10月3日(水)

 昨夜、連絡がつかなかった井沢どんすけから、電話が入った。
「あの、その、漫画の原作の仕事が上がらなくて、きょう、さくまサン家に
行けそうにないんですけど…」
「何だと〜〜〜、井沢〜〜〜! いい根性してるじゃないかあ!」
「ひえ〜〜〜!」
「嘘だ、井沢どんすけ! はっはっは。もともとおまえがうちに『ルイージ
マンション』をやりに来るだけだから、困るのは井沢どんすけで、私はほか
の仕事をすればいいだけだ! どうせきょうは土居ちゃん(土居孝幸)と打
ち合わせが入っている!」
「言われてみてばそうですよね! えへえへえへっ!」
「まあ、君は桃太郎チームの主力選手ではないから! 代走要員みたいなも
んだな!」
「えへえへえへっ! 金曜日なら行けるんですけど…」
「金曜日、私は京都だ! 京都まで来い! わっはっはっは!」
「ひえ〜〜〜!」
「嘘だよ! 京都にはまだキューブを買っていない。それでは井沢くん、
また来週!」
「はい!」

 午前11時30分。恵比寿駅で、土居ちゃん(土居孝幸)、菅沼真理
(通称:すがねまチャン)さんと待ち合わせるが、すがねまチャンが来ない。
 嫁がうっかり携帯電話を忘れて来たので、連絡が取れない。すがねまチャ
ンは何度も嫁の携帯に電話かけてるんだろうなあ。たしかに恵比寿駅の西口
のどこでと、明確に待ち合わせしてなかった。しかも私の携帯に、すがねま
チャンの携帯電話を登録していなかった。
 柴尾英令くんに電話するも、出ない。寝ているな。
 放送作家の福本岳史くんに電話するも、電話に出ることができないの通知。
 成沢大輔くんに電話するが、知らないとの返事。
 困り果てたすえに、霊能者兼漫画家の岩崎摂さんに電話! 霊能力で探し
てもらうことに。んなわけがない! 霊能力でそこまでわかるわけがない。
 それより、岩崎摂さんがすがねまチャンの事務所の電話番号を知っていて、
電話したら転送電話になった。
 恐ろしいのは、岩崎摂さんの最後の言葉。
「まだその辺にいると思うよ!」
 転送電話が繋がった。本当にまだその辺にいた。霊能力で探せたかも。恐
るべし、霊能力。

 午後12時。4人で待ち合わせしたのは、「筑紫楼(ちくしろう)」の、
かに肉とふかひれのスープ麺に、杏仁豆腐を食べるため。
 とろとろのあつあつの、極上のスープ麺で思い切り汗が出るまでになった あとの杏仁豆腐は冷たくて、口に含むとあっというまに消えてしまう。  何たって、ここの杏仁豆腐は、我が家の「杏仁豆腐ランキング」で不動の 1位を独走なのだ! 「あ〜〜〜ん。なんて幸せなの〜!」「も! おいしいものって、世の中に まだまだたくさんあるのね〜!」とすがねまチャンが、ファソラシの高音部 で嘆息。  そうだよ、この世の中には死ぬほど美味しいものがたくさん、たくさんあ るのだ。  午後2時。土居ちゃん(土居孝幸)と自宅で、『桃太郎電鉄11(仮)』 と『桃太郎電鉄U(仮)』の打ち合わせ。  土居ちゃんとだと、グラフィックの打ち合わせになるので、またまた最近 ずっと話題の3D、2D問題の壁にぶつかる。  元ナムコの岸本好弘さんの「いまは2Dの絵を描ける人はほとんどいませ んよ!」のショックは、予想以上に深いのだ。  この日記を読んでいる人からも「最近のゲームは3Dばかりで、どのゲー ムも似たようなものばかりだ!」という意見が多数届いている。  こういう意見をもっとみんな声を大にして言ってほしいんだけど、どの メールも業界人からだったりするので、ここに再録できない。  今回の『桃太郎電鉄X(ばってん)〜九州編もあるばい〜』でも、「3D はイヤだ!」と言っても、2D描ける人が少ないために、3Dのままになっ てしまったところがある。この問題はしばらく続きそうだ。かすかな望みは、 ゲームボーイアドバンスのおかげで、ふたたび2Dを描ける人の需要が高ま っていることだ。  2Dの描ける人、カムバッ〜〜〜ク!  午後7時。土居ちゃんと、私と嫁で、新しいお店を開拓!  四谷荒木町の「ます味」。
 なんと! 穴子専門店だ。  穴子のコースというのがあって、高級和食料理の半額ぐらいの値段で食べ られる。しかもその味がひさびさの大当たり!  穴子の肝煮、薄造りがぷりぷり、白焼きは、塩でもポン酢でも。天ぷらは、 カボスをたらして。穴子ご飯はおこげのように美味しい!   「そういえば柴尾英令くんは、ご飯時なら合流できるかも?と言っていたけ ど、けっきょく連絡来なかったね〜!」 「こんなに美味しいの食べられなくて残念だねえ!」 「この穴子、本当に美味しいわあ! すぎやまこういち先生ご夫妻にご注進 できるレベルかも…」    ん? 私の携帯が鳴っている。 「げっ! 柴尾くんかい! もうご飯食べちゃってるから、合流は無理だな。 えっへっへ!」 「四谷荒木町ですか! 車飛ばして行けばすぐだから行きますよ!」 「来なくていいよ!」 「行きます!」  う〜む。せっかくこんな美味しいものを見つけたのだから、まずは私と 土居ちゃんのふたりで「柴尾くん、穴子の専門店、美味しかったよ〜! 君 は食べられなかったんだね〜〜〜!」と3日間いじめるつもりだったのに!  お店の人に、もうひとり追加は無理ですよね!と聞くが、運悪く? OK とのこと。しぶとい男だ、柴尾英令!
「うわわわわわっ! タクシーに乗って来たかいがあるなあ! この味!  何でこんなに美味しいのほほほ〜〜〜!」  ダメだ、こりゃ。すっかり柴尾英令くん、至福の顔つきになっている。  でも、本当に美味しいのだ、このお店。  もともとこのお店、アリtoキリギリスの石井正則くんの奥さんである、 石井愛(かな)さんが大の「穴子マニア」なので、穴子の専門店は無いかと、 インターネットで調べて行くうちに、捜査線上に上がったのだ。  だから、きょうは偵察のつもりで来た。  美味しかったら、今度、石井愛(かな)さんを誘うという約束をしていた のだ。  というわけで、石井愛(かな)さん! 今度誘うからね! 「ほにほにほに…」  まだ柴尾英令くんが、その大きな目玉がこぼれ落ちそうに、とろ〜ん!と して、うれしそうな顔をしている。 「柴尾くん! ここの飯、おごるから、そこの喫茶店で少し仕事していけ!」 「は〜〜〜い!」  大丈夫かいな! 返事が酔っ払いって、あやしいよね!  午後8時30分。荒木町の喫茶店で、きょう土居ちゃんと打ち合わせして いて、煮詰まった部分を、柴尾英令くんに話す。  この目玉おやじのすごいところは、どんなにお酒を飲んでいても、仕事の 話に入ると、しゃきっとして、頭脳明晰になる。まるで水島新司さんの 『あぶさん』みたいなやつだ。  きょうも最後にやって来て、ゲーム作りの核心に触れる部分に対して、論 旨明解なる提言を次から次へと講釈する。  柴尾英令くんのような考え方をする人間がいままで、桃太郎チームには いなかっただけに、貴重な存在である。顔は、おばさん臭いけど(一応、お 約束のギャグね!)。  午後10時。自宅に、先日横浜アリーナでKO勝ちしたボクサーの日高和 彦くんと、佐藤志靖さんが北海道土産を持って来てくれた。    明日から、私は京都方面へ。
 

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