10月11日(木)

 午前9時。仙台国際ホテル5Fのレストランで朝食。
 最近、インターネットでホテルの予約すると、宿泊料金が安くなった上に、
朝食券までついてくる。
 でも何だか、電話で予約して現金で払う人の苦労を考えると、何でインタ
ーネットの予約のほうが楽なのに値段まで安くなるのか不思議で仕方がない。
 ひょっとしたら、インターネット予約が試験中で、ホテル側の対応がまだ
ヘタですよ! だからお値段安くしてるんですよ!というエクスキューズな
のかもしれない。
 とにかくコンピュータができない大人が、どんどん社会から仲間外れにさ
れて行く傾向が強いのは確かだ。

 雨が、バシャバシャ叩きつけるように激しい。
 午前11時。あおば通り駅から、快速うみかぜ7号で、石巻に向う。以前 は、仙台駅止まりだったこの仙石線は、地下鉄の乗り入れで、このあおば通 り駅始発になった。  本当に仙台という街は、毎年来ているのだが、いつもどこかが新しくなっ ている。日本じゅう不景気なのに、活気に満ち溢れている。県知事がいいせ いだという話を聞いたことがある。  政治だけの力だろうか。とにかく仙台はえらい。  快速といいながら遅い、うみかぜ7号は海岸沿いを走る。  松島の海岸を見ながら、柴尾英令くんが叫ぶ。 「へ〜〜〜! いい景色だなあ!」 「日本三景のひとつだからね!」 「あれ? 去年来たとき、この風景って見ましたっけ?」 「全員、帰りの電車でずっと仙台まで寝ていたよ! きょうもそうなるだろ うけど…」
 午後12時。石巻駅着。  雨が少し小降りになって来た。  おおっ! 駅前にプラスチック樹脂の『サイボーグ009』に登場する ヒロイン・フランソワーズ・アルヌールの彫像が新しく建っているぞ!
「土居ちゃん、フランソワーズって、00…3だっけ?」 「003ですよ!」  やっぱり土居ちゃん、漫画のことになるとくわしい。  私たちの年代にとって、手塚治虫さん、石ノ森章太郎さんは、共通言語、 C言語みたいなもんだからねえ!  さらに駅前には、石ノ森章太郎さんのキャラをつかった、案内板までで きていた。石ノ森萬画館までの道のりを「マンガロード」と呼んで、さら に漫画キャラの彫像が増えたようだ。
 タクシーで、石ノ森萬画館まで行くつもりだったけど、歩いて行くこと にする。  実は、今年の暮れか、来年の1月に、四国高松の鬼無駅に、桃太郎電鉄 の石像を寄進するアイデアというのは、この石巻のマンガロードを見た影 響が強いのだ。  だから今回の石ノ森萬画館行きは、鬼無駅のさらなる発展のための視察 も兼ねている。  おお! 道のあちこちに、石ノ森キャラの石像が!  ロボコンだ! さるとびエッちゃんだ!  石材について、この4人は急速に詳しくなっているので、「この部分の 色は、本当は反対のほうがいいんだけど、磨きが増えると値段が高くなる んでこっちにしたんだな?」「この大きさだと、20万円ぐらいかな?」 「小さくても、やっぱりたくさんあることのほうがうれしいなあ!」と、 四国高松鬼無駅に、夢をはせる。
 でもちょっと気になるのが、この「マンガロード」に、マンガ専門店が ないこと。どうせ漫画の発展のために漫画ランド構想を練るなら、マンガ 専門店はほしいし、漫画の専門学校もほしいし、何より、石ノ森章太郎の 作品の上映館がほしい。アニメになった作品、TV放映された作品だけ、 毎日変えてやっても、1館で何年間もかかると思う。 『仮面ライダー』のTVシリーズを一挙上映とかいったら、全国から泊り がけで見に来る人もたくさんいると思うなあ。
 途中で、「生クリーム入りカフェ大福」なるお品書きを見つける。 「遠島(としま)まんじゅう」のお店だ。
 こういう珍なる食べ物はすぐ買って、食べる。  おっと。生クリーム入りカフェ大福は冷凍されていて、カチンコチンで歯 が立たない。控えで買っておいた、チョコレート饅頭を食べる。いわゆる 「チョコまん」だ。デブは「チョコまん」が好き!  土居ちゃんも、柴尾英令くんも異論なく、食す。  こ、これは! 過去食べたどの「チョコまん」よりも美味しいぞ! 石巻 でこんな美味しいチョコまん見つけても、どうしようもないしなあ。個人商 店でとても地方発送なんて絶対ないようなお店だったしなあ。  この「マンガロード」には、焼きそばパンの美味しいお店とか、レトロな お店も多い。  午後12時30分。石ノ森萬画館に到着。  去年来たときには、まだ建設中だったものが出来上がっているのを見るの は、うれしいものだ!
 おお! いきなり館内のお姉さん方が、『サイボーグ009』の扮装とい うのはいいねえ! ぐるぐる回廊状になった館内を登って行く。けっこうし んどい。石ノ森章太郎さんの作品群が、石版になっていたり、フォログラム になっていたりする。  午後1時。シアターで、『龍神沼』を見る。  田森庸介さんのホームページで、『龍神沼』の上映は、奇数日のみと書い てあったので、きょう10月11日に来ることにしたのだ。  石ノ森章太郎さんのファンで『龍神沼』は好きではないという人がいない くらい、『龍神沼』は特別な作品だ。  特別な作品なだけに、どうもこのアニメに対しては、評価が厳しくなって しまう。期待のほうが大きすぎたかな? 昨日の上杉鷹山(ようざん)の映 画の出来が良過ぎたから、ものさしが狂っているのかもしれない。『ファイ ナルファンタジー』のあとに、CG重視のゲームを見るようなもんかな。  その後も、石ノ森萬画館を見て歩く。 『サイボーグ009』の002に乗って、空を飛んで、写真に撮ってくれる ものや、石ノ森作品といっしょにプリクラが撮れる筐体などがあって、よう やく気がついた。  この記念館は、石ノ森章太郎さんの作品のほうの記念館なのだ。  どうもメイキング・ビデオ・マニアの私は、作家・石ノ森章太郎さんの記 念館を望んでいたことを。  私にとって、去年行った「石ノ森章太郎ふるさと館」のほうが、何倍も胸 を締めつけられるような感動を覚えたのは、あっちのほうが、デビュー当時 の石ノ森章太郎さんの仕事部屋を再現してあったからなのだった。    というわけで、私の希望的観点から、この石ノ森萬画館を評するのは難し くなってしまった。  ただ3Fのカフェから望む川は非常に気持ちいいし、石巻駅から「マンガ ロード」を通って、ここまで来る道は、非常に楽しいし、美味しいものもあ る。これだけでも十分お勧めの場所ということはいえるだろう。    余談だが、この3Fのカフェで、ミスター・スタマック・柴尾英令くんは、 軽々とほたてカレーを食した。いったい彼の胃は、第二、第三、いくつまで の胃があるのだろうか?  それにしても「石ノ森章太郎ふるさと館」のほうが、新幹線くりこま高原 駅から、バスもないし、石巻までのバスもない不便さがもったいない。 「石ノ森萬画館」も見てほしいけど、「石ノ森章太郎ふるさと館」も見てほ しい。  とにかく、石ノ森章太郎さんのキャラクターの豊富さ、多彩さに圧倒され ながら、石ノ森萬画館を後にする。  午後2時30分。石巻駅。  あれ〜〜〜! 石巻の交番までが、石ノ森章太郎さんの『ロボット刑事』 を飾っている。本当に町じゅう、石ノ森章太郎さん一色だなあ。
 こんな素晴らしい街も、石ノ森萬画館も、石ノ森章太郎ふるさと館も完成 直前で、石ノ森章太郎さんは亡くなってしまったんだよなあ。  私と石ノ森章太郎さんと交わした会話は「今度、石巻に記念館できるそう ですね!」「そうなんだ。楽しみでね」が最後だっただけに、ふたつの記念 館に対して、ことさら思い入れが深い。  午後2時58分。石巻駅から、うみかぜ14号で、仙台に向う。  電車に乗ったとたん、晴れていた空が真っ暗になって、ザーザー降り。  仕事を終えると、雨が降るのジンクスがまたまた生きている。本当なのか なあ、このジンクス。でも少なくとも、90%以上の精度だ。  昨年同様、景色を見ることなく、車中、熟睡。  この電車ののろさほど、熟睡に適した速度はない。4人掛けで背もたれの ある車輌ならもっといいのになあ。ロング・シートなのが、残念。  午後4時。仙台駅。  仙台駅で絶対お勧めなのが、地下のお土産品売り場「エスパル」。  ここはどのお土産品も試食が充実しているので、何気なく食べてその美味 しさに思わず買ってしまうことが多い。  女川の笹かまぼこなんか、試食なのに、現品の半分の大きさを食べさせて くれるんだよ。豪快でしょ?  仙台駄菓子の「熊谷屋」の出店もあるので、あんこ玉(うさぎ玉)を買う。  午後4時30分。「エスパル」にある「伊達の牛たん本舗」で、牛たん定 食を食べる。今回の「ぎゅぎゅう(牛々)詰めツアー」の総仕上げは、牛た んを食って帰ることにある。  去年、「喜助」という、なかなか美味しい牛たんのお店を見つけたけど、 そっちはキープで、さらなるお店を探すべく、このお店に挑戦。  この「伊達の牛たん本舗」は、近年ぐんぐん目立ち始めているお店だ。  牛たんのお店というと、狭くて汚らしいお店が多いのだが、このエスパル 地下店は広くて、きれいなのだがいい。  残念なのは「極上・芯たん」が売り切れの張り紙があったこと。 「極上・芯たん」がどれほどの美味しさか知らないが、めったに来ることが できない場所で「極上」のものが食べられないのは、悔しいじゃありません か!?
 それでも、牛たん定食は、肉厚でじゅうぶんな美味しさ。  ちなみに私と嫁は、牛たん定食1人前だが、土居ちゃん、柴尾英令くんは、 牛たん定食1.5人前である。ビクともしない強靭なる胃袋の持ち主である。 この調子だと、3日連続和牛ツアーでも平気だろう。このふたりは。  それでもさすがに、牛たん1.5人前は応えたようで、エスパル地下街の 試食にまったく目もくれなくなった。 「土居ちゃん、ここのずんだ餅、美味しいよ!」 「もうダメ!」 「これがかつて『桃鉄』で有名になった、ゆべし餅だ!」 「もうダメ!」 「白松がヨーカンって、不思議な名前のお菓子でしょ?」 「もうダメ!」  柴尾英令くんも「もう身体じゅうの隅々まで牛肉で埋まっているような気 がします!」と、ぜえぜえ…。  午後5時54分。やまびこ22号で、東京に向う。  この新幹線は、最短で約1時間半で、東京に着いてしまう。 「近いんだねえ!」と、土居ちゃんが驚く。 「今度、日帰りで仙台に来て、お昼に牛たん。デザートに、ずんだ餅、夜に 大胡椒で仙台牛食べて帰る?」 「いいですねえ! 日帰りでできるもんなあ!」 「土居ちゃん、牛肉で苦しくないの?」 「あっ、そうか。苦しい!」    午後7時32分。東京駅着。速い!  土居ちゃん、柴尾英令くんの強靭なる胃袋のすさまじさを思い切り見つけ られた1泊2日の旅であった。
 

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