8月24日(土)

 よく寝た。
『桃太郎電鉄11(仮)』の人間同士のテスト・プレイが終了したせいだ。
 まだCOMキャラと音楽のチューニングが残っているけど、ほとんど基本的に
はOKなので、気が楽だ。
 気が楽になったおかげで、やっと深く眠れた。

 午後12時。急に思い立って、嫁と西荻窪駅へ。
 私が生まれ育った町は、杉並区上井草だ。
 上井草から、西荻窪までは、歩いて30分。バスでも15分ほどの距離なの
で、ほとんど地元といっていいほど思い出が詰まった町だ。
 多いときなど、年間300日ぐらい通っているはずだ。

 その西荻窪駅で下車。
 北口にあるラーメン屋さんに向かうのに、もう条件反射のように、関東バスの
バス停のところから、道路を渡ってしまった。
 横断歩道はもう少し左にあるのだが、子どもの頃から、違法横断しているので、
きょうも癖が直らない。
 北口の「ひごもんず」で、角煮ラーメン、800円。  私が原宿に移るちょっと前に、少しずつ話題になり始めた熊本ラーメンのお店 なので、通いつめたお店ではない。  だから、味もくっきりとは覚えていない。  嫁は、このお店は、初めて。 「桂花(けいか)ラーメン」よりも美味しかったそうだ。  たしかに、「桂花(けいか)ラーメン」よりも、繊細な味わいで、軽さがある。 こってりが好きか、あっさりが好きか、食べる人の好みだろうが、うちはあっさ り系が好きなので、ここの味は気に入った。  店を出るころには、10人近い行列が並んでいた。    食後、西荻窪の北口に向かう。  なつかしい町並みだ。  ああ、この本屋さんで、いったい何1000冊の本と雑誌を買ったことだろ う。「新星堂レコード」のスタンプ券がたまるのが、楽しみだったなあ。  女の子と別れ話をしたお店は、もう無くなっていた。  これから目的のお店に向かう。  ちょっと前に、漫画原作者の石関秀行と「カキ氷」の話をしていて、おなじ西 荻窪のお店の話なのに、「あそこの味は美味しいよなあ!」と盛り上がったのだ が、どうも途中から、ふたりが想定して話しているお店が違うことに気がついた。  そのお店を確かめに来た。  私が推薦するお店は、西荻窪の北口、すぐのところにあった。  本屋さんのすぐ隣りだ。  きょう歩いてみたから、お店の名前が「きよまさ」とわかった。  子どもの頃から通ったお店だから、お店の名前なんて覚えていない。位置で覚 えているだけだ。  すでにこの町から引越す前に、このお店の「カキ氷」はやめてしまったことを 思い出した。そうだ。おばあちゃんには重労働なので、いなりずしとか、おにぎ りを売るだけのお店にしてしまったのだった。  午後1時。西荻窪駅と垂直に走る通りを、北に向かって歩く。  昔の看板そのままの商店が続く。  このまま10年間、新しいお店が建たなければ、歴史的建造物として、大ブー ムの町並みになりそうだが、あちこち、新しいお店が入ってしまっているのが、 惜しい。
 5分ほど歩いたところを、右に曲がってすぐのところに、カキ氷の名店「甘い っ子」はあった。  昭和40年の創業だそうだ。  1965年か。私が13歳のときか。  西荻窪は、隅から隅まで知り尽くしていると思っていたけど、気づかなかった なあ。しかも、私の専門分野である「甘味」なのに。
 嫁がしきりに「甘いっ子」の古い家屋に驚いているが、私にとっては子どもの 頃から見慣れている家なので、変哲もない。  この地方独特の家なのかも。  評判の「イチゴのカキ氷」と、あんみつを注文する。
 へ〜! カキ氷というと、涼しげなガラスの器に、山のように盛られた氷のイ メージがあるんだけど、平たいお皿の上に、平たく氷を乗せるのか。  これは変わったカキ氷だ。  むむっ。こ、これは!  イチゴの果肉が、口のなかでぷつぷつ音がしているぞ。  これは濃厚な味だ!    イチゴのカキ氷で、この味ならと、あわてて、練乳のミルクカキ氷を追加注文 する。あわてることはないんだけどね。
 うひょっひょっひょ〜!  この真白き富士の峰じゃなかった。練乳の海。  食べる前から、ごくりと喉が鳴ってしまう。  練乳のカキ氷を口に運べば、ぎゅるるるるるる、タイムマシンのように、時間 が遡る。  夏の日の縁側。ねっちょり溶けるアスファルトの道。風鈴売りのおじさん。乾 いた土に降る夕立と舞い上がる土埃(つちぼこり)。浴衣と朝顔市。学校のプー ルサイド…。  カキ氷の粒の大きさが実に、なつかしい妥当な大きさだ。  西荻窪の古い商店街は、こういうカキ氷のお店とか、和菓子のお店、昔の学校 給食を食べさせるお店だらけにすればいいのに。  このあと、西荻窪駅に向かって古い商店街を歩く。
 店の看板だけ見せて、ここは何県の町並みでしょう?といっても、東京都の名 前が出てくるのは、40番目ぐらいだろう。  そのくらい古い看板が並んでいる。
「黒」の文字の「里」の部分に、「くろ」と平仮名で文字をくり貫いてあるのに は笑った。宍戸錠さんあたりが「ちっちっちっ!」と言いながら、お店から出て 来そうだ。  ここは天然の「ラーメン博物館」であり、「ナンジャタウン」だ。  帰りには、あの喫茶店に寄って行くしかないな。  やっぱりまだあった。 「DANTE」だ。
 30年前、年間100回は通ったな。  あのとき若かったマスターも今は、すっかり髪が真っ白になっていた。  それ以外は、まったくおなじ。
 ジャズのレコードの位置も、荒木経惟さんの一番弟子である田宮史郎を呼び出 すときにつかったピンク電話もまだあった。  ブラジル・コーヒーを飲む。  あれ? 味が違う。  昔の味と違う。  いつも飲んでいたのは、モカだったかな。  あっ。そうか。  なんだ。最近の私はコーヒーに砂糖を入れなくなっていたのだ。  30年前は、砂糖を3杯も入れていた。  ササーーーッ。  砂糖を1杯だけ入れて飲むと、また30年分の時間が巻き戻されていく。  あの当時の味だ。  外国ポップスにくわしかった男。  小説ばかり読んでいた男。  カメラにくわしかった男。  映画にくわしかった男。  そんな男たちとのここでの会話が、今の私を作り上げていることを痛感する。  入り口の近くのレンガの壁が、つるつるになっていた。  私もこのつるつるに協力していたんだな。
 午後2時。西荻窪から、中央線で、千駄ヶ谷駅へ。  わずか2時間ほどの旅だったけど、30年分の時間旅行をしてしまった。  午後3時。原宿の自宅へ。千駄ヶ谷駅から寄り道しながら歩いてきたので、汗 びっしょり。  真夏から秋にひとっ飛びしてしまうのかと思ったら、やはり残暑だったか。  汗でへばりついたTシャツを着替える。  1960年代。全米で人気のあったTV番組「ゴーゴー・フラバルー」のビデ オを見て、さらに時間旅行の続き。  ザ・バーズ、ポール・リビア&レイダース、エバリ―・ブラザース、サイモン &ガーファンクル、ヤング・ラスカルズ、ブレンダ・リー、マービン・ゲイ、ジ ェイ&アメリカンズ…。  白黒の洋服の輪郭がぼけた映像を見ながら、うとうと…。  午後6時30分。家族3人で、麻布十番祭りへ。  嫁は毎年行っているが、私は初めて。  規模が大きいことは聞いていたけど、本当にすごい。  麻布十番商店街のすべての道の両側に露店が出ている。
 麻布十番は、各国の大使館や、焼き肉屋さんが多いので、露店の食べ物が多彩 でおもしろい。  エジプト料理、タイ料理、アラビア料理などが並ぶ。  私のタイの野菜チャーハンとか、ミートピザ、磯辺焼、焼きそばなど食べるが、 もうとても食べながら歩くことができないほどの混雑ぶり。  人気の出店など、100人以上が行列を作っている。
麻布十番祭りは明日の日曜日まで!
 比較的、涼しいはずが、人の体温で、蒸し暑くなっている。  汗がだらだら落ちてきた。  私は耐え切れないので、嫁と娘を残して、帰ることに。  午後8時。帰宅。  麻布十番のお祭りの人の数に疲労したので、ベッドにひっくり返る。  午後9時。嫁と、娘が戻って来たので、またまた菅沼真理(通称:すがねまチ ャン)さんが長野から送ってくれた、下原(しもっぱら)スイカを食べる。  大きいよ。美味しいよ。  今年は、すがねまチャンのおかげで、スイカ三昧の夏だ。  去年、スイカ三昧しながら、『桃鉄』のテスト・プレイ!と目論んでいたこと が、すべて実現した。  気分いいねえ。  まだ『桃太郎電鉄11(仮)』のすべてが終わったわけでもないので、気を引 きしめて、今夜もまだまだ『桃太郎電鉄11(仮)』のこまかい手直し部分と、 札幌スタッフからの質問に答える作業。  身体は、だいぶ楽になった。
 
さくまNEWS

●9月21日(土)午後7時開演 浜離宮朝日ホール(築地)全席指定6000円
アマデウス・アンサンブル東京--バッハを弾くよろこび、聴くたのしみ--」


※業界の方で鑑賞希望の方は、うちの嫁まで、8月31日(土)までにご連絡ください。
 メールはこちら→sakumacb@za2.so-net.ne.jp

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