9月20日(木)

 きょうの四国高松は、運動会を開くなら、最高の天気だ。
 空がどこまでも青く広がる。
 エメラルド・グリーンの海が暖かそうだ。
 適度な心地よい風が海から吹いてくる。

 梶野竜太郎くんは、午前7時の電車で大阪に向った。本当は2日間大阪
の予定で、高松に来るのは難しい状況だったのだ。でもどうしても今回の
「桃太郎電鉄石像化計画」について、彼に知っておいてもらいたかった。

 午前9時。全日空クレメントホテル高松の1Fで、バイキング朝食。
 メンバーは、土居ちゃん(土居孝幸)、柴尾英令くん、私、嫁の4人。
 見るからにカロリーが高そうなものばかりチョイスする柴尾英令くんは、 お腹ぽよぽぽよ星人の鏡、いや、鏡餅のような男だ。  しばらくして、FMマリノ社長の酒井秀樹くんが到着。  今後の「桃太郎電鉄石像化計画」について、話し合う。
 午前10時前。ロビーで、全日空クレメントホテル高松総支配人の宮本 盛治さん、副支配人の一色努さんにご挨拶。今年の3月ぐらいに知り合っ たばかりなのに、開業前のホテルに泊めていただいたせいか、旧友に会う ようになつかしい。  午前10時15分。ホテルの前のフェリー乗り場から、小豆(しょうど) 島行きの超高速船スーパーマリンに乗る。出航2分前にキップを買うあわ ただしさに、はあはあ…。桟橋で1分ぐらい出航を待ってもらった。  スーパーマリンは豪華な客船で、なんと船室のど真ん中に、床の間と掛 け軸があるのには、笑えた。しかもその脇のプレートには「サロン オリ ーブ」の文字が書いてあるではないか。
 小豆島は、オリーブの島として有名だけど、「サロン オリーブ」って 何?  と思ったら、まんまと土居ちゃんと柴尾英令くんが、うれしそうに「サ ロン オリーブ」の部屋に入って行くではないか。そんなあいつらがうれ しそうに行くなんて、そんなエッチなところなのか!?  私と嫁もついて行く。  何だ。階段で上のフロアに行けるのか。  おお! 船上のデッキ部分に行けるではないか!  びゅうびゅう、風が強い! というよりこの船のスピードがものすごい 速いせいだ。  しかしまるでクルーザーの持ち主のような気分ではないか。デッキのチ ェアーに座る気分は、石原裕次郎か、加山雄三だぞ。  船尾でカメラを構えいる柴尾英令くんを後ろから「え〜い! サスペン ス劇場〜!」と叫にながら、刺殺してあげる。 「びっくりしたあ!」と、柴尾英令くん。 「こういうギャグは、旅先では不可欠でしょう」
 それにしても、このスーパーマリン、速い! 何ノットという単位はわ からないが、時速に換算すると55キロぐらいのスピードらしい。  速い! 小豆島まで、30分を切る運行時間を実現できたわけだ。  午前10時45分。あっとうまに、小豆島の中心地・土庄(とのしょう) 港に着く。土庄(とのしょう)は、地図でずっと土庄(どしょう)と暗記 していた。  トノショウ、トノショウ…。地理を得意とする私としては、正しく暗記 しなきゃあいけません!  あれ? オリーブの島の大きな看板があるにもかかわらず、どことなく、 ごま油の匂いが漂っている。妙に香ばしいぞ。  あとでわかったことなんだけど、小豆島はオリーブと並んで、そうめん も有名な産業。そのそうめんの麺と麺をくっつかないようにするために、 ごま油をつかうので、ごま油の工場があるそうなのだ。なるほどねえ。  港のお土産品売り場を物色後、タクシーでいざ、小豆島観光! 「お客さん! ちょっと遠回りになるけど、世界一狭い海峡を見て行きま すか?」 「えっ? 何ですか、それって?」 「そういう変な物は、ぜひとも見ておかねば!」  というわけで、まずは、土庄(とのしょう)港から、程近い町役場の側 の橋まで。  ん? どこが海峡なんだ? 橋しかないぞ。  橋があるんだから、川はある。  えっ? この川が海峡なの?  川幅10メートルぐらいしか無いよ!  えっ? 川みたいだけど、島と島の間を通っているし、定期的に船さえ 通れば、海峡と認定されるの? へ〜〜〜! 「でも、こんな狭いところ、船が通れないでしょ?」 「海苔舟ぐらいの大きさですよ!」 「そりゃ、ずるい!」 「だから、台風のあとなんかで水かさが増すと、海苔舟も通れんようにな る。そこの橋に頭つっかえよるからね!」 「はっはっは。そりゃ、そうだ!」 「世界一になるのも、けっこう大変なんだな」  村役場で、この「世界一狭い海峡」を通った記念の証明書を発行してく れるらしいんだけど、そこまではいらんだろうと、先に進んでもらう。 
 しかし、それにしても、小豆島は大きい! 大きいなんてもんじゃない!  予定では、島を一周してもらうつもりだったんだけど、とても無理。しか も島の周囲と、島の真中の山に見どころがあるので、一筆書きに効率よく 見て回ることができない。  そんなわけで、今回はダイジェストで、島の南半分だけ見て回ることに した。  小豆島と、名前の最初に「小」という文字があると、どうも小さいと思 ってしまうよねえ!  どうせなら「大豆(おおど)島」とかにしてくれればいいのに。でも 「おおどしま」じゃ「大年増」とか言われちゃうかもしれないし、「大豆 (だいず)島」と読まれてしまうだろうなあ。  そういえば、「小豆島」は「小豆(あずき)島」と読めるんだった。  いずれにしても、島の名前と島の規模に違和感がありすぎ。  午前11時30分。オリーブ園へ。  タクシーの運転手さんが言っていたように、お土産品屋さんがあるだけ というのは、謙遜ではなかった。裏山にオリーブがたくさん植わっていた ようだけど、ジャスミンが咲き誇っていて、その匂いがきつくて、鼻先が つーーん!と来る。
 小豆島は、意外なほど、通りに商店街がずっと長く続き、住宅も多い。  シャッター商店街にもならず、新しいお店も何軒も何軒もできている。 あの新幹線の車体のようなデザインのスーパーマリンが30分おきに高松 を往復するくらいなのだから、小豆島の経済事情はいいのだろう。  マイカルみたいな大型店舗が進出して来ない好例なのかもしれない。  午後12時。マルキン醤油記念館へ。
 おお! 記念館についたところから、お醤油の匂いが充満している。  小豆島は、醤油の生産でも有名なところだ。オリーブ、そうめん、ごま 油工場、醤油と、『桃太郎電鉄』なら、目的地駅になる資格十分なくらい、 名産品が多い。  だから、経済事情もいいのかもしれない。  しかも、この醤油産業は、現在下火になったそうで、醤油をつかった、 佃煮産業がいま、大盛況だそうで、日本全国の佃煮の4割をここで生産し ているのだそうだ。だから京都の佃煮だと思ったら、小豆島のものだった りするわけだ。  まあ、京野菜だって、東北の遠野で作っているというし、宇治茶のほと んどは、鹿児島で作っているというし、松坂牛のほとんどは、北海道で作 っている。  そのうち、京野菜は、アリューシャン列島で、宇治茶は、バリ島で作っ ているなんて、時代が来るのだろう。  さて、このマルキン醤油記念館で、田舎の人の性格のよさを満喫してし まった。  この記念館、入場料210円という自体、安いと思うのだが、醤油の小 瓶が1本洩れなくサービスでついて来てしまうのだ。いや、正しくは4人 +タクシー運転手さんで、5本も醤油の小瓶をくれてしまったのだ。  あとで、ほかの場所の売店で、この醤油の小瓶の値段が、250円であ ることが判明。なんと210円の入場券で、250円の醤油がついて来て しまう計算。  都会では考えられないような博物館だ。
 展示物も、広い敷地をいかして、実に豪華で、丹念で、親切。  大豆と小麦と塩から、お醤油ができるまでの過程を、実に懇切丁寧に本 物の樽や道具を置いて、見せてくれる。  館内の売店で、岩のり豆なる不思議な食べ物を買って、東京に送る。  嫁は、スプレー式の醤油を買っている。使い道はあるのだろうか。
 マルキン醤油記念館の前の売店で、しょうゆソフトクリームを食べる。  こういう変な物を食べるのが、私たちのお仕事。  思ったより、お醤油はきつくなく、食べやすいソフトクリームなだけ。  観光用なんだから、お醤油がきつい「何だこりゃ醤油ソフトクリーム」 と「えっ?おいしいじゃないか醤油ソフトクリーム」の2種類で販売した ほうが、話題になっていいと思うぞ! どうも四国は観光に積極的でない。 こんなにいいところなのに、もったいない。   午後12時30分。「二十四の瞳映画村」へ。  気持ちを包み隠さずいうと、日本中津々浦々を旅している私が、小豆島 初上陸が49年目になってしまったのは、この『二十四の瞳』が原因だっ たのだ。  もちろん、子どもの頃、昭和29年公開の高峰秀子主演の『二十四の瞳』 は見ている。  でも私は都会生まれの都会育ちなので、こういう分教場での先生と生徒 の愛情みたいに純粋な物語が苦手だ。それほど、私の小学校、中学校の先 生方というのは、サラリーマン的で、聖職という言葉から縁遠かった。私 が大学生になったとき、同級生が、学生時代に先生の家に遊びに行った話 を不思議そうに聞いたくら いだ。  その証拠に、いまだに学生時代の先生には、1枚も年賀状すら書いてい ない。書きたいような相手もいない。  都会の学校の先生と生徒の関係は、こんなものである。  そんなわけで、この辛気臭い映画のせいで、島全体が、きれい事で塗り 込められているような偏見を持っていたわけだ。捻じ曲がった性格なのよ、 都会っ子は。  その偏見は、この「二十四の瞳映画村」に入ったとたん、吹き飛んでし まった。
 この「二十四の瞳映画村」は、昭和61年に、田中裕子さん主演でリメ イクされた『二十四の瞳』の撮影現場をそのまま残して、テーマパークと したそうだ。  セットが小学校だったり、ボンネットバスが置いてあったりするので、 なつかしい、なつかしい。駄菓子屋さんなんかもおいてあるから、映画村 ごと、ナンジャタウンみたいなものなのだ。  しかもこっちのなつかしさは、天然もの。ナンジャタウンは、養殖もの だ。
 とにかく、小学校のセットの前の海を眺めてみてよ!  身体の毒素を全部吸い取ってもらえるかのように、気持ちいいよ!  何度も、何度も、深呼吸しても、さらに、さらに、毒素が出て行きそう だ。    いやあ、この「二十四の瞳映画村」の素晴らしさをうまく伝えるだけの 文章力がほしい! 文筆業なのに、くやしい! せめて写真でこの別天地 の素晴らしさを味わって! 映画を見たことのんばい人でも、感動するよ!  映画も常時、上映しているから、時間のある人は見ることもできる。
「小豆島に『桃太郎電鉄村』を作りたいね〜!」などど、土居ちゃんと話 す。でも小豆島じゃ、電車が似合わない。   映画村の食堂で、「朝一番の仕上がり素麺・限定食 580円」のネー ミングにそそられて、全員で食べる。  この「朝一番の仕上がり素麺」は、そうめんを干さずに料理として出す ため、防腐剤をつかっていない食べ物のように、ふつうのそうめんよりも、 もちもち、ぷりぷりしているのだそうだ。  きょうはほどよく暑くて、風があるから、このそうめんの、美味しいこ と、美味しいこと! うま〜〜〜!
 何だか、全員この「二十四の瞳映画村」を去りがたい気分になって来て いる。  正直言って、これほどまでに小豆島が素晴らしい場所だとは思ってもい なかった。きょうから、四国を旅行したいと思っているんだという人がい たら、「絶対、小豆島に行ったほうがいいですよ! 高松からわずか30 分ですよ! 映画村にぜひ行ってください!」と説得することだろう。  そのぐらい気に入った!  午後2時5分。土庄港から、再び高速船に乗って、高松へ。  行きのスーパーマリンより小さい船だ。 「しわく号」というらしい。  たぶん「塩飽諸島」から名前を取ったのだろう。塩飽諸島といえば、 村上水軍である。最近司馬遼太郎さんの『街道をゆく』で知ったばかりな だけ。  午後3時27分。高松駅から、マリンライナー40号で、岡山へ。  天気がいいので、瀬戸大橋から眺める景色が最高にきれい。  土居ちゃんと「『桃太郎電鉄』で『瀬戸内海編』を作るなら、オープニ ングはこの景色だね!」と話し合う。  午後4時45分。岡山駅から、ひかり104号で、京都へ。  車中、柴尾英令くんから、3Dポリゴンについて、講義を受ける。  3Dが嫌いというだけではなく、今後克服した上で、3Dの特性をいか したイベント作りをしてみたくなったのだ。  いつのまにか、土居ちゃんも柴尾英令くんに質問している。  いつも新幹線は、桃太郎チームの移動会議室だ。  午後5時56分。京都駅着。  京都に着くと、東京よりも我が家に帰って来た感じがするのはなぜだろ う。いつも旅の行き帰りに寄るせいだろうな。  午後6時30分。シーフードカレーの美味しいお店で、夕食。
 土居ちゃん、柴尾英令くんは、京都ロイヤルホテルへ。  私と嫁は、京都のマンションへ。  なんと、京都のマンションに着いて、ベッドにひっくり返ったとたん、 そのまま眠りこけて、夜、目が覚めて、お風呂に入っただけ、そのままバ タンキュー。    朝まで眠りっぱなしになってしまったのであった。  先週からずっと続いていた不眠症をやっと解消できたようだ。  小豆島はいいよ…。四国はいいよ…。
 

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