1月13日(日)

 旅先で、枕が変わると、なかなか寝付けない私だが、畳(たたみ)地の
旅枕を持参したために、短時間ながら深い眠りにつくことができた。
「東海道五十三次」の江戸時代でも、道中枕といって、枕だけは携帯した
ようだから、枕は大切なのだろう。

 午前9時。全日空ホテルクレメント高松1Fのバイキングで朝食。
 ここのバイキング料理はなかなか美味しい。
 かといって、ハム、ウインナー、ベーコン、ピラフを山のように積み上
げた大きなお皿をうれしそうに運んでくる柴尾英令という男の胃袋は、ア
ンビリーバブルである。どこかのTVで特集を組んで欲しい。
 土居ちゃん(土居孝幸)も、けっこう朝からバイキング用のお皿をこん
もりさせるほうだが、柴尾英令くんのように、こぼれ落ちそうなお皿が横
に、「でん!」と置かれると、元横綱・曙と、舞の海関が並んでいるかの
ようである。

 そういえば、話は変わるが、すごいよ、すごい!
 昨日、柴尾英令くんに携帯電話の迷惑メール防止の入力をしてもらった
ら、ほんとに1通も来ない。これはうれしい。
 ドコモと、Jフォン以外のメールは受け付けない方式だそうだ。
 年が明けてから、毎日10通以上の迷惑メールが来ていて、消去させる
のが日課になって、うんざりしていた。

 しかし、人間わがままなもので、1通もメールが来なくなると、けっこ
う淋しいものだ。いや。昨日、1通だけメールがきたっけ。
「うんち」と3文字だけ書かれた土居ちゃんからのメールであった。
 メールアドレスの変更を伝えたかっただけらしいが、とても46歳の男
が送ってくる文面ではない。

 午前10時30分。車で、「夢タウン」へ。
 去年から何度もここには来ているが、巨大なる現代のお城だ。
 なにしろ、トイレの表示に沿って、歩いて行っても、いっこうにトイレ
に行き着かない。おしっこもらす子ども多いだろうなあ。
見事なまでのマンモス・ショッピング・センターだ。
 たぶん新宿の伊勢丹デパートが、5個ぐらいすっぽり入るだろう。

 ここできょう「桃太郎電鉄ジャパンカップ2002」の予選大会がある。

 午前11時。中央広場の会場にて、FMマリノの生放送に、土居ちゃん
(土居孝幸)といっしょに出演。
 まだ目の前には、お客さんはほとんどいない。
 10台のテレビすべてに『桃太郎電鉄X(ばってん)』が写っている。
この画面を見ていて、今回オープニング画面をアニメにしてよかったなあ!
とつくづく思う。『V』までの紙芝居画面だと、こういう広い会場で、映え
なかったと思う。
 午後12時。再び生放送の後半に出演。  午後1時。いよいよ「桃太郎電鉄ジャパンカップ2002」スタート!  うわあっ! すごい人数だ。  正直言って、芸能界の通例では、ここ四国という土地柄は、イベントに 人が集まらないので有名な場所だ。かつて私が連載していた『ジャンプ放 送局』でも「タレントさんはラジオで、『四国ですか? 一度行ってみた いですね』とはいうけど、来たためしはない!」というネタがあったと思 う。  マニア人気のすごい漫画家さんが、四国松山の書店でサイン会を開いた ら、わずか2人しか来なかったという武勇伝も?残っている。  そんな土地柄で、この混雑振りは特筆に価する。  うれしいなあ。  おや? わざわざメールで、今回高松には来れません!と言っていた、 さくまにあの杉田わいんサン夫婦が、草加伊織さんと来ているではないか。 「高木明光さんも来ることになっていたんですけど、胃が痛くて、きょう は大阪で寝込んでいます。でも明日は這ってでも行くそうです!」  行くそうですって、明日は博多だよ。 「あっ、そうそう。私はまた明日行きます!」と杉田わいんサン。  明日は、博多だよ。  みんな、パワフルだねえ!  ほかにもかつて『桃鉄研究所』に投稿してくれていた、momomoくんとか、 もっこりスライムくんも元気に大会に出場したものの、いずれも玉砕した ようだ。  大会中、競技者たちのプレイをしっかり見る。  こんなに一網打尽で、いろんな人のやり方を見ることができるチャンス はめったに無いからね。こういうときこそ、ゲームの開発スタッフが見に 来て、目が充血するほど凝視すべきである。  開発スタッフというのは、マニア揃いなのに、自分たちがマニアでは無 いと思っている人たちがほとんどである。かつて『桃太郎電劇』というゲ ームは、開発スタッフが「ボクは、開発チームのなかでは、いちばんアク ションゲームは下手なんですよ〜!」という旗印のもとに、ゲームの難易 度を高くしようとするので、人気はあったものの、2作品でシリーズを終 了させてしまった。  桃太郎シリーズは、初心者にやさしいゲームであり続けたいからね。  その「ボクは、開発チームのなかで、いちばんアクションゲームは下手 なんですよ!」と言っていた男は、当時のうちのテスト・プレイヤーたち の誰よりも、アクションゲームが上手いのである。  ゲーム業界ぐらい、マニアの声が幅を利かす業界はないと思っている。 自分とおなじ感性、価値観を持った人が多いから、自分は与党に属してい ると勘違いする人が多い。まず自分の政党が日本全国でどのくらいの割合 を占めているかをリサーチすべきである。  たまさか私のゲームが、15年もずっと続けていられるのは、必死にラ イト・ユーザーの声を聞き続けてきたおかげだと思う。  いつまで『桃太郎電鉄』をライト・ユーザーに向けて作り続けられるか、 本当に心配である。  きょうの大会は、本当に買い物ついでに来たような主婦の人まで参加し てくれたので、貴重なデータがたくさん集まった。  どういうデータかは、教えないよ。  大切な財産だもん。
 午後2時。第1回目の大会が終了して、私と土居ちゃんのサイン会が始 まる。 『桃太郎電鉄人形焼き』、『桃太郎電鉄X(ばってん)』の攻略本を買っ たりすると、サインする仕組みになっている。今回、スケジュールがびっ ちりなので、『人形焼き』を買って帰れそうもないなあ。  また3月の末に、石像の除幕式で来るから、そのときに買おうっと。  午後3時前。サイン会が一段落。  FMマリノの酒井秀樹くん、土居ちゃん、柴尾英令くんと、タクシーで 「夢タウン」の近くの讃岐うどんのお店「あたりや」へ。  昨年も食べた、麺がイカのように固いお店だ。  しかし、なんと「本日の営業は終了しました」の張り紙が!  タクシーを降りずに、そのまま「夢タウン」へ逆戻り。  しかも大渋滞に巻き込まれて、午後3時30分からの第2回サイン会の 時刻が迫ってくる。ちょっと冷や汗。お腹も減る。  午後3時30分。ほとんど時間ぴったりに戻って、サイン会開始。  徳島、高知、広島、東京から来ているお客さんもいて、びっくり。  ありがたいことですよ。親戚でも、アイドルでもない私や土居ちゃんに 会いにきてくれるなんて。感謝、感謝…。  午後4時。サイン会終了。私、土居ちゃん(土居孝幸)、柴尾英令くん の3人は、高松駅へと急がないといけない。    なんとこれから1時間後には、マリンライナー、新幹線を乗り継いで、 九州博多までたどり着かないといけないからだ。ひ〜〜〜! 予選大会の 優勝者を見ることができない。  まるで、実写版で『桃太郎電鉄』を演じているようだよ。  高松駅までの道路は、夕方の渋滞が予想されたが、予想外に空いていて、 15分ほどで着いてしまった。 「昨日から、一度も讃岐うどんを食べずに帰るのはいかがなものか?」と、 意気軒昂なままの柴尾英令くんが、ぽん!とひとつ、お腹を叩く。確かに 芸能人のように、イベントに出ただけで、何もせずに次の公演地をめざす のは、居心地が悪い。  高松駅2Fのうどん屋さんで「生醤油うどん」を食べる。  強靭なる胃袋の持ち主・柴尾英令くんは、うどんと、かつ丼のセットを 注文する。土居ちゃんは、生醤油うどんの温かいやつ。
 いなり寿司は、1皿3個と、ちょうどいい数。柴尾英令くんが、キャラ メルを一粒口に放り込むように、いなり寿司をぱくり。ここまで来ると、 彼の食欲は芸術的である。  生醤油うどんの味は、及第点ぎりぎり。  午後4時51分。マリンライナー46号。  眠い。疲れた。  大会に来てくれたお客さんが、いろいろ四国土産などくれたのは、とて もうれしいのだが、時間がなくて、東京に送ることもできないので、全部 持って来てしまったために、移動に難儀する。土居ちゃん、柴尾英令くん にまで、たくさん荷物をもたせてしまって、ゴメン!  車中、柴尾英令くんが、いびきをかきながら、『桃太郎電鉄U(仮)』 のアイデアを出すというチン芸を見せる。  ギャグではない。本当に論旨の通った会話をするのである。しかし、 そのあと2秒後には、いびきをかいて眠りにつき、30秒ほどで、自分の いびきで目を覚まし、会話の続きに参加して、なおかつ違和感がないので ある。  異能である。異能ではあるが、じっくり寝たほうが、身体にはいいよう な気がする。  午後5時46分。岡山駅着。  新幹線の乗り換えに30分近くあるので、岡山駅構内を物色。  岡山駅は、けっこう駅構内の売店が充実しているので、楽しい。  ん? なんじゃこりゃあ! 「あたご梨」という品種! バレーボールのボールぐらいの大きさがある!  美味しいのかなあ? ただでさえいま荷物の量が尋常じゃないし、包丁も 無いので、買うことができない。 『桃太郎電鉄』の物件候補としては、食べてみないとなあ。  午後6時15分。のぞみ19号。  車中、さすがに疲れで朦朧としてくるが、『桃太郎電鉄U(仮)』のアイ デア出し。高松であんなに真剣な目つきで、『桃太郎電鉄X(ばってん)』 をプレイしてくれるお客さんを目の当たりにすると、のんきに寝ていられ ないよ。  土居ちゃんは、すっかりグーグー寝ていたけど。ははは。  またいいアイデアが出た。  柴尾英令くんは、マリンライナーで少し寝たせいなのか、故郷小倉が近 づいて来たせいなのか、異常なほど元気。  柴尾英令くんは、新幹線が小倉駅に滑り込むや「いい町だなあ!」とし みじみ。 「はっはっは。何の解説もなく、いい町と断言するか?」 「さくまサン、何なら小倉の素晴らしさについて、解説いたしましょうか あ?」とただでさえ大きな目が、こぼれ落ちそうなくらい大きくなる。 「ひ〜〜〜! 『千夜一夜物語』は聞きとうないッ!」  午後7時57分。博多駅着。 「や〜〜〜、着いた! 着いた!」  さすがに電車好きの私も疲れた。  明日の「桃太郎電鉄ジャパンカップ2002」の開催予定地、博多駅構 内のコンコースを見に行く。ハドソンの石崎仁英くんがいた。  本当に、駅のど真ん中でやるそうだ。すごいなあ。  でも『桃太郎電鉄』だもの。やっぱり駅でやってもらうのは、うれしい かぎり。  そのうち、柴尾英令くんが、「一蘭(いちらん)」のラーメンを食べま しょう!と言い出す。もう食べられるんかい? 「当然でしょう!」と、そっくり返る、柴尾くんであった。 「一蘭(いちらん)」は毎度、柴尾英令くんの日記によく登場する博多の ラーメン屋である。キャナルシティまで行かないといけないのかと思った ら、博多駅の地下街にもあるそうだ。  午後8時30分。「一蘭(いちらん)」へ。  不思議な作りのお店だ。なんとなく銭湯みたいで、まず自動販売機にお 金を入れる。この自動販売機が2台も置いてある。  さらに選挙のときの記入台のように、ひとりひとりが衝立(ついたて) で区切られている。正しくたとえると、男子便所のようなのだが、ちょっ とお下品。不思議な空間だ。4人がけのテーブルのラーメン店になれてい るだけに、ギョッとする。たぶんこのお店にひとりで初めて入ったら、入 口で後戻りしてしまうだろうなあ。  しかも席に着くと、目の前に赤いのれんが垂れていて、「秘伝のたれ」 についてとか、やたら注釈の文章が多い。注文の多い料理店だなあ。ます ますひとりで来なくてよかったなあと思う。  実際、土居ちゃんは東京六本木で、このお店の系列店に、前知識無く入 ってしまったために、どうしても違和感がぬぐえないそうだ。    でも味は、本当にいい。  突然、柴尾英令くんが「あ〜〜〜!」と大きな声を上げる。博多だから 同級生にでもばったり会ったのかと思ったら、な、な、なんと財布を落と したというではないか! ええっ? 新幹線の車内? あっ! あのとき か!? 岡山からの新幹線で、柴尾英令くんはコーヒーをおごってくれた のだが、そのとき棚に置いておいた柴尾英令くんのコートが、上からぱさ っ〜!と落ちてきて、コーヒーをこぼしてしまったのだ。  あのとき必死に柴尾英令くんは、ティッシュでふいていたのだが、持っ ていた財布を目の前の網に差し込んでから、ふいていた!  あとで財布を抜き取るのを忘れたのだろう。  横にいたのに、私も気づき忘れた。 「ひえええええっ!」。悔しがる柴尾英令くん。  そりゃそうだ。お金だけではない。キャッシュカードから、ビックカメ ラのポイントカードまで入っていたそうだ。  いやあ。海外旅行で、財布を無くす場面を彼の日記で何度か読んだこと があるのだが、リアルタイムで見たのは、初めてである。  とてもギャグにできる雰囲気ではない。 「すみません。先に食べて、博多駅の遺失物扱い所まで行って来ます!」 と、柴尾英令くんは出て行く。    午後9時。土居ちゃんとふたりで、ハイアット・リージェンシーにチェ ックイン。柴尾英令くんからの報告を待つ。  報告が来た。新幹線の座席番号までわかっていたのだから、調査はしや すいと思ったのだが、博多南の車庫に入った車輌まで調査したものの、財 布はなかったようだ。疑ってはいけないのだが、掃除のおばちゃんか…。  ホテル1Fのラウンジで、柴尾英令くんの報告を聞くが、ほとんど大学 受験に失敗した親戚の男の子の嘆き節を聞いているようであった。  しかしこういう場面、気休めにギャグを言ったらいいのか。でも真剣に 慰めてもいけないし、難しいものだ。気の利いた言葉をかけられない自分 が情けない。  午後10時。ホテルの部屋に戻って、仕事をして就眠。  このあと、柴尾英令くんは博多の友人とさらに、にがいお酒を飲んだよ うである…。
 

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