8月31日(土)

 午前9時。家族3人で、京都の仕事場をでかける。
 近所に「タリーズ・コーヒー」ができたので、さっそく寄る。
 京都三条通りは、最近出店ブームで、来る度に何か新しいお店が開店している。
 タマゴ・サンドイッチにコーヒーを注文して、のんびりしようと思った瞬間、
この時間だと先を急がないと、約束の時間である大阪に午前11時がぎりぎりの
時間帯に突入することに気づく。
 あわてて、カップ用のコーヒーを持ち帰り用にしてもらって、三条京阪駅まで
急ぐ。
 あぢぢ…。きょうも京都は暑い。

 午前9時37分。三条京阪駅。
 ここから特急に乗れば、1時間で、淀屋橋に着く。
 と思ったら、特急は1分前に出たばかり。
 でも、次の特急は、15分後だからと、のんきに構えていると、プラットフォ
ームの時刻案内板は、15分後のところに「回送」の文字が燦然と輝いているで
はないか。
 じゃあ、その次の特急は?
 午前10時10分? それじゃ、大阪の約束の時間には間に合わないですがな。
 急行でも、普通でも、どうやっても、大阪まで、午前11時に着かないことが
判明する。

 しかし、こんなことでめげる十津川警部と、亀井刑事ではない。
 長年トリックを暴いて来た。

 京阪電車のキップを無駄にして、三条京阪駅前から、タクシーに乗って、京都
駅八条口へ。
 自動販売機で、新幹線自由席券を買って、ホームへ。

 午前10時4分発の、こだま401号に乗車。

 午前10時20分。新大阪駅着。
 やっぱり新幹線は速い。
 時刻表どおりなら、今ごろやっと三条京阪駅から、淀屋橋駅行きの特急に乗っ
たばかりである。

 午前10時50分。地下鉄御堂筋線で、心斎橋駅へ。
 駅から、御堂筋の「ヒューマン・アカデミー」へ。
 きょうは新校舎落成記念イベントに呼ばれた。
 行ってみて、驚いた。
 まずこの「ヒューマン・アカデミー」のビルがある通りには、ルイ・ヴィトン、
ベルサーチ、アルマーニ、カルティエがずらりと並ぶ、一大ブランド街になって
いた。いつのまに!
 要するに、専門学校の「ヒューマン・アカデミー」は、東京の表参道にできた
というか、銀座の一等地に建ったようなものなのである。
 す、すごい。
 しかもこの前のビルの持ち主は、松下電器だそうだ。パナソニックね。 「すごい!」以外の言葉が見当たらない。  12Fまで、全部「ヒューマン・アカデミー」だ!  毎度おなじみの山田光隆くんが出迎えてくれて、9Fへ。  第一部「トーク・セッション」に出演するための打ち合わせ。  学校のお偉いさんがたくさん人がいらっしゃって、挨拶などしてくださったの だが、さすがに覚えきれないので、申し訳ないですが、割愛させていただきます。  午後1時30分からの出演まで、まだ時間があるので、家族3人で、高級ブラ ンド・ストリートへ。  大阪も暑い。  京都の暑さとも、また違った暑さだ。  ちりちりと肌を焦がすような暑さ。あぢぢ…。  まるで鎌倉の浜辺にいるようだ。  ルイ・ヴィトンを見て、ジーンズのジャンパーが、8万円とか書いてあるのを 見て「わっはっはっは」と笑って帰ってくる。    午後1時。さっさと「ヒュ―マン・アカデミー」に戻る。  2Fで、専門学校の生徒たちが授業の一貫で、アラブ諸国のイエメンから輸入 したコーヒーを100円で飲ませてくれるコーナーがあったので、飲んでみる。  これが、うまい!  実に味わい深い、いい味だ。  思わず、嫁がこのコーヒーの豆を購入してしまったほど。    午後1時15分。再び、9Fの控え室へ。  第2部に出演予定の横山智佐ちゃんが、東京から到着。 「おひさしぶりです〜!」  おお! なつかしい高い声だ。 「ちーちゃん、ひさしぶり〜!」  何だか、いつも陽気な山田光隆くんが、そわそわしている。  どうも様子を見ていると、横山智佐ファン特有のもじもじを始めている。 「山田くん、横山智佐のファンだな!」 「えっ!? あっ、ぎくっ!」  やっぱり。  その横で、おなじく「ヒューマン・アカデミー」の倉橋鉄彌さんもそわそわし ている。倉橋鉄彌さんは素直に「横山智佐さんのファンで、ドキドキしています!」 と、はっきり。潔ぎよいではないか!  午後1時30分。私は、2Fの「トーク・セッション」の会場へ。  専門学校だから、どうやったらこういう業界に来れるのか?という話など。  私の答えはいつも、いっしょだ。 「友だちを作りなさい!」  私はすでにデビューして、30年ぐらいたつ。  知ってのとおり、ありとあらゆる仕事をやってきた。  その仕事の種類も、100種類近い。  でも、その全仕事のうち、まったく面識のない人からの依頼は、5%以下であ る。残りの95%は、友人からか、友人の知り合いからのものである。
 どんなに素晴らしい才能があっても、仕事をくれる知り合いがいなければ、開 花せずに終わってしまうことが多い。 「あんな作品なら、オレでもできる!」 「あの程度の歌なら、私でも歌える!」  負け犬の遠吠えのようなこの言葉も嘘ではない。 「あんな作品」を、「あの程度の歌」で、デビューできる才能のほうが、大切な のだ。  そのあと、生き残れるかは、お客さんが判断する。 「あんな作品」を「あの程度の歌」を、3回は許してくれても、4回目はない。  午後2時。9Fの控え室へ。  なんと、「ヒューマン・アカデミー」の先生である倉橋鉄彌さんが、手製の沖 縄うどんを作ってもってきてくださった。  山田光隆くんのほうから、飛び道具が出ますよといっていたけど、これだった のか。
 スープまで自分で作った本格派。  美味しい!  朝、あわただしく、サンドイッチを一切れ、新幹線でつまんできただけに、ち ょうど小腹が空いていたところだ。  倉橋鉄彌さんは、料理作りが好きで、食道楽の私に挑戦するのを楽しみにして いたようだ。  美味しかった。脱帽です!  しっかり沖縄のミミガーまで入っていた。  午後3時30分。今度は12Fの最上階で、「さくまあきらとその仲間たち」 のトーク・ショー。  この「さくまあきらとその仲間たち」シリーズの第1弾ゲストが、横山智佐ち ゃんだったのだ。  会場に『サクラ大戦4』と『桃太郎電鉄X(ばってん)』のビデオが流れるな か、「ヒューマン・アカデミー」の生徒さんたち、来年入校希望の生徒さんたち の質問に答える。  70人以上集まったのかなあ。  最前列は、ほとんど横山智佐ちゃんのファンだと思ったら、意外や私のファン もいて、ホッとする。
 しかし、横山智佐ちゃんには「声優さんとしてやっていくときの心構えは?」 と言った真面目な質問が多いのに、私への質問の最初が「うんちカードなんです が…」は、いったい何!?  会場は大爆笑!  思わずこの質問で、みんなが挙手しての質問がしやすくなったようで、終始な ごやかな雰囲気のまま、トークは進む。  午後5時。トーク終了。  控え室で、色紙にサイン。  山田光隆くんの運転で、新大阪駅に向かうも、渋滞に巻き込まれる。  やばい! 今度は午後6時京都の待ち合わせに、間に合いそうもない。  またしてもトリックをつかいたいところだが、すでに新大阪駅に向かっている 時点で、トリック・タイムに入っている。  まあ、京都の待ち合わせといっても、すぎやまこういち先生ご夫妻のような大 事な方との待ち合わせではない。  土居ちゃん(土居孝幸)と、ガリガリ博士(空気男爵改め)・柴尾英令くんで ある。  何でまたこのふたりと待ち合わせなければいけないのか?  その前に、彼らとは明日からの四国取材旅行で、いっしょになる予定である。  ふたりとも飛行機は苦手ではないから、明日の朝、高松に直行すればいいこと になっている。  そのふたりが、なぜ京都に!?  実は今回、横山智佐ちゃんに会うのはひさしぶりに会うので、どうせなら、特 に名を秘す、京都の「M」で、食事をしようではないかと言っていたのだ。 『週刊少年ジャンプ』で、『ジャンプ放送局』を連載していた10年前ぐらいは、 よく横山智佐ちゃんと美味しいものを食べに行っていた。  でも当時は、まだ私の知識も乏しく、いちばん美味しい料理屋さんといえば、 近江牛の「三嶋(みしま)亭」だったのだ。  もちろん「三嶋(みしま)亭」でもじゅうぶんに美味しく、横山智佐ちゃんが 美味しいものを食べたときに出る「ガハハハッ!」という豪快な笑い声が、いち ばん出たお店ではある。  で、今回の仕事が決まったときに、横山智佐ちゃんに「三嶋(みしま)亭より 3倍美味しいお店があるので、寄って行かない?」と持ちかけていたのを、ふた りのデブが、聞き逃さなかったという次第だ。  午後6時。新大阪駅から、こだま432号に乗車。
 この時点で、京都「M」には、間に合わないので、柴尾英令くんに電話を入れ る。携帯は便利だ。  午後6時15分。京都駅着。  午後6時30分。京都「M」へ。 「あっ、横山! ひさしぶり〜!」と、土居ちゃん。 「土居さん、ひさしぶりです!」と、横山智佐ちゃん。  土居ちゃんと横山智佐ちゃんが会うのは、相当ひさしぶりらしい。  柴尾英令くんと、横山智佐ちゃんはきょうが初対面。  でも共通点があって、なんと柴尾英令くんの奥さんが、アニメ雑誌『アニメデ ィア』でライターをやっていた関係で、横山智佐ちゃんの取材をよくやっていた のだ。 「奥さんは、おっとりした方ですよね!」に大笑い。  私、土居ちゃん、横山智佐ちゃんの3人が揃うと、『ジャンプ放送局』のメン バー、再結成である。  おっと、ひとり忘れていた。  榎本48歳がいない!  あの『桃太郎電鉄』の貧乏神のモデルである。  実は今回も榎本48歳を呼んだのだが、会社の決算の時期だからという理由で 来れなかった。  どうも昔から、このメンバーでは、榎本48歳だけ来れないというのが、ジン クスだ。  けっきょく私、土居ちゃん、横山智佐ちゃんの3人は、博多の「河太郎」で、 あの美味しいイカを食べているのに、榎本48歳は食べていない。  食べていないどころか、榎本48歳のために、わざわざ博多の「河太郎」に行 ったのに、その日が、1年で1日あるかないかのイカの不漁の日で、食べられな かったのだ。  昨年も、『ジャンプ放送局』の初代メンバーである、青木澄江さん、土居ちゃ ん、榎本48歳、私の4人で「プティ・ポワン」に行く話がまとまったのだが、 青木澄江さんの都合がついた時点までは、とんとん拍子だったのだが、榎本48 歳に連絡したとたん、みんなの都合が悪くなって、中止になった。  まさに、貧乏神!  まあ、「美味しい料理屋さんには、榎本48歳だけ来れない!」というジンク スをえのクン(榎本48歳)が、守ってくれたことだし、さあ! 美味しく料理 をいただきましょう!  えのクンは、この日記を読んでいるはずだから、大いに悔しがってね! 「えっへっへっへ。美味しいね〜!」 「えのクン、美味しいよ〜!」 「横山! ガハハ笑いは出ないか?」 「もう少しは落ち着きがないといけない年齢なので…!」
 横山智佐ちゃんは、声優サンにしては珍しく、年齢を隠さないので、公表する けど、もはや33歳である。 『ジャンプ放送局』に登場したのが、高校3年生のとき。  もう15年になる。  何だか、ひさしぶりに親戚の女の子に会ったようなものだが、最近アニメ業界 の人に会うと、必ず横山智佐ちゃんのことを「ベテラン声優さん」という言い方 をする。横山智佐ちゃんが、ベテランなら、私と、土居ちゃんはいったい何者よ!   それにしても、横山智佐ちゃん、ちっとも変わらない。  うちの娘が「横山さん、かわいい〜!」と、きょう1日うっとりしていた。  横山智佐ちゃんには、私が大病して以来、土居ちゃんがやさしくなったという 話をずっとしていた。  なにしろ、『ジャンプ放送局』時代、土居ちゃんのイメージは、土居孝幸(冷 たい男!)と、ルビをつけていた。  この「冷たい男!」の名づけ親は、横山智佐ちゃんである。  午後8時45分。横山智佐ちゃんは、のぞみ号の最終で、東京に戻らないとい けないので、退席。  土居ちゃんが「気をつけてね!」という。 「ほら、ちーちゃん、土居ちゃんが『気をつけてね!』なんて、やさしい言葉を かけるようになったんだぞ!」 「ねえ! 心がこもっているかどうかは別として!」 「上手いな、横山!」  これには、大爆笑!  午後9時30分。土居ちゃんと柴尾英令くんへホテルへ。  うちの家族は、京都の仕事場へ。  ふう。お腹いっぱい。 『鳥獣戯画』に出てくるカエルのように、お腹がぽっこりだ。  明日からの四国高知取材に、梶野竜太郎くんが都合で来れなくなったという連 絡が入る。  むむむっ。土居ちゃん、柴尾英令くん、読売広告の岩崎誠。  このメンバーだと、仕事にならないかも。  ってことは、四国は豪雨だな。  えっ? すでに四国は昨日から、豪雨だって?  まいったなあ。
 
さくまNEWS

●9月21日(土)午後7時開演 浜離宮朝日ホール(築地)全席指定6000円
アマデウス・アンサンブル東京--バッハを弾くよろこび、聴くたのしみ--」


※業界の方で鑑賞希望の方は、うちの嫁まで、9月10日(火)までにご連絡ください。
 メールはこちら→sakumacb@za2.so-net.ne.jp

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