7月17日(火)

 ♪コンチキチン、コンチキチン。きょうの京都は、祇園祭りの最高潮、
山鉾巡行の日なので、町全体が祇園祭一色になっている。

 御池通りはすでに、通行止め。
 京都ホテルの交差点は、通行規制。
 水色の制服のおまわりさんたちの数がやたらと多い。
 朝からずっと、山鉾が来るのを待っている人たちが、うちわで必死に
自分を扇ぎながら、「うへ〜〜〜!」という顔で待っている。
 京都の夏というのは、おそらく日本でいちばん暑い場所だとおもうけ ど、何で祇園祭りといい、8月15日の五山の送り火といい、ビッグ・ イベントのお祭りがあるんだろう。  春の桜、秋の紅葉の時期は放っておいても、お客さんが来るけど、京 都の夏は何もしなければ、誰も来なくなってしまうから、お祭りを催す ようにしたのかもしれない。お盆なのはわかるんだけどね。  午前10時。京都ホテル脇の喫茶店「ALZA(あるざ)」に集合。  メンバーは、土居ちゃん(土居孝幸)、カズ坊(関口和之)、ヤサカ タクシーの宮本さん。  ホットドッグにコーヒーでお腹を満たして、いざ出発!  なんと宮本さんが、私たちたった3人のためにわざわざマイクロバス を用意してくれた。大名旅行だねえ。  祇園祭の山鉾が、京都ホテルの交差点に近づいて来ているというのに、 私たちはお祭りに背を向けて、北をめざす。祇園祭の日に京都に来てい て、お祭りを見ないなんて、なんてふとどき者なのだろう。  五条通を西に、さらに京都縦貫道路に入る。  あっというまに景色は緑一色。おだやかな丘陵が続く。  中年御三家は、美しい緑の景色を眺めながら、それぞれ居眠りを始める。  15年間続いているユニットだけに、いまさらコミュニケーションを 取るための会話はいらない。それぞれ思い思いに、いちばん楽な方法で すごす。気のおけない友人関係だ。  でもこの「気のおけない友人」って言葉、何か「気のおけない」って 部分だけ見ると、うっかりすると後ろから発砲されそうな言葉におもえ てしまうよねえ。  午後1時。おや? 目が覚めたら、珍しくもヤサカタクシーの宮本さ んが道に迷っている。  実は、このところこの日記に登場する、播磨屋のおせんべいの本店が ある場所に行くことをリクエストしていたのだが、どうもうまく行かな いようだ。  わざわざ宮本さんが、播磨屋本店に何度も電話してくれて、その都度 コースを変えているようだけど、しばらくするとまた道に迷っているよ うだ。  横浜ベイスターズの名手・石井琢朗がゴロを捕り損ねたようだ。  ちなみに、この播磨屋本店というのは、豊岡(とよおか)という場所 にある。  ほぼ山陰の海に近いといったほうが早いような場所だ。 「宮本さんがこんなに道に迷うってことは、行くなってことですよ!  きょうは播磨屋本店に行くことはやめましょうよ!」 「でもせっかくここまで来たから、行きましょうよ!」と、宮本さん。 「いや、こういうときはズルズル、ダメになっていく前兆だから、ひと つ患部を切りましょう! 早期発見ですよ!」  すでに、外はぽつぽつ降っていた雨が、次第に激しくなって来ている。 「宮本さん、播磨屋本店はあきらめて、出石(いずし)に行きましょう よ!」  マイクロバスは踵を返して、出石をめざす。  昨年7月1日に、家族3人で、さらに10月13日、桃太郎チーム 11人ででかけたあの出石だ。もっとわかりやすくいえば、放送作家の 福本岳史くんが、一人前5皿の皿そばを33皿食べた、あの出石だ。  この2年間で私が3度もここを訪れようというのだから、どのくらい 私がこの町を気に入っているかわかっていただけるとおもう。  午後3時。雨が降りしきるなか、但馬地方の小さな町・出石に到着。 この町には、人口1万人に満たないのに、皿そば屋さんが50軒以上も ある。  何でも信州上田から国替えで、入ってきた仙石(せんごく)氏が、信 州そばをこの町に伝えて、この町の伝統工芸品である白色磁器のお皿の 上にのせたことから、出石独特の手打ち皿そばが出来上がったという。  これだから歴史は楽しい。  しかし、私たち3人は、そんな皿そば屋さんには目もくれず、ある一 軒のお店をめざす。 「まめいも屋」さんだ。  このお店の軒先に、大きな甕(かめ)があって、その甕(かめ)にち ょろちょろと絶え間なく水が流れていて、その水のなかにあるのは、 トマト!  あのTVなんかで見たことがあるでしょ? ビールのCMだったかな あ。中山美穂さんだったか、大きな甕(かめ)に入ったトマトをむんず とつかんで、そのままがぶりと美味しそうに食べているシーンを。  あれをやるために、ここに来たのだ。  土居ちゃん(土居孝幸)は昨年の10月13日にもいっしょに来たけ ど、あのときはトマトのシーズンが終っていた。カズ坊(関口和之)は 出石自体が初めて。
 おお! 昨年、1個30円だったトマトが、20円になっているでは ないか!   デフレ・スパイラルか!? 「さくまクン、トマトを食べに行くというから、もっと近い所かとおも ってたけど、こんな遠い所だったんだ…」と、カズ坊(関口和之)。 「カズ坊、わざわざこんな遠くまで来た理由がいまからすぐわかるから ね!」  みんなで、甕(かめ)からトマトを取り出して、「がぶり!」。
 思わずカズ坊(関口和之)が微笑む。 「カズ坊は、新潟出身だから、子どもの頃、こういうことよくやったで しょ?」 「うん、うん!」 カズ坊(関口和之)が喜んでる! 喜んでる!  お店のおじさんに「去年も来たんですよ!」というと、おじさんの顔 が崩れるように、破顔一笑。このトマトをクール宅急便できると教えて くれたので、店先でトマトのほかに何か送れないかと物色を始める。  土居ちゃん(土居孝幸)は、独身だから何も送らない。ううっ。悲し き独身長寿日本一をめざす男!  まずは昨年買って絶品の味だった、枝豆を私は二束!  カズ坊は、なんと三束も!  金まくわという名前がついた、マクワ瓜も。 「おじさん、この児玉スイカは送れない?」 「う〜ん。割れちゃうからねえ!」 「ってことは、ここで食べるしかないかなあ」 「でも、やっぱりスイカは冷えてないとなあ!」 「おじさん、冷えてるスイカはないですよねえ!」 「う〜ん。さすがにそれはねえ…」 「スイカ食べたかったなあ!」 「う〜ん。お客さん、スイカ食べたい?」 「食べた〜〜〜い!」 「う〜ん。きょううちで私が食べようとおもっていたのが1個あるから、 それを出してくるよ!」 「やったあ! 言ってみるもんだっ!」  おじさんは、奥から児玉スイカを持って来てくれて、包丁で4つに割 ってくれる。わくわく! 「スプーンいる?」 「いらな〜〜〜い!」  もちろん、がぶり!とスイカにかぶりつく!  スイカの果汁が鼻の穴に入っても気にしない!  こんな食べ方するの、40年ぶりぐらいだよ〜〜〜!  冷たくて、甘くて、美味しいよ〜〜〜!  冷たくて、甘くて、美味しいよ〜〜〜!
 冷たくて、甘くて、美味しいよ〜〜〜! ♪冷たくて、甘くて、美味しいよ〜〜〜!…とレゲエのリズムに乗せて 歌ができちゃうくらい美味しいよ〜〜〜! 「おじさん、来年も絶対来るね〜!」 「おじさん、来年来るとき、電話したらスイカ、冷やしておいてくれる?」 「う〜ん。わかった! わかった!」  ついでに、おじさんから、皿そばの美味しいお店まで聞き出す。   なにしろ、50軒以上も皿そば屋さんがあるから、どのお店が美味し いのかわからない。  教えてもらった一軒「北の庄(きたのしょう)」はあいにく、お休み。  もう一軒の「彩蕎子(さいきょうし)」へ。 「彩蕎子(さいきょうし)」とは変わった名前だ。 「彩」はわかるけど「蕎子(きょうし)」がわからない。  お店の人に聞いてみる。 「蕎子(きょうし)」というのは、蕎麦の子ということで、そばの実の ことをいうそうだ。そばの実を彩るわけやね。なるほど。  きょうはメンバーも4人と少ないので、皿そばを死ぬほど食べるよう な馬鹿げたことはやめようと申し合わせ。  40皿注文して、私が昨年とおなじ8皿。あまった2皿は、土居ちゃ ん(土居孝幸)が食べてくれた。  このお店の皿そばは、出汁が美味しい。でも麺の腰の強さは、去年行 った「よしむら」のほうが美味しかった。一長一短、すべてが揃った お店というのは、双簡単にないものだ。
 午後3時。怠け者軍団は、宮本さんのマイクロバスで、この小さな町 を一周してもらう。雨が激しくなって来たせいもあるんだけど、横着が 何より。  この小さな町は、応仁の乱にその名をとどめている山名(やまな)氏 が治めていた時期もあるので、全体に品がいい。  武家屋敷なども残っていて、町並みも美しい。
 何より鉄道が通っていないので、俗化されたお店がない。  秘湯という言葉があるが、ここは秘町(ひちょう)と呼ぶべきだろう。  おや? あの看板は! 「元巨人軍投手・大友工投手 栄光の奇跡展」! 「ちょ、ちょっとすみません。宮本さん、寄ってください!」 「さくまクン、大友…何て読むの?」とカズ坊。 「たしか、大友工(おおともたくみ)って読んだとおもったよ!」  大友工さんの名前を、宮本さんも、土居ちゃんもカズ坊も知ってるわ けがない。  昭和28年頃に活躍した人だ。  私ですら満一歳だ。  私だって、野球の歴史の本をたくさん読んでいるから知っているだけ。 全盛期の投球フォームまでは覚えていない。  おおっ! 長島さんと写っている写真がある。長島さんってそういえ ば、若い頃毛虫が乗ってるんじゃないかと思えたほど、眉毛が濃かった んだよなあ。
 へ〜、大友投手は、この町の出身だったんだあ。  いいなあ。故郷のある人は。こういう立派な展示会をやってもらえて。  東京出身は錦を飾れる故郷がない。  午後3時30分。出石の町を離れて、京都をめざす!  美味しいトマトに、児玉スイカに、皿そばを食べた中年御三家は、 さっさと高いびき!  福知山を過ぎたあたりで、3人ともいっせいに目を覚ましたとは、宮 本さんの談。こんなことで歩調が合ってどうする!  でもちょうどよかった。きょう来るとき、このあたりで「あっ!」と 叫んだことがあったので確認できる。  場所は、須知(しゅうち)という場所だ。  国道沿いの交差点近く。  Tモータースという中古車屋さんの看板に、なんと!  土居ちゃん(土居孝幸)の絵を真似た看板があったのだ。  行きに私が一瞬見て、似てるとおもったのだが、あっというまに通り 過ぎて、土居ちゃん(土居孝幸)に確認を取る間もなかった。 「土居ちゃん、もうすぐだから確認してね! ほら、あの黒い看板の向 こう!」 「あっ! ほんとだ! 『ジャンプ放送局』のF−1編のときに描いた 絵だ!」 「やっぱり、土居ちゃんの絵か!」 「わっはっはっは! わっはっはっは!」 「土居さん、訴えたらどうですか?」と宮本さん。 「いや、うれしいからいいですよ!」。 「土居ちゃん、来年またここに来たときは、寄ってみよう!」  お近くに住む人は、ぜひこのお店に見に行ってください。  Tモータースという名前はもちろん、イニシャルで、「T」はこの地 方の名前がついています。  午後5時30分。京都市内に入る。  京都に入ったら、雨はやんでいた。路面を見ると、乾いているから京 都は雨が降らなかったのかもしれない。 さすがに京都市内は混雑している。  これから私たちは東京まで戻らないといけない。  それを聞いた宮本さんが、なんとか午後7時10分ののぞみ新幹線に 私たちを乗せたいとい言い出して、必死に脇道を何度も何度も曲がって、 京都駅をめざしてくれる。  午後6時20分。宮本さん必死の努力のせいで、あっというまに京都 駅に着いてしまった。ありがとうございます!    でもここから、一波乱!  午後7時7分発のぞみ66号のチケットを買ったものの、4本前のひ かり新幹線がまだ到着していない。米原の豪雨のせいで、列車が遅れて いるようなのだ。  えっ? 45分遅れ? それはすごいなあ! 「だったら、どこかでゆっくり食事する?」 「でもJRって、必死にダイヤを戻そうとするから、うっかりすると定 刻どおりに発車しちゃうかもよ!」  伊勢丹デパートの地下まで行って、お弁当を購入。この時間では、 「はつだ」の特選和牛弁当はすでに売り切れなのは言うまでもない。  午後7時。新幹線ホームに登る。  電光掲示板がおもしろい。  午後6時40何分かのひかり号が表示されているのに、隣りの時計は すでに午後7時を過ぎている。
 ほかの乗客さんたちは、みなさん不安な顔で、あちこちきょろきょろ しては、どうにもならないことに対して、憔悴しきっている。  おなじホームにいる3人の中年は、遅れたら遅れたでいいし、こうい う場面に遭遇できる機会はなかなかないとむしろ微笑んでいる。 「なんたって、お弁当もあるから、閉じ込められても平気だからね!」  午後7時21分。けっきょく私たちが乗ったのぞみ66号は、27分 遅れで発車した。 「乗れた! 乗れた!」と、乗れたらなんとかなるとおもっている土居 ちゃん(土居孝幸)の思考回路がうらやましい。  のんきな3人は、お弁当を美味しそうに食べて、さっさと熟睡。
 午後8時48分。予定より27分遅れで、東京駅に到着。何だ。京都 駅のときより、さらに遅れているではないか。  午後10時30分。帰宅。  あれだけマイクロバス、新幹線と寝っぱなしだったのに、風呂に入っ たら眠くなる。録画しておいたNHK『北条時宗』と日テレ『踊るさん ま御殿』を見て、さっさと就寝。なんちゅうミスマッチな録画だ!
 

-(c)2001/SAKUMA-