1月19日(金) 山口市・どっぺるクンからのメール。 さくまサン、いい歯医者知っていてうらやましいです。 自分なんか去年、痛くもないのにいきなり親知らず抜かれて失敗して 11日間入院ですよ(泣)。もちろん医者は失敗したなんて思ってない・・・。 いいかげんな医者って多いからねえ。私も「細見デンタルクリニック」 に行く前に、歯をぐちゃぐちゃに治療されて歯を腐らせてしまったからね。 細見さんは本当に名医だ。山口市からじゃ通えないしなあ。 午前10時30分。嫁と、杉並区上井草駅前の「細見デンタルクリニッ ク」へ。 昨日、抜歯したところを検査してもらう。無事、完了。 午前11時。お昼に、井沢どんすけが原宿の家に来ることになっている。 そろそろ家を出る頃だろうと思って、電話してみた。 「お〜い! 井沢〜! どうせまだ飯食ってないんだろう。いっしょに飯 を食おう! 阿佐ヶ谷駅に15分後なっ!」 「あ、いや、その…、まだ起き抜けなんで、15分ではちょっと…」 「あっ。おまえ、いまの電話で起きたな!」 「は、はい。えへえへえへっ!」 けっきょく、井沢どんすけの家の近くのケーキ屋さん「ニュートンの林 檎」で、井沢どんすけを待つことに。まいったなあ…とふつうなら、書く ところだが、この「ニュートンの林檎」はかつて、杉並区に住んでいた頃、 よく行ったお店。ひさしぶりにここの美味しいケーキを食べることができ た。コーヒーの味が上品になっていた。 午前11時30分。私、嫁、井沢どんすけの3人で、阿佐ヶ谷駅北口の 「航海屋らーめん」へ。 午後12時30分。自宅に戻り、井沢どんすけと『桃太郎電鉄X(ばっ てん)』の公式戦を、勉強プレイ。 例によって、井沢どんすけの悲鳴連続! 私の圧勝に終る。 ひさしぶりに、うんちカードを何枚もつかって、井沢どんすけを貧乏神 がついたコンピュータ・キャラと挟み込んであげた。最後の1年、私は目 的地も目指さず、井沢どんすけとコンピュータ・キャラとの死闘を高見の 見物。しかし、この勉強プレイも、『桃太郎電鉄11(仮)』のためなのだが、 依然ハドソンから契約書の件も、仕事開始の件も言ってこない。 あれだけ、「1年で作れ!」と無謀なことを言っておきながら、ほった らかしたままというのは、どういう了見なんだろう。 今年は、契約しないほうがいいような気になって来た。 すでに「全国編」の仕様書が完成しているんだから、これに地方編を ひとつ加えて来年の暮れにでも発売したほうが、お客さんも毎年買わずに すんで、助かると思うのだが…。 その後、井沢どんすけは『ピクミン』にはまる。 120匹中、約40匹ピクミンを死なすという、あいかわらず人使いの 粗さを見せつける。 「ピクミンは泳げなかったのかあ…」 井沢どんすけ。ゲームのなかでも、敵に回すと恐いが、味方にすると もっと恐い男である。 午後5時。私、嫁、井沢どんすけの3人で、渋谷「ブックファースト」 1Fの喫茶店「マ・メゾン」へ。 さあて、ここから私にとって、長い一日の始まりだ。 じつはきょう、うっかりダブル・ブッキングしてしまったのだ。 三谷幸喜さん作・演出の舞台『彦馬がゆく』と、放送作家福本岳史くん 主催の若手異業種交流会「笑福会」だ。 『彦馬がゆく』のほうは、わざわざ三谷幸喜さんの事務所にかけあって もらってプラチナ・ペーパーを入手していただいたし、「笑福会」のほう は、放送作家の福本岳史くんに、何人か初対面の人を紹介しないといけな いので、どっちも重要である。 しかし本来なら、どちらかをキャンセルしないといけないのだが、あい かわらず私は悪運が強い。なんと! このふたつの開催地が、わずか5分 ぐらいの位置にある。ようするに「笑福会」で乾杯の音頭を取ったのち、 舞台を見に行き、「笑福会」の二次会に戻るという、まるで推理小説の犯 罪者のトリックみたいなことを試みることになった。ちょっとスリリング。 また、どういうわけかダブル・ブッキングが発覚する前に、この喫茶店 で、本日「笑福会」初登場の3人を、福本岳史くんに紹介することになっ ていたのだから、本当に運がいい。 放送作家兼電通マンの柿添尚弘くん、『週刊少年サンデー』の読者ペー ジを担当している、すとろう小泉くんと石川キンテツくんの二人組。さら に井沢どんすけは、「笑福会」初登場なのだ。 午後6時。嫁に『彦馬がゆく』のチケットを受け取りに行ってもらい、 私は柿添尚弘くん以下4人を、「笑福会」恒例の開催地「九州」まで引率 する。 この「笑福会」に集まったみなさんを紹介。 元ハドソンで、現在キャラクター・ビジネスの会社「ぴっころ」勤務の武 田学くん。ナムコの中野渡昌平くん、門谷祥子。フリーライターの友清哲 くん。BSデータ放送『親子でボンボン』のパーソナリティで声優の松元 恵さん。学生イラストレーターの高内優向と丸堀彩文さん。 あたふたと、乾杯の音頭を取り、さつま揚げを3本ほど食しただけで、 「九州」を後にする。『ラジオアニメどんぶり』のディレクター・有井達 紀さんと、すれ違い。滞在時間約20分。 午後6時50分。パルコ劇場へ。『彦馬がゆく』を観る。 柴尾英令夫妻、アスミック・エースの小川真司さん、デザイン会社経営 の田村宏さんといっしょ。 『彦馬がゆく』は、司馬遼太郎さんの名作『竜馬がゆく』ではない。 日本最初の写真技師・上野彦馬の『彦馬』である。 ところがこの人が、あの有名な坂本竜馬の写真を撮っている。 眉唾(まゆつば)臭い我が家の歴史のなかで、私の祖先が明治時代の初 期、「熊本日日(にちにち)新聞」の写真部長だったらしい。上野彦馬は、 長崎で写真屋さんを開業していたから、私の先祖がニアミスしていたかも しれない。 そんな因縁があるので、ずっと私も上野彦馬については、ちょぼちょぼ と調べてはいたのだ。まさかあの三谷幸喜さんが目をつけているとは思わ なかったので、是が非でもと、チケットをお願いした次第。小川真司さん、 ありがとうございます! でもあとでパンフレットを見たら、彦馬は、上野彦馬ではなく、架空の 「神田彦馬」という写真技師の設定だそうだ。 どおりで、江戸で彦馬が写真館を経営しているのは、変だと思った。 さて、開演前私がどんな風にあたふたしていたかというと、さくまにあ の奥山敦夫くんからのメール。 さくまあきら様 「ほんのチョイ!」で2、3回投稿させていただいた奥山敦夫です。 ご無沙汰しております。 さくまさん、今日渋谷パルコ劇場「彦馬がゆく」 (F20席)にいませんでしたか? たまたま開演前に4番扉付近で「階段上るの?」と 一言漏らしたさくまさんに似た方?をお見かけしました。 また休憩中のトイレでは柴尾英令さんに似た方?と隣合わせでした。 それぞれ遭遇した瞬間、挨拶しようかどうしようかと考えた結果、 「誰だこいつ?」となりかねないと思いまして止めました(笑)。 はっはっは。「階段上るの〜!」と言ったのは、たしかに私だ。 恐ろしいもんじゃの〜! 壁に耳ありだ。 こういうときは「さくまサン、日記読んでいます!」という言葉をキー ワードに話し掛けてくれると話しやすい。どこでどんな縁が始まるかもし れないよ。 私も今年、50歳になる。 私と話しておかないと、一生話せず終いになる確率は高くなって来てい るぞ…という性質の悪いギャグはやめろと、福ちゃんにいつも怒られてい る。 ちなみに、F20席の後ろ、G20席に座っていたのは、役所広司さん であった。格好いい。 午後7時。開演。 まいったね、こりゃ! 悔しいけれど、抱腹絶倒の連続だ! ギャグの入り方が絶妙、見事、あっぱれ! 最初の20分間ぐらいで、ほとんどの登場人物の性格はこんな感じとい うのを、またたくまに観客に植え込んでしまう。 たとえば、彦馬など、何か言いかけてはやめるを何回も繰り返して、優 柔不断であることを観客に植え付ける。 この性格に対して、家族がどんな怒り方をするかで、またたくまに家族 全員の性格設定を見せつけてしまうのだ。 セットも豪華で、緻密。 これほどまでディテールに凝ったセットというのは、初めて見た。 ギャグの入り方には感服至極。 明治維新の真面目な資料を並べておいて、難しい内容だと思わせた瞬間 にギャグを入れて、なごませる。もうそのタイミングがスレスレなのだ。 ちょっとでも遅れたら、全部のギャグを笑えなくしてしまいうほど、ぎり ぎりだ。 俳優の筒井道隆くんが、不思議な役どころで、この舞台のシナリオを全 部、客席に向って解説していく手法を取っているのだが、これもまた絶妙。 うっとおしいと思えるぎりぎり一歩手前で、止まっている。 さらにドラマというのは、主演とヒロインを際立たせて、あとはわざと 地味にするというのが王道だが、今回出演の12人の誰もの好感度がアッ プするような展開は、とても物書きにはできない技だ。 以前「笑止会」に来てくれた瀬戸カトリーヌちゃんも本当にいい演技で 際立っていた。いい舞台に出演できたなあ。 本当に、三谷幸喜さんという人は、文筆業なら恐れて、挑戦しないぎり ぎりの領域に、平気で足を突っ込む人だ。 写真を撮るときの「ハイ、ポーズ」や「チーズ!」に相当する、舞台で 繰り返される言葉がいまも頭にこびりついている。 「それでは、いままでの人生のなかで、いちばん愉快だった時のことを思 い出してください!」 いままでの人生のなかで、いちばん愉快な舞台として、この日を頭のな かに刻んだ。 しかし、午後7時開演で、午後10時20分に終演。途中、休憩が20 分入ったから、なんとまるまる3時間という長い舞台が、まるで1時間ぐ らいのように感じた。 世間には、グルメ料理のように探せば探すほど、素晴らしい物がたくさ んあるんだなあ。三谷幸喜さんという人は、本当に素晴らしいシェフだ。 午後10時30分。放送作家の福本岳史くんから、二次会は「北の家族」 でやっているとの連絡が入る。場所がわからないというと、わざわざ福ち ゃんは、寒空の下、「九州」の前で待っていてくれた。いくらデブは寒さ に強いといってもね。最近、福ちゃんは他人に対して妙にやさしくなった。 うちの嫁は、柴尾英令くんたちと別のお店へ。 何でも、菅沼真理(通称:すがねまチャン)さん、けーむらクン、高瀬 美恵さんたちが待機していて、「『彦馬がゆく』はよかったね!」と語り 合う会を催すそうだ。すがねまチャンたちは、12日に『彦馬がゆく』を 観て、語りたくて、語りたくて、手ぐすね引いて待っているのだそうだ。 おもしろい趣向だ。 「北の家族」へ。私の合流と、プロボクサーの日高和彦くん、美容室 『レ・ザンジュ』の佐藤志靖さんのカップルの到着がいっしょになった。 ここでアニメ演出家の桜井弘明さんを紹介される。 桜井弘明さんは、なんと。私が原案として参加したアニメ『ゲンジ通信 あげだま』の演出を担当されていたようである。原作者側というのは、け っこうアニメの現場の人を知らないまま終ってしまうことが多い。 ちなみに『ゲンジ通信あげだ』は、広井王子くんと、『セーラームーン』 の脚本家・富田佑弘さん、私の共同原作。今となっては豪華な顔ぶれだ。 午後11時30分。「北の家族」へ、嫁とすがねまチャンが合流。 もう誰がどのお店に行って、誰が何時ごろ帰ったのか、よくわからない。 すとろう小泉くんは、私が「北の家族」に合流したとき、いつ私が「九 州」から消えたのか知らなかったそうだ。まさに推理小説の犯罪者のトリ ックのようではないか。うれしいなあ。 午前0時。少しずつ人数が減って来たので、私も帰ることに。 私、嫁、井沢どんすけの3人で、タクシーで井沢どんすけを原宿駅で降 ろしながら、帰宅。 しかし、井沢どんすけは本日、お金を3000円しか持って来ておらず、 福ちゃんにお金を借りたそうである。しかももう少し私が遅く「井沢どん すけ、帰ろう!」と言っていたら、終電が無くなり、タクシー代もなく、 家まで帰れなくなるところだったそうだ。 私が今朝、無理やり井沢どんすけを起こしたせいで、現金の持ち合わせ が少なくなってしまったのだろうが、あいかわらず敵に回すと恐いが、味 方にするともっと恐い男である。 あわただしい1日だった。ふう…。
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