10月30日(火)

 たまには、のんびり京都を味わおうということになった。
 思えば、土居ちゃん(土居孝幸)と、京都によく来るようになってから、
もう10年のと年月が経つが、いつも朝から晩まで、ゲームのアイデア出し
で、うんうん唸ってばかりいることが多かった。
 観光地を見て歩いていても、ずっと話す内容は、ゲームのことばかりだっ
た。
 旅行中も仕事の話ばかりしているとこの日記で書くのは無粋なので、あま
り書かなかったが、実は必死にゲームのアイデアを練っていた。

 午前11時。土居ちゃん、柴尾英令くんが到着。
 荷物を家に置いて、みんなででかける。
 昨日の夜、ヤサカタクシーの宮本さんにプランニングしてもらった京都の
旅をなぞることにする。

 午前11時30分。竜安寺へ。あの石庭で、有名な竜安寺だ。

 まずは、石庭に行かずに、竜安寺のなかの「西源(さいげん)院」へ。
 池をめぐる砂利道を遠回りして行くので、思い切り疲れる。
 砂利道は本当に苦手だ。

「西源(さいげん)院」で、湯豆腐を食べる。
 不味くはないのだが、コンロを置いて、大きな炭も乗せてあるのに、この 炭に火を入れないのは、ちょっと手抜きな感じがする。  途中で、どんどん温度が下がって行く。  湯豆腐は、やっぱり温かくないとねえ。  庭の景色も抜群なだけに、飾り物の炭はいただけない。  やっぱり、雪が降りそうな日に、南禅寺聴松院(ちょうしょういん)の縁 側で、コンロで暖を取りながら、七味唐辛子をいっぱいふりかけて食べる湯 豆腐がいちばん美味しいなあ!  食後、竜安寺へ。  石庭は、外国の人たちがいちばん好む趣向だ。  きょうは比較的、観光客が少なかったので、縁側でほっこりする。
 陽射しもかなり強いので、猛烈な睡魔に襲われる。  このまま熟睡できたら、幸せだなあと思ったら、横で娘がもうひっくり返 っていた。グローバルな考えの持ち主の娘である。  つくばいって、知ってる?  庭などにおいて、手を洗えるようにした石の鉢のことだ。        五      矢 口 隹         疋  円形の石の真中に「口」の形の穴があって、上の文字が刻まれている。  パズルみたいなものだ。  以下の形に読むことができる。       吾      知 唯       足  口をつかった漢字だ。「吾(われ)、ただ足るを知る」。
 このつくばいを竜安寺に寄進したのは、あの水戸黄門こと、水戸光圀公だ。  この石のつくばいを、料亭などで見かけることが多い。    午後12時30分。竜安寺を出たところで、きょうはお休みのはずのヤサ カタクシーの宮本さんが自家用車が迎えに来てくださった。 「ゆっくり休んでくださいね!」といって、昨日お別れしたはずなのに〜。  こっちも宮本さん抜きの観光というのは、どうもお尻の座り具合の落ち着 かない雰囲気だったので大歓迎だけど、宮本さんらしい行動だ。  お客様に尽くしきる宮本さんを講師に迎えたほうがいい会社は数え切れな いぞ。  午後1時。宮本さんの車で、源光(げんこう)庵へ。
「悟りの窓」と「迷いの窓」
 壁を大きく、円形にくりぬいた景色が美しいお寺だが、1600年関が原 の戦いのとき、伏見城落城のおりの血天井がはめられていて、ちょっと気分 が悪い。  京都には、この血天井が張られたお寺が6ヶ所ぐらいある。  供養のためというけれど、いかがなものか。  常設でなく、特別拝観で好きな人にだけ見せればいいのにと思う。  歴史ファンの私としては、徳川家康に「こんなおいぼれに死に場所を与え てくださってありがとうございます!」と答えた忠義の士・鳥居元忠の感動 的な逸話に感動したほうだけに、恐くはないが、所以も知らない人に、天井 を見上げると、血の足跡が見えるのは気分のいいものではないと思う。  この血天井のお寺シリーズだけは、なんとかしたほうがいいと思う。  午後1時30分。光悦(こうえつ)寺へ。  小さなお寺だけど、紅葉の時期になると、美しいお寺だ。  まだ紅葉には早過ぎるが、ところどころ狂い咲きしたかのように、葉を真 紅に染めた木がいくつかあって、紅葉の予告編のようだ。  今月の末の紅葉本番の頃にまた来たくなる。  遠く、鷹ガ峰の3つの山が、京都にしては雄大な景色。
 竜安寺、源光院、光悦寺と、3つも砂利道のお寺をめぐると、私の左足は まったく上がらなくなってしまった。石段の角にぶつかって、ひっくり返り そうになる。恐い。  午後2時。今宮神社へ。  きょうのメイン・イベントである。私たちのメイン・イベントは、食べ物 に決まっている。花より、お寺よりも、団子である。  柴尾英令くんは、きなこが大好きだ。  きなこといえば、今宮神社のあぶり餅にかぎる。  うちの娘が京都の甘い物ランキングの1位に推し続け、サザンオールスタ ーズのベーシスト兼ウクレレ伝道師のカズ坊(関口和之)が密かに大好きな、 今宮神社のあぶり餅。  そんなあぶり餅を、きなこが大好きだと豪語する柴尾英令くんに食べさせ たら、どうなるだろう? うちの家族と土居ちゃんが昨日、柴尾英令くんを 喜ばすにはここしかないと意見が一致した。 「ええ? なんで6人なのに、8人前も頼むんですか?」と柴尾英令くん。 「そりゃあ、美味いからに決まってるじゃないか?」 「たぶん8人前頼んでも、おまけの串もついてくるはずだよ!」 「土居ちゃん、昔は人数×2倍分注文したもんだよなあ!」 「へ〜〜〜?」と、けげんそうな柴尾英令くん。 「来た! 来た! 来た!」 「さあ! 柴尾くん、早く食べてくれいっ!」 「そんな大きな目のポーズはいいから、早く食え!」 「おお? おお! おお〜〜〜!」 「どうだ! 柴尾くん!」 「美味しいに決まってるじゃないですかあ!」 「やったあ!」 「おいしい〜! 止まらないよ〜〜〜!」 「どうだ! 柴尾くん、追加するか?」 「はい。4人前ほど!」 「そうだろ、そうだろ!」
 かくして、やっぱり4人前追加。さきほど8人前注文しているから、12 人前。見事に人数×2倍となった。計算ぴったり!  一人前、15本ぐらいの串だから、「わんこあぶり餅」でもやったら、 300本食べる人も出るだろうなあ。  本当にこのあぶり餅は、どこで食べるのを終了させたらいいのか、わから ないほど、お腹がいっぱいになる前にいくらでも食べられてしまう。
 この今宮神社のあぶり餅は、甘い物好きの人は京都に来たら、絶対来ない といけない場所だ!  午後2時30分。御池高倉。嫁がインターネットで調べたケーキ屋さんで、 柿のケーキを買って、京都のマンションで食べる。  これは美味しい! 柿ゼリーとか、つるし柿ではなく、柿そのものを乗せ た、まさに私がいちばん大好きな形での柿のケーキだ! 店頭販売しかない のが、残念だが、こんな美味しい柿のケーキを作ったお店「ジュバンセル」 は、大絶賛したいっ!
 土居ちゃん、柴尾英令くんにとっては、2泊3日の京都の旅も、めでたく ここで終了。 「ずっと雨の天気予報だったけど、毎日晴れちゃいましたねえ!」 「今回、仕事抜きにしてみたのに、雨がほとんど降らなかったなあ!」 「う〜ん。もうちょっと、京都にいたかったなあ!」  京都ほど、帰る日に後ろ髪が引かれる場所も少ない。  うちの家族もいっしょに帰ることに。  午後4時30分。宮本さんはとうとう、自家用車で京都駅まで送ってくれ た!   すぎやまこういち先生ご夫妻を通じて、知り合いになった宮本さんだけど、 本当に私の知り合いとまでなかよくなってくれる宮本さんは、立派だ。  土居ちゃんもまたやさしい。  伊勢丹デパートB2で、「はつだ」の特選和牛弁当を人数分買ってくれる。    午後5時09分。のぞみ22号に乗る。  さすがにこの時間の新幹線は混んでいて、2号車、12号車、14号車と、 まったくバラバラに分かれて乗るはめになってしまった。  私は嫁と2号車で、本を2冊精読。  土居ちゃんがせっかく買ってくれた「はつだ」の特選和牛弁当が、激しく 揺れる500系新幹線で食べるのがもったいなくて、東京の家まで持って行 くことに。おなじ席の老人の龍角散臭さも耐えられなかったせいもある。  新幹線はやっぱり700系のぞみがいい。  午後7時26分。東京駅で再び顔を合わせて、正式にお別れの挨拶。  このところ、無神経きわまりない人種の無軌道な行動に、怒髪天をつく怒 りを覚えているだけに、ここ数日間の心やさしい人々との旅行は、夢の幸せ 旅行だ。  午後8時。帰宅。 『踊るさんま御殿』を見ながら、「はつだ」の特選和牛弁当を食べる。  あれ? カメラマンの加納典明さんの発言は、全部カットされちゃったの か?   ひとこともオンエアされていなかったぞ。昔の職業柄、ついこういうこと が気になってしまう。
 

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