4月26日(木)

 午前9時。ほとんど仮眠程度で、高松東急インの1Fで、土居ちゃん
(土居孝幸)、石崎仁英くん、FMマリノの酒井くんの4人で、朝食。
 きょうの予定を聞く。
 さすがに昨日ほど殺人的なスケジュールではないな…と思ったが、そう
でもなかった。

 午前9時40分。なんとJR四国本社へ。
 しかもJR四国本社に、石崎仁英くん内臓のキングボンビーの着ぐるみ が現れるという趣向。なんでもこの場面を撮影して、きょうのお昼のニュ ースでもまた流れるようだ。2日続けてニュースに登場というのは、おも しろいねえ。  四国の人間で、私を知ってる人が、偶然見てくれて「あれっ? あれっ て、ひょとして、さくまサンじゃないの? 何しに高松まで来てるんだ?」 と思ってもらたら、うれしいかぎり。  会議室で、きょうも名刺交換。いや、すっかり名刺を切らしてしまった ので、ひたすら謝りながら、相手から名刺をいただくだけ。  とにかく、メモ代わりに、名刺をいただいた人の名前をここに書く。  次に会って、名前度忘れした人も、日記を見ればわかるようにしておく と、便利なのだ。 ・木下典秀さん。JR四国鉄道事業本部運輸部長。 ・前田正さん。JR四国運輸部輸送課課長。 ・白井正博さん。JR四国広報室長。 ・福田泰幸さん。JR四国営業部販売促進課課長。 ・後藤幸雄くん。JR四国運輸分運転車輌課。 ・仲山省三さん。全日空ホテルクレメント高松社長。 ・野々宮慧さん。土佐電気鉄道社長。 ・井上正三さん。土佐電気鉄道取締役電車部長。    なんだか、きょうもまた、サラリーマンだと、なかなか会えないような 方々ばかりである。  JR四国と、『桃太郎電鉄』が組んで、今後どんなことができるだろう かということを、JR四国梅原社長と打ち合わせ。  そんななかで、さわやかな笑いが巻き起こった。  梅原社長が、昨夜のお酒の席で、しきりに「桃太郎にそっくりな若手社 員がいるので、ぜひ会ってほしい!」といっていた、後藤幸雄くんが現れ たときだ。  こういう場合、似ていなくても「よく似てますねえ!」と、お世辞のひ とつもいって、場が白けないようにするのが、大人というものだが、後藤 幸雄くんの容姿を見てびっくり。まさにイメージからして、桃太郎なのだ。  ふっくらとした顔、実直そうな顔。姿勢のよさ。  どこから見ても、本当に桃太郎なのだ。  さっそく、後藤幸雄くんには、ピンクの桃太郎電鉄の制服を着てもらお う!という冗談のような、本当になりそうな話題になる。 「えっ、何ですか? 桃太郎? はいっ!」  後藤幸雄くんは、わざわざ社長直々に何のために呼ばれたのか、わから ないようだ。わかるわけないだろうなあ。
 午前11時。ほかにもいろいろと、打ち合わせして、今回の「桃太郎電 鉄人形焼」シリーズの打ち合わせは、終了。  5月12日、13日に、もう一度、高松に訪れるかどうかは、50%〜 70%の確率。五分五分よりは高い。遅くとも5月7日ぐらいまでには決 まると思うので、来れそうな人は、半身の構えで、やや期待しながら、待 機していてください。  午後12時。高松築港へ。  いよいよ土居ちゃん、酒井くん、私の3人で、念願の鬼が島(女木島) に渡ることになった。  この鬼が島は、昨日行った鬼無(きなし)町の桃太郎神社からは、い わゆる、鬼門の方向に位置しているそうだ。かつて、海賊たちが住んで いた洞窟が残っていて、そこに鬼たち(海賊)がいたと思われたようだ。
 女木島行きのフェリーが、ぶぶぶぶぶっと船体を揺らして、鈍い音を 立てながら、出航する。  遅い! 速度が遅いなんてもんじゃない! 泳いだほうが速いくらい だ。高松港にいたときから、すでに手の届きそうな、橋を架けてもおか しくない距離に、この女木島が見えているのだが、なんと、15分もか かって、ようやく接岸した。  いい天気だ。ここは夏になると、海水浴場として賑わうそうだ。  さて、洞窟までタクシーで行くか。  しまった。ここはそんな常識が通用する場所ではなかった。  タクシーなどない。  洞窟行きのバスがあるそうだ。  何分の発車なんだ? 人数が集まり次第、走るそうだ。失礼しました。  全部で7〜8人の乗客を乗せて、バスは洞窟に向う。
 バスは、道幅ぎりぎりの山道を登って行く。  けっこう遠いではないか。  午後12時20分。港から、10分ほどで、鬼たちが住んでいたとい われている洞窟の入り口まで来る。念願の鬼が島よ、ついに来たぞ! 「バスは、午後1時05分に出ますので、間に合うように戻ってきてく ださい。乗り遅れると、次のバスは、2時間後となります」  2時間もこんな山中で待つのは、イヤだなあ。でも、45分で見て、 帰ってこれるのかなあ。ちょっと心配。  …心配なだけだった。ほとんど15分ほどで見終わった。  ひどい。ひどいにもほどがある!  私は極力、観光地をけなさないようにして来たが、きょうのこの洞窟 だけは、けなしても仕方がないと思う。  腰をかがめながら進む洞窟にあるのが、小学生がベニヤ板に描いたよ うな桃太郎と鬼の連続画。『なにわ金融道』の絵が上手く思えてしまう ほど、下手くそな鬼の石膏像。  こんなものを観光客に見せたら、好きでもない桃太郎を無理やり嫌い になってしまうと思う。高校の文化祭のしょぼいお化け屋敷よりも、ひ どい。
 こんなのだったら、全国の大学漫画研究会から、桃太郎や鬼のイラス トを募集して、奉納したほうがまだましだ。  バスが出発するまで、まだ30分近くある。  台風が来たら、吹き飛んでしまいそうな、見晴台の茶店で、時間をつ ぶす。
 ひさびさにこの「女木島の洞窟は、行ってはいけない」コール!  この日記を始めてから、4年目。  大分の熊野磨崖仏に続いて、史上二度目の「行ってはいけない」を宣 告だ。  午後1時5分。バスに乗り、再び、港へ。  このバスを運転しているお兄ちゃんは、ずっとここでお客さんたちの 洞窟に対する不満をずっと聞き続けているんだろうなあ。口の悪いおっ さんたちなら、「金返せ!」とまでいうだろうなあ。  せめてもう少し、学術的なものを洞窟に設置してほしい。いや、せっ かくフェリー乗り場に、近代的な「鬼のやかた」というのを作ったのだ から、観光客はここだけ見せて、高松に帰してあげたほうが、絶対いい。  わざわざバスを仕立てて、見に行く場所ではない。  なんとかならないのだろうか?  午後1時20分。再びフェリーで、高松へ。    午後2時。市内の讃岐うどんセルフのお店「松下」で、昼食。  酒井くん行きつけのお店にして、名著『恐るべきさぬきうどん』(麺 通団・新潮OH文庫)にも登場する。  いよいよ讃岐うどん名物セルフに挑戦である。  まずおばちゃんに、1玉、天ぷら1枚と申告する。  丼を持って、おばちゃんから、麺を1玉もらう。もちろんデブまっし ぐらの土居ちゃんは、2玉である。既成のデブである酒井くんは、4玉 食べるときがあるそうだ。  この辺は、東京でもたまにあるセルフ・サービスのお店と変わらない のだが、なんと麺をもらったら、この麺を自分でゆがくのである。こう いう形式になっているとは思わなかった。私は手が不自由なので、お店 の人がゆがいてくれた。  天ぷらは、円天タイプ。自分で丼に入れる。  あとは、刻みネギ、ショウガ、天かすなどを、自分の好みで入れる。
 薄い味のスープの味がいい。  麺は、私好みのぷりぷりっタイプ。今回3回讃岐うどんを食べたけど、 この「松下」がいちばん讃岐うどんを食べた気がしたのは、このお店だな。    なにより「んまいっ!」。  しかも、お値段180円。酒井くんにおごってもらうほどの値段では なかった。  不思議なのは、このお店の店内で、お店に入ると、左右に壁に向って 板状のテーブルがあって、ほとんど立ち食いそばとおなじ。この単純な 形式で。さらに住宅街のわかりづらい場所にあるにもかかわらず、お昼 は、お店の外に、20人以上行列が並ぶ人気店なのだそうだ。  午後2時。高松駅。帰りの電車のチケットを買って、構内の「ステラ おばさんのクッキー」でコーヒーを飲んで、酒井くんとグルメ話。酒井 くん。土居ちゃん、私の3人が『すきやばし次郎』のお寿司がたくさん カラーで載っている本を買っていたことが判明。一気にお寿司は美味し いよねえという会話に。  そういえば、昨日の招待された「歓(よろこび)」で食べた、海鮮し ゃぶしゃぶ鍋は美味しかったなあ。大きめに切られたタマネギがドバッ と入っていて、そこにタコやら鮭やら、海産物をしゃぶしゃぶして食べる。  もう一度行きたいお店だ。  いよいよ酒井くんとは、ここでお別れ。  たった2日間なんだけど、1週間ぐらいいっしょにすごしたような密 度の濃さだ。予定通り、また5月に来れるといいな。  午後2時57分。マリンライナー38号。土居ちゃんとふたりで、岡 山をめざす。讃岐うどんを食べたばかりなのに、デブまっしぐらの土居 ちゃんは、岡山で何か食べてから、東京に帰りたいと言い出す。 「え〜、岡山で3時間ぐらい時間を潰すのって、大変だよ」 「どこか美味しいものはないですかね」 「いま岡山は、えびめしがヒットしてるんで、取材はしてみたいんだけ どな」 「そばめしみたいなやつ。そばめしって、あんまり美味しくないですよね」 「岡山はままかりが名産なんだけど、酸っぱいからなあ」 「それはイヤですねえ!」 「ひとつまだ行ったことはないんだけど、ソースかつどんの美味しいお店 があるんだけど、とんかつはカロリーが高いからやめたほうがいいしなあ」 「ソースかつどん。いいなあ!」 「本気かよ!」 「どぼどぼっとソースがかかった、とんかつ美味しいですよね。新橋の 『おか田』みたいなソースかつどんみたいなやつかな?」 「ダメだ。土居ちゃんはもう完全に行く気になっている」  午後3時56分。岡山駅着。  タクシーで、総社の近くの「吉備津神社」に向う。  まさに桃太郎の伝説発祥の地である。
 大きな神社である。  荘厳にして、すがすがしい境内は。見が引き締まるような不思議なム ードを持っている神社だ。20数年前、ほんのちょっとこの神社を訪れ たことがあるんだけど、そのときはまさか、その後桃太郎とこれほどま での長い付き合いになると思ってなかったからね。
 タクシーの運転手さんに、神社の後ろのほうにある、まるで龍がうね るような、長い長い石の回廊の場所を教えてもらって、そこを歩く。こ れは絶景だ。なにやら、わくわくする。  この吉備津神社は、桃太郎の伝説発祥の地にしては、そのことについ てほとんど触れていない。日本書紀にも登場する吉備津彦命が祭神にな っているせいだろうか。大和朝廷7代孝霊天皇の第3子にして、全国平 定四道将軍としての威風が、そう思わせるだけなのだろうか。 「じゃあ、とんかつ食べに行きましょうか、さくまサン!」 「土居ちゃん、君にはこの神社を見て、思うところはないのか!?」 「思ったり、早くお腹が空きそうだなあと…」 「ダメだ、こりゃ! 運転手さん、岡山の表町(おもてちょう)に向っ てください!」  午後6時。天満屋デパートの裏にある「だて」というお小さな店が、 ソースかつどんのお店。  土居ちゃんは、大きな丼にご飯がいっぱいの、かつ丼、750円を注 文。  私は、だて定食といって、小かつ丼と、支那そばのセットというのが あるというので、これにして密かに、支那そばは、土居ちゃんのスープ 代わりに食べさせようという魂胆。
 んまいっ! これはまいったうまさだ!  丼のなかにご飯が入っていて、そこにかつが乗り、生卵を卵かけご飯 のようにかきまぜて食べる。しかも、キャベツなどいっさいなく、この かつの上から、どぼどぼどぼっと豪快にソースをかける、このソースは、 ドミグラスソースなんだそうだ。  これは、まさにデブ御用達の食べ物だということが予想できるでしょ。  デブ人生殿堂に、一発で殿堂入り間違えなしの美味しさと、カロリー だよ。  う〜、美味しい、美味しい。 「土居ちゃん、少々遠いけど、岡山駅まで腹ごなしのために歩いて行こ う!」 「くるしい! 自分から言い出したことだけど、食いすぎた〜〜〜!」 「間違いなく!」 「食べてるときに、すでにお腹がぱんぱんに張って、苦しくて仕方なか ったんだけど、お店の人に話し掛けられるとねえ。残すわけに行かなく なっちゃって!」  たしかに、この店の人は、どの人も陽気で、話好きだ。  あとから来たご主人は、さらに話し好きで、私とラーメン談義。  東京で美味しいと評判のラーメン屋さんは、どこもおいしいお水をつ かっていないから、美味しくないと力説する。  また究極のデブ・メニューが決まってしまった。  午後7時10分。のぞみ28号。 「ふ〜〜〜、苦しい。さくまサン、吉備津神社の前のお土産屋さんで買 った人形焼、食べます?」と。食べるのが当然の顔で、勧めてくる、最 近本当に土居ちゃんはすっかり食い道楽の世界に入ってしまったなあ。 デブまっしぐら。  午後8時09分。京都着。 私は、京都で降り、土居ちゃんは、東京へ。  午後8時30分。京都のマンション着。 「ふうっ!」と一息。ベッドにひっくり返る。  きょうも長い1日だなあ。  放送作家の福本岳史くんから電話が入って「もう京都にいるんですか!?  本当に神出鬼没ですね! 豊臣秀吉の中国大返しですね!」と、ホメちぎ られる。  お世辞とわかっていても、豊臣秀吉をつかったから、9.95。  福ちゃんの体操競技って、見たくないねえ。  今夜は、横浜ベイスターズも奇跡的な1イニング7得点の大逆転で、私 を歓迎してくれた。気分がいい。  とにかく疲れているので、休む。
 

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