4月15日(月)

 きょう、東京に帰る。
 でも、ただ2日間、日記を書くためだけに、京都に残ったみたいで、何
だかもったいない。
 これからどこか遠くに寄って行ってもいいわけだけど、また日記が長く
なることを考えると、ちとしんどい。

 午前11時。どうしても昨日、行ってダメだった、霊鑑寺近くののカレ
ー屋さんに行きたい。そう思って、ヤサカタクシーの宮本さんに電話する
も、予約が入っていて、実車中。
 ひとりだけでも行くかと思ったが、気になって、お店を調べたら、月曜
日が定休日であった。危ない。6度目のNGになるところだった。

 午前11時30分。寺町三条の「スマート」で、オムライスにコーヒー。
昭和初期の雰囲気を残す古い喫茶店だが、食事は2Fに限定しているらし い。2Fは初めてだが、こっちも雰囲気のある内装だ。  味のほうも、けっこう美味しい。  創業は昭和7年。美空ひばりさんもよく訪れて、ホットケーキを注文し ていたそうだ。京都のお店は、古ければ、絶対、有名人のエピソード付き だ。  午後12時30分。京都のマンションに戻り、荷物をまとめて、旅行用 カートを引きずり、照明、エアコンなどを点検してから、マンションを出 る。毎回、どこか消し忘れたような気になる。  そういえば、ひとつやり残したことがあるので、近所の本能寺に向う。  織田信長で有名な本能寺だが、ここは豊臣秀吉が再建した場所で、本来 の本能寺は、二条城に近い。  ヤサカタクシーの宮本さんから電話が入り、今からなら動けるというの で、本能寺で待ち合わせることに。  本能寺には、織田信長の供養塔があって、そこには本能寺の変で死んだ 人たちの一覧が、立て札になっている。  前から、この名前をメモしようと思っていた。
 ご迷惑でしょうが、ちょいと私のメモに、お付き合いください。  どうも最近、遠い未来の仕事につかう予定の資料は、この日記にメモっ て、保存しておくのが、いちばんいいということに気付いたもんでね〜。 VAIOに保存してもいいけど、昔、必死に東芝ルポのフロッピーに、 メモったものは「いまは何処に?」になってしまうんでね。  だいたい、本能寺で死んだ人の名前なんて、歴史学者以外、必要の無い ものだから、ほかの人につかわれる危険性はまったく無い。あったりして。            <本能寺の変戦没者> *一段目 来栖備後守   浅井清蔵    菅谷藤太郎    森力丸    森蘭丸     菅谷角蔵    福富五左衛門   津田勘七郎 津田源三郎   津田小藤太 村井長門守   津田九郎次郎  津田又十郎    織田勘七郎 菅谷九右衛門  森坊丸     團平八郎     梶原文右衛門 赤座七良左衛門 飯河官松    青柳勘太郎 *二段目 櫻木傳七郎   高橋虎松    湯浅甚助     篠河兵庫 冬利於亀    柏原大鍋    水野九蔵     狩野又九郎 針阿弥     斎藤新五 河野藤蔵    野々村三十郎  小川愛乎     塙傳三郎 柏原小鍋    飯尾茂介    山田弥太郎    下石彦右衛門 乗原吉見    乗原九三郎 *三段目 金森義八    伊丹新蔵兵衛  逆川甚五郎    木村九十郎 武田喜次郎   下方弥三郎   高木彦次郎    春日源八 逆川甚六    猪子兵介    石田孫左衛門 和田彦太郎   落合小八郎   薄田典五郎    高木孫太郎 永井新太郎   川崎興介    長谷川源次郎   節元九兵衛 井上又蔵    佐久間兵太夫  中根市之介 *四段目 小倉松樹    青地興右衛門  青木次郎左衛門  土方次郎兵衛 平野新左衛門  村井清次郎   種村彦次郎    小澤六良三郎 佐々清蔵    服部小藤太   大坂又市郎    伴太良左衛門 林市介     村井新右衛門  沼孫兵衛     瀧川孫平 伊藤彦作    野尻半平    横山吉内     岡嶋三蔵 村瀬三郎    毛利新介    伊丹甚兵衛 *五段目 平野勘右衛門  加藤於辰    安土孫吉     毛利於岩 種田於亀    金森忠次郎   禅師彦      服部六兵衛 筒井作右衛門  平古屋傳次   別当藤五郎    中尾源太郎 寺田善右衛門  河野善四郎   河野善五郎    河野興十郎 河野小〓    矢代?介    後藤於菊     村田小兵衛 小川徳味    小川太郎    小川源太郎    小川三蔵 成田興左衛門  ふうっ。これだけの人数をノートに書き写すだけで、右腕がつりそうだ ったよ。  上記のメンバーのほかに、もちろん織田信長と、その長男、三位中将・ 織田信忠(おだのぶただ)の名前が入っていた。  あと、昔の文字表記なので、ワープロに無い文字が多かったので、完全 に転載することができなかった。  その辺を、メモさせてほしい。 <正誤表>  1)毛利於岩と、種田於亀、後藤於菊の3名の「於」は「捨」かもしれな い。立て札では「?(てへん)」に「於」の右側のみの文字。 2)河野小〓の「〓」には、雨かんむりに、「鶴」みたいな文字が入る。 3)矢代?介の「?」の右下は「小」という字だった。「?」自体の読みは、 「ソウ」。  歴史マニア用へのちょっとした解説もしておこう。  美形マニアとしては、森蘭丸、力丸、坊丸の三兄弟は、漫画のネタにな りそうだ。  毛利新介というのは、織田信長を一躍勇名にした「桶狭間(おけはざま) の戦い」で、今川義元の首を討った男だ。毛利くんが、ずっと歴史の表舞 台に出てこなかったのは、ここで死んじゃったからなんだね。  服部小藤太というのは、毛利新介といしょに、今川義元に一番槍を刺し た男かと思ったんだけど、あのときの男の名前は、服部小平太。たぶん、 親族だろう。  私としては、服部小藤太と服部小平太が、同一人物であったほうがおも しろい。  猪子兵介は、織田信長が、美濃の斎藤道三のところに訪問に行ったとき に、織田信長を農家の家から、信長の行列をのぞき見していた、斎藤道三 が家来に向って、「美濃は、あの男の軍門に下るだろう」と言った、その 家来。  けっこう織田信長ストーリーの前半に出て来た脇役が、けっこう本能寺 の変で、織田信長といっしょに死んでしまったんだなあ。  もう少し、面倒くさい話にお付き合いください。  歴史の話が嫌いな人は、どうぞ読み飛ばしてしてください。  午後1時。ヤサカタクシーの宮本さんの車で、寺町今出川の「阿弥陀 (あみだ)寺」へ。  また、歴史の旅だ。しかも本能寺の変の続き。
 このお寺にも「織田信長・信忠 討死墓所」の碑がある。  なんと、このお寺の清玉(せいぎょく)上人は、織田信長と親交があっ たことから、1582年、本能寺の変のとき、本能寺に駆けつけ、火の中 から、信長の遺骨を法衣に隠して、持ち帰ったらしいのだ。
 たしかに、このお寺には信長・信忠父子のお墓もあるし、森蘭丸三兄弟 のお墓もあった。石版が割れているのは、猪子兵介だと思う。  また本堂には、信長の木造もあるという。
 これだけ歴史的に、すごいお寺が、何で京都で、無名なまま、こうして ひっそりと小さなお寺のままでいるのだろう。  いろんな歴史の本を読むと、信長・信忠の遺骸は見つからなかったとい うのが、定説だ。だからこのお寺にある遺骸が、本当に信長・信忠父子の ものか、確証がないんだろうなあ。  本堂の前の新緑の紅葉が、美しい。  お賽銭をあげるような箱もないし、このお寺は、まったく商売ッ気が無 いだけなのかもしれない。  まあ、秀吉マニアとしては、前から一度は訪ねておきたい場所だったの で、大満足!  さて! 歴史のお勉強をしたので、ご褒美が欲しくなる。受験勉強には、 夜食だ。今は真昼間なので、ケーキのご褒美だな! はっはっは! 「宮本さん、そういえば宝が池の美味しいケーキ屋さん、たしか潰れてし まったんですよね!」 「はい。潰れましたね! でも、代わりになるようなお店を、探しときま したよ! 行きますか?」 「行く、行く、もちろん!」  というわけで、車は北山通りへ。  午後2時。ケーキ屋さんへ。 「宮本さん、こお店の名前は、何ていうんですかね?」  おしゃえなケーキ屋さんは、フランス語で小さく書いてあったりするの で、お店に入っただけでは、どれが店名かわからないことが多い。 「え〜と、ポワン・プール・ポワンという名前のようですよ!」 「へ〜、プティ・ポワンみたいで、美味しそうな名前ですね〜!」  さっそく、ガラスケースに並んだケーキの山を眺めて、ふたりで大いに 悩む。  あと3ヶ月で50歳になる私と、51歳(でしたっけ?)の宮本さんの 50代が、ケーキに悩む様は異様かもしれない。まあ、そんなことを気に する私ではない。  私は、ムース・オ・ショコラを選び、宮本さんは、ムース・オ・キャラ メルを選ぶ。ふたりとも相当悩む。 「けっこう、かわいい店内ですね〜!」と、あちこち眺めると、雑誌に載 った記事が置いてあって、そこには「木の実のミルフィーユ」が!  う〜む。やっぱり、あっちのほうが美味しかったのかあ!  変わった形をしていたし、美味しそうだったんだよな〜、悔しいなあ!  食べたいなあ! 「さくまサン! 宮本ッちゃんが食べたいうことにして、ミルフィーユも 食べたらど〜です?」 「そんな嘘、誰も信じませんよ! 下手すりゃ、3つとも食べたんでしょ? という濡れ衣を着せられる!」 「そこまでは…!」 「あながち自分でも、嘘と思えない。はっはっは!」  で、けっきょく、木の実のミルフィーユも注文する。  信じる人は少ないだろうが、ミルフィーユは宮本さんと分け合って、食 べたんだからね。ひとり、1個半ですよ。
 それにしても、うまいぞ、このミルフィーユ!  私はパイ生地のものは、好きではないのに、このパリパリ感は、ちょっ と感動もの。  あっ。宮本さん、パイ生地に、クリームをカナッペのように乗せて食べ ている! 「うまい食べ方ですね! ボクも真似よっと!」  すみませんね〜! マニアックな歴史の話をしていたと思ったら、一転 して、お腹が空くような甘いお話で。  このお店のケーキ、美味しいですぞ! デブ軍団にとって、京都の新名 所となるか!?  ヤサカタクシーの宮本さんと世間話などして、最新の京都美味しいもの 屋さん情報を聞き、ノートにメモする。  商売柄、たくさんのグルメ、食い道楽の人たちをお客さんとして乗せて いるから、雑誌に載っていないような隠れた名店を教えてもらえるのだ。  へっへっへ。美味しいもの屋さんの情報を、すぎやまこういち先生ご夫 妻のみならず、宮本さんからも仕入れていると思わなかったでしょ?  午後3時43分。京都駅から、のぞみ76号に乗車。  車中で、『桃太郎電鉄U(仮)』のアイデア出し。  急に、この数日間の疲れがドッと出たのか、ケーキ1個半の天罰が早く も下ったか、胃がもたれて来る。どうした、この程度で! 鉄の胃袋だっ たのに! ケーキを受け付けない身体にだけはなりたくないぞ!    午後6時00分。東京駅着。  地下中央口側のお弁当売り場で、白金とりてんの「地鶏コロ焼き」を買 う。  東京は暑いぞ! 半袖1枚でもじゅうぶんな暑さじゃないか!  私の旅行用カートには今、冬用の厚手のコートが入っているんだぞ!  じゅうぶん、このコートが山陰地方で活躍したというのに!  午後6時30分。帰宅。  帰宅と同時に、『ポポロクロイス物語』の原作者・田森庸介さんから、 電話が入る。病院のロビーからだ。かなり身体の調子がよくなったようだ。 よくなって来たので、よけい淋しいのだろう。うーーーん。お見舞いに行 きたいけど、明日からの予定が詰まっている。  嫁と、「地鶏コロ焼き」を食べる。  島根県浜田の「しまねお魚センター」で買って来た、赤天もいっしょに 食べてみる。美味しいぞ! 私が大好きなマルハの魚肉ソーセージっぽい。  午後9時。あまりにも、フジテレビが、社運をかけたぐらいに、宣伝し まくっている『空から降る一億の星』を見る。  あまりドラマを続けてみないほうなんだけどね。  キムタクと、明石家さんまサンに、土居ちゃん(土居孝幸)も大好きな、 井川遥さんまで出演して、失敗するわけにはいかない緊張感を見てみたか った。  まだこの先、どうなるのかわからないけど、ふと、『タイタニック』を 思い出してしまったのは、私だけ?
 

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