7月14日(土) けっきょく昨夜、井沢どんすけに懇願されて、『桃太郎電鉄X(仮)』 のテスト・プレイを午前2時まで付き合うはめになってしまった。 どうも、井沢どんすけは『桃太郎電鉄X(仮)』の九州マップ部分な ら、私がまだ攻略法がそれほど完備していないだろうから、勝機ありと 読んだらしいのだ。 それは確かに正しい。 まだマップの青マス、赤マスなどもこれから変更して行くところだし、 目的地もさっそく1ヶ所、昨日変更したばかりだ。 全国編だと私が15年間に作って来ただけに、歯が立たないと思った そうだ。 そこまでして、どうしても井沢どんすけは、私に勝ちたいのかという と、本気で勝ちたいのだ! 『桃太郎電鉄』シリーズの初期の頃から、 いつも何度戦っても私に一度も勝ったことがなかったから。 いや、一度だけあった。 そのときは、テスト・ロムがバグっていて、私が買った物件の収益が 井沢どんすけのほうに入っていったからだ。買っても買っても、私の持 ち金は増えず、井沢どんすけの持ち金が少ししか減らないので(…って ことは、井沢どんすけがずっとマイナスってことね。わかる?)、これ はバグだと気づいた。 そんなわけで、なるほど『桃太郎電鉄X(仮)』の九州マップ部分の 勝負はなかなか熾烈! しかもまだテスト・ロムなので、COMキャラ がいない。人間同士対決しかできないので、対マン勝負になってしまう。 完成ヴァージョンでも、対マン勝負はきついだけに、井沢どんすけ初勝 利に向けて、かなりいい好発進だった。何度も目的地に入り、ひょっと すると思わせた。 しかし、結果は私の3戦3勝。 しかも井沢どんすけは、ただでさえボコボコに負けていて、貧乏神が キングボンビーに変身して、ボンビラス星に向ったところで、ロムが止 まってストップになって、そのまま続けていたら、井沢どんすけはどこ まで落ちて行くのか想像できないほど。 午前2時。またバグったところで、「井沢くん、『どうぶつの森』を やらせてあげるから、寝かせてくれ!」と、私はリタイア。 『どうぶつの森』はかなりそのおもしろさが予想できるそうなのだが、 始めたのが午前2時過ぎなので、ほとんどの住民が寝ていて、大きな進 展はなかったそうだ。しかし、村の名前の入力に「むら」と入れて、 「むらむらに いきますか?」とメッセージが出ては喜ぶ、井沢どんす けって!? 33歳。独身。彼女いない歴33年。 午前6時。ゲームのテスト・プレイをやると、身体の芯が興奮しきっ てしまうので、寝付けないし、眠りがどうしても浅くなる。 何度も、何度も、目が覚る。 ここで起きたら、また眼精疲労の症状が出たり、血圧が高くなるだけ だと、自分に言い聞かせて、再度寝る。 外もぢりぢり暑そう。 こんな日に日焼けしたら、衰弱しそうだ。 おとなしく、おとなしく。 この1ヶ月の間に倒れでもしたら、『桃太郎電鉄X(仮)』が発売で きなくなってしまう! 勇気ある撤退も兵法のひとつ。ちょっとだけ海岸へ 午前11時30分。井沢どんすけと、鎌倉に出て、駅前の…やっぱり 疲れてるなあ。お店の名前を忘れてしまった。駅前の鳩サブレーを売っ てるビルの3Fのお店だ。 ふたりとも、冷やし湯葉そうめん。 そうめんというと、麺つゆにつけて食べるのだとおもったら、出汁が すでに入っているようで、そのまま食べるタイプ。味は薄いが、うっす ら美味しい。涼味もたっぷり。デザートに、冷やし夫婦(めおと)。 あずきと、空豆か何かのぜんざい2タイプ。 午後1時。このまま帰るもの、もったいないので、かねてからの場所 に行く。 金沢八景の釜利谷(かまりや)街道にある「ビンテージカー・ヨシノ」 だ。 このお店を実は、インターネットで見つけた。 最近何度も登場する私の憧れの車、トヨタ2000GTが5台も展示 されているクラシックカー販売のお店なのだ! こんな素晴らしいお店に行かないわけがないっ! しかもこれだけ大量のトヨタ2000GTを見たら、もう何だか満腹。 ようやく私のトヨタ2000GT欲しい熱は鎮まりそうだ。 何たって、安くて1500万円。高いと、1800万円という値段は、 『桃太郎電鉄』の世界の金額だからねえ。さすがに座席にまでは座らせ てもらうことはできなかったけど、買ったとしても、モールの錆とか、 電気系統のメンテナンスとか、つねに維持費がかかるということを聞い て、かなり心穏やかになりにけり。 ただし、トヨタ2000GTの隣りに展示されていた、トヨタS800 スポーツが、やたら値段が安いので、わけもなく欲しくなる。 新車のミニクーパーより安いんじゃないかなあ。 このトヨタS800スポーツ(通称;ヨタハチ)が実は、子どもの頃、 いちばん模写した車だったのだ。シンプルなデザインなので、下手くそ な画力でも、それなりに誰が見てもトヨタS800とわかるのがうれし かった。 トヨタ2000GTは、ドア付近の美しいフォルムが書きづらかった。 午後2時。なんとか衝動買いを必死に押さえに押さえて、鎌倉長谷の 家に戻る。 ちなみに、井沢どんすけはスーパーカー全盛時代に中学生だったせい で、どんなに新しいスポーツカーを見ても、カウンタック以上にはとき めかないそうだ。 こうやって大人なると、子どもの頃もあこがれの品を手に入れたくな るもんなんだなあ。 さて、嫌がる井沢どんすけと『桃太郎電鉄X(仮)』全国編をテスト・ プレイ開始! 「せっかく九州編なら、ひょっとしたら勝てるかと思ったのに、昨日大 差つけられちゃったから、全国編なんかやったら、ボコボコにされちゃ いますよ〜!」 「井沢くん、テスト・プレイはお仕事なんだから!」 「できれば九州編のほうを…」 「往生際の悪いやつだなあ! でも昔に比べたら、井沢くん、『桃太郎 電鉄』上手くなってるから、私も勝つの大変だよ!」 「そうですかねえ。それじゃあ…」 1時間後…。 私の総資産10億4500万円。 井沢どんすけ ー6500万円。 やっぱりボコボコにしてしまった。ゴメン! その後、2試合とも、井沢どんすけ、ボコボコ! 「どうして勝てないのかなあ?」 「一時期井沢どんすけのほうが圧勝という時期があったのになあ!」 「さくまサン、カードの使い方がやらしいんだもん!」 「そりゃあ、作者だもん。こういうカードの使い方ができるかどうかをチ ェックしないといけないんだから!」 圧勝したとはいえ、マップ上のパーツを吟味したり、赤マス、青マスの 配置、☆印カード売り場で売ってるカードの種類と値段が妥当かどうか? 無駄に何度もボタンを押すストレスがでないかどうか、ゲームをやりなが らチェックするので、頭からぶすぶす煙が出そうなくらい、血圧が上がる。 午後4時。近所の「アンテーク・カフェ1959」で、七里ガ浜フレンチ・ ロースト・コーヒー。 井沢どんすけがテスト・プレイで気づいたことを、根掘り葉掘り尋問する。 この「敵に回すと恐いが、味方にすると、もっと恐い男」は、類まれなる シックス・センスを持っているのだが、それを自分から発信することができ ない。 この世で、井沢どんすけの超人的な能力を解読できるのは、私だけなので ある。 しかもこの男、無意識で嘘もつくので、いまの意見が本気で言っているか、 いないかを判別しないといけない。 午後4時30分。 井沢どんすけのリクエストで、九州編を対マン勝負! 必勝に燃える井沢どんすけ、いつもなら絶対赤マスに飛び込まないのに、 目的地に入って物件を買いまくらないかぎり勝てないと踏んだのか、ずん ずん突き進む。もともとサイコロの出目が大きく出る男なので、この戦法 には、私もさすがに、たじたじ。 井沢どんすけ、連続で、目的地に到着! こっちは貧乏神がつきっぱなしで、物件は農林物件ひとつの持ち金マイ ナスの大ピンチ! しかし、どん詰まりの目的地の出口で、貧乏神を連れて待っていた私と すれ違ってから、あれよ、あれよというまに、井沢どんすけ、自滅! とどめは、起死回生を狙ったイベントで、リトルデビル、デビル、キン グデビルカードの3枚セットをいただいて、タイタニック号のように、ず ぶずぶと轟沈! すっかりマイナス成長に転じてしまった。 午後6時。けっきょく九州編も2試合連続、私の勝利で終了。 このままテスト・プレイを続けると、井沢どんすけ、また明け方まで続 けてしまうので、意を決して、「帰ります!」と宣言。 週刊少年ジャンプの読者ページ『じゃんぶる』のラフ・デザインや、月 刊誌の漫画の原作の締め切りがあって、このままここで遊んで…いや、テ スト・プレイしていると、本業がピンチになってしまいそうだという。 ここで「まだほかにもバラエティ・ゲームが何種類かあるんだけど…」 と言ったら、本当に帰らなくなりそうなので、井沢どんすけの帰る宣言を 遵守する。 午後6時30分。近所の「レストランCARO」で、井沢どんすけと、 ハンバーグステーキ・ディナー。 何のことはない。ふつうのハンバーグに、ポタージュ、アイスクリーム、 コーヒーがついただけのメニューだ。でもこのお店は洋食の美味しいお店 としてけっこう通っているだけあって、味はしっかりしている。このお店 で食べたのは、二度目だけど、こういう美味しいお店が目の前にあるとい うのは、得した気分だ。 食べながらも、井沢どんすけは「さくまサン、あの決算画面にひょっこ り出て来黄色くて大きなプリンみたいなやつは何なんですか?」 「九州マップのほうにあった、『?』の文字は…?」 「××××鉄道省って?」 と、なんとかまだ見ていないイベントを私から聞き出そうとする。 「ボンビラス星って、ずいぶんデザイン変わってませんか?」 「キングボンビーが新しい星を見つけたそうだよ!」 「ボンビラス星、どうなってるんですかねえ?」 「近いうちに、井沢くんの目で確かめられるようにしてあげるよ!」 「ううっ! それって、ボクがボンビラス星に行くってことじゃないです かあ!」 「うれしいくせに!」 「うれしくないですよ〜〜〜!」 楽しい男だ。 午後8時。井沢どんすけは、東京へ。 私は長谷の家に戻って、ひとりで『桃太郎電鉄X(仮)』の九州マップ 部分をひとりでテスト・プレイ。井沢どんすけが二度と、チャンスすらつ かめないまでに、完全攻略…いや、お客さんにとって、より楽しい、夢を 与えるようなマップ構成にするべく、秘密のチェック。 このチェック方法が実は、『桃太郎電鉄』がしぶとくロングセラーにな っている秘密なのだ。この秘密だけは誰にも教えませんぞ、はっはっは。 そういえば、せっかくきょう鎌倉にいて、あんなに蒸し暑かったのに、 一度も日焼けしなかった。まあ、今回は仕事に来たのだから、仕方ない。
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