4月26日(土) 午前9時30分。曇り空ながら、ようやく雨があがった。 「史上空前の食べっぱなし旅行」最終日〜〜〜! きょうもまたたくさん食べるので、とうとう朝食を遠慮して、「雅樂倶(がら く)」をチェックアウトすることに。 「雅樂倶(がらく)」の料理がまずいのではなく、おいしいからたくさん食べる と、昨日のように苦しむので、やめただけ。 「雅樂倶(がらく)」は、まるで自分の家のようにすごせる素晴らしいホテルだ。 こんなマンションが東京の都心にあったら、絶対ほしいけど、たぶん億ション いや、2億円か3億円だろうなあ。 だからこそ、ここまで来る価値があるんだろうなあ。 富山市内へ。 きょうはまず「ます寿し」の名店を探す旅から。 いろんな雑誌やインターネットの評判を総合して、「なみき寿し」と、「今井 商店」を選んだ。 「なみき寿し」の場所がわからなくて、迷う。 タクシーの運転手さんが何度も、無線で連絡して、お店の位置を聞いてくれる のだが、言うとおりのところに行くと、何もない。 しきりに運転手さん、「センターに、嘘を教えられよった!」と、ぼやく。 国道沿いに「なみき寿し」の看板があったんだけど、その表示が「すぐそこを 右折」とだけしかない。 「すぐそこ」の「すぐ」はどのくらいなんだ。 とうとうおおよその目星をつけて、あとは住所から割り出して、たどり着く。 「なみき寿し」は、まるでさぬきうどんの製麺所のようなお店で、製造だけで、 販売はしていないのかとおもった。「一重はもう売り切れで、二重もちょっとしかないんですよ〜! ごめんなさい ね〜! 100円おまけしておくからねえ!」 「ますの寿しは、押し寿司だから、食べ頃は、夕方くらいがいいですよ!」 ずいぶん、親切。 総じて、富山県の人たちは、親切な人ばかりだ。 一重、二重というのは、ますの寿しの押し寿司が、一段か、二段重ねかという こと。 少量食べたい私と嫁にとって二重では量が多すぎるのだが、無いのでは仕方が 無い。
みんな売約済み ちなみに、一重は、1100円。 二重は、2100円。 引き続き、「今井商店」へ。 こっちのお店は、門構えが立派。 ガラス越しに作っているところが見える。 でもお店に入ったとたん、ちょうど作るのが終わってしまった。
おや。ここでも一重、1100円、二重2100円の木の板の値段表がぶら下 がっている。さっきのお店とおなじ板だ。市内全部この板をつかっているそう だ。 市内でのますの寿しの価格もほぼ統一されているらしい。 こっちのお店では、一重を買う。 ついでにホタルイカの甘露煮も、衝動買いする。 あまりにも私と嫁が、熱心にますの寿しを買っているので、運転手さんが気を つかってくれて、ますの寿しのお店が5件くらい密集している場所があると教え てくれた。 せっかくなので、そこまで連れて行ってもらう。 もうこれ以上、買えないけど、ますの寿し屋ストリートというのは、知ってお きたい。 別に富山では、「ますの寿し屋ストリート」とは呼んでいないようだが…。 たしかに桜の名所の松川のほとりに、「せきの屋」、「高田屋」、「川上のま す寿し」、「前留の鱒の早寿し」といった看板が林立している。 もっとお店が増えたら、ますの寿し街となって、おもしろくなりそうだ。 桜の季節に、駅弁売りみたいな人たちが出現して、ますの寿しを売る競争でも したら、さらに楽しそうだ。
午前10時20分。富山駅へ。
しまった。ますの寿しを買う旅に熱中していたばかりに、都合のいい特急サン ダーバード号に乗り遅れた。 次のサンダーバードは、1時間後だ。 1時間後は、ちと困る。 きょうの夜には京都まで帰りたいのだ。 ええい! 最寄りの駅でカードだ! タクシーで、高岡駅に向かう。 サンダーバードは、時速130キロの立派な特急だけど、1時間に1本では、 タクシーのほうが早い。 鉄道を礼賛し、鉄道の素晴らしさを伝えたい『桃太郎電鉄』の作者としては悲 しい現実。 国道44号線をのんびり走る。 天気がいいのはいいねえ。 やっと北陸地方のシンボルである立山(たてやま)連峰を、車から見ることがで きたよ。まさか3日間連続で、雨が降ると思わなかったもんなあ!
あれ? 高岡のほうは、まだ桜が咲いているぞ! 富山のほうが、すっかり桜が散ってしまっていて、新芽が出ていたのに。 高岡市のほうが、富山市より寒いのだろうか?
午前11時。高岡駅に着く。 やっぱりタクシーのほうが圧倒的に早い。 1時間後の特急サンダーバードは、まだ富山駅にも着いていない。 さて、高岡駅から、氷見(ひみ)線というローカル線に乗りたいのだが、発車時 間が午前11時27分。ほぼ30分後。 これも困ったことに、運転手さんいわく、20分もあれば目的地の氷見(ひみ) 駅まで着いてしまうそうだ。 しかも高岡から、氷見(ひみ)駅までは、電車で30分かかるという。 またしても、電車を待っている間に着いてしまうということか。 きょうは時間を1分1秒でもいいから縮めて、時間を捻出したいので、高岡駅 のコインロッカーに荷物を置いて、国道160号線を、氷見(ひみ)駅に向かって 走ってもらう。 氷見(ひみ)線に乗るのは、実は悲願だったのだ。 3年前、能登半島を旅したときにも、七尾駅からわざわざこの氷見(ひみ)駅に 寄ったんだけど、乗れなくて悔しい思いをした。 きょうは是非とも、その雪辱戦をしたい。 いや。まだ氷見駅から、高岡駅まで電車で戻るチャンスが残っている。 氷見(ひみ)駅までは、電車だと、「>」の字のように右回りに海岸線を走るの で、時間がかかるそうだ。 「三角形の一辺は、他の二辺よりも短い」ってやつだな。 間違ってないか? 算数なんて、40年前の記憶だからほとんど忘れているぞ。 氷見市に近づくにつれて、竹林が増えてきた。 「竹の子の里」という資料がうそではないことを実感できた。 氷見牛っていうのも、名物? あまり聞いたことがないなあ。 牛肉についてはうるさいよ。 午前11時30分。氷見駅に着く。
見覚えのある妙な色の小さな駅だ。 たしかに早く着いた。 富山駅から乗った運転手さんとは、ここでお別れ。 なかなかいい運転手さんだったので、名刺をもらっておく。 旅先のいい運転手さんは貴重だ。 愛想の悪い運転手さんにぶつかると、絶景も美しく見えなくなる。 駅の観光案内所で、おいしい氷見うどんのお店を紹介してもらう。 タウン・マップももらって、途中、ちょっと寄ってみたいところもあるので、 歩き出す。 しまった。地方のタウン・マップは、近そうに絵が書いてあっても、異様に広 いエリアが描かれているジンクスを忘れていた。 行けども、行けども、商店街を抜けられない。 けっこうここの商店街は長い。
しかも現在も営業中のお店も多い。 いまこういう地方都市は、まず郊外店の大きなスーパーに進出されて、シャッ ターを下ろしたままのゴーストタウンと化すのだが、この町はどのお店も開いて いる。決して元気な商店街とはとても言えないが。 妙に、着物屋さんが多い。 何でこんな終着駅の町に、着物屋さんが多いのだろう。 午後12時。商店街を抜けたところの橋に、若い人が、4人くらい川を見てい る。鯉でも放し飼いにでもしているのだろうか。 というより、商店街で、まったく人が歩いているのを見かけなかったので、人 間に出会ったことのほうが、新鮮。 そういえば、漫画家の藤子不二雄Aさんは、ここ氷見市の生まれだそうだ。 名著『まんが道』を読んだかぎりでは、高岡市の生まれとばかり思っていた。 何でもが『忍者ハットリくん』の石像がこの辺にあるとかないとか言っていた ので、この橋にあるのかもしれない。 でも見当たらない。
橋のたもとにスチール製の塔のようなものがあって、子どもたちが駆け上った りして遊んでいる。 不思議な遊具だなあ。 この辺にたぶん石像があるんだろうなあ。 それにしても湊川に架かっている、塔とおなじスチール製の筒のようなものは いったい何だろう? やけに大きい。 ええっ? 「虹の橋」? このスチール製の筒のようなものが、「虹の橋」なの? からくり時計? からくり時計って何だ? どこだ? 「あっ、12時になったよ、○○ちゃん! 始まるよ!」 隣りにいたおばちゃんが、子どもに向かって声をかけている。 たしかに、どんな音か忘れたが、時を告げる鐘だか、サイレンが鳴ったような 気がする。
すると、川に架かっていたスチール製の筒から、急に勢いよく「シュ〜〜〜〜 〜〜ッ!」と霧が噴出し始めた。 ひえええええっ! 風向きのせいで、この霧はこっちに向かって飛んでくる。 「きゃああああ、ははははは〜〜〜!」 子どもたちが、きゃあきゃあ霧を浴びて、喜んでいる。 こっちはびしょ濡れだよ! からくり時計とは、このことだったのか。 けっこう迷惑なもんだ…えっ、えっ? えっ? 音楽が流れてきたぞ! この音楽は…! あっ! 『忍者ハットリくん』のメロディだ! あっ、あっ、あっ! ハットリくんのキャラも出て来た! そうか。この迷惑な霧は、忍者の煙のイメージなのか! はっはっは。おもしろい趣向だ!
あとで調べてわかったんだけど、この「虹の橋」は、からくり時計になってい て、1時間おきに5分間の人形ショーを繰り広げるそうだ。 何でも藤子不二雄Aさんのキャラが、14体も入っていて、入れ替わるそうだ。 ずいぶん豪勢で、お金のかかったモニュメントだなあ! 故郷っていいねえ。 こういうものを作ってもらえて。 藤子不二雄ファンなら、一度は訪れないといけない場所ですなあ、ここは。 からくり時計はすぐ終わったので、氷見(ひみ)駅の観光案内所で教えてもらっ た氷見うどんのお店へ。 「しげはま」というお店だ。
氷見うどんは、江戸時代から続く、半乾燥の手延べうどんのことだ。 手で引っ張るので、麺の太さにばらつきがある。 そのばらつきも、1センチくらいの太さもあれば、2ミリくらいの太さの部分 もある。これだけ振り幅の大きい麺というのは、珍しい。 「しげはま」では、氷見うどんを茹でるのに、20分ほどかかるというので、お 刺身などを注文して待つ。 お刺身の盛り合わせが来た。 氷見といえば、寒ブリが有名。 もう寒ブリの時期ではないけど、ブリの刺身がおいしい! 甘エビも、うまい! どのお刺身も甘く感じたのは、お醤油のせいだな。 このお醤油、甘口醤油と呼ばれるお醤油よりもはるかに甘い。ふつうのお醤油 に何か加えているのかもしれない。 ホタルイカのコブ焼きというおもしろいものがメニューにあったので、食べる。 昆布の上にホタルイカを乗せて焼いたものだ。 昆布の焦げた感じがいいなあ。
氷見うどんが来た。 温かいのと、冷たいのとあったので、冷たいざるにしてもらった。 麺の太さがバラバラなので、不思議な食感だ。 お店の人にちょっと気になっていたことがあったので聞いてみる。 「最近、氷見うどんと、『糸』がついた名前のものとがありますよね! 氷見糸 うどんと氷見うどんは、どう違うんですか?」 「昔は、高岡屋さんが、氷見うどんを作っていたんですよ! ところがあとから 来た人が、氷見うどんの名前で登録商標にしてしまったんですよ! それで仕方なく、氷見糸うどんとかほかの名前をつかうしかなくなってしまっ たんです!」 「世の中には悪いやつがいるもんだなあ!」 「いまも裁判中なんですよ!」」 登録商標というのは、こういう風に前から作っている人たちは職人肌だから、 味のほうが大事で、名前なんかにこだわらない人たちが多いから、職人さんたち の気持ちを踏みにじる場合が多い。 TVアニメなどでも、漫画で連載して題名が、すでに登録されていて、つかえ なくなるというトラブルは決して珍しいことではない。 おっ! 時刻はまだ午後12時35分だ。 ひょっとしたら、もう1ヶ所、見たいところまで行けるかも。 お店でタクシーを呼んでもらう。 無謀だが、もう1ヶ所、「道の駅」を見て、午後1時16分に、氷見駅から発 車する電車に乗ろうと思っているのだ! 無茶かなあ? ここからひやひや、ドキドキのタイム・アタック開始だ! 午後12時45分。「道の駅・氷見」、シッシャーマンズワーフ海鮮館へ。 タクシーの運転手さんに「10分ほどで戻って来ますので、待っていてくださ い!」といって、「道の駅・氷見」へ急ぐ。 道の駅「氷見」の前には、「ひみぼうず」という藤子不二雄Aさんデザインの 像が建っていた。
ゆっっくり見ているヒマはなく、市場に行って、変わった名産品を探す。 すでに知っている名産品ばかりなので、安心する。 もし知らないものがあったら、買い求めたり、買って東京に宅急便しないとい けなくなるので、電車の発車時間に間に合わなくなる。
嫁が、市場のおばちゃんに「これ、出来たてだから、おいしいよ〜!」と勧め られて、イカ焼き 300円を買わされていた。 その場で食べる! うっ、うっ、うまいっ! こ、こ、これは死ぬほどうまいっ! この味、大好きだ! 私のイカ好きは、この日記を読んでいる人には、有名だけど、過去に食べたど のイカ焼きよりもおいしい!
イカ焼きといえば、大阪のイカ焼きが有名だけど、あれより片栗粉が少ない。 少ないというより、片栗粉を水で溶いて、刷毛で塗ったような薄さなのだ。 ところがその薄さが、香ばしくて、おいしい! 大きさがまたすごい! 急いでいたので、写真をしっかり取っていないんだけど、イカのまるまる姿焼 きなのだ。 あわてて、タクシーに戻り、駅をめざしたのだが、アクション映画で、カー・ チェイスを繰り広げている車がUターンするように、道の駅に戻って「イカ焼き、 もう1枚!」と叫びたいくらいだ!
午後1時5分。氷見(ひみ)駅へ! お見事! 発車10分前に駅に着いた!
駅の売店で、ぎんなん餅を買う。 ほのかに、ぎんなんの匂いがする牛皮の和菓子だ。
午後1時16分。氷見駅から、高岡行きの電車に乗車。 氷見線の列車は、2両編成のワインレッド色した重厚な気動車だった。 氷見駅からの乗客はやたらと多くて、座席はしっかり埋まった。 土曜日のせいかなあ。 これだけ乗客が多いなら、もっと本数を増やしてくれよ!
氷見駅を発車すると、左側に海岸が見えてくる。 有磯海(ありそうみ)だ。 そういえば、松尾芭蕉は『奥の細道』で、高岡に宿泊して、この海を句に詠ん だんだっけ! 氷見駅から二番目の駅の名前は、「雨晴」駅という。 「雨晴」と書いて、「あまはらし」と読む。 いい名前でしょ?
万葉集にも歌われた古い海岸で、いまは海水浴場になっている。 海はエメラルド色で、まるで北海道の海岸線を走っているような気分になる。 いい眺めだ。海岸沿いを走る電車というのは、バスや自家用車では絶対味わえな い独特の魅力がある。
「雨晴(あまはらし)」という名前の由来はいくつかあって、いちばん有名なのが、 義経伝説。 源義経が兄の源頼朝から逃れて奥州へ行く途中、この地で雨に会い、岩屋で雨 が晴れるまで待ったことから来ているそうで、義経岩というものまである。 ますますいい名前に思えてくるね。 また武蔵坊弁慶が刀を海に投げたら、雨が止んだことが由来という説もあるそ うだ。 雨晴駅を出て、ふたつくらい駅を行くと、氷見線は海岸沿いから、内陸に入っ てしまう。せっかくの絶景はあっという間に終了だ。 しかも途中から、大きなパルプ工場のまんなかを走り、ちょっと景観として は、無粋というか、溶解液というか、何やら臭い匂いまで漂って来て、海岸線の 美しい景色が薄らいで行く。まいったね。 午後1時46分。終点高岡駅に着く。 跨線橋があるようなホームではなく、駅の隅っこに追いやられたような位置に ホームがあるのが、妙に氷見線にふさわしい気がする。
さて、これから今回の取材旅行の最大の目的地をめざす。 「史上空前の食べっぱなし旅行」と銘打っているが、これから行く先は食べ物の場 所ではない。 富山県のイメージといえば? チューリップ? その通り! 富山県に来ているのに、まだチューリップが出てきていないでしょ? 4月20日から、富山県砺波(となみし)市で、チューリップ・フェアが開催され ている。富山に着いたら、最初にこのチューリップ・フェアをめざすつもりだった んだけど、連日の雨なので、きょうまで待った。
先日、長野県上田市まで、杏(あんず)を見に行ったけど、今年のもうひとつの旅 のテーマである「花(チューリップ)」が、ようやく登場だ。 それでは、チューリップ園をめざそう! 高岡駅から、JR城端(じょうはな)線に乗って、砺波(となみ)駅をめざす! めざす! めざす! めざす! めざす! めざす! めざす! めざせないよ〜〜〜〜〜〜〜〜〜! また時間の計算だ。 私と嫁は、現在午後1時46分に、高岡駅に立っている。 高岡駅から、砺波方面に向かう城端(じょうはな)線の発車時間が、なんと! 午後2時16分なんだよ〜〜〜! またしても、1時間に1本しか走らないローカル線だったのだあ! たのむよ〜〜〜! まあ、30分後に発車なんだから、ガマンしないといけないんだけど、実は私 と嫁は、高岡駅午後4時20分発車のサンダーバード40号のキップをすでに買 っているのだ。 時刻表のトリックのように、推測してみる。 午後2時16分に電車に乗って、砺波駅へ。 駅員さんに聞くと、30分くらいかかるそうだ。 午後2時46分。 駅からチューリップ園まで、15分以上歩くらしい。 もうへたり切っている私の足では、30分はかかるぞ。 午後3時15分。 チューリップ園を、最低でも30分は見るだろう。 1時間見たら、この時間で、午後4時15分。 サンダーバード40号の発車時間まで、あと5分だ。 乗れない! ええい! どうせまたタクシーだと早いのだろう! 高岡駅前から、砺波(となみ)のチューリップ園をめざす。 女性の運転手だ。 高岡のタクシーの運転手さんは、女性の人が多くて、私が乗ったタクシーの後 ろ3台もぜんぶ女性のドライバーだった。 砺波(となみ)に向かう間、女性の運転手さんから、いろいろ高岡について聞く。 「高岡というと、必ず名産品に『高岡銅器』の名前が出て来ますよね!」 「はい。高岡は銅器の生産では、全国の90%を占めています!」 「それは知っているのですが、高岡銅器は何につかわれるのですか?」 「何にといわれますと?」 「どうもお土産品屋さんで見ると、花瓶とか、器とか、地味なものにしかつかわ れていなくて、高岡銅器を見る機会が少ないように思うのですよ!」 「高岡銅器が、いちばんつかわれているのは、梵鐘(ぼんしょう)です!」 「あっ!」 そうか。お寺の鐘につかわれるから、高岡銅器という名前をふだん見ることが 少ないんだなあ。そういえば推理小説家の内田康夫さんが、高岡を舞台にして書 いた作品のタイトルは『鐘』だった。 うーーーん。聞いてみないとわからないもんだなあ。 午後2時10分。チューリップ園の隣りの「道の駅・砺波(となみ)」に着く。 この時点で、高岡駅の城端線は、まだ高岡駅を発車すらしていない。 「道の駅・砺波(となみ)」で、チューリップをつかったお土産品を取材する。 チューリップ・クッキー、チューリップ饅頭といった、お土産が並ぶ。 チューリップの形をした小物入れとか、壁掛けとかあるんだけど、どうもチュ ーリップをつかったものって、どれもデザインが古くて、野暮ったいよね。 チューリップをつかったチューリップ染めはいいんだけど、何かにチューリッ プをデザイン化してつかうと、とたんに幼稚っぽくなる。 ちょっとめぼしい物が見つからなくて、残念。
そのままチューリップ園へ。 ゴールデン・ウィークの最初の土曜日だけあって、大型観光バスが次々に発着 している。たくさんの人を吐き出したり、ぐったり疲れた顔の人たちを運んで行 く。 チューリップ園。
なんと表現したらいいんだろう。 100万本のチューリップが植わっているそうだ。 350品種のチューリップがあるそうだ。 間違いではないだろう。 広大な土地のどこにでもチューリップは植わっている。 赤、白、黄色、紫、ピンク、黒…、まるでチューリップとは思えないような品 種まである。
真夏の芋を洗うような海水浴場のような歌謡曲が、会場に流れている。 チューリップといえば、オランダだから風車もある。 池にぽっかり浮かぶチューリップの浮島もある。 お土産を売っているお店も多い。 ジュースやアイスクリームを売っているスタンドなども多い。 家族連れで来る人が多いんだから、これでもいいような気がする。
でも推理小説で、一度犯人と決まった容疑者を、ベテラン刑事が、どうもその 容疑者を本当の犯人とは思えないように、何かが違う。 私が望んでいたチューリップとは何かが違うような気がするのだ。 「四季彩館(しきさいかん)」の前には、チューリップの球根の形をしたモニュメ ントもある。
横尾忠則さんや田名網敬一さんに強い影響を与えた粟津潔さんの作品だ。 「四季彩館」では、チューリップの出来るまでのパネルが貼ってあり、チューリ ップをつかったお土産品がいっぱい並んでいる。
ポストにもチューリップを抱えた少女像 何だか、釈然としないまま、時間が過ぎていく。 すでに私の足は、まったく上がらないくらいに疲労しきっている。 この広大なチューリップ園を歩いて、もう口を開くのもつらいくらいだ。 帰りたい。 でもこのチューリップ園に対する妙なわだかまりが、晴れない。 うーーん、いったい何だろう。 いままで調べてきた数々の文献を必死に思い出す。 そういえば…。 たしか、城端(じょうはな)線から眺めるチューリップが美しいと、『鉄道の旅』 (講談社)に書いてあったような気がするなあ。 いい考えがひらめいた。 午後2時30分。チューリップ園を出て、タクシーを呼ぶ。 おや、また女性の運転手さんだ。 運転手さんに「JR城端線の砺波(となみ)駅近くの車窓から眺めるチューリッ プがきれいだと聞いたんですけど、出来れば、そのチューリップを見ることがで きるような道を通って、高岡駅まで戻ってもらえませんか?」 「そうですねえ…」 「チューリップを見ることができる道路がないんですか?」 「もしチューリップを見たいのでしたら、畑にたくさん植わっているところがあ るんですけど、そこに寄って行ったら、どうですか?」 「えっ! あっ! 畑!」 そうだ、畑だ。畑だよ! 謎が解けた! 私が望んでいたチューリップは、チューリップ園に作為的に植えられたものよ り、畑に自然に植わっているチューリップが見たかったのだ! まあ、お百姓さんだって、畑に畝を作って人工的に植えているんだけどね。 だいたい、砺波のチューリップ園は、ちょうどゴールデン・ウィークに花が咲 くように、花の上に雪を撒いたりして、開花時期を調整しているんだって。 そういう人工的な仕掛けの匂いがしたんだろうなあ、チューリップ園には。 「どこですか、そこ!」 「トイデ、です!」 「トイレ?」 「いえ、といで!」 「どういう字、書くんですか?」 「戸出(といで)です!」 「はあ…。どこだか知らないけど、とにかくそこに行ってください!」 「そこはチューリップ街道と呼ばれています!」 「チューリップ街道! いい名前だ!」 「チューリップの花が無くなってしまっていることがあるかもしれませんけど、 よろしいですか?」 「えっ?」 チューリップは、球根を売るために、農家の人たちが畑で作るチューリップは、 花が咲くと、すぐ花を取ってしまわないといけないRさしい。 なので、朝見に行ったときには、咲いていても、夕方行くと、農家の人たちが すでに花を取ってしまったあとの場合があるそうだ。 何でもいい。 この人の提案がなければ、そのまま高岡に戻っただけだ。 5分ほど車は走って、戸出(といで)へ! ♪ア〜、ア〜、アアアアアア〜ア、ア〜〜〜! さだまさしサンの『北の国から』を歌っているんだよ。 すごいよ! 見渡すかぎりのチューリップだよ! 畑の畝にびっしりチューリップが植わっているよ! こういうお行儀のいいチューリップが見たかったんだよ〜〜〜い!
ああ! 何て美しいんだろう。 何か、うまい表現をしたいけど、浮かばない。 ただただチューリップの美しさに圧倒されている。 パースペクティブ(透視画)のような構図は、見ているだけで、うっとりだ。
たしかにいまも農家の人たちが、チューリップの花を手でもいでいる。 夕方には、花が無くなっている場合があるというのは、このことだったんだな。 ああ! 心が美しくなって行くようだよ。 チューリップの花言葉は…。 そんなの私が覚えているわけがないじゃないか! ははは。 えっ? チューリップの花言葉は、色によって違うの? こりゃまた失礼いたしましたっと! 午後3時。高岡駅へ。 1時間も前に、高岡駅に戻ってくることが出来た。 高岡駅2Fのステーション・デパートで、お土産品を物色。 ちょっと朽ち果てそうな老朽化したビルだなあ…。 2Fから電車に乗ることができる「JR改集札所」が設置してあった。 キップを持っていれば、ここからホームに行けるんだけど、キップの自動販売 機すらない。たまにこういう駅があるんだけど、ここで発見できるとは思わなか った。
ここから、ホームに入ってみたいけど、まだ荷物をコインロッカーに置いたま まだ。 おお! お土産品売り場で、ますの寿しのミニサイズを発見! これはいい! ますの寿しはおいしいけど、ちょっと量が多すぎると思っていたのだ。 プラスティックのナイフで、ますの寿しをケーキのように切って、食べるのも、 ちょっと面倒といえば、面倒。 このくらいのミニサイズのほうが、お酒飲みの人には、ビールを片手に、ほか のおつまみといっしょに楽しめるような気がする。 ますの寿しミニサイズ・300円を買う。
まだ時間があまったので、駅の隣りの喫茶店で、コーヒーを飲む。 ああ、もう本当に私、動けません。 今回の旅では、ちょっと歩き過ぎた。 日記を読んでりゃ、誰でもわかるって? そうだよねえ! あとちょっとで、「史上空前の食べっぱなし旅行」は、終了だ。 駅の売店に戻って、さらにお土産品を物色。 嫁が「雨晴(あまはらし)」という名前の日本酒を見つけていた。
おや! 佐々成政(さっさ・なりまさ)の黄金弁当という駅弁を売っているの? ずいぶんマニアックな歴史上の人物の名前をつかったお弁当だなあ。 「昨年の大河ドラマ『利家とまつ』にちなんで出来たんですよ!」 「あっ! そうか。佐々成政(さっさ・なりまさ)は、山口祐一郎さんが演じて 最後のほうまで出ていたもんなあ!」 「どうですか、おいいしですよ!」 「すみません。すでに、ますの寿しをたくさん買いすぎちゃったんですよ!」 「あら、それじゃ無理ですね!」 今回の旅で出会った人は、みんな親切でいい人ばかりだった。 いい人に会えると、その町を好きになる。 今回まわった町は、みんな好きになってしまったなあ。 午後4時20分。高岡駅から、大阪行きのサンダーバード40号に乗車。
ゴールデン・ウィークの初日なので、昨日のうちにこのキップを買っておいた んだけど、思ったほど混んでいなかった。 乗車後、「史上空前の食べっぱなし旅行」の最後を飾る、ますの寿しの食べ比 べをする! まずは、ますの寿しのミニサイズから。
惜しい! いい味なのに、お箸がついていない! これではおいしいのに、食べられないではないか。 私たちは、今朝富山市内で、ふたつのますの寿しを買って来ているから、お箸 があるからよかったけど、これはちょっと減点対象だなあ。買ったときにお店の 人が「お箸は要りますか?」と言ってくれるだけで、よかったのに。 あっ! ミニサイズといっしょに、京都ヤサカタクシーの宮本さんのお土産用 にますの寿しを買ったから、お店の人は、お箸がいらないと思ったなあ。 ますの寿しミニサイズの味は、いい! 富山で二番目に買った今井商店のますの寿しを食べる。 あれ? ますの寿しが入っていない? まさか。 いちばん上に乗っているのは、真っ白いご飯だぞ。
ますの寿しは、ふつう丸い樽のいちばん下に、8枚くらいの殺菌用の笹の葉が、 何枚も敷いてあって、その上に、酢飯が乗って、酢で締めた鱒(ます)をご飯が隠 れるほどに、びっしり乗せて、上から押す。 だから、容器を開けたときには、一番最初にサーモンピンクのますが目に飛び 込んでくるはずだ。 昨年まで、ますの寿しのなかでいちばんおいしいと認定している高田屋のます の寿しは、ますがいちばん上だ。 まあ、駅の売店で買ったのではなく、販売店で直接買ったのだから、これでい いのだろう。
プラスティックのナイフでケーキを分けるように切って、今井商店のますの寿 しを食べる。 味は、あっさりしていて、上品。 塩味が強い気もするけど、飽きの来ない味だと思う。 はっきりいって、実においしい。 うーーん。早くも我が家の「ますの寿しランキング」の第1位である高田屋の ますの寿しを脅かす味が登場してしまった。 続いて、富山で道に迷いながら買った「なみき寿し」のほうの、ますの寿しを 食べる。 こっちは濃厚な味だなあ。 こってりしていて、風味がいい。 ダイナミックな味だ。 嫁にいわせると、ドミグラスソースのようなコク味ということらしい。
うーーーん。これまた現在第1位の高田屋のますの寿しを脅かす味だ。 今井商店のますの寿しと、なみき寿しのますの寿しなら、どっちがおいしいだ ろう? ふと、ふたつを比べていたら、ちょうど『桃太郎電鉄』の作曲をお願いしてい る関口和之くんと、池毅(いけたけし)さんの曲調を思い出してしまった。 今井商店の上品で飽きの来ない味は、関口和之くんが作る曲に似ている。 なみき寿しのダイナミックで、重厚な味は、池毅さんが作る曲に似ている。 要するに、甲乙つけがたいとは、このことだ! おっと! 宮路一昭くんをたとえに出さないと、失礼か! 宮路一昭くんは、そうだなあ。 軽やかな曲調からして、はっはっは。 ますの寿しミニサイズだ! 宮路一昭くん、許せ! 私は、現実よりもギャグのおもしろいほうを選択する男だ。 いやあ、ますの寿しといいっても、お店によって、味がずいぶん違うもんなん だなあ! まだまだ、もっとたくさんのお店のますの寿しを食べてみないと、あれこれま すの寿しについて語れる資格がないね!
午後7時6分。京都駅で下車。 はあ! やっと帰って来た〜! ヤサカタクシーの宮本さんは、きょうはタクシーのお仕事がお休みなのに、わ ざわざ自家用車で迎えに来てくれた。 もうしわけないので、富山せきの屋のますの寿しをお土産に! 午後7時30分。せっかくヤサカタクシーの宮本さんが自家用車で送ってくれ たのに、いっしょにコーヒーを飲みに行く体力も残っていない。 京都のマンションまで送ってもらって、そのまんまベッドにひっくり返る。 うぎゃ! 6回の裏。9連敗中の横浜ベイスターズが、巨人を相手に善戦して いるではないか。1対0で、リード? たったいま、鈴木尚典選手がホームラン打ったばかりなの? またホームラン1本で、得点1点の効率の悪い点の取り方をしているのか。 どうせまた逆転されるんだろうなあ。 ありゃ! ありゃりゃりゃりゃあ! TVを見ている間に、古木克明選手が2ラン・ホームラン! ええっ! 続い て中村武士捕手が連続ホームランだよ! うひゃ〜〜〜! 1イニング、3ホームラン!? す、す、すごいじゃないか! ど、ど、ど、どうしよう…。 もう体力がまったく残っていないのに、応援しないといけなくなってしまった ではないか! ああ、たまらん試合展開だ。 まるで、1998年の38年ぶりの優勝のときのような興奮とおなじように、 一球、一球に固唾(かたず)を飲む。 やった! やった! 完封勝利だ! 9連敗で、ストップだ。 うれしい! うれしいけど、もうまったく体力無し! プロ野球ニュースをはしごするけど、見る度に、最後の打球を、万永選手がエ ラーするんじゃないかと心配したほどだよ。 まったく因果なチームを応援する宿命を背負ってしまったものだよ。
-(c)2003/SAKUMA-