3月5日(水)

 午前8時。『桃鉄研究所』の原稿を書いているうちに、また新しいカードのア
イデアがふつふつと浮かんだ。
 またまた脱線して、延々新しいカードの仕様書作りに励む。
 ゴメン! ちっとも『桃鉄研究所』を更新できない。
 最初のほうのメールなんて、みんな「あけましておめでとうございます!」と
書いてある。もう3月だぞ。

 一段落したところで、『桃太郎電鉄U(仮)』の仕様書作り。
 いろいろやることが多い。

 午前11時30分。あれ? きょうも京都は、雪だ。
 雪がちらちら舞っている。
 寒い。

 ヤサカタクシーの宮本さんに来てもらって、嫁と一条通り御前西入るの「おひ
るや豆魂(とうこん)」へ。
 日記に度々登場する、豆腐ずくしのお店。
 ここのおぼろ豆腐は、出来たてで温かくて、口のなかでふわっと溶ける。
 デザートが毎回違った豆腐のゼリーが出る。
 きょうはりんごゼリー。
 いつも出るコーヒーゼリーもおいしいけど、りんごゼリーもおいしい。

 最後に出る黒豆珈琲も、このお店までわざわざ来る理由のひとつ。  私がミルクを入れずに飲める唯一のコーヒーだ。  食後、梅の名所、北野天満宮へ。  またしても、雪が激しくなってきた。  デジカメに雪が写るほどではないが、梅と雪はよく似合う。

 まったく20代は、「花なんてものは、男子たるものが好きになるものではな い!」と断言できたのだが、30代、40代になると、まんまと花の美しさがわ かるようになり、50代になると、花の開花に合わせて、日本を移動してしまう のだから恐ろしいものだ。  人間、花に限らず、将来に対して、断言をしてはいかんと思うね。  戦争だって、若い頃から、絶対反対だったけど、貿易センタービルの仕返しと 思うと、イラク攻撃も、何が何でも反対が揺らぎそうな気がする。  仲のいい友人が、殴り殺されたときに、平静でいられないレベルでの気持ちだ けどね。

 梅は、間近で見てもいいし、俯瞰で見ると、さらに美しいねえ。  ウグイスが飛んでこないかな?と思うよ。  この間、和歌山まで見に行った梅は、梅干用なので、全部真っ白。  濃いピンク色のやつは、鑑賞用なんだそうだ。  北野天満宮には、この濃いピンク色の梅が多い。

 豊臣秀吉が、ここまでが洛中、京都だと区切った、お土居のあたりを散歩する。  北野天満宮を見終わった頃には、雪がやんでしまった。  もう少し雪が降っていたら、もっと北まで行って、雪が舞う豪快な写真が撮れ ただろうに。真正面に見える比叡山は、真っ白。  午後1時。今度は、西洞院(にしのとういん)仏光寺のひとつ西側の通りへ。  ここは、古い染物屋さんが多くて、半分ぐらいが古い建物で、半分ぐらいが今 風の通り。全部古かったら、京都を代表するような観光名所になるようなところ なのだ。  なにしろ通りの名前が「天使突抜(つきぬけ)1丁目」!  天使が、突き抜けるなんて、最高に縁起がいい地名だよね。

 この不思議な地名は、近くに五条天神社というのがあって、この神社の愛称が 「天使社(てんしやしろ)」。  この境内を貫く通りだったので、「天使突抜(つきぬけ)」という名前になっ たそうだ。

 本来、天使(エンジェル)ではなく、和風の天子様の意味だったんだろう。  ほかの地方で、こんなステキな地名があったら、観光資源の目玉にするはずな のに、京都ではこんな地名がほったらかしなのが、京都の観光における選手層の 厚さを思い知らされる。  午後2時。「イノダコーヒ三条店」で、コーヒーを飲んで、コンビニに寄って、 帰る。  おっ! 柴尾英令くんから電話だ。  もう新幹線に乗ったのか!  昨日メールで、私は「柴尾英令くんは、新幹線に乗る時間を教えてもらっても、 財布を無くして乗れなかったとか、家に引き返したとかという芸当を見せてくれ るので、新幹線に乗った時間を教えてくれ!」と、書いておいた。 「柴尾英令くん、早いね! もう乗ったの?」 「それが1本乗り遅れて、約束の午後4時30分には、間に合いそうも…」 「何! ってことは、まだ東武練馬かい!」 「えへへへ!」 「午後5時10分に、京都駅に…」 「マッジェ〜!(擬音の菅沼本舗謹製)」  今朝、柴尾英令くんから送られてきた『桃太郎電鉄U(仮)』の仕様書の時間 が、午前4時近くだったんで、嫌な予感はしていたのだ。  やられた。またしても、やられた。  まあ、なにはともあれ、お騒がせ人間のキャラを守り抜く柴尾英令くんであっ た。まあ、日記のいいネタだ。  帰宅後、『桃太郎電鉄U(仮)』のカード仕様書作り。  ひさびさにカードの枚数を大幅に減らしたら、何だか頼りなくなって、カード がもっと欲しくなってきた。  そんなわけで、新しいカードを倉庫(台帳)のなかから、引っ張り出してく る。 私の場合、つねにカードのアイデアをいくつかストックさせておいて、1 年のうち何回も見直して、その度に、新しいアイデアを加えて、違う名前のカー ドにして寝かせておくことが多い。  要するに、私はお酒を飲まないけど、ワインの保管庫のようなものだ。  いくつかよい加減で、発酵している年代物のカードがあった。  午後4時20分。ヤサカタクシーの宮本さんが来れないので、同僚の吉井さん が迎えに来てくれて、下長者町千本西入るの「大市(だいいち)」に向かう。  この「大市(だいいち)」に午後5時に行くために、柴尾英令くんに「午後4 時30分には京都駅に着いてよ!」と言ったのに、まんまとお約束ギャグのよう に遅れたのである。ぷんぷん。  午後4時40分。20分も早く「大市(だいいち)」に到着したので、しばら く近所を散歩することにする。  ただでさえ柴尾英令くんが遅れているので、お店には少し遅れて入って、時間 稼ぎをしてあげようというやさしい親心である。

 しかし、京都の寒さは、私たちの親心をあっさり砕いてしまった。  寒くて歩いていられないのである。  しかも行けども行けども住宅街で、目も楽しくない。  10分も歩けば、比叡おろしの寒風が、骨まで痛くする。  今回、こんなに寒くなると思っていなかったから、私は薄手のほうのコートを 着てきているので、よけいに寒い。  何のことはない、予約時間の午後5時5分前に「もうダメだ! 先に入って待 ってよう!」と、入店する。  親心、あえなく瓦解! 「大市(だいいち)」は、すっぽん料理で有名なお店。  というより、私が京都でまだ行っていない、残りひとつかふたつというくらい グルメなら必ず行くようなお店だ。  漫画の『美味しんぼ』(原作・雁谷哲、作画・花咲アキラ、小学館)の名前を 一躍有名にした、このお店の土鍋に、水を入れて、煮ただけで雑炊ができるとい うくらい年代物の土鍋が出てくるあの回のモデルとなったお店でもある。  年代物の土鍋が出てくるどころか、このお店の創業は、江戸時代の元禄年間と いうから恐れ入る。元禄年間といえば、徳川綱吉の「生類憐れの令」が出たり、 松尾芭蕉が『奥の細道』に旅立った頃だ。  今でも、玄関から土間、その先ぐらいまでが、元禄年間のままだそうだ。  奥の部屋でも昭和初期というくらい古い。

 そうそう、何で私がこのあまりにも有名な「大市(だいいち)」にこれまで来 なかったかというと、単純に私が、あまりすっぽん自体が好きではないため。  それとTVでよく見る、すっぽんの生き血を飲まされるのが、とてもじゃない けど、嫌だったからだ。  では、何で来ることになったかというと、グルメの師匠・すぎやまこういち先 生ご夫妻が最近このお店にはまっていること。  それと、「大市(だいいち)」ではすっぽんの生き血を飲むことをまったく強 要していないと教えていただいたから。  どうもTVの珍しいものへの過剰なまでの演出は、お店へ行くのを足止めして しまうと思うなあ。旅番組でダチョウ倶楽部が行くお店は、行ってはいけないお 店と認識してしまう。  それと、このところ、わが家族がこよなく愛す、「特に名を秘す京都M」で飲 んだすっぽんのスープと、麻布十番の「たき下」で飲んだ、まる鍋のスープがお いしかったから。  かなり、すっぽんへの偏見が抜けてきている。  というわけで、「大市(だいいち)」に来たのだが、柴尾英令くんはまだ到着 していない。午後5時の予約なのに、午後5時10分。京都到着なのだから、ど こでもドアでも、京都駅からは間に合わない。  待っていても仕方がないので、ふたりだけで先に食べることに。  なるほど、昭和初期の部屋は、柱のひとつひとつに年輪を感じる茶室のような 雰囲気だ。かつてどのくらいのお偉いさんがここで密談を交わしたことだろう。  実は、かなりというか、相当というか、見事に値段は高い。  興味のある人は、インターネットで調べて、腰を抜かしてほしい。

 いきなり、先付けで、すっぽんの切り身が出て来た。  少しは、口にしてみる。  思ったより、苦手な味ではなかった。  でも、柴尾英令くんが遅れた罰のために、残しておいてあげる。  引き続き、あの有名な土鍋が、大量の湯気と同時に、登場した。  これはさすがに、迫力あるよ!  使い込まれた土鍋は、剣豪・柳生石州斎のような枯淡の境地の老人のような風 格を感じる。何で柳生石州斎かというと、NHK『武蔵MUSASHI』の柳生 石州斎役の藤田まことサンの枯れた演技が最近お気に入りのせい。

 すっぽんのスープを飲む。  うまい。さすがに、うまい。  きょうは寒いから、すっぽんのスープ日和だ。  想像していたより、ちょっと濃くて、甘いんだな。    すっぽんの肉も少しいただく。  思ったより、食べられた。  でもまだ絶品と思えるほど、親交は深められなかった。  国交回復程度かな。  今まで、まったくダメだったのだから、かなりの進歩だ。  午後5時30分。思ったより、早く柴尾英令くんが到着。  どうせなら、ついでに新幹線のなかで寝てしまって、故郷の「小倉まで行っち ゃいました〜!」という豪快な離れ業を見せてほしかった。 「一応、柴尾英令くん、遅れたポーズを!」と、要求して、デジカメする。  何だ。いつもの顔だな。

 もう一度、土鍋が登場する。  柴尾英令くんに、「それ食え!」「やれ食え!」と、すっぽんのお肉を食べさ せる。私が苦手な分を、柴尾英令くんに押し付けているのだ。 「そんなに、食べられませんよ!」 「遅れて来た罰だ!」 「わからない罰だ!」  さすがの柴尾英令くんも、すっぽんのお肉の量に飽きたようだ。  お店の人に、次のすっぽん雑炊をお願いする。  実は、このすっぽん雑炊が食べたかった。

 来た! 来た!  おっとっとっと! あぢぢ…。  がっついてしまった。  土鍋で煮えたぎっているだけに、熱いよ!  少し冷ます。  おお! こ、これはうまい!  実にうまい!  柴尾英令くんが、「ご飯がうまいなあ! まるでアルデンテのように、真ん中 にちょこっと芯があるかのような固さがあるおいしさだあ!」と大喜び。  うん。柴尾英令くんの感想に、私も賛成!  雑炊だから、もっとご飯はぐちゃぐちゃなのかと思っていた。  最後は、土鍋にこびりついたご飯を、がりがりとこそいで、あっという間に雑 炊が無くなる。早い!  食べ終わっちゃったよ。  ちょっとあっけない。  うーーん。間違いなくおいしかったけど、すっぽんの先付けで、すっぽんの肉 だけで、すっぽんの雑炊という単純なコースは、もう一度行きたいかというと、 自分でもまだちょっとわからないなあ。  すっぽんお肉の鍋に、ネギとか白菜とか入っていたらよかったような気もする が、それじゃすっぽんのおいしさは引き立たないのかな?  なにより、すっぽんの鍋と、すっぽん雑炊だけで「特に名を秘す京都M」の料 金とほぼおなじというのは、判断力を狂わせる。  でも20代のときに、花を美しいなどと、一生言わないと思っていたから、二 度と来ないとは断言できないなあ。  いつのまにか、毎月来るほど、はまっちゃったりして。  20代のときは、マツタケが嫌いだった適当な私の味覚だ。  当てにはならぬ。  でも、すっぽん雑炊は、もう一度食べたい。  ほ〜ら。もう変節開始だ。  午後8時。柴尾英令くん、ヤサカタクシーの宮本さんと、ブライトンホテルへ。  ついついここ数日甘い物を食べていないので、禁断症状に耐えられなくなって、 クラシック・ショコラを、宮本さんと分けて食べる。

「うま〜〜〜!」 「これは、うまいよ〜!」 「ダメだ! 宮本さん、早く食べて! 食べて!」 「何でですか、さくまサン?」 「宮本さんが食べてくれないと、無意識に全部食べちゃうかもしれない!」  午後9時。帰宅。  NHK『そのとき歴史は動いた』のヒトラーを見る。  やっぱり独裁者が出現すると、戦争に突入するんだなあ。  フセイン、金王日…。  嫌な傾向だ。  午後10時。『ニュースステーション』を見る。  昨日の予告で、横浜ベイスターズの古木克明選手のクローズアップをやると言 っていたので、ビデオ録画しながら、古木克明選手特集を待つ。  ほほほほ。  にまにま。  のほほほほ。  うほほほ…。  横浜ベイスターズの選手がこんな風に特集されるなんて、ほんと、佐々木主浩 (ささき・かずひろ)様以来だよ!  ふほほほほほほ。  えへへへ…。  ああ! 私の顔は崩れっぱなし。  きょうは日ハムに、7対1で負けたの?  いいの、いいの。  古木克明選手を特集してくれたから、ご満悦。  さ〜て、録画したビデオで、もう一度古木克明選手の勇姿を見るかな。  いいフォームだ。  いいスイングだ。  いい飛距離だ。  バカだ、私は。  明日は、東京から土居ちゃん(土居孝幸)、読売広告の岩崎誠が到着する。  漫画『ONE PEACE ワンピース』のように、少しずつ仲間が増えて行く。

 
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