6月12日(水)

 午前8時30分。嫁に起こされる。
 そうだ。きょう晴れたら、日帰り取材旅行にでかけるといってあった
のだ。
 明け方、目は覚めたのだが、寝てしまっていた。
 あわてて顔を洗って、着替えて、京都のマンションを飛び出す。

 午前9時12分。京都駅から、のぞみ3号に乗車。
 起きてから、30分ちょっとで、新幹線車内の人とは、眠い、眠い。
 きょうも天気がいい。
 まぶしいくらいだ。

 昨夜、特に日本料理の美味しいお店「M」のご主人がお土産にと、作
ってくれた鱧(はも)寿司を、車中で、朝食として食べる。杉の箱に入
っているので、杉の香りがぷうん!と匂って、何たる上品さ。

 うぐぐっ。ご主人がたくさん作ってくれたので、けっこうお腹いっぱ
いになる。

 食後は、もちろん車中にて、お仕事。
『桃太郎電鉄』シリーズのアイデア出し。よく出るんだ、これが。
 毎日新幹線で通勤していれば、3ヶ月に一度は『桃太郎電鉄』を発売
できるぞ。…って、それはさすがに無理だ。

 午前10時51分。広島駅で下車。
 京都から、広島まで、わずか1時間39分ですぞ。新大阪からなら、1
時間半を切る。みなさん、もっと新幹線に乗りましょうぞ!

 乗り換えのため、在来線の1番線ホームに行ったら、快速電車は、大
竹駅には停車しないというではないか。
 大竹駅に行くなら、3番線といわれて、また階段をよいしょ、よいし
ょと登るが、地下道から行ったほうが、階段数が少なくてよかったこと
を知るのは、階段を登ったあと。

 午前11時5分。山陽本線岩国行きの鈍行に乗る。
 4両編成で、けっこう速い。
 ぶるぶる身体を震わせて、疾走する。
 やはり、6月9日、姫路駅始発の姫新線は、遅い。すこぶる遅い。こ
の列車ぐらいスピードを出せば、姫新線ももっと乗客が増えるだろうに。

 午前11時45分。大竹駅で下車。
 広島駅から12個目の駅だ。
 駅前の観光案内図を見て、ちょっとうろたえる。  見てみたい場所が、見当たらないのだ。  亀居(かめい)城跡というのがあって、『関が原』でおなじみの武将、 福島正則くんの支城というのだけど、遠い。  阿多田島というのが、あるようだけど、おもしろいのは名前だけ。  阿多田島。阿多田(あたた)島と、読む。  漫画『北斗の拳』の人気セリフ「あたた!」とおなじだ。  でもキャンプ場では、『桃太郎電鉄』シリーズの物件にもならない。
 スペイン通りと呼ばれる商店街を歩く。  ほう。けっこう商店街は大きいじゃないですか。  高層マンションが、4つ、5つ、ちょっと見渡しただけでも、これだ けあるぞ。おっ。まだ一棟、建設中だ。栄えているじゃないか!と、思 った瞬間…!   ある政治家さんの事務所の窓ガラスにこんな張り紙が!   「大竹市は、衰退都市ランキングで、18位にあげられました」    これはけっこうきついランキングだねえ。 『日経ビジネス』の2030年度の693市ランキングとある。  2030年の未来には、このぐらい衰退するという予想なんだろうな あ。 「人口の流出を防ぎ、活気ある町づくりに今すぐ取り組まなければなり ません」と政治家さんのお言葉が貼ってあった。  でもよく考えたら、「衰退する」ということは、それだけ分母が大き いってことだよなあ。最初から、過疎の都市は、もうすでに衰退しちゃ ってるんだから、下がりようがない。大竹市は観光客である私の目から 見たら、じゅうぶん大きい町に見える。  午後12時。商店街の「大竹和紙工房」に入る。  大竹は、「和紙の里」として有名だ。
 大竹市の名産のもうひとつに、「手書き鯉のぼり」というのがあった んだけど、なるほど。大竹の和紙をつかって「手書き鯉のぼり」を生産 しているんだな。  その土地の名産が、名産を生み落とす。鉄則ですな。  讃岐うどんに、徳島のすだちを入れる。  讃岐うどんに、北海道の牛乳や、小豆を入れないようなものだな。  商店街の家の一軒に、時計草が咲いていた。  たしかに、花弁が時計の針のようだ。
 大竹は、こぢんまりとした、ほどよい町だ。  午後12時30分。大竹駅に戻って来て、驚いた。  本来なら、10分後ぐらいに、この先に向かう列車が到着するはずだ ったのだ。  ところが、駅にこんな張り紙が! 「毎週水曜日は、線路の修繕・点検等のため、次の列車の運転を取りや めさせていただきます」  がびーーーん!  これがあるから、ローカル線は…、風情があるなあ…ははは。作り笑 い…。  午後1時8分まで、次の列車は来ない。  あきらめて、喫茶店でコーヒーでも飲んで待つことにした。    しかし、駅前に喫茶店は、なかった。  どおりで、駅前にベンチがあったわけだ。  40分近く、ベンチで待ったのは、のちのち重要なロスタイムになっ てしまった。その話は、この日記の後半で。まだハーフタイムにもなっ ていない。  午後1時8分。大竹駅から、岩国行きの列車に乗る。  岩国(いわくに)駅は、隣りの駅なので、すぐ着く。  午後1時23分。岩国駅から、徳山行きの列車に乗り換える。  広島から、岩国までは、10分おきに列車が走っているのだが、岩国 から先は、1時間に2本と、急に本数が減る。  でも、1時間に2本なら、姫新線の2倍だ。  って、龍野ー佐用ー津山の路線をまだ根に持っている私であった。愛 情もこめてね。  岩国は、軍港として有名な町だ。  以前、この町は取材済みなので、きょうは岩国には降りない。先を急 ぐ。  ちなみに、大竹市は、広島県だが、岩国は、もはや山口県である。  けっこう遠くまで来てしまった。
 列車も、2両編成に減った。  でも速度はほぼおなじ。速い!   必死に走っている。  藤生(ふじゅう)駅を過ぎると、長く白い浜が続く。  列車は、波打ち際のぎりぎりを走っているので、まるで『千と千尋の 神隠し』の海の上を走る電車に思えるほどだ。
 空が青い。  向かいの島の森が、鮮やかな緑色だ。  いい天気だ。  真夏の空だよ、これは。  午後1時55分。柳井(やない)駅で、下車。  きょうのメイン取材はここ。
「白壁のまち・柳井」を標榜しているだけあって、駅のホームの待合室 も、白壁の蔵風にしている。  でも、駅からちょっと離れたところにある「白壁のまち」までは、 「麗都路(れとろ)」通りという、まるで暴走族が名づけるようなお下 劣な町づくりをしようとしている。 「白壁のまち」まで、歩いて行ける距離なのに、そこまでの道をわざわ ざ西洋風に統一することないじゃない! 何で、駅から、ずっと「白壁 のまち」にしないの?
 しかも「麗都路(れとろ)」通り計画は難航しているようで、欧風建 築の建物はまだまだ少ない。プレハブっぽいたこ焼き屋さんは、10年 後に来ても、まだこのままのような気がするなあ。  柳井川を左折。  川の向こう側に、白壁の蔵が見えて来た。
 日本の景色は、やっぱり白壁と川が似合うなあ。  橋を渡ると、一気に「白壁のまち」だ。  これは見事だ!  石畳を敷き詰めて、見事なまでに「白壁のまち」になっている。 「白壁のまち」に、柳井名物・金魚ちょうちんの赤色が映える。  このコントラストは、「白壁のまち」の先輩・岡山の倉敷でも味わえ ない趣きですぞ。
 この町も、醤油が特産品。 「龍野」は、うすくち醤油だったけど、柳井は、甘露醤油が名産。  一軒の古いお醤油屋さんで、この甘露醤油を試飲? 試舐め?させて もらう。
 なるほど、甘い。たまり醤油だな、こりゃ。  デブは、甘いものなら、何でも好きですぞ。  パッケージが納豆の藁苞(わらづと)のようにユニークなので、買い 求める。  なおも、白壁の町並みを歩く。  海運、川運で栄えた町なので、豪商の家がたくさんあったのだが、江 戸時代に何度も大火に見舞われ、そこで防災の意味からも、蔵作りが始 まったそうな。  おっ。「甘露ソフトクリーム」となっ。  呼んでいる! 呼んでいる! 私をソフトクリームが呼んでいる。  気づけば、お店のなかに入っていた。 「お店の看板にある、甘露ソフトクリームは、甘露醤油のソフトクリー ムですか?」 「はい、そうです!」 「それは、美味しそうだ! ひとつください!」 「はい!」 「あれ? このラスクみたいな食べ物は何ですか?」 「はあ。それはカステラを焼いたものです! 駄菓子ですが…」 「美味しそうじゃないですか。これもひと袋!」  嫁がこっちの顔を見る。 「取材だよ、取材だよ!」  大義名分だなあ。
 うまいっ! 甘露醤油ソフト、美味しいよ〜!  小豆島で食べた醤油ソフトクリームも美味しかったけど、あっちより、 こっちのほうが格段に美味しいよ!   でも焼きカステラは、もっと美味しかった。…といっても、私の味覚 を信じてはいけない。グルメではあるが、ペコちゃん、ペコちゃんの 「不二家」的な味には、めっぽう弱いという特質があるからね。上品な 味も好きだけど、それ以上に下品な味が好き。  この焼きカステラは、下品でうまいっ。  しかも柳井の名物でも、特産品でもない。  だったら食べるなよなっ。
 佐川醤油蔵を見る。  柳井名物・金魚ちょうちんの実演をしていた。  この町の人たちは、みんな愛想がいい。  必ず向こうから先に声をかけてくる。  路地を向こうから歩いて来た、小学校低学年風の子どもたち3人に、 いきなり大声で「こんにちわ〜!」といわれて、面食らったほどだ。 いい町だよ、ここ。  うーーーん。ちょっと、白壁の町並みが短いなあ。  もっと長ければいいのに。  ふーーん。現在この町並みを広げている最中なのかあ。  だったら、よけいいい町になるなあ。  この町の軒先には、どこでも金魚ちょうちんが吊り下がっている。   何でも、この金魚ちょうちんは、青森のねぶたをヒントにして、150 年前から作り始めたと、ガイドブックにあったけど、青森のねぶたではな く、弘前の金魚ねぷたをヒントにしたんだと思うなあ。  この金魚ちょうちんは、8月7〜17日のお祭りのときには、白壁の町 並みの軒先を埋め尽くして、幻想的な風景になるようだ。  私は、弘前の金魚ねぷたで、その幻想的な風景を一度味わっているので、 その様が想像できて、背中がぞわぞわする。  8月に、このお祭りを見に来てみたいけど、泊まるのが面倒だなあ。  夜見ないと、おもしろくないしなあ。  お土産品屋で、柳井名物の「三角餅」を買う。 「三角餅」と書いて「三角(みかど)餅」と読む。
 パッケージも三角なのだから、「三角(さんかく)餅」と思い込んでい た。  ところで、あとでほかのお店で見つけた「三角餅」は、「三角(さんか く)餅」と読ませていた。  これって、商標登録に抵触しないのかなあ。  でも、どっちにしたらいいんだろう。  購入した「三角(みかど)餅」は、上品で、美味しかった。  でも「みかど餅」というと「帝(みかど)餅」を連想して、ぎょうぎょ うしい気がする。『桃太郎電鉄』に登場させるなら、「三角(さんかく) 餅屋」かな。  午後3時。「きじや」で、郷土料理の茶がゆセットと、般若(はんにゃ) ご膳を食べる。茶がゆは、字面通り、お茶でご飯を炊いたもの。食べてい くうちに、美味しいと感じるようになって来た。
 般若ご膳は、瀬戸貝と呼ばれる貝を炊き込み御飯にしたもの。あまり美 味しくない。 『桃太郎電鉄』の物件として、登場させるには、般若ご膳ではなく、瀬戸 貝めし屋にしたほうが、絵が浮かんでいいだろう。     午後3時30分。最後にとっておいた、小説家の国木田独歩(くにきだ どっぽ)の旧宅をめざす。  途中のお寺で、柳井市の由来になった、柳と井戸というのがあった。  柳と井戸で、「柳井市」では、ちょっと意外性がないなあ。
 午後3時40分。ひいひい。きょう初めての細い坂道に苦しむ。  柳井の「白壁のまち」までは、駅から歩いてわずか5〜6分。白壁の町 並みも駆け足なら、20分ほどで端から端まで歩けてしまう。  それも平地のせいだからだ。  国木田独歩の旧宅までは、きついなあ。  しかし、やっとたどり着いた国木田独歩の旧宅には、もっと過酷なもの が待っていた。 なんと、中庭から、家のなかを覗くだけなのだ。  えっ? わからないでしょ。  ふつうの木造の平屋がありますよね。  旧宅だから、玄関に受付の人がいて、入場券を売っていたりしますよね。  玄関のところに行くと、「中庭にお回りください」という看板があって ね。  その中庭に回るでしょ。  庭だから、家のなかが見えるわけですよ。  でも家には当然、窓ガラスがありすよね。  窓ガラス越しに、国木田独歩の年表と写真が見えるわけですよ。  それだけなんですよ。  受付の人も、係りの人もいないのですよ。  人んちを、庭から覗き込んだだけなのですよ。  こんなに急な坂道を登らせるなら、もう少し趣向を凝らしてくれよ!  位置からいっても、白壁の町並みの最後に訪れる場所なんだから、観光 客は疲れているはずなんだよ。
 正直言って、私はいま、汗びっしょうりだよ。  汗びっしょりになって、窓越しで終わりっていうのは、ひどすぎない。  あとで聞いたけど、国木田独歩はこの家に、2年間ぐらいしか住んで いなかったそうだ。ますます腹が立った。  仕方が無いので、来た道を戻る。  布と器の店、「ふくだ屋」さんで、ひと休み。
 親切なことに、お店の人は、クーラーにスイッチを入れてくれたあげ く、まだ何も買っていないのに、わざわざアイス・コーヒーを出してく れた。 「柳井はきれいな町ですねえ!」というと、お店の人は「ありがとうご ざいます!。私、柳井が大好きなんです」という。  ふつう「何にもない町でねえ」と卑下するものだが、素直に「私、柳 井が好きなんです!」の言葉に、ますますこの町が気に入ってしまった。  この道で、竹で編んだ籠(かご)を買う。  大方、柳井のほとんどを見てしまったので、先を急ぐことにする。  きょうの予定としては、あと3ヶ所見て回りたいんだけど、時間がな くなって来た。  天気がいいので、明るいけど、もう午後4時なのだ。  お店の人に、タクシーを呼んでもらって、ショートカットすることに。
 午後4時30分。佐藤栄作さん、岸信介さんと、ふたりも宰相を生ん だ町・田布施(たぶせ)を通って、室積(むろづみ)という町へ。  ちなみに、二大宰相を生んだ町・田布施(たぶせ)は、お笑いの松村 邦洋くんも生んでいる。  室積(むろづみ)もまた、かつて海運で栄えた町だ。  江戸時代は、北前船の寄港地として、黄金時代を迎えた。  その中心地が全長1.2キロメートルの「海商(かいしょう)通り」 と呼ばれる道だ。 ここもまた古い町並みが並ぶと聞いていたのだが、 柳井の美しい町並みを見たあとだっただけに、どうひいき目に見ても、 ホメられない。
「ささ乃や」の贅沢雑炊には、興味があったんだけど、もう食べられな い。さっき、茶がゆを食べたばかりだ。
「光ふるさと郷土館」など、閉館時間になっているにもかかわらず、 「どうぞ! どうぞ!」となかに入れてくれたし、通りの駐車場には 「無断駐車の方は、この土地(78坪)の雑草をすべて抜いていただき ます 地主」といったユニークな看板があったりするんだけど、どうに も柳井の白壁のあとでは、迫力に欠ける。
 巨人軍の重量打線と横浜ベイスターズのマシンガン打線改め、短筒打 線ぐらいの差だ。  実は、このあと大阪で、サザンオールスターズのベーシスト&ウクレ レ伝導師のカズ坊(関口和之)に会うことになっているのだ。  それで急いでいるのだ。  この日記でいうと、大竹駅から、岩国駅に向かうホームにいたときに、 カズ坊(関口和之)から電話が入った。 「さくまクン、いまどこ〜?」 「広島(正しくは大竹だけど…)〜!」 「ええ〜〜〜!」  何でもカズ坊(関口和之)は、大阪にキャンペーンの仕事で来ている そうで、たぶん私の日記で、私が京都にいると思って電話して来たのだ ろう。 「カズ坊(関口和之)! きょうは『M』は定休日だよ?!」 「えへへへ!」  カズ坊(関口和之)は、『M』が大好きだからねえ。  というわけで、午後7時に大阪で待ち合わせて、食事しようというこ とになったのだ。  午後5時20分。タクシーは、光駅に着く。  ダメだ。  電車は、あと20分後だ。  新幹線駅の徳山駅までこのまま行ってしまったほうが速い!  午後5時50分。徳山駅に着く。  くそ〜〜〜、ひかり号がなくて、こだま号新幹線しかない!  しかも、7分後に発車してしまう!  みどりの窓口は、ひとつしかない!  おっさんが、長いこと窓口の人と話し込んでいる雰囲気!  自動券売機で、とにかく新大阪駅までの自由席券を買って、ホームへ 急ぐ。  ホームにたどり着くと、ほぼ同時に、こだま号新幹線が入って来た。  でもよかった。  このこだま号新幹線に乗れなかったら、次は午後6時40分まで新幹 線は徳山駅に停まらない。  午後5時57分。徳山駅から、こだま654号に乗車。  時刻表を持って来ていないので、覚えているかぎりで、最速で新大阪 駅に着くパターンをシミュレーションする。  たぶん、広島駅で、のぞみ新幹線に乗り換えれば、新大阪までは、1 時間半だ!  午後6時16分。新岩国駅に、こだま号は着く。  新岩国駅で、のぞみ新幹線に追い抜かれた!  ダメだ! どう転んでも、新大阪駅に着くのは、午後9時過ぎになっ てしまう。  カズ坊(関口和之)に電話する。 「カズ坊〜! ごめ〜ん! いま、新岩国駅で、のぞみ新幹線に抜かれ た! どうやっても、大阪に着くのは午後9時半ぐらいになってしまう。 明日のお昼は?」 「お昼からずっと、キャンペーン…」 「キャンペーンって、KONISHIKI(小錦)さんをプロデュース したやつ?」 「うん。でも今回はひとりで大阪に来てるんだ。きょうから3日間」 「うちは、明日東京に帰らないといけないからなあ!」 「明後日、大阪で、日本対チュニジア戦を見るんだ!」 「あっ。行くっていってたW杯はそれか! いいなあ!」 「えへへへ…!」  午後6時35分。広島駅に着く。  カズ坊(関口和之)とは、後日、東京で会うことにした。  せっかく、いいチャンスだったんだけどなあ。  大竹駅の毎週水曜日の線路点検さえなければなあ! 柳井駅から直接、 徳山駅に行っていればなあ。室積(むろづみ)に寄らなければ…。  おっと。A型のいつまでもぐじぐじ後悔する癖はやめないと。  駅構内まで降りて行って、駅弁を探す。  広島の駅弁といえば、「あなごめし」である。  でも「あなごめし」では、きょうの行きに新幹線のなかで食べた「鱧 (はも)寿司」とは、親戚のようなものだ。しかも『M』のお父さんが 作ってくれたものだけに、駅弁とは比べ物にならない。  ふと見ると、広島風お好み焼きをレンジで温めてくれるとある。  広島は、あなごめしよりも、牡蠣(かき)よりも、広島風お好み焼き か、「ぷよまん」でしょう! 「ぷよまん」、広島駅構内で、売ってい たよ!  というわけで、「頑固広島風お好み焼き」800円を購入する。  午後7時59分。広島駅から、ひかり134号に乗車。  さっそく、「頑固広島風お好み焼き」を広げて食べる。  おたふくソースに、マヨネーズ、青のり、紅しょうがが入っている。  どういうわけか、おたふくソースは、ふたつ入っていた。  嫁のも、ふたつだったから、間違いはないだろう。  お好みで、ソースの量を変えてくださいなのだろう。  私はもちろん、ふたつだ。
 おっ。最初のひとくち、ふたくちでは、夜店の焼きそばレベルかなあ と思ったけど、「頑固広島風お好み焼き」は、必殺技を持っていた。 「いか天ぷら」だ。  駄菓子屋さんでよく売っている、あの硬い皮の、いか天ぷらである。  これは「広島風お好み焼き」の正統派なのである。  イカの生を入れて、焼く広島風もいいけど、広島風お好み焼きの真髄 は、いか天ぷらをもって、嚆矢(こうし)とする。  この、いか天ぷらの登場で、「頑固広島風お好み焼き」の評価は一挙 に上がった。  新大阪駅に着くと、W杯帰りの外国人たちが大勢乗り込んで来た。  Tシャツの束をどすん! どすん!と、座席に投げ込んで、座席を大 量に確保している。  おまけに大声で、携帯電話で仲間に電話している。  マナーの悪い外国人さんたちだ。  こういう人たちがいるかぎり、「外国人を見たらフーリガンと思うの はやめてくれ!」という意見には、同調できなくなる。  警察はいつも、事件が起きてからでないと動かないと言われ続けて来 たけど、今回のW杯では、事前の動きがすばやかったなあ。やり過ぎの 気もするが、暴動が起きてからでは遅すぎる。  午後8時59分。京都駅で下車。  午後9時30分。京都のマンションに到着。 『桃太郎電鉄』の物件台帳に、柳井の甘露醤油工場や、甘露醤油アイス 屋、瀬戸貝めし屋などを加える。金魚ちょうちん屋、三角餅屋は、すで に書き記してある。  台帳だから、メモするだけ。    まだこの時点では、柳井が全国編に登場するかどうかは、未定。  実は、全国編には、広島から柳井までの山陽本線は割愛されてしまっ ている。  全国編に柳井を登場させるには、広島から線路を新設しないといけな い。  でも広島の青マスぐるぐるまわり線は、ゲームの戦略上、かなり重要 な場所なので、けっこう悩む。ゲーム性が変わってしまう恐れがある。  まあ、間違いなく地方編では、登場させるけどね。  全国編にも、登場させてみたい町ではある。  数日前に浮かんだ、小京都ラリーカードには、ぜひこの柳井は登場さ せたいしね。    明日は、帰京。
 

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