6月23日(土)

 朝から、関門海峡は雨。
 かなり激しい雨。
 対岸の下関がけぶって見える。

 本来なら午前中に、北九州のボタ山を見に行こうとおもっていたのだが、
あっさり断念して、昨日の日記を推敲する。旅先だと資料が少ないので、
もっとじっくり時間をかけて書きたいなあといつもおもう。
 まあ、こうしてメモっておけば、いつか再構成して旅日記が書けるだろ
う。

 雨は一向に上がらない。
 きょうの待ち合わせは小倉の先の八幡(やはた)駅に、午後12時だか
ら、ゆっくり身体を休めておこう。
 窓から、雨と船の入港をぼんやり眺める。
 
 そうだ! ぎりぎりまでのんびりしている場合ではなかった。
 ホテルのチェック・アウトは、午前11時までだった。

 午前10時30分。ホテルをチェック・アウト!
 いいホテルだった。
 今後、北九州で泊まるところはここだな。

 雨のなか、ついに傘をさして、カートをガラガラ引きずりながら歩くと
いう最悪の事態。左手は動かないので、右肩に傘をしょって、動かない左
手を傘の柄に添える。右手でカートを引っ張る。
 傘の骨の部分で、髪の毛を挟まれて、痛いぞ!
 けっきょく傘はずり落ち、傘が雨の舗道を転がる。
 カートごと、私はびしょ濡れになってしまった。
 幸いだったのは、ホテルから駅までが近かったこと。短時間ですんだ。

 午前10時41分。門司港(もじこう)駅から、荒尾(あらお)行きの
鈍行列車に乗る。
 こんなに早く出発したら、約束の八幡(やはた)駅に早く着いてしまう
なあ…とおもっていたら、なんと小倉駅で、10分停車のアナウンス! 
おいおい! 理由を言え! こっちでは「この駅で10分停車します!」
だけで、まかり通るのか! まかり通るようだ。
 車内の誰も動揺していない。

 あっ。ひとりだけ、いま小倉でこの車輌に乗り込んできた、黄色いシャ
ツの太ったお兄ちゃんが首をかしげている。ん? どこかで見たことある
顔だぞ! ふくよかな顔だ。福岡(ふくおか)だけに、ふくよか。
 けっこうつかえそうなだじゃれだ。
あっ! そのふくよかな顔は、テレビ長崎のアナウンサー・山本耕一
ではないか!
 あの長崎で感動的な13年ぶりの再開を果たしたことで、この日記を読
んでいる人たちに最高の感動を与えた、あの山本耕一である(2000年
1月の日記を参照)。

「耕一〜〜〜!」と呼ぶが、山本耕一の耳には届かないようだ。それどこ
ろか、何でいったん乗り込んで来たのに、隣りの車輌に移るんだ。おいお
い!
 手足の不自由な私に後を追わせるなどという無謀なことをさせるなよ! 
って言っても向こうは気づいてないんだから仕方ないよな。

 どたどた、小走りに歩いて行って、山本耕一をつかまえる。
「あっ! さくまサン! おはようございます!」
「そうだよ! ところで何で耕一は、小倉から乗って来たの? 長崎から
来たら、博多からソニックとかじゃないの?」
「あっ! 実はですね、まだ一度ものぞみ新幹線に乗ったことがないので、
一度乗ってみようとおもって、博多から一駅だけ乗ってみたんです。25
00円と安くてすみますし!」
 山本耕一とも、午後12時に八幡(やはた)駅で待ち合わせていたのだ。
 
 馬鹿がつくほどクソ真面目な山本耕一は、何時何分にどの列車に乗れば、
何時に八幡駅に到着するのかを綿密に書いた紙を見せてくれた。
「あいかわらず、耕一らしい、クソ真面目さだなあ! ん?」
「どうかしましたか?」
「耕一、これだけ綿密に調べた努力は認めるが、待ち合わせの駅が、スペ
ースワールド駅になっているぞ!」
「えっ!?」
「待ち合わせは、八幡駅前で、そこからスペースワールドに行くとメール
送っておいただろうが!」
「あっ! それはこれですよね!」
「何だ、私が送ったメールまで、プリント・アウトして来てるのか!」
「あっ! 確かに八幡駅集合と書いてあります!」
「そうだよ!」
「でも何で八幡駅に集合なんですか?」
「そんな無茶なことをいうのは、自分が持っていた剣を垂らしたら、その
滴(しずく)が固まって、八幡駅になったとおもっている柴尾英令くんに
決まってるだろうが!」  
「柴尾さんですか!」
「そうだよ。あのおばさん臭い顔して、頭脳明晰な柴尾英令くんだよ!」
ウワサの柴尾くんと梶野くん
 午後11時17分。やっぱり八幡(やはた)駅に早く着いてしまった。  雨は激しくなるばかりだ。  ピザ屋さんで、東京から今朝早く飛行機に乗って到着のメンバーを待つ。  すでに携帯メールで、博多からソニックに乗って、こっちに向っている という報告が入っている。  午後12時。山本耕一と外に出ると、ちょうどやって来ました、きょう の待ち合わせのメンバー。  地元八幡出身のあわてん坊将軍・柴尾英令くん、ハドソン桃太郎事業部 の梶野竜太郎くん、うちの嫁に、娘!  これで今回のメンバーがめでたく全員揃った。  でも、さっそく梶野竜太郎くんから泣きが入る。 「何もこんな日に、こんな激しい雨が降らなくてもいいのに〜!」 「何で?」 「だって、スペースワールドのタイタンが雨だと動かないんですよ〜!」 「ああ、そういえば梶野くん、きょうはアトラクションに乗ったら、二度 と地上に降りて来ませんから!って宣言してたもんなあ!」 「そうですよ〜! あ〜〜〜、なのに何でこんな天気に!」 「梶野くん、ゴメン! 私のせいかも知れない!」 「ええ〜〜〜っ? 何でさくまサンのせいなんですか〜〜〜!」 「私は仕事で旅に出ると、ピーカンの快晴になるけど、遊びだと、豪雨に なるジンクスがあるんだ!」 「ええ〜〜〜! でも昨日の取材とかっていうのも、雨だったんでしょ?」 「ところが中国地方は、雨の予報だったのに、私が取材に行った、山口も 湯田温泉も雨がまったく降らなかったんだよ! しかもご丁寧なことに、 取材を終えて、小倉駅に着いたとたん、雨が降り出した!」 「そ、そんな…!」  これは紛れもない事実である。  15年ほど前、『桃太郎伝説』を札幌で作っていたとき、たった1日だ け、空き時間ができたので、襟裳岬方面にひとりででかけて、豪雨に襲わ れ、遭難しかけたことがある。なにしろ、本州からの郵送物が完全に停止 したという記録的な豪雨だった。  こんなことは、一度や二度ではない。    旅立ったときには、雨でも、取材を始めると、晴れるなどということは しょっちゅうだ。今年、1回目の高松行きのときもそうだったはずだ。  つい最近も、仕事抜きの遊びで行ったコンフェデ杯の決勝が雨空だった ことを覚えている人も多いことだろう。  旅行にでかけること自体、私の場合『桃太郎電鉄』の仕事なので、まず 雨に降られることはない。  では今回何で私のせいかというと、私はみなさんご承知の通り、極度の 高所恐怖症だ。だからスペースワールドのアトラクションには、鼻ッから 乗るつもりがない。みんなの楽しむ姿を楽しもうとおもっていたらからだ。  梶野竜太郎くんが血相を変えている。 「でも、でも、でも!」 「何? 梶野くん!」 「でも、これからスペースワールドで、仕事の打ち合わせがあるんですよ、 さくまサン!」 「あれ? そうなの? きょうはスペースワールドでソフトクリーム食べ まくろうとおもってた!」 「しどい!」 「仕事大好き男・國政修くんもいないしさ!」 「しどい!」 「土居ちゃん(土居孝幸)も、カズ坊(関口和之)もいないしさ! あっ、 この2人がいたら、もっと遊びモードになってたとおもうけど!」 「でも、でも、でも! 午後2時から、スペースワールドの人と、打ち合 わせだって言っていたでしょうが!」 「そういえば、そんなことを聞いていたような気が!」   午後12時。銀河のチャンポン(2000年6月3日の日記参照)へ。 「八幡(やはた)駅で待ち合わせをしましょう!」と無茶な集合場所を指 定していた、八幡の怪人・柴尾英令くんは、集合後、みんなでここで、焼 きそばを食べることまで、指定していた。  もはやそのわがままなる所業は、5代将軍徳川綱吉のようである。生類 哀れみの令か!? まあ、もともと柴尾英令くんは、8代将軍あわてん坊 将軍だった。    この激しい雨のなか、きょうも銀河のチャンポンは混んでいて、行列が できていた。  待っている間にお店の人が注文を取りに来る。 「お勧めは、かつ乗せ銀河のチャンポン焼きそばですね!」と、柴尾英令 くん。 「また、そんなおもいきり脂っこいものを注文して!」  B級グルメ・マニアの梶野竜太郎くんが、目を輝かせて「僕もそれ!」 と叫んでいる。  混んでいるので、ふたりずつバラバラの席に座る。  私は柴尾英令くんといっしょ。
「かつ乗せ銀河のチャンポン」のかつは、鶏だそうだ。 「とんかつ乗せ銀河のチャンポン焼きそばでもよかったなあ!」    焼きそばのまんなかに乗った、生卵をつぶして、かき混ぜて食べる食べ 方が何ともいえず、美味しさを誘う。
 とにかくこのお店はB級グルメ・マニアの大好きな条件がすべて揃って いる。  値段が安い!   量が多い!   脂っこい!    遠くで「おばちゃん、ご飯ちょうだい!」と梶野竜太郎くんの声がする。 もうすっかりここの味を気に入った顔をしている。早い!    あっという間にみんな食べ終わって、山本耕一はお店のご主人に取材し ている。  このお店の名前「銀河のチャンポン」の由来について聞いていたそうだ。  何でも、星の数ほど系列店を出したいので、銀河のチャンポンと名づけ たそうだ。お店の看板に「八幡店」と書いてあるので、山本耕一が「全部 で何軒あるんですか?」と聞くと、「ここだけ!」という答えが返ってき たそうだ。  なんだかとっても、このお店に似合う答えだ。  さて、まだ時間が余っているけど、この雨のなかを移動するのはつらい。  とうとう横殴りの雨になって来た。  何でも鹿児島本線は徐行運転に入っているというし、あとで聞いたら、 この雨は台風2号だったらしい。  銀河のチャンポンの目の前の「出発(たびだち)」という喫茶店に入る ことにした。うひょ〜〜〜、傘がちっとも役に立たない!  まだ頑固に傘をささない柴尾英令くんが、「大丈夫ですよ! 走って渡 ればすぐですから!」と言いながら、走った拍子に、ライターを落として いた。   喫茶店でびしょびしょになった衣服を乾かす。  もはや誰のズボンがいちばん濡れているかを議論できるぐらい、ずぶ濡 れ。  梶野竜太郎くんに絶望の色が広がる。 「さくまサ〜〜〜ン! 仕事モードに戻ってくださいよ〜!」 「う〜ん。まあ、スペースワールドの人と打ち合わせに入ったら、仕事モ ードに入るのは確実だけど…」 「そえじゃ、遅いですよ〜! タイタ〜〜〜ン!」 「ここまですごい雨は止められないよ、モーゼの十戒じゃないんだから!」    時間が近づいて来てしまったので、2台に分かれて、タクシーでスペー スワールドに向うことに。 「さくまサン、仕事モードに入ってくださいよ〜!」と再び叫ぶ、梶野竜 太郎くん。 「はっはっは。急には難しいなあ!」  雨はさらに会話が聞こえなくなるほど、道路を叩きつける強さになって 来た。  ダメだ。完璧に遊びモードだ。私の頭は。  もともと今回の取材は、私は高所恐怖症なので、ひとりで行っても何の 取材にもならない。そこで桃太郎チームのメンバーに同行してくれないか と打診したのがことの始まりだ。  すると奇態、いや希代のコースター・マニアである梶野竜太郎くんが 「ちょうどスペースワールドさんといっしょに仕事をする計画があるんで すぜ、旦那! えっへっへっへ!」と名乗りを上げてきた。  おもえば、すでにこのとき彼の脳裏には、タイタンに乗って、両手を広 げている自分の姿が映っていたのだろう。    さらに「北九州に行くのに、私を置いて行くのですか?」と、柴尾英令 くんが参加表明。  もちろん、博多のイカ目当ての土居ちゃん(土居孝幸)、カズ坊(関口 和之)も参加表明していたのだが、土居ちゃん(土居孝幸)は仕事の遅れ がいまや周回遅れか?という状態なので、レフェリー國政修くんからタオ ルを投げられる。  カズ坊(関口和之)は、先日の日記どおり、必死にスケジュール調整し たものの、ついに都合がつかず、涙。    午後1時。スペースワールドに着くと、広告代理店I&S/BBDOの 本多仁さん、スペースワールド営業部の加藤善久さんが、雨のなかわざわ ざ出迎えてくださった。  きょうは土曜日だから、ふたりとも休日出勤なのでは?  遊びモードだった私は恥じ入る。
 フリーパス・カードをもらって、そのまますぐ「マイケル・ジョーダン・ トゥ・ザ・マックス」へ。  大きな画面だなあ! すごい迫力だ。  音響がぷよぷよのお腹にずしりと響くよ。
 さすがに私はバスケットボールの知識は皆無に近い。  でもこの映像を見たら、マイケル・ジョーダンのファンになってしまう よ。マシンガン撮影は確かに、バスケットボールを写すのに適しているな あ。  午後2時。スペースワールドの事務所へ。  会議室で、営業課長の藤田志朗さんにご挨拶。    私同様、完全遊びモードで参加していたはずの山本耕一も、お仕事にな ってしまって、名刺を配っている。
 そうか。そうか。そんなビッグな企画を梶野竜太郎くんは、スペースワ ールドの人たちと進めていたのか。ふむふむ。  私もすっかり仕事モードになって来た。 「あれ? 少し晴れてきたようですよ!」 「あああ〜〜〜、ホントだ! やっぱり、さくまサンはモーゼだあっ!」 と目を輝かせる梶野竜太郎くん。  それにしても、スペースワールドに、1年間で80回来た人がいたそう だ。マニアというのはどこにでもいるけど、80回というのは、5日に 1回来たって計算になるからねえ。すごいなあ。  午後3時30分。加藤善久さん、本多仁さんが、きょうは1日ずっと私 たちの相手をしてくださるそうだ。申し訳ない。  スペースキャンプというアトラクションへ向う。  傘をさしながら、梶野竜太郎くんがうらめしそうに、タイタンを横目に 見ながら歩いている。  さすがにこんな雨の日なので、土曜日だというのに、お客さんは少ない。  お天気次第なんだなあ、こういう産業って。
 スペースキャンプでの主役は、山本耕一!  ムーンウォーカーと呼ばれるアトラクションでは、宇宙服を着て、びよ 〜〜〜ん、びよ〜〜〜ん!とジャンプしているのかとおもったら、単にベ ルトをしているだけだった。 「すみません! 宇宙服体型なもんで…」
 さらに、マルク・アクシス・トレーナー。  人間地球ゴマといったらいいのかな。丸い円のなかをイスに座ってぐる んぐるん回ってしまうやつだ。宇宙飛行士の訓練になると必ず登場するあ の映像だ。映画『スペースカウボーイ』でも見たな。
 うれしそうに、ぐるぐる回る梶野竜太郎くん。  黙って、ぐるぐる回っている娘に続いて、山本耕一。  ぐるぐるぐるぐるぐる〜〜〜!  チャリ〜〜〜ン! チャリ〜〜〜ン!  ぐるぐるぐるぐるぐる〜〜〜!  チャリ〜〜〜ン! チャリ〜〜〜ン!   わ〜っはっはっは! わ〜っはっはっは!   「耕一〜〜〜! 小銭が落ちているぞ〜〜〜!」 「す…、すみませ〜ん!」  みんな腹をかかえて笑っている。
 午後4時。ブギウギ・コースター。  ジェット・コースターの後ろを向いて座る席を志願する、梶野竜太郎 くん、山本耕一、うちの嫁と娘。  スペースワールドって、花が多いねえ。  鉄製のものばかりな場所だけに、あちこちに広がるカラフルな花と、 大きな樹木の緑が気持ちいい。
 それと、ゲームでもヒット作品は、後ろで見ていても楽しいといわれ るが、このスペースワールドは、私のようにアトラクションに乗らずに、 見ているだけでも実に楽しい。  東京ディズニーランドを真似て、失敗したテーマパークは数多いが、 このスペースワールドは、うまいことディズニーランドを翻訳している。  ディズニーランドがやっていることをそのまま国内でやると、お高く とまっている感じになってしまう。かといって、下品に真似ると、商品 価値が落ちてしまう。この辺だろうなあ。スペースワールドのバランス のよさは。
弟切草のアトラクションの前で
 おお! 雨が晴れてきた。 ついにタイタンの試運転が始まったぞ!  「さくまサンが仕事モードになると、本当に晴れちゃうんだ、すごいな あ!」と梶野竜太郎くん。 「うん。でも会議室での打ち合わせが終わってしまったから、また遊び モードに戻り始めている…」 「さくまサ〜〜〜ン! 頼みますよ〜〜〜!」  お笑い軍団は、ツイン・マーキュリーへ。  ジェット・コースターに乗って、最後は岩山から水のあるプールへま っ逆さまに落ちて行くあれだ。ウォーター・スライダーみたいなやつ。  全員、ビニールのレイン・コートを買って、アドベンチャー・クルー ズのほうへ。
 おいおい! 柴尾英令くん、梶野竜太郎くん、山本耕一、うちの嫁と 娘の5人で、1台に乗ってしまうのか?  何でもこのアトラクションは、最後のプールに飛び込むことで、水が ブレーキの役目を果たすそうだ。  なので、人数が多ければ多いほど、水しぶきが高く上がって、びしょ 濡れになる確率が高くなるそうだ。  ふつうカップルで乗るから、乗員数2.5倍だ!  しかも、水しぶきで風邪を引いたら申し訳ないからお勧めしませんと、 気をつかってくださる加藤善久さんの忠告を、ま〜〜〜ったく、無視!  全員嬉々として、ライドに向う。  はたして、軍艦同士の砲撃のように高い水しぶきをあげて、ツイン・ マーキュリーは疾走して行った。  はっはっは。みんな海水浴客のように、びしょ濡れになって帰ってき た。  みんな、ヘアスタイルが、昆布だぞ。 「いやあ! すごかったなあ!」  君らの姿のほうが、もっとすごい。 「さくまサン、タイタンは? タイタンは? 試運転してましたよね!」 と、梶野竜太郎くん。 「けっきょく、やめちゃったみたいよ!」 「え〜〜〜、がっくり!」 「でもまたさっきの会議のために、もう一度来ないといけないし、年末 のキャンペーンでもう一度来るでしょう!」 「絶〜〜〜っ対、来る!」  午後5時。小倉駅へ。  午後5時41分。こだま号で、博多駅へ向う。
 午後6時。博多駅。  うちの家族3人を除いて、あとは全員ホテルがバラバラ。  土曜日はホテルがいちばん混む。  6人がおなじホテルを予約できるわけがない。  それぞれホテルにチェックインして、キャナルシティで待ち合わせる ことに。  うちは、博多駅からほど近い、ホテル・ハイアット・リージェンシー へ。  プロスペックの江口貴博(えぐち・たかひろ)くんが教えてくれて以 来、博多ではすっかりここが常宿になって来た。  午後7時。キャナルシティのグランド・ハイアットのロビーで待ち合 わせて、おなじみ、「河太郎」へ。    さて、この「河太郎」のイカについて、少し説明しておかねばなるま い。  私が、1995年の阪神大震災の年を除いて、この20数年間、毎年 かかさず一度は訪れているお店だ。  あの「無理はしない」ことで有名な土居ちゃん(土居孝幸)も、この 「河太郎」に行くというと、必ず来るほどだ。だから今回来ないことを 決めたということは、本当に原稿がピンチの証拠だ。  カズ坊(関口和之)もこのお店が大好きで、今回必死にスケジュール 調整していたのこのお店に行きたいがため!  なにしろ、クリスタルと呼ばれる、お刺身のイカが透明。  これにまず驚かされる。  このお刺身だけでも、美味しいのに、足の部分を天ぷらにして、もう 一度登場する。まるでコンサートのアンコールのようだ。  これが、はふはふ、あつあつ、本当に天にも昇るように美味しいのだ。  かつて『桃太郎電鉄』が大ヒットしたとき、ご褒美旅行でどこへでも どうぞ!と言われて、私も土居ちゃん(土居孝幸)も、カズ坊(関口和 之)も間髪入れず、ここを希望した。 『桃太郎電鉄V』のヒットの後は、スタッフ全員で来た(1998年2 月24日の日記を参照)。  しかしこのとき、あの貧乏神のモデルである榎本47歳も招待してし まったので、波乱勃発!  この「河太郎」は、その絶品のイカを毎日、呼子(よぶこ)港から陸 送する。  なので、ごくたまに、イカが不漁の場合、イカが出ないことがあるの だ。  でもそんな日は、1年に1回あるかないかだ。  ちなみに私は20年間ノーミスで来た。  しかし「不幸を呼ぶ男・榎本47歳」に不可能はない。  見事、不漁にしてしまったのである。  そのときもいっしょにいたのが、梶野竜太郎くん。  その後、榎本47歳はこのお店に来ていない。  だから、もしきょうイカが無ければ、「貧乏神」の称号は、『100 万円クイズハンター』のゴールデン・ハンマーのように、梶野竜太郎く んになってしまうのである。    どうりで、スペースワールドを退場してからというもの、梶野竜太郎 くんが、そわそわ、どきどきしていたわけだ。  で、イカはあったのか!?    あ・っ・た!  梶野の無実は晴・れ・た…(プロジェクトX風にお読みください)。  あったけど、なんと2人前しか無か・っ・た! 「飲み物は何にいたしましょうか?」 「おばちゃん、飲み物いいから、イカを!」 「ビールにしますか、日本酒に…」 「いいから、イカがほかに行かないうちに、持って来て〜〜〜!」  イカが来た。  6人で、2人前しかな・か・っ・た。  誰もが、梶野竜太郎くんに多く食べてほしいとお・も・っ・た。 「梶野さん、食べてくださいよ!」 「うちは、毎年かかさず来ているから」 「僕は、地元で子どもの頃から、食べてますから!」  譲り合う美しい大人たち。  全員、凝視のまま、梶野竜太郎くんが、イカを口に運ぶ。 「んめ〜〜〜!」  それじゃ、羊だ。でも目が潤んでいる。 「おいしい〜〜〜! 甘〜〜〜い!」 「梶野くん、まだまだ。このイカがあとから天ぷらとなって出てくるの だよ!」 「えっ。まだこの先が!」
 この間に、最近密かにこのお店のエースであるイカに次いで、ヒット 商品だとおもっている、あらかぶを注文する。 「あらかぶ」は、ハタ科の魚。かぶは、頭を意味するから、あらだ。  あらという名前をよく聞くけど、漢字だとどうかくのかがわからない。  五島列島のあらが、とくに美味しいそうだ。  この「あら」を煮付けた「あらかぶ」が、極上の味なのだ。  形はグロテスクだけど、実に美味しい。  タレがまた甘くて、美味しい。  あらかぶといっしょについてくる、レンコンにも、このタレが染み込 んでいて、シャキッとしたハギレのよさと、みたらしだんごのタレのよ うな甘さが、見事なハーモニー。  ほかにも、たこいなり、太刀魚の塩焼き、関あじ、うに丼などを食べ る。  イカの天ぷらが来た。  梶野竜太郎くんが、もう一度驚く番だ。 「ふふえ? ほひゃ? ほにゅぬぬぬぬぬぬ?」  感激している。  そうなんだよ、梶野竜太郎くん。そうやって、このお店のイカの魅力 にとりつかれて行くのだよ。  また今度来ようね!  もっとイカの美味しい冬の季節に。  冬になったら、九州に来ないといけない用事があるはずだからね。
 午後9時30分。キャナルシティで、二次会の場所を探すが、土曜日 のどしゃぶりの雨の日、誰もがキャナルシティをめざしていたようで、 どの飲食店も超満員。雨がしのげる場所は強い!  午後10時。キャナルシティ・グランド・ハイアットの喫茶ルームで、 少しだけおしゃべり。 「飲んだら乗るな、乗るなら飲むな」は、交通標語だが、柴尾英令くん の場合「飲んだら寝る、寝るなら飲む!」で、みんなのおしゃべりをB GMに、うれしそうな顔でスヤスヤ…。  こういう大きな熊のぬいぐるみって、よく売っているよなあ。  午後11時。ホテル・ハイアット・リージェンシーに戻って、ゲーム・ ディレクターの國政修くんと仕事のことで長電話。さすがにへばってい るので「寝させてくれ〜!」と電話を切る。  明日は、長崎! 
 

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