8月1日(水)

 高知市、新阪急ホテル泊。
 ついに四国半周シリーズの旅、3泊4日目。
 取材が順調に終了して気が緩んだせいか、明け方から、激しい下痢
に悩まされる。昨日の皿鉢(さわち)料理の生にんにくのせいかな? 
ホテルの冷房のせいかな。
 いずれにしても強行軍の旅だ。
 疲労していないわけがない。

 さて、本日中に京都まで戻ろうと思っているのだが、欲張りな私は
もう少し『桃太郎電鉄』用の取材をして行きたいと、行けそうなとこ
ろを物色する。
 しかし、ご承知の通り、高知県は左右に異様に長いあげくに、左右
ともに垂れ下がった地形をしている。
 さらに、電車路線がなく、高速道路もない。

 明治維新の英傑である中岡慎太郎の記念館が、馬路(うまじ)村に
あるというので行こうと思ったら、まずバス路線が見つからず、タク
シーでも1時間半はかかる場所だと言われる。行って行けない場所で
はないが、馬路(うまじ)は、村だ。ちょっと勇気が出ない。

 坂本竜馬といっしょに、京都近江屋で、新撰組だったとも、京都見
回り組が犯人だったともいわれている暴徒に暗殺された中岡慎太郎。
坂本竜馬が海援隊という結社を作っていたことは有名だが、中岡慎太
郎が、陸援隊を作っていたことを知っている人は少ない。
 私はどうもこういう影のヒーローを応援したい癖があるだけに、馬
路(うまじ)村の中岡慎太郎記念館は、次回の宿題として、残してお
きたい。

 ほかにも、室戸岬まで行ってみたかったが、タクシーを飛ばしても
2時間以上かかるんじゃね〜。しかもその先の宍喰(ししくい)駅だ
ったか、徳島県の電車のある駅までがまた長い。

 そんなわけで、ことごとく欲張り取材を断念。
 だいたい下痢がひどくて、午前9時過ぎまで寝込んでいたのだから、
体力的にも遠出はむずかしい。

 午前9時30分。1Fの喫茶店で、トーストとコーヒーを飲みなが
ら、嫁とどこまで行くか決める。
 
 嫁が桂浜に行ったことがないという。
 高知に来て、桂浜に行ってないちゅう、いかんぜよっ(怪しい土佐
弁)!
 即決で、桂浜に行くことにする。

 午前10時。桂浜までは意外に遠いのと、バスの連結が悪いので、
タクシーにした。
 まずは以前登ったことのある高知城を、大手門から仰ぎ見る。
 こんな暑い日に、お城に登ろうものなら、熱中症は必至だ!
 そのまま路面電車の土佐電鉄(通称:とでん)に併走しながら、桂
浜をめざす。
 高知は、路面電車が数多く残る町でもある。
 ただ十字架状に伸びているために、塗りつぶし完全乗車がむずかしい。
 以前、黄色い『桃太郎電鉄』仕様の路面電車が走っていたこともある。

 余談だが、土佐電鉄には、御免(ごめん)駅があり、伊野(いの)
駅というのもある。現在、御免(ごめん)駅―伊野(いいの)駅行き
のTシャツが流行っている。「御免(ごめん)、いや伊野(いいの)!」
というシャレである。

 午前10時30分。桂浜に行く前に、「坂本竜馬記念館」に行く。
 この「坂本竜馬記念館」は、平成4年に完成した高知県立の博物館だ。
 坂本竜馬ファンにとっては、バブル期にこの豪華な記念館が完成した
のは、最高の恩恵だ。
 太平洋に突き出すように建てられたこの記念館は、まさに竜馬にふさ
わしい進取の気象にあふれた、素晴らしい建造物だ。
 前回土居ちゃん(土居孝幸)と来たときとは、ずいぶん展示物が変わ っていた。  何よりいきなり受付けの脇に、司馬遼太郎さんの文章が大きな屏風に、 展示されていたこと。
 この文章は、桂浜の竜馬の銅像を募金で建立したリーダー、交好保さ んに宛てたメッセージだそうだ。こんな文章。 「銅像の竜馬さん、おめでとう。  あなたは、この場所を気に入っておられるようですね。  私もここが大好きです。  世界じゅうで、あなたが立つ場所はここしかにないのではないかと、  私はここに来るたびに思うのです」  このあとも、長い文章が続くけど、ぜひ「坂本竜馬記念館」に来て、 読んでね。わら半紙にプリントされた全文がここでもらえるから。  しかし司馬遼太郎さんらしい、愛情にあふれた文章だ。  この愛情で『竜馬がゆく』を描いたんだなあ。  作品というのは、その人の「資質+愛情」で、総合点が決まるんだろ うなあ。  愛情は大事だよ。愛情は…。  ぶつぶつ…。  はっ。ちょっと最近、作品に対する愛情で、思うところがあってね。  自分の世界に入り込んでしまった。ゴメン。  ほかにも、この「坂本竜馬記念館」には、脱藩の経路とか、「エヘン、 エヘン」で有名な、おどけた竜馬の手紙などが展示されている。  とにかく、竜馬ファンなら「おまん、ここに来にゃあ、いかんぜよっ!」 (またまた怪しい土佐弁)である。
 できれば日がな一日、ずっとここに佇んでは、この場で『竜馬がゆく』 全8巻を片手に展示物を読みたいものだ。8巻は片手で持てましぇん。  午前11時。桂浜の坂本竜馬の銅像へ。 「坂本竜馬記念館」から銅像までは、歩くと遠い。バスもあるけど、 本数が少ない。バスの所まで行く間に、真夏だと、じゅうぶん熱中症に なれるのでご注意を!
 私は何度も、この坂本竜馬の銅像を見ているが、新たに見るたびに、 その存在の大きさが大きくなっていくばかりで、ちっとも追いつけない ような気分に陥る。    きょうも、「坂本竜馬がますます偉大に思えるなあ!」と思いながら、 桂浜名物のアイスクリンを食べてしまう。花より団子のいいかげんな親 父になっちまったもんだ。でもここのアイスクリンは夏季限定。美味し いんだ!
 坂本竜馬の銅像から、桂浜へ。  またまた猛暑で、汗ぐっしょり。  桂浜は、砂というより、小石が多い浜だ。私はとても海の近くまで行 く気になれない。  海の好きな嫁が、波打ち際まで歩いて行く。  すると、女性のアナウンスで「桂浜の波は大変激しいので、波打ち際 には近づかないように願います」と言われてしまった。はっはっは。
 しかも嫁は、サンダルで波打ち際まで歩いて行ったものだから、天津 甘栗の石焼の上を歩いているようなもん。ほとんど火傷(やけど)状態 で戻って来た。  必死にトイレで冷やしたが、足が赤くなっている。  ところで、桂浜の浜辺の向って右に、鳥居のある崖がある。  タクシーの運転手さんの説明では、実はこの崖、本来はコンクリート の打ちっぱなしで、平面だったそうだ。へ〜、自然な岩場に見えるのに なあ。  でも何だか気持ちよくだまされた気分になるのは、坂本竜馬の銅像を 見たせいだろうなあ。  坂本竜馬なら「お客さんに楽しく思ってもらうためなら、嘘も必要ぜ よっ!」と言うと思うからだ。  これはゲーム作りにも、通じる。  何でもリアルに描けばいいというものではない。  野球ゲームでも、実はボールがしっかりバットに当たるように作ると、 プレイヤーがボールを打ち返した気がしないそうだ。 『マリオ』の宮本さんもおなじようなことを言っていたなあ。  当たり判定を厳しくすると、ゲームが不自然になると。  不思議だよねえ。リアルを追求すると、嘘っぽくなるなんて。  お客さんが喜ぶなら、私はいくらでも『桃太郎電鉄』で嘘をつきたい。 まだまだ『桃太郎電鉄』は、嘘の部分が少ないと思う。  午前11時30分。お土産品屋さんにクーラーが入っていないので、 さらっと一周して、そのまま高知市内に向ってもらう。  午前11時50分。新阪急ホテルで荷物を受け取り、そのまま高知駅へ。  午前11時55分。高知駅。  あと8分ほどで、岡山駅行きの特急が発車するが、せわしないので、 1本遅らせることにした。まだキップも買っていない。  午後12時。高知駅の2Fにあるお土産品デパートを物色する。  もうちょっと、高知駅のお土産品売り場は、充実してほしいなあ。 ちょっと寂(さび)れすぎ。  駅の売店で、よさこい弁当を買う。  まだ次の電車まで、30分近くある。駅の並びのパン屋さんで、コー ヒーを飲んで時間を潰す。  しばし、四国四県のことを考える。  四国四県の県庁所在地は、高松市、徳島市、松山市、高知市。  この4つのなかで、いちばん人口の多いのは?  なんと松山市なのである。  私のイメージのなかでは、高知市がいちばん背の高いビルが多いし、 活気に満ちている。松山のほうが、背の低いビルが多い気がするのだ。 まあ、人口はビルの高さで決まるものではないのだが。どうも高知市が いちばんでないのは不思議な気がする。  ちなみに、県庁所在地の人口は、以下の通り。  1位・松山市 46万人  2位・高松市 33万人  3位・高知市 32万人  4位・徳島市 26万人  松山市が1位なのは、道後温泉の人口も入っているからかな。高知市 は意外なことに3位だった。  以上、四国豆知識でした。  午後1時3分。南国14号で、一気に岡山駅をめざす。  大歩危(おおぼけ)、小歩危(こぼけ)のダイナミックな渓谷を眺め、 雄大な瀬戸大橋を渡る。  岡山県側に入ってなお、単線で、途中2度にわたって、特急待ちのた めの2分間停車が入るのが、とても気になる。コンピュータが発達した いま、停車待ちのない時刻表作りは可能ではないのだろうか。  午後3時31分。岡山駅に着く。  岡山駅の地下で、白桃を買う。岡山はやっぱり桃だ。  白桃は、極上のものだと、2000円から、3000円する。  でも出荷のときに、ちょこっとどこかに当たって、少しだけ傷んだ 「あたり」と呼ばれる白桃が500円で売られていた。  見た感じ、どこも当たった場所がわからないような白桃だ。  午後4時12分。のぞみ22号で、京都に向う。  いつも思うのだが、岡山駅はクーラーが無さ過ぎ! ホームの下のフ ロアには、お土産品屋さんにうっすらクーラーが入っているだけ。改札 口の前にあるお土産品街のクーラーも薄い。去年の夏もそうだった。  午後5時9分。京都駅着。  午後5時30分。京都のマンションに戻る。  ふわ〜〜〜、ようやく四国半周の旅が無事終了した感がこみあげてくる。  これは嫁とふたりで、和風割烹「M」にでも行って、祝杯をあげるしか ない…と思ったのだが、きょうは定休日。三嶋(みしま)亭も、水曜日は 定休日だ。京都の美味しいもの屋さんは、だいたい水曜日が休み。  でも、何だか横浜ベイスターズの7連勝中で、勘がよくなっている私は、 嫁に「M」に念のために電話することを提案する。  すると、なんと、きょうは臨時営業しているというではないか!  これは福音だ。  どうせなら、きょうはデジカメを持って行かずに、しみじみふたりで 「M」の料理を味わおう。  午後7時。「M」へ。  ご主人が、私と嫁が、美味しいものを少量ずつ、種類多く食べたいの を知っていて、小皿に次々に、美味しいものを少しずつ乗せて、出して くれる。  帰りには、お土産をたくさんもらって、帰る。  午後9時。京都のマンションに帰るころには、横浜ベイスターズの 8連勝を知る。8連勝なんて本当にひさしぶりで、どう喜んでいいのか、 すっかり忘れていて、動揺しきりだ!  ついに借金返済で、勝率5割?  ひどいときは、15個ぐらい負け数のほうが多かった気がするけど、 よくここまで回復したなあ。今シーズンはもう終ったと思っていただけに、 とてもうれしい。私もちょっとあきらめていたことを、もう少し粘って みるかな。    岡山で買ってきた、白桃が美味しいっ!
 

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