4月3日(木)

 昨夜、観たヒッチコック監督の映画は『ハリーの悲劇』。
 ヒッチコック監督のなかでも、コメディ・タッチの異色作だ。
 冒頭から、森のなかに死体が横たわっていて、最後まで、この死体が話の中心
のまま進んで行く手法に、あきれ返る。

 私がかつて漫画評論家だった頃に、漫画界の巨星・手塚治虫さんのルーツ探し
に奮闘していた時期があって、なかなかその正体が見えなかったんだけど、手塚
治虫さんの基本は、ヒッチコック監督だね。確信した。
 手塚治虫さんの独特のユーモアとかのセンスって、ヒッチコック監督のものだ
っただね。手塚治虫さん特有のカチッとしたストーリー展開なども、強く影響を
受けていると思ったなあ。

 手塚治虫さんを「日本のディズニー」ということで、ウォルト・ディズニーで
追いかけて行くと、気がついたたら、知らない道にたどり着いてしまうのは、こ
のせいだったんだなあ。

 もちろん、手塚治虫さんを構成しているのは、ヒッチコック監督だけではない。
 何千、何万というスパイスが加わって、何日も何日も煮込まれて、あの手塚治
虫ワールドが構築されているのだ。

 しかし、物語上の『鉄腕アトム』誕生まで、あと4日と迫って来たけど、日本
橋の三越だっけ? 1億円の宝石をちりばめた『鉄腕アトム』って、いったい誰
が買うんだろう? スピルバーグとか、ルーカスじゃないと、買えないよねえ。

 午前11時。嫁と、麻布十番の「浪花家(なにわや)総本店」へ。

 冬の寒い間は、このお店の混雑は尋常ではないので、桜の季節になると、そろ そろいい頃かと、また行きだす。  それでも、お店は、私と嫁が入ってから、3分ともたずに、満席になった。  注文は、焼きそば1皿に、鯛焼き1枚。  いつも通り。  午後12時。渋谷の「カメラのさくらや」→「HMV」→「ブックファースト」 コース。 「カメラのさくらや」で、SONYのメモリースティックの1ギガ版が発売され たというので、行ってみたんだけど、品切れの上、1個7万数千円のようだ。  あんなガムみたいな小さなものに、7万円を出すのもねえ。  どうせ1年後くらいには、半額。2年後には、4分の1くらいになってしまう のだろうから、ゆっくり待とう。 「HMV」は、ヒッチコック監督シリーズを物色しに行ったのに、ザ・ビートル ズの「アンソロジーBOX」が出ていたので、やっぱり買ってしまう。ビデオで 全巻持っているんだけど、DVDには、解散後のジョン・レノンを除く3人の座 談会が入っているというので、メーカーの策略に自らはまりに行く。  ついでにカルト人気の高い、『親指フランケン』も購入。 「ブック・ファースト」では、ヒッチコック監督について書かれた本を購入。  この時点で、すっかり荷物は重い。  嫁も大量に本を買っているので、とても持ってもらえそうもない。  歩き回ったせいもあって、足もじんじん、びりびり。  午後2時。喫茶店「らぴす」サンで、コーヒーを飲んだのち、帰宅。  ベッドにひっくり返って、10分間ほど、寝たような、寝なかったような…。    午後3時。土居ちゃん(土居孝幸)が来る。 「柴尾英令くんは?」 「さっき、『桃太郎電鉄U(仮)』のイベント部分の仕様書を完成させて、こっ ちに送信してきたばかりなので、すでに20分遅れて来るって、連絡が入ってい るよ!」 「柴尾英令くんが、3日3晩で終わらすって言っていた仕様書は終わったの?」 「はっはっは。さすがに3日3晩は無理だったけど、第1稿は完成したみたいだ よ!」  柴尾英令くんが来るまで、土居ちゃんと『桃太郎電鉄U(仮)』のオープニン グ・アニメの考え方を話し合う。  午後3時30分。柴尾英令くんが、到着。  見るからに、柴尾英令くん、へろへろ…。 「はっはっは。柴尾英令くん、3日3晩は?」 「はは〜〜〜! 大変申し訳ございませんでした! へろへろ…!」  言い訳しないところが、えらい。 「終わると思ったんですけど、想像を越える難しさでした…」  ふつうの人が、内容を度外視して書いたとしても、1ヶ月以上かかるところを 1週間で書き上げたのは、たいしたものだ。何本もゲームを作り上げた実績を持 っている男だけのことはある。 「もう、今、何も考えられませーーーん! へろへろ…!」 「はっはっは! そりゃ、そうだろう!」 「柴尾英令くん、臨時収入の原稿とかも、もう書き上げちゃってるんだねえ!」 「ええ? 何ですかあ! へろへろ…!」 「私は、いつも臨時収入のメッセージは時間かかりすぎるから、物件だけ決めて あとから書くようにしているよ! 最初に必要なのは、確率だから…」 「ひえ〜! 先に言ってくれ〜〜〜! へろへろ……!」 「わっはっはっは!」  3人で、『桃太郎電鉄U(仮)』のオープニング・アニメのアイデア出し。  すでに、何回となく、アイデアを出してきたんだけど、けっきょくいつものパ ターンに準ずるものに落ち着く。  奇をてらうのもいいけど、『桃太郎電鉄U(仮)』は野心作だからこそ、スタ ート時点は、オーソドックスな設定から入って行かないと、あとあとの奇抜さが 生きてこなくなる。 「わっはっはっは!」 「あっはっは。やっぱり、『桃鉄』はこれか!」 「これしかないだろ! はっはっは!」  主要メンバーが笑えば、OKサインだ。  どういうわけか、『桃太郎電鉄』っていうのは、なんだかんだ苦しい、苦しい、 もうアイデアが無いといいつつも、けっきょく、笑えるアイデアが出るのだから、 幸せな仕事だ。  悩みに悩みぬいたあげくに、受けない、売れない、評価されない仕事はいくら でもある。ヒット作ほど、神様が横で見ていて、手助けしてくれるような加護が 加わるものだ。  そのステージまで、神輿(みこし)をみんなで持ち上げるように、乗せるのが いちばん難しい。  午後6時30分。私、嫁、柴尾英令くんの3人で、近所の宮崎料理のお店 「きばいやんせ」へ。  柴尾英令くんが、「いつもたくさん食べてますけど、きょうはとくにたくさん 食べられそうな気がしますよ〜!」と、鼻息荒い。  大きな仕事を終えると、無性に食欲が戻ってくるものだ。  そんなわけで、柴尾英令くん、焼酎ぐびぐび! 鶏の麦味噌焼きとか、鶏のバ ラ肉焼きとか、カロリーの高そうなものを、次から次へと、注文!  うれしそうに、食べている。

 私はダイエット中なので、柴尾英令くんのホームラン攻勢に巻き込まれないよ うに、ちょっとずつ多品種を励行する。  午後8時。帰宅。  柴尾英令くんが書き上げた『桃太郎電鉄U(仮)』のイベント仕様書をひとつ ずつ検証する作業を開始。  はっはっは。私もよくやる記入ミスを、柴尾英令くんもやってらあ!  仕事に夢中になって、日付とかを、ついつい忘れて、先に進みたくなっていた んだろうなあ、この辺は…。  こういうケアレスミスは、乗っている証拠。  あとで直せばいい。  これから私は、この仕様書を読んで、全体バランスを考え、あといくつくらい イベントを入れたらいいかを考える作業が、待っている。  でも、今夜も、ヒッチコック監督の映画を、1本は見ておきたい。

 

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