9月14日(土)

 しかし、何だね。
『桃いろ』のロケは、しんどかったけど、ゲームだけ作ってたら、こうして高松
に来て、初めて会う人の数もめっきり少なくなるから、やっぱりラジオとか、テ
レビの仕事は適度にあったほうがいいなあ。

 高松地方は、雨。

 午前9時30分。全日空ホテルクレメント高松のロビーで、土居ちゃん(土居
孝幸)、サザンオールスターズのベーシスト&ウクレレ伝道師・カズ坊(関口和
之)と待ち合わせ。
 ロケバスで、岩崎誠がホテルまで迎えに来てくれる。
「さくまサン! お願いですから、雨を降らさないでくださよ〜!」と、岩崎誠。
「まあ、無理だなあ! 私はきょう思う存分、讃岐うどんを食べるつもりで来て
いるから、仕事モードにまったくなれない!」
「まいったなあ!」
 岩崎誠よ! 本気で、私の雨ふらしのジンクスを信じないでくれよ〜!
 私は、モーゼや、新田義貞じゃないんだからさあ!

 午前10時。高松市役所の近くの讃岐うどん屋さん「さか枝(えだ)」へ。
『桃いろ』の桃太郎ガールズの女の子たちがここで撮影するというのに、便乗し
て、こっちは食べに来ただけ。
 よく考えれば、不謹慎なやつらである。
 このお店もまた、セルフのお店で、麺の大きさをカウンターで言って、天ぷら は、何枚!と自己申告ののち、枚数分を自分で、お皿に盛る。  高松では、品数をちょろまかすようなお客さんの概念はない。
 私と嫁は、ぶっかけうどんの(小)、160円に、いわし天に、海老天。  天かすを好きなだけ、かけられるのが、このお店の特徴。  味のほうは、だんだん私の舌が、讃岐うどんに対して、厳しくなってきている のを痛切に感じる。  麺がやわらかくて、弾力が少ない。  以前だったら、このレベルの讃岐うどんなら、大喜びしたはずなのに。  天ぷらの脂が、ちょっと気になる。  FMマリノの酒井秀樹くんが、土曜日なので、私服で到着。  派手なアロハで、何だかいつもの酒井くんと違う。  鬼無駅の「桃太郎電鉄石像」を作ってくださった、三好石材の社長さんがたも 到着。  酒井秀樹くんは、「『さか枝』の麺は、固くて、美味しい。ボクは好きだなあ!」 というではないか。  えっ? 麺が固い? 「私のも固かったですよ!」と、三好石材の三好康治社長。 「ええ〜!? 私と嫁の麺は、ふにゃふにゃでちょっと印象に残らないレベルで したよ!」  ちょうど麺の入れ替えどきの最後だったのかもしれない。  このお店は、市内にあって、午前7時開店という貴重なお店だけに、この問題 はけっこう重要だ。  午前7時で、現在午前10時というのは、たしかに最初の麺が終了時期だった のかもしれない。  なにしろ、このお店は、昨日お会いした、『恐るべきさぬきうどん』(ホット カプセル刊)の作者・田尾和俊さんは、今月号の『dancyu(ダンチュー)』 の特集「讃岐うどん 天下無敵」で、このお店を推薦してい。  麺は打ち立てというくらいで、出来たばかりの麺かどうかは、讃岐うどんでは 重要なポイントらしい。  何だか、ちょっと悔しい。 (私とうどん好きな人のためのメモ) 「さか枝」  高松市番町5−2−23  営業時間 7:30-16:30(土曜-15:00)  日曜・祝日定休  目印:高松市役所。  ハドソン宣伝部の梶野竜太郎くんから電話が入る。 「さくまサン! すでに池上製麺所の前に来ています! まだ誰も行列していま せん! ボク、並んでいますから、いつでも来てください!」  今回の旅のなかで、どの段階で、カズ坊(関口和之)を「池上製麺所」に連れ て行くかというのは、けっこうみんなの関心事だった。  この1ヶ月間ぐらい、カズ坊(関口和之)の前で、延々この「池上製麺所」の 話ばかりして、「いっしょに高松まで、讃岐うどん食べに行こうよ!」と、ずっ と言い続けていただけに、このまま「池上製麺所」に寄らずに帰すわけにはいか なくなっている。  しかも、今月号の『dancyu(ダンチュー)』が発売されて、「讃岐うど ん 天下無敵」でも、この「池上製麺所」は大きく取り上げられている。  おまけにきょうは、特集号発売後、最初の3連休だ。  日本じゅうから、うどんマニアが集まってきているかもしれない。 (私とうどん好きな人のためのメモ) 「池上製麺所」  高松市鶴市町1009  営業時間 10:40〜11:20 16:40〜17:00 目印:マルヨシセンター。  この午前中、わずか40分間だけの時間に「池上製麺所」に行くのは、実に大 変なのだ。  きょうもぎりぎりまで、岩崎誠が「池上製麺所」に行きたがっていた。  私が梶野竜太郎くんと電話をしている最中も、横で岩崎誠が、雨の日の小犬の ように「行っちゃうの? 行っちゃうんですよね?」と、淋しそうだった。  三好石材さんの車2台に分乗して、いざ「池上製麺所」へ。  午前10時30分。今年3回目の「池上製麺所」だ。  今のところ、桃太郎チームでは、この「池上製麺所」が、圧倒的第1位だ。 <桃太郎チーム現在の讃岐うどんベスト3> 帝国データ・パンク調べ。 1位・池上製麺所 2位・しんせい(福井製麺所)…蛸の天ぷら。 3位・竹清(ちくせい)…半熟卵の天ぷら。  この3つが、大人気だ。  いちばん最初に行って、讃岐うどんブームの火付け役となった「山越(やまご え)」で感動したことが、はるか昔の10年前のことにように感じる。  実際は、昨年のことだ。  私は、イカのようにぷりぷりっに固い歯ごたえのお店「あたりや」がお気に入 りなのだが、今はすっかりお店の人たちが、うどんブームで、天狗になってしま って、接客が最悪になっているそうだ。  接客の悪いお店は、早晩、味も悪くなるから、行くのをためらっている。  それより、まだまだ行ったことのないお店は、たくさん残っている。  昨日は麺通団の安藤芳樹さんから、美味しい宿題をもらっている。 「池上製麺所」の名物おばちゃん・瑠美子さんが、手招きをしている。  えっ? もう食べさせてくれるって?  まだ営業時間まで、10分近くある。 「やったあ!」  すっかり、みんな大喜び。  おばあちゃんに、「東京から来た」、「先週も来た!」、「今年、3回目!」 というと、おばあちゃんはくしゃくしゃの顔をさらに、くしゃくしゃにして喜ん でくれた。
 むふ〜〜〜っ!  やっぱり、ここの麺は別格だなあ!  何で、麺と醤油とネギだけなのに、こんなに美味しいのかなあ。  この「池上製麺所」には、天ぷらのようなトッピングは、まるでない。  なのに美味しいのだ。  しかも、一玉65円。  卵が30円。  1杯95円。100円未満だ。  おばあちゃんが作る麺が、特別なんだろうなあ。  梶野竜太郎くんが、苦笑しながら、偉そうに、「ここは全員の分を、ボクが払 います! もちろん、領収書なしです!」と叫んでいる。  総勢8人分の飲食代をすべて、梶野竜太郎くんが、おごるのである。  東京でランチだとしても、1万円である。  だが、ここでは1000円に満たない。  しかし、私たちは本当に、讃岐うどんマニアになりつつある。  何で私たちは、こんなに讃岐うどんマニアになってしまったのだろう。  どのお店も味が違っていて、その数が多いので、すべてを走破したい気分にな るせいもある。  でも私たちのように、旅人には、走破は絶対無理だ。  ひとつには、讃岐うどんというのは、「親友の証」なのではないか?という仮 説を立ててみた。  讃岐うどんの庶民性というのは、面識が浅かったり、位が違いすぎる人を容易 に誘えない。いくら私たちが、JR四国の梅原社長と懇意にさせていただいて も、まだまだ「いっしょに讃岐うどんでも、食べに行きませんか?」とは言い出 しづらい。  かなり親密にならないかぎり、「讃岐うどん、食べに行かない?」と言えない ということは、裏返せば、言えるということは「親友の証」ということになる。  わざわざ高松まで行って、1杯65円のうどんをすする関係というのは、素晴 らしく素敵な関係だといえるよね。  私たちから「讃岐うどんを食べに行きません?」といわれたら、私たちは親友 だと思っていると、認識してください!
「池上製麺所」の前で、おばあちゃんといっしょに、記念撮影。 「おいしかった!」 「おいしかったです〜!」 「あ〜、それは、よかった、よかった!」  おばあちゃん、ちっとも気取らない。  撮影後、おばあちゃんのほうから、握手を求めてきた。  握手した手は、ごつごつしていて、ものすごい握力だった。  この腕で、あの美味しい麺を作っているのだな。  おや? カズ坊(関口和之)が「池上製麺所」の東にある川岸に立って、遠く を見やっている。CM写真のようだ。  やっぱり芸能界の人なんですな。  ついつい忘れちゃう、讃岐うどんの関係の人だからなあ…。
 午前11時30分。屋島の喫茶店「マリーン」へ。  みんなで、鬼無駅の石像第2弾を何にするかといった話に燃える。  朝から行動しているので、まだ午前中であることに驚く。  本当は、これからさらに、あの蛸のてんぷらの美味しい「しんせい(福井製麺 所)」まで行って、もう1杯食べるか?という話題になっていたのだが、さすが にカズ坊(関口和之)が根をあげた。 「もう1杯食べちゃうと、京都の『M』で、何も食べられなくなっちゃう!」  そうなのだ。  カズ坊(関口和之)を高松に誘うために、帰りに、京都の『M』に寄るという 約束をしていたのだ。 「カズ坊(関口和之)! もう1杯、讃岐うどんを食べて、京都の『M』に寄ら ずに東京に戻るというのは?」 「えへ〜。それは…やだ…!」   ははは。困った、おっさんだ。  午後12時30分。三好石材の三好康治社長に、全日空ホテルクレメント高松 まで送っていただく。  私、嫁、土居ちゃん、カズ坊は、全日空ホテルクレメント高松の1Fで、桃太 郎電鉄さぬきうどんを買って、東京に送る。  午後1時21分。高松駅。  私、嫁、土居ちゃん、カズ坊の4人は、快速マリンライナー32号に乗車。 「カズ坊(関口和之)! 今から30分間、寝ちゃダメだよ!」 「ええ〜? 何で?」 「瀬戸大橋から見える景色が、最高にいいから!」
 快速マリンライナーが、瀬戸大橋に差し掛かると、カズ坊は、首を伸ばして、 瀬戸内海のおだやかな海を眺めて、感動している。  この眺めは、電車から眺める景色のなかでも、間違いなくベスト3に入る景色 だと思う。    でも、眠くなる。  カズ坊に、寝ちゃダメだよといった私のほうが、先に寝てしまった。  嫁の話によれば、土居ちゃんも、カズ坊も、すぐ寝てしまったようだ。  瀬戸内海を眺めながら寝る。  こんな悦楽、ほかにない。
 午後2時40分。岡山駅着。  えっ? 新幹線乗車まで、8分しかない?  そりゃ、急がねば。  午後2時48分。岡山駅から、ひかり162号に乗車。 「カズ坊(関口和之)! ここままこの列車に乗っていれば、東京に帰れますよ 〜!」 「ええ〜! そ、それは…」 「カズ坊の『京都M』に対する執念は凄まじいものがあるねえ!」 「えへへへ…」 「でも、かなり讃岐うどんは気に入った?」 「うん…」 「おお! それはいい! また、カズ坊(関口和之)! 高松に行こうよ!」  午後3時49分。京都駅着。  八条口から、改札を出ようとすると、もうヤサカタクシーの宮本さんが、にこ にこ手を振って、待っていてくださる。  ヤサカタクシーの宮本さんの車で、白川から、高台寺あたりを走ってもらう。  まだ、「京都M」に行く時間まで間があるのだ。  今朝から、讃岐うどんを食べた以外、ほとんど動いていない。  少しは歩いて、お腹を空かさないと。
 京都は、3連休の初日だけあって、かなりの人出だ。  ハッピー・マンデーのことを、面倒だ、何の意味があるのだ!という人は多い けど、確実に旅行客は増えていて、お金をつかう機会は格段に増えているそうだ。  今まで、家族で旅行できなかった人が、ハッピー・マンデーのせいで、2泊3 日の旅行が可能になったらしい。    午後5時。御池地下街で、私と土居ちゃん、カズ坊の3人は、「カスカード」 で、モルトくるみパンを買う。 「明日の朝食用に買って帰るかな」と、土居ちゃん。 「土居ちゃんは、絶対今晩食べちゃうと思うなあ!」と、私。  京都ホテル脇の「ALZA(あるざ)」で、コーヒー。    午後5時30分。特に名を秘す、「京都M」へ。  カズ坊(関口和之)が、うれしそうだ。  鱧とマツタケのしゃぶしゃぶに、悶絶する。  みんなで、シーフードカレーをお代わりして、苦しむ。
 午後8時30分。京都駅へ。  もうおわかりだろうか? 土居ちゃんと、カズ坊は、このまんま新幹線で、東 京まで帰るのだ。  まさに「京都M」のためにだけ、途中下車したのである。  高松から飛行機で帰れば、1時間で東京に着くというのに、わざわざ京都で寄 り道してまで寄らせる「京都M」の魔力って、すごいでしょ!  午後9時。私と嫁は、京都の仕事場へ。  高松2泊3日の日記を書き始める。  やっぱり、きょうは眠いや。  バタンキュー!
 

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