1月15日(火)

 まだ奥歯はグラグラしたまま〜。

 この3日間、ホテルでの集合時間が毎日1時間ずつ繰り上がって行くの
で、だんだん寝不足がきつくなって来た。移動の疲労もかなりのものだ。
プロ野球の選手とかプロレスラーは本当にすごいなあ。1年中日本を駆け
巡って、さらに試合しているんだもんなあ。

 午前8時。博多ハイアット・リージェンシー1Fで、土居ちゃんとバイ
キング料理を食べていると、電話が入る。
「おはようございます! 柴尾です! 朝食券が見当たらないので、もう
少しあとから行きます!」
「なになに? 柴尾くん、どうしたの?」
「朝食券が無いんだって?」
「またか! あいかわらず、やるなあ! ははは!」
 あわてん坊将軍・柴尾英令の面目躍如である。
 この私と土居ちゃんの会話を聞いていたホテルの人が、「朝食券なら、
再発行いたしますが…!」と親切にいってくれた。
 柴尾くんに電話すると「いえ! ありました! ありました! たった
今、見つけました! ふう〜〜〜!」
 朝から、忙しい男だ。

 午前9時。ホテルから荷物を持って、博多駅まで歩く。
 こんな時間なので、博多駅から吐き出される通勤客とすれ違う。
 昔は夜遊びばかりして、通勤客とすれ違う頃に、家に向って帰ることが
多くて、後ろめたかったものだ。

 博多駅で、ハドソンの梶野竜太郎くん、石崎仁英くんと待ち合わせ。

 午前9時22分。のぞみ12号。
 広島駅近くまで仕事の打ち合わせをして、その後、各自座席で熟睡。
 みんな、さすがに疲れている。

 午前11時51分。新大阪駅で、下車。
 きょうは「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン」へ取材という名の
「ご褒美旅行」なので、にこにこ、わくわく。

「さくまサン、仕事ですよ、これは。仕事!」
「さくまサンが、仕事意識薄れると、雨が降るジンクス、カンベンしてく
ださいよ〜!」
「よ〜し! じゃあ、仕事も無事終えたことだし、きょうはみんなで羽を
伸ばすか、(間をあけて)、雨がザ〜〜〜!」
「冗談やめてくださいよ。ただでさえ天気予報は、曇りのち雨なんですから」
「はっはっは。すまん、すまん」
「あれ? ちょっと待ってくださいよ。ほんとに雨がぽつぽつ降って来た」
「冗談になっていない!」
「でもユニバーサル・スタジオって、屋内で見るアトラクションばっかな
んだろ? だったら別に雨は関係ないんじゃないの?」
「そうか。そういえばそうだ。『バックドラフト』なんか、熱い!」

 きょうのメンバーでは、柴尾英令くんと、梶野竜太郎がテーマパーク・
マニアで、すでにふたりとも、アメリカの「ユニバーサル・スタジオ」に
行っている。なのにふたりとも、こっちも見たいと昨年からずっと言って
いたのだから、マニアというのはすごいものだ。

「大阪駅からわずか10分! ユニバーサル・スタジオ・ジャパンへは
JRをご利用ください!」の看板が多い。そんなに近いの? 待て、待て。
「大阪駅から…」というのがカラクリだな。「<新>大阪駅から」ではな
く「大阪駅から」だ。
 観光客にとっての入口は、新幹線のある新大阪駅でしょうが。
 こういう騙し方をするのが、いかにも関西っぽい。

 そんなわけで、新大阪駅のコインロッカーに荷物を預けて、JRで大阪
駅まで。大阪駅から、ゆめ咲線に乗り換える。「ゆめ咲線」というのも、
ずいぶんセンスの悪い路線名だなあ。

 午後12時。ユニバーサルシティ駅着。
 うわあ、すごいなあ。駅を降りたら、もう「ユニバーサル・スタジオ・
ジャパン」なんだあ。
 あれ? ひょっとして、ここはまだ「ユニバーサル・スタジオ・ジャパ
ン」までの参道? たしかに入口のゲートをまだ見ていない。
 ここは神社の前のお土産品屋さん街なのだ。

 HMV、バーガーショップ、雑貨屋さんなどが、いつもの日本中どこで
もおなじデザインと違って、ユニバーサル・スタジオ・ジャパン風に、キ
ングコングの看板とかあしらっているので、もうユニバーサル・スタジオ・
ジャパンのなかに入っているのかと錯覚した。
 かなりの距離を歩いて、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンのゲートへ。  3年前の脚力だったら、私はここですでにリタイアしたなあ。 「うおおおっ!」「あ〜〜〜!」「う〜〜〜ッ!」  テーマパーク・マニアの梶野竜太郎くんが、感激している。  まずは、柴尾英令くんの案内で、「E.T.アドベンチャー」へ。  柴尾英令くんは、私が高所恐怖症のジェットコースター嫌いなのをよく 知っているので、どことどこを見たらいいか、添乗員のようにチョイスし てくれる。便利で能吏な男だ。忘れ物さえしなければ…。  入口で名前をいうシステムになっている。  最後で名前がスクリーンに映し出されるとか、音声合成で名前が呼ばれ る仕組みだな。  石崎仁英くんが名前をいうときに「スっとこどっこいマン」と言って、 係りのお姉さんに「本名の下の名前を教えていただきたいのですが…」と 怒られている。  こういう変な客って多いんだろうなあ。  ほう。スピルバーグが出て来た。若い。    3人繋がりの自転車に乗って、E.T.の星へ。  ちょっと上がったり、下がったりで、高所恐怖症の私としては、ドキド キするけど、楽しい。盛りだくさんで、全部を見切ることができないのは、 リピーター客のためだな。  『E.T.』、自転車、あのジョン・ウイリアムスの名曲。押さえてる なあ。  引き続き、『ターミネーター2:3D』へ。  前説(まえせつ)が長いなあ。  入口から入ったところでも、まだ前説。  じらしたほうが、感動を呼ぶのは当たり前だけど、それにしても長い。  ずっと立ちっ放しというのは、私の場合、身体的に非常に苦しい。  映像が始まった。 『ターミネーター2』の続編のような、豪華な映像だ。  すごいなあ。お金がかかっているのが、誰にでもわかる。  午後2時。映画『アメリカン・グラフィティ』風のバーガー・ショップ で食事。 梶野竜太郎くんが、どのアトラクションも「5分待ち」なのに、 感極まっている。混雑しているときなど、2時間待ちなどザラなのだそうだ。  ちょうど、昨日3連休が終ったところなので、この日を狙っていたのは、 たしかなんだけど、これほどまでに空いていると思わなかった。それでも 「小山(おやま)ゆうえんち」の休日より混んでいるけどね。
 まだアトラクションは2作品しか見ていないけど、ふたつとも、本当に 原作の風味をそこなわない作りをしているのが、驚きだ。  そんなの当たり前だと思うかもしれないが、意外や難しいのだ。  過去、何人もの人が『桃太郎電鉄ワールド』を作りたいという企画書を 持って来た。私が海外苦手だから、本当に『桃太郎電鉄』の主旨を理解し ていて、海外にくわしい人がいたら、頼みたいと思っている。  ところが、どれもこれも、舞台を旅行代理店にしてとか、RPG風にし てとか、一歩目で『桃太郎電鉄』から外れるような企画ばかりなのだ。  そういうわけで、当たり前のことを当たり前にやりとげている、ここの 製作者たちは、相当頭がいい。  午後3時。『ウォーターワールド』へ。  水族館風で、お客さんによくお水がかかるという話を聞いていたけど、 そのことより、あれだけの量の火薬を爆発させまくるとは、思っていなか った。ぶったまげた。  こんなのやられたら、太秦映画村に行く人がいなくなっちゃうよ。江戸 村も困るだろうなあ。  この映画も私は大好きだっただけに、セットの緻密さ、あの汚れた世界 の雰囲気など、映画の風味を見事に再現していることに、心の底から驚く と、同時に尊敬する。  最後の大仕掛けなセットの出現、半分の大きさを想像していた。悔しい。
 さらに、『バックドラフト』へ。 『ジュラシックパーク』の前を通り抜けて行く。そろそろ私の脚力が限界 に近づいて来た。  うひゃあ。『バックドラフト』も立ちっ放し移動かあ。  ここのアトラクションは「熱い!」と聞いていたけど、熱い!というよ りも、火力のすさまじさのほうがすごい。  あらかじめ、開始前のセットで、こことここは爆発しないだろう、倒れ たりさせないだろうと予測していたのだが、ことごとく崩された。  午後4時。ここで私だけ、京都に戻ることになった。 『バック・トゥー・ザ・フィーチュア・ライド』とか『ジョーズ』、 『ジュラシック・パーク』など、私が苦手なアトラクションを残している のと、この広大すぎる敷地の広さに、私の足がもうもたん。 「せめて、ゲートまで見送ります」と、みんながついて来てくれたんだけ ど、途中でへたる。 「みんなが見送ってくれるのは、うれしいけど、こうやってみんなといっ しょに歩くのもつらい。私はここのベンチでへたばってから、ゆっくり帰 るから、みんなほかのアトラクションに向ってくれいっ!」と息も絶え絶 えに叫ぶ。  本当に、もうダメ。広すぎる。  なんとかお別れポーズの写真だけ撮って、ベンチにひっくり返る。
 しかし、想像をはるかに越えるおもしろさだ。ここは。  絶対もう一度、家族で来よう。 「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン」を何で大阪に作ったのかという意 見は多いけど、これだけ大阪色が皆無とは思わなかった。 『E.T.』や『ターミネーター』があるとはいっても、ストリートでは、 吉本の芸人たちのコントや、よしもとグッズ屋さんなどがあるのだと思っ ていた。    ここまで徹底するなら、別に大阪でも、青森でも、四国でも、どこでも よかったんだねえ。交通の便がよかったから、大阪にしただけなのだろう。  博多の町にほしかったねえ。アジアの人がたくさん来て、外貨を稼げた と思うなあ。  惜しむらくは、スタジオじゅうの音がうるさくて、まいった。  年をとると、騒音がつらくなるというから、若い人には関係ないのかも しれないが。ほかに欠点は見つからないなあ。  見事だ。  午後4時26分。ユニバーサルシティ駅から「ゆめ咲線」に乗る。    午後4時45分。大阪駅で、新快速に乗り換えて、京都へ。  京都からだと、乗り換えはわずか1回ですむ。便利だ。  しかし、へたった私は新快速に乗るや、まぶたが、7トンぐらいの重さ に思え、熟睡。  午後5時12分。京都駅着。  午後5時30分。京都のマンションに着くや、とにかくバタンキュー!  眠さをガマンにガマンを重ねた末に、寝る瞬間は最高!    午後7時。ぼ〜〜〜としながら、京都伊勢丹デパートで買って来たお弁 当を食べる。閉店間際だとお弁当って、500円引きになるんだね。すご いね。  仮眠レベルでは、疲労回復の何の足しにもならないほどだ。  なんとかお風呂にだけは入って、熟睡。
 

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