１１月０８日（金）

　午前１１時。表参道の落ち葉の量がかなり増えて来た。
　寒いねえ。一瞬、外に出たら、暖かいのかと思って、コートを置いて行こうと
したけど、万が一とおもって、持って行ったのが、正解だった。
　気温以上に、風が寒い。

　嫁と、原宿の「ペルティエ」へ。
　若鶏のグリルとコーヒー。

　午後１２時。帰宅。
　昨日、リライトした『おいしい桃鉄』（小学館）の佐原特集がどうも気に入ら
なくて、ほかの地方に変更する。
　いずれにしても地方取材のときの日記の文章量は尋常ではないので、短くしな
いといけないのがつらい。

　午後１時。空気男爵・柴尾英令くんが来る。
　柴尾英令くんは最近ダイエットに成功して、最近の男爵は空気が抜けてしまっ
たようだ。
　でも来月になれば、忘年会の季節だ。
　あっというまに、ぷ〜〜〜！と、空気が入って、リバウンドだ！

　柴尾英令くんと、『桃太郎電鉄１２（仮）〜地方編』の地方編のＭＡＰを全面
的にやり直すことにする。
　きょうは、そのプランと、方向性だけ決める。
　お城を建てる材料は揃っているけど、最初から組みなおさないといけないくら
いの覚悟が必要。むむむむうっ！

　午後２時。土居ちゃん（土居孝幸）、井沢どんすけが次々に訪れる。
　きょうの打ち合わせは大変だ！

　土居ちゃん（土居孝幸）、柴尾英令くんと、『桃太郎電鉄Ｕ（仮）』の打ち合
わせをしている脇で、井沢どんすけが『おいしい桃鉄』の私の原稿を読んで、チ
ェックをする。しかも井沢どんすけは、私たちのゲームのアイデアがまとまり始
めたら、それがおもしろいイベントか？　わかりやすいイベントになっているか？
といったことを、ジャッジしていかないといけない。

　桃太郎チームの仕事は、同時にふたつに仕事をこなすぐらいザラなので大変で
ある。しかもふたつの仕事をしながら、雑談もする。ただし、雑談を続け過ぎる
と、会議のメンバーから外されてしまう。けっこう過酷な生き残りレースなので
ある。

『桃太郎電鉄Ｕ（仮）』の会議を始める。
　おお！　またしてもおもしろいシステムが加わわりそうだぞ！
　桃太郎チームは『桃太郎電鉄１１〜ブラックボンビー出現の巻！』から、まっ
たく違うチームになってしまったのかと思えるほど、ゲーム作りのやり方を変え
た。

　何度も書いているが、掲示板を作ることによって、「言った！」「言わない！」
の揉め事を根絶できた。だいたい仕事のトラブルの８０％以上は、「言った！」
「言わない！」が原因だ。
　掲示板導入の力は大きい！

　そして、もうひとつ。
　会議のやり方だ。
　まず「ボク的には…」という言い方を禁じた。
　ゲーム作りは、「ボクのために」作るのではなく、「お客さん」のために作る
のだ。だから、「ボク的には…」は間違えで、「お客さん的なら…」という言い
方が正しいのだ。

　さらに、他人の意見を尊重して、いい方向に歩み寄る。
　日本人の議論というのは、『朝まで生テレビ』を見ていても、相手を言い負か
そうとしているだけで、議論になっていない。
　高速道路の問題だって、相手の意見をけなすだけで、ちっともどことどこを残
して、どこを消すべきかという議論にならない。

　だから、たとえば『桃太郎電鉄Ｘ（ばってん）』で登場した「鉄道経営」のシ
ステム。
　あまりにも画期的なシステムなので、ほかのイベントやカードが邪魔すること
の多い内容だった。長崎本線と、鹿児島本線は途中まで線路はいっしょだけど、
どっちの収益になるんだ？　決算の直前で手放した鉄道は、誰のものになるんだ？
「困難」を挙げ始めたら、いくらでも浮かぶ。
　しかも、他人の意見の間違い探しくらい、簡単なものはない。

　桃太郎チームでは、まず「鉄道経営」のイベント自体のおもしろさから議論す
る。おもしろそうだ。だったら、みんなで実現化に向けた議論をしよう。ほかの
人の意見を否定する場合は、必ず代わりのアイデアをいうこと。
　この方法で、つねに無駄骨で終わる会議がなくなった。

　そんなわけで、きょうも『桃太郎電鉄Ｕ（仮）』の根幹をひっくり返すような
アイデアが出て、みんなで実現化に向けて、冗談を言ったり、こんがらがったア
イデアを出してみたり。
　まだまだ問題点はいくつも噴出しそうな気もするが、確実に大きく前進だ！

　きゅるるるる…。ぐるるるるる…。
　キュ〜〜〜！
　きゅるるるる…。ぐるるるるる…。
　キュ〜〜〜！

　あれ？　変な音がするぞ。
　何の音だ。
　井沢どんすけのほうからだ。

「井沢〜〜〜！　お腹鳴っていない？」
「えへえへえへっ。すみません！　もうさっきから『おいしい桃鉄』の原稿を読
んでいたら、お腹が減って、お腹が減って！」
「それは作者としては、うれしいなあ！」
「お腹減りますよ、この文章は！」
「何たって、題名が『おいしい桃鉄』だからな。読者にお腹減ってもらって、豆
知識が覚えてもらって、さらに笑わしたいという最高に欲張りな文章をめざして
いるんだ、今回は！」

「じゃあ、井沢さんがお腹が減ったところで、さくまサン、きょうはどこに食べ
に行きます？」
「きょうは、『櫻川』に行こうと思っていたんだ！
　この間、ついに『桃太郎電鉄Ｕ（仮）』の３本柱となるアイデアの３本目が出
て、きょうはさらに４本目に匹敵するようなアイデアも出た！
『おいしい桃鉄』（小学館）の執筆も峠を越えた。　そのお祝いがしたい！」
「いいですねえ！」
　土居ちゃんも、柴尾英令くんも、井沢どんすけも、まだ一度も「櫻川」に行っ
ていない。

　嫁が「櫻川」に電話する。
　むむ？　嫁がご主人と話し込んでいる。
　話し込んでいるということは、満員だな。くそっ。

　どうも、井沢どんすけにおいしい料理を食べさせてあげようとすると、ダメに
なるなあ！　井沢どんすけは、榎本４８歳系か？
　どうもこのふたりは、値段の高い料理屋さんにいっしょに行こうとすると、何
かの都合で行けなくなる。

　うちの身近な界隈では、京都の「Ｍ」に行っていないのは、井沢どんすけと、
榎本４８歳だけである。ストロウ・ドッグスのふたりは若造なので、まだ「Ｍ」
は早い！

　なんでも、「櫻川」は雑誌に載ってから、ずっと予約ラッシュが続いているそ
うだ。この不景気な世の中だというのに。
　やっぱりおいしい料理のお店は、不景気に関係ないんだねえ。
　ゲームも、ブームに関係ない作り方をしろということだな。

　あまりにも井沢どんすけが、グルメ運がないので、嫁がつい「プティ・ポワン
はどう？」と言い出す。
　それはまた、見事にグルメ運のない井沢どんすけにとって、断られるに決まっ
ているようなお店を選んでしまったものだ。

　しかし、私たちは、井沢どんすけが、サイコロ３個全部１を出す達人である
と、同時に、サイコロ３個全部６を出す達人なのを、忘れていた。
　空いていたのである。ひょえ〜！

　喜ぶ、井沢どんすけ！
「ボク、まだ一度も行ったことがないんですよ〜、プティ・ポワン！
　日記でずっと見ていて、行ってみたかったんですよ〜！」
「そうか。井沢どんすけ、でも今晩これから仕事の打ち合わせがあるんだろ？　
えっ？　阿佐ヶ谷に午後９時？　『プティ・ポワン』は最低でも、食べ終わるま
でに２時間はかかるぞ！　午後７時から食べ始めたら、メイン・ディッシュの直
前でお店を出ないと、打ち合わせに間に合わない！」
「えへえへえへっ。打ち合わせの開始時間を、延ばしてもらいます！」
　さすが、わがままな井沢どんすけだ。

　午後６時。井沢どんすけのために、こんな早い時間から、「プティ・ポワン」
に行くことになった。
「どうした、井沢どんすけ！　顔色が悪いぞ！」
「えっ？　いや。ちょっと。緊張しちゃって！」
「プティ・ポワン」の格調高い雰囲気に、井沢どんすけ、ひるんだようだ。　

　しかし、緊張したのも、つかの間。
「ひえ〜〜〜、なんておいしいパンなんだあ！」
「うへ〜！　こんなおいしいサラダ食べたの、生まれて初めてですよ〜！」
「ええっ？　これなんですか？　フォアグラ丼？　こんな大きなフォアグラ見た
の初めてですよ〜！」
「ううっ。これプリンなんだあ！　ああ、おいしい。桃源郷にいるようだ。ゆっ
くり食べよう！　早く食べちゃうのが、もったいない！」

 
 
 
 



　井沢どんすけは「プティ・ポワン」を気に入ってしまったようだ。
　それはそれで、困ったもんだ。
　食費が高騰する。
「こういう料理を食べるために、一生懸命仕事をしたくなる気持ちがわかりまし
たよ！」
　あんまり、わからないほうが幸せだったかもしれないぞ。
　やはり、井沢どんすけ。敵に回すと恐いが、味方にすると、もっと食費のかか
る男である。

　午後９時。帰宅。
　成沢大輔くんから、電話が入って、特集記事は「佐原」のままで行きましょう
というアドバイス。
　どうも私としては、笑いがないので、つまらない。
　でも、成沢大輔くんに言わせれば、「佐原」で見つけた食べ物が、物件名にな
る瞬間だから、そのメイキングのよさを読者に見せたいのだという。
　そういえば、題名は『おいしい桃鉄』（小学館）だったのだ。
　笑わせる必要はなかった。
　もう少し文章に手直しを入れて、「佐原特集」で行くことにした。
　今回の仕事は、とにかく捕手・成沢大輔のサイン通りの球を投げてみようと思
っている。出版の仕事のこういうやりとりは、わくわくする。

　今夜は、井沢どんすけのチェックが入った、近畿地方〜九州地方の文章の手直
しと、「佐原取材日記」の手直し。
　さらに、私の取材旅行の「十戒」のような箇条書きを作る仕事。
　むふふ。フリーライターに戻ったような気分だ。