9月10日(火)

 ふあわわ〜! 眠いよ〜!
 昨日、『北の国から』のドキュメンタリーを午前3時過ぎまで、見てしまった
よ〜! 旅に出る日って、朝早く目が覚めてしまうから、よけい眠いよ〜!

 午前10時。嫁と新宿の京王高速バスセンターへ。
 きょうは電車ではなく、長野県まで、高速バスで行ってみようと思う。
 悲しいことに、スーパーあずさ号で行っても、バスで行っても、コースもおな
じ、時間もおなじなのだ。
『桃太郎電鉄』の作者としては、電車を利用したいところだが、東京に50年間
住んでいて、いつもこの京王高速バスセンターの前を通りながら、一度も利用し
たことがなかったことに気がついた。
 そう思うと、バスで行きたくなる。
 路線でいうと、飯田線のバスを予約する。

 お腹が減っているので、近所で食事をと思うのだが、この時間ではどこも開い
ていない。
 
 午前10時30分。喫茶「カフェ・アラビカ」で、ホットドッグ・セット。
 乗車開始時間まで、あと20分しかない。
 でも食べるのは早いから大丈夫。

 午前11時。京王高速バスセンターから、飯田行きの高速バスに乗車。
 有名なバスセンターだから、地下に広大な広場みたいなのがあって、何10台
もずらりと並んでいて、こっちは長野行き、あっちは甲府行きと分かれていると
思ったら、地上でたった3台並ぶスペースしかなく、10分前にお客さんを乗せ
て、次から次へと、ピストン発車する。
 遠い所に向かうわりには、無造作な出発だ。
 車内は、横4席で、50乗りぐらい。  京都から、徳島まで乗ったバスよりも小さいなあ。  しかも、私も嫁も、キャリーバッグを引きずったまま乗車してしまったので、 座席が狭い。  私の『キャプテン翼』の翼くんのように長い足が、苦しい〜!  誇大表現でした。  身体をよじらないといけない程度だけど、これから3時30分乗り続けるかと おもうと、ちとつらい。  高速バスは、新宿のインターチェンジから、中央高速に入る。  薄曇りのなかを、バスはゆっくり走る。  自分で車を運転しなくなって、20年以上になるので、中央フリーウェイはひ さしぶりだ。  ユーミンの歌の「♪右に見え〜る、競馬場〜」だ。  寝不足なので、寝て行くことに。  おいおい。私が寝ようとすると、小雨が降り始めるのは、やめてくれ。  私が遊び気分で旅に出ると、雨が降り、仕事モードで旅に出ると、ピーカンに なるジンクスが定着するのは、かまわないが、少しは寝させてくれ。  しかし、寝かせてもらえなかった。  後ろの座席のバカ女子大生ふたりが、だ〜らだら、だ〜らだら、抑揚のない会 話をしていて、睡眠に突入できない。  大きい声でないのに、妙に耳にこびりつく声ってあるよね。  そういう声なのだ。  間を取れよ、間を! 「ゼミの○○くんが、○○さんと付き合ってるの、すごくな〜〜〜い? だ〜ら だら、だ〜らだら」  どこがすごいんだあ!  どうも飯を食いながら、しゃべっているようだ。  飯を食っているなら、会話は途切れ、途切れになるはずなのに、間断なく、だ 〜らだら、だ〜らだら、だ〜らだら、だ〜らだら、止め処なく続いている。  まったく、もう寝れないよ〜!  いったい、どういう顔をしてるんだ!  うわっ! 見るんじゃなかった。  正確に容貌を描写すれば、するほど、訴えられそうだ。  こういうときは、比喩だ、比喩!  肉まん、白豚…。  いかん、ますます訴えられる!  がに股の短い足を狭い通路に投げ出すなよ!  いかん。悪口しか浮かばない。  バカ女子大生たちの会話の話題が、TVの『あいのり』に移った。  こういうピ〜〜〜(自主規制)な女にかぎって、『あいのり』みたいな番組を かかさず見ている!  こんな女、『ただのり』でも、嫌だ!  おっと。眠いから言葉に自制心がまったく無くなってきた。  もうダメだ。  後ろのほうの空いている座席に移ることにした。  寝たい!  天国だあっ!  足元で窮屈だったキャリーバッグは置いてきた。  ふう。開放感と静寂を得た。  これで少し寝られるぞ。
 午後12時45分。高速バスは甲府の先の双葉サービスエリアで、休憩のため に停まる。  場所でいうと、韮崎(にらさき)が近い。  もう少し寝ていたかった。  景色に山が増えてきた。  さっそく、お土産品売り場で取材。  甲府だけに、桃、ブドウ、梨に、リンゴだ。  定番の信玄餅も売っている。  それ以外は、新しくて変わったものは、売っていなかった。  安心、安心。  午後1時。再び、高速バスは走り出す。  そろそろ八ヶ岳が見えてくるはずだ。  小淵沢が近い。  うーーーん。日本の地理については、相当自信があるけど、基本的に山は、高 所恐怖症にとっては、苦手なので、山の位置に疎い。  あ〜、右手に八ヶ岳が見えたと思ったら、もう通り過ぎてしまった。  午後1時35分。諏訪湖が見えてきた。  人家が、イカリングのころものように、湖のまわりにびっしりこびりついてい る。道路標識が、長野方面から、名古屋方面に変わった。  午後2時。伊那(いな)を通過。  中央アルプスがせまってくる。  山に取り込まれた。  2000メートル級の山ばかりだ。  午後2時20分。駒ヶ根インターチェンジで、下車。  おろろ?   高速道路の片隅で下ろされちゃったぞ!  どこに行けばいいんだ?  まわりに何も無い。
 ん? 「高速バス利用者出口」の看板があった。  歩くしかないよな。  高速道路の側道だ。  何の変哲もないアスファルトの道だ。  いったいこの道はどこに続くのだ。  おお!  国道っぽい道に出た。  出ただけだ。  空気がおいしい。  気温もちょうどいいクーラーが効いているような温度だ。  それはいいんだけど、ここからどうすればいいのだ?  タクシー乗り場もなければ、売店もない。  ただの道路に放り出された。  仕方ない、ちょっと先に見えるガソリンスタンドまで歩いて、タクシーでも呼 ぼう。予約したホテルは、駒ヶ根インターチェンジから3分と書いてあったのに、 そのタクシー乗り場がないじゃないか。  キャリーバッグをごろごろ引きずりながら、ガソリンスタンドまで歩く。  おおっ! バス停があったぞ!  バスでもいいや!  えっ! あっ? こ、こ、これは〜〜〜!  こんなに驚いたのは、ひさしぶりだ。  さあ! みなさん、驚く用意はいいですか?  驚かない人は、あんた変ですよ!  進路方向にあるバス停の名前は…  はっはっは。もったいなくて、すぐ言いたくない。  もったいぶっても、絶対驚く!   「女体入口(にょたいいりぐち)」!  ……………。  もう一度、言いましょうか? 「女体入口(にょたいいりぐち)」!  驚き終わりましたか?  バス停の名前が「女体入口(にょたいいりぐち)」なのですよ。  もちろん『桃太郎電鉄』の作者である私は、この珍名を知っていたし、何度も クイズ問題として出題もしている。  たしか男体山(なんたいさん)と、女体山(にょたいさん)という山があっ て、その女体山のほうの麓(ふもと)にあるから、「女体入口」だったはずだ。  あれ〜、でもどこにも女体山は見当たらないぞ。  あとで地図で調べても、近くにはなかったぞ。
 でもまさか、本物の「女体入口(にょたいいりぐち)」のバス停と、ご対面で きるとは思わなかった。  もう、このバス停に遭遇しただけでも、駒ヶ根に来た甲斐がある。  と驚いている場合ではない。  私と嫁は、現在迷子になっているのだ。  迷子になっても、私は動じないどころか楽しいだけだが、事実は、迷子状態 だ。  ガソリンスタンドで、タクシー予約の電話番号を、嫁が探す。  地方のタクシー予約って、局番が書いてないんだよねえ。  地元の人には、ごくふつうに覚えている番号なんだろうけど、携帯から電話す るときは、局番が必要だからね。  タクシーに来てもらって、駒ヶ根駅へ。  直接ホテルに行ってもいいんだけど、私の癖として、その町を駅前を起点に暗 記することにしている。  駅の西側に、中央アルプス。東南の方角に、南アルプスか。  駒ヶ根駅。こぢんまりとしたかわいい駅だ。  TVの「湯煙り殺人事件」に、登場しそうだ。
 おお! 駅前に、ソースかつ丼ののぼりが立っている。  駒ヶ根は、ソースかつ丼の町なのだ。  ソースかつ丼で、町おこしを始めたのではなく、このあたりで、とんかつを食 べるというと、どの家庭でも、このソースかつ丼なのだそうだ。  もともと昭和3年頃、駒ヶ根のある料理店主が、東京浅草の洋食屋に立ち寄り、 カツレット(とんかつの語源)を食べたのをヒントに、丼にしてみたのだ。  ご飯の上にキャベツを乗せ、揚げ立てのカツをサクサクッと切りって乗せる。  ただ、それだけである。  それだけに、各店、ソースが秘伝。  お店によって、甘口のソースをつかったり、辛口のソースをつかったりと千差 万別。  今回の旅のひとつめの目的が、このソースかつ丼を食べることなのだ!  しかし、浅草のとんかつにヒントを得た、駒ヶ根のソースかつ丼を、東京生ま れの東京育ちである私が食べに来るというのも変なものですな。  でも70年も経っているんだから、もう駒ヶ根オリジナルでしょう。  小さな町だ。  シャッターが下りたお店が多い。  ここも郊外に大きなスーパーができたせいで、商店街がさびれ始めているよう だ。がんばれ! 地方の商店街!
 午後3時。駒ケ岳の麓あたりといえばいいのかな。 「駒ヶ根ビューホテル四季」へ。  へ〜、けっこうきれいなホテルだ。  何でも第3セクターで、市が経営しているらしい。  そのわりには、おしゃれだな。  おお! 館内に川が流れている。  川の脇に立つ旅館というのは見たことがあっても、旅館の真中を川が流れてい て、川のせせらぎが聞こえるのなんて、初めてだ。  これは上手い借景の使い方だなあ。
 午後3時30分。お目当てのソースかつ丼屋さんに行く。  ががが〜〜〜ん!  お店の看板に「定休日」の文字が!  そ、そ、そんなあ!  定休日が、毎週火曜日と、第1、第3水曜日?  複雑な定休日だなあ。
 愕然とするが、仕方ない。  駒ヶ根は、ソースかつ丼の町だから、まだほかにもたくさんある。  午後4時。駒ヶ根ファームスへ。  お土産品をたくさん売っているので、チェックしに行く。  こまくさ橋という美しいつり橋があった。  つり橋は、渡らない。はっはっは。
 駒ヶ根いちばんの名所は、その名のとおり、駒ヶ岳だ。  駅前から、駒ケ岳ロープウェイ行きのバスまで出ている。  ホテルからこの駒ケ岳ロープウェイは近いのだが、もちろん行かない。  高所恐怖症に、ロープウェイはタブーだ。  巨人の松井選手と、西武のカブレラが、横浜ベイスターズに入団してくれると いうのなら、ロープウェイに乗ってもいい。そのくらいロープウェイは嫌いだ。  あっ! 伊那(いな)名物「ローメン」が、メニューにある!  まいったなあ。試食しないといけない。  でもこれから、ソースかつ丼を食べに行くところなのだ。  う〜む。取材したい。  嫁とふたりで、一人分の「ローメン」を注文する。 「ローメン」というのは、但し書きによれば、たれは信州リンゴをつかい、甘酸 っぱく、麺は伊那特産の蒸したものをつかっているので、香ばしくて、しっとり した食感の伊那地方の郷土料ということになる。
 でも、どう見ても、スープ焼きそばである。  具は、麺、キャベツ、肉。  この3つしかない。  どう見ても、焼きそばでしょ。  ところが、たれが間違いなく、ソース味なのだ。  東京の人にしかわからないたとえだと思うが、もんじゃ焼きのあの薄いソース が水浸し状に焼きそばの上にかかっている。  さても面妖なる食べ物なり。    でもうまい。  実にB級な美味しさ!  ひさびさに、まずいけど、美味しい「まずうま」だ!  午後5時。さらに、ソースかつ丼を食べに行くのだ。  ソースかつ丼のお店として、一躍有名になった、観光客ならここを訪れるとい われる「明治亭」へ。
 おお! 大きな器の丼だ!  ご飯の上に、刻んだキャベツ。その上に、とんかつが乗っただけのシンプルな 食べ物だ。  これで、1000円というのは、ちょっと高いような気もする。  私は、嫁が注文した「黒豚丼」のほうが美味しかった。  この「黒豚丼」も、もちろんソースかつ丼である。  豚の内腿肉をつかっているそうだ。  コロモにパン粉をつかっているので、サクサク感がこっちのほうが強い。  嫁は、通常のソースかつ丼のほうが、美味しいといっていた。
 けっきょくどっちも美味しいですよ!  ソースのぷうんとくる匂いは、間違いなく美味しい。  ソースと、ご飯くらい相性のいいものはない。  お水もおいしい!  おいしいわけだ。  ここは南アルプスの麓。  南アルプスの天然水ではないか! <デブはソースの匂いが好き!> 「明治亭」  〒399―4115長野市駒ヶ根市上穂栄町20の20  0265(83)1116  11:30〜20:30  そういえば、この「明治亭」。  私がよく行く、渋谷東急本店の地下にも支店があったんだっけ!  すっかりこのお店に興味を持って、駒ヶ根まで来たことを忘れていた。  午後6時。駒ヶ根市文化会館。  今回の旅行の目的のひとつめは、ソースかつ丼だった。  ふたつめは、ここ!  弦楽四重奏「ザ・ビートルズ」  弦楽四重奏で奏でる“すぎやまこういち”の世界  演奏・東京ユースカルテット。  このコンサートを見に来たのだ。  すぎやまこういち先生が自ら編曲したビートルズのヒット曲を、長野県限定わ ずか4ヶ所だけで演奏するとあっては、来るっきゃない。  以前から、ソースかつ丼の駒ヶ根に取材に来たかったのだが、ソースかつ丼だ けで泊まりに来るのもなあ!と思っていたところ、すぎやまこういち先生のコン サートがあるというので、渡りに舟となった。  いやああああああああ、本当当当当当に、よっかったっよ〜! ・イエスタディ ・ミッシェル ・エリナー・リグビー ・ヒア・ゼア・アンド・エブリホエア ・ヘイ・ジュード ・レット・イット・ビー ・デイ・トリッパー ・イフ・アイ・フェル ・ガール ・涙の乗車券 ・ルーシー・イン・ザ・スカイ ・ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード ・フール・オン・ザ・ヒル ・バック・イン・ジ・U・S・S・R  へっへっへ。ほっほっほ。えっさほいさっさ。  ビートルズの好きな人なら、選曲のよさが、わかっちゃうでしょ?  弦楽四重奏だと、どういう風に演奏されちゃうか、想像がついちゃうでしょ?  その想像したものより、は〜る〜かに、素晴らしかったのよ〜! 「デイ・トリッパー」なんて、サーカスのジンタのリズムで奏でちゃうんだよ。 「ガール」のあの息を吸うフレーズを、ヴァイオリンで奏でちゃうんだよ! 「涙の乗車券」は、汽車の音から始まっちゃうんだよ。  しかも、アンコールが3曲! ・花の首飾り ・王宮のロンド(ドラゴンクエストIII) ・亜麻色の髪の乙女  うひょひょのひょ〜〜〜!  この間の池袋芸術劇場で聴いた『亜麻色の髪の乙女』とは、別ヴァージョンだ よ。弦楽四重奏だからね。  こんなに好きな曲ばかり聴いちゃっていいのかなあ!  ただただ、うっとり。  音楽を覚え立ての気分に戻って、感動だ!  すぎやまこういち先生の奥様の案内で、楽屋に挨拶に伺う。 「いやあ! よかった〜! ありがとうございます!」  これしか言えない!  駒ヶ根まで来てよかったあ!
 午後9時30分。「駒ヶ根ビューホテル四季」に戻る。  大浴場で、お湯に浸かって、は〜、極楽、極楽。  きょうのビートルズ・ナンバーを復唱する。  ビートルズは、やっぱ、いいやね!  いつもクラシックのコンサートだと、ここでこの曲、終わりかな?と思っても、 まだ続いているってことが多いんだけど、ビートルズなら、この1音で終わりだな と確信を持って、味わえるもんなあ。  露天風呂もぬるめで気持ちよかった。
 このホテルは、けっこう快適ですな。  ドコモは入るけど、Jフォンが繋がらない。  そんな場所のホテルでござる。  明日は、今回の旅の目的の3つめに行く。  あっ。菅沼真理(通称:すがねまチャン)さんに言われていた、星を見るの忘 れた! いか〜ん。どうも東京に生まれ育つと、星は見えないものと認識しすぎ ている。星空自体は、大好きなのになあ。  うーーーん。最後でちょっと失敗した。
 
さくまNEWS

●9月21日(土)午後7時開演 浜離宮朝日ホール(築地)全席指定6000円
アマデウス・アンサンブル東京--バッハを弾くよろこび、聴くたのしみ--」


※業界の方で鑑賞希望の方は、うちの嫁まで、9月10日(火)までにご連絡ください。
 メールはこちら→sakumacb@za2.so-net.ne.jp

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