11月2日(金) おや? 家を出るときは、中央線の国立とか、立川方面に向うはず だったのだが、嫁と東京駅にいる。 またでかけるのか? でかけるのである。 午後12時。東京駅。 東京駅で、どうしても以前から一度食べてみたかったものがある。 「21世紀出陣弁当」という駅弁である。 この駅弁は、駅弁コンテストでグランプリを受賞した。 そういうニュースは聞いていたんだけど、何しろ東京駅で探しても いつも売り切れなのだ。食べたい気分が募る。 きょうも東京駅の在来線のほうのお弁当売り場を当たったのだが、 こっちにはまったく売っていない。駅員さんに聞いたら、どうも新幹 線のホームでないと売っていないようだ。 東海道新幹線の中央口のお弁当売り場に、写真が載っていたものの、 やっぱり売り切れ。ホームの「シャムシャム」に行ってみたけど、こ っちも売っていない。 もうダメかとあきらめたところで、奇跡的に発見! しかもあと3個しかない。あわてる! むんずとつかんで、購入。ちょっと順番抜かして買ってしまったよ うな気もする。あの売り場にいた人たち、申し訳ない。 午後12時33分。こだま461号。 新幹線に乗るや、さっそく「21世紀出陣弁当」を食べる。 何だかやたらと盛りだくさんな内容だ。 何でも、勝ち栗とか、よろ昆布!といった戦国時代の古い語呂合わ せをふんだんに入れているらしいのだ。 ぶりの照り焼き、とこぶしの旨煮、こんにゃくの味噌田楽とか、ど ういう語呂合わせなんだろう。ひとつひとつの味はいいけど、おにぎりの味がちょっと単調。 何で人気があるかというと、やっぱり容器のせいだろうなあ。 ちゃんと竹を編んだ竹かごの容器は、持って帰りたくなる。 車中、一昨日完成させた漫画原作を早くも書き直すための資料集を 読む。 作品を一度書き上げると、足りない部分や、不満な部分があちこち 出てくる。 一気に書いているときは、完全無欠な作品に思えるのになあ。 因果な商売だ。 午後1時33分。熱海駅で下車。 東海道本線に乗り換えて、5分。湯河原駅へ。 実は今朝、新聞を読んでいて、推理小説家の西村京太郎さんの記念 館がオープンしたのを思い出したのだ。 そこで、立川方面に行くのも、湯河原に行くのも、時間的に変わら ないと思うのが、私が妙なところで、ましてや、中央線のなかでは、 お弁当を食べるわけにはいかないけけれど、新幹線のなかなら、お弁 当も食べられるのだから、時間短縮になっているという計算になって しまうのだから、始末が悪い。 しかも本当は、昨日、東大阪市で、私も寄付をさせていただいた司 馬遼太郎さんの記念館がオープンしたので、そっちのほうも行きかけ ていた。 大阪行くなら、京都に何泊かしたいので、また後日。 まあ、そんなわけで、きょうは10月31日にオープンした湯河原 の「西村京太郎記念館」へ。 駅からタクシーで1メーターの近さだ。 バス停でいうと、湯河原小学校前。 千歳川に道路を介して面していて、春には桜のきれいな場所なんだ ろうなあ。いまは紅葉にも一歩手前なので、景色はもうひとつ。もっ と時期を見てくればよかったかも。 記念館の前には、TV局や俳優さんたちから送られた花束がたくさん。 1Fが、喫茶店「にしむら」になっていて、2Fが記念館。 まずは記念館のほうに。 最新刊が並んでいて、どれもサイン本になっている。 記念館の人が「いかがですか?」いうが、「全部買っているんで…」 と答えると、残念そうに「みなさん、そうおっしゃるんですよねえ!」。 そういうみなさんじゃないと、わざわざこういうところまで来ない でしょう。 だから、300冊以上展示されている著作物も、壮観な眺めだけど、 全部読んだことのある作品なので、直筆原稿とか、コレクションのライ ターのほうが気になった。 それより、部屋の中央にある、電車のジオラマのほうに興味が行って しまった。 やっぱり鉄道ミステリーで売れた人だからね。 あちこちにパトカーも配してあって、ずいぶんと事件が多そうな町だ。 「架空の町なんですけどね」と記念館の人は、よく話しかけてくる。 ちょっと展示品が少ないので、お勧めの場所かというと、正直言って 難しいが、桜のきれいなときとか、紅葉の時期に、湯河原温泉に日帰り 温泉入浴も組み込んだら、けっこう楽しい旅行になる気がする。 1Fの喫茶店でコーヒーを飲む。 ここで飲んだコーヒーの趣向がちょっとおもしろい。 「京太郎コーヒー」という名前がついていて、750円。 このコーヒーだけを飲むと、500円でいい。 ただ750円払うと、西村京太郎さんのサイン入りのこのコーヒーカ ップを持ち帰ることができるのだ。この特典は、今年の12月末まで。 コーヒーカップだけだと、750円だけど、さらに400円足すと、 コーヒーカップのお皿まで持ち帰られるシステム。 話のタネに、2客買って買えることにした。 ついでに「ミステリートレイン」と書かれたTシャツも買う。 さて、喫茶店で海水浴場が近いというのを小耳にはさんだので、千歳 川を見ながら、海まで向うことにした。 だんだん畑のミカンがきれいだ。 千歳川のせせらぎの音が、TV番組の特殊効果の音のように、絶え間 なく聴こえる。コポコポコポ…。すずめが川で水浴びしている。 待てよ。海が近いといっていたけど、車ですぐという意味ではないか。 もうすでに30分以上歩いているぞ。 けっこう足も、もつれて来た。 午後3時。海に出た。でも海岸線が見えない。 マクドナルドがある。すかいらーくがある。砂浜がない。 がっくり。想像していた気持ちのいい海水浴場ではなかった。 タクシーを呼んで、熱海に向う。 おっと! 電話だ! 「あっ! は、はい! いえ、いまから帰りますから、1時間もあれば 帰れます! いえ、近いもんです! そ、そんな…!」 なんと! 業界の大先輩F氏からの電話である。 いまから会えないか?というのだ。 F氏といえば、私にとって、すぎやまこういち先生ご夫妻に匹敵する ぐらい大切な方である。 タクシーの運転手さんに急いでもらう。 「たしか、新幹線は毎時23分と、56分だったと思いますよ! なん とか間に合わせましょう!」 午後3時18分。熱海駅。 おお〜〜〜い、運転手さん! 新幹線は23分発車じゃなくて、18 分発車じゃないかよ〜! く、くそ〜〜〜! よりよって、たったいま、新幹線が出たばかりじ ゃないかあ! あわてて、F氏に電話を入れる。 留守電だ。 「さ、さくまです! すみません! 新幹線に乗り遅れたので、30分 遅れます。午後5時には、プランタン銀座まで必ず行けます! すみま せん!」 次の東京方面の新幹線は、午後5時56分である。 業界の大先輩F氏を待たせてしまうことになったので、イライラする。 イライラしたところで、新幹線こだまが、のぞみに変身するわけでは ない! でも気持ちはあせる。 熱海駅の古い商店街を覗くが、商品が目に入って来ない。 「先輩を待たせる!」 業界で、いちばんやってはいけないことだ。 気持ちだけでもと、発車20分前に新幹線の駅ホームに行ってしまう。 がらんとした新幹線のホームは手持ちぶさただ。 午後3時56分。こだま470号に乗り込む。速く走れ! 行きは、10%以下の乗車率だったのに、帰りの新幹線は、70%ぐ らいの乗車率だ。そんなことはどうでもいい。小田原駅で、7分間も停 車するなよなあ! 午後4時46分。東京駅に着く。ひ〜〜〜! 東京から熱海まで、わ ずか50分なのに、きょうぐらい長く感じたことはない。 いつもなら東京駅からタクシーで銀座に向うのだが、5番線の山手線 に乗って、有楽町で降りる! 万が一、車が渋滞して、遅れでもしたら、 大変なことになる! 有楽町駅から、プランタン銀座はすぐそばだ。 やった! 約束の時間の午後5時に、4分前で着いたぞ! 1Fの喫茶店へ急げ! ああ! でも業界の大先輩F氏が先に来ていらっしゃるではないかあ! F氏を待たせてしまったあ! いか〜〜〜ん! F氏を! F氏を…! 業界の大先輩F氏とは、誰もが知ってる、この人である! わ〜〜〜っはっはっは! F氏とは、そうだよ、そうだよ、ソースだよ。 おひさしぶりの福ちゃんこと、放送作家の福本岳史くんだよ〜〜〜ん! 実はね、このところ、福ちゃんは仕事が忙しくて、いろんなイベント の誘いもしていたんだけど、全然参加できないでいたのだ。 そんな福ちゃんが昨日電話かけて来て「さくまサ〜〜〜ン! ちょっ とでもいいですから、明日会っていただけませんかあ? 最近ずっと、 さくまサンの日記に登場していないと、さくまサンと仲違いしているよ うに思われてしまうのが、恐いんですよ〜!」 「だって、仲違いしてるじゃないか!」 「ちょ、ちょっと、そういうギャグはカンベンしてくださいよ〜! シャレになりませんよ!」 「わっはっはっは。ゴメン! ゴメン! ちょうど昨日、そろそろ福ち ゃん、うちの日記に登場できなくて、しびれきらしてるんだろうなあ! って、話してたんだ!」 「そうですよ! そうですよ! ずっと出てないんですよ!」 「別にうちの日記は、TV番組じゃないんだからさあ!」 「でも鎌倉とか、狂牛病ツアーとか、ボクがいてもおかしくない場面に 自分がいないと、なんか悔しくて!」 「は〜っはっは。キャラを守ろうとするなあ! でも本当にこのところ、 ボクシング観戦とか、ゲームのテスト・プレイとか、誘っても時間が合 わなかったもんなあ!」 「恐いですよねえ、日記って、行かないと、いない人になっちゃいます から!」 「いちいちこの人は誘ったけど、来れませんでしたと書くのも変だしな あ」 そんなわけで、きょうの日記の「タクシーを呼んで、熱海に向う。 おっと! 電話だ!」以降の文章は、嘘である。 F氏(福ちゃん)から電話がかかったのと、新幹線と山手線を乗り継 いで、プランタン銀座に行ったのは本当だけどね。 たまにはこういうギャグをかましたい。 嫁はせっかくプランタン銀座に来たのだからと、店内を見に行ってし まった。しばらく、福ちゃんと業界の情報交換。 午後5時30分。あれ? 菅沼真理(通称:すがねまチャン)さんが 来た! 味の素の加賀山さんもいっしょだ。 「メールでここでお茶飲んでるって、知ったもんだから…」 「嫁がメールしてたんだな!」 福ちゃんが「ああ! びっくりした! また、さくまサンのばったり 病が出たのかと思ったあ!」と、胸をなでおろす。 すがねまチャンが「福ちゃん、ひさしぶり〜!」と、福ちゃんの肩を ぺしぺし叩く! 「すがねまチャン! その叩き方は花道を帰るお相撲さんの身体を叩い ているみたいだよ!」 「あはははは〜〜〜、そうでしたね!」 108キログラムの福ちゃんだもん。叩きたくなる。 午後6時。すがねまチャンたちとは別れて、私、嫁、福ちゃんの3人 は、銀座のおでん屋さん「よしひろ」へ。 いつもこのお店で私は、少食で思う存分食べられないので、一度ここ のご主人が喜ぶような大食漢を連れて来てあげたかった! 福ちゃんな ら適任でしょ? 「ああ、あの〜、タマネギ天に、大根に、ジャガイモに、糸こんにゃく に、ちくわぶに、ニンジンに、玉子に…」 「昆布はいらないの、福ちゃん?」 「はい、昆布もいただきます!」 食べる! 食べる! 「これ、美味しいッすねえ!」 お汁もぐびぐび飲んでいる。グルメ・タレント健在なり。 最後は、きょう家で鼻水たらして寝込んでいる娘に、おにぎりをお土 産に作ってもらって帰る。 午後8時。帰宅。 新しい仕事の資料を読み漁る。 私たちのような職業は、準備段階のほうが長くて、執筆時間のほうが 短いものだ。大半がアイデア出しと、資料を読む時間に費やされる。 だから、日記に出てこない時間のほうが、実は忙しかったりする。
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