6月10日(日)

 さすがに昨日の湘南シーレックスの試合のせいで、疲れた。

 午前11時。少し歩こうと思って、海岸沿いを、稲村ケ崎方向へ。
 軽く歩いて稲村ケ崎駅にたどり着いたら帰ろうと思ったら、けっこう 遠いじゃないの。  今夜は、コンフェデ杯もあるんだから、昼間っからへばっちゃいけな い。  向こうから来たタクシーに思わず乗ってしまう。  鎌倉鶴岡八幡宮まで。  八幡宮の「あじさい展」でも見ようかと思ったら、出口から出て来た カップルが「あんなにしょぼいと思わなかったよ〜!」とうなづき合っ ていたので、やめる。こういう情報は貴重だ。  雪ノ下(ゆきのした)という美しい地名にある「よもぎ家」に初めて 入る。隣りがよもぎ麺の製麺所。さぬきうどんは、製麺所のうどん屋が 美味しいというパターンを覚えたから期待して入る。  というより、お店の前にあった見本の「和菓子付きのおそば」に釣ら れたのは、言うまでも無い。やっぱり見本というのは、商売に必要なも のだな。
「花ふぶき」800円を注文。よもぎそばに、なめこ、おろし、のり、 てんかすなどが乗っている。なるほどお店の名前にするだけあって、よ もぎそばが、いい味。こしのあるいい麺だ。  鎌倉はどのお店も美味しい。  食後、小町通りを散歩。  日曜日になると、鎌倉は本当に観光客が多い。  驚いたのは、昨日行ったカレーハウス「キャラウェイ」の前に、数え たらなんと50人ぴったりお客さんが行列していた。すごい! そんな 人気のお店だったんだあ!  午後2時。鎌倉長谷の家に戻って、休む。  午後3時30分。コンフェデ杯決勝を見るべく、でかける。  長谷駅に着いたところで、アニメ・ディレクターのひろたたけしから 電話が入り、仕事のほうでかなり面倒なことが勃発。しばらく駅前で話 し込む。  おっとっと。土居ちゃん(土居孝幸)との待ち合わせに間に合わなく なりそうだ。急がねば。  午後4時。鎌倉駅。  午後4時30分。横浜駅。  土居ちゃん(土居孝幸)から電話が入る。もう新横浜の駅に着いたそ うだ。早いなあ。イラストの締め切りには、めっきり遅いくせに〜!  待っていてくれいっ! しかも新幹線で来ている。横着者め〜!  横浜線で、新横浜駅に向う。  菊名駅で、渋谷からやって来た東京のサッカー・ファンがドッと乗り 込んで来て、満員になる。早くもコンフェデ杯決勝戦ムード満点だ!  午後5時。新横浜駅。電車を降りても、牛歩戦術のように、一歩、一 歩、ゆっくり出口に向う。  きょうのこの日のチケットを3時間だったっけ?並んで手に入れたお 手柄・野安ゆきおクンから電話が入る。ほいほい。  新横浜駅で、土居ちゃん(土居孝幸)を見つけて、野安ゆきおクンが 待つ、プリンスホテルへ。 「やあ、野安クン、きょうはありがとう!」 「いえいえ!」  ロビーの喫茶室で、軽くサンドイッチをつまむ。  ところで、こんなプラチナ級のチケットを、何でまた熱狂的なサッカ ー・ファンではない私を誘ってくれたのかを野安ゆきおクンに聞いてみ た。 「実はこのチケットって、日本が決勝に進出しないと、苦労して手に入 れたプラチナ・チケットは、ふらちなチケットになっちゃうんですよ〜!」 「そりゃそうだ!」 「買った時点は、ブラジル戦の前だから、まったくわからないわけですよ」 「そりゃそうだね!」 「で、このことを成沢大輔さんに話したら、『野安! 絶対さくまサン を誘え! あの人が行けるようなら、絶対日本は決勝まで行く! さく まサンの強運に賭けろ!』って言うんですよ!」  なるほど、私の出番なわけだ。しかもいかにも毎週競馬場で花吹雪を 作っている成沢大輔らしい発想だ。  とにかく私はこういうときのラッキー運は、桁外れにいい。  自分でも気味が悪くなるくらい、強運。  昔から、しょっちゅうくじ引きとか当たってしまう。  こういうことで、人生のほうのツキを失いたくないので、宝くじは絶 対買わないぐらい、強運だ。  歴史的な試合やコンサートのチケットがひょっこり手に入ることも非 常に多いし、たまたま行ったスポーツの試合が、劇的な一戦になってし まうことは多い。  そんなわけで、やっぱり日本が決勝に進出して、きょうのこのチケッ トになってしまったわけだ。  しかし、予定していたイラストが終わらないかぎり、試合見に行っち ゃダメと、ゲーム・ディレクターの國政修くんに言われていた土居ちゃ ん(土居孝幸)がここにいるってことは…。 「う〜〜〜ん! 終わってない!」 「え〜〜〜、いいのかあ?」 「よくないっすよ!」 「カズ坊(関口和之)には、たぶん土居ちゃん仕事終わらないから、チ ケットはカズ坊(関口和之)のほうに移るよって言ったのに〜!」 「関口くん、ごめ〜〜〜ん!」 「カズ坊より、札幌のハドソンのみなさんに、ごめんなさいでしょ、土 居ちゃん!」 「うん、そうだ。みなさん、ごめんなさい! 今夜から必死に描きます!」  まあ、どうせ土居ちゃん(土居孝幸)のことだ。家にいてもずっとき ょうの試合見ているからおなじだろうけどね。    午後6時。プリンスホテルから、タクシーで横浜国際競技場の西ゲー トに向う。おっとっと。ボタボタッと雨が降って来た。  霊能者兼漫画家の岩崎摂さんから、メールが入る。 「すごい雨ですが、無事ですか?」  霊能者の岩崎摂さんに、無事ですか?といわれると、このあと私たち は濁流に巻き込まれるみたいじゃないか〜!  まあ、このあと人間の濁流に巻き込まれたけどね。  競技場に向う途中で、こういうメールが入るのが、今日的だし、歴史 的な試合をこれから見に行くんだなあ!という気分になれていいなあ。  午後6時20分。横浜国際競技場の西ゲート。  でかい! こんなにでかいのかあ!  競技場のてっぺんを見ようとしたら、よろけた。そのくらい大きい。  これだけの人数が集まるのもすごいが、こんな大きな競技場を作って しまう人間はもっとすごいなあ。10年後ぐらいに『プロジェクトX』 で取り上げられるのかな。  かなり激しい雨。買って来たビニールのレインコートを着る。  この「コンフェデ杯」は、来年のワールド・カップの予行演習も兼ね ているそうで、いろいろマナーの取り決めも多い。  Jリーグの場合もそうらしいけど、まず傘がダメ。折り畳み傘ならO K。なるほど、ビニール傘とかだと、先が尖っているからだな。  不思議だったのが、ペット・ボトルがダメなこと。何で? サッカー 選手って、毎日最低2リットルぐらい水を飲む人たちなんだから、サポ ーターたちだって飲んでる人多いでしょ。
 何でも、ペット・ボトルに砂を詰めれば、立派な凶器になるという解 釈からだ。  ふ〜ん。いかにも国際ルールって感じでおもしろい。  週刊ヤングサンデーの石川享くんが到着。  これできょうのメンバーが全員揃う。  野安ゆきおクン、土居ちゃん(土居孝幸)、石川享くん。
「いやあ、きょうは本当に野安ゆきおクンのおかげで、ありがとうね!」 「これであとは、さくまサンの強運で日本に勝ってもらわないと!」 「あ、それはダメみたいよ」と、土居ちゃん(土居孝幸)。 「さっき、携帯でさくまサン、横浜ベイスターズの試合速報見て、勝っ ていたから、きょうのツキを使い果たしちゃってるみたいよ!」 「言えてるなあ。横浜ベイスターズが2試合連続完封で勝つなんて、も うほとんどツキは残っていないと思うよ! しかも今季初の3連勝だ!」 「それは困ったなあ!」  座席は、2階席。いい席だ。思わず大きく息を吸い込むほど、気持ち いいスタジアムだ。  前の列との間隔が広いし、座席自体も大きい。  プロ野球の球場だと、前の席に膝がぶつかりそうだし、試合中に、ト イレに行きたくなると、大騒ぎになる。  プロ野球のほうも、いいかげんこういうこと考えないとね。  正直言って、私はプロ野球の試合は、観客席の小ささで行かなくなっ ている。以前神宮球場の年間シートを購入したときも、わざわざ通路か ら3席と指定したぐらいだ。あの頃はまだ相当手足が不自由だったから、 とても真中の席からだと、通路まで出ることができなかったからね。  座席のせいで、プロ野球見に行かない人って、けっこう多いと思うな あ。
 午後6時30分。両軍のメンバー紹介。  電光掲示板に選手が映し出されるだけで、「わお〜〜〜ん!」と競技 場が揺れるような大歓声! 主催者側の発表によれば、きょうの観客数 は、6万5335人だそうだ。  関が原の合戦の東軍とあまり変わらない数じゃないの。  何たって、向こう側のスタンドが、雷おこしの粒々のように見えるも んなあ。  試合開始前には、すっかり雨もあがった。  雨の試合も劇的だろうけど、年齢を考えると晴れてくれたほうが助か る。  午後7時。キック・オフ!    いきなりフランス側の上手さばかり目立つ。  スピードが全然違う。インターセプトが上手い。ロング・パスが何で あんなに正確なの? 日本選手がパスを受け取ったときには、もう3人 のフランス選手が囲んでいて、ボールを奪ってしまう。どこから来たの?  昔、コーチから「両サイドを広くつかえ!」ということばかり教え込 まれたけど、それをいとも簡単にやってるもんなあ。  これでレギュラー・メンバーが半分ぐらいしかいないチームなんでし ょ? すごいなあ。
 見ているうちに、自分の中学生だった頃のサッカー部のことなんかが 思い出されて来た。映画『スタンド・バイ・ミー』を見たときに、同級 生はどうしているかなあ?と思ったようなものだ。  当時、オーバー・ヘッド・キックの覚え立てで、しなくてもいい場面 でもいつもオーバー・ヘッド・キックばっかやってたなあ。新しい好き だからな。  ヒール・キックも覚えたけど、人のいるところに飛ばせたことなかっ たもんなあ! フランス・チームの選手のヒール・キックは頭の後ろに 目があるみたいに正確に、おなじチームの選手のところにパスしている もんなあ。  私が思いつきで、キーパーに大抜擢した鈴木くんを思い出した。鈴木 くん、大抜擢したら、めきめき杉並区有数の名キーパーになっちゃって、 当時から私の抜擢術には定評があったことも思い出した。  あの鈴木くん、いまどこで何をしているんだろうなあ。  この試合見ているかな?  ありゃ。思い出に浸っていたら、ほいっ!と点が入ってしまった。あ っけない。  でも東京オリンピックのサッカーの試合を知る私から見れば、日本チ ームは夢のように強いチームになってるよ〜!  当時の日本のサッカーなんて、映画『シコふんじゃった』の相撲部み たいに、へなちょこで、のろまだったからねえ。  フランスに点を入れられたことより、強くなった日本チームに感動し ちゃうよ。  むむ。メールが来た。  おお! 女子大生・丸堀彩文さんからではないか。 「いまは横浜…でしょうねえ、やっぱり。あたしは寂しくバイト中です。 そりゃあ、お客も来ないはずです。人が来る気配がありません(泣)」  昔、『君の名は』というTVドラマがあって、あの時間は、銭湯がガ ラガラになったということで話題になったけど、あのときとおなじよう な状態なんだろうなあ。日本国中は。    試合を見ながら、2行ほど、パッパッパッと返信を…いや、パッ…、 パッ…、パッ…ぐらいのスピードで書いて、返信ボタンを押す。 「しばらくお待ちください」  えっ。繋がらないの? まさかこの競技場で、たくさんの人がメール 打ってるの? 試合中だよ?  ちなみに自宅に電話をかけてみるが、やっぱり「しばらくお待ちくだ さい」で繋がらない。こういうのも決勝戦ならではですなあ。まあ、繋 がったとしても、向こう側の声は聞こえなかったと思うけど。
 午後7時45分。ハーフ・タイム。  日本チームが押されっぱなしで、土居ちゃん(土居孝幸)はずっと 「あ〜〜〜、危なかったあ!」「ゴールされると思って、ドキドキしち ゃったよ〜!」「ふ〜〜〜、助かったあ!」と叫んでいて、首が痛くな ってしまったそうだ。  ダメだねえ。私は点が入らないチームの応援は、慣れているからね。  後半戦は、けっこう日本が押し始めた。  十分すぎるくらい、日本チームはがんばったと思うなあ。  熱中していたので、試合終了の時間が何時だったか、メモるの忘れた。  終了時間は、日本じゅうの人のほうが知ってるだろう。 「試合に入ったら、人が変わったように騒ぎますから」と宣言していた 野安ゆきおクンは、とうとう叫ぶチャンスが無かったようだ。 「これが、1対1で、後半だったら叫べたんでしょうけどねえ」。  温厚そうな野安ゆきおクンが、どういう風に変貌するのか見たかった。    いやあ、いい試合を見ることができて、最高!    優勝、準優勝の授賞式が始まる。  トルシエ監督がうれしそうだ。この試合が母国フランスでもTV中継 されたそうだから、古い言い方だけど、故郷に錦を飾れたんだろうなあ。  授賞式などがあって、すでにスタンドには、半分ぐらいしかお客さん がいないので、帰り道は楽だろうと思っていたけど、さにあらず。  ゆっくり、ゆっくり行列しながら、新横浜駅まで歩いて行く。  混雑はしているものの、道路、橋ともに広いので、圧迫感がない。  土居ちゃん(土居孝幸)が「お腹すいたあ」と言い出す。  どのお店も超満員の行列。 「土居ちゃん、無理そうだよ〜!」  タクシーで、横浜まで出てしまおうと思うのだが、競技場から駅まで、 高架の道が続いていて、一般道路に接することがない。これはこれで交 通規制上よくできた構成なのだろうが、いまはお腹が減ったことのほう が、大事だ。  午後10時。ありゃあ。新横浜駅に着いてしまったよ。  まだ帰り客が多くて、とてもじゃないけど、私の不自由な手足で、電 車に乗るのは危険だ。  石川享くんが「ちょっと見てきます!」と、目の前のビルの2Fの中 華料理屋さんっぽいお店に走って行く。フットワークいいなあ。でも無 理でしょ。 「ありました! ありました! 空いてます!」  へ? こんな駅前で。 「ここまで来たら、電車に乗っちゃうんじゃない?」と、土居ちゃん (土居孝幸)。  何でもいいから、入ろう! 入ろう!  やっぱりスポーツ観戦をしたあとは、こうして食事をして、あそこが どうだった、惜しかったね〜! 中田英寿がいたら、もっと接戦になっ てたのかなあ?と話し合うのが、楽しい!   これをやらないと、画龍点睛を欠くってもんだ。  午後11時。ありゃま。1時間も話し込んでいたのか。  横着な土居ちゃん(土居孝幸)は、帰りも新幹線で帰ると、みどりの 窓口へ。  でも考えたら、17分で東京駅。そのまま中央線で荻窪駅だから、新 幹線をつかうのが早いし、便利だ。土居ちゃんらしい選択だ。楽をする ことになると本当に頭がよく働く男だ。  野安ゆきおクン、石川享くんと、横浜線に乗る。  私は東京に帰らず、鎌倉に帰る。  ぎっしりの乗客も、次の菊名(きくな)駅で、ほとんど降りてしまっ た。野安ゆきおクンも、石川享くんも。  あれ? この電車、東神奈川駅停まりなの。  次の電車を待って、横浜駅。  横須賀線がすでにホームに来ているようなので、みんな必死に走って る。私も走りたいなあ。小走りするが、息があがる。間に合った。はあ はあ…。  午前0時。鎌倉長谷の家に着く。  熱い一日だった。  スポーツニュースを見て、録画しておいた『北条時宗』を見たら、午 前2時を過ぎていた。いかん。寝ないと。
 

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