5月24日(金)

 TBSで『ガチンコ』という番組をやっている。
 嫌いな番組だ。
 私が嫌いだと公言すること自体が珍しい。
 嫌いなことは、公の場では話題にしない。
 私はこのスタンスを貫いて来た。
 なのに、私が「嫌い」を公言してはばからないのは、よほど何かひっか
かるものがあるのだろう。

 なかでも、佐野実という、何かというとすぐ入門志願者に向って、唐突
に「帰っていいよ!」と怒鳴り出すシリーズが嫌いだ。たぶん、私の中学
校時代の体育教師・K先生のように、怒鳴るだけで、怒鳴った理由をまっ
たく言わないところが似ていて、嫌いなのだろう。

 視聴者は、あの佐野実という人の怒り方は、演技だ。台本があるに違い
ないともいう。
 それを確かめるには、その人が作った作品(ラーメン)を見るのが、い
ちばん早い。「新横浜ラーメン博物館」に行こう。そう思った。
 西村京太郎さんの十津川警部シリーズなら、「とにかく、亀さん、列車
に乗ってみよう!」という場面だ。
   
 午前10時30分。というわけで、嫁と東京駅に向う。

 午前11時15分。東京駅から、こだま415号に乗車。
 時間がもったいないので、新幹線に乗ってしまったが、もっと遠くまで
旅したくなる気持ちが押さえられなくて。困った。

 午前11時29分。わずか14分で、新横浜駅に到着。早い。

 午後12時。「新横浜ラーメン博物館」へ。
 平日だというのに、混んでいる、混んでいる。
 修学旅行生もいっぱいなら、ふつうの人もいっぱい。
『ガチンコ』の佐野実という人は、もはや「新横浜ラーメン博物館」にか かせない人になっていた。あちこちのポスターに登場し、プロデュースし た、地方創生ラーメン「八戸大陸」をオープンさせ、弟子のお店もこの 「新横浜ラーメン博物館」にオープンさせたようだ。  う〜ん。やっぱり、作り上げられたタレントなのかなあ。  ちょっとそんな気がしてきた。  佐野実の「支那そばや」は、約20分待ちの表示。   細い階段の白線の内側にひとりずつ並ぶ。    ほう。この「新横浜ラーメン博物館」は、何軒もはしごして食べたい人 のために、ミニラーメンというメニューもあるのか。よく考えているなあ。  階段での並ばせ方も、専門の係りがいて、つねに行列をチェックしては、 どのくらいの人数が今並んでいるかを連絡している。  時間どおり、20分ほどで、お店に入ることができた。  へ〜、えらいなあ。4人掛けの席に、知り合い同士3人を座らせて、残 りの1席に見ず知らずの人を無理やり相席にしてしまうことをしない。 20分も待たせているのだから、当然詰め込み、詰め込みのシステムにし ていると思った。  友だち同士だけの席のほうが、おなじラーメンを食べても、美味しく感 じるはずだ。  これは、町のラーメン屋さんも見習ってほしいなあ。    イチ押しのラーメン、石臼挽き麺、1200円が来た。  ちょっと反感を買うような値段だ。  私はトッピングで、名古屋コーチン味付け玉子も注文した。  ずいぶん、細い麺だなあ。極細だ。  私は太麺が好きなほうなので、ちょっと抵抗がある。  ほうほう。チャーシューは美味しいぞ。  ネギに、ショウガが混じって入っている。  不思議な緑色葉っぱが乗っている。これは何だろう。  お店のお兄ちゃんに聞くと「金時草(きんじそう)です!」という答え が返って来た。知らないなあ。
 あとでインターネットで調べたら、金沢あたりの野菜だそうだ。  ビタミンA、鉄分、カルシウムを含む、夏の健康野菜か。ふーん。  別名を、水前寺菜というのは、熊本で古くから栽培されていたせいなの かあ。なのに今では金沢市だけで、栽培されているというのも不思議だ。  さて、味のほうは、間違いなく美味しい。 ただ大好きな味かというと、細麺という部分で、自分の好みから外れる。  それより、やっぱりその人の人格は、「作品に訊け!」だね。  わかったよ! 佐野実という人が! へっへっへ。  スープ、麺、チャーシュー、金時草(きんじそう)。  どれもこれも、とにかく繊細な味なのだ。  それだけ、いい仕事をしているってことなんだけどね。  でも私たち、クリエイターは見るところが違う。  ここまで、繊細な味を作れるのに、豪放さがないということは、佐野実 という人は、よっぽどの小心者だ。  とてつもなく気が小さい人のはずだ。  おそらく本当は、誠実な人だな。うん。  ということは、あのTVでの唐突な怒鳴り散らし方は、やっぱり演技だ な。本来は、他人を怒れるような人じゃないんだろうなあ。  だから、あの怒鳴るタイミングが唐突で、怒ったあとの気の収まり方も、 唐突だったのだ。ただの演技の下手な人だったのだ。  大変だよなあ。TVに出るってことは。    まあ、これは、あくまでも、私の推測だからね。     食後、「新横浜ラーメン博物館」内を歩く。
 オープンした頃に比べて、懐かしいお店の実演販売が増えているんだね。  若い女の子が、おばあちゃんのメイクをして、駄菓子屋のおばちゃんを やっているのは、笑えた。  コリント・ゲーム、かたぬきといった、紙芝居の頃の遊びができるのは、 お父さん世代にも楽しい場所だね。  あげパン。  この文字を見るだけで、私たちの世代は、胸が躍る。  昭和30年代のまずくて、まずくて、仕方がなかった給食のなかで、ひ ときわスターだったのが、あげパンだった。歯が痛くなるような砂糖がた っぷり塗られたあげパンは、いつも金曜日の給食のときに出た…と、くだ らないことを今でも覚えているほど、憧れの食べ物だった。  当然、食べる。  嫁の「砂糖だらけだから、全部食べないように!」という警告をひさび さに無視する。あげパンだけは、誰にもジャマされずに心行くまで食べた い。  女の子であげパンが嫌いな子がいたら、男子は奪い合いだった。その女 の子がかわいいからでなく、ひたすら、みんなあげパンそのものが好きだ ったのだ。  甘い食べ物=美味しいものの時代だ。
そんなわけで、あげパンを一本、ぺろり。 「う〜ん。あげパンのさくさく感がないなあ!」 「昔は、やわらかいパンがなかっただけでしょ!」 「それはそうだった! でも、あげパンは表面が硬くないとなあ…」  午後1時。みなとみらい21の住宅展示場へ。  例によって、私と嫁は、住宅展示場を見るのが、好きだ。  展示場のみなさんには、大変申し訳ないのだが、きょうもまったく家を 購入する気はない。      1億円以上もするモデルハウスを見て、贅沢浴、贅沢浴。  さて、そろそろ帰るかと、ふと見ると、トレーラー・ハウスがあるでは ないか。  今にも『リーサル・ウェポン』のメル・ギブソンが、飛び出して来そう だ。   ちょっと、見て行こう。  えっ!? ひ、広い! 豪華!  まるで、JR北海道、北斗星の特別室みたいだ。  6人も泊まることができるの?  しかも値段が、570万円ちょっと!?  や、や、安い。 「みなさん、この家を見ると、驚きますね!」と、係りの人。  これは驚くよ、実際。     午後2時30分。横浜まで来て、関内駅に寄らずに帰るのは、私らしく ない。  関内駅前セルテ2Fの「ザ・ベイスターズ」で、横浜ベイスターズ・グ ッズを、軽〜〜〜く、2万円ちょっと散財!
 午後3時30分。帰宅。柴尾英令くんとの待ち合わせにちょいと遅れる。 ゴメン。私がベイスターズ・ショップで長居しなければ、間に合ったのに。  自宅にて、一昨日の「VAIO再インストール」の続きを、柴尾英令く んにやってもらいながら、『桃太郎電鉄U(仮)』の打ち合わせ。 「柴尾くん。まったく、新しいシステムって無いかねえ?」 「でもまったく新しいものを『桃太郎電鉄』が、受け入れてくれるかどう かは、わかりませんよね!」  そうなんだよ。斬新で画期的なアイデアはいくらでもあるんだけど、そ れが『桃太郎電鉄』シリーズに合うかというと、別問題だ。  たとえば、「自分で新しい線路を引く」というアイデアは、10数年前 から出ているけど、『桃太郎電鉄』は、ある程度固定されたマス目だから こそ、戦術を立てられるわけで、新しい線路を、勝手に引けるようになる と、戦術という大前提が崩壊してしまう。  ましてや、人間対人間のときに、新しい線路を引く作業をしている人を、 じっと待っていられる人など、いるはずがない。 『桃太郎電鉄』は、わかりやすく、時間をかけずに、効果が絶大なアイデ アを要求されるから、大変だ。  午後8時。神宮前3丁目の「鶏味坐(とりみくら)」へ。  途中から、ポニーキャニオン勤務のけーむらクンが合流。  午後9時。けーむらクンもいっしょに自宅に戻り、VAIOの再インス トールの続き。  TVでは、横浜ベイスターズ対ヤクルト戦。  1対5で敗退。  まあ、2連勝したあとだから、4連敗ぐらいは、平常心でいられる。  今シーズンは、2勝3敗ぐらいのペースで行ってくれれば、御の字。  午後10時。柴尾英令くんと、けーむらクンは、新宿へ。  録画しておいた『マネーの虎』など見る。 『ガチンコ』と違って、『マネーの虎』は演技が無いぶんだけ、TVとし て生き残るのは難しいかもしれない。TVって、そういうメディアだ。
 

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