1月14日(月)

 あ〜、左上の奥歯がうずうず、ぐらぐら、王冠が外れそうで気持ち悪い。
 旅先で、疲労がたまって来ているので、よけいぐらぐらし始めた。
 奥歯をかばってしゃべるので、ふだんと違う場所の筋肉をつかうせいか、
顎が痛い。「い・き・し・ち・に」が、発音しづらい。

 午前9時。博多ハイアットリージェンシーの1Fでバイキング料理。い
まのところ、私が知っているホテルの朝食バイキングのなかでは、いちば
ん美味しい。
 といってもこのホテルを教えてくれたのは、プロスペックの江口貴博
(えぐち・たかひろ)くん。とくにパンが美味しい。
 
「あ〜〜〜、もう、プンスカ、プンスカッ!」
 昨夜、新幹線でキャッシュカード入りの財布を紛失させた、あわてん坊
将軍・柴尾英令くんが朝から、イライラしている。それでもふつうの人が
受けるショックより、何倍も立ち直りが早い。
 しかもキャッシュカードの執行停止とかの手続きが本当に早い。
 それだけ旅先でのトラブル経験値がたまっているって証明なんだけどね。

 きょうの博多駅構内のイベントへは、午後2時から出演すればいいと言
われたので、午前中すっかり時間が空いてしまった。

「さくまサン、姪浜(めいのはま)に、新しいアウトレットモールができ
たの後存じですか?」と、柴尾英令くん。
「姪浜っていうと、シーサイドももちの先?」
「そうです、そうです!」
「知らないなあ」

「さくまサン、すごいなあ。博多が地元の柴尾くんと、対等にしゃべって
るもんなあ!」と土居ちゃん(土居孝幸)。
「たくさん旅行しているのと、柴尾英令くんに教えてもらったプロアトラ
ス地図を毎日眺めているからだよ!」
 プロアトラスは、毎日かかさず10分ぐらい眺めてから寝ているからね。
学生時代このぐらいかかさず、英単語、英熟語を覚えていればよかったの
にねえ。

「さらに、さくまサン。昨日、地元の先輩に聞いたんですけど、東海岸の
ほうに、美味しいパン屋さんがあるそうですよ! 九州場所に来たお相撲
さんたちとかが、根こそぎ買って行ってしまうほどの美味しさだそうです!」
と柴尾英令くん。
「へ〜、それは興味あるなあ! でも姪浜とそこは正反対の場所じゃないか」
「そうなんですよ! 高速道路で行けば、すぐなんですけどね」
「東京湾を一周する?」ようなもんなの?」と土居ちゃん。
「鎌倉から箱崎に向うようなもんだ!」
「ムチャクチャだなあ!」
「じゃあ、ちょっと待って! チャーター便を頼むから!」
「何ですか、それは!」

 午前10時。姪浜の「マリノアシティ」へ。
 最近よく幕張あたりにある、自動車用品とか、雑貨、カフェなどが巨大
な敷地に並んでいる場所だ。なんと観覧車が2台もある。大きいのと小さ
いのと。みんな大きいほうにしか乗らなくなってしまったので、小さいほ
うの観覧車は現在子どもだったら、100円で乗せてくれるそうだ。

 という解説をしてくれたのは、元集芸社営業の牧野正。
 私の大学時代の同級生・牧野弘の弟である。
 昨年暮れから、家族揃って、故郷・博多に戻っている。
 しかもここ、姪浜は彼の自宅から車で10分の場所である。たぶん近い
だろうとは思っていたけど、10分とは。

 昔から牧野正は、私が博多に来ると、いつも車を運転してくれるので、
きょうはひさびさにこのパターンを思い出して、呼び出した。牧野正も日
記を読んでいて、待機してくれていたようだ。牧野正の家族ともひさしぶ
り。人ん家の子どもって、何であんなに成長が早いんだろうねえ!
 クルーザーとか、ヨットがたくさん碇泊している気持ちのいい場所なの に、どうも天気が悪く、曇り空にぽつぽつ雨が降り始めている。 「天気がよければ、気持ちいいだろうなあ!」 「さくまサン、またジンクスが始まったんじゃないの?」と土居ちゃん。 「あっ。旅行中、仕事モードの気分が薄れると、天気が悪くなるジンクス か?」 「そうそう。それそれ!」 「言われてみれば、いま、旧友の牧野正の家族に会って、すっかりファミ リー・ムード。仕事のこと、忘れてるもんなあ!」  本当にこのジンクス、しつこくよく当たる。  このあと、どんどん天気が悪くなって行った。  午後12時。約束どおり、牧野正が高速道路を使って、東海岸のほうに 行ってくれる。博多にくわしい人に解説するなら、福岡ドームの先の姪浜 から、海の中道公園へ行く道の付け根・三苫(みとま)に向っている。  車中、テレビ長崎の山本耕一から、電話が入る。 「きょう、テレビの仕事が入ってしまったので、そちらに伺うことができ なくてすみません!」  長崎からわざわざ来ようと思っていたのか。あいかわらずの律儀者よの〜。  コンサートのドキュメント番組みたいに、刻一刻いろんなことが小刻み に入る。松本清張さんの『点と線』でおなじみの、香椎(かしい)あたり を過ぎて、三苫(みとま)3丁目へ。見当たらないので、お店に電話する。  雨はいよいよ激しく音を立てて降って来た。  午後12時30分。あった、あった。「リールジャム」というお店。  ほとんど住宅街のなかだから、これはわからないなあ。  イートインもあるとのことだったけど、ロッジみたいなスペースで、雨 ざらし。きょうはちょっとここでくつろぎたくないなあ。  パンは本当に美味しそうで、全員争うように買う。  レーズン・パンの食パンは、ふんわりしていて美味しそう。旅行中に食 パン半斤も買ってどうするのよ。食べきれないだろう。いや、このメンバ ーだ。車のなかで「食べる?」と聞けば、食べるに決まっている。  雨のなか、車は博多駅へ向う。  もちろん、車中、当然のように、それぞれが買ったパンを回しあう。 「土居ちゃん、シュークリームなんて買うなのよな〜」 「うん。でもい小さいから!」 「ちっとも理由になっていない」  このシュークリーム、変わっていて、葛(くず)が入っていて、食感が つるんとしている。
 私が買ったレーズン食パンも、べらぼうに美味しかったよ〜!  でもこんなに美味しくても、博多でこんなに交通の不便なところに、美 味しいパン屋さん見つけてもなあ…。    午後1時。博多駅。  すでに「桃太郎電鉄ジャパンカップ2002」の予選大会がスタートし ている。  博多駅コンコースでの開催だけに、フリで訪れた人が足を止めていく。 「ああ! 『桃鉄』か。知ってる、知ってる。今回、九州が入ってるやつ だろ!」 「なつかしいなあ。『桃鉄』! 学生時代、徹夜でやったよ!」  ゲームショーでは聞けない会話だ。  高松大会と同様、大会出場者たちのプレイをこっそり後ろから眺める。  あれ? この出場者、どこかで見たことがあるぞ。  プレイヤー名は何て名前をつかっているんだ?  「とみやん社長」? やっぱり。  私の仕事のなかで、『桃太郎電鉄』シリーズと並ぶ大きな存在である 『ジャンプ放送局』の投稿者で、初代チャンピオンの冨田英義である。  ひさしぶりだなあ。 『ジャンプ放送局』は、昭和58年スタートだから、冨田英義との付き合 いは、もう20年目になるのか。  冨田英義が来ているということは、日本一有名な投稿者・錯乱坊主も来 ているのかな? おおっ。来てる、来てる。  冨田英義と、錯乱坊主。  このふたりは『ジャンプ放送局』の前の連載、『私立さくま学園』当時 も投稿してくれていた。  このふたりの投稿者がいなかったら、私の投稿ページ構成人生も、ずい ぶんとまた違ったものになったことだろう。  ふたりは、私の投稿ページ屋稼業における最大の功労者だ。  おお! 昨日、腹痛で高松に行けないと報告のあった、大阪貝塚市の高 木明光くんも来ているではないか。 「お腹の調子はもういいのか?」 「はい、もう大丈夫です」  昨日の高松に続いて来てくれた、広島の杉田わいんサン夫婦、東京から 高松―博多と、ずっと鈍行列車を乗り継いで来ているmomomoくん。 『チョコバナナ』の投稿者だったT・P・うににん(恒川貴子)サンは、 姉妹で来てくれた。 『桃鉄研究所』に投稿してくれていた、どっぺるクンか。HANIWAく んも来ていたのか。  まさに、<さくまにあ>全員集合だなあ。
 午後2時30分。サイン会、スタート。  きょうは土居ちゃん(土居孝幸)が予め、サイン色紙に、桃太郎とか貧 乏神を書いておいて、『桃太郎電鉄X(ばってん)』を買ってくれた人は、 裏返しになった色紙を選ぶようにしてみた。  桃太郎がいちばん多くて、貧乏神が少ない。  いきなり、最初の人が貧乏神の色紙を引き当てた。  たしか、錯乱坊主が、めったに出ないキングボンビーを引き当てた。  ただサインをするだけじゃなくて、何か遊びを入れたい。  午後3時。土居ちゃん、柴尾英令くんと博多駅地下街の喫茶店で、休憩。  柴尾英令くんは、サイン会の前に地下街の「長谷川」で、うに丼を食べ て来たそうだ。朝からずっと食べっぱなしではないか。  とにかく絶品のウニなのだそうだ。  午後3時30分。2回目のサイン会。  けっこうサイン色紙希望の人が多くて、名前を書いてあげるだけで精一 杯で、もう少ししゃべってあげられたらなあと思う。初対面でどのくらい 『桃太郎電鉄』が好きかを検索して、うまく話題を盛り上げるだけの話術 が無いことが悔しい。  午後4時。サイン会終了。  さすがに連日の大会と、旅先に、私の体の疲労もピークに達してしまった。  私だけホテルに戻って、身体を休めることに。    NHKの『大相撲』を音量小さくつけて、子守唄のように、うとうと…。  30分ほど眠る。  あとは起きて、昨日の日記の続きを書く。旅先で書く日記は体力がない ので、センテンスが長くなって困る。  午後7時。キャナルシティで、土居ちゃん(土居孝幸)、柴尾英令くん、 ハドソンの梶野竜太郎くん、石崎仁英くんと待ち合わせて、もはや博多に行 ったら、私が行かないわけがない場所、イカの活き作りの「河太郎」へ。 「河太郎」の前で、観光客が10人近く、記念撮影をしている。   と思ったら、なんと! 冨田英義に、錯乱坊主に、なんだ、なんだ、さく まにあのみなさん、勢揃いではないか!
「あ〜〜〜、やっぱり、さくまサンたちが来た〜〜〜!」  もう大爆笑である。  聞けば、全員で「河太郎」で食事を終えたばかりだそうだ。 「さくまサン、イカ、むちゃくちゃ美味しかったっすよ〜!」 「『桃太郎電鉄』の物件は全部、食べるぞ〜!」 「それにしても美味しかった!」  この言葉を聞いた梶野竜太郎くんが「おい、君たち、まだイカは残って るだろうなあ!?」  昨年、スペースワールドの取材で来たとき、イカはあと2人前しかなか ったのだ。梶野竜太郎くんはその前、あの榎本48歳と来たときに、 「イカが食えない!」という、ミラクルな場面にも遭遇しているだけに、 真剣と書いて「マジ」だ。  しかし、さすがさくまにあのみなさん。 「たしか、ボクたちでイカは最後だって、言ってましたよ〜!」と、とぼ ける。 「マジすか? 本当にマジすか?」と、梶野竜太郎くんが本気で詰め寄る ので、みんな、あわてる。 「ウソです! ウソです!」 「おいおい! やめてよ〜〜〜!」 「梶野くん、みんなを脅して、ど〜する!」 「じゃあ、私たちはこれから、イカを食べて来ま〜す!」と言って、店内へ。  ここのイカは本当に絶品。  刺身で食べて良し。お寿司のにぎりにして、良し。さらに足の部分を天 ぷらにすれば、天にも昇る美味しさよ。 「それでは、今回の高松大会、博多大会の成功を祝って、乾杯!」 「いやあ、それにしてもどっちの大会も人が集まってくれたね〜〜〜!」 「お客さんの質がよかった! 無理やり見知らぬ人同士を4人ずつ、卓に 配置してしまったのに、最後はみんななかよくなっていたもんなあ!」 「40過ぎのおっさんと、小学生が、うれしそうに話していたもんなあ!」 「こういう大会は大事だねえ!」 「来年もできたらいいなあ。小規模になってもいいから!」 「あっ。イカが来た〜〜〜!」  梶野竜太郎くんは、昨年から、すっかりこのイカの虜になってしまって いる。  きょうのメンバーで、ここのイカをたべたことがないのは、石崎仁英く んだけ。 「じゃあ、イカを鼻に入れたポーズとか取ればいいっすね!」  この言葉に、梶野竜太郎くんが憤慨する。 「石崎! おまえなあ! そんなギャグやる余裕、絶対なくなるぞ!」 「そんなに美味しいんすか?」 いっせいに「美味しい!」と返事。 「イカを××××にして、××××しているとかいうポーズもいらないっ てことですか?」  石崎仁英くんは、桃太郎チームで唯一、下ネタが多い男なので、伏せ字 が増える。石崎くん、「パカ〜〜〜ン!」と梶野竜太郎くんに殴られる。 「おまえなあ、二度とイカ食べさせてやらね〜ぞ!」 「そんなに美味しいんすか!?」 「まあ、とにかく食べてみ!」  石崎仁英くんが、イカを食す。 「うひょ…」 「うひょひょ?」 「うひょひょひょひょう…!」 「あはははは。こ、こ、これは、おいしい〜〜〜!」  あとはもう、ばくばく、パックマンのように無言で、黙々と食べ続ける。 「ほら、石崎! 何もできなくなるだろうが!」と、梶野竜太郎くん、 得意満面! 「これは、真剣に食べちゃうッすよ〜!」
 ほかにも関アジ、あらだき、イセエビ、たこいなり寿司など、怒涛のよ うに食べまくる。  食後、今回このメンバーが揃うのは初めてなので、真剣に仕事の話をする。  びっくりするほど真剣に話をする。  午後10時。話し足りなくて、キャナルシティのバーで、さらに仕事の 話を続ける。『桃太郎電鉄』のクオリティを維持することの難しさを本気 で語り合う。  午前0時。私と土居ちゃんはホテルへ。柴尾英令くん、梶野竜太郎くん、 石崎仁英くんは、キャナルシティのラーメン屋「一蘭(いちらん)」へ。  いったい柴尾英令くんは、1日何食、食べているのだろう。  かつて土居ちゃんと宮路一昭くんが、ラーメン兄弟と呼ばれていたが、 いまや柴尾英令くんは、ひとり勝ちラーメン男である。  ところで、ホテルで部屋に分かれる際に土居ちゃんは「稲垣吾郎ちゃん の復帰場面見たかったなあ!」とつぶやく。ミーハー大帝、健在なり。
 

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