3月14日(金) きょうは、焼きそばを食べに行こうと思う。 富士山の近くまで。 わっはっはっは。遠いか。 午前9時30分。嫁と東京駅へ。 「資生堂パーラー」で、コーヒー。 午前10時13分。こだま413号に乗車。 新幹線のなかは私の場合、移動オフィスだから、さっそくお仕事開始。 そろそろ『桃太郎電鉄12(仮)〜地方編』のスリの銀次の候補を出さないと いけない。 今のうちに、何種類か作っておいて、夏ぐらいにぎりぎり変更する。 三島を過ぎたあたりから、富士山が見えてくる。 ちょっと曇っているけど、それでも富士山は美しい。 ところで、焼きそばの話。 昨年来、静岡県の富士宮(ふじのみや)が、焼きそばで町おこしをしていると いう記事を何度も見ているのだ。 そんなおもしろいネタを見過ごしているわけにはいかない。 昨年から機会をうかがっては、何度も来ようとしていたけど、冬の寒さに阻ま れたり、行くと決めていた当日が雨だったりで、順延になっていた。 きょうは、寒さも緩くなってきた。 いざ行かんだ。 午前11時24分。新富士駅で下車。 東京から1時間11分。けっこう近い。 新富士駅は初めて降りるので、駅周辺を物色。お土産屋さんは、うなぎパイ、お茶、ミカンといった完全に、静岡圏。 これといって、特徴はない。 どうも昔から、富士山の近くの町は、富士山の景色に胡座をかいていると言え ないでもない。 たしかに、正面に富士山が見えたりすると、「よくぞ、日本人に生まれけり」 の気分に満たされるが…。
午後12時。富士宮駅。 不思議な駅前だ。 駅前広場がない。いきなり駅前が道路だ。 駅の2階から、歩道橋が伸びている。
歩道橋を降りると、バスターミナルになったりしているが、妙に圧迫感がある。 まるで商店街を隠すかのような作りだ。 そうだ。焼きそばののぼりはないのか? 無い、無い、どこにも、無い。 市内に100軒以上、焼きそば屋さんがあると聞いていたから来たのに、のぼ りが1本もない。 駅の改札口付近に、焼きそばマップもない。 あっ。駅を降りたところに、観光案内所があった。 あそこに行ってみよう。 「すみませ〜ん。焼きそばのマップとか無いんですか?」 「ありますよ!」 「ああ、よかった。ください」 「あと少ししかないから、1部でいい?」 「はあ…。いいですよ!」 何だか事務的なおばちゃんだな。市役所に来ているみたいだ。 マップを見る。 ええっ? こんなに広域に点在しているの? 3キロ四方に、60軒以上の焼きそば屋さんがあるようなんだけど、あまりに もきれいにバラけている。 富士宮郊外の国道139号線には、40軒以上の焼きそば屋さんがあるようだ けど、これまた点在。 富士宮市内に、100軒以上の歌い文句に嘘は無いけど、密集地帯がないとね え。町おこしにふさわしくないなあ。 人気店「H」が、隣りの駅の西富士宮にあるというので、仕方なく、タクシー に乗って行く。身延線の鈍行は、1時間に1本だ。 タクシーの運転手さんにいろいろ聞く。 「あたしも、よく焼きそば食べますねえ!」 「どこかおいしいお店ってあるんですか?」 「ありますよ!」 「どこですか?」 「みち草って、お店なんですけどね。朝から電話しているんだけど、電話に出な いんですよ。やってないのかなあ!」 「定休日じゃ仕方ないですよね」 「いやあ、買い物にでかけているだけだと思いますよ。この辺の人は鍵も掛けず によくでかけますから!」 「危ないなあ…」 気になるのか、運転手さん、携帯で電話をお店にかける。 「仕事やってるですか?」 「ほうほう。あたり前田のですか!」 「お客さん! やってるようですよ! お連れしましょうか?」 「じゃあ、お願いします!」 午後12時30分。浅間神社北の「みち草」へ。 あれ? 運転手さんはそのまま行っちゃうの? 食べようと思って、電話かけ ていると言っていたのに。 まあ、風俗営業店に連れて行って、バック・マージンをもらうほど、焼きそば は値段高くないからいいけど、ちょっと不安になるじゃないか。
へ〜〜〜、大きな鉄板が1台だけある小さなお店だ。 ガラガラガラ…。 何だか、四国高松のさぬきうどんのお店に来たみたいだな。 いいなあ、こういう雰囲気。 おばちゃんがいいなあ。 よくしゃべってくれる。 「玉子入り 400円」と「イカ入り 400円」を注文する。 「富士宮は、焼きそば屋さんが多いんですか?」 「元々は、どのお店もお好み焼きのうが流行っていたんだけどね。お好み焼きの ことを、洋食と呼んでね!」 そういえば、京都の祇園にある有名なお好み焼き屋さんの名前は「一銭洋食」 だった。 おばちゃんが目の前の大きな鉄板で、焼いてくれる。 「どのお店にも、お好み焼きもあると思いますよ」 富士宮の焼きそばの特徴というのが、マップに書いてあった。 ・富士宮流焼きそば蒸し麺を使用。 ・炒め油にラードを用いる。 ・隠し味に、ラードを絞ったあとの「肉かす」を使用。 ・ふりかけは、イワシの「削り粉」。 ・歯ごたえのよい地元産キャベツ。 ・富士山のおいしい湧き水を用いる。 ・大きくて厚い鉄板で、火力を強くして焼くから、おいしい。 なるほど、ラードをつかって、肉カスが入っていた。 イワシの削り粉は、匂いがよくて、おいしいなあ。 量もけっこう多い。
「これだけ、焼きそば屋さんがあるんだけど、スタンプラリーとかやっていない んですか?」 「やってませんね〜」 さぬきうどんの「さぬきうどん巡礼八十八ヵ所」みたいなのを作ると、おもし ろいのになあ。しかも、「八十八ヵ所」用に、量が少なめの焼きそばを作ると、 つねにお店にお客さんがあっちこっちにいるようになって、活気も出ていいと思 うのだが。
「みち草」の焼きそばは美味しかった。 麺も太めで、もちもちしていて、食感もよかった。 ウスターソースと、とんかつソースをブレンドしたソースの味もいい。 おばちゃんも親切に応対してくれた。 その上でいうと、やっぱりまだまだ富士宮の焼きそばは、さぬきうどんほどの 人気になるほどのミステリアス性がないと思う。 マップに書いてある1軒1軒の解説を見ても、独特の食べ方をするお店がほと んどない。ブームになるには、やっぱり100軒のうち、60軒以上が、ソース をかけずに、ケチャップをつかうとかしないと、「いったいそれはどんな味にな るんだろう?」と思って、遠くから来てくれないと思う。 必ず、豚かつを乗せて食べるでもいい。 餃子を乗せて食べるでもいい。 静岡県なんだから、お茶の葉をふりかけるでもいい。 レモンではなく、ミカンを絞ってかけるでもいい。 焼きそばといっしょに必ずお茶漬けを食べるでもいい。 何かひとつ「えっ? そんな食べ方するの?」という異常性がほしい。 オーソドックスに、おいしい焼きそばがたくさんあってもね〜。 焼きそばがおいしくても、遠出はしてくれないと思う。 際物(きわもの)だらけなら、行ってみる価値が生まれるし、際物があって、 初めて、本格的においしい焼きそば屋さんの存在が生きてくると思う。 午後1時。比較的、焼きそば屋さんが密集している西富士宮駅まで行く。
ここでも、駅前に焼きそばののぼりが無い。 石像もない。 ポスターもない。 「焼きそばタウン西富士宮」のアーチもない。 焼きそばキーホルダーも売っていない。 それどころか、マップに書いてあった駅前のお店は、やってる気配はなく、そ の先の焼きそば屋さんには、「準備中」の札。 これじゃあねえ。 しかも駅前商店街に、誰も歩いていない。 きょう、こっちに来てから、異様なのは、とにかく人に会わないのだ。 わざわざ運転手さんに富士宮市街地を通ってくださいとお願いしたのに、誰も 歩いていない。気持ち悪いまでに、シーーーン!としている。 最初から行ってみようと思っていた、人気店「H」へ。 あ〜あ〜、ここも「準備中」だ。 あれ? 人がなかから出てきたぞ。 やってるのか? 嫁が様子を見にお店に入ってみる。 「ち〜〜〜っと待ってもらわんとね!」 「お土産用とか作っていただけるのですか?」 「それも、ち〜〜〜っと待ってもらわんとね!」 とりつく島もないような返事が返ってきた。 ダメだ、これは。 私は、極力、町おこしを応援したい。 なのに、こんな調子では応援のし甲斐がない。 ダイエットを無視してでも、焼きそば屋さんのはしごをするつもりで来たのに、 急速にテンションが落ちて行く。 お金がなくても、ポスターを貼るくらいのお金はあるでしょう。 焼きそば連合加盟店のプレートを貼るくらいのことはできるでしょう。 午後1時39分。西富士宮駅から、鈍行の身延線に乗る。
早々と、富士宮焼きそば探索を断念する。 何だか、とってもむなしい。 午後1時50分。富士駅で下車。
富士市は、王子製紙の町で、ほかにも東芝、大昭和製紙、大興製紙工場といっ 工場が高い煙突から、白い煙を上げている。 かつて黒煙だらけだった町も、ずいぶんと煙も少なくなったし、きれいな煙に なったものだ。 駅前の商店街を歩く。 古い商店街には、特徴がない。 昨日、富士市でビルの崩落事故が起きていたけど、どこのことだろう。 別に事故現場が見たいわけではない。 歩きつかれてきた。 だらだらと長い商店街が続いている。 これ以上歩くと、駅まで戻れそうもない。 戻ろう。 お店は多いんだけど、富士市もまた活気がないなあ。
焼きそばの富士宮は、ジャスコの進出で、駅前のナガサキヤは潰れてしまった そうだ。大型郊外店に潰される町は、あまりにも多すぎる。それだからこそ、焼 きそばで町おこしはいいプランだと思うんだけどなあ。 まだ未練がましい。 午後2時26分。富士駅から、東海道本線に乗車。 ああ、もう本を読む気力もないくらい疲れた。 午後2時48分。清水駅で下車。 清水の次郎長でおなじみの清水市だ。 いまは、サッカーの町としてのほうが、有名だ。 町のあちこちにも、サッカーボール型の花壇があったり、堤燈がぶら下がって る。サッカーどら焼きも売っているらしい。 こういうアプローチが、町おこしというものだ。 線路沿いを歩いて、静岡鉄道の新清水駅まで行く。 静岡鉄道くらい、中途半端な鉄道はない。 清水と静岡を結んでいる路線なのに、清水駅から15分ぐらい歩かないといけ ない。新静岡駅から、静岡駅までも15分くらい歩かないといけない。 清水駅と静岡駅に乗り入れしたら、どれだけ便利な路線になったことだろう。 これだけ不便な路線なのに、1時間に10本以上の電車を走らせている。 これは見事としか言い様がない。 最大1時間に4本くらいの路線だと思っていた。 ほとんど江ノ島電鉄とか、銚子電鉄レベルなんだもん。2両編成で。
午後3時18分。新清水駅から、静岡鉄道に乗車。 電車は、走り出したかと思うと、もう減速して、次の駅に着く。 何しろ、東海道本線の1駅分の距離に、5つも駅があるのだ。 午後1時40分。県総合運動場駅で下車。 何だ、このプラットホームの貧弱さに比べて、豪勢な駅舎は!
で、何でこんな駅で降りたかというと、ここには、草薙(くさなぎ)球場があ るから。 これだけで「むむっ!」と唸った人は、かなりのプロ野球通。 この球場は、かつて昭和8年、全日本チームが、全米ドリームチームと戦っ て、日本人チームが善戦した記念すべき球場なのだ。 全米ドリームチームっていったって、あのベーブ・ルースと、ルー・ゲーリッ クが、3番、4番を打ったようなチームだからね。 その全米ドリームチームを相手に、のちに読売巨人軍最初の永久欠番となる沢 村栄治投手が、大リーグ相手に快投を演じたのだ。 私が子どもの頃、何度このエピソードを見たり、読んだりしたかわからないほ どだ。 私もわけもわからず、銭湯の下足札をいつも、沢村栄治投手の14番にしたぐ らいの人だ。
球場の前には、沢村栄治投手と、ベーブ・ルースの石像が建っている。 沢村栄治投手がノーヒットに押さえていたのに、試合後半、ルー・ゲーリック 選手にたった1本ホームランを打たれて負けたはずなのだから、相手の石像はル ー・ゲーリック選手なのかと思ったのになあ。 打たれたヒットは、この1本だけだったはずだ。 やっぱり、ベーブ・ルースの知名度は、バリー・ボンズや、バリー・マクガイ アがひよっ子に思えるようなレベルだもんねえ。仕方ないか。 もちろん、全日本チームは0点。 当時は、全米チームから、1点を取れるようなレベルではなかった。 そいう意味では、この試合から、日本のプロ野球が始まったといっても過言で はない。
この記念すべき球場を、プロ野球ファンとして、一度見ておきたかったのだ。 別にきょう、ここでオープン戦をやっているわけでもない。 実はまあ、もうひとつの本心があるんだけどね。 この草薙球場は、横浜ベイスターズの準フランチャイズでもあるのだ。 横浜ベイスターズ・ファンとして、一度もこの球場を訪れていなかったのは、 影のオーナーを自称する私としては、かなりの汚点のひとつだったのだ。 今年の4月8日には、ここ草薙球場で、横浜ベイスターズ対広島戦が予定され ている。
この日に来てもいいのだが、すでにこの日は、ハドソンで宣伝会議の予定が入 っている。日程をズラしてもらおうかなあ。 でも、この日のチケットは買えないかも。 準フランチャイズ球場として、ただでさえ清水市の人たちは、横浜ベイスター ズ・ファンが多いのに加えて、今年の新監督・山下大輔さんは、この清水市出身 なのだ。 要するに、富士宮の焼きそばに落胆してしまった私は、乱心して、草薙球場を 拝みに来てしまったというわけだ。 球場のなかに入れなかったのは、ちょっと悔しかったけど、積年の胸のつかえ は取れた。あとは一度観戦に来ないとな。下関球場も行かないと、真の横浜ベイ スターズ・ファンとはいえないなあ。 午後4時。清水市に戻って、末廣寿司へ。
このお寿司屋さんには、1999年に一度行っている。 トロが滅茶苦茶おいしいお店でね。 一説には、このお店で食べたら、7万円取られた、10万円取られたという噂 が撒き散らされるほどの人気店。 もちろん、嘘である。 銀座並みの値段であることは確かだけど、お寿司マニアなら、銀座並みの値段 でも絶対安いと感じるような味だよ。
いきなりトロの背脂の部分で、脳震盪を起こしそうになる。 う、う、うま〜〜〜い! ミル貝が、こんな甘いというのは初めて知った。 穴子のほろほろ感はいったい何だ。 アジが分厚くて、口のなかでいっぱいになって呼吸が出来なくなる。 煮たエビというのは、甘エビよりも一段落ちる味だと思っていたのに、この煮 エビの味は、何でござる。 我が家はお寿司の味には、うるさい。 今さら、改めていうほどではないが…。 そのうるさい我が家のお寿司番付表の両横綱といえば、人形町の喜(き)寿司 に、六本木の兼定(かねさだ)だ。 大関が、おけいすしに、銀座鮨金かな。 この番付表に、横綱として書き込まれてもいいのが、この末廣寿司なのだ。 たまらんよ。 お腹がいっぱいになるのが、悔しい。 ずっと、このお店でお寿司を食べつづけたい。 玉子焼きで、最後にしようかなあ…。 でももう一度、トロが食べたいなあ…。 トロばかり食べる客になってはいかんよなあ。 でもねえ…。 しょっちゅうは来れないお店だから。 「あの〜〜〜、ひょっとして、最初に食べたトロより、もっとおいしい部位のト ロってあるんですか?」 「う〜ん。そうですねえ…」 黙って、ご主人が、マグロの山から、小さなトロを取り出して、包丁でスーー ーッ!と、筋を取り除いていく。 「ここは、1本からあまり取れない部分でね…」 「おお! そ、そんなところが食べられるのですか?」 ぐへっ! 私は、かつてこれほどまでの衝撃を受けたことがなかった。 あ、あ、あなた! ト、トロが、本当に、嘘でなく、正真正銘、まごうかたなく、口のなかで、し ゅわしゅわしゅわ〜と、溶けて行ったんだよ〜〜〜! こんなおいしいトロは、食べたことがないよ! 明日、誰かがごちそうしてくれるなら、新幹線に乗って、また行ってもいいく らいの味だよ。 困った。本当に困った。 清水市には、何の用もない。 何か仕事に結びつくような話はないかなあ。ははは。 午後5時7分。清水駅から、東海道線に乗車。
午後5時17分。静岡駅で下車。 いい時間に着くなあ。この時間なら、1時間に1本だけある、新幹線ひかりに すぐ乗って帰れるぞ。 ムダのない動きだ…と自画自賛。 午後5時34分。東京行き新幹線ひかり162号に、静岡駅から乗車。 本を読みながら、熟睡。 寿司っ腹で、寝るのは最高に気持ちいい。 午後6時33分。東京駅に着く。 車内販売のコーヒーを飲むつもりだったのに、寝てしまって飲めなかったの で、東京駅で、コーヒーを飲んで行く。 午後7時30分。帰宅。 うっひょ〜、疲れた。 『桃鉄研究所』の原稿を書き始める。 なんとか明日の夜には、原稿をアップさせたいなあ。 『桃太郎電鉄12(仮)〜地方編』スリの銀次も書かないとなあ。
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