4月25日(金)

「史上空前の食べっぱなし旅行」3日目。
 富山は、きょうも雨。
 見事なまでに、旅行を開始してからずっと、雨だ。
 旅行中を別にしても、3日続けて雨って、珍しいよねえ。
 昔は1週間ずっと雨なんてこともあったのに。

 午前8時30分。ホテル「雅樂倶(がらく)」で朝食。
 軽い食事にしたかったのに、朝から豪勢な食卓だ。

 ホテルの人には悪いけど、半分近く残す。  きょうはこれから「史上空前の食べっぱなし旅行」のなかでも白眉を飾るであ ろう豪勢なものを食べに行くので、お腹を満たしたくない。 「雅楽倶(がらく)」には連泊なので、きょうは荷物を持たずにでかけられるの はうれしい。  雨の中、傘を持ちながら、ガラガラとキャリーバッグを転がして歩くのは、あ まりにもきつい。しかもうちの場合、ちょっとでも変わった名前の食べ物があれ ば買ってしまうので、どんどん荷物が増える。  午前10時。富山駅へ。

 JR富山港線で、目的の場所まで、午前11時30分に行けばいいので、のん びり電車に乗って行くぞ!と思ったら、次の列車の発車は、午前11時11分だ というではなか!?  いま午前10時だよ。  次の発車は、1時間10分後?  しかも、目的地のある東岩瀬駅までは、25分かかるそうだ。  午前11時11分+25分=午前11時36分。  予約した午前11時30分に間に合わないよ。  しかも駅から行きたいお店までの道順は知らない。  大雑把な地図をたよりに、町を散策しながら行くつもりだった。  間に合うわけがない。

 駅前のタクシー案内所で聞くと、東岩瀬駅まで15〜20分ほどで行けるそう だ。  電車だと25分で、タクシーだと20分?  いかにこの電車が遅いかを物語っている。  タクシーで、ゆっくり行けばいいことがわかったので、富山駅前のビル「いき いきKAN」5Fの富山県観光物産館へ。  しかし、富山県の物産をアピールする場所が、駅に隣接ではなく、道路を隔て た先のビルというだけでも、観光客のことを考えていないと思うのに、さらにそ のビルの5Fにあるというのは、誰のための富山県観光物産館なのかまったくわ からない。

 しかもこのビル、2F、3Fと、店舗の入っていないスペースが多くて、ただ でさえ侘しい。  私のように、地方物産を必死で探し回って、薬丸印の商品を探さないといけな い人間なら(それは『アド街っク天国』!)、こうして5Fまで来るけど、観光 客の場合、わざわざ無理してまで、お土産を探しに行かないものだ。

 おまけにこれだけの悪環境なのに、お土産品に楽しいものが多いのが、さらに 侘しい。  次々に買いまくって、持ちきれず、東京に宅急便したものが、いっぱいだよ。 「くすしそば赤箱」。  富山の薬売りを模して、薬の赤箱を箱を引き出すと、なかに黒いおそばが入っ ている。実にかわいい。6食入り2000円。

「言うこと梨」。  だじゃれものだ。梨のパイ。  青森の「まるごとリンゴ」を始め、この手の果物パイは、だいたいおいしい。  富山市の呉羽地区は、梨の名産地として知られているそうだ。 「越中大門(えっちゅうおおかど)のそうめん」。  これは純粋にパッケージが渋くて、おいしそうなので購入。  150年前、能登半島輪島でそうめんの製法を学び、砺波(となみ)市の大門 (おおかど)地区で発達した。いまでは本家の輪島のほうから製法を学びに来る とか。  午前11時。雨のなか、東岩瀬へ向かう。  午前11時20分。東岩瀬の老舗料理屋「松月(しょうげつ)」へ。  予約した時間より、10分も早く着いてしまった。  この「松月(しょうげつ)」は、富山の海産物をつかった磯料理を食べさせて くれるお店だ。

 何でまた富山駅から車で20分のところにあるようなお店を知ったかというと 京都の「あ多知(あだち)」で隣り合わせたお客さんに教わった。  今年の1月6日のことだ。  おいしいお店の選択の仕方が、うちの嗜好と合う人で、この人のいうことなら 間違いないだろうと思った。  もちろん、調べもした。 「松月(しょうげつ)」は、明治44年の創業。  このあたりは、江戸時代、北前船の港として大いに栄えた町で、豪商のお屋敷 がまだ色濃く残っている古い町並みだ。  この「松月(しょうげつ)」も、北前船の底の船板に屋号を彫った看板を掲げ た、大きな料理旅館だ。いまは料理だけのお店だが、廊下も広く、階段も横に広 く、家の中に蔵まである。

 庭の苔がいい感じで繁茂している和室の部屋に通される。  雨に濡れた庭は風情がある。  ここから富山の海の幸フルコースが始まる。 「史上空前の食べっぱなし旅行」のメイン・イベントだ!  必ずや、土居ちゃん(土居孝幸)と柴尾英令くんが「なぜ、オレたちを誘わな かったあ!」と叫ぶような絶品のお店であった。  でも来てみないと、いいか、悪いかわからないからね。  ただふたりが悔しがってくれるようなお店を発見したときの喜びは格別だ。  いきなり、ホタルイカから!  富山のこの時期は、ホタルイカでしょう。  こっちもホタルイカが旬の時期に合わせて、富山に来ている。  酢味噌あえのホタルイカが、うかま〜、いや、うまか〜!  ん? 何だ? これは?  小さな魚がびっしり、器のなかに入っているぞ?  ええっ? 体長5センチほどの小さな白エビが70匹も入ったお刺身?  へ〜〜〜! こんなに小さい白エビをぜんぶ手で剥くの!?  それはまた手間のかかった料理だ。

 ヒラメのお刺身が肉厚で、赤くて、最初ヒラメと気づかなかった。ぷりぷりの きときとだ! 富山では新鮮な魚に対して、「きときと」という方言があるくら い魚に対するこだわりは強い。  うへ〜! イカがあまくて、おいしいよ〜〜〜!  たまらんなあ、もう!  このイカのおいしさだけでも、もう一度このお店に来たいと思えるレベルなの に、ここではイカは脇役だもんなあ!

 主役が来てしまった。  このお店の名物「福団子」だ! 「福団子(ふくだんご)」といったって、みたらし団子ではない。  これもまた魚料理だ。

 五平餅より少し小さいくらいの大きさの平たいお餅のように思えるこの「福団 子」は、な、な、なんと、白エビをびっしり、200匹固めたものなのだ!  200匹だよ、200匹!  さっき、70匹の白エビのお刺身にKOされ、カウント8で必死の思いで立ち 上がった瞬間に、カウンターパンチが、顔に炸裂!のショックだ。  うまい。うまい。ほんとうに、これ、うまいよ!  やわらかくて、もちもちしている。  たしかにこれは団子だ。  噛むと、白エビがびっしり詰まっているのがわかるよ。  だから、すり身ではない。  まだ食べたことのないおいしいものは、まだまだいくらでも世の中に潜んでい るもんなんだなあ!  ほかにもカニのしんじょうなども、わざわざカニを剥いて、びっしり固めたも のを出してくる。カニなんてあの姿の大きいものを、どでん!と食卓に乗せて、 お客さんを圧倒させるべきものなのに、剥いてしまったら、カニ1匹分がこんな に小さくなってしまうではないか!  何という贅沢なんだろう。  千利休が、豊臣秀吉を招いたとき、庭にびっしり咲いていた朝顔をすべて切っ てしまって、茶室にたった一厘の朝顔を飾った逸話みたいな、贅沢さだ。  お椀のふたが、すっ!と開いた。  私はふたを片手で開けないといけないので、日本料理のお椀がよく開けられな くて難儀する。  よく見ると、お椀に小さなリトマス試験紙くらいの昆布が1枚はさまってい た。 そうか! この昆布がお椀にわずかな隙間を与え、お椀が密閉状態になる のを防いでいるのか。これはコロンブスの玉子のような大発明だ。  どの一流料亭でも、まだこの配慮は見たことがない。  お店の人に「素晴らしい工夫ですね!」というと、いつもお客さんから内線電 話で「お椀のふたが開かない!」という苦情が多かったので、考えついたそうな のだ。  この広い屋敷で、お椀のふたを開けるためだけに、仲居さんが部屋まで1回多 く行かないといけないのは、それだけで仕事のロスになる。  うまいことを考えたものだ。

 白エビの唐揚げもおいしかった〜!  最後にあんこう汁が出た。  ご飯で締めるのではなく、汁物で終わりっていうのは、変わっているなあ。  と思ったら、なかに紅白のお餅が2個入っていた。  最後までやるなあ!  白いご飯にお漬物だったら、最後の最後で、ふつうの和風料理屋のイメージと して残ってしまうもんなあ。

 いやあ。完膚なきまでに、おいしさの連打に、叩きのめされました!  桃太郎チームで、絶対訪れるべきお店に認定!  もちろん、値段は高いので、よい子はうっかり真似をしないように。気軽に来 ると、財布が真昼間から軽〜〜〜くなります。 <私がもう一度訪れるためのメモ> ●松月(しょうげつ) 住所:富山市岩瀬港町116 電話:076(438)1188 営業時間:11:30〜21:00 備考:完全予約制。メニューなし。  午後1時。北前船の豪商たちの栄華のあと、岩瀬大町通りを歩く。

 古い町並みは、路面が茶色のタイル状に舗装されていて、真ん中にぽつんぽつ ん!と温水の噴出し口がついている。  冬の雪を溶かすためだ。  このあたりの冬の厳しさが「びゅう!」と伝わってくるようだ。 いきなり、不思議などらやきを発見。  どらやきっていうのは、丸いものだよね。  ここでは三角形なのだ。

「今枝福助堂」というお店で、このどらやきを買って食べる。おいしいなあ。  おいしいお店を見つけると、お店の名刺カードか、パンフレットをもらうこと にしている。 「そんなもん、ないですしー!」 「そんな宣伝してないしー!」  たしかに宣伝なんて考えてもいないようなお店だ。  そんな素朴さが、この古い町並みには似合う。

 しばらく歩くと、また和菓子屋さんがあって、ここでも三角形のどらやきを売 っていた。 「大塚屋」という大きなお店だ。

「こういう風に、どらやきが三角形なのはこの辺の特徴なんですか?」 「えー、えー! そうだねー!」 「富山県、全体が三角形なんですか?」 「えー、えー! 岩瀬だけだねー!」  志村けんサンの「だいじょぶだあ!」のおばあちゃんと、まったくおなじ口調 なので、笑うのをこらえるのが大変だった。思わずビニール傘をこのお店に置き 忘れた。  こっちのお店のどらやきのほうが、生地が厚くて、おいしく感じた。  コーヒーまんという、どらやきも売っていた。  これももう一度食べたくくらいのおいしさだ。  たぶんこんな町だ。  取り寄せるシステムなどないだろうなあ…。

 北前船の豪商をいちばん色濃く残しているといわれる北前船の回船問屋だった 「森家」へ。

 人のよさそうなおじいちゃんが、いっしょについて来てくれて、家の解説をし てくれる。でもこのおじいちゃん、こっちが解説を遮らないと、いつまでもしゃ べり続けるという情報を入手していたので、こっちが聞きたいことを先に聞く。 「この森さんの家系で、薬(くすり)関係に進んだ人はいませんか?」 「森さんの次男の人が、東京に出て、薬屋さんを始めたとか聞いたような…」 「ひょっとすると、その森さんは、私の祖先かもしれないんですよ」  そうなのだ。  実は私の祖先は、富山で薬をつくっていた家系らしいのだ。  というのも、私の父親というのが、あの憎き継母に気兼ねして、子どもの頃か らいっさい「家系」について教えてくれなかったのだ。  私の継母というのが、私の親戚の従兄弟に言わせると「テレビの『おしん』よ りひどいいじめ方をする人だもんなあ!」というくらい、手を変え品を変え、私 と姉をいじめようとする人だった。  昔、NHKの『おしん』を始め、『細うで繁盛記』、『どてらい男』といった 主人公をいじめる番組がヒットしたけど、子ども心に、これのどこがいじめなん だろうと思った。  そんな継母である。  だから私のルーツについては、父方の親戚がたまに来たときに、漏れ聞く会話 のなかから、何となくおぼろげに繋ぎ合わせるしかなかった。  しかも、継母のせいで、父方の親戚はどんどん遠ざけられて行ったから、情報 は少ない。  いちばん信頼できる人形町の呉服屋さん「紬の橋爪」さんから、5年前くらい に初めて、家系図の写しをもらった。  なんと45歳にして、自分のルーツを知るという不思議な人生になってしまっ た。  その「家系図」に載っていたのが、「森」さんで、富山で薬を作っていた家の ようなのだ。かつて何代か続いて、東京薬科大学の総長を務めた人がいたという のだから相当なものだったのだろう。  病院嫌いの私が、薬関係の家系といわれても、まったくピンと来ないんだけ ど、痔の新薬を発明して、お金持ちになったというエピソードを聞くと、この日 記を読んでいる人でも、たしかに私はその血を受け継いでいると信じられるよう な気がするから、不思議だ。  まあ、私の場合、親戚付き合いが薄かったので、別にこの富山に万感の思いを 抱いて来たわけではない。この「森家」の存在にしても、「松月(しょうげ つ)」のついでに、目に入っただけだ。  この北前船の回船問屋だった「森家」の親戚筋は、銀行を設立した人が多く、 なかには元首相の森喜朗さんがいるそうだ。  本当にこの「森家」が、私に関係があるのかもわからない。

 なるほど。このおじいちゃんの会話は、間を開けることなく続くので、途中で 切り上げて、富山港へ。  富山港には、ロシア船が多い。  ロシアの人たちが、次々にに自転車に乗ってこちらに来るさまは、ちょっと不 思議な空間だ。

 港は、どこでも広い。  広いと、私の足は猛烈に疲労する。  さっさとタクシーで帰ればいいのに、1時間に1本しか走らない富山港線にど うしても乗って帰りたい。できることなら、終点の岩瀬浜駅から富山駅へ戻りた い。そのためには、延々歩かないといけない。  地方の景色は、近くに見える橋が、歩くと異様に遠い。  きょうも遠かった。

 足がもつれ始める。  油断すると、足のつま先が上がらなくなって、つまづきそうになる。  昨日、珍しくも転倒してしまったので、注意深く、注意深く歩かねば。でも足 が上がらない。  特徴のない住宅街というのも、歩いていて非常に疲れる。  午後2時。無人駅の岩瀬浜駅に、たどり着く。

 ふい〜〜〜、あと10分歩き続けたら、動けなくなったぞ〜!  発車まで、あと30分もある。  またかい!  タクシーで、20分で富山駅に着くのに、30分も待たないといけない。  鉄道路線が寂れるわけだ。  もちろん駅前には、商店もない。  駅構内には、シャッターが閉まった売店があったところを見ると、かつてはこ の駅も栄えたことがあったのだろう。終点なのに、無人駅というのは悲しすぎる。

 午後2時20分。ここで折り返す電車が、入線してきた音がする。  無人駅だから、到着のアナウンスなんてない。  自発的にホームへ向かう。  ホームの片隅で、一生懸命写真を撮っている男の人がいた。 「ひょっとして電車に乗るためだけに、ここに来ました?」 「ははは。そうです!」 「講談社の『鉄道の旅』は買いました?」 「ははは。買いました!」  昨日、高山本線の鉄道ファンには聞けなかったことを、聞いてみた。  午後2時32分。岩瀬浜駅を発車。  1両のワンマンカーだ。  路面電車のように、のんびり、ごとごと走る。  見事なまでに、まっすぐな路線だ。  レールがどこまでもまっすぐ、そのままずっと地球を一周してしまいそうなく らいまっすぐだ。そんなわけない。

 駅の数も、競輪の大会が開催されるときだけ臨時駅として降りられる富山競輪 場前を入れても8つしかない。  8つの駅を、25分かけて走る。  当然、走り始めたと思ったら、速度を落として、体育倉庫のような駅舎の無人 駅に着く。  疲れがピークに達していたので、あと3駅で、富山駅ぐらいで、ふわ〜〜〜と 寝てしまった。  せっかくこの路線に乗りたかったのに。  でも気持ちい。  でも疲れた。  でも気持ちいい。  でもぐったり…。  午後2時55分。富山駅に着いたところで、嫁に起こされる。  ちょっと寝たのに、ちっとも体力は回復しない。  このあとホテルに戻ればいいのに、どうしてもまだもうひとつ電車に乗ってお きたい。  富山県には、意外と風情あふれる鉄道や、路面電車が数多く残っていて、実は 県全体が、鉄道博物館のであることは、知られていない。  黒部峡谷鉄道トロッコ線。  富山地方鉄道本線。  富山地方鉄道立山線。  富山地方鉄道不二越上滝(ふじこしかみだき)線。  富山港線。  氷見(ひみ)線。  城端(じょうはな)線。  いずれも1時間に1本走るかどうかの鉄道ファンには、魅力的な路線が目白押 しだ。  だから、昨日も、きょうも、鉄道マニアの人に遭遇する。  次は、富山地方鉄道本線だ。

 午後3時15分。地鉄富山駅から、宇奈月(うなづき)温泉行きの電車に乗 る。2両編成の窓が汚く曇った、地方色満点の車両だ。  もちろん、宇奈月(うなづき)温泉まで行きたいのだが、宇奈月(うなづき) 温泉まで、1時間30分もかかるというので、きょうは断念する。

 わっはっはっは! やっぱり!  岩瀬浜駅でいっしょになった鉄道ファンの男性が、やっぱりこの電車に乗って いた。富山港線に乗り来ただけだと言っていたから、「たぶんこの電車で宇奈月 温泉まで行くんだろうなあ!」と嫁と話していたというと、にこやかに笑ってい た。  この人とおなじ行動を取った私は、これで鉄道マニアだ! うれしー!  鉄道マニアと呼ばれて喜ぶのは、私くらいなものか。  私は、特急があったら、特急に乗ってしまうもんなあ。  鉄道マニアは、どこまでも鈍行に乗らないといけない。  さて。富山地方鉄道本線だ。  これもまた、のんびり、ごとごと走るのだろうと思ったら、ブズズズズッ! と、ものすごい音を立てて疾走する。  まるでデブの疾走だ!  身体はぶるぶる、はあはあ揺れているのに、スピードは上がらない。  午後5時37分。上市(かみいち)駅というところで、電車はスイッチバック した。見た感じ上市(かみいち)駅は、大きな町に思えないのだが、かつてわざ わざV字ターンしなければいけないような町だったのだろうか。

 午後4時。滑川(なめりかわ)駅へ。

 うへ。駅前に何もない。  そうだ。ここにはJR滑川駅も隣接されていたんだっけ。  おなじ敷地にあるのに、富山地方鉄道の駅を出てから、地下道を通って抜けて いくのが、面倒だなあ。跨線橋もあるのに、つかえないようだ。  第3セクターと、JR線の確執でもあるんだろうなあ。  JR滑川駅へ。  ここも見事なまでに、駅前、閑散! 何もない春です〜!

 実は、滑川市の中心地は、富山地方鉄道本線の「本滑川(ほんなめりかわ)」 駅のほうだったようなのだ。  ああ、もう歩けない。  これから「ほたるいかミュージアム」まで行きたい。  駅から10分ほど歩けば着くそうだけど、もう歩けない。  さっきの地下道を歩いた時点で、残りの体力も使い果たした。  駅前からタクシーに乗り、浜辺沿いの「ほたるいかミュージアム」へ。  建物は外壁に、板がはめ込まれ、周囲を池が囲んでいるので、特徴があるのだ が、もはや私は疲れ果てているので、もう感動回路すら死滅している。  ゴール前でふらつき、コースを間違えるランナー状態だ。  果たして館内を歩き通せるだろうか。

「ほたるいかミュージアム」の館内では、水を張って、そこにホタルイカや、松 葉カニや、魚を放し飼いにしている。  水深をわずか30センチ程度にしているので、ホタルイカやカニに実際に触る ことが出来る。  これは子どもにとって、素晴らしい教育だと思ったのは、ほたるいかミュージ アムを去ったあとだ。もはや意識まで朦朧としていて、嫁の声も途切れ途切れに しか聞こえない。 「4時20分より、1階のライブシアターにて上映が始まりますので、ぜひおこ しください! もうすぐ上映開始です!」  待ってくれ! こっちは歩けないのだ。  だいたいライブシアターはどこにあるんだよ。  館内が広くて、迷路のようになっていて、わかりづらい。  行き止まりの何もないスペースも多いので、RPGで洞窟に迷う状態。行き止 まりには、せめて宝箱を置いておけ!  ああ、また間違えた。  上映時間より、3分ほど遅れて、たどり着いたんだけど、解説役のお姉さんは 待っていてくれた。  私たちより先には、2人しかお客さんがいなかった。  ビデオで、まずホタルイカがなぜ光るのかを解説してくれる。  ホタルイカは、身体に発光器というのを持っていて、敵を威嚇するときに光る らしい。名前の通り、地上の「蛍(ほたる)」が光るのとほぼおなじ原理だそう だ。  その発光器も、3種類あるそうで、腕の先端にある黒胡麻のように大きな3個 の発光器、皮膚の下にある5個の発光器。さらに腹部にある小さな発光器がいち ばん多くて、なんと1000個もついているそうだ。  ビデオ上映のあと、「スクリーンの前にお集まりください」というので、前に 進むと、水槽があって、ホタルイカがたくさん泳いでいるではないか。  シアターに入ったときに、海のにおいがしていたのは、このせいだったのか。  水槽には、網とロープがあって、場内を暗くすると、「ロープを引っ張って、 網を揺らせてください!」といわれて、ロープを引くと、暗闇にキラキラとホタ ルイカが光り始める。  さっきの解説を聞いていると、ホタルイカが光るのは、敵を威嚇するためだか ら、私たちはいま、ホテルイカを怒らせているわけだ。  ちょっと行動に矛盾を感じるけど、銀河の星空を見つめるように美しいことは、 美しい。  このホタルイカ、1日じゅうこの演技をやらされているので、1日で死んでし まうので、毎日ホタルイカを入れ替えているとか。  このお姉さん、けっこう残酷なことを、平然と言い放っている。  途中で、へばり方が激しいと、この水槽は、ドリフターズの回転ステージのよ うに、後ろから新しいホタルイカを登場させることができるようになっているそ うだ。ねっ、けっこう残酷な話をシレッ!と言い放っているでしょ。  でもまあ、ホタルイカに触れたり、自分でホタルイカを光らせることができる 参加型のミュージアムとしての充実度は、素晴らしいと思う。  午後5時ちょっと前。出口に向かうと、売店のお土産品には、布がかぶされて、 帰る準備が万全になっているのは、いかがなものか。  いくら博物館を建築する人が、お客さんのことを考えた器を作っても、お客さ んに接する人たちが、お客さんのことを考えないと、印象が悪くなる。  午後6時。富山のホテル「雅樂倶(がらく)」に戻る。  昨日に続き、少量ずつ品数の多いフランス料理を食べる。  おいしいのだが、何しろ「史上空前の食べっぱなし旅行」の3日目だ。  もうお腹がいっぱいで、入らないよ。  とくに、お昼の「松月(しょうげつ)」での料理がすごかったからねえ。

 この私が、デザートのケーキを遠慮したのだから、非常事態宣言である。  出されたケーキを食べないなんてことは、わが人生において、10回はない。

そうは言ってもソルベは食べたりして

 とにかく部屋で、ひっくり返りたい。  午後7時。部屋に戻って、ベッドに戻って、「横浜VS巨人」戦を見て、さら にひっくり返る。  3対3の同点から、2点、1点、2点と、どんどん点を入れられて、ゲーム中 盤で、9連敗が確定!  9連敗だよ、9連敗!  勝率は、2割を切った。  1勝3敗のペースでいいから、連敗はやめてよ!  閉所恐怖症の気分になるよ。  よけい疲労が増してしまった。  午後8時30分。「横浜VS巨人」戦を見る気力もなく、マッサージをお願い して、足のむくみを取ってもらう。  明日は「史上空前の食べっぱなし旅行」最終日。  はたして体力は続くのか?  わっかりっませーーーん!

 

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