クロード・チアリじゃなくて、クロー ド・モネの「睡蓮(すいれん)」が飾ってある。  コンクリート打ちっぱなしのいかにも、安藤忠雄さん設計の新館だけど、この モネの「睡蓮」のほかに、わずか4枚しか絵を飾っていない。  何たる贅沢。  まだその贅沢を素晴らしいと思える感性は、私にはないな。

 美術館を見たあと、天王山の中腹で、「村上開新堂」のオレンジゼリーを4人 で食べる。ぷるるん、あっさり、くどくない味だ。  やっぱり、「村上開新堂」のオレンジゼリーはうまいっ!

 アプリコット・クッキーもおいしかった。  おっと、いつのまにそんなもの食べた?  午後6時。私、嫁、成沢大輔くんの3人で、御池木屋町の和食料理屋さん「忘 吾(ぼあ)」へ。 「おひさしぶりです〜!」 「ひさしぶり〜!」 「最近、さくまサンのインターネット見て来るお客さん多いんですよ!」  むふう。だんだんこの日記のせいで、どのお店でも素性がバレてしまってい る。 まあ、バレて困るような商売ではないけど、たまにはふつうのサラリーマ ンのふりをして、楽しみたい…って、その格好からして、サラリーマンのわけな いし、いっしょに来る人に、サラリーマン風の人は、ほとんどいない。  ひさしぶりの「忘吾(ぼあ)」は、やっぱりおいしい。  お椀の御吸い物が、繊細な味で、またご主人の腕が一段と上がったような気が した。ここと、原宿の家の近所の「樋口」は、似た年齢だと思うので、密かにど ちらのお店が成長しつづけるか、楽しみにしている。  横浜ベイスターズの村田選手と、古木選手のどっちが、将来大成するのかを楽 しみにしているようなものだ。  またたとえ話が、横浜ベイスターズかい!

 きょうは、クジラの尾の身がおいしかったなあ。 「太地(たいじ)のクジラです」 「あれ。昨日、太地(たいじ)の近くの紀伊半島にいたんですよ」

 豆ごはんも、おしかった。  黒蜜のシャーベットもうまし。

 成沢大輔くんにごちそうになった。 「今年は、何度も京都に仕事に来るようになりそうですから、さくまサン、ぜひ また京都で食事しましょう!」 「成沢大輔くん、そのカードを私がもっとつかわせてあげるよ」 「うへ〜〜〜ッ!」  午後9時。成沢大輔くんは、京都駅へ。  私と嫁は、京都のマンションへ。  お腹が満腹で苦しい。  間違いなく、太ったなあ。  がびーーーん! 河原町三条の交差点にあった、不二家が「かっぱ寿司」にな ってる〜!  ここの不二家で、いつも期間限定グッズをチェックしていたのに〜!  真面目に、大ショ〜〜〜ック!!!

 

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