4月24日(水)

 午前11時。嫁と、銀座三越2F「Hills(ヒルズ)」へ。
 企画会社テンユウの杉沢義文さんと、現在進行中の企画の件で、打ち合
わせ。
 何だかんだで、ゴールデン・ウィーク中に宿題として、私がお仕事をす
ることになってしまった。
 うーーーん。ゴールデン・ウィークは、鎌倉でのんびり本でも読んで、
すごすかなあ!と思っていたけど、杉沢義文さん以外のお仕事も続々入っ
て来て、いつものように遅れを取り戻すゴールデン・ウィークになってし
まいそうだよ〜! 
 こういうときに、昔の芸人さんは「テケれって〜の、ステレンキョウ!」
って叫ぶのだ。この言葉、知ってる人、いるかなあ?

 午後1時。築地のハドソンへ。
『桃太郎電鉄11(仮)』の打ち合わせ。
 まずは、札幌ハドソンの吉見直人さん。「スタジオたくらんけ」の近藤
康彦さん、山田浩之さんと、オープニング・アニメの打ち合わせ。
 土居ちゃん(土居孝幸)は、お尻に火がついた状態なので、自宅でひた
すらイラスト描き! ハドソン宣伝部梶野竜太郎くん、石崎仁英くんも出
たり入ったり! 札幌ハドソンの込山勉(こみやまつとむ)くんは、アニ
メの打ち合わせ終了後の仕様書の打ち合わせをするために、待機中。

 さて、いきなり私がとんでもない「朝令暮改(ちょうれいぼかい)」の
大爆弾を破裂させる! どか〜〜〜ん!
 公表はできない機密事項なのだが、『桃太郎電鉄11(仮)』は『(仮)』
と言いながら、すでにサブタイトルもついている。しかもロゴ・デザイン
もすでに決まっている。
 ところが、このロゴ・デザインを選んでいるときの、井沢どんすけの浮
かない顔を、どうも私が気になって仕方がなかったのだ。
 井沢どんすけは、10種類近くあったロゴ・デザインのどれがいちばん
いいかをかなり迷っていた。迷ったということは、本来いいデザインはな
かったのではないか? そう私は解読すべきではなかったのか?

 毎晩のお風呂タイムになると、このことが気になるのだ。
 私の胸騒ぎは、ずっと続いた。
 しかし、きょう小さな胸騒ぎが、大きな胸騒ぎに変化したのだ!
 横溝正史の映画で、警部が「よ〜し、わかったあ!」のようなものであ
る。

 そうか。井沢どんすけが悩んだのは、ロゴ・デザインではなく、サブ・
タイトルに原因があったのでは!? そうだ! そうに違いない!

「この<××××××××の巻>っていうサブ・タイトルは、<××××
×××××××の巻>のほうがいいんじゃないの?」と、私がいう。
 この私のひとことで、会議室は騒然とした雰囲気になった。
「今から、サブ・タイトルを変えますか! ううっ…!」
 梶野竜太郎くんが、うめく。無理もない。
「うーーーん。間に合わないことはないですね。今の段階なら…」
「でも言われてみれば、圧倒的にそっちのほうが、いいタイトルですよね!」
「そっちで行きましょう!」
「ちょっと、待って! 石崎くん、早すぎ! 私の思いつきは、1週間ぐ
らい、気が変わらない場合は、いいアイデアなんだけど、きょうのきょう
浮かんだアイデアは、よく考えたら、まったくダメだったり、さらにいい
方向へ変化する場合が多い!」
「いつまで待てばいいんですか?」
「うーーーん。そうだなあ…。ゴールデン・ウィーク明けまで!」

 そんなわけで、『桃太郎電鉄11(仮)』のサブ・タイトルは変更にな
りそう。
 この日記を読んだ、土居ちゃん(土居孝幸)はさぞや、驚いていること
だろう。

 でもなあ、こういう「朝令暮改」をするものだから、私は意見がころこ
ろ変わる人と言われることが多いんだろうなあ。
 アイデアを出した段階では、さくまあきらという男のアイデアなのだけ
ど、その後、そのアイデアを反芻、反省するときには、私の視点は、お客
さんの目線になっているのだ。井沢どんすけの目線ともいうが…。
 この勘が発動すると、「朝令暮改」ということになってしまう。
 とはいえ、お客さんの目線からの判断だから、外れたことはないのだ。
 
 というわけで、ゴールデン・ウィーク明け待ちで、最初の議題。
 オープニング・アニメの打ち合わせに入る。
 非常に勢いのある、おもしろい絵コンテが出来上がったので、「このま
ま作画に入ってください!」と答える。
 へっへっへ。また、ちょいとおもしろいオープニングになりそうですぜ!

 引き続き、仕様書の打ち合わせ。
 最新版のロムを見せてもらう!

 おお〜〜〜ッ! キングボンビーがあんなことになっているのかあ!
 す、すごいぞ! いい! いい! ゲスト怪獣の演出、いい、いい〜〜〜! 
 ××××のグラフィック。はっはっは。この場面で、こんな動き入れる
の? いい! いい! これ、OK!

 すごい変わりようだよ、『桃太郎電鉄11(仮)』は!
『桃太郎電鉄V』から、『桃太郎電鉄X(ばってん)』に変化したときよ
りも、大きな変革かもしれない。
 こんな風に豪語しても、それ以上の衝撃を与えられる自信があるね、今
のところ。でもゲーム作りは、下駄をはくまで、わからないからね。

 このあと、桁外れに面倒な仕様の打ち合わせ。
 冬眠中のプレイヤーに、牛歩カードをつかったら、どうなるのか?
 ボンビラス星にいるプレイヤーに、ぶっとばしカードをつかったら?
 カード交換カードで、ウィルスカードは奪えるのか?
 シャッフルカードをつかったときに、誰も1枚もカードを持っていなか
ったら?

 とにかく、こういうことをする人は少ないと思っても、ひとりでもやる
人がいる可能性があったら、対応するのが、ゲーム作りなのだ。
 そっけなく、全部ブッブーとブザーを鳴らしてしまうのは、簡単だけど、
できるかぎり、お客さんの視点で、納得の行く処理にしないと、お客さん
は怒る。
「何だよ、これって、変じゃねーか!」

 さらに、こういうレアな場面を想定することのほうが、死ぬほど難しい。
 刀狩りカードで、デビルカードを奪うなんて人は、絶対いないけど、そ
んなことを思いつく人には、デビルカードを奪うことができるようにして
あげたほうが、お客さんの目線としては、おもしろいと思う。
 実は、『桃太郎電鉄』シリーズというのは、こういうパズルの連続のよ
うなゲームなのだ。
 毎回、会議中に、柴尾英令くんが「誰だ! こんなしちめんどくさいゲ
ームを作ったのは!」と叫ぶ。
 私じゃないんだ、柴尾英令くん!
 お客さんという名の人たちが、私の背後から、こうしろ、ああしろ、こ
うしたほうが、もっとおもしろくなるぞ!と言ってくれるのに従っていた
ら、いつのまにか、化け物のようなゲームになってしまったのだ。

 午後6時。私、嫁、柴尾英令くん、石崎仁英くん、込山勉くん、吉見直
人さんの6人で、銀座のおでん屋さん「よしひろ」へ。

 トマトのおでん、サツマイモのおでん、タマネギのおでん、ゆでたまご
のおでんと、ほかのおでん屋さんではお目にかかることができない、この
お店のメニューに、石崎仁英くん、驚きまくったあげくに、ことごとく
「あちち!」と、やけどしまくる。
 毎回、嫁と柴尾英令くんが「石崎さん、それ、熱いですよ!」と言って
るんだけどねえ!
 午後7時。全員で、築地のハドソンに戻る。  引き続き、頭がきりきり痛くなるような、レア場面の処理に関する打ち 合わせ。 『巨人の星』の星飛雄馬が、大リーグボール養成ギプスをはめて、ぎしぎ し鳴っていたときのような、苦しさだ。  午後9時。私の電子頭脳が、焦げる。ぶすぶすぶす…。 「さくまサン、このくらいで、明日続きをやったほうがいいですよ!」  柴尾英令くん、あんたは、えらい!  この恩義に対するお礼は、もっと、もっと、太るような脂っこい物を大 量に食べてもらって、放送作家の福本岳史くんに負けないような、スーパ ーおデブさんになってもらうしかないなあ! うひょひょのひょ!  午後10時。帰宅。  ひ〜〜〜、どこかのプロ野球チームが、ほとんど昨日と、おなじ、1対 9で負けているではないか〜〜〜ッ!  へなへなへな〜〜〜、怒る気力もない…。  谷繁さん、そんなに毎回、横浜ベイスターズ相手に、そんなに打たなく ても…、とほほ…。
 

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