2月8日(金) 午前6時に目が覚めた。こいつは、しめた! いまから仕事すれば、小旅行にでかけられる。 『桃太郎電鉄11(仮)』の農林物件の収益率と値段をすべて変更する。 次回作では、農林物件をまめに買うと戦いやすいかも。一心不乱にキーボ ードを叩き続け、2時間ほどで、完了。ふうっ。 これで心置きなく、日帰り旅行にでかけられる。 午前8時30分。嫁と東京駅丸の内口へ。いつも新幹線の八重洲口でキ ップを買うので、こっちのみどりの窓口で買うのは、妙な気分。 慣れない丸の内側から構内に入ったせいか、駅弁を買う場所など、勝手 が違い、戸惑う。習慣とは恐ろしいものだ。 午前9時。伊豆急踊り子101号に乗る。ひさしぶりに乗った踊り子号は、ペイントも分厚く塗られて、古い。車 内に入ると、むわ〜〜〜ッと、古い車輌特有のまとわりつくような過剰暖 房の匂いが押し寄せて来た。ローカル列車特有の匂いだ。 ブズズズズズッ…。 ディーゼル列車のような鈍い音を立て、列車は身体を震わせながら走り 出す。 新幹線に乗りなれているせいもあるけど、恐ろしく遅く感じる。 並走する横須賀線の車輌のほうがよほど豪華で、軽やかだ。 おいおい! 踊り子号! 特急のくせして、横須賀線にいともカンタンに抜かれるなっ! まった くもう! 思わず、駅弁の深川めしを食べていた箸が止まったほどだ。 きょうこれから向うところは、河津(かわず)というところだ。 午前9時に東京駅を出て、到着予定は、午前11時30分。2時間半で ある。 時刻表を見れば、おなじ午前9時を出発した、のぞみ49号は、ぴった りおなじ午前11時30分に新大阪駅に到着する。 なんだか釈然としないものがある。 たっぷり時間があるので、車中で『桃太郎電鉄11(仮)』のお仕事。 昨日の会議で出た改良案に対して、ガシガシッ鉛筆を走らせる。 「ブラ〜〜〜ック・ボンビーーーーー!」 「ギュルッフッフッ〜〜!」 わけのわからない奇声を上げながら、メモ帳に文章を書き殴る。 快調なり。仕事は電車にかぎる。 熱海駅あたりから、車窓左手に海が見えて気持ちいいのだが、ずっと海 の風景が続くわけではなく、すぐトンネルに入ってしまう。中途半端だ。 ちょっと踊り子号への文句が多いなあ。 でも20年前からちっとも進歩がないっていうのは、文句を言っても仕 方がないと思う。企業努力が感じられない。雪印のような黒い経営が奥底 で暗躍しているのではあるまいな。 午前11時30分。河津(かわづ)駅着。 「河津(かわづ)」という言葉を聞くと、ジャイアント馬場さんの必殺技 「河津掛け」を思い出す人も少なくないだろう。私もそう思った。ところ が冗談ではなく、河津掛けの考案者・河津三郎というお相撲さんがこの地 にいたそうだ。大きな石を持ち上げて鍛えたさまを描いた石像まであるそ うな。 でも、きょう河津(かわづ)に来たのは、お相撲の研究ではない。 桜を見に来た。 「桜って、4月じゃないの?」と思った人は、実に正しい。 この河津の桜は、2月に咲くのだ。 駅に降りると「河津桜つり」ののぼりが目に入る。 プラットホームから、階段を降りて行くと、両側にマンション売出し中 のような紅白の垂れ幕が覆っている。悪趣味。 駅を出て、右手を見れば、もう桜が見えた! 伊豆急の線路の土手下に、桜並木が伸びる。 これは美しい。 天気もよいので、本当にもう春が来たような気分になる。 何でも、緋寒(ひかん)桜と早咲きの大島桜が、自然交配されて、河津 桜という品種になったようだ。 それにしても「河津桜まつり」は、明後日の2月10日からだというの に、観光客が多い。 「いらっしゃい! いらっしゃい! さくら餅、おいしいよ〜〜〜!」 出店は温泉地の客引きさんたちのように、賑わっちゃってるし、老若男 女…じゃなくて、老々男女…、とにかくお年寄りたちが、ドッと繰り出し ている。 まだ「河津桜まつり」が始まっていないから、人が少ないと思って来て みたんだけど、すごいや! でも後で聞いた話によると、「河津まつり」 が始まると、こんなもんじゃなくて、土日には、10万人近くも来るそう だ。10万人! もう人と人がすれ違うのがやっとの状態になるという。 桜って、それほどまでに人を動かすものなのかあ。 って私たちもこうして、桜を見に来ているわけだけどね。 しかし、おじいちゃん、おばあちゃん率が高い。 今年50歳になる私が、最年少かと思えるほどだが、よく考えると、そ ういう老年の入口に立ち始めたということではないか。 河津川を上流に向って歩く。 3000本の桜が植えられている。 桜まんじゅう。桜もち。桜ゼリー…。 桜をつかったお土産品を売るのはわかるけど、アジを焼いていたり、ふ きのとうや本わさびを売っていたりして、とにかくこのあたりにある売り 物になりそうなものは、みんな持って来てしまったという粗雑な雰囲気だ。 川の土手に咲く桜は、5分咲きといった感じなのかな? 上流に向うに 従って、3咲き、2分咲きと、花はすぼみ、蕾のほうが増えて行く。 桜の木に止まっている鳥は、ウグイスではなく、メジロだそうだ。 どうも私は東京生まれの東京育ちなので、草木、鳥類の名称に疎い。 ウグイス見ても、うぐいす餅が食べたくなる輩だ。 梅にウグイス。桜にメジロか。 勉強になったぞ。 ひたすら河津川に咲く桜を見ながら、歩く。 河津は、本わさびが名産なほどだけに、川の水がきれいったらありゃし ない。ミネラルウォーターをボトルからそのまま流したようだ。 薄い色の小さな魚の群れまで、川沿いから見つけることができる。 白い鷺(さぎ)が眩しい。 コートを脱ぐ。暖かい。じんわり汗ばむ。 午後12時30分。気がつけばもう1時間も歩いているのか。 途中でベンチに腰掛けて、ほっこり桜を眺めていたから、歩いた正味は 40分ほどだろうが。 河津川の桜並木沿いを、峰温泉という地域まで来た。 とにかくずっと1キロぐらい桜並木が続く様は、満開のときに来たら、 圧巻だろうなあ。2月10日から、桜は1ヶ月も続くそうだから、桜好き の人はぜひ来てみるといい。 峰温泉地区で、下品な看板を発見。 (びっく) 峰温泉bigりイベント会場。 どーんと2002杯。 2月24日 11:00〜 とん汁の無料サービス 12:00〜 峰龍太鼓の演奏 タレントの峰竜太さんが来るのかと思ったら、太鼓の名前だった。 観光地はベタなだじゃれが大好きだなあ。Big(びっく)りは、つらい。 ほどなく、踊り子温泉会館にたどり着く。 ひなびた古めかしい公共施設を想像していたのだが、意外なほど、清潔 で大きな建物である。川端康成の『伊豆の踊り子』の舞台が近いから、河 津には何でもかんでも「踊り子」の文字がつくが、ここも名前だけ。受付 の温泉受付のところでも、踊り子タオルという強引なグッズを売っている。 残念ながら、私はまだ手足が不自由なので、温泉に入ることができない。 入ることは入れるのだが、片手が動かないと、浴衣のひもを結ぶことが できないのですよ。タオルを絞ることもできない。 そんなわけで、嫁だけ露天風呂に入って来ることに。 私はロビーのソファーで、河津川の桜並木を眺める。開放的な大きな窓 だけに、眺めているだけで気持ちいい。 あれ? 早いなあ。20分ほどで、もう嫁が戻って来た。 露天風呂から、河津桜が見えて、非常に気持ちよかったそうだ。 午後1時。タクシーを呼んで、下田に向ってもらう。 海沿いの道を走る。 アロエの木が多い。伊豆白浜には「アロエの里」というのもあるのか。 しかし、これほど真っ赤な花が咲くのか。知らなかったなあ。 車はかなり高地を走っているようで、遠くまで海が広がる景色の連続に 圧倒される。 運転手さんが、元横浜ベイスターズの監督だった須藤さんみたいな人で、 美声で物知りなので、伊豆半島について、あれこれ教えてもらう。河津合 同タクシーの土屋さんという人だった。連絡先を聞いておくべきだったく らい、親切。 これから下田の先の下賀茂温泉に近い「みなみ」というところに咲いて いる桜を見に行くのだ。 「みなみまで行くなら、お客さんに教えると必ず喜ばれる場所があるんで すが、よかったら寄って行きませんか?」と運転手さんがいう。 予定より順調に、希望の場所を消化できたので時間に余裕がある。しか もこの親切な運転手さんがいう「地元の人しか知らない浜辺」という言葉 には、そそられる。 車は、吉佐美(きさみ)海岸というところを通り、「田牛」というとこ ろへ。 「田牛」というのは「たうし」と読むのだとおもったら、なんと「とうじ」 と読むそうだ。ひとっつもかすってないじゃないか、読み仮名が! 難読 地名にもほどがある。正解を聞いたときの落差もない。 京都の地名「一口」という地名の読み仮名「いもあらい」のほうが笑える。 しかし「田牛(たうし)海岸」には、びっくり! とても日本の浜辺のように思えない。 波に侵食された奇岩が並び、白砂が広がる。 いまにもレオナルド・ディカプリオが向こうから走って来そうだ。それ は映画『ザ・ビーチ』でございましょう! 海もエメラルド・グリーンで、透明度の高いこと! まさにプライベート・ビーチのようだ。 さらに、海からの風がこの白砂を岸壁に吹き上げ、天然の傾斜30度の サンドスキー場を作っている浜まで見せてもらう。 これは不思議な場所だ。 日曜日の夜、寺尾聡さんが語るTBSの番組。名前忘れた。あの世界紀 行みたいな番組を見ているようだ。 --竜宮窟--ここも急階段なので嫁だけ-- まだまだ日本には、美しい場所が潜んでいる。 午後2時30分。南伊豆町の菜の花畑へ。 東京ドームのグラウンド部分よりも広い畑に、菜の花の黄色が広がる。 これもまた壮観なり。さらに、みなみの青野川沿いに咲く桜を見る。 しかし、川の水が濁っていて、景色としては、河津桜のほうがきれいだ った。親切な運転手さんも「あれ〜、河津のほうがよかったなあ!」と悔 しそうだ。 本来なら、ここの桜は、木の下に菜の花が群生して、ピンクとイエロー の鮮やかな色の競演が見られることで有名なのだそうだ。 きょうは、菜の花も少ない。 でも、河津桜、南伊豆町の菜の花畑を見ることができたので、大満足。 下田に向ってもらう。 午後3時。伊豆急下田駅。特急のキップを買ってから、下田駅周辺のお 土産物屋さんを物色しようと思ったら、なんと! 午後3時に踊り子号が 出るというではないか! 発車まで2分! 2分と聞くと、反射的に乗り たくなるのはなぜだ!? 1区間分の乗車券だけ買って、踊り子125号 の1号車に飛び乗る。 なかで、キップを買えばいいと思ったのだが、なんと車内では、指定席 が買えないというのではないか。売ってくれたのは自由席。別に自由席は いいのだが、自由席があるのは、8号車からだというではないか。 ひ〜〜〜! えっちらおっちら、よく揺れる車輌の通路を必死に歩く。 私はまだ足を踏ん張ることが苦手なので、あっちにぶつかり、こっちに ぶつかりしながら、自由席車輌をめざす。 席について、すぐ熟睡。 疲れた。 午後4時24分。このままおとなしく東京に帰ると思ったら、大間違い。 熱海駅で下車。 うひょ〜。あれだけ暖かかったのに、風が冷たい。ぴゅううう。 まずは駅前の平和通りのお土産屋さん街へ。 ここには「天の川饅頭」という美味しい和菓子を売っているお店がある ので、立ち寄って、栗の和菓子とか、天の川饅頭を買う。 平和通りから、商店街を抜けて、急な坂をえんえん下る。 あまりにも急で、転げ落ちそうになる。 風がどんどん強くなって来て、後ろから押されるので、よけい危ない。 めざす場所は、「男の人の足なら10分ぐらい」と言われて、歩いて来 たのだが、すでにもう20分ほど歩いている。パン屋さんで「銀座通りっ てここからどのくらいでしょうか?」と聞くと「10分ぐらいです」との 答え。さっきのおばちゃんの「男の人の足なら…」という男の人は、マラ ソンの選手か。 だいたい「銀座通り」というくらいだから、駅からすぐだと思っていた。 う〜〜〜、寒い、寒い。きょうあれほど暖かかったので、ちょっと温度 が下がっただけで、猛烈に寒くなったように思える。 午後5時。あ〜〜〜! お目当てのひもの専門店「K」は「本日、貸切 のためお休みさせていただきます」の張り紙が! ひ〜〜〜! 寒い思いでここまで来たのに〜。店頭で魚を選んで、刺身にしてくれた り、熱海名物の干物も食べられるとあって、期待して来たのに〜〜〜! くやしい〜〜〜! もきゅ〜! 落胆〜! 悔やんでも仕方が無いので、天の川饅頭のおばちゃんが「美味しいです よ」と教えてくれたお寿司屋さん「寿し忠」へ。 地の魚を握ってくれるというので、アジ、平目、カンパチ、金目鯛、 カマス、イサキ、サヨリを注文。アジはやっぱり抜群の味。あとは金目鯛 が美味しかった。 あっというまに食べ終え、勘定をすまそうとすると、棚に、小説家の辻 真先(つじまさき)さんの本がずらり。 「このお店に辻真先さん、いらっしゃるんですか?」と聞くと「はい。月 に1回ほどいらっしゃいます」。 そういえば、年賀状の住所が浅間温泉から、熱海に変わってから、ずい ぶんたつなあ。もう10年ほどお会いしていない。こんなところで、辻真 先さんと縁があるなんて。これは「半ばったり病」かな。 午後5時56分。熱海駅。こだま476号。 3連休の前日なので、混んでいる。 再び、うとうとするが、歯がずきずき痛む。 疲れると、歯って痛くなるからねえ。 そういえばさっき、お寿司を食べたときに、違和感があった。 午後6時46分。東京駅。あれ〜、東京―熱海間って、新幹線で50分 もかかるの? けっこうかかるんだなあ。途中の小田原で、ひかりとか、 のぞみの通過待ちをするせいだな。すっかり、新幹線こだま号は、ローカ ル線になってしまった。 午後7時30分。帰宅。 さすがに疲れたので、ベッドに横になる。 ところが、少し痛かった程度の歯が、猛烈な痛さになってくる。 痛み止めの薬を飲むが、まったく効かない。 1時間ほど、仮眠するが、歯の痛みで目が覚める。 これはひょっとすると、歯の痛みではないんじゃないか?と思えるほど の痛さだ。やばい。 どうにも動くことすらできない。 ズキズキッ…。ズキズキッ…。 午前0時。痛み止めの薬に、1日3回を限度として、飲むときは4時間 以上間をあけてから飲むようにと書いてある。 まだ4時間たっていないが、この際いいだろう。 痛み止めの薬を飲む。 まったく効かない。 ううっ。ズキズキッ…。ズキズキッ…。ズキズキッ…。 歯痛というのは、逃げ場がない。 ベッドで、身体を横にすると、少し楽になるといった作戦が立てられない。 ズキズキッ…。ズキズキッ…。ズキズキッ…。ズキズキッ…。 口がカラス天狗のように、膨らんでいる感じだ。 ズキズキッ…。ズキズキッ…。ズキズキッ…。ズキズキッ…。 TVを見ることに集中しようと思っても、歯が痛くて集中できない。 ズキズキッ…。ズキズキッ…。ズキズキッ…。ズキズキッ…。 うっかり頭を叩いたら、飛び上がるように痛かった。 ズキズキッ…。ズキズキッ…。ズキズキッ…。ズキズキッ…。 頭が割れそうだッ! ズキズキッ…。ズキズキッ…。ズキズキッ…。 眠れない! ズキズキッ…。ズキズキッ…。ズキズキッ…。 吐き気までして来た。 ズキズキッ…。ズキズキッ…。ズキズキッ…。 ガマンしかすることができないのか? ズキズキッ…。ズキズキッ…。ズキズキッ…。 午前4時。30分ぐらい寝たのかなあ。また歯の痛みで目が覚める。 さらに残っていた最後の痛み止めの薬を飲む。 効かない。わかっている。でもほかに対応策が無い。 明日になったら、歯医者に行こう。 それしか浮かばない。 ズキズキッ…。ズキズキッ…。ズキズキッ…。 うぐぐぐっ、あんがら、ほんがら、うぎゃぎゃぎゃ…。 もう思考回路がショートして、火花が出ているのがわかる。 眠ることさえできずに、夜が明けていく…。 ズキズキッ…。ズキズキッ…。ズキズキッ…。 どうしたらいいんだろう…。 どうにもならない…。
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